汝が魂魄は黄金の如し  後書 

いやあ、終わりました。一年超に渡って連載していました「魂魄」、ついに32ファイルで無事完結いたしました。
 ここまで読んでくださった皆さんには、何とお礼を申し上げていいかわかりません。こんなに暗くて、重くて、理屈っぽくて、おしつけがましいメッセージ性込め過ぎで、その上とにかく凶悪なまでに長い二次創作を読んでくださって本当にありがとうございます。

さて、少々私がこの話を書こうと思った経緯なぞ語ってみたいと思います。 

この話のテーマは、すばり天レクにおけるエリスの選択へのアンチテーゼ…というかその選択を賞賛するような価値観へのアンチテーゼです。

 ここで誤解がなきよう申し上げておきますが、私はエリスを嫌いと言っているのではありません。彼女はあの時代と社会通念の犠牲者だと思ってます。自殺することは決して私は認められませんが、そうせざるを得ない、というか、そう仕向けられてしまう社会というのは、実際に存在しているということを知っているからです。一昔前の日本の軍隊の「生きて虜囚の辱めを受けず」…とか。だから、エリスの生きていた世界では処女でなくなった女性はまず結婚はできないとか、娼婦になるしかないとか、それでもそういう女性を妻にしたら共同体からつまはじきにされるとか、いろいろな無言の圧力とか成文化してない社会通念があったのかもしれない。それこそ、死を選ぶしかないと少女が思いつめてしまうような。

 で、私はエリスのことはかわいそうだと思ってますが、私がちょっと違うんじゃないかなーと思ったのは、このエリスの選択をもって、エリスを聖女だとか、純愛を貫いた存在だと崇め奉るような視点があるらしいことでした(実際にラブ通の投書にそんな感じのものもありましたし)

 だってエリスの選択を賞賛するってことは、万が一自分が同じように意に添わない性行為を強要された場合、もしくは実際に被害にあってしまった場合、死を選ぶことをよしとすることに通じるんです。性犯罪の被害者となったら、生きているより死を選ぶ事を貴しとする価値観に通じるんです。これが私にはどうしても納得いかなかったんです。自分が被害者の立場にたたされたとき、労られたり、慰められたりするどころか、おまえにはもう生きてる価値はないから死ねって言われるってことですよ?これは。言われても仕方ないってことですよ?心も身体もずたぼろになってる所にそんな追い討ちかけられたら、私だって死にたくなると思います(だから、エリスの生きてた社会はそういう無言の圧力があったのではないかと、推測したわけで…)だから、エリスを被害者としてかわいそうに思うのはともかく、自死したことで崇め奉るような見方っというのは、どうかと思ったわけです。

 で、こういう価値観に対するアンチテーゼを示すために、アンジェを同じように女性として辛い目にあわせてしまい(でも、天レクみたいな設定で若い女性捕虜がこう言う目に合わない方が少ないです、哀しいことですが)そこからの立ち直りを書いてみたかったのです。また、そういう被害にあった女性を知ったとき、男性には女性の方に落ち度があったと糾弾するとか蔑むような馬鹿な真似をしないで、心から労り癒し救う存在となってほしくてジュリ様とオスカー様を配しました。

 つまり、主人公は1人アンジェであって、この魂魄はもともとカップリングの話ではないんですね。だから、キャラ萌えという視点からすると、ジュリファンにもオスカーファンにも不完全燃焼な話であることは否めません。また私はそれを承知の上で書きました。

 本来恋人であるジュリだけでアンジェを助けられたら、それに越したことはないと思いますが、恋人というのは心理的に近すぎて感情が巻きこまれがちになると私は思うのです。アンジェ自身も知ってほしいけど、知られたくないと葛藤すると思いますし、ジュリは自分を責めるだろうし、例えアンジェを労ったとしてもそれは1時の気休めじゃないかと、アンジェ自身が疑心暗鬼にはまる可能性もあるわけで、二人の関係を泥沼化させないために、斜めの関係とでもいうべきオスカーにがんばってもらったのです。恋愛関係にないので感情的に巻きこまれる怖れが少なく(オスカーにはかわいそうですが)しかし、ジュリ・アンジェの双方から信頼を寄せられる存在として。

 この32話に及ぶ物語の展開は、途中で膨らんだように見えるかもしれませんが、大筋は最初から考えていたものと変えていません。トロワの設定の穴埋めしたり、エピソードを掘り下げるうちに話数がどんどん増えてしまったのですが(爆)アンジェが幽閉中にゲル・ウォルに強姦され、やたら避けられることでそれにまずオスカーが気付いて、ジュリが後から気付いて葛藤して、オスカーはアンジェの心理的負担を少しでも軽減するため、しかもアルカディアにいる115日間という時間制限の中で解決しなくてはならないという限定条件のもとで1回だけ情を通じる、というのは一年前に話を考えたときから決めてました。

 こんな展開が受け入れられるかどうか、ものすごく不安だったのですが、とにかくエリス礼賛に対して、どうしても物申したくて、オスカーファンを泣かせ、ジュリファンを怒らせることを懸念しつつ、書いてしまったわけです。

 私がタイトルに込めました「黄金」は三人のメインキャラ全てに通じます。黄金は傷つきやすいです、でも、それが柔軟性にも通じます。決して頑なではありません。そして、どれほど月日が経とうと、表面に汚れがついたように見える時があっても本質は変わらない。その輝きは損われない、どんなものにも腐食しない、変質しない、輝きは永遠に色褪せないのです。

 そして、話中にありますように、人はいつ、どんなことで酷い傷を負うかわかりません。そして傷つく事があってもそのことで生きる価値、愛し愛される価値がなくなるなんてことは絶対ないし、どうしても自分でたちあがれないときは、周囲に助けをもとめることは決して悪い事じゃないということを言いたくて、こんな話をかいてみました。(もっと短くまとめらなかったのか、ってことはつっこまないでねー)

 読んでくださった方がどんな感想を抱いてくださっても結構です。でも、私がこの話を書きたかった理由は、そういうことなのです。後書まで読んでくださったみなさん、改めてどうもありがとうございました。

筆者拝

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