『今年はいったい何にしようかしら…というか、いったい何を言出されるのかしら…』アンジェリークにとって、楽しく嬉しくも怖いような季節がまたも巡ってきた。そう、愛しい愛しい夫、オスカーの誕生日、その日が…
「オスカーさまぁ。もうすぐオスカー様のお誕生日ですね?今年はどうやってお祝いしましょうか?何か欲しい物はありませんか?」
金の鈴を転がすというか、銀のチャイムがそよ風に歌うようとでもいうのか、オスカーはアンジェリークの声を聞いているだけでしなやかに耳朶を愛撫されているような気になってしまうのだが、そのオスカーの耳に彼女との会話のなかでも最高に楽しい内容のものが飛び込んできたのは聖地の12月最初の休日であった。
「ああ、もうそんな季節か…お嬢ちゃんと結婚してからというもの、毎日毎日しあわせすぎて、一年の経つのが早くて仕方ないな…なんだかもったいないような気さえするぜ。」
アンジェリークと出会う前はいつ果てるともしれない守護聖の運命を密かに呪いながらもそれを意識下に押し込め、強さを司どるサクリアの宿命ゆえ弱音を吐くことも自分自身によしとできず、生殺しのような日々を使命感と幾多の女性との刹那的情事で紛らわせていたほんの数年前が嘘のような心境である。
自分にとっては緩慢なる拷問でしかなかった守護聖の任期が、一般人として結婚しなかったおかげで常人の何倍もアンジェリークとの結婚生活を(しかも若い肉体を互いに保ったまま)すごせるとはなんと自分は果報者よと、価値観は180度どころかぐるっと二回転して…いや、これではもとに戻ってしまうからムーンサルトしながらトリプルルッツを決めたくらいに価値観は入れ替わって守護聖の任期があり難いことこの上ないものとなってしまったくらいだ。誠、愛とは便利な物…ではない、偉大なものである。
「お嬢ちゃんとのこの幸せな日々自体が、俺にとっては人生最高の贈り物だからなぁ。改めて欲しいものっていわれると…」
「あの〜、『それはお嬢ちゃんだあああ!』ってふざけるのはなしですよ?」
と、今まさにその通りのセリフを言ってそれを口実にアンジェリークをこの場で押し倒そうと画策していたオスカーは完全に機先を制されて、『ぐわば!』の途中で動きがぴたりと止まってしまった。
「ぶむむむ…俺はいつでも大真面目で、お嬢ちゃん相手にふざけたことなど一度もないんだが…」
行き場のなくなった形のいい指をわぎわぎさせながら、なんとかもう一度『ぐわば!』の状況に自然にもっていきたいオスカーなのだが
「んもう、またご冗談ばっかり…」
と愛しい妻がころころかわいらしく微笑む姿は金の鞠が転がって跳ねかえるように愛らしく、自分の真剣な口説きを軽くいなされてしまっても、オスカーは『こんな愛らしい妻が常に自分の傍らにいてくれるなんて、俺はこんなに幸せでいいのだろうか…いや、守護聖なんてものに無理やりならされても不平も言わずに耐えてきたご褒美に違いないな、これは…』などと自分に都合のいい解釈をしてしまってこの上なく幸せになってしまうていたらくである。
「私を楽しませようとして、そんなご冗談を言ってくださるのは嬉しいですけど、私がオスカー様のおそばにいることは、誕生日に限ったことじゃないじゃないですか…もちろん、私もオスカー様のお側においていただけることは、何よりの幸せだし、逆にお誕生日のときしかおそばにいさせてもらえなかったら、寂しくて哀しくて生きていられなくなっちゃうわ…」
一年に一度しか会えない…そんな状況を想像してしまったのか、うるるんと瞳をうるませて自分をみあげるアンジェリークをオスカーは思わずぎゅむっと邪心なしに抱きしめた。
「あったりまえじゃないか!お嬢ちゃん!俺だって一年365日、お嬢ちゃんを身近に感じていられなかったら、もう生きてる甲斐もない!お嬢ちゃんの温もりを感じられない忌々しい出張期間中なぞ、まさに俺は生ける屍も同然なんだぜ!今でこそ一緒にいられるのが当たり前みたいだが、こういう幸せが人生では一番奇跡みたいに貴い物なんだぜ!」
「オスカー様、私もオスカーさまが私と同じ時代に生まれてくださって(厳密には違うけど)こうして出会えて愛し愛されて本当に幸せです。そしてオスカー様のお誕生日は、オスカー様がこの世界に生まれてきてくださった特別に大切な日なんですもの。私も特別にお祝いしたいんです…」
アンジェリークはこう訴えながら、とある覚悟と恥じらいに頬をぽうっと染めてオスカーの腕のなかでもじもじした。
上記のように思っているから、アンジェリークは今までオスカーの要求は、それがどんなに無茶に思えようが、どんなに恥かしかろうが、オスカーが喜んでくれるからというその一点だけで受け入れてきたのである。無人島でとはいえ、明るい太陽の下での情事も(太陽のバースディ参照)、素肌にエプロンだけ(しかもスケスケ)つけさせられてあろうことか食堂のテーブルの上で事に及ばれテーブルクロスに恥かしい沁みを思いきり附けられてしまうことになろうとも(二人だけのCeremony参照)オスカーの望む事ならば、決して自分から進んでではなかったかもしれないが、結果としては従容と受け入れてきたのである。
しかし、こういった過去があるからこそ、アンジェリークとしては無意識であったが警戒心というか身構えるような気持ちが瞳か態度に僅かにあらわれたらしい。
『特別にお祝いしてくれるって言うのその気持ちは嬉しいんだが、なんというかお嬢ちゃんの態度が硬い…』
と感じたオスカーはうーむと考えこんでしまった。
オスカーの要求ならどんなことでも受け入れてみせるという覚悟あったればこそアンジェリークの態度も決意で硬くなったのだ、オスカーからしてみると『今年はいったいどんな恥かしいことを要求されるのかしら?』とアンジェリークがびくびくしているのが、まるわかりの見え見えなのである。
しかも、オスカーのお誕生日のおねだりといえば物品ではなく、なにかこの上なく恥かしい行為に違いない、そうにきまってると思いこんでいるあたり、アンジェリークの学習能力はまったくもって正常に機能しているといえる。
『うーむ、お嬢ちゃんのあの怯えた小鹿ちゃんのような態度…『私は今度は一体どんな風に食べられちゃうのかしら?どきどき』とでもいいたげなああいう態度、あれはあれで非常にそそられるし、お嬢ちゃんのああいう所がまた自然な媚態になっているということにお嬢ちゃんは気付いていないのだろうか…そんな所がまた俺にはたまらんのだが…しかし、どうやら俺が誕生日を口実になにか無体なことを要求するに違いないと、警戒しまくっているみたいだな…あんなに身構えられちゃあ言いたいことを言うのも俺としては気がひけちまうなぁ。俺はお嬢ちゃんを怖がらせたり、いやな思いをさせたい訳じゃないんだから…しかし、俺はあんなにお嬢ちゃんを警戒させるようなことを何かしただろうか?多少いつもよりHな事は要求したかもしれないが…裸エプロンなんて男なら誰でも新妻にさせたくなる極通常レベルの要求じゃないか…』
と、オスカーの認識はこの程度であった。
しかし、実際改めて考えてみたが、一昨年は無人島とはいえ青空のもとでお嬢ちゃんを美味しく戴いたし、去年は男の永遠のロマン、裸エプロンの美しい妻をこってりたっぷり堪能させてもらっている。素肌にYシャツは結婚前から楽しませてもらってるし、お嬢ちゃんのご奉仕も、最近はありがたいことに日常化してきていて、しかも技術は向上する一方で俺としては嬉しい限りだが特別なことって認識はなくなってきてるしな…でも、せっかくお嬢ちゃんもああ言ってくれていることだし、お嬢ちゃんの期待に答えるためにもなにか特別なことをしてもらいたいんだが、今いきなりは思いつかんし、それに第1あんなに警戒されちゃなぁ、いいアイデアも浮かばないってもんだぜ…
アンジェリークの覚悟のほどは、いつのまにかオスカーの都合のいいようにアンジェリークの内心の期待と変換されていたが、このアンジェリークの期待と警戒に満ちた心境を満足させられそうな発案はこの時点ではどうしても思い浮かばなかった。
「お嬢ちゃん、今年の俺の誕生日は…うむ、丁度週末か…次の日のことはあまり考えずにゆっくりできそうだな…お嬢ちゃんは逆にどういう祝いをしたいとか、考えているのか?」
「えっと…あの、いつも二人でお祝いしてましたよねぇ。最初の年は旅行に行っちゃったし、去年は、その…お屋敷の方たちに休んでいただいて二人だけでお祝いしちゃったし、いっそのこと今年は皆さんを御招きしてお誕生パーティーを開くっていうのはどうでしょう?楽しいんじゃないかと思うんですけど…」
「俺の誕生パーティー?…俺はお嬢ちゃん一人に祝ってもらえれば十分だし、第一、パーティーなんぞ開いたって守護聖のうち何人が俺の祝いにやってくるかわからんぞ。大して来客があるとは到底思えんのだが…」
餓鬼じゃあるまいし…という言葉はかろうじて飲みこんだものの、今更誕生パーティーを喜ぶ年でもない。その上オスカーは、実のところ、自分が守護聖たちの一部から非常に嫌われているという自覚がきっぱりある。もちろんそれはアンジェリークを日々独占しているやっかみに由来しているのでオスカー自身は周囲になんと思われていようとなんら痛痒を感じていない。むしろ、アンジェリークの愛を勝ち得たことで受ける反感なぞ愛の勲章だぜくらいにしか思っていない。だから、招待を拒否されても傷つくわけではないが、パーティーの計画なぞたてるだけ無駄ではないかとつい思ってしまったのだ。それに、オスカーはアンジェリーク一人祝ってもらえばそれだけで200%幸せである、というのもまったくの本音であるのでパーティーを開く必要性がまったく感じられないという理由も付随していた。
「え?そうでしょうか…大勢でお祝いしたら楽しいかと思ったんですけど…皆さん来てくださらないかしら…」
しかし、アンジェリークが目にみえてしょんぼりと沈んでしまった。アンジェリークは自分がオスカーの妻になったことで、オスカーが嫉妬と羨望とやっかみで一部の者から反感を買っている…なんてことを思いもよらないのであろう。
アンジェリークのしょぼんとした様子にオスカーは慌てて、言葉を取り繕った。
「いや、パーティーを開くのが悪いと言っているんじゃないんだ。あいつらにもそれぞれ都合とか予定とかあるだろうし、年末というのは一部の地方は何やらいろいろ忙しいらしいし、いや、聖地は関係なかいかもしれんが、パーティーに招待しても来てくれるとは限らんぞ、と言いたかっただけだ。招待をしても来客がなかったら、お嬢ちゃんのほうががっかりしちまうんじゃないかと思ってな…」
「うーん、じゃ、とりあえず招待状だけでも出してみちゃだめですか?皆さんあんまりお忙しいようでしたら諦めますけど、どなたかでもいらしてくださるなら、パーティーしませんか?オスカーさまぁ。」
「お嬢ちゃんは人を招くのが好きだものな。お嬢ちゃんがしたいことなら、反対はしないさ。でも、皆の都合がつかなくてもがっかりするんじゃないぜ?俺はお嬢ちゃんが祝ってくれればそれでいいんだから…」
オスカーはアンジェリークの頬にすりすりと頬ずりしたついでに軽くちゅっとキスをおとした。
「はあい、それじゃ、早速招待状を準備しますね!大したおもてなしはできないかもしれないし、皆さんがお忙しいようでしたら、わがままいいませんから。その時は私だけのお祝いで我慢してくださいね?オスカーさま。」
ま、どうせ来客といってもジュリアス様かせいぜいあとはランディがくるくらいだろう。適当に晩餐を出してさっさと帰ってもらってあとはゆっくりお嬢ちゃんと夜をすごせればそれでいいさ、それより、俺としては、その夜にお嬢ちゃんをどうやって喜ばせるOR喜ばせてもらうかをじっくり検討したいところだな…
オスカーは、今はもうパーティーのことで頭が一杯なのか怯えた小鹿ちゃんのような雰囲気の霧消したアンジェリークがちょっともったいない気分だった。あのまま、「さーて、今年は何をしてもらおうかな〜?こーんなことかな〜?あーんなことかな〜?」などと軽く脅かしながらお嬢ちゃんをおいしくいただけたら、ちょっぴりいじめっこな気分でさぞかし今夜は楽しかっただろうに…いや、考えてみたら今からでも遅くはない…
オスカーはさりげなくアンジェリークの肩を抱き、さらに腰に手を回して自分の体にアンジェリークを引きつけるように抱き寄せてこう尋ねた。
「じゃ、パーティはパーティとして、お嬢ちゃんはお嬢ちゃんで何をくれるか考えてくれるのか?」
「もちろんです、オスカー様!」
「俺としてはお嬢ちゃんのくれるものならなんでも嬉しいが、せっかくそう言ってくれるなら、何をしてもらうか今からじっくり検討するとするか…」
「え?え?え?」
「とりあえずは今までしたことのおさらいからだああ!」
ぐわしっ!
「きゃあああ!!ああんっ!」
オスカーはいきなりアンジェリークの乳房を服の上か鷲掴みにして激しく揉みしだきながら、耳の穴に舌を差しいれてちろちろと耳朶を愛撫し始めた。その上で吐息と含み笑いを交えつつアンジェリークに囁きかけた。
「今までしたことをきっちりおさらいしないと、何をしてあって、何をしてないかわからないからな、これから毎晩、俺の誕生日までみっちり復習するぞ!お嬢ちゃん!」
「フクシュウ?ふくしゅう…復習って…復習って…オスカー様…いったい何を…あんっ!」
服の上から乳首を摘み上げられアンジェリークが身を捩った。
「もちろん、こういうことだ。今日から俺の誕生日まで逆算すると…一晩最低三回はこなさないと復習がおわらんなぁ…」
にやりと笑うオスカーにアンジェリークはたじたじと後じさりたい気分だが、がっちりと抱きすくめらていてそれもままならない。
「そ、そんな…まさか…つまり、それって…きゃきゃきゃきゃーん!わ、私、そんなに体がもちません〜!」
一晩最低三回なんて、それって、日によってはそれ以上ってこともあるかもしれないわけで、毎晩一回でもはっきり言って持久力の塊みたいなオスカー様のペースに翻弄されっぱなしなのに、第一、私が息も絶え絶えなのに、オスカー様ったら呼吸も乱してないような時も多いのに…わ、私毎朝起きられなくなっちゃう、ううん、それどころか立つ事もできなくなっちゃうかも〜!
たらたらと冷汗を流しているアンジェリークの耳朶をはむはむと食みながら、オスカーは何の根拠もない楽観論をしゃらっと提示する。
「大丈夫、大丈夫、動くのはほとんど俺の方だからな、そんなにお嬢ちゃんの体に負担はかけないぜ。オリヴィエにも俺のペースでお嬢ちゃんにあまり無茶させるなって釘をさされてるしな。お嬢ちゃんは今、月一でエステに行ってるだろう?これ以上お嬢ちゃんを疲れさせたら、エステに連れていく回数増やして一緒に過ごせる休日を減らしちまうってオリヴィエから脅かされてるんでな。そんなことにはならないようにするから心配は無用だぜ。」
「………お・お・お・オリヴィエ様にいったい何をはなしてるんですかあああ!」
ようやくオスカーの言葉の意味を理解して、アンジェリークは紅玉りんごのように真っ赤になってしまった。その様子がまた、美味しそうに色づいて食べられるのをまってる果実みたいでかわいいな、とオスカーは一人悦にいる。
「ん?何だ?もっと微にいり細にいり話してもいいのか?俺としては、お嬢ちゃんがいかに愛らしく蠱惑的でセクシィでチャーミングか…特にあの時の声と表情といったら…ってあたりを自慢したくて仕方ない所をこれでもかなり自制してるんだがなぁ。チョンガーには目の毒、いや耳の毒だからな?」
「(絶句)…」
アンジェリークが開いた口が塞がらずに黙ってしまったのをいいことにオスカーはアンジェリークをひょいと抱き上げると階段を二段飛ばしで駆けあがり、自分たちの寝室に急行した。
ベッドスプレッドを撥ね退けるのももどかしくアンジェリークを横たえその上に覆い被さった。指を絡ませて寝台に縫いつけ、アンジェリークの動きを封じる。
「さ、楽しい復習の始りだぜ、お嬢ちゃん。あーんなことやこーんなことをきっちりおさらいしないと、新しい単元にすすめないからな?」
しかしアンジェリークはオスカーの体の下でじたばたともがいている。
「お、オスカーさま、せ、せめてシャワーを…」
「そうか!お嬢ちゃん、まずはシャワープレイからお風呂でHのおさらいがいいんだな!よし、今夜の復習の単元はお嬢ちゃんに選ばせてやろう!それに妻の要望に答えるのは夫の勤めだからな!」
「そそそそんなこと言ってません〜!せめてシャワーを浴びさせてって…むぐぐぐぐぅ…」
オスカーは自分に都合の悪い事を口にさせないためにアンジェリークの唇を塞ぎながら、素早くぱぱぱのちょちょいとアンジェリークの服を、それでも優しく愛撫するような手つきで剥がしていく。貴重な果実の皮を丁寧に剥きとっていくかのように、指先を肌の隅々に滑らせ、撫でるような仕草でブラウスをはだけ、スカートを降ろし、ブラジャーから腕を抜き取り、ショーツを太腿をさすりながら落してしまった。オスカーの指は楽器を奏でるように肌を滑り、それに連れてアンジェリークの体からは力が抜けていき、替りに唇の端から切なげな吐息が漏れ出してくる。
『はふ…オスカー様の指って魔法がかかってる…どうして…どうして服を脱がされてるだけなのに、こんなにおかしな気分になってきちゃうの…?』
アンジェリークの心の微妙は変化を知ってか知らずか、オスカーは自分の服は無頓着に剥ぎ取るように毟り取る。まるでアンジェリークに考える時間を与えないかのように無駄な時間は費やさない。浅褐色の引き締まった肌が現れ、金真珠の色に輝くすべらかな肌を覆い隠すように抱きすくめる。何も二人を隔てるものがなくなる頃には、アンジェリークは服を脱がされている間にずっと与えられていたオスカーとの口付けに息があがってしまって、くたりと全身をオスカーに預けているような有様だった。
「さ、お嬢ちゃん、まずはシャワーを浴びにいこうな?」
オスカーはアンジェリークを抱いたまま浴室に足を踏み入れた。今はバスタブに湯を張る暇はなかったから、どちらにしろシャワーですますしかない。
オスカーはアンジェリークを浴室の床にそっと立たせるとシャワーのコックを捻って熱い湯をほとばしらせた。湯のしぶきに肌を撃たせながらアンジェリークの腕を自分の首に回させる様に導くと、もうアンジェリークもそのままオスカーの首にしがみ付くかのように抱きついてきた。
オスカーは片手でアンジェリークの括れた腰のラインから豊穣なヒップの感触を確かめる様に掌を滑らせ、もう片手でシャワーに濡れて額に張りついている金の髪をかきあげながら熱い湯の下でアンジェリークに何度も何度も口付ける。まだ舌は先端を少し口内にしのばせる程度で、アンジェリークのぽってりと豊かな唇の感触を自分の舌先で確かめながら味わうような口付けだった。その口付けの角度を変えるたびに、アンジェリークがオスカーの首にまわした腕に力が抜けたり入ったりしているのがわかる。
オスカーは瞳を開けたまま、自分との口付けに夢中になってきているアンジェリークを満足げに見下ろしている。
アンジェリークは腕を上げたままなので、それでなくても形のいい乳房は殊更オスカーを誘惑するかのように挑発的に上向いている。
オスカーは髪をかきあげていた手をそのままアンジェリークの頬に、そしてすんなりと伸びた首のラインをなぞるように滑らせていく。
ワインボトルのようにまろみのある肩のラインをひとしきり撫でさすってから、徐に乳房を掌で包みこんだ。早く触れて…と語りかけられているような気さえするほど、アンジェリークの乳房は抗い難い魅力でオスカーを引きつけてやまない。そのまま、乳房の感触をじっくりと味わうかのようにゆるゆると掌を回す様に乳房をこね始めた。
「んんっ…」
アンジェリークの吐息が僅かにせわしなくなったが、まだ、乱れるというほどではない。可憐に色づく先端に愛撫を加えていないからだろう。
『心配しなくてもすぐ触ってやるからな、お嬢ちゃん…』
アンジェリークに言外に強請られたような気になって、まずは、オスカーは人差し指と中指の間に乳首をはさみこむように摘んだ。挑発的なのは見かけだけで、その部分の感触はまだ穏やかに平坦なものだった。
「くぅんっ…」
アンジェリークが微かに甘える様に鼻をならした。オスカーにそれは『もっと…』という意味に聞こえる。請われるままに強弱をつけて引っ張るように摘んだり、輪郭を確かめる様に指先をすりあわせてやると、可憐な先端は妖しく色づいた固い蕾となって自分の存在を声高に主張しはじめる。
オスカーは口付けを解いて水音に紛れぬ様しっかりとした低音でアンジェリークに囁いた。
「ほら、お嬢ちゃんの乳首が俺を誘ってるぜ?くっきりと形を露にするのは俺に吸ってもらいたいからだろう?俺が口に含みやすいようにこんなに固く尖ってくれるんだろう?」
「や…オスカー様…」
「さあ、自分の望むことを言ってごらん…『舐めて…』って…言えるな?」
「あぅ…ん…オスカーさま…舐めて…ください…」
アンジェリークがオスカーの頭を導く様に首にまわした腕に力をこめた。オスカーは嬉しそうに微笑むとアンジェリークに見せ付けるようにゆっくりと舌を差し出し、乳首の先端を軽くつついた。そのまま舌先を左右に軽く揺らめかすように動かして乳首の先端を刺激する。乳房の稜線を滴り落ちてくる水滴も気にせず一心に舌を蠢かす。
背中に回した手は背筋からわき腹のラインを何往復もなでさすりながら、丸い臀部に時折指を食いこませている。
「んくぅ…」
アンジェリークの眉が悩ましげに顰められる。オスカーはもっとアンジェリークに切ない表情をしてもらいたくて、舌の動きを左右だけから、上下にも、回す様にもと多彩にし、そして舌遣いもゆったりと舐るものから幾分強く乳首を弾くようなものに変えていく。口腔で固くなる一方の乳首の感触を舌で飽くことなく確かめるうちに、いつのまにか自分自身が無我夢中でアンジェリークの乳房に耽溺してしまう。
気がつくとオスカーは乳房を絞るように揉みながら、強く乳首を吸いたてていた。もう、自分から強請らせる余裕もなく、その部分を思う存分吸ってやりたくてたまらなくなっていた。
「あんっ…あぅっ…」
両の乳首を交互に思う存分舌で舐め転がす。強く弾いたかと思うとゆっくりと輪郭を舐めあげる。唇で鋏んで引っ張りながら舌先でつつく。ちゅくちゅくと音を響かせるように吸う。時折脈絡なく歯先で軽い甘噛みを加えると、そのたびにアンジェリークの体に震えが走るのがまたオスカーの炎を煽る。もっともっと乱してやりたくなる。そのことに夢中になりすぎて力の加減を忘れそうになってしまうこともしばしばだ。
臀部のほうからそっと股間に手を伸ばすと、自然な仕草でアンジェリークの足の力が緩むのがわかった。
『待ちわびられている…』
そう感じさせてくれる何気ない所作がまた、オスカーに激しい喜びをもたらす。
確かな意図を指先にのせて股間を探ると、流れる湯とは明かに粘度の異なる液体がさらに熱い温度でオスカーの指にからみついてきた。とろりとした愛液の感触はそれ自体が淫靡だとオスカーは思う。
「お嬢ちゃん…気持ちいいか?おっぱいを舐められるのは好きか?」
乳輪から徐々に中心へ、中心に辿りついた後は下から上へと乳首を執拗に舐りながら、オスカーは問う。わかりきっていてもアンジェリークに自分の行為を認めてもらいたい。もっとねだってもらいたい。アンジェリークの柔らかく張りのある乳房に惑溺して執拗に愛撫せずにいられないのは自分のほうだからこそ、アンジェリークからもそれを望んでもらいたいのだ。
「ああ…オスカー様…気持ちいいの…オスカー様の舌…熱くて柔らかくて…ああ…あんまり気持ちよくて…一杯してもらいたくなるの…」
アンジェリークはこの上ない優しさでオスカーの望む言葉をつむぎ出す。オスカーが、今は羞恥より、求める気持ちを表に出してほしがっていることがアンジェリークにはよくわかるから。
「ふ…だからもうこんなになっているんだな…俺を待ちわびてくれて…嬉しいぜ…」
湯と愛液を混ぜあわせるように、ふっくりと豊かな秘唇をもみこむように掌全体を強弱をつけて押しつける。同時に中指と薬指を二本揃えて、秘唇の合せ目を解きほぐすようにやんわりと割入らせる。
くすぐるように秘唇の合せ目で蠢く指の動きにアンジェリークがくっとのけぞり、やるせなげに首を振った。
「あんっ…」
しかし、オスカーはまだその奥にまで指を伸ばさない。愛液に塗れて花芽がもう咲き綻んでいるだろうことはわかっている。アンジェリークが首を振るのも、早く触れてほしくて焦れているからだ。
「お嬢ちゃん、もう欲しいか?それとも、ここも触ってほしいのか?」
愛液に濡れるのはもちろん性交への期待が膨らんでいるからだ。しかし、濡れたからといってすぐに挿入を望んでいるのではないことは承知の上でわざと尋ねる。万が一、挿入を求められても、すぐに応える気など毛頭もないのにだ。
アンジェリークをもっと愛したいのは自分のほうなのだ。もっともっと自分を求めさせたくて、我を忘れさせたいのだ。
「オスカーさま…お願い…触って…」
アンジェリークの声に紛れもない艶が混じる。どうしようない切実さはない。むしろ意図的な媚態すら感じさせる声だった。アンジェリークもわかっているのだ。オスカーが求めているものが。そして、オスカーの意図通りに振舞う事が結果的に自分自身の快楽への期待を否応なく高め、それが後に激しい火花となって弾けるであろうことが。
これは駆け引きではない。互いの熱を高めるための愛撫の一環だ。予定調和している愛の儀式とも言えた。
「もうこんなに濡れそぼっているのに、もっと気持ちよくしてほしいのか…欲張りだな、お嬢ちゃんは…ほんとに気持ちいいことが好きなんだからな…でも、そんなお嬢ちゃんが俺は好きだ…俺はもう本当に…いつも君に夢中なんだぜ…」
言葉と同時に花芽に指が添えられ指の腹で柔らかく転がされた。
「ふぁっ…」
「ここを触ってほしかったんだろう?わかるぜ…こんなに固く尖らせていたらすぐに…ほら…」
オスカーはなるべく微妙な羽で触れるような接触を心掛ける。滑りをよくさせているとはいえ無骨な指での愛撫は荒荒しいと痛いが紙一重の差しかないからだ。
だから指での愛撫は自分では物足りないくらいに、触れるか触れないか程度の力を意識する。その間にもう片方の手指も股間に伸ばす。2、3度秘唇をなぞって予告を与えるようにしてから、ぐっと秘裂に指を差しいれた。アンジェリークの体に戦慄が走り、オスカーの指を無意識の蠕動がきゅっとしめつける。その力に逆らって熱い柔肉の坩堝をかきまわす。同時に再び乳首を口に含んで舌で転がしはじめた。
「ああっ…やぁっ…」
一時に与えられる刺激の絶対量が多すぎて、アンジェリークの腰が一瞬引ける。
オスカーは逃げた分だけ自分の腰をおしつけるようにしてアンジェリークの動きを封じる。
「ほら…気持ちいいだろう?気持ちいいって言ってごらん?お嬢ちゃん…」
差しいれる指を二本に増やして意識して腹側のざらついた肉壁を擦りあげる。花芽にはソフトなタッピングをくりかえす。
「あっ!ああっ!すご…気持ちいいの!いいけど…もう…もう…」
「…立ってられないか?俺にしがみついて…もっと抱きついていいから…」
アンジェリークは言われるままにオスカーの背に腕を回し、溺れるもののようにその逞しい体躯にすがりつく。それでもアンジェリークの膝ががくがくと震えてくる。体中がぐずぐずに溶けて崩れてしまいそうもう自分を支えることがどうにもできなかった。
「も…だめっ!オスカーさま…も…許して…だめになっちゃう…」
「じゃあ、もっとだめにしてやろう…」
オスカーはアンジェリークから指を引きぬくと体の向きを変えてタイルの壁に手をつかせた。
「もう心配しなくていい。俺のこれで支えてやるからな…何もわからなくなっても大丈夫だ…」
「は…あ…ああっ!」
嵐のような愛撫の中断に一息つく間もなく、アンジェリークは後背から思いきり刺し貫かれた。
オスカーは自分のものの角度を意識して上向きにし上部の肉壁が雁首の部分で思いきり擦れるように突き上げた。まさに、自分のものでアンジェリークの体を支えて持ち上げんばかりの勢いで。
「あああっ!」
「ほら、お嬢ちゃんも腰を振ってごらん、なるべく淫らに…もっと気持ちよくなりたいのなら…」
オスカーはリズミカルに腰をうちつけながら、アンジェリークのうなじに舌を這わせる。片手でアンジェリークの腰をひきつけるように支えながら、もう片方の手を前から股間に伸ばし花芽にあてがった。
「お嬢ちゃんが自分からいやらしく腰を使えば、ここももっと気持ちよくなるぜ?さあ気持ちよくなりたいだろう?…」
「あ…」
アンジェリークはオスカーの声に操られるように少しづつ腰を振りたて始めた。オスカーの突き上げとリズムを合わせることで更に深く重みのある快楽がずしんと下半身に響き渡る。同時にオスカーが添えた指はオスカーが意識して動かさずとも二人の腰の動きで花芽が指の腹と自然と擦れて鋭い快感がその小さな点からアンジェリークの全身に走る。軽やかでぴりぴりする先鋭的な花芽からの快楽と、注挿がもたらす深く重い快楽が二重に重なってアンジェリークを一気に高みに押し上げていく。
「くふうっ…ふぁあっ…」
オスカーも悩ましげに眉を顰める。アンジェリークの快楽の高まりに伴って、柔肉が妖しく蠕動してオスカーのものを締め上げ、搾り取るような動きを見せ始める。それでもアンジェリークのうなじを吸いながら律動の速度は緩めない。
「うまいぞ、お嬢ちゃん…ほんとうにお嬢ちゃんの腰遣いは淫らだな…俺のものをしっかり咥え込んで離そうとしない…あんまり上手いから、俺はもう中で出ちまいそうだぜ…」
「ああっ…やっ…だめ…まだ…まだ…」
今はもうアンジェリークも一心に快楽の地平を目指している。ここまで高められたらもう頂点を目指さずにはいられなかった。自分の快感を追及するのに手一杯でアンジェリークはうまく話すことができない。声をだすのもやっとというほどだ。でも、今ここでオスカーに終わられてしまったら、気が変になってしまいそうな切迫感で無我夢中でオスカーを求める気持ちを表そうとする。
「まだ…なんなんだ?」
オスカーが荒くなりつつある吐息を抑えてアンジェリークの背に覆い被さる。アンジェリークを促すようにうなじに唇を押し当てて吸った。
「く…オスカー様っ!お願い!もっと…もっと…」
「もっと突いてほしいんだな…いいぜ、お嬢ちゃんが欲しいだけあげるからな…」
オスカーはアンジェリークの臀部をぐっと掴んで割広げるように肉を持ち上げ加減にした。同時に自分は更に腰を落として結合部分の密着度を高めた上でぐりぐりとねじ込むように自分のものでアンジェリークの内部を抉った。
「くぁあっ…」
秘唇全体に激しい圧迫を加えられるように、回すように押しつけながら腰を遣う。と思うと、いきなり深深と思いきり突き刺すように激しく腰を打ち据える。多彩で予測できない動きがどうしようもなくアンジェリークを追い詰め狂わせる。もう、オスカーの動きに応える余裕など微塵もなく、突き上げられ、かき乱され、白熱した場所へと抗い様もなく運ばれていく。
「あああっ!も…もう、だめぇっ!」
タイルにつめをたてるようにアンジェリークの指が戦慄き、全身に小刻みな痙攣が走った。オスカーと繋がっている部分の肉壁はオスカーのものを飲みこむように蠢いた。たまらずにオスカーも放った。喩えようもなく熱く真白い開放感と一体感に、自分がどこにいるのか一瞬わからなくなった。
「あああ…」
まだ叫びの余韻を唇に残しながら、がっくりと膝をつきそうになったアンジェリークの体をオスカーは咄嗟に腕と腰で支えた。
顎に手を回して半ば無理やり後ろを向かせて、喘いでいる唇を貪る。しかし、アンジェリークが苦しげに空気を求めている様子だったので、口付けはほんの刹那に留めた。
まだ繋がったまま、後ろから抱きすくめる。
「お嬢ちゃん、最高によかったぜ…風呂場での後背立位はもう完璧だな…あの淫らな腰遣いは最早芸術だぜ…本当に夢中で俺を求めてくれて…最高にかわいかった…」
「や…はずかし…私…すごく乱れちゃって…」
アンジェリークが身の置き所がない様子で首を振ってうつむいてしまう。
「だからかわいいんじゃないか…あんなに夢中になって欲しがってもらえるなんて男冥利につきるってもんだ…」
オスカーは結合を解くとアンジェリークを自分の方にむかせて、思いきり抱きしめてもう一度口付けた。
出しっぱなしのシャワーがアンジェリークの股間から溢れ出てきた2人の体液を洗い流す。
長い口付けが終わると、今だとろんとしたアンジェリークの耳許にオスカーはこう囁いた。
(てろてろくたくたアンジェ&まだまだターボ全開オスカー様の図・笑) 「さ、もう前戯は十分だろう?ベッドで本格的に愛し合うとしような?」
「ふにゃ………え?前戯…前戯って今のが?………うそ…」
「当然だろう?前戯、本番、後戯で三回セットじゃないか。俺は前戯と後戯の大切さをよーく知ってるからな、決して手は抜かない。常に全力投球でお嬢ちゃんを愛することを自らに課しているからな!」
「い、今ので十分全力投球なさってます〜!そ、そんなに力をいれてくださらなくても、わ、私は今のでもう十分…」
「夫婦に遠慮はいらないぜ、お嬢ちゃん?それにまだ俺はお嬢ちゃんの全身を舐めさせてもらってないんだぜ?お嬢ちゃんだってオーラルなしじゃ寂しいだろう?ん?」
「いえ、そんな今ので、今のだけでも…もう…んむむむ…」
オスカーはアンジェリークに反論する猶予を奪う為、もう一度唇をふさぐとタオルで手早く水滴を拭い去ってからアンジェリークの体を軽々と抱き上げベッドに運びなおした。
最初の激しい情事の余韻で最早完全に腰が砕けて、歩くこともままならないアンジェリークが抵抗できようはずも筈もない。
もっともアンジェリークは本気でオスカーから逃げ出したいなどと思ったことは露ほどもないのだが。
だがあの(自分にとっては)激しい情交を「前戯」と言いきるオスカーに、自分が体力的についていけるかどうか不安になって腰が引けたことは否めないが…だって、今だって立っているのもままならないほどなのに…体はとろんとろんのクリームみたいに正体がなくなってしまっているのに…。
それがわかっているかのように、オスカーは今度は優しく傅くようにうやうやしくベッドにアンジェリークを横たえた。
オスカーがアンジェリークの上に覆い被さってきた。オスカーの重みを全身で感じる。オスカーの舌が唇を割って口腔内を探ってアンジェリークのそれを捕らえた時には、もう、アンジェリークは自分からオスカーの背に腕を回していた。
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