それいけ、無敵の馬鹿ップル(結婚記念日編)

創作 緋川亜紗子様 

もうすぐで1年になります。

約1年前の6月1日に、女王補佐官アンジェリーク・リモージュ様と

炎の守護聖オスカー様は華燭の典を挙げられました。

花嫁のアンジェリークはとても初々しく愛らしく、純白のマリエを纏った姿はまさに地上に舞い降りた天使のよう。

花婿のオスカーはとても凛々しく、純白のテイルコート姿は宛ら天使を守る守護闘神のようでした。

6月の花嫁は幸せになると言います。なんでも古代の神話で主神の妻であり、結婚と出産の守護神である女神様がこの6月のお生まれで、6月(June)という名の由来になっているからだそうです。

そのせいか、女の子たちはジューンブライドに憧れるんです。実際はじめじめした梅雨の時期、あんまり良い時期とは言い難いんですけど…ってこれは辺境の1惑星の極東の島国のことですね。

まぁ、その結婚の前後にもさまざまなことはありました。

アンジェリークはとってももてもてGirlだったんですから。尤もぽよよ〜んとしている本人は自分を巡って熾烈な戦いが繰り広げられていたなんてことはこれっぽっちも知りません。

でもいいんです。そんな一本ねじが抜けたようなところも、天然ボケなところもアンジェリークの魅力なんですから。

実際オスカーは筆舌に尽くしがたい苦労をしてアンジェリークのハートをゲットしたわけです。

ライバルは無数にいました。はっきり言って、飛空都市中・聖地中が恋敵だったのです。

マルセルの愛鳥チュピも、ゼフェル作のメカチュピも例外ではありませんでした。

でも、アンジェリークもオスカーを好きでしたから、最終的にオスカーは恋の勝利者となれたのでした。

それからは陰で散々苛められました。

でも、そんな苛めも敗者の惨めさの証明だとオスカーは笑って耐えていたのです。それくらい、アンジェリークを独占できることに比べたら屁でもありませんでした。

クラヴィスの呪いも、ルヴァの妖しげな魔術も功を奏さず、二人は離婚の危機など微塵もないまま、幸せな新婚生活を送ったのでした。
そして、間もなく結婚から1年が経とうとしています。


オスカーは執務室で悩んでいました。
もうすぐ結婚記念日です。

とってもとってもとぉ〜〜〜〜〜っても大事なメモリアルデイです。
それにふさわしい演出をしなくてはなりません。

オスカーの実家では、子供たちがいつも両親にお祝いを贈っていました。

夫婦二人で過ごしてもらう時間を。

これはディナーであったり、デートのセッティングであったり…。

両親が結ばれていなければ、自分たちが生まれることはなかったのですから、そうしてお祝いしていたわけです。

そして、両親も互いに出会えたことを感謝し、ともに1年を過ごせたことを祝い、1年の労苦を労い、また次の年もこうして健康で幸せに過ごせるように誓い合うのでした。

そんな両親を見て育ったオスカーでしたから、結婚記念日は誕生日を祝うのと同じくらい大切なことでした。

だから、脳みそが過剰労働にオーバーヒートするほど悩んでいたのです。

まぁ、愛しいアンジェリークと過ごす時間のための悩みですから、悩みすらも楽しい、といったところでしたが…。

「よし…ディナーはここだな」

オスカーは山積みになった雑誌の1ページに大きく丸をつけます。

それは美味しいお店特集の『○○Walker』という情報誌でした。

それから今度は旅行雑誌『る○ぶ』を取り出します。

「う〜ん、この海辺のホテルと、こっちの夜景のきれいなホテル…どっちがいいか…」

オスカーは真剣な表情で悩んでいます。事情を知らない人が見たら、重大事件が起こったと思ってしまうような真剣な顔です。

でも、そんな表情でオスカーが考えていることといったら… (海辺のホテルでパラダイスエッチもいい…しかし夜景のきれいな高層ホテルでの摩天楼エッチも捨てがたい…) なんてことだったのです。

結局、夜景なんて見る暇はないということでオスカーは海辺のホテルを選びました。

それを受けて副官のヴォルフガング氏が早速予約を入れます。

その間にオスカーは次の問題にかかりました。

今度はアンジェリークに贈るドレス選びです。

イブニングドレス、というのは決まっています。

でもそれをどんなものにしようか…と。

こればっかりはいくら机の前で考えていても埒はあきません。

オスカーは立ち上がると、私服に着替え外界へと出て行きました。

そんなオスカーをヴォルフガングは黙って見送りました。

本来は止めなければならないのでしょうが、アンジェリークのことで頭がいっぱいのオスカーには何を言っても無駄なことを経験から十分すぎるくらい知っていたのです。


さて、夫のオスカーが外界へと出かけた頃、彼の愛妻アンジェリークは執務室で一生懸命仕事をしていました。

…と思いきや、彼女が一心不乱に目を通しているのは女性週刊誌でした。

そして、その号の特集は…『倦怠期を吹き飛ばすマル秘夜のテクニック!』というものでした。

アンジェリークの来るべき結婚記念日のためにあれこれ考えていたのです。

けれど、オスカーが『お嬢ちゃん、今度は全て俺に任せてくれ』とあま〜く囁いたので、アンジェリークは頷いてしまい、何もすることがなくなってしまいました。

せめて心づくしのお料理でも…と思ったのですが、外界にでるとなれば、そうもできません。

だから…アンジェリークは思ったのです。オスカーが一番喜んでくれるのはベッドの上でセクシーなアンジェリークを見せることなんじゃないかと。

けれど、女子校育ちの純粋培養のアンジェリークです。

しかも、17歳で飛空都市に行って以来、そういう年頃の女の子と接することもなく、性に関する知識は乏しいものでした。

勿論、オスカーというとっても優秀な、優秀すぎるくらい優秀な先生がついていますから、アンジェリークの技能(?)は向上しています。

でも、もっとオスカーに喜んで(悦んで?)貰いたいのです。

だから、アンジェリークは一生懸命『お勉強』していたわけです。

そんなアンジェリークの許へ来客がありました。

彼女の兄代わりの夢の守護聖オリヴィエです。

「はぁ〜い、アンジェちゃん、元気かな〜?」

いつもどおりお気楽な口調でオリヴィエは言います。

けれど実は重大な使命を帯びていたのです。

彼はオスカーに頼まれていたのです。

アンジェリークが今一番欲しがっているものを聞き出して欲しい、と。

実はそれ以前にもオスカーはアンジェリークと仲のよいルヴァ、マルセル、ゼフェルにも頼んでいたのですが、彼らは何も教えてはくれませんでした。

ルヴァはオスカーの顔を見るなり真っ赤になって「え〜あ〜その〜あ〜う〜あ〜う〜」と懐かしの大平総理大臣になってしまいました。

マルセルは「オスカー様って不潔だ〜〜〜〜!!!!」と泣きながら走り去ってしまいました。

ゼフェルは「やってられっか馬鹿やろー!」と叫んでこれまた走り去ってしまいました。

そこで、一番頼りになるものの、一番厄介なオリヴィエの出番となったわけです。


一方、外界に下りたオスカーはフランスはパリの有名オートクチュール店に来ていました。

布地を決め、デザインを決めなければなりません。

それが済んだら、そのドレスに合う靴やアクセサリーも選ばねばならないので、大忙しです。

なのに、オスカーはまだ、布地すら決めていなかったのです。

もう、2時間(現地時間)もこの店にいるというのに。

「彼女の肌は…そう…万年雪の如く清らかで、何者にも冒されることのない高潔さをもっている。滑らかで、それでいてしっとりと掌に吸い付くような柔らかさで…。そして、その白さはまるで白磁のようであり、いや…最高級のピンクパール…いや…そんな簡単なもんじゃないな…」

というように如何にアンジェリークが愛らしいかをとうとうと並べ立てているのです。

しかもそれはまるで中世の吟遊詩人のような間接的な表現で、彼の言う『アンジェリーク』がとても美しく愛らしく素晴らしい女性であることはわかっても、じゃあ一体どんなドレスをどんなサイズで作ればいいのかはさっぱり分からないのです。

いくらお客様は神様です、とはいえ、こういったお客は迷惑です。
遂にデザイナーは切れてしまいました。

ですが、さすがにそこは客商売。

「お客様が仰るお嬢様が、それはこの世のものとは思えぬほど愛らしく美しい方なのはわかりました。ですが、凡人の私どもにはお客様のお言葉からは想像すらできません。ですから、お写真などお持ちでしたら、お見せいただけませんでしょうか」

こめかみに浮かんだ青筋を長い銀髪で隠しながらデザイナー氏は言いました。

そしてオスカーは仕方なく、ポケットから大量の写真を取り出したのです。

一体何処にそんなにも大量の写真が入っていたのかと思うほど…。
それから1時間後、喧喧囂囂のデザインの打ち合わせが終わりました。

あとはサイズの測定です。

ですが秘密のプレゼントですから実際のアンジェリークのサイズを測ることができません。

「そんな心配は要らないぜ。俺の手は彼女の体を余すところなく覚えているからな!」

自信たっぷりに言い切ったオスカーは店にあるだけのフォームスタンドを持ってこさせました。

「ふむ、バストはこれだな。だがアンダーをもう2cm小さくしてくれ。ウェストはこれだ。ヒップはこれだな…」

とフォームスタンドを手で確認しては言ったのです。

そして、アンジェリークと寸分違わぬフォームスタンドが出来上がりました。

現地時間での1週間後の受け取りを約して、漸く迷惑なお客は帰っていったのでした。


その頃、アンジェリークの『一番欲しいもの』を聞き出したオリヴィエはげんなりとした表情で私邸のソファに沈んでいました。

アンジェリークの欲しいものは意外な、けれど、考えてみれば当然なものでした。

「私、オスカー様の赤ちゃんが欲しいんです。キャっ」

頬を染めてアンジェリークは言いました。

「で…でもさ、聖地にいる間は無理じゃないの?あんた…せ…生理ないでしょ?」

聖地にいる女王&女王候補はその任にある間は生殖能力がなくなるのです。

妊娠・出産・育児と宇宙の運行を両立することは肉体的な負担を考えても無理です。

だから、いつのまにか女王即位の義に、そんな魔法がかけられていたのです。

だから、当然、アンジェリークも女王ロザリアも今は妊娠することは不可能なのでした。

排卵が起こらないから当然生理もありません。

だから、アンジェリークも当然、そのことは知っているはずです。ところが…

「???生理と赤ちゃんと、どんな関係があるんですか?」

ちゅっど〜ん!爆弾が暴発しました。オリヴィエの頭の中で。

「生理って…体の中の汚れた血を体外に出すためでしょ?」

どうしてアンジェリークはそんな間違った知識を身につけたのでしょう…。

実は彼女が初潮を迎えた頃、既に母はなく父は単身赴任中で、女性には不器用な兄しかいませんでした。

兄はあまりのことに慌ててしまい、そんな説明をしてしまったのです。

そして、たまたま、小・中・高校と性教育の時間や保健体育で性を扱う単元をやっているときにアンジェリークは学校を休んでいたのです。

偶然が重なって、アンジェリークは誤った知識のまま人妻となってしまったのでした。

「…赤ちゃんって、どうやったらできるのか知ってる?」

気を取り直して、オリヴィエは尋ねました。

正しい答えが返ってこないことは百も承知で。

どんな誤解をしているのかを知っておかねば対策のしようもありませんから。

「愛を誓い合った二人の間にできるんでしょう?神様が、二人の愛が本物だって認めて下さったら、天使が赤ちゃんを連れてきてくれるんですよね」

にっこりと笑って、自信たっぷりにアンジェリークは答えます。

そう、実はスモルニィではそんな風に言っていたのです。

けれどそれは、中学までに正しい生殖に関する知識を身につけた上で…という前提があってこそ、意味がある言葉でした。

その言葉の意味するところは『互いに愛し合い、敬い、誰にも恥じることのない愛を見つけなさい。そうすれば幸福な子供を授かり育むことができますよ』…ということだったのです。

カジュアルセックスを戒めるための言葉だったのです。

ところが、性に関しては幼稚園児にも劣る知識しかもっていないアンジェリークはその言葉を字面どおりに捕らえてしまっていたのでした…。

「オスカーになんて言おうかねぇ…」

オリヴィエは深い溜息をつきました。

その後、訪ねてきたオスカーに、オリヴィエはありのままを伝えました。

一言一句、身振り手振り表情まで同じにして…。

オスカーはとってもショックを受けていました。

結婚記念日まであと10日です。

それまでに彼女に正しい知識を伝えることはできるのでしょうか。

既にこの時点で、彼女が最も喜ぶ贈り物は不可能です。

けれど、誤解を解かねば、アンジェリークは自分たちの愛は神様に認めてもらえてないと思ってしまうに違いありません。

まぁ、それはそれで「じゃあ、認めてもらえるようにもっと頑張ろう!」といってオスカーにとって美味しい状況に持っていくこともできますが…。

それから、オスカーはオリヴィエしか知る事のない悩みを抱えることになったのです。

オリヴィエは、そんなオスカーを面白そうに見ていました。

何も協力なんてしません。

他人の不幸は蜜の味です。

しかも相手はアンジェリークを奪った憎き相手ですから、おまけに悩みの内容はなんとも幸せなものだったのですから…。



6月1日、結婚記念日。

その日、二人は外界の海辺のホテルで、互いの愛をしっかり確かめ合いました。

互いのプレゼントをそれはそれは喜びながら…。

尤も、アンジェリークが望んだ『オスカーの赤ちゃん』は無理でしたが…。

その理由をアンジェリークが知ったかどうかは解りません。

でも、旅行から帰ったアンジェリークが知恵熱を発してしまったことから考えると、随分ショックなことがあったのは間違いなく、恐らくそれはそのプレゼントに関係することに間違いはないでしょう…。

ちゃんちゃん

緋川亜紗子さまが、当サイトの一周年記念にとーっても素敵なアニバーサリー創作をくださいました!緋川さま、どうもありがとうございます!
この創作読むまで、アンジェとオスカーの結婚記念日をサイトのオープン日にしてしまえばいいってことに、私はまーったく気付きませんでした。目から鱗がおちるっていうのはまさにこういうことを言うんでしょうね(笑)
うちにもバカップルなオスアンはありますが、緋川さまのアンジェのほうが天然でオフィシャルのイメージに近いですね。ほんとのアンジェってこんな感じかもしれない。毎晩の睦言はなんのためにしていると思ってたんでしょうね。オスカー様が求めてくる、自分も気持ちいい単なる愛の確認行為だとでも思ってたのかしらん?でも、オスカー様のばかさ加減に関してはうちのオスカー様と同レベルと思ってしまった私(爆)
オスカー様がアンジェに贈ったドレスも、アンジェが習得してオスカー様にしたサービスの内容も気になるところなので、ぜひ緋川さまに裏設定をお伺いしたいところですね(笑)
緋川さま、改めてどうもありがとうございました!

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