Diaspora 9


アンジェリークがオスカーの愛技に押し流されまいと、必死に自分を留めていたのは、偏に、自分のなにもかもをオスカーに曝け出してしまうことに慄いていたからだ。
このまま先に進めば、いや、逆らっていてもオスカーの熱情に、自分は徐々に白熱した目の眩むような場所に追いやられつつある。
追いこまれ流されて、意識を手放してしまったら、自分はどうなってしまうのだろう。
開け放された自分を見て、オスカーは自分のことをどう思うだろう。
素の自分を見て、幻滅しないだろうか。
ありのままの自分を曝け出して、オスカーに嫌われたら・・と、どうしても危ぶむ気持ちが押さえられなかった。
オスカーが自分を欲しいと思ってくれていることも、よくわかっていたし、自分の愛する人から求められるということ自体は、アンジェリークに初めて味わう言葉に出来ないほどの陶酔をもたらしてくれた。
でも、だからこそ、アンジェリークは怯んでいた。
オスカーとあえなかった間、どれほどその身は空虚に支配されていた事か。
誰といても、誰と話していても、その隙間を埋める事は出来なかった。
会えないでいた時は、少しでも会いさえできればいいと、心から思っていた。
でも、オスカーから自分を愛しているという言葉を聞いてしまったら、幸せに眩暈を感じながらも、もうオスカーと僅かな間も離れるのが不安になって、一緒にいたいと駄々をこねた。
そんな自分にオスカーは優しい情熱で応えてくれ、その上めくるめくような求められる喜びを教えてくれた。
ひとつひとつ、幸せが倍化するように積み重なって行く。
しかし、幸せが大きくなればなるほど、その甘さを知れば知るほど、それを失う事に耐えられないと思う心の弱さも生まれた。
もう、オスカーを失う事なんて恐ろしくて考えられない。
だから、どうしても、流れに乗って自分を明渡すことに躊躇いを禁じえなかった。
でも、オスカーが言ってくれた。
どんな自分を見せても、嫌いになったりしないと。むしろ自分を解き放ってほしいのだと。
その言葉が切っ掛けとなったかのように、オスカーの愛撫は更に激しく熱いものになって行った。
オスカーの指が、舌が、唇が、縦横に蠢き、秘められた場所を舐めとり、吸い、かきわけ、すり上げる。
もう、恥ずかしいと思う暇もなく、アンジェリークはそこから全身を走る鋭い愉悦にいつしかすすり泣きを上げていた。
オスカーが自分をある一点にめがけて追い込んで行くその刺激が奔流となって迸り、自分はその渦にまきこまれていく。
その勢いの強さ、激しさに、もうアンジェリークは抗えない。
恐れる事はない、自分を開け放していいのだと、そうして欲しいのだと言われ、抗う為にすがりつく寄る辺はもう見出せないから。
白濁していく意識のなかで、オスカーが自分に望むものがアンジェリークに茫漠と見えたような気がした。
自我を手放す事は、相手にすべてを委ねる事。信頼がなかったら、きっと難しいこと。
だから、オスカーは言ったのだ。自分を信じてくれと・・信じて、自分を解き放ってくれと。
オスカーにならすべて委ねられる。
オスカーを信じないで、これから先、誰を信じて長い長いときを生きていけるというのだろう。
なにもかも捨ててもいい。
それでもオスカーとともに生きると、生きていくと決めたのは自分なのに。
そう思った瞬間、アンジェリークの中に、オスカーの指がつぷりと僅かに差し込まれた。
今まではオスカーが指を差しいれるたび、緊張に体が固くなってしまい、それを察してオスカーはすぐ退くと言う事を繰り返していた。
しかし、アンジェリークは、もう身を強張らせず、竦ませず、それを受け入れた。
意識せずとも体がそう反応した。
「ふぁあっ・・」
オスカーの指を自分の胎内に感じたその時、アンジェリークは体がふうわりと軽く宙に浮くような、体全体がほわぁと暖かくなるような幸福感に包まれた。
薄桃色の雲の上に横たわっているような、そんな心持がした。
その刹那オスカーの愛撫が、止まった。
オスカーの唇が瞬時自分から離れ、あてどない心細さを感じたその直後、オスカーの逞しい体躯が自分の体すべてを隠す様に覆い被さってき、その逞しい腕にきつく抱きすくめられた。
と、同時に今までオスカーに愛されていた部分に、熱く固い滾りが押し当てられたと感じた瞬間
「・・すまない・・」
とオスカーがアンジェリークに絞り出す様に囁き、それはアンジェリークの内部に粛々と、だが、躊躇なく分け入ってきた。
「ひっ・・ああぁっ!!」
アンジェリークは体を二つに裂かれるかのような痛みに思わず、高い声をあげた。
オスカーの背に回した指が震えて白くなるほどに、力がこめられた。

アンジェリークのふっくらと豊かな秘唇を、幾重かに重なる花弁にも似た肉襞を、宝玉のような花芽をオスカーはひたすら愛撫しつづけていた。
秘唇を押し広げて露出させた花芽を舌先でつつき、転がす様に舐め上げ、唇で軽く挟みこんで吸い上げた。
花芽はオスカーの舌技にすっかり充血して、ぷくりと固く膨らみ、オスカーの愛撫にますます過敏になっていく。
口唇で花芽を愛する間に、長い2本が揃えられた指は、滑るように滑らかに、秘裂の入り口をくちくちと水音を響かせながら弄ったり、豊かな秘唇全体を、愛液のぬめりを利用して優しくすり上げたりしていた。
かと思うと、オスカーは秘裂に尖らせた舌をできる限り奥深くに差し入れて、その肉壁を余す所なく味わいつくさんとする。
止めど無く溢れ出る愛液をすすり、ひくつく襞を舌で弾きながら、形のいい鼻先で花芽を刺激し、手を胸まで伸ばして、固く立ちあがったままの乳首を時折摘み上げたりした。
「あぁっ・・あっ・・あん・・はぁっ・・」
アンジェリークはただ、切なくあまやかな声をあげ続けている。
掴むところを求めては、ピンと張られたシーツを掴むにまかせず、いたずらに指を蠢かしている。
オスカーの休む間もない愛撫に、なにかを求める様に、腰が少しせりあがるたびに、オスカーは僅かに指を秘裂にのみ込ませてみた。
しかし、指を入れるたびに、アンジェリークの臀部の筋肉にさっと緊張がはしり、秘裂の入り口が窄まる様子がなかなか変わらない。
すると、オスカーは潔く指をすぐ引きぬいて、より一層激しく、アンジェリークの敏感な部位に愛撫を与えて行った。
オスカーはそれをもどかしいとか、いらだたしいとは、全く思っていなかった。
もちろん、アンジェリークが欲しくてたまらず、自分自身は痛いほど、張り詰めたままだった。
自分がアンジェリークを征服するのだと考えるだけで、これ以上ないほど昂ぶっていた。
でも、アンジェリークが自分を受け入れ様としてくれるだけで嬉しくて、いくらでも愛してやりたい、快楽に酔わせてやりたいと思うのもまた事実だった。
だから、オスカーは大いなる喜びをもって、アンジェリークを愛し続けた。
アンジェリークも初めてとは思えぬほど、初々しく可憐にたかまり乱れてくれ、そのことがより一層オスカーを奮い立たせた。
さすがに気をやるほどではないようだったが、できれば、軽くでいいから、愛撫で達してくれれば、そのあとの辛さが少しは減じるのだが・・と思って、オスカーは更に、熱く激しく、舌で指で、アンジェリークを追いつめて行った。
そして、何度目か、探る様に差しいれた指が侵入を拒まれず、逆にそれを内部にとりこもうとするように肉襞が蠢いた。
オスカーは、はっとして、アンジェリークをみやると、アンジェリークは四肢を和えかに緊張させていながら、その表情は、眉根を寄せながら、うっとりと夢みるようで、薄開きの瞳は霞が掛かったようにけぶっていた。
オスカーはこの時を見逃さず、自分の体で細い足を割って、アンジェリークをきつく抱きしめながら、ゆっくりと、だが、迷わず猛った己でアンジェリークの秘裂に押し入った。
「すまない」と思いながら…
思ったまま、それを口にしたのかどうかは、アンジェリークとひとつになれるのだという事実に頭が一杯で、よくわからなかった。
先端を飲みこませたとき、軽い抵抗を感じ、同時にアンジェリークの口から、やはり悲痛な叫びが上がった。
それでも、その悲鳴はすぐ押し殺され、アンジェリークは唇を噛んで、それ以上声をあげない様、必死に耐えていた。
アンジェリークが自分を慮って苦痛を耐える様子がなおさら痛々しいと思いつつも、己を完全に飲みこませるまで、オスカーはもう自分を止めることができなかった。
こんな華奢な壊れそうな体を、自分の猛々しいもので貫く事に、大きな罪悪感と、だが、だからこそ、それに倍する陶酔を覚えた。
苦痛を長引かせぬ様一定の速度で、ゆっくりと、しかし、容赦なく最奥までわけ入った。
初めて味わうアンジェリークの内部は蕩けるように熱く、きつく、それでいてやわやわとオスカーを包み込む様に、また、自らオスカーをとりこもうとでもするかのように蠢いて、オスカーをこの上なく酔わせた。
心の底から愛しいと思う相手との交わりが、これほどの恍惚、これほどの充足を与えてくれるとは想像だにしていなかった。
アンジェリークの花を自分が開けた事、アンジェリークとひとつに繋がれたこと、
しかも、アンジェリークからも、それを望んでくれて、いまの自分たちがあること。
どれをとっても、あまりの幸福感に目が眩み、不覚にも涙が零れそうだった。
だが、アンジェリークの目尻からは苦痛をこらえきれなかったが故の涙が筋をつくって零れており、アンジェリークの指は、オスカーの背に食い込みそうなほど、力がこめられていた。
それでも、アンジェリークは、必死に声をかみ殺していた。
オスカーは頬を伝わる涙を舐めとってから、アンジェリークに軽く口付け、その華奢な体を一層きつく抱きしめた。
「すまない・・辛いめにあわせて・・」
アンジェリークが瞳をあけてオスカーを見つめた。
その翠緑の瞳は涙に濡れてはいるが、曇ってはいなかった。
「や・・あやまらないで・・私・・しあわせ・・だから・・」
オスカーはアンジェリークの健気な言葉に、さらに陶酔の度合いを深める。
こんなに辛そうなのに・・それでも、君は幸せだといってくれるのか。
俺を受け入れて、幸せだと・・
「ああ、俺も・・俺も幸せだ。あんまり幸せで、頭がどうにかなっちまいそうだ…君とひとつになれて・・生まれてこのかた味わった事がないくらい、心は満ちたりている・・
 俺は今、君の中にいる。君と今、ひとつになってる。ひとつに繋がっているんだ。感じるか?俺を」
「あぁ・・オスカー様が私の中に・・わたしたちひとつに…オスカー様・・嬉しい・・私・・ほんとにしあわせ・・」
苦痛に耐えて、それでも、嬉しいと言うアンジェリークにオスカーは愛しさがいや増しに増して行くばかりだった。
「好きだ・・本当に好きだ、アンジェリーク・・愛している・・決して離さない・・離しはしない」
「オスカー様・・オスカー様・・私も好き・・大好き・・離さないで・・」
オスカーは再びアンジェリークの体を折れよとばかりに抱きしめて口付けた。
だが、つながったまま、自分を押さえているのはもう気が狂いそうなほど苦痛だった。
「また辛い思いをさせるかもしれないが・・だめだ・・もう・・俺は・・押さえられない・・」
こういうとオスカーはアンジェリークを抱きしめて、なるべく肌を合わせたまま、ゆっくりと腰の律動を開始した。
抜けてしまいそうなくらいに己を引きぬいてから、肉壁を張り出した部分で擦りあげるようにした。
アンジェリークの肉襞をかきわけるごとに、脳天まで快楽がつきぬけるようだった。
「んんっ・・ぅあっ・・はっ・・」
オスカーが抜き差しするたびに、アンジェリークの吐息は荒くなったが、そこに悦楽の色はみえない。
苦しげに眉を顰め、唇を噛んでいるばかりだ。
オスカーはゆっくりとかき回すように己を擦ることで、アンジェリークが少しでも良くなる場所はないかと探っていた。
だが、オスカーの律動に、今のところアンジェリークは息を詰める様に耐えるばかりで、まだそこに光明は見出せないようだ。
「辛かったら、俺にしがみ付け。思いきりだきついていいから・・」
「・・っくぅっ・・オスカー・・さまっ・・」
アンジェリークがその言葉通りに、オスカーの背に思いきり指を食いこませた。
その細い指にこめられた力に、アンジェリークの耐えている苦痛が忍ばれる。
「辛い・・んだな・・もう、やめるか?」
「いやっ!」
思いのほか強い口調で、アンジェリークは即答した。そこには微塵の迷いもなかった。
「や・・止めないで・・大丈夫だから・・平気だから・・オスカー様ならいいの・・オスカー様だから・・」
オスカーはアンジェリークにまたひとつキスをおとすと
「気持ちは嬉しいが・・俺の為に、君だけが苦痛に耐えるのは見るに忍びないんだ・・」
「違うの・・違うの・・私も・・オスカー様とひとつになれて嬉しいの・だから・・おねがい・・やめないで・・」
泣きそうな顔で、アンジェリークは必死にオスカーに訴える。
アンジェリークの決意の固さに、オスカーの心も固く決まる。
「・・・わかった。なら、少しでも、良くしてやる。絶対に、辛いだけじゃ終らせない・・」
オスカーは一度抱擁をといた。
アンジェリークを安心させるために、なるべく肌を合わせているつもりだったが、抱きしめたままでは、挿入しながらの愛撫が困難なのも事実だった。
アンジェリークがまだ注挿で快楽を得られない以上、気を紛らわせる為にも、手を自由にする必要があった。
アンジェリークがすがるようにオスカーを見上げている。
安心させる様に唇を軽く吸いながら、片手を乳房にあてがい、片手は秘唇に伸ばされた
秘唇を探ると、極限まで押し広げられた秘裂に、自分の猛々しい凶器が突き刺さっているのが、手に感じとれ、その感触が痛々しいが故に背徳的で、より淫らに感じ、一瞬オスカーは暴発しそうになった。
が、懸命に自分を引き絞って、秘唇を押し開き、花芽を指で探り当てた。
花芽を、指を擦り合わせるように摘んだり、円を描いて擦ったり、軽く弾く様にしてやる。
そして、同時に律動を再開しつつ、乳首も親指と中指で摘み上げながらその先端を人差し指で転がしはじめた。
唇は首筋に押し当てられ、うなじから、首筋、鎖骨のあたりまで、舌を這わせながら、時折強く吸い上げた。
「ひぁっ・・あっ・・あん・・・」
アンジェリークの漏らす声から、苦痛一遍ではない、甘い響きが混じり出した。
「こうしながらなら・・少しは気持ちいいか?」
「あっ・あぁっ・・いい・・いいです・・]
アンジェリークも、敏感な蕾への愛撫は、もう純粋に快楽と感じられるようだ。
オスカーは安堵して少しづつ律動を早めていった。
肉壁を自分のもので擦りあげながら、オスカーはアンジェリークのよくなる場所をみつけようと懸命だった。
つき入れるたびに、柔襞はオスカーのものを絞り上げる様に蠕動し、しかも、敏感な部位への愛撫を加えた事で、秘裂の収縮もきつくなった
さすがにもう長時間は耐えられそうになかった。
まだ、アンジェリークの開かれたばかりの体にはきついかと思い、奥まで突き入れることをオスカーは今まで躊躇っていたのだが、このままでは、程なく放ってしまいそうだったので、オスカーはままよと思い、結合を深く、力強く突き上げてみた。
「ひぅんっ」
アンジェリークの腰がびくんと跳ねあがり、背が大きく撓った。
それは、辛いゆえの反応ではないように、オスカーには思えた。
秘裂が一際きつくオスカーのものを締め上げたからだ。
「ここ・・か。お嬢ちゃん、ここがいいんだな?」
オスカーはもう一度、今アンジェリークが激しく反応した、腹側の最奥のあたりを狙って、強く突き入れる。
「ひんっ・・あっ・・なんか・・・ずしんって奥までひびいて・・」
アンジェリークは、その衝撃に戸惑っていた。
入り口のあたりは、やはりオスカーが動くたびにひきつれるような痛みを感じる。
だが、オスカーに奥を突かれると、痛みを忘れるわけではないのだが、それ以上に全身に深く響き渡るような衝撃に意識が飛びそうになる。
オスカーがまぶしいような笑みを浮かべた。
「お嬢ちゃん、今、良くしてやるからな。」
オスカーはもう一度アンジェリークの体に覆い被さり、その体をきつく抱きしめると同時に力づよく最奥を狙って突き上げた。
そのまま、自在につき入れる角度を変えながらも、アンジェリークの乱れる点を自分のもので激しく抉った。
「ひゃぅっ・・はんっ・・はっ・・あっ・・ああっ・・」
予想通り、アンジェリークは乱れた。背中は大きく反り返ったままになり、オスカーの背に回された腕には強く力がこめられた。
オスカーは花芽からも快楽が伝わる様に、突き上げるたびに自分の恥骨でその付近を圧迫するよう心掛ける。
「もう、辛くないな?いいか?お嬢ちゃん・・」
「あっ・・ああっ・・オスカー様っ・・私・・へん・・へんになっちゃう・・あっ・・」
アンジェリークは今まで感じたことのない、深い衝撃にまたもや翻弄されつつあった。
破瓜の痛みは厳然と存在しているのに、熱く硬いオスカーのものが自分の一番深い所に強く当たるたびに、その痛みに重なりそれを覆うように、ずんと深い衝撃が全身を走りぬけていく。
その感覚は鋭さの点では、花芽を弄われたときにもたらされるものに及ばなかったが、体全体が揺さぶられ、そのまま持ち上げられるような重さと力強さで、アンジェリークをどこかに連れ去ろうとする。
オスカーが注挿を速めるに連れ、その衝撃は逃げ場を失い、自分の中に溜まっていって、内圧を高めて行く。
「はっ・・あぁっ・・もう・・もう、いっぱい・・も・・だめ・・くふぅっ・・」
「いいんだ・・そのまま・・もっと感じて・・俺も、もう・・」
オスカーの息も荒くなっている。額に汗が滲み、形のいい眉が僅かに顰められていた。
オスカーはアンジェリークに噛みつくように、瞬間口付けてから、さらにその体を抱く手に力をこめ、
「愛してる・・愛してるんだ・・」
とうわごとの様に繰り返しながら、一層突き上げる速度を速めた。
先ほどまでのおずおずと探るような律動から打って変わり、まるで、アンジェリークを壊してもかまわないと思っているかのような激しさだった。
一際激しくオスカーが突き上げたその最奥で
「くぅっ・・アンジェリーク・・」
限界を意思の力で引き伸ばしていたオスカーがさすがに耐えきれず己を解き放った。
引き絞りに絞っていただけに、その開放感はオスカーが今まで味わった事がないほど深く鮮烈で、全身が痺れるような陶酔があった。
自分自身が溶け出して、アンジェリークの中でひとつに交じり合ったような気がして、幸福感に全身が破裂しそうだった。
そのオスカーの熱い精はアンジェリークの最奥に激しく叩きつけられるように染み渡った。
「ああっ・・やっ・・あ・・あああっ・・」
アンジェリークがその力強い律動と、自分の体全部に染み渡って行くような熱さに一際高い声で鳴き、足の指先までがきんと張り詰めるように、全身が引き締まった。
閉じた瞼の裏に白い閃光が無数に飛び散り、自分は膨らみきった風船でそれが今破裂したかのようだった。
体は隅々まで緊張しているようなのに力が入らず、逆に全身が弛緩しているような自分で自分の体が思うにまかせない状態が、頂点まで極まったといった感があった。
自分という意識が輪郭を失って拡散し、オスカーと溶けて交じり合い、交じり合ったままこの世界のどこにでも偏在しているような、言葉で表現できないほどの一体感と開放感を同時に感じていた。
秘裂がびくびくと不規則に痙攣し、オスカーのものを離すまいとするように絞り上げていた。
オスカーも、それに逆らわず、己を引きぬくようなまねはしなかった。
むしろ、このままずっとアンジェリークの中に留まっていたいと思ってそのままアンジェリークを抱きしめていた。
アンジェリークのどこか別の世界をただよっているような表情に、辛いだけの経験にしないでやれたという、大きな満足感と安堵があり、溢れ出る愛しさそのままに、その愛らしいかんばせのあらゆるところに口付けを落として行った。
「お嬢ちゃん・・大丈夫か?辛くないか?」
「・・オス・・カ・・・さま・・私・・どうなっちゃったんですか・・」
アンジェリークの瞳はまだ朦朧としている。
オスカーは軽く微笑みながら、また、軽く口付けた。その氷青色の瞳は今までになく暖かい優しい光に満ちていた。
「かわいかったぜ、お嬢ちゃん。俺を信じて、すべてを委ねてくれたんだ・・二人でひとつに溶け合えたんだ・・そんな風に思えなかったか?」
アンジェリークが夢みるように呟く。その声音も瞳も、とろりと蜜を含んだように滑らかに潤んでいた。
「あぁ・・・はい・・夢・・じゃないのね・・嬉しい・・オスカー様と一緒に自分が溶けちゃったみたいで…オスカー様も同じ気持ちになってくださったなんて・・」
オスカーはさらにきつくアンジェリークを抱きしめた。
「お嬢ちゃん。すまなかった・・辛い思いをさせて・・」
アンジェリークはふるふると軽く頭をふった。
「いいえ、オスカー様、辛くなんてないです。それに・・私・・ちょっとわかったような気がします。愛し合うってどういうことなのか、どうして肌をもとめあうのか…体を重ねたくなるのか…それをオスカー様が教えてくださいました・・オスカー様に教えて戴けて・・教えてくださったのがオスカーさまで・・本当によかった・・幸せです・・私」
「アンジェリーク・・俺こそ・・俺のほうこそが君に幸せをもらったんだ・・幸せとは何かを君が教えてくれたんだ…愛している・・絶対離さない。ずっと、俺のそばに、俺の隣にいてくれ・・そう、約束してくれるか?」
「はい、オスカーさ・・ま・・ずっとおそばに・・」
そこまでいうと、アンジェリークは夢見るような表情のまま、すぅっと寝入ってしまった。
緊張と体力の消耗にブレーカーが落ちた様に意識を失ってしまったのだろう。
オスカーは名残惜しい気持ちで、しかし、アンジェリークが良く休めないだろうと思い、自分を引きぬいた。
アンジェリークの中から自分の精とアンジェリークの破瓜の証が混じった薄桃色の体液がじわりと溢れ出た。
その二人が溶け合った証を満足げに眺めてからオスカーはアンジェリークの肩を抱きなおし
自分もひとつ深い吐息をつくと、目を閉じた。
自分はアンジェリークと確かに愛し合い、心も体も重なり合えたのだ。その事実に深い満足を覚えていた。
だが、その一方で、オスカーはこんなことも考えていた。
どんなに愛していても、どんなに別ち難く思っても、本当に溶け合うことも、つながり合うことも人は実際にはできない。
ひとつになるといっても、人と人が重なることができるのは、体の中のほんの数十センチにも満たない部分だけ。
その部分をかさねあう事で一瞬、垣間見得る桃源郷は実際には辿り着けない場所なのかもしれなくても、だからと言って、オスカーは愛することをやめようとか、虚しいとは思わない。
人を愛する事は生きること同義だから。
いま、自分はそれに、はっきりと気がついたから。
今までの自分は生きているとはいえない状態だった。
ただ、いたずらに時をかさね、唾棄するような闇の中を這いずり回っていた。
そんな自分にアンジェリークは寄り添い、ともに歩もうとしてくれている。
それは、アンジェリークが自分を救おうと思っているということとは、若干ニュアンスが異なる。
人の苦しみを他人は救ってやることなどできない。
自分の心の救済は常に自分にしかできない。
闇に留まるも、光りに目をむけるのも、結局は自分のこころのあり様なのだ。
だが、それは、周囲の人間との心の繋がりに意味がないということではない。
むしろ、その逆だ。
人は、苦しみに共感してもらうことで癒される。
理解してもらうことで、苦しみにたち向かう力を得る。
同じ方向を見据え、供に歩んでいこうという存在に、悲しみを振りきって進む力を与えてもらい、困難に立ち向かえるようになる。
生きて行くと言う事は、心弾む楽しい事だけで紡がれているのではない。
その、生きていくということのもつ根源的な哀しみを乗り越えることのできる心の強さを、自分の中に培ってくれるのが、供に歩む愛する存在なのだと、オスカーは思う。
自分はその困難に立ち向かう力を、運命から目を背けない心の強さを、アンジェリークからもらったのだと、いま切に感じる。
そして、自分もまた、アンジェリークにとって、そんな存在になりたいと心から願う。
互いに寄りかかるのではなく、手を携えて、支えあっていきていけるようになりたいと、靄の掛かり始めた頭でオスカーは思った。
アンジェリークの重みと温もりを感じながら、オスカーは自分を引きこむ眠りの触手に逆らわずに身を委ねた。
これほど安らかな気持ちで眠りについたことは、ついぞなかったなというのがオスカーが意識を失う直前に思ったことだった。


オスカーの私邸の使用人頭が、宵の口に、オスカーの私室に呼びつけられた。
昼ごろに出かけたきり、いったい、いつ主人は私邸に戻ってきていたのだろうかと、使用人はいぶかしんだが、分をわきまえて、主人のプライベートに立ち入るようなことは、一切訊ねなかった。
オスカーは緩やかなナイトローブを羽織り、とても寛いだ様子だった。
そして、今日はもう、食堂には降りないが、部屋に軽くつまめるものを持ってきてほしいということと、明日は一日部屋で過ごすので、食事はすべて、ここに運ばせる事、
それから最後に、女物の洋服一式ーその中には下着もふくまれいたーを手渡され、それをクリーニングするように命じられた。
いつまでに、仕上げましょうと訊ねた使用人に、オスカーは月の曜日の朝までに仕上げればいい、それまでは必要ないからな、と、にやりと笑った。
そして、ああ、言い忘れたが、食事は2人分頼むぜと、付け加えた。
使用人は顔にはださなかったものの、心底驚いていた。
主人はここにたっているのに、主人のベッドがこんもりと膨らんでいるのが、開いているドアの隙間から見える。
女性の服を手渡され、しかも2人分の食事を頼まれたとあっては疑う余地もなかった。
女性の噂の耐えない主人だったが、自室に女性をつれこんだ事は今まで一度もなかったのに。
いったい、どんな女性が、オスカーに宗旨変えをさせたのだろうと、使用人は沸きあがる好奇心を押さえようがなかったが、残念ながら、その女性の姿はオスカーに阻まれてよくみえなかった。
使用人がオスカーの部屋から退出する間際、オスカーのベッドにいる人影が寝返りをうち、一瞬きらきらと輝く金の髪が見えたかと思った瞬間、ドアが閉じられた。
その金の髪に見覚えがあるような気がしたが、使用人は、まさかなと、その考えを打ち消し、意識的に自分の仕事の事だけを考えることにした。
そして、主人の命令を厨房に伝えるべく小走りに去って行った。
オスカーの私邸の使用人たちが、少しの驚きと、大きな喜びをもって、女主人を迎える日はそう遠いことではない。
                                               FIN

  


超長い連載にお付き合い戴き、どうもありがとうございました。
オスカーとアンジェの出会いから愛の成就は、お楽しみいただけたでしょうか。
私自身は、この話は、オスアンあまあまもののルーツという位置付けで書いたつもりです。アンジェを得るまでのオスカー様の苦悩と逡巡あったればこそ、一度手にした幸せに彼はのめりこむと、思っているからです。人は得るのに払った代償に比例して、そのものを尊く思うという、度しがたい習性があるのは否めませんので、オスカー様には苦労してもらわないと、まずかったわけです。(鬼か、私は)そして、アンジェを唯一無二の存在と深く認識したからこそ、オスカー様はアンジェに溺れる。オスカーの寂しさや孤独を理解してくれるのも、オスカーに寄り添って生きていけるのも、アンジェしかいないからです。「俺様めろめ〜ろ」というオスカー様の根底に(笑)「ディアスポラ」なオスカー様は厳然と存在しているのです。
「ディアスポラ」は私のオスカー様観がもろ前面に出たと言う意味で、私にとってもルーツ的な作品になってます。そのうち、番外編を2、3書きたいなとも思ってます。


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