The Robe of Feathers 2

オスカーの唇はアンジェリークのそれにそれほど長くは留まらなかった。

すんなりとした首筋に唇を滑らせ、舌を這わせ、所々軽く吸い上げると、アンジェリークの唇からも熱い吐息が漏れ出す。

「あぁ…」

舌で首筋を縦横に舐りながら、手は張りのある乳房を包みこみ、激しく揉みしだいていた。

ほんのつい先刻とは言え一度通った道だ。

アンジェリークも、最初の時より愛し合うことの流れや体の反応に戸惑いを覚えることは少なくなっているはずだろう。

もう、アンジェリークの反応を探るようにおずおずと愛する気はなかった。

優しくしたい気持ちに嘘も偽りもない。

その一方でアンジェリークを求めて止まぬ情熱を存分にぶつけてみたいと言う欲求が火のように燃え盛ってもいた。

寸分も躊躇わずに、乳房の先端に咲く薄紅色の蕾を口に含み、何かに突き動かされるように執拗なまでに舌先で弾き転がした。

「あぁんっ…」

アンジェリークが切なげに眉を顰め、悩ましげな声をあげる。

オスカーはもっとその声がききたくて、両手で両の乳房を捏ねるように中央に寄せ、先端を交互に間断なく吸い上げた。

唇を離すと、自分の唾液に濡れ濡れと色濃く光る蕾は、瑞々しい弾力をもってたちあがりオスカーを幻惑する。

「お嬢ちゃん、いっぱい気持ちよくしてやるからな…」

自分にできることを、精一杯してやりたいと心からおもう。

敏感な先端を舌先でつつくように弾いたかと思うと、乳首全体の輪郭を確かめるようにゆっくりと舐め上げる。

「あんっ…あっ…あぁっ…」

オスカーの舌が乳房の先端で踊るたびに、アンジェリークの花のような唇から押さえきれない悦びの声が漏れる。

アンジェリークの甘い声が耳を打つたびに、オスカーの心中に震えるほどの歓喜が沸き起こり、もっと激しく乱してやりたいという身を焦がすような欲望が自分を突き動かす。

硬くそそり立つ乳首の感触が口中に心地よい。

自分の舌を弾き返すような弾力を思う存分味わいながら、下腹部にそっと手を伸ばし、金褐色の和毛をさわさわと撫でさすった。

繊毛はしっとりと湿り気を帯びていた。

そのまま手を自然に股間に滑らせる。

アンジェリークの体が瞬間ぴくりと震えたが、アンジェリークにその手を拒否する気は毛頭なかった。

股間を探られることに苦しいほどの羞恥を感じながら、先刻オスカーの指に与えられた鋭い快楽を体は忘れてはいない。

あの目くるめくような陶酔がまたオスカーの指からもたらされる期待に、アンジェリークの足はオスカーの手を招き入れるかのようにうっすらと、だが、流れるように自然に開いた。

そんな自分が信じられなく思う。

たった一度の経験が自分を変えた。オスカーが自分に知らなかった世界を教えてくれた。

今まで生きてきて、自分というものが根底から覆されるようなこんな激しい経験は他になかったのではないかとも思う。

自分が変わってしまうことに畏怖の気持ちがなかったといえば嘘になる。

でも、それは心も体も白熱するような輝かしい変化だった。

オスカーが自分の前に扉を開き、導いてくれる世界は愛しあうことの悦びに眩しいほど煌いていた。

だから、何もしらないで夢見ていた時を懐かしく思ったりはしない。

何も知らなかった頃に戻りたいとは多分これからも思わないだろう。

アンジェリークがオスカーの訪いを待つかのように、体を開いてくれたことがオスカーにも伝わった。

アンジェリークが自分からオスカーを受け入れるような振る舞いを見せてくれたことが、オスカーに眩暈を覚えるほどの喜びを与えてくれる。

その気持ちに応えてやりたくて、ふっくらとした花弁の合わせ目全体を何度も優しくすりあげた。

「はぁっ…ん…」

アンジェリークの腰がじれったさそうに揺らめく。

ほんの少し指先に力を加えて合わせ目に指を差し入れると、火のように熱いぬめりがオスカーの指先に感じられた。

オスカーはそのぬめりを花弁全体に伸ばすように、ゆっくりと指で秘唇をほぐしていく。

「お嬢ちゃん、気持ちいいんだな?こんなに濡れて…お嬢ちゃんもまた俺の事をほしいと思ってくれてるんだな?」

「やんっ…恥ずかしい…」

アンジェリークは、両手で顔を覆ってしまった。

オスカーの指や唇の触れたところが、どこも熱くてたまらない。息はせわしくなくなる一方なのに、その熱さを求めて心は急いている。

はっきりと言える。オスカーが欲しい。またオスカーを全身で感じたい。

でも、それをオスカーに悟られるのは、恥ずかしくてたまらなかった。

オスカーがアンジェリークの手を優しく掴んで、顔から退けた。

「隠さないで…俺にそのかわいい顔を見せてくれ…」

こんなことを言われたら、もっと恥ずかしさに居たたまれなくなってしまう。

でも、アンジェリークはオスカーの望みを汲み、頬を真っ赤に紅潮させながらも、もう顔を隠そうとするのを止め、行く宛てのなくなった腕をオスカーのほうにのばして、その肩にすがりついた。

オスカーは柔らかく微笑むと、秘唇の奥に息づいている花芽を探り当て指の腹で転がし始めた。

「ひゃうっ」

アンジェリークの腰がびくりと跳ねて、反射的に鋭すぎる刺激から逃げようとする。

もちろんオスカーは逃げることなど許さずに花芽への愛撫を続ける。

アンジェリークが自分の愛撫を待ち望んでいることは、火を見るより明かだったから。

思いきって花芽を押し開き、敏感な宝珠を露出させると、触れるか触れないかといった微妙な指さばきですりあげ続けた。

「あっ…ああっ…やっ…はぁっ…」

アンジェリークがやるせない表情で眉をしかめ、唇をうっすらと開いて火のような喘ぎを漏らす。

その艶然とした表情が、妖しいまでに美しいのに、いじらしく可憐でオスカーはいくら見ていても飽きない。

「ああ、お嬢ちゃんは本当にかわいいな。こんなに悦んで…俺を欲しがって後から後からこんなに溢れさせて…」

「やぁっ、そんな…そんな…」

アンジェリークが小指を噛んで、小さく首を振った。

「俺もお嬢ちゃんが欲しくてたまらない…このかわいいお豆も食っちまいたい…」

オスカーは徐にアンジェリークの足をその体躯で割ると、両手で細い足首を掴み大きく広げて股間に顔を埋めた。

溢れ出す愛液の馥郁たる香りに噎せながら、ぷっくりと硬く膨らんだ宝珠を口に含んで舌先でつついた。

「ああああっ!」

アンジェリークの体が大きく反り返る。

かまわず、舌で花芽を弾き、転がすように舐め上げ、ちゅっちゅっと音をたてて吸った。

「やっ!オスカー様、やっぱり、恥ずかしい!そんな、そんな…あああっ!」

「でも、気持ちいいだろう?お嬢ちゃん。こんなに体は悦んでる…」

秘裂の奥からきらきらと光りながら溢れ出す透明な愛液を指ですくいあげると、くちゅりと粘り気のある水音が響く。

「だって…だって…私、あっ…やあああっ!」

オスカーはアンジェリークの秘裂に舌を深深とねじ込み、肉壁を舌でこそげるように弄い、その愛液を啜り始めた。

微かな血の味を感じ胸が痛んだが、だからこそ、その傷を舐め癒してやりたいと思い、届く限りの柔襞すべてに舌を伸ばした。

「やんっ!オスカー様、やめて!恥ずかしいの!恥ずかしくて死んじゃう!」

ところがアンジェリークが、今までにない必死な声色でオスカーの愛撫を止めようとする。

力の入らない体を起こそうとして叶わずに、またベッドに沈みこんだ。

アンジェリークの体が快楽に酔っているのは確かなのに、それでも、オスカーの舌から逃れ様と身を捩る。

最初の時よりもかえって口唇での愛撫を嫌がっているようなのが一瞬解せなかったが、オスカーはピンときた。

「お嬢ちゃんさっき洗っただろう?水の匂いがする。綺麗なもんだ、心配ない。それに、俺達が結ばれた証が残っていても、俺は気にしない。恥ずかしがらなくていいんだ。だから、もっと舐めてやるからな」

アンジェリークを安心させるように、諭すように囁きかけた。

アンジェリークはバスルームに入ってるときに、おそらく溢れてきた交じり合った二人の体液を洗い流していたのだろう。

それでも内部まで清められているかどうか、心配だったに違いない。

オスカーを受け入れる部分が清浄かどうか、そして、そのことを自分にどう思われるかも不安でたまらなかったのだろう。

オスカー自身は二人が溶け合った証なのだから、体液が残っていても忖度しなかっただろうが、アンジェリークが恥ずかしがって愛撫に没頭できないでいたことをもっと早く気付いてやればよかったと反省した。

いままで抱いてきた女と違うのだ。無垢なアンジェリークの不安や羞恥をとりはらってやることにもっと腐心しなくてはと、心に決めた。

「大丈夫だ、お嬢ちゃん、愛し合って溶け合った証は汚くなんかない。俺のことを気遣って綺麗にしてくれたお嬢ちゃんの気持ちは嬉しいがな。ただ心配しなくても、お嬢ちゃんのここはとても綺麗だ。ピンクで、艶々光って、花の香りがして…本当に食っちまいたいくらい綺麗だ」

指で秘唇を押し開きながら、鮮紅色の秘裂を何度も何度も舌先で割るように舐め上げ、時折舌を差し入れたり、花芽をつつき、吸い上げた。

「あんっ…あぁっ…や…オスカーさ…ま…恥ずかしい…の…」

アンジェリークが、今度は消え入りそうな声で訴えた。

恥ずかしそうな様子は消えたわけではなかったが、体の線の強張りが薄れ、むやみに逃げ様とする態度が消えた。

今、アンジェリークが示している羞恥は、自分がアンジェリークの体を賞賛したことに対するもので、この類の羞恥は女性を美しく可憐に見せ、より官能を深めることに役立つから、オスカーはもう頓着しなかった。

「恥ずかしいか?…でも、舐めたら気持ちいいだろう?俺はお嬢ちゃんを気持ちよくしてやりたいんだ…」

アンジェリークの秘裂を舌で犯すように何度も深深と差し入れながらオスカーは、アンジェリークの心と体を解そうと努める。

「お嬢ちゃんは本当に綺麗なんだ…可憐で、初々しくて、咲いたばかりの花みたいだ……あんまり、大事で、愛しくて…だから、お嬢ちゃんの体のすみずみまで、確かめたいんだ…お嬢ちゃんのすべては俺のものだと…」

秘裂全体を強く吸い上げるように愛液を舐め取り、指で押し開いた花芽を唇で挟んでちろちろと舌先で小刻みに弾いた。

「あぁ…オスカー様…わたし…わたし…」

アンジェリークがしゃくりあげるようなすすり泣きを漏らし始めた。

「もう欲しいか?」

オスカーは顔を上げて、優しい声で訊ねた。

アンジェリークは戸惑っていた。

オスカーを初めて受け入れてから然程時間も経っていないのに、オスカーの愛撫に自分の体の奥底は確かに何かを求めていたたまれないような疼きを感じていた。

自分の欠けた部分を埋めてもらいたい、自分をオスカーで一杯に満たしてもらいたい、全身でオスカーを受けとめたい、オスカーの全てを感じさせて欲しい。

身も心も焼き焦がされるような思いに、精神は千々に乱れ、波うち揺さぶられる。

いいのだろうか。こんな気持ちをオスカーにうちあけて…だめ…やっぱり、言えない…貴方が欲しいなんて…

「オスカーさま…」

アンジェリークが瞳を熱っぽく潤ませて、すがるようにオスカーを見上げる。

オスカーはアンジェリークの瞳にはっきりと自分を求める願いを感じた。

口にだして自分を求めさせるのはまだ酷かと思い、黙って頷くと、アンジェリークに軽い口付けを落してから、体でアンジェリークの足を割りいった。

「お嬢ちゃん、力を抜いて…」

優しく囁きながら、極限まで張り詰めていた自分の物を潤みきった秘裂にあてがいゆっくりとのみこませていった。

「う…くぅ…ん」

アンジェリークが一瞬苦しげに身を翻そうとしたのを、腕で膝をかかえこんで制し、オスカーは根元まで自分を収めきった。

小さく吐息をついてから、アンジェリークの頬を掌で包みこんだ。

「まだ、つらいだろう?すまない…」

挿入された瞬間、やはり、傷を擦られるような痛みを感じた。

そして、現実にオスカーが再び入ってくると、体の中心に残っていた異物感など逆に払拭されてしまった。

その圧倒的な量感と、自分の中心を焼くような熱く硬い滾りに何も考えられなくなりそうだった。

「ん…平気…です。さっきよりは…つらくない…です…」

アンジェリークがオスカーの手に自分の手を重ね、小さく首を振った。

「辛かったら、言ってくれ…」

そう言いながらオスカーはゆっくりと律動を開始した。

それは、儀礼の言葉だった。例え、辛いといわれても、もう止められないと自分でわかっていた。止めるつもりもなかった。

恐らくアンジェリークも、自分のことを慮って辛くても辛いとは言わないだろうとも思っていた。それくらいなら、初めてのときにそう言っただろう。

オスカーは一日でも一時間でも早く、アンジェリークが苦痛を感じなくなるようにしてやりたかった。

逆説的だが、辛さを減じ純粋な快楽を感じられるようになるには、辛くてもある程度の経験をつんで体をこなれさせるしか方法はないのだから。

腹側の肉壁をカリで擦り上げるようにしながら、先ほどアンジェリークが乱れた点を狙っていろいろな角度から突き入れた。

アンジェリークの坩堝は自分の物を溶かしそうなほど熱い。

しかし、膣壁はまだ痛いほどの生硬さを保っている。

快楽で肉壁が自然と締まると言うよりは、まだ緊張で筋肉が硬く締まっているのだろう、それをなんとかほぐしてやりたいと思う。

「んっ…くふぅっ…」

オスカーが奥を突き上げるたびに、アンジェリークの指がオスカーの背中に食い込む。

灯が燈ったように全身がほんのりと紅潮し、苦しげな喘ぎが絶え間なく零れ、オスカーの物を離すまいと柔襞が蠢く。

確かに官能を感じてはいるらしい。

それはオスカーにとって救いではあるが、しかし、やはり今だ等分の苦痛も存在していることだろう。

あまり、長引かせてはかわいそうかと思い、オスカーは一気に律動を早め、最深部を抉った。

「ひっ…あああっ!」

アンジェリークの白い足が宙を泳ぎ、秘裂がきゅっとオスカーのものを絞り上げるように締まった。

その締め付けに逆らうように激しく突きたてる。

「あっ…ああっ…やっ…だめ…だめ…もう…」

「いきそうか?お嬢ちゃん…」

「あぁっ!オスカーさまぁっ…くるし…も…許し…て…」

「だめだ…もうちょっと、我慢するんだ…」

慣れていないアンジェリークは絶頂に自分を手放すことにまだ躊躇いを覚えている。

だから、最後の最後で高みにかけあがる直前に足踏みをして、自分を翻弄する愛欲の奔流から逃がれようとする。

でも、ここで律動を緩めたらアンジェリークは高みに辿り着けない。

まだ存在しているであろう痛みを凌駕するほどの悦楽を与えてやれねば、アンジェリークに苦痛を耐え忍ばせた甲斐がない。

「お嬢ちゃん、なにも恐がらなくていいんだ…俺がそばにいる…だから、何もかも忘れて…俺だけを感じてくれ!」

オスカーはアンジェリークの足を抱え込むように持ち上げ、上体を倒してアンジェリークの体を二つに折り曲げるようにした。

その上で己のもので突き刺すように激しく、あらん限りの力でアンジェリークの秘裂を狂ったように貫いた。

同時に、アンジェリークの首筋、胸元、乳房とその先端へとあらゆるところに、貪るように舌を這わせて、珠のような肌を吸った。

「やっ…あっ…ああああっ!」

アンジェリークがこの激しすぎるほどの愛技にたまらず自分を手放した。

閉じた瞼の裏に無数の白熱した閃光が弾けて飛び散る。

アンジェリークの秘裂が小刻みにびくびくと痙攣し、きつくオスカーを絞り上げる。

オスカーもたまらずに、熱い精をアンジェリークの胎内にすべて注ぎこんだ。

 

アンジェリークは小さな嗚咽を上げながら、オスカーの下でぐったりと横たわっていた。

全身がうっすらと汗に濡れ、荒い息遣いに薄い肩が上下している。

オスカーはアンジェリークの上に覆い被さりその体を抱きしめながら、軽く開いたままの唇に口付けた。

「辛くなかったか?」

「ん…大丈夫…です…最後はなんにもわかんなくなっちゃったから…」

オスカーが嬉しそうに破顔した。

「そいつはよかったな?お嬢ちゃんに辛いだけの思いをさせなくてすんで、俺もほっとしたぜ」

アンジェリークは自分がさりげなく大胆なことをいったらしいと気付き、ぽっと顔を赤らめた。

オスカーがアンジェリークの髪を梳きながら、話しかける。

「すっかり料理がさめちまったな…悪かったな、お嬢ちゃん…」

アンジェリークはふるふると首を振る。不思議とあまり空腹は感じていなかった。

「あんまり、お腹空いてないから、平気です…でも、あの喉が渇いちゃって…」

「そういえば、俺も口にしたものといえばお嬢ちゃんの甘い蜜だけだな。いくらたくさん溢れてくるとはいっても、流石に喉の渇きを癒すほどの量は飲んでないしな?」

オスカーがにやりと笑った。

アンジェリークはぼんと音がしそうな勢いで赤くなり

「やっ!もう、オスカー様のばか!」

といって目を瞑って横を向いてしまった。

オスカーはくっくっと笑いながらアンジェリークの抱擁を解いて、ベッドからおりたつとピッチャーから大ぶりのグラスに水を汲んだ。

その水を口に含むとアンジェリークの頤をつまんで自分のほうをむかせ、覆い被さるように口移しで水を飲ませた。

「んく…」

喉が上下に動いて、アンジェリークが水を飲み干した。

口内にはいりきらなかった水が唇の脇に筋を作ると、オスカーはその水滴も舐め取った。

オスカーは唇を離すと、アンジェリークを見下ろして、

「お嬢ちゃんが酒に弱いのは知っているが…一杯だけ付き合ってくれないか?」

と言ってベッドからたちあがると、クーラーに入ったままになっていたワインのボトルをとりだし、二つのグラスに注いだ。

クーラーに入れられていた氷はあらかた水になってしまっていたが、その分ワインは冷たさを保っていたようで、そそいだグラスの表面に涼しげな露の珠がいくつも浮かびあがった。

オスカーはアンジェリークの背に手を添え体を支えてやりながら、体をおこしてやった。

アンジェリークのとなりに改めてこしかけて肩をだき、グラスのひとつをアンジェリークに手渡した。

「俺達がはじめて結ばれた夜と…そしてこれから過ごすであろう幾千幾万もの夜に乾杯だ」

こう言ってグラスを持ち上げ、軽く触れ合わせた。

ちんと涼やかな澄んだ音をたてて、グラスが震えた。

アンジェリークはグラスを握り締めたまま、あまりの幸せに眩暈を感じていた。

オスカーと体と心を通い合わせて、今夜がその始まりの日であること。

オスカーもそれを幸せだと思い、二人で祝おうとしてくれていること。

なにもかもが、幸せすぎて心がはちきれてしまいそうだった。

オスカーと一緒なら、これからも、きっとこんな幸せな夜をずっと紡いで行ける。

たまには誤解や、行き違いがあるかもしれない、でも、きっと大丈夫。今夜の気持ちを忘れることがなければ。

『私、絶対忘れない…痛いほどの切なさも、苦しくなるほどのこの幸せも…なによりも、こんなにも、オスカー様のことが好きで好きでたまらない、この気持ちを…』

オスカーが瞳で促すので、アンジェリークは恐る恐るワインに口をつけた。

甘くフルーティな香りのするワインは不思議なほどするりと喉の奥に滑りおち、アンジェリークの体の中心から熱さがじわりと染み渡って行った。

頭の芯もぽうっと熱を帯びて行く。

オスカーもワインを飲み干し、どこまでも優しい瞳でアンジェリークを見つめていた。

と、オスカーの顔が近づき、自分の顔に被さり、暖かで葡萄の香りのする舌に自分の舌を絡め取られた。

アンジェリークは自分がワインに酔っているのか、幸せに酔っているのかわからないまま、雲の上を歩いているような気分だった。

ひとしきり舌を吸われたあと、オスカーは唇を離して、囁いた。

「さ、軽く食事をしよう。少しは腹に何かいれないと眠れないぜ」

アンジェリークはオスカーの口付けにしばらくぽわんとしていたが、はっと顔をあげると、

「あの、オスカーさま…その、なにか羽織るものを貸していただけませんか?このままじゃ、気になっちゃって、お食事できません…」

と、蚊の泣くような声で、おずおずと訴えた。

「俺は、お嬢ちゃんのかわいい胸を肴に飯を食うほうが、却って楽しくていいんだがな」

と、ふざけた口調で答えると、アンジェリークがまた潤んだ瞳で困ったようにオスカーを見上げたので、また、泣かれては大変だと思い、オスカーは慌てて言葉を翻した。

「いや、冗談だ、お嬢ちゃんの羽織る物といったら…う…む、俺のローブはいくらなんでもだぶだぶで引きずっちまうだろうし…俺のシャツでいいか?」

こう言ってオスカーはたちあがり、クローゼットから綺麗にプレスされた白いシャツをとりだそうとすると、アンジェリークがそれを制した。

「オスカーさま、そんな新しいシャツじゃなくて結構です。昼間オスカー様が着てらしたシャツで…」

「いや、シャツなんかいくらでもあるし、遠慮しなくていいんだぜ、お嬢ちゃん?」

すると、アンジェリークがぽっと頬を染めながら

「オスカー様の着てたシャツがいいんです、オスカー様の匂いがするから…なんだか安心するんです…あの…だめ?…ですか?」

と上目遣いにオスカーを見上げた。

『うっ…かわいい…かわいすぎる…まったく、どこまでかわいいことを言ってくれるんだ、お嬢ちゃん…』

オスカーはたった今抱いたばかりだというのに、またもアンジェリークを組み敷きたい衝動がむらむらと込み上げ、自分の際限ない欲望に我ながら呆れた。

流石にアンジェリークにそれを告げることはせず、アンジェリークを抱く前にソファに無造作に脱ぎ捨ててあった自分のシャツを手に取り

「本当にこれでいいのか?」

と半信半疑で訊ねると

「それがいいんです」

とアンジェリークが迷わず答え、オスカーのシャツを受け取ろうと白いかいなを伸ばしてきた。

腕のうごきにあわせて白い乳房がふるりと揺れて、そのかわいらしい乳房の震えに更にオスカーの血流が流れを速めた。

オスカーは無意識にごくりとつばを飲み込み、黙ってアンジェリークにシャツを手渡すと、アンジェリークはあからさまにほっとした、それでいて、とてつもなく嬉しそうな表情でシャツを受け取ってそでを通した。

シャツはやはりとても大きかったので、アンジェリークはカフスを幾つか折り返し、第一ボタンまで止めるとなんとなく息苦しそうだったので開襟のまま着ることにした。

アンジェリークはオスカーの温もりと香りの残るシャツにその身を包まれ、オスカーに抱かれているような安心感を覚えて心が和んだ。

シャツの裾を引っ張って全体の形を整え終わると、アンジェリークはオスカーに謝意を込めてにっこりと晴れやかな笑顔を向け、

「オスカー様のにおい…オスカー様に包まれてるみたいで、ほっとします…」
とはにかみながら、告げた。

オスカーはその屈託のない笑顔に、ずしんと心臓を撃ち抜かれたような衝撃を覚えた。

『…まいった…』

今までだってこれ以上ないくらい夢中だったが、その可憐さに完膚なきまでに打ちのめされた。完璧に降参だった。

全裸の時のアンジェリークより、シャツを着ているアンジェリークにより一層心がざわめいてしまう。

V字に開いた襟元から覗く白い胸の谷間と、そこから見え隠れする自分の散らした花弁のような刻印と、なにより素肌にまとったシャツの布地を微かに持ち上げて乳首がその存在を主張しており、その部分から目が離せない。

うっすらと乳首の輪郭が浮かんでいる胸元を見ていると、若僧のようにどぎまぎしてしまって、胸の高まりが押さえられなかった。

オスカーがなにかぼんやりしている様子にアンジェリークは小首を傾げて

「オスカー様?」

と声をかけた。

「ぅわっ、いや、小腹が空いてると眠れないだろう、少し腹に何か入れような」

オスカーは何気ない風を装いアンジェリークに、もうあらかた冷めてしまったホットサンドイッチを手渡した。

アンジェリークが無邪気な顔でサンドイッチを小さく齧った。

その横顔を盗み見るように見守りながらオスカーは

『ああは言ったものの…俺は今夜お嬢ちゃんを寝かせてやれないかもしれん…その時は、許してくれ…』

とアンジェリークに伝えることのできないエクスキューズを心の中で一人ごちていた。                       FIN


ディアスポラのエピローグを書いた時点で考えていた話です。アンジェの服を隠すオスカー様はただH(爆)なのではなく、真実の愛を失うことへの不安に駆られたが故に子供じみた行動をとったということを、かきたかったのです。オスカー様が羽衣伝説を知っていたかどうか定かではありませんが、天女を妻にするのも、天使を妻にするのも、男の不安たるや、相当な物ではないかと思いまして。この不安は時折意識に浮上してはオスカー様を苦しめます。このオスカー様観は私の基本なので、創作もこのパターンが多いですね(ワンパターンとも言う・爆)



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