Firewall

Firewall、それはウイルスの侵入をふせぎあなたの大切なものを守る炎の壁

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“ぴんぽ〜ん

『うにゅ?』

アンジェリークは、耳に飛び込んできた朗らかなチャイムの音から逃れるように無意識にドアと反対がわに寝返りをうった。

朝ぼらけの心地よいまどろみを自分からふりきるなんて、そんなもったいないことできるわけがなかった。

カーテンの隙間からさしこんでくる陽光を閉じた瞼の裏にほんのりと感じる。

だが、多分あともうちょっとは眠れるはず…と、自分の体内時計は告げている。

『この、後少し寝てられるっていうのがまた気持ちいいのよね…』

値千金の朝寝から引きずり出されるのは真っ平だと言うのに、朗らか過ぎるチャイムの音がまたもしつこく傍若無人に鳴り響く。しかも、何度も執拗に…

“ぴんぽん・ぴんぽん・ぴんぽ〜ん”

「あああんっ!もう、目が覚めちゃった!今何時…やだ、まだ6時じゃない…こんなに朝早くから一体…」

しぶしぶベッドから上体を起こしたアンジェリークは、まさか、もしかしたら…という嬉しいような困ったような予感に襲われた。

ネグリジェの上からカーディガンだけ羽織ると、小さなあくびをひとつしてから、細めにドアを開けた。

「は〜い、どなたですか…」

ばったーん!!

細めに開けたドアが外側から勢いよく開けられたかと思うとアンジェリークの視界のすべてが燃えるような真紅一色に占められた。

「おはよう、お嬢ちゃん!家に早咲きの薔薇が咲いたんでな。俺の心そのままのようなこの真紅の薔薇を朝露のついたままお嬢ちゃんに見せたくて届けにきたぜ、受取ってくれ!」

「オスカーさま…」

アンジェリークはやっぱりという思いに、玄関先でがっくりとうなだれた。

この所オスカーは毎日アンジェリークを誘いに来てくれていた。

オスカーのことが好きなアンジェリークは、誘い自体は嬉しかったのだが、オスカーの誘いがこのところ激しくエスカレートしているのに困惑していた。

以前は朝食後、さあ育成にいこうかという時刻くらいに来てくれていた。

それがそのうち朝食中、起きてすぐ、そして、ついに今朝は寝こみを襲われる形となった。

アンジェリークはオスカーに気づかれぬように溜息をついた。

「オスカーさま、あ、ありがとうございます。嬉しいです。薔薇は飾っておきますね、じゃ…おやすみなさい…」

アンジェリークは両手一杯に薔薇をかかえてそのまま部屋にひっこもうとした。

なんといってもまだ起きるには早い。

もう一度ベッドに入ってごろごろするつもりだったアンジェリークはつい正直に『おやすみなさい』と挨拶して、ドアをしめようとした。

ところが、アンジェリークについてオスカーがするりと部屋の中に入って来てしまった。

「お嬢ちゃん、寝ぼけてるのか?おやすみなさいじゃなくて、おはようだろう?ん?新しい朝が来てんるんだぜ、希望の朝だ、喜びに胸を広げて大空を仰ごうぜ?俺と一緒にな?」

アンジェリークはとりあえず薔薇を水につけてから、オスカーに向き直った。

「だってオスカーさま、まだ寮の朝食にも一時間以上あるんですよ〜。それに私まだ眠いんです〜」

あくびを噛み殺し、ベッドに物欲しげな視線をなげながらアンジェリークは、オスカーに言外に一度お引取りくださいといったつもりだったのだが、オスカーはまったく意に介さない。

「なんだ、お嬢ちゃんは子供を送り出した主婦みたいに二度寝をするつもりなのか?しょうがないねぼすけだな。じゃ、仕方ない、お嬢ちゃんの目がちゃんと覚めるまでベッドサイドで俺がお嬢ちゃんの寝こみを襲う不届き者がこないように見張っていてやろう。そのかわいい手を握りながらな?」

このとんでもない申し出にアンジェリークは一遍に眠気がふっとんでしまった。

「とととととんでもないです!オスカーさま、そ、そんな人はきませんから、側にいてくださらなくても私は大丈夫です!」

そんなことをするのは目の前の貴方だけですから、という言葉はなんとか飲みくだした。

「じゃ、お嬢ちゃんがよく眠れるように、俺が添い寝をしてやろう、うん、それがいい、そうしよう」

勝手に一人決めして、いそいそとマントと甲冑を外しているオスカーを見てさらにアンジェリークは度肝を抜かれた。

あっけにとられているうちに、シャツとスラックスだけになったオスカーは当然のような顔して上掛けをはねのけてアンジェリークのベッドの上にこしかけると

「さ、おいでお嬢ちゃん、俺がお嬢ちゃんの肩を抱いて髪をなでながらねかしつけてやろうな」

とアンジェリークに手をさしのべてウィンクを投げかけてきた。

一瞬思考停止及び失語症に陥っていたアンジェリークは、はっと我に返り

「わかりました!起きます!おきればいいんでしょう〜!!」

と自棄になったように叫んだ。

するとオスカーは心底意外そうな、しかも、とてつもなく失望した表情をあからさまに示した。

「なんだ、二度寝するんじゃなかったのか?せっかく俺が添い寝してやろうと思ったのにな。残念だぜ」

アンジェリークはへなへなと力の抜けていく膝をようやっと支えていた。

『お、オスカーさま、まさか本気だったの?…私をベッドに戻さない為の方便じゃなくて…』

どうみてもオスカーは冗談を言っているようにはみえなかった。

真剣にがっかりしているようなのだ。

アンジェリークはもし自分がオスカーの言葉を冗談だと思って、若干の強がりをこめてそのままベッドに入っていたらどうなっていたのかしらと考えてみた。

『ベッドの中でオスカー様に肩をだかれて髪をなでられてオスカー様の胸を枕にして…』

改めて考えなおしてアンジェリークは顔から火が出るかと思ってしまった。

きっとそれだけじゃすまない。

腕の中に閉じ込められてしまったら、きっと自分はオスカーに逆らえない。

オスカーの望むままにどこか知らない所に流されてしまう、そんな予感があった。

頬をぽっぽと染めているアンジェリークの様子を目ざとくみつけてオスカーが声をかけてきた。

「お嬢ちゃん、顔が赤いぜ、まさか、微熱でもあるんじゃないか?やっぱりベッドに戻ったほうがいいんじゃないか。熱があるなら俺がお嬢ちゃんをあっためてやるから。」

またもやオスカーの瞳が期待にきらきらと輝きだした。

「い、いえっ!なんでもないです、大丈夫です、私は元気です!」

むりやり溌剌と振るまうと、一瞬オスカーがつまらなそうに子供みたいに口を尖らしたのを垣間見てしまった。

『オスカーさまって、なんか子供みたい…ロザリアはそんなことないっていうけど、私にはなんかそう見えちゃうの、なんでかな。』

オスカー様は気障でかっこよくてワイルドで、でもやさしくて。

それは本当にそうなのだけど、アンジェリークはそのかっこいいオスカーの向こう側に時折顔を出すかわいらしさのようなものが好きだった。

こんな時間に訪ねてこられて、正直困ったなとは思っても、オスカーはきっと自分にどうしても早咲きの薔薇をみせたかったのだろうと思うと、どうしても憎めないし、不愉快にも思えなかった。

アンジェリークはくすりと笑いたいような気分になると

「オスカーさま、じゃ、私着替えてきますから、ちょっと待っててくださいね。」

と奥のクローゼットに消えようとした。

「お嬢ちゃん、俺が着替えを手伝ってやろう。背中のホックとか、ファスナーとか俺がとめてやろうか?」

「大丈夫ですよ、オスカー様、一人でできますから。」

アンジェリークはそれだけいうと後ろは見ずに奥の部屋に消えた。

見なくてもオスカーから、『がっかり』と言うオーラが発しているのが手に取るように感じられて、アンジェリークはついくすくすと漏れ出す笑みを押さえられなかった。

オスカーとアンジェリークは寮の食堂で差し向かいに朝食を取っていた。

オスカーは朝起きぬけにアンジェリークを迎えに来ているのがわかったので、アンジェリークが「よかったらご一緒に」と半ば社交辞令で一度申し出てしまってからは供に朝食を取ることもこの所定番化していた。

本来朝食を一緒に取るなんてことをしたら前夜から一緒だったのではないかと勘繰られても仕方ないのだが、オスカーはいつも満艦飾の戦艦のように華々しくそして、少々騒がしく(なにせアンジェリークがでてくるまで朝早くから何度でもチャイムを鳴らすのだ)アンジェリークを迎えに来るので、寮の朝当直にはオスカーが今朝は何時にきたのかはっきり判るくらいで、そのためオスカーが一緒に朝食の席についていても、誰も何も詮索しなかった、というか詮索のしようがなかったのだ。

それでも最初アンジェリークは周囲からなんと思われるかひやひやしていたのだが、この所朝一番のお迎えが定番化してくるにつれ、諦めの気持ちと、そしてやはり供に食事を取ってくれる人がいることの楽しさから、オスカーの訪れをどこかで心待ちにしている自分に気付いていた。

でもやはり、朝寝ている所を起こされて、しかも、添い寝を申し出られるのはちょっと遠慮したかった。

『オスカー様を傷つけないでなんとか、せめてもう少し遅く来ていただけるよう上手くいえないかしら』

オスカーは豪胆な外観と裏腹に繊細で傷つきやすい精神の持ち主であることにアンジェリークは気付いていた。

ロザリアとのどうしようもない先約でオスカーの誘いをやむなく断ったことがあったのだが、その時一瞬見せたオスカーの打ち捨てられた子犬のような瞳の色がアンジェリークには忘れられなかった。

それは本当にまばたきほどの僅かな間だった。

もちろん口調は軽く口元は笑っていたが、傷ついたような表情が確かに見え、それ以来アンジェリークはオスカーのことが気になって仕方なくなってしまったのだ。

あんな寂しそうな瞳をしてほしくない、オスカーには笑っていてもらいたい、そう思ったからオスカーの誘いにはほとんどといっていいほど応じていた。

アンジェリークがオスカーに微笑みかけるとオスカーも嬉しそうに笑ってくれるので、一層アンジェリークも嬉しくなる。

二人でいると楽しくて幸せで、その気持ちを飾り気なく現すとオスカーの瞳がまた嬉しそうに細められる。

オスカーの嬉しそうな顔がみたい。オスカーと一緒に微笑んでいたい。アンジェリークは素直にそう思っていた。

そしてそれはオスカーも同様であることを、アンジェリークは確信はもてないでいるものの、もしかしたらという甘い期待と予感を胸に抱いていた。

そんな気持ちが互いを毎日の逢瀬に駆り立てていた。

だが、もう育成をしなくなって今日で二週間近くたっている。

来週は定期審査もあるし、そろそろ大陸の様子を見に行かないといくらなんでもちょっと…という気にアンジェリークはなっていた。

「さ、お嬢ちゃん、今日は何をしてすごそうか。遠乗りか?ランチをもってピクニックか?それとも俺の私邸に遊びに来るか?お嬢ちゃんの部屋でおしゃべりして過ごすのもいいけどな」

「あの〜、オスカーさま、お誘いはとっても嬉しいんですけど、今日は休日じゃないですし…私もたまには育成しないとジュリアス様に怒られちゃうかも…私、女王試験を受けにきてるんですし…」

「大丈夫だ、お嬢ちゃん、育成なら俺が夜の間に力を送っておいてやるから心配するな!」

「でも、炎の力が望まれてるとは限りませんけど…」

なにせオスカーの怒涛の誘いが断れず、アンジェリークはこの所定期審査の時以外まったくエリューシオンの様子を見に行けないのだった。

それゆえ今民の望みがどうなっているのかまったくわからない。

それでも、なぜか定期審査のたびにエリューシオンには建造物がいくつも立ち並び、大陸は順調に発展しているのであった。

しかも、デートで育成ができなくなるから替りに力を送るといってくれるオスカーの炎の力以外にもなぜか力が送られており、それがアンジェリークには不可解だった。

他の守護聖もアンジェリークの気を引こうとせっせと力を送っていて、それゆえオスカーが募る危機感に誘いをエスカレートさせていることにはアンジェリークはまったく気付いていなかった。

「民の望みなんて極論すれば関係ないんだ。どんな力だろうと力さえ送れば育成は進んで人口は増える。お嬢ちゃんが育成したいというなら俺の力だけでも育成は進むから大丈夫だ」

真面目に民の望みをきいて育成に励んでいる女王候補が聞いたら卒倒しそうなことをオスカーはさらっといってのける。

アンジェリークは思わず食べかけのクロワッサンを喉につまらせるところだった。

その上、オスカーは更にアンジェリークの心がざわめくようなことをさりげなく付け加えた。

「だが、お嬢ちゃんが女王になっちまったら…なんて思うと、俺はとてもじゃないが心穏やかではいられないんだが…」

オスカーが少しひとみを細めて、しかし、恐ろしいほど真剣にアンジェリークの顔を見据えたのでアンジェリークはどきどきして、思わず話を反らしてしまった。

「そ、そんな、私が女王になるかどうかなんて、わかりません…ロザリアのほうがしっかりしてるし…あ、そ、そういえばオスカー様もお仕事がおありなんじゃないんですか?私と一緒にいたらお仕事に差し障りがでるんじゃないですか?」

「お嬢ちゃんは、俺といたくないのか?俺と一緒にいるより他にやりたいことがあるのか?」

オスカーが傷ついたようにアンジェリークを見つめる。

『だめ、こんな瞳でみつめられたら…』

とてもじゃないけど、断れない、でも、自分はともかくオスカーの執務には支障は無いのだろうかと言うことがアンジェリークには気になってしかたない。

「いえ、そうじゃなくて、私がオスカー様のお仕事のお邪魔になってオスカー様がジュリアス様からお叱りでも受けたら申し訳ないと思って…」

オスカーの瞳がいきなり明るいものに変わった。

「お嬢ちゃんは優しいな。俺の事を心配してくれていたのか。大丈夫だ、仕事なら夜やってるから。義務をきちんと果たさないでお嬢ちゃんにあわせてもらえなくなったら大変だからな」

アンジェリークはこれを聞いてびっくりした。

「だ…だって、オスカーさま、夜も私に会いに来てくださったりしてるじゃないですか!き、昨日だって夕食をいっしょにした後、庭園で遅くまで星を見ちゃったし…まさか、あのあとお仕事なさってたんですか!」

「う…む、まあそういうことになるな。」

オスカーがまずいことを言ったという表情になった。

「そ、それで私のために夜にサクリアまで送ってくださってるんですか!お仕事したあと研究院までいらっしゃってるんですか!」

「いや、それは、まあ、俺がお嬢ちゃんの時間を取っている以上、お嬢ちゃんが育成で負けたらかわいそうだし…」

アンジェリークが泣きそうな顔になった。

「オスカーさま、今朝だってあんなに早くにいらして、一体いつお休みになってるんですか!こんなことしてたら身体壊しちゃいます〜。そんなこともうやめてください!」

突如怪しくなった雲行きに、寮の食堂で聞き耳を立てている職員のまとわりつく好奇心をオスカーは感じていた。

「お嬢ちゃん、その話しはあとだ。場所をかえてゆっくり話そうな」

オスカーはカップにのこったカフェオレを一気に飲み干すとアンジェリークを促して食堂を出、静かに2人で話せるところを求めてアンジェリークと森の湖にむかった。

 

湖の辺に佇むと、二人になるのを待ちかねていたアンジェリークは堰を切ったようにオスカーに訴え始めた。

心から心配そうな顔でオスカーを見上げながら。

「お、オスカーさま、私と過ごす為にすっごく無理をなさってるんじゃないですか?!私と一日一緒にいるからって夜お仕事して、その上サクリアも送られて…なのに、とっても朝早くから私を迎えにいらして。ほんとにお体を壊しちゃいます。私そんなの嫌です。オスカー様が私のために無理なさってお体壊すのなんていやです〜」

警視庁の番記者のように夜討ち朝駆けを常態化していたオスカーの影の奮闘に気付かなかったアンジェリークは自分の迂闊さを大層悔やんだ。

こらえていたのに、また泣きそうな顔になってしまうアンジェリーク。

「大丈夫だお嬢ちゃん、俺はタフだから、心配しなくても…」

アンジェリークが強い調子でオスカーを遮った。泣きそうな顔で怒っていた。

「そういうことを言ってるんじゃありません!どんなに元気な人だって、がんばりすぎたら疲れちゃうわ、伸びきったゴムは切れちゃったりするわ。オスカー様がそんなことになったら嫌。それも、わたしの所為だなんて…」

「お嬢ちゃんのせいだなんて思わない。俺が勝手にやってることだし…」

「私の所為にされるのが嫌だからこんなこといってるんじゃありません!私はオスカー様が心配なんです!オスカー様がこんなこと続けられるのなら、私もうオスカーさまとお会いできません!」

「そ、そんなお嬢ちゃん、俺とあいたくないのか…」

思いっきり打ちひしがれ、うろたえるオスカーにアンジェリークは諭すように言葉を続けた。

「ちゃんとお仕事して、体を休めて、お時間のある時に会いに来てくだされば私は充分ですから。私からも会いにいきますし、ね。だから、そんなに無理なさらないで。なんでそんなに無理なさるんですか…」

「そ、それは…」

「それは?」

アンジェリークが促すと、今度はオスカーが思いきったように、堰を切って話しはじめた。

いままで自分の内部にためていた物を一気に吐き出すように。

「だって、俺がお嬢ちゃんと一緒にいなかったらだれがお嬢ちゃんを誘いにくるかわからないじゃないか!俺がちょっと目を離した隙に、他のやつらがお嬢ちゃんを誘いに来て、お嬢ちゃんに好きだと打ち明けちまったら、お嬢ちゃんがそれに答えちまったらと思ったら、朝早くから、夜遅くまでお嬢ちゃんと一緒にいないと不安で仕方なかったんだ!夜寝ようと思ってもお嬢ちゃんの顔ばかり頭に浮かんで眠れやしない。だから夜仕事したほうがいいんだ。朝もすぐ目が覚めちまう。俺がベッドでぐずぐずしている間に誰かがお嬢ちゃんを誘いに行くんじゃないかと無いかと思ったら、どんどん迎えに行く時間が早くなっちまって…」

「他の方に私を会わせたくなかったんですか…オスカーさま、どうして?ね、教えてください。」

「わかっているんだろう、お嬢ちゃん…」

オスカーが甘えるような瞳でアンジェリークに訴えたがアンジェリークはわざと察してはやらなかった。

「だめ、私はまだ何もきいてません。ちゃんとおっしゃって。お願い、オスカーさま」

オスカーは瞬間まいったなというような顔をしてから、アンジェリークの翠緑の瞳を見つめて、低い声でゆっくりと打明けた。

「俺は…俺はお嬢ちゃんが好きだ…そんな言葉じゃ足りない、お嬢ちゃんを愛している。誰にも渡したくない、俺だけのものにしてしまいたいんだ…最初はみているだけでよかった、君の笑顔も、くるくると変わる表情も、でも、いつからか君の笑顔が他のやつらに向けられるのが、君の瞳が他のやつらを映すのが我慢ならなくなった、だから君を囲いこんで誰の目にも触れさせないようにしちまいたかったんだ…」

下される判決をまっているような瞳で自分をみつめているオスカーの頬をアンジェリークは両手を伸ばして包みこんだ。

「オスカーさま……オスカーさま、そんなこと今までずっとおっしゃってくださらなかった…私、待ってたのに、ずっと待ってたんですよ…一言いってくだされば、そんな無理なさらなくてもよかったのに…」

「…それは…それはつまり…お嬢ちゃん、本当か?本当に?俺は夢をみてるんじゃないだろうか…」

「私がいつも待ってたのはオスカー様だけです。他の方がいらした時は、申し訳なかったけど、知らん顔しちゃってオスカー様がきてくださるの待ってたりしたんですよ。私、私もオスカー様が好き。ずっとオスカー様のおそばにいたいんです。」

「お嬢ちゃん、女王にならなくてもいいのか?俺の側にいてくれるのか?その翡翠の瞳に俺だけを映してくれるというのか?」

「はい、オスカーさまのおそばにいさせてください。だからもうご無理なさらないで、お仕事も昼間になさってきちんとお休みになってくださいね。心配なさらなくても私、ずっとオスカー様のおそばにいます。オスカー様のおそばから離れませんから…」

「お嬢ちゃん…アンジェリーク…」

オスカーがおずおずとアンジェリークの背に手を回したかと思うと次の瞬間力いっぱいアンジェリークを抱きしめた。

アンジェリークが瞳を閉じてオスカーの抱擁を受ける。

瞳を閉じたアンジェリークに誘われるようにオスカーはガラス細工に触れるように優しくそっと唇を重ねた。

こうして捨て身で天使の回りに防護壁を張り巡らし、悪い虫の侵入を防いでいた炎の守護聖は無事彼の天使を彼だけのものにすることができたのである。

しかし、天使と思いを通わせあった後も、炎の守護聖は常に天使の周りを自分の炎のサクリアで囲って天使の微笑みを曇らすものが侵入することのないよう警戒を怠らなかった。

彼の天使はこの愛と炎の防御壁に生涯このうえなく大切に守られ、炎の守護聖の努力の甲斐あって、天使は常に彼に絶えることのない微笑みを投げかけていたという。

二人の愛は時空を超えた伝説となり、以来、大切に守りたいものに害為す怖れのあるものの侵入を防ぐ為の防御壁を『ファイヤーウォール』と称する様になったという。

ちゃんちゃん(爆)


いつのも私の創作とちょっと傾向が異なるので、戸惑った方もいらっしゃるでしょうか?(笑)
実はこの話は私がお世話になっていた(既に閉鎖されております)あるサイト様のイベントに応募させていただいた作文なのです。そちらさまでは毎月その月の女王をきめるイベントをなさっていらしたことがありまして、女王に選ばれるとその月一杯女王様と呼んでいただけた上で、オーナー様に自分の誕生花をモチーフに好きな守護聖様の話を書いていただけるという超おいしい特典があるのです。私はすでに一月の女王位をゲットしていたのですが(それで書いていただいたのが『戴き物』にある『薔薇の花言葉』です)再度の参加もOKということだったので、このイベントに参加させていただいたのです。女王を決める方法は月毎に変わったのですが(オンラインゲームあり、クイズあり、本当に純粋な抽選あり)今回のテーマが「ファイヤーウォールとは何ぞや?」というお題で作文を書くということだったのです。
ファイヤーウォール…この単語を聞いたらオスマニアとしては、これはもうオスカー様の愛の障壁ね!としか解釈できずに書いたものが今回のお話です。
残念ながら私は10月の女王に重祚することはできなかったのですが、オーナーさまから今回の作文を掲載することを快諾していただけましたので、UPしました。イベント創作なので、イベント→お祭り→浮かれ気味ということではっきりいってふざけてますね〜(爆)ま、たまには傾向の変わったものもあると新鮮でいいのではないかと(爆)広い心で見守ってやってくださいませ〜。

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壁紙は麻里様謹製です