密約

作 Lilis様

「あの方を愛しているから、私は女王になりました」

それは、許されるはずのない愛を実らせた呪文。

「あの方への愛があるから、私は世界を守っていけるのです」

その言葉に、慣例を理由として最後まで反対していた人物もおれた。

「生まれたばかりの宇宙には、慣例となるべき前例など存在せぬか」

そう呟いたときの微笑みが、彼の祝福の証。

彼は知らない。天使の言葉の真の意味を。

「あんたの幸せが世界の幸せなんですからね」

優秀な補佐官でもある親友は、そう言って二人を祝福した。自分のライバルが恋人の手によって女王になったと知った時、一番憤慨したのも彼女だ。

彼女は知らない。少女が女王となった瞬間、歓喜に震えたことを。

「みんな、君に騙されたな」

厳かで華やかな婚礼の儀が果ててようやく腕の中に閉じ込めた少女に、オスカーは意地悪く囁いた。

「本当の事ですよ」

アンジェリークは軽やかに戒めを逃れ、笑って応える。

「オスカー様を愛したから、私は女王になったんです」

愛も忠誠も、彼の気持ち全てが欲しくて。自分以外の誰かが、彼の特別になることが許せなくて。

「あなたが何かを捧げるのは、私にだけだから」

恋が実った時は、考えもしなかった。いつからだろう、愛が強くなりすぎたのは。知らぬ間に、自分の知らない闇が育っていた。

「相手がロザリアでも、許せなかったんです」

静かに告げる彼女の髪を、窓から流れ込む風がゆらす。陽光を弾いてきらめく金は月光を吸い込んであえかに光り、薔薇色の頬は月のように白い。白く薄い夜着をまとうだけのその姿は、今にも月の光に溶け込みそうで。濡れたように輝く翠の瞳と紅い唇だけが、彼女を現に留めている。

誰が知るだろう、春の日溜まりのような天使に夜が似合うと。

「・・・・・・・後悔、していませんよね」

笑顔を消して問う姿に目眩を覚え、オスカーは金の髪にそっと触れた。

「するわけがない」

答える声も甘くかすれる。

彼女の狂気を知らなければ、彼女を女王になどしなかった。

彼女が光と優しさに満ちただけの存在だったなら、補佐官となった彼女を手に入れた。

けれど自分のせいで、彼女は闇を知ってしまったから。

彼の狂気を受け入れる闇を育ててしまったから。

「俺は君を玉座につなぐほど、君に溺れているんだぜ」

補佐官として誰かと親しくすることすら許せなくて、帳の奥に閉じ込めた。

「これは罪かしら」

互いの全てを手に入れるために、世界までも利用した。

「罪さ」

罪の証は、堕ちた天使。誰も知らない、二人だけの大罪。

月が見守る中、オスカーはゆっくりと彼女の前にひざまずいた。

「炎の守護聖オスカー、新宇宙初代女王アンジェリーク・リモージュに永遠の愛と忠誠を捧げます」

朗々と響く言葉は、昼間聖なる翼のもとに交わされた聖約。剣を捧げる変わりに命を捧げ、誓いの証の口付けを、彼女の足にそっと落とす。

けれど、これは罪のもとでの誓いだから。

「夜毎俺のもとに堕ちてこい・・・・・・・・・俺の、天使」

告げるのは、光のもとでは許されぬ言葉。

蒼と翠が交じり合い、視線に射抜かれたアンジェリークの身体がかすかに震える。

「新宇宙初代女王アンジェリーク・リモージュ、炎の守護聖オスカーとこの世界に永遠の愛を捧げます」

求めに応えるように、紅い唇から誓いがこぼれて。

「オスカー・・・・・・・私の、世界」

真実もろとも、くずおれた。


それは、誰も知らない二人だけの儀式。

夜に満ちた部屋の中で、月の光を証人に、二人の罪人は真の誓いを交わす。



ENDE

Lilis様が「オスアンを書いたので感想なり批評なりをいただけると嬉しいです」とおっしゃってこの創作を下さった時、私は純粋に「批評なんておこがましくてできませんけど、感想なら…」ということで、「お互いのひりつくような独占欲を充たすために愛はときに愚かな選択をさせる。その先に破滅が待っているとわかっていてもその方向に進んでしまう時がある。そしてこの二人の思いは逆に純粋すぎて、どんな夾雑物も許せなかった故の選択。でも、綺麗すぎる水には生き物が住めないようにこの気持ちは純粋すぎるゆえ破滅に向かう…」というのがテーマではないかと読み取りました、とメールをかいたのです。
そうしましたら、この話は私の書いたオスアンに触発されたものだということで受取っていただけませんかと、Lilis様におっしゃっていただけたのですね。
でも、私はこのような狂気を内包したアンジェを書いた記憶がなかったので「?」と思ってましたら
「影響をうけたのは「アンジェリーク観」で私が持っていたアンジェのイメージはもっと子供だったんですが、由貴様の所のアンジェはもっと大人で、オスカーの闇の部分も受け入れているように見えたんです。そしてオスカーの闇を見た時に、それを光まで昇華させることも一つの愛なら、一緒に闇に堕ちて認めてあげるのも一つの愛かな、と。」という意図でこの創作をかかれたと教えていただき納得した次第です。
で、私にくださるとおっしゃっていただけたので、図々しくUPしてしまいました。
私の書いた話が他の方のインスピレーションの元になるなんて、照れくさいですが、とても嬉しかったです。

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