いけない(?)アルバイト 2

その後もオスカーは、予期せぬ困難・受難に見舞われつつも、めげずに打ち勝ち、克服し、乗り越えていった。ただ『お嬢ちゃんの新たなる魅力発見!』な面もあったので、正確には受難半分・幸福半分、吉凶相半ばす…という具合ではあったが。

例えば、こんなことがあった。

ある日、オスカーが店に訪れるとアンジェリークの制服のブラウスが、いつものスタンドカラーではなく、ラウンドネックのシャーリングブラウスに変わっていた。ブラウスの襟元には細い赤いリボンが縫いこまれ、そのリボンをきゅっと絞って結ぶことで襟元にシャーリングがより、同時に襟元を丸く詰める。言い換えれば、このブラウスは、何かの間違いでリボンが解けてしまうと、シャーリングが緩んで胸元が露になってしまうというか、下手すると、アンジェリークの魅惑の果実までぽろりと零れ落ちてしまうのではないかと一般人に期待させかねない、つまり、オスカーを極限まで警戒させるブラウスであった。

もちろん、アンジェリークは可能な限り胸元を引き絞っていた。

が、それは却って、アンジェリークの水鳥のように優美な首から肩のライン、魅惑の鎖骨、真っ白ですべすべの陶器のようなデコルテと、そのデコルテから綺麗な稜線を描いて続くたわわな美乳をより魅力的に引き立てているように、オスカーには見えてしまう。このブラウスのおかげで、オスカーは、アンジェリークの胸元は際立って美しいこと…その肌質もラインも…を改めて再認識させられたほどだ。

加えて、胸もとのリボンがどうにも危険極まりない。リボンというのは、硬く結んであるほどに解いてみたい…という男の妄想を否が応にも刺激するからだ。

しかもウェイトレスさんの宿命として、テーブルで食器類を上げ下げするためにアンジェリークはどうしても前かがみにならざるを得ない。実際は胸の谷間が見えるほど襟ぐりは開いてはいないのだが、男の悲しい性(サガ)で、どうしてもあらぬ想像をしてしまう客は多数いるのではなかろうか、と思うと、オスカーは不安とも焦燥ともつかぬじりじりした思いにいてもたってもいられなくなってしまう。

それは、オスカーだって、自身がアンジェリークの胸のリボンを解くのなら、それはむしろ大歓迎、万々歳だからだ。リボンを解いてシャーリングを緩めて胸元を露にし、ブラウスを全て脱がさぬままに乳房だけを露出させ、後ろから乳房を鷲掴みに指を食い込ませるようにひとしきり揉みしだく。ワイルドな愛撫に少し戸惑うお嬢ちゃんに口付けの雨を降らせ、一転、乳房に優しく唇を寄せて、硬く尖りつつある薄紅色の可憐な乳首を丹念に吸い上げ、じっくり丁寧に舐め転がす…そうしたら、お嬢ちゃんは、どんなにか、かわいく淫らに乱れることだろう…と想像するだけで勃起しかけたくらいだ。

しかし、お嬢ちゃんの美乳を愛する権利があるのは、自分1人であって、他の男には、お嬢ちゃんの繊細な鎖骨も滑らかな首筋も視界にすら入れたくない。ましてや、そのリボンを解くのは俺だけの役目だー!お嬢ちゃんのリボンを解いてもいいのは俺だけなんだから、やましい目で俺のお嬢ちゃんの胸元を注視するなー!と、オスカーは幾度心の中で大声で叫んだか知れなかった。

このブラウスに比べれば、ある意味禁欲的で、妖しいエロティシズム漂うスタンドカラーのブラウスの方が直截的でないだけ、まだ『俺のお嬢ちゃんが衆人環視』という拷問に耐えやすかったと、オスカーは思ったほどだ。想像力をかきたてるにしても、実際、肌の露出は少ないにこしたことはない、ということも実感させられた。

オスカーが、この苦難の時間をやりすごせたのは、ひとえに「あのかわいらしい装いのお嬢ちゃんの、その珠の肌の滑らかさも、魅惑の乳房の感触も、愛らしいさえずりの声も、この世のものとは思えないほど気持いい××の感触も、知っているのは俺一人だぜ」という密やかな優越感のおかげであった。逆に言えば、この優越感が、なんとか、オスカーの精神の強度と均衡を支えていたのであった。

しかも、このシャーリング型ブラウスの配給が店側の制服管理のミス…つまり他店に向かうはずのものが、届いてしまって、この日、この店のウェイトレスは選択の余地なく皆一様にそのブラウスを身につけたことがわかり、なおかつそれがこの一両日だけで済んだのは、オスカーの精神衛生上、大変ありがたいことだった。

もっとも、この反動で、休日デートでオスカーはアンジェリークの乳房をいつも以上に執拗に丹念に愛撫したうえ、後日、アンジェリークが再びシャーリングブラウスを支給されても着られないよう、鎖骨の辺りに、いつもはつけないよう気をつけているキスマークをたっぷりつけてしまった。が、これくらいは、かわいい男の我侭というものであろう。

もちろん、アンジェリークにまとわりつく若造どもをかわしつつ、アンジェリークを家まで送り届ける役目は完遂した。

こうして、どうにかこうにか、幾多の困難にオスカーは見事に耐え抜き、ついに、アンジェリークのアルバイト最終日を無事迎えたのであった。

アンジェリークは、帰りの車の中で、店長にお世話になった旨挨拶をして、今までの給金をもらってきた、と嬉しそうにオスカーに告げた。

「それで、先生、あの…明日は久しぶりに1日お休みなので、お昼間から会っていただけます?私…先生と一緒に行きたい処があるんですけど…」

と控えめに、でも、どうにも嬉しそうな笑みを抑えきれない様子でオスカーの都合を尋ねてきた。

「もしかしてショッピングか?お嬢ちゃん」

アンジェリークがびっくりした顔をする。

「どうしてわかるんですか、先生…」

「だってお嬢ちゃんが言ったんだぜ?自分のお金で買いたいものがあるってな」

「先生、私の話、覚えていてくださったんですね…」

「当然じゃないか、お嬢ちゃん。心配しなくてもお嬢ちゃんのショッピングには付き合うぜ、ただしだ…」

「何ですか?先生」

「俺も少々買いたいものがあるんで、お嬢ちゃんも俺の買い物に付き合ってくれるか?」

「はい、もちろんです、先生。先生と一緒にお買い物できるなんて、すごく楽しみ。でも、先生は何をお求めになるおつもりなの?」

「ふ…その時までナイショだ、お嬢ちゃん。それで言ったら、お嬢ちゃんこそバイト代で何を買うつもりなんだ?」

「そ、それは私も…その時までナイショです、きゃ…」

なんだかアンジェリークは妙に照れていた。

それでオスカーは、アンジェリークの買いたいものとは、卒業式後の謝恩パーティーできるドレスか何かであろうかとを予想した。そして、もし、そうなら好都合だとも考えた。

オスカーもまた、身につけるもので、アンジェリークに、どうしても、買い与え…いや、受け取ってもらいたいものがあったからだった。

 

翌日、待ち合わせた二人は、互いに互いが、高級なメゾンやブティックが引きもきらず並ぶ街の目抜き通りに用があることを知った。

「お嬢ちゃんも、この通りにある店で買い物がしたかったとは、丁度よかったな」

「先生は、なんていうお店にいらっしゃるんですか?もし、近いようならお先に…」

「いや、俺の用向きは後でいい…まずは、お嬢ちゃんが欲しくて仕方なかったものを買いに行こう、な?」

「は、はい…それでは、お言葉に甘えて…」

といいながら、アンジェリークは何故だか急に、その横顔に緊張を滲ませ、

「せんせ、私が行きたいお店はこっちです」

とオスカーを、組んだ腕ごと引っ張るように、どこか決然とした様子で歩き出した。

「あ、ここです、このお店です、先生」

と、アンジェリークがエントランス前で立ち止まったその店は、奇しくもオスカーがアンジェリークを連れてこようと思っていた、この地域でも1番の宝飾店だった。オスカーは目を丸くした。

「お嬢ちゃん、ここは…」

「あの…一緒に入っていただけますか?」

戸惑うオスカーの様子に気づかず、アンジェリークは懸命の面持ちで、オスカーの腕を引っ張るように店に入っていく。どうやら、店構えに気後れしないよう、自分を鼓舞するのに精一杯で、他に目を向ける余裕がないようだ。確かにこの店の格の高さを考えれば無理もないが…と思ったオスカーだったが、不可解な気持ちが湧くのは否めなかった。この店は、ハイ・ジュエリーを扱う店で10代の女の子が日常つけるアクセサリーの類は、そう置いてはいない筈だと思ったからだった。

お嬢ちゃんは一体何を買うつもりなんだろう、一緒に見立ててもらいたくて、俺を連れてきたんだろうが、それはイヤリングかネックレスか…だが、もし、指環を買うつもりなら好都合だ。一気呵成に『指環が欲しいなら…お嬢ちゃん、君の左手薬指に嵌めるリングを、今、この場で、俺からプレゼントさせてくれ』と告げることができる…。

オスカーはアンジェリークと並んで歩きつつ、心の中で、そう呟いていた。

アンジェリークのアルバイト中、あまりのファンの多さに、やはり早急に「アンジェリークは俺のもの、俺だけのものだ!」という、誰が見ても一目でわかる証拠が必要不可欠ー彼女の身の安全のためと、自分の精神衛生のためと両方の意味でーと考えたオスカーは、この宝飾店でエンゲージリングを贈り、明日の卒業式後のパーティーには、そのリングをつけた君を俺にエスコートさせてほしい…とアンジェリークに懇願する気だった。

指環は、オスカーが好みの石とデザインを選んで予め用意しておき、サプライズを目してアンジェリークに贈ってもよかったが…実際、オスカーは、彼女にはラウンドかハートシェイプのピンクダイヤのソリテールが良いかなと、この店の指環の中で良さそうなものを、ある程度セレクトはしてあった…が、オスカーは敢えて購入はせずにいた。というのも『婚約指環といえば一生物だ、どうせなら、彼女自身が心から気にいったものを贈りたい、彼女の好きなデザインで好きな色で、良く似合うものを…』と、オスカーは考えたからだ。指環を贈る以上は喜んで身につけてもらいたいので、アンジェリークの好みを聞かずに、一方的に自分が良かれと思うものをおしつけたくはなかったのだ。それで「これなんか、どうだ?お嬢ちゃん」と、自分が目をつけていたお薦めの指環をいくつか見てもらい、その中で彼女が気に入ったものがあればそれを、なければオーダーする心つもりで、オスカーはアンジェリークを宝飾店に連れてきたかったのである。

そう目論んでいたらアンジェリークの目的もこの宝飾店だったとは、オスカーは、なんとも粋な偶然に、天に感謝したい気になっていた。彼女がアクセサリーを買う気なら、どうせなら、俺が贈る指環と石や色をそろえてみないか?と提言もできるし…と考えていたオスカーだったが、アンジェリークは、さっさとアクセサリーのコーナーを通過してしまう勢いで歩を進めている。

「?」

お嬢ちゃんは、もしや、金投資でもする気なのか?とオスカーがいぶかしんだ処に、アンジェリークがぴたりと脚を止めた。そこはメンズジュエリーのコーナーだった。

オスカーが「え?…」と思う間もなく

「あ、あの、あの、あの…この、ファイヤオパールのカフリンクスを出していただけますか」

アンジェリークは、少し…いや、かなり緊張した面持ちで、店の者に、朱赤に金の射し色が入った貴石のカフスを出してくれるよう頼んだ。店の者はかしこまって承知すると、恭しい手つきで、ビロードの受け台にカフスを置いてショーケースの上に差し出した。

「こちらのお連れ様への贈り物でいらっしゃいますか?お連れ様の見事なおぐしと、石の色味がとてもよくお似合ですね」

店の者がにこやかにそういうと、

「はい」

と、アンジェリークはとても嬉しそうに、幾分誇らしげに応えた。

「お嬢ちゃん…それは…もしや…つまり…俺に…か?」

オスカーは、全く予期していなかった、だが、疑いようもない展開に、言葉を詰らせながら、アンジェリークに半ば確認のための問を投げた。するとアンジェリークは緊張を滲ませながらも笑んでこっくり頷くと、オスカーに真剣な面持ちで向き直った。

「はい、先生、先生にお似合だと思って…どうか、この、私からの贈り物を受け取っていただけませんか?私、先生に出会って…好きになっ…愛されて…いつもいつでも、大切に大事にしていただいて、これ以上ないほど幸せな高校生活を送ることができました。全て先生のおかげです。だから、私、卒業する時は、先生にどうにかして感謝の気持ちをお伝えしたいとずっと考えていたんです。これは、私からの感謝の気持ちです」

オスカーはたっぷり10秒は言葉を失っていた。

彼女が自分に贈り物をしてくれるつもりだったとは思ってもいなかった。今日の買い物も、まさか、俺のものを買うためのショッピングだとは思ってもいなかったのだ。と、その時、オスカーは「あ!」とあることに思い当たった。

「!…お嬢ちゃん、もしや、アルバイトも、このためだったのか?君が買いたいと言っていたものは、最初から…」

「はい、先生。でも、このカフリンクスにしようって決めたのは最近です。何か、記念に残るもので、できれば身につけていただけるもので、先生に似合って、お好みに合いそうなもので…って色々悩んで選ぶのは、でも、楽しかったです」

「…しかし、お嬢ちゃん、こんな高価なもの…君があんなに一生懸命働いて手にした初めてのお金を、ほとんど使ってしまうことになる…」

「だからです、私、自分で働いて手にしたお金で先生に感謝の気持ちをお伝えしたかったんです、ううん、ジェーンにアルバイトの話をもちかけられた時、そうだ、そうしよう、そうしなくちゃって思ったんです。いつも、私を大事に優しくしてくださる先生に、私、どんなに幸せか、感謝してるか、お伝えしたい、先生がいてくださって、私の高校時代は、本当に忘れられない、掛け替えの無いものになったんですもの。卒業前に、どうしても、きちんとお礼をしたかったんです。でも、どうするのがいいかしらって考えてたところにアルバイトに誘われて、本当に丁度よくて…だから、アルバイトは、元々、このためにしてたんですもの」

「お嬢ちゃん…」

「そうしたら、先生ったら、毎日、私の様子を見にきてくださって、心配してずっと見守っててくださって…疲れただろう?って私を労わって、毎日家まで送ってもくださった…私、申し訳ないなって思いながらも、とても嬉しくて…感謝の気持ちで一杯で、もっともっと先生が好きになって…だから、お願いです、先生…このカフリンクスを受け取ってくださいませんか。そして…あの、あの…できたらなんですけど…これをつけて、どうか…明日の卒業パーティーに、私と一緒に出席してはいただけません…か?」

「!…」

オスカーは、驚いたように目を見開くと、いきなりアンジェリークの手を取って強引に歩き出した。

「きゃ…なに……」

アンジェリークが、オスカーの唐突な行動に目を白黒させていると、オスカーは店の一角で急に立ち止まった。ダイヤモンドの一粒石を嵌めたソリテールリングが多数並んでいるショーケースの前だった。

アンジェリークがオスカーを不安そうな表情で見上げた。アンジェリークは、オスカーが何故、急に自分の手をとって歩き出し、また、唐突に立ち止まったのか、考えをめぐらす余裕もなかった。オスカーの意図が汲めず、自分の提言を弁えがないとオスカーが不快に思ったのだろうかと、底なしの不安に陥る寸前

「お嬢ちゃんにパーティーの申し込みで先を越されるとは思ってもいなかったぜ…だが…いや、だからこそか…これだけは、俺の方から申し込ませてくれ」

「せ、せんせ…?」

オスカーはアンジェリークの手を取ると、痛いほど真剣な眼差しでアンジェリークを見つめ、静かに真摯にこう告げた。

「アンジェリーク、どうか…どうか、俺から君に指環をプレゼントさせてほしい。君の左手の薬指にはめる…君の心を俺の魂に繋ぐための…エンゲージリングを…」

「!!!…せんせ……今、なんて…」

「オスカーだ、アンジェリーク。唐突に思えたかもしれないが…実は俺も、今日、君をこの店に連れてくるつもりだったんだ。君に贈る婚約指輪を一緒に選ぼうと思ってな。だから、君が俺をこの店に連れてきた時は、正直、驚いた。まさか、目的の店が同じだとは思ってもいなかったし、ましてや、君がこんなサプライズを用意してくれていたとは思いもよらず…本当に君には驚かされてばかりだ…」

「せんせい…」

「アンジェリーク、改めて申し込む。婚約の証に、俺からの指環を受け取ってもらえないだろうか…そして、明日の卒業パーティーで、俺が贈った指環をつけた君を、俺にエスコートさせてもらえないだろうか…」

「!…っ…は…はい、オスカー…喜んで…どちらも喜んで…」

「…ありがとう、アンジェリーク…」

ほーっと、オスカーは我知らず大きなため息をついた。アンジェリークの気持ちを疑ったことなど欠片もなかったが、それでもアンジェリークがいきなりの「婚約」に躊躇いを示したりしないかと、自分は緊張のあまり息を止めていたのだと、オスカーは、この時、初めて気がついた。

「私こそ…嬉しい…先生、ありがとうございます、私…夢みてるみたい…あんまり幸せで…やっぱり夢だったらどうしようって…怖いくらい…」

「ふ…そのかわいい薬指に1番似合う綺麗な指環を選んではめてみれば、今この時が夢じゃないってすぐにわかるさ。君、クラウゼウィッツだが、頼んでおいたものを…」

「クラウゼウィッツ様ですね、かしこまりました、少々お待ちください」

オスカーは前もって店側にセレクトを依頼しておいたソリテールの指環を各種出してもらうよう頼んだ。アンジェリークの眼前に、キラキラと輝く指環の数々ースタンダードなラウンドをはじめ、スクェアやマーキス、ペアシェイプなど様々なカットの、一目で素晴らしい品質とわかる指環が粛々と呈された。

「さ、お嬢ちゃん、この中に気にいりそうなものはあるか?もし、なければオーダーもできる。誕生石もいいが、個人的にはお嬢ちゃんには、このハート型のピンクダイヤなんて、イメージにあってかわいいと思うんだが、どうだ?」

アンジェリークは、オスカーからのあまりに思いがけない嬉しい申し出に、いまだ頭がぽーっとした状態だった。なのでオスカーに勧められるままに指環を眺め、その居並ぶ宝飾品の美しさに更に夢見心地にため息をついた処、ちらと、指環についている値札が目に入り、思いきり驚愕の表情を浮かべた。

「ど、どれもすごく綺麗で、ステキですけど…で、でも、せんせ、私、こんなに高価なもの、いただいていいんでしょうか…」

「当然だ、エンゲージリングといえば一生に一つだぜ。俺は君を他の男にやる気なんてさらさらないからな。それならば俺は、君に本当に似合う、一生喜んで身に着けてもらえるものを…それだけの価値があるものを贈りたい。妥協はしたくないし、してほしくないんだ。それこそ、いきなり君に指環を差し出す、ってシチュエーションにもそそられたんだが、もし、デザインや色がお嬢ちゃんの好みと違ったら困ると思ってな」

少々悪戯っぽく、でも、優しい瞳で笑うオスカーの顔を見て、アンジェリークの胸は一杯になる。

「…先生……」

アンジェリークは、一瞬、息を飲んだように沈黙した後

「はい…わかりました…」

と、静かに頷いた。変に遠慮するほうが失礼になる…オスカーの気持を無にしてしまうことになると、直感的に悟ったゆえだった。

そこで、アンジェリークは居並ぶ指環を真剣な瞳で吟味した後、透き通った極淡い蒼の色石がついた指輪を手にとった。

「私…この指環がいいです」

「ブルーダイヤか?」

オスカーは僅かに意外そうな顔をした。淡いブルーのダイヤモンドは確かに美しいが、クールな印象なので、アンジェリークのイメージには少しミスマッチな気がしたからだ。しかし、アンジェリークはとてもいとおしげに、でもきっぱりと笑んでこういった。

「先生、一生喜んで身につけられるものを選ぶなら、私は、この石がいいです。だって、この石…先生の瞳の色とそっくりだから…身につけていたら、先生がいつも一緒にいてくださるように、先生がいつも私を見つめてくださるように感じられる気がするから…」

「!…そうか、この石の色はアイスブルー…」

「はい…」

アンジェリークが本当に嬉しそうににっこりと笑った。

「アンジェリーク…俺に嵌めさせてくれ…」

オスカーは指環を手にとると、恭しい手つきでアンジェリークの左手を取り、そっと指環を薬指に滑り込ませた。アンジェリークの白くしなやかな指の上で、石は内側から蒼白い炎が揺れているような輝きを放った。

「ああ…とても、よく、似合う…」

「それは…先生の瞳の色と同じだからです、きっと…」

「まったく君は…俺がもっともっと君を好きになるようなことばかり言ってくれる」

「先生こそ、私にこんなに嬉しい贈り物をくださって…私の方が先生にプレゼントするつもりだったのに…あ、じゃ、先生、私からの贈り物も受け取ってくださいますよね?」

「だが…本当にいいのか?君が初めて得た大切なお金を全部俺へのプレゼントに使ってしまって…」

「だからこそです、先生、それ以上の使い途なんてありませんもの。でも、先生のくださる指環に比べたら、本当に恥ずかしくなってしまうほどささやかなものですけど…」

「何を言っているんだ、お嬢ちゃん。俺には、君のその気持ちが何より嬉しいものだぜ。だから俺はその気持だけでも充分…」

と、店の者が控えめに咳払いをして、二人の押し問答になりそうな会話を収拾すべく

「お客様、では…お嬢様からの贈り物は、お客様がお贈りになる指輪への返礼…結納返しということで、お受け取りになってはいかがでしょうか?婚約の記念に、女性からも、男性に何某かの贈り物をなさる方は多うございますよ」

と、提言してくれた。

「ああ…なるほど、それはいい。では、あのファイヤオパールのカフリンクスは、君から俺への婚約記念品ということで、ありがたくいただこう。一緒に明日のパーティーで身につけられるしな」

「せんせ、そんな、あのカフスが婚約の記念品でいいんですか?私、あれは、本当にお礼の気持ちで…」

「お嬢ちゃん、俺には、あのプレゼント以上に価値のある物など思いつかないぜ。君が初めて自分の力で手にしたお金で贈ってくれるものなんだからな、もっとも…」

「?」

「この世で1番価値のある…1番欲しかったものを、俺はもう、手にいれているがな」

オスカーが恐ろしいほどこ蠱惑的な瞳で、アンジェリークを熱っぽく見つめた。アンジェリークはオスカーの眼差しの熱さに、息がとまり、体中の力が抜けて、へたりこみそうになってしまう。

「先生…」

「オスカーだ…」

耳元で囁かれて、アンジェリークは足元が覚束なくなり、思わず、オスカーの胸にしなだれかかってしまった。

オスカーはアンジェリークを優しく抱きとめながら、手際よく2つの宝飾品の会計をすませ、明日身につけたいので、それぞれのイニシャル刻印は後日頼む旨、手配をすると

「さ、お嬢ちゃん、これから、この指環をつけたところを、もう一度俺に見せてくれないか?二人きりで…」

と、耳元に吐息を吹き込むように囁きながら、アンジェリークの腰をぐいと抱き寄せた、

アンジェリークは、もう声も出せずに、ただ、潤んだ瞳でオスカーを見上げることしかできなかった。

 

オスカーの懇願は、結果として偽りとなってしまった。改めてアンジェリークに指環を嵌める暇など与えられなかったからだ。

自分の部屋につくやオスカーは、玄関口でアンジェリークに深い口付けを与えながら、手品のように手早く彼女の着衣を取り去ってしまった。自分の服も引きむしるように脱ぎ捨てる。

ただ、その中でも、アンジェリークがくれたカフリンクスの箱と、エンゲージリングの箱だけは、大事にベッドのサイドテーブルに置いたが。

午後の陽光がカーテンの隙間から差し込む部屋の中、床には互いの着衣が散乱したままに、オスカーは、アンジェリークを勢い込んでベッドに横たえた。

アンジェリークが待ちかねたように、オスカーの首に腕を回してき、オスカーの熱情を更にあおった。

オスカーは無性にアンジェリークが愛しくて大切でたまらなかった。その気持ちが体中から溢れそうだった。彼女を抱く腕に力が一層こめられた。

 

降らせた口付けの数は、天の星ほどに数え切れない。

アンジェリークの肌はどこを触れても心地よく、また、アンジェリークのしなやかな手指が己の肌に滑る感触も、同じくらい心地よい。口付けあい、思い切り固く抱きしめあうほどに、彼我の境目が曖昧になっていくようで、それが、また、たまらなく幸せだとオスカーは思える。

この幸せを伝えたくて、アンジェリークにも同じように感じてほしくて、オスカーはアンジェリークの桜色の耳のすぐ下から首筋へ、首筋から胸元一面へと唇を滑らせ、唾液の痕をつけていく。アンジェリークのしっとりと滑らかな肌に、くまなく口付け、吸い上げ、愛の証を残したいと思う。

両の乳首は、オスカーが丁寧に緩急をつけて舐め転がし、吸い上げるほどに硬く尖り、薄紅から鮮紅色へと、あでやかに染まっていく。ふっくらと真白く豊かな乳房も、張り詰めきった乳首の感触も、その乳首を舌先で転がし、音を立てて吸うたびにつややかな声を零す濡れた唇も…オスカーにはアンジェリークの何もかもがなめまかしく、何時にもましていとおしい。

尖りきった乳首の弾力の心地よさに酔い、極軽く歯先で挟んでしごくと、アンジェリークが感極まったような声をあげる。オスカーの肩にまわした腕に力がこめられるのがわかる。その様が、また、かわいらしくて、オスカーはアンジェリークの乳房に、殊更耽溺してしまう。

ねっとりと舌を絡めるように乳首を舐めあげながら、逸る気持ちで、なだらかな下腹へと腕を伸ばす。柔らかな繊毛を掌全体でなでさすりながら、極自然に脚を割って、股間に手を滑り込ませる。すぐに、彼女の秘裂が溢れんばかりに愛液を湛えているのが指にわかった。オスカーは、とろりとした愛液の感触を楽しむようにふっくらした花弁の表面を指先で撫でさする。と、無意識にであろうか、アンジェリークの腰がもどかしげにもちあがる。オスカーに、自ら、寄り添うように腰を擦り付けてくる。アンジェリークがオスカーの愛撫を待ちわびていることが、素直に伝わってくる。

「もっと触ってほしそうだな、お嬢ちゃん」

「やぁん…んんっ…」

照れて拗ねたような声をあげる唇を己の唇で塞いでから、オスカーはアンジェリークの花弁に指先をつぷりと挿しいれ、その指先をすぅっと滑らせて花芽を探る。既に硬くしこっていたそれは、オスカーの繊細な指先にすぐ知れた。オスカーは意識して愛液をたっぷりまぶした指の腹で、じっくりとそれを転がし始めた。

「ひぁっ…」

半ば驚いたような嬌声と共に、アンジェリークの体が跳ねるようにひくん…と震えた。

オスカーは、アンジェリークのこの悦びの囀りほど、愛らしい声音はないと思っている、だから、声をあげさせたくて、ついつい刺激の強い愛撫を与えてしまいそうになる。が、敏感すぎる花芽に痛みが勝ったら大変だから、力加減は細心にして絶妙を図る。愛液を可能な限り指で掬い、かわいい珠を守り隠している莢の上でその指を回す。直に珠には触れないように気をつけながら、指の間に花芽を挟み込んで摘んで転がしたりもする。

オスカーが、花芽をくすぐるように指を回すたび、アンジェリークは顔を左右に振って懸命に小指を噛み、声を抑えようとする。噛んだ唇から熱い吐息が忙しなく零れる。

その、やるせなげな吐息だけでもオスカーには充分すぎる程扇情的ではある。だが、オスカーは、アンジェリークに声を殺してほしくない、もっと高らかな囀りをあげさせたい、否、自分が彼女の愛らしい囀りをもっと聞きたくてたまらない。

オスカーはアンジェリークの腰下に枕を押し込んで腰を持ち上げさせ、同時に己の体躯でアンジェリークのすんなりと綺麗な脚を割り、白い華奢な体の上に…正確にはその下半身に覆いかぶさった。

「あ…」

戸惑うような声をあげるアンジェリークに構わず、思い切りよく彼女の脚を押し広げ、その真中に顔を埋めた。芳しい蜜を豊かに溢れさせ、艶やかに濡れた花弁にむしゃぶりつくように口付ける。

「あ…あぁん…んんっ…」

果たして、オスカーの望む通りに、つやめいた愛らしい囀りが、そこはかとなく淫靡な水音を従えて、ほの暗い部屋に絶え間なく響き始める。

オスカーは彼女の花弁を執拗なほどの熱意でもって口唇で愛撫する。腰を大きく持ち上げさせたのは無闇に羞恥を煽るためではない、彼女にも自分にも身体に無理のない姿勢を取ることで、長い時間をかけて、たっぷりと愛撫してやれるようにと考えてのことだった。

ふっくらとした花弁のそこここに唇を押し当て、いとおしむように幾つものキスを落とす。とがらせた舌先で花弁の合わせ目を割って、ゆっくりと舐めあげる。幾度も行きつ戻りつ、丁寧に舌先で愛液を掬うように。アンジェリークの秘裂は豊かにとめどなく熱い愛液を溢れさせている。オスカーは、秘裂の奥深くにとがらせた舌を差し入れ、その甘露を舌先で転がすように味わう。

秘裂を割ってじっくりと運ぶ舌先に、こりっとした硬い弾力が触れる。

「あんっ…」

途端にアンジェリークが、びっくりしたような、でも、どこか期待を滲ませた甘い嬌声をあげる。

「お嬢ちゃん、さ、自分で脚を支えてごらん…」

オスカーは、すぐにも、かわいらしい肉の珠を思い切り舐め転がしてやりたい衝動を無理に押さえ、わざと一度顔をあげて、甘く蕩けるような声と共にアンジェリークの手を彼女の膝頭に導く。

「もっと大きく脚を開いて…俺が舐めてあげやすいように」

「あぁ…先生、私…恥ずかしい…」

アンジェリークは、消え入りそうな声で囁く。目を潤ませ、頬を真っ赤に染めながら、それでも、おずおずとオスカーの言に従う。自ら大きく脚を開くという所作に、羞恥の感情が抑えきれないのだろう、自身の膝を支えている白い手はふるふると震えているのにだ。

オスカーは背筋がゾクゾクするのを感じる。

「でも、俺に、ここを舐めてもらうのは…好きだろう?」

アンジェリークは耳まで真っ赤になり、唇を震わせながらも、小さく頷く。

彼女が羞恥に震えながらも、自分の愛撫を率直に求める様、もたらされる快楽への期待を抑えきれず現してくれるその様に、オスカーの胸は、彼女への愛しさと謝意ではちきれそうになる。

こうまでして、自分を求めてもらいたいのだ、俺は…。

オスカーはわかっている。アンジェリークが限りない優しさで、自分の心の渇きを癒してくれていることを。求めているのは自分の方で、彼女は俺に惜しみなく与えてくれていることを。

「いい子だ、お嬢ちゃん…素直ないい子は、ご褒美がいっぱいもらえるぜ」

いかにもな余裕を演出するつもりが、僅かに声がかすれてしまう。この、硬く張り詰めきった宝珠を存分に味わい尽くしたいのは自分の方だと、オスカーは自覚しているから。

「たくさん、気持ちよくしてやるからな…」

これは君への謝意でもあるから。俺に、思いもかけない喜びと驚きをくれた君に、そして、俺からの想いに真摯に応えてくれた君に…俺は限りない肉の愉悦で君の優しさに応えたい、そう、オスカーはそう思っている。だから、一度花弁に口付けてしまうと、もう、歯止めが効かない、遠慮もしない。

形のいい鼻先で花弁を割り、舌で改めて肉珠を探り当てる。唇にぷりんと硬い弾力を感じるや、オスカーは、思い切りよくその突起を吸い上げた。

「あぁんっ…」

彼女の嬌声はオスカーを更に煽る。一心にがむしゃらに舌先で肉珠を転がし、こりりとした感触を存分に堪能する。舌を回し、はじいて、音を立てて吸い上げる。とめどなく溢れる愛液がオスカーの唇を湿らす。彼女自身のあますっぱい香りにむせ返りそうになっては、酔いしれる。

口唇で花芽を愛撫する傍ら、時折、乳房に手を伸ばす。ふんわりと柔らかな乳房を飽かず揉みしだく。痛々しいほど硬く尖りきった乳首を摘まんで捻っては、指の腹で転がしてやる。

彼女自身の手で膝頭を支えさせているので、オスカーは彼女への愛撫に思い切り専心し、耽溺できる。

オスカーは、アンジェリークの股間で、とがらせた舌先を肉珠の先端にあてがったまま、首ごと大きくまわし動かす。

「はっ…あっ…あんっ…」

アンジェリークの体が、電撃をうけたようにびくびくと震える。

巧みな舌遣いで器用にさやを剥かれた肉珠のさらにその先端で、オスカーは、小刻みに舌を躍らせ、ここぞとばかりに吸い上げた。

「ひぁんっ…」

瞬間、アンジェリークの脚が突っ張るように緊張し、内腿が、ふるふると震えたのをオスカーは感じた。

アンジェリークが気をやったことはわかったが、オスカーは、構わず口唇での愛撫を続ける。一度イかせたら挿入なんていうマニュアルどおりのセックスなぞする気はない。愛撫はサービスじゃない、挿入するための手付けや許可を得るために行っているのではないのだ。

オスカーは、ただ、アンジェリークが愛しいから触れたい、キスしたいし、せずにはいられない。そして、俺が触れると彼女も心地よいと喜んでくれる、その姿が、俺には、またなんともいえず嬉しい、彼女への愛しさが、いや増しに募る、だから、もっともっと彼女を愛撫したくなる、突き詰めていえば、これだけだ。

アンジェリークがかわいくて愛しくて仕方ないから、俺は思い切り抱きしめずにはいられない、余すところなくその肌を撫で、体中のいたる処にキスせずにはいられない。そして、アンジェリークは俺の愛撫に、この上なく愛くるしい仕草で応え、可愛いさえずりを奏でてくれる。この上ない歓喜を身体中で表してくれる。だから俺は、愛撫する程に、より際限なく彼女を愛したくなる。愛さずにはいられないんだ。

アンジェリークと肌を重ねる度にオスカーはこんな風に思う。

だから、オスカーはアンジェリークが1度や2度気をやったとてそれで愛撫を終わりにしようなどと思わない、何度でも、快楽の絶頂を極めてくれていい、彼女が、こんなにも俺の愛撫に喜び酔いしれてくれている、それこそが俺の喜びだから。

そして、愛撫すればするほどにアンジェリークの官能は深まり、官能を極めきった果てに、彼女が、より深く確かな俺との結びつきを求めてくれる…俺の人生で最も幸福な瞬間の一つだ。そして、俺は彼女も最も深く暖かな場所に受け入れられ、包み込まれ…一つに溶け合うという歓喜と至高の恩寵に預かれる。

オスカーは、その歓喜を極めんと、愛撫を続ける。敏感すぎる肉珠を羽毛のようなタッチで指先で転がし、繊細な力加減で、極々軽く歯先で挟んでより尖らせた先端をちろちろと舌先でくすぐると、アンジェリークが敷布の上でのたうち回るように乱れた。

「はぁあっ…も…だめぇ…溶け…ちゃ…」

「ああ…溶けてしまえ…」

「あっ…やぁっ…も…せんせ…あぁっ…あんっ……」

アンジェリークは、絶え間なく与えられる鋭い愉悦に翻弄されていた。オスカーの舌に舐られるほどに、頭が芯から痺れるような、全身をとろかすような愉悦が迸り、走りぬける。唇からは啜り泣きが漏れ、体は居たたまれないように、勝手にびくびくと跳ねてしまう。

何かもう、たまらない気持になってしまい、堪えきれない。気づくとアンジェリークは

「も…欲し…せんせ…の…」

と、切実な様子でオスカーに訴えていた。

「まだ…我慢できるだろう?お嬢ちゃん…」

すると、オスカーはどこか嬉しそうに、口の端に笑みを浮かべた。

「いやいや…もう…ちょうだい…おねがい…」

アンジェリークがおずおずとオスカーの下腹部に手を伸ばす。怒張しきって、臍の辺りにくっつきそうな勢いで反り返っているオスカーのモノを、小さな白い手がやんわりと握り込んだ。

「先生だって…こんなに…熱くて…硬い…」

アンジェリークは熱に浮かされたようなうるうるとした瞳でオスカーを見つめ、夢見るように呟いた。細い指先が、滲んだ先走りを塗り広げるように、滑らかな先端から雁首を優しく柔らかくなでさする。

オスカーが、幾分切なげに眉根を寄せた。

「ふ…いけない子だな、お嬢ちゃんは…こんな悪戯をして…」

オスカーは口の周りについたアンジェリークの愛液を美味そうにぺろりと舐めてしまうと、一度アンジェリークに軽く口付けた。アンジェリークの眦に滲んでいた涙も舐め取ってやる。

「…だって…」

アンジェリークが甘えた様子で、くふんと鼻をならす。

「ああ、こんなにかわいくおねだりされては、敵わない…」

オスカーはベッドサイドから避妊具を手に取り、手早く装着すると、アンジェリークに深く口付け、舌を差し入れた。アンジェリークは待ちかねたように、オスカーの舌に自分のそれを絡ませる。華奢な腕が自然とオスカーの首に回される。

オスカーは、深くアンジェリークの唇を吸いながら、男根の先端で花弁の合わせ目を焦らすように、突付き、なでる。アンジェリークが、拗ねたように小さく首を振り、じれったげに自分の腰をオスカーに擦り付けようとした。

「やん…せんせ、もう…イジワルしないで…」

「お嬢ちゃん、辛抱できないなら…自分で挿れてごらん?できるだろう?」

「あ…」

優しげな笑みを含んだオスカーの誘いに、アンジェリークが、ほの暗い部屋の中でもはっきりわかるくらい真っ赤になった。真っ赤になりながらも、アンジェリークはオスカーの剛直の茎の部分にそっと手をあてがい、己の潤びた花弁へそろそろと導いていく。先端にふっくりと暖かな感触が触れたのがわかった。

その瞬間を待ちかねたように、オスカーは思い切りよくアンジェリークを貫いた。

「あぁんっ…」

アンジェリークが、歓喜とも安堵とも取れる嬌声をあげる。

「…あっ…あっ…んんっ…」

その嬌声が瞬く間に艶めいた忙しないものになっていく。

挿入するや、オスカーは、律動をより深く早く勢いよく、ピッチを上げ続けていったからだ。

「はっ…あぁっ……あんっ……」

オスカーが深々と勢い良く突き入れる度に、アンジェリークは高い声を放ち、悩ましげに眉をひそめる。オスカーの背を抱く手に力が込められる。かわいい唇からは火の様な吐息が零れる。

「こんなに乱れて…すぐにもイッちまいそうだな、お嬢ちゃん」

「んんっ…はっ…はぁっ……」

アンジェリークが荒い吐息をおし、オスカーの淫靡な問かけに、素直に、懸命に頷こうとした。

実際、挿入されるや、アンジェリークの意識はすぐにもはじけて飛び散りそうになっていた。体の根幹を疼かせるような餓(かつ)えを、オスカーの熱く硬い圧倒的な量感があまりあるくらいに満たしてくれ、その瞬間に、頭が真っ白になった。間をおかず体の1番深いところを力強く突き上げられ、その度に、狂おしいほどの心地よさが自分の中一杯に響き渡り、重なっていく。オスカーの重みを全身で受け止め、オスカーの鞣革のような肌の感触に酔い、男らしい香に陶然とする。体の外も内側も、何処もかしこもオスカーを感じさせてもらえるのが、嬉しくてならない。

でも、快楽が激しすぎて、矢次早にすぎて、自分の歓喜を巧く言葉で伝えられない、だから、アンジェリークはオスカーの背を抱く腕に精一杯の力を込める。少しでも多く、オスカーの肌と触れ合う部分を多くしたくて、オスカーの身体にぎゅっとしがみつく。

オスカーはアンジェリークのその健気さに、打ち震える。

と、やにわにオスカーはアンジェリークの細い足首を掴むと高々と持ち上げ、思い切り腰を突き出し、突き入れた。

「ひぁんっ……」

オスカーが、アンジェリークの柔襞を雁首でこそげるような激しい勢いで挿送をくりだすと、アンジェリークが小指を噛んで嫌々するように首を振る。

オスカーはそれでも何かもどかしい気がして、己の肩にアンジェリークの足首を担ぎあげると

「お嬢ちゃんのかわいいここに、俺のものが勢いよく出入りしてるのが丸見えだぜ」

と、言いながらアンジェリークの花弁ごと、自分たちの接合部分をくにくにと揉んだ。

「ほら、しっかり根元まで咥えこんで放そうとしない…」

「あぁっ……恥ずかし…」

「ふ…そんなことを言って、ますます強く俺を締め付けてきたぜ、お嬢ちゃんのここは…痛い程にな…」

オスカーは深い結合を保ったまま、子宮口を先端で擦って刺激するように、腰を粘りつくようなグラインドでまわす。

「あぁんっ…やっ…ダメ…おっきな声でちゃ……」

「いいぜ、思い切り出していい…」

オスカーは二人の結合部から僅かに手をずらすと、尖った肉珠を指の腹でくりくりと転がした。

「ひあぁんっ…」

アンジェリークが、大きくのけぞって白い喉笛を露にする。どこもかしこもほんわりと柔らかなアンジェリークが身も世もあらぬ風情で乱れる様は、オスカーの男の欲望をこれ以上ないほど刺激する。ゾクゾクと恐ろしい程の愉悦がこみ上げる。

「ほら…気持ち…いいだろう?…お嬢ちゃん…」

「ん…んんーっ…いい…すごい…気持ちいいの…あぁっ…」

「かわいいな…お嬢ちゃん…こんなに感じて…乱れて…本当にかわいい…」

「やんっ…はっ…あぁんっ…」

しかし、今にも快楽に溺れ流されそうなのはオスカーとて同様だった。粘るように腰を遣いながら、指の腹で肉珠を転がしてやると、アンジェリークの秘裂はうねるように蠕動してオスカーの剛直全体を絞り込むように締め上げてくる。あまり長くは持ちこたえられそうにない、だから…

「かわいいお嬢ちゃんを…もっと気持ちよくしてやりたい…」

「え……あぁっ…」

オスカーはアンジェリークの脚を担ぎ上げたまま上体を倒した。アンジェリークの身体を二つ折りにするように押さえつけ、思い切り深々と、渾身の力で肉の楔を打ち込む。

「ひぁあっ…」

反射的に、アンジェリークの背が、きれいな弧を描いて反り返ろうとする。が、オスカーの体躯に全身しっかり押さえ込まれているので、乳房がオスカーの胸板により押し付けられてしまうだけだ。柔らかな乳房と硬く尖った乳首が胸に押し付けられる感触に、オスカーの頭に更に血が昇る。

アンジェリークの唇に噛み付くように口付け、嬌声も吐息もともに貪るように飲み込んでしまいながら、リズミカルに力強く腰を打ち付ける。

「んんっ…んふぅ…ふぁっ」

アンジェリークのくぐもった喘ぎに、湿った肉を打つ音、オスカーの激しい息遣いが重なって、淫靡な和音を奏でる。そのテンポがどんどん早まっていく。

「んんぁっ…あぁっ…あっ…」

アンジェリークが突き上げに堪えきれずに口付けを解く。が、華奢な腕に尚一層の力をこめて、オスカーの身体にしがみつく。オスカーが、その包容に応えるかの如く、アンジェリークの身体を思い切り抱きしめながら、アンジェリークを壊しそうな勢いで、肉壁をえぐり、最奥を貫く。首筋から鎖骨にかけて、縦横に唾液の跡をつけ、己の突き上げに激しく揺れる乳房の頂点を器用に唇で捉え、きつく吸い上げる。

「ひぁあっ…やぁっ…」

オスカーの律動は獲物を追いかける獣のようだ、躊躇いなく、最高の集中と渾身の力をアンジェリークに注ぐ。アンジェリークの最も奥深い部分に、容赦なく力の限り、己を叩きつける。それが、自分を欲し、一つになりたいと願ってくれるアンジェリークへの…自分を果てなき優しさで受け止め、包み込んでくれるアンジェリークへの感謝と礼節だと思うからだ。

アンジェリークもまた、無我夢中で、オスカーの想いに応える。

自分の内を隙間一つなく一杯に満たすオスカーのものは暴れ馬のようだ、限りなく力強く、逞しく、雄雄しい。ただただ、圧倒される。何も考えられなくなる。

でも、だからこそ、オスカーがあらん限の想いを自分にぶつけてくれていること、気持ちのありったけを注いでくれていることを肌身で感じる。その熱い想いが、アンジェリークの胸を締め付け、心を更に溶かして酔わせる。

オスカーの存在に満たされて、自分とオスカーの境目さえ曖昧になっていく。隔たりなど微塵も感じられず、一つに融け合うようなこの時を至福といわず、なんというのか。

「あぁっ…熱いの…すごい…」

「っ…ああ…お嬢ちゃんの中も…火傷しそうだぜ…」

「あんっ…あっ…せんせ…せん…せ…も…」

「オスカーだ…オスカーって…いえるか?」

「んっ…オスカー…好き…大好き…」

「俺も…愛してる…アンジェ…俺のアンジェリーク……」

遮二無二、これでもかと言うほどに腰を打ちつけた。むごいほどに思い切り刺し貫き、肉壁をえぐるように、雁首で擦りあげた。

「はっ…ひぁああぁっ…」

アンジェリークが大きくのけぞった。全身が小刻みに震え、オスカーのものを容赦なく締め付けた。

「くぅっ…」

オスカーの眼前が真っ白に染まり、一瞬、世界が音を失う。怒涛のように歓喜が押し寄せ、それ以上に、アンジェリークへの愛しさが爆発するように溢れて迸った。

オスカーは、啜り泣きを零すアンジェリークの肩口に倒れこむと、柔かな巻き毛に指を埋めて、抱え込むようにアンジェリークを抱きしめ、顔中に、そして、唇に長々と口付けた。

 

オスカーにとって、アンジェリークと共に事後の僅かに気だるい満ち足りた余韻に浸ることも、セックスそのものと同じくらい大事だし、この上なく幸福な時間でもある。アンジェリークと過ごす親密な時間は、情熱的で激しいものであっても、ほのぼのと心安らぐ暖かなものであっても、同じほどに満ちたり幸福であるし、どちらが欠けても物足りないだろうと、オスカーは思う。

だからオスカーは、アンジェリークとの情事の後に過ごす時間もこよなく大事にする。オスカーは、日を重ね時を重ねていくごとに、アンジェリークをもっと好きに、もっと大事に愛しく思うようになるばかりだから、それは全く容易いこと…というよりアンジェリークへの愛しさから、自然に体がそのように動く。

オスカーは、改まった様子でアンジェリークの額に、頬に、鼻先に、唇へと幾つもの口付けを落としてから、最後に恭しく彼女の手を取ると、指先にちゅっ…と口付けた。

「明日になれば…漸く…君は俺のもの、俺は君のものだと宣言できる…明日が待ち遠しいぜ」

「はい…私もです、先生…」

「オスカーだ、明日で、俺も君の「先生」から卒業なんだからな?」

「は、はい、オスカー…」

はにかむアンジェリークにしみじみ見惚れながら、オスカーは、念のため確かめておきたいことを尋ねた。

「ところで…大学の入学式までの休みは、アルバイトはいれてないよな?」

「はい、だって、もう、買いたかったものは買えたし…それを、先生に受け取っていただけましたから…」

アンジェリークは一瞬、オスカーがはっとするほど嬉しそうな、艶やかな笑みを浮かべた。

「そうか、安心した。お嬢ちゃんは、もしかして店から引き止められたんじゃないかと案じていたんでな」

「どうしてわかるんですか!?先生!」

「そりゃ、わかるさ。俺が店長だったら君を手放したくないと思うからな。お嬢ちゃんのウェイトレス姿は本当にかわいらしかったからな。お嬢ちゃんのおかげで店側も売り上げが伸びたと思うぜ?だから、優しいお嬢ちゃんのことだから、熱心に引き止められたら、どうするか、ちょっと心配してたんだ」

「いえ、大学に入っても暫くはアルバイトはしないつもりです、学生は勉強が本分ですもん。学科の履修を決めて学生生活が軌道に乗るまでは、どちらにしろ、空く時間や曜日がわからないし…」

「そのほうがいいだろう。さもないと、俺とデートする時間がなくなっちまうからな。それに正直言えば、君があのアルバイトを続けないでくれてよかった…」

「どうして?…」

「お嬢ちゃんのかわいいアンヨを惜しげもなく見せるのは、俺だけにしてほしいからさ。俺は存外嫉妬深い男なんだと、前にも言っただろう?」

オスカーは軽い口調で笑みを含みながら、アンジェリークにキスをする。

「ふふっ…じゃ、脚を見せないアルバイトならいいんですか?」

「できれば、胸元もだな」

そういいながらオスカーはアンジェリークの首筋から滑らかなデコルテをなでるように、唇をすべらせた。

「君が胸元の開いたブラウスを着てた日は気が気じゃなかったぜ…この陶器のように美しい肌を見るのは俺だけでいい…」

「あ…ん…胸元と脚が見えないアルバイトですね、わかりました、次にバイトする時はそうします、せんせ…オスカー」

「そうだ、お嬢ちゃんのこのかわいい胸も、綺麗なアンヨも…見て触れてキスするのは俺だけの特権なんだからな…」

いうや、オスカーはアンジェリークの乳首にちゅ…と口付けた。

「きゃん……」

オスカーは、その声が許諾の合図であるかのように、再び、アンジェリークの乳首を唇で咥えると、とがらせた舌先でちろちろと、その天辺をくすぐり始めた。

「あっ…あん…」

「ま、勉強以外は何事もほどほどにな、お嬢ちゃん」

「は、はい…はっ…あぁん」

「いい子だ…ああ、だが、俺との愛の交歓は、もちろん、思い切り耽溺してもらっていいからな…さ、今度は後ろから激しく犯されるのと、下から思い切り突き上げられるのと、どっちがいい?お嬢ちゃん…」

「やぁんっ……どっち…なんて…あぁんっ…」

「選べないか?…じゃ、両方だな…」

「えっ…あぁっ…そんな…あ…あぁっ…」

「…そうだ…もっと…感じて、乱れて…夢中になれ…俺の…アンジェリーク…」

「あぁっ…あっ…オス…カー…」

アンジェリークは、また、何も考えられない、否、オスカーのことしか考えられない、感じられない濃密な時間に投げ込まれつつあった。

目の前で、鮮やかな紅い髪が揺れる。オスカーが、自分の乳房にむしゃぶりつく姿に頬も頭もかーっと熱くなる。オスカーが、どれほどいとおしげに自分の乳房を愛撫してくれているかがつぶさにわかって、胸が一杯になる。たまらなく幸せな気持ちがこみあげる。オスカーの舌が踊るたびに、頭が芯からとろけそうで、意識が白濁していく。

アンジェリークは『こんなに私を大事にしてくれる先生…私、今度アルバイトをする時は、絶対、胸も脚も出ないものしますね…』と、思ったのを最後に筋道だった考えができなくなった。

この時、オスカーはもちろんのこと、アンジェリーク自身も、後日、カフェでアンジェリークのウェイトレス姿を見初めた「メイド喫茶」のオーナーにスカウトされー連絡先は当然のようにカフェでのアルバイトに戻ったジェーンから漏れるのだがーアンジェリークが「襟元も詰ってるし、スカートも長くて脚の出ない制服だから、これならせんせ…オスカーもOKよね」とメイド喫茶でのアルバイトを始めてしまうとは想像だにしていなかった。

そして、当然、アンジェリークが新しく始めたアルバイト先で、清楚なメイドさんに扮している姿を見て、またも、そのあまりのかわいらしさと、どこか危ない風情にめまいくらくらになることなど、オスカーは全く予想だにせず、今、この至福の時を味わい、明日の婚約発表という栄光の瞬間を夢見つつ、目の前のアンジェリークの柔肌に没頭していた。

おしまい(もしかしたら続く)

久方ぶりのオスカー先生シリーズ(別名いけないシリーズ)でしたが、いかがでしたでしょうか。
このお話は、白文鳥さんとのチャットで「自分の娘が大学生になったら是非ア○ミラでアルバイトをして、あの制服姿を見せて欲しいを思ってるんだよねー」と私が発言したことから、アンジェがアルバイトしたら、オスカー様、気が気じゃないよねー」と話が続き「じゃ、そんな話書いてみようか」と勢いで出来上がった作品です(笑)
だって、実際あの制服って1度はアンジェに着せたいというか、ものすごくアンジェに似合う…というのは、白文鳥さまのイラストをごらんになっていただければ、納得していただけると思いますー(笑)白文鳥さま、かわいいアンジェと麗しいロザリン、ありがとねー!
アン○ラの制服はシャーリングブラウスのバージョンもあるので、それも是非着せたくて、現実では起こるはずのない他店舗の制服が間違って支給される…なんてシチュまで捏造してしまいました。コメディでなかったら許されないありえない展開というか、ここまでして、バージョン違いの制服まで着せたかったのか…はい、着せたかったんです(爆)
そして、このいけないシリーズも、基本構造はあまあまなので、1話で苦渋に耐えた分、オスカー様には最高に嬉しい幸せを用意してみました(^^)
ただ、婚約成立の場がイマイチ、ロマンティックでないと思われたかもしれませんが、現実の婚約成立、指環購入って、こんな感じが多いのではないかと思いましたもので。
この時点でオスカー様は「いつでもすぐにでも嫁に来てほしい」という気持をアンジェには伝えてますし、ご両親からの承諾も取り付けてますしね。
それに、イマドキ指環を渡すっていったら「一緒に買いにいこう」の方が、男が先に買っておいて、いきなりプレゼントしてプロポーズより現実的じゃないかとも思いまして。つか、私だったら、好みに合わなかったり、似合わない指輪だったら、嬉しさ半減しちゃうから(酷)
このシリーズは、コメディだからこそ現代日本の世相を一番反映しやすいということもありまして、あえて「夢見るようにロマンチック」より等身大のコイバナを目指してみました。
現代日本の世相を反映できるので、メイド喫茶でのバイトもありかなーとも思えますし(笑)
それと、オスカー先生の性向として、Hの場面で、他のオスカー様より、若干いじめっ子な部分(若いからですね・笑)が表に出てますが、こんなオスカー様も楽しんでいただけたらと思ってます。
丁度シリアス連載が続いてて、自分でも軽いコメディを書きたいと思っていたので書いてて楽しかったです。
ラストで、またちょっとオスカー様の苦難が予感されますが(笑)これもまた、アンジェの魅力をまた一つ新たに発見!にもなりますし、オスカー先生が苦悩すれば、アンジェは聡いですから、程なくバイトを替えることでしょうから、そう心配はいらないという裏設定になってます(笑)
それと、オスカー先生は非常勤講師で院生のくせに、何故高価な指環が買えるのかというと、オスカー先生には別に本業があるからです。コレも、今は脳内設定なのでナイショですが、そのうち機会があれば、おいおい明かしていけたら…なんて思ってます。


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