「はい、旦那さん、もうはいっていいですよ。」
看護婦が廊下で待っていたオスカーに声をかけた。
オスカーは急いで控え室に入り、アンジェリークに声をかけた。
アンジェリークが苦しげに眉を顰めている姿を見て、先ほどまで胸中をもやもやしてた邪な気分はいっぺんにふっとんだ。
「大丈夫か?お嬢ちゃん?」
「・・あんまり・・大丈夫じゃないです・・けど、もう分娩台に上がっていいっていってもらえたから、あと少しの辛抱だと思います・・」
「そ、そうか」
なんだか、よくわからなかったが、とにかくあと少しとアンジェリークが言っているのだから、きっとそうなのだろう。
「はい、じゃ、分娩室に移りましょうね。」
看護婦に促されたので、オスカーは、お腹を押さえて苦しそうなアンジェリークが自分からベッドを降りる前にさっと抱き上げると、
さっさと分娩室に入り、
「お嬢ちゃんを、どこにおいてやればいいんだ?」
と看護婦に尋ねた。
「あ、その分娩台に座らせてあげてくださいね」
看護婦に教えられた、椅子のような分娩台にオスカーはアンジェリークを大事そうにそっと下ろした。
アンジェリークは分娩台に深めにこしかけると。脚を開いて、足台に小さな足をすべりこませた。
オスカーがアンジェリークの手をしっかりと握る。
アンジェリークも潤んだ瞳で、オスカーを見つめ返した。
「お嬢ちゃん、俺がずっとついててやるからな」
「オスカー様・・」
看護婦はあっけに取られていた。
長年産科の看護婦をやっていたが、自分の妻をお嬢ちゃんと呼んだり、軽々と妊婦を抱き上げ分娩台に乗せたりする夫をみたのは初めてだった。
『この奥さん、ほんっとに愛されてるのねぇ』
半ば、あきれながら感心していた看護婦は、気を取りなおして、産婦人科医を呼んだ。
看護婦に呼ばれて、産婦人科医がやってきた。初老に入りかけの女医であった。
医師が来る間に、アンジェリークのお腹には、胎児の心音と陣痛の波を計測するモニターが取りつけられた。
女医は、アンジェリークの股間に手をさしいれる。
「ああ、もう全開ね。奥さん、辛かったでしょうけど,もう、いきんでいいわよ。呼吸法はもういいから、お腹が痛くなったらそれにあわせて、
ぐっとお腹に力を入れて、いきんでね」
「は・・はい」
波の様に陣痛が押し寄せてくる。お腹が痛いというよりは,腰が砕けそうだった。
痛くなったら、いきめと言われたが、四六時中痛いようなきがしていきむタイミングがうまく掴めない。
初産の妊婦は、大抵そうなのだろう。モニターを見ている看護婦が陣痛の波形にあわせて、声をかけてくれる。
「はい、いきんで」
「うー・・」
「声は出さないで。顔にばっかり力が入っちゃうから」
「は・・はい」
顔を真っ赤にしていきんでいるアンジェリークの手をオスカーはしっかり握っている。
手を握り、励ます以外なにもしてやれない自分の無力さを、オスカーはこれほど感じたことはなかった。
「がんばれ〜がんばるんだ〜お嬢ちゃん」
陣痛にあわせて、アンジェリークは下腹部に力をいれた。だんだん力をこめるべき瞬間がわかってきた矢先、
アンジェリークの股間を暖かい水がどっと溢れ出す感覚があった。
「破水しました」
「あと、もうちょっとよ。もう少しで頭が見えてきますからね」
「うーん・うーん」
「先生、会陰切開はどうしましょう」
「もうちょっと様子をみましょう。この奥さんの産道よく伸びてるし・・」
切開と言う言葉にオスカーがぴくりと反応した。
「ちょっとまった。どういうことだ、先生、切らないで産む方がいいんじゃないのか?
だから、お嬢ちゃんはこの痛みに耐えてがんばってるんじゃなかったのか?」
また始まった、と言う顔で看護婦がオスカーを見た。
「お腹を切るんじゃありません。赤ちゃんの頭が出やすいように、出口にちょっと切れ目を入れるんです。」
看護婦の言葉を理解したオスカーの顔から、みるみる血の気が引いた。
「で、出口って・・まさか、あそこを切るってことか・・」
「大丈夫です、切るときはそこにちゃんと麻酔しますし、きれいに縫い合わせますから」
「そう言う問題じゃな〜い!お嬢ちゃんのかわいいあそこをき、切っちまうなんて、お、俺には耐えられん!」
「旦那さんは耐えなくていいんです。産道が伸びるまえに、勢いよくいきんじゃうと赤ちゃんの頭で裂けちゃうことがあるんですよ。
裂けると、傷口がきざぎざになっちゃうから縫合も難しいし、直った跡の見た目もよくないし・・
それなら、鋏できるほうが、裂けちゃった後を縫うより、傷口もきれいだし、治りも早いんですよ。」
「裂ける・・お嬢ちゃんのあそこが裂ける・・それを防ぐには、鋏で切る・・」
オスカーは、その光景を想像してしまい、目の前が真っ暗になった。
顔面蒼白で脂汗を流しているオスカーを見て、看護婦は
『あら、旦那さん失神寸前ね、丁度いいわ、うるさいから、このまま気を失っちゃってくれないかしら』
などと無慈悲なことを考えていた。
意気込んで立会い出産に臨んだものの、妻の苦しそうな様子や、血を見て失神する男性は存外多いのだ。
オスカーも、あやうく脳貧血をおこして意識を失いそうになったが、必死に自分を叱咤激励し、無理やり自分を鼓舞した。
こんなことなら、ランディに勇気のサクリアでもわけておいてもらえばよかったなどと、思いつつ
いや、なに、自分だって、強さを司る守護聖だ、負ける訳にはいかない!と
意識を彼岸に飛ばしてしまうことだけは、なんとか踏みとどまった。
『気を失ってはいかんっ!お、俺がここで倒れたら、誰がお嬢ちゃんを守ってやるんだ〜〜〜っ!』
ぜぇぜぇと荒い息をついて、ようやく正気をたもったオスカーだったが、
眼前の問題は山のごとくオスカーの前にそびえ、徒手空拳のオスカーには為す術がない。
自然にまかせてアンジェリークのあそこが裂けてしまうリスクと、予め鋏で切ってしまうことのどちらかを選べと言われても
どちらもあまりに痛々しくて、オスカーに選べるはずもなかった。
「せ、先生、なんとか、裂けずに切らずにすむ方法はないのかっ!」
オスカーが、わらにもすがる気持ちで、産婦人科医に詰め寄った。
「うーん、うーん、先生、私も切るのは怖いです〜。どうしても切らないとだめですか?」
アンジェリークも苦しい息の下で訴える。アンジェリーク本人だって切らずにすむなら、それにこしたことはないのだ。
「奥さんは産道が柔らかいから、上手にいきめば、切らないですみそうですよ。
いきみたくなってもあんまり勢いよくいきまないよう、気をつけてね。でも、危ないと思ったら切りますからね。」
アンジェリークが、唇を噛み締めて、頷いた。
「ぜ、ぜひ、その方向でいってくれっ!ありがとう、先生っ!」
オスカーも力強く同意した。オスカーは女医の後ろに後光が見えた様な気がした。
そして
『そうだ、お嬢ちゃんのあそこは、めちゃくちゃ、やーらかくて気持ちいいんだ!世界一、いや宇宙一なんだぞ!
なんたって、この俺を虜にしてるんだからなっ!それを切るなんて、宇宙に対する損失だっ!冒涜だっ!』
と、筋違いの感想を抱いて悦に入っていた。
オスカーの土気色だった顔色が明るく晴れ渡った。
お産は順調に進んで行った。
「ほら、頭が見えてきましたよ」
「うーん、はぁはぁ」
「なんだか、つっかえてる感じがするでしょう。いっぺんに出しちゃいたいって、思うでしょうけど、まだ我慢するのよ。
ここで、勢いよく力を入れちゃうと裂けちゃいますからね。はい、もう一回息んで」
「は・・はい、うーん」
「赤ちゃんの頭が、もう引っ込まなくなりましたからね、はい、呼吸を短くはっはってきりかえて」
「はっ・はっ・はっ」
「後少しよ。肩が出ちゃえば一気に産めますからね、はい力いっぱいいきむ!」
「うー・・」
思いきり、下腹部に力をいれた。
そのとき、突然、ずるりとした感触をアンジェリークは股間に感じた。
と、同時に、いきなり痛みがすべて消え、次の瞬間、アンジェリークの耳に力強い泣き声が聞こえた。
「元気な女のこですよ」
「産まれたの・・」
アンジェリークが現実を認識するまえに、赤ん坊は看護婦にさっさと産湯につけられ、体をきれいにされてから、体重を量られ、
産着を着せられて、アンジェリークのもとにもう一度連れてこられた。
アンジェリークは腕をのばし、看護婦からおそるおそる赤ん坊を受け取り胸にかき抱いた。
「ほら、とってもかわいい女のこ。きっと美人になるわよ」
「私が産んだ・・私とオスカー様の赤ちゃん・・」
アンジェリークは小さな命をそっと抱きしめた。
そのとき、隣に佇んでいたオスカーの口からようやく言葉が零れた。
「ありがとう・・ありがとう、アンジェリーク」
感極まったように擦れた声でアンジェリークに礼をいうオスカーの双眸からは涙が滝のように溢れていた。
アンジェリークが一生懸命お産に勤しんでいるあいだ、オスカーは、アンジェリークの傍らに佇み、ひたすら手を握り、声をかけてやった
自分にできることは、アンジェリークの労苦をつぶさに見守ることだけだったからだ。
そして、オスカーは、女性の辛苦を心底から理解はできなくても、決してこれに目を背けてはいけないと思った。
自分の母もこのような苦労をして、自分を世に送り出してくれたのかと思うと、女性に対する賛嘆の思いで胸がいっぱいになった。
アンジェリークと医師のやりとりから、どうやらお産の終わりが近いことが察せられた。
アンジェリークがいきむたびに、オスカーの手を痛いほど握り締めてくる。
華奢なアンジェリークのどこにこんな力が潜んでいたのだろうと思うくらい、その力は強かった。
そして、アンジェリークが一際オスカーの手を強く握ったその直後、
産婦人科医が、アンジェリークの股間から、なにかを取り出した。
それは、ところどころに血の付いた、赤紫の物体だった。
オスカーはなにがなんだかわからずに、あっけにとられてその物体を凝視していると、その物体が突然ものすごい声で泣き始めた。
泣き始めた途端、その赤紫色の体がみるみる美しい薔薇色に変化していった。
赤ん坊が母親の庇護からはなれ、自分の肺で呼吸をはじめた、それは、記念すべき祝福の証だった。
オスカーは魔法のようなこの光景を魂を奪われた様に、黙って見つめていた。
呆然と立ちすくんでいるうちに、赤ん坊がお湯できれいにされ、アンジェリークのもとに連れてこられた。
アンジェリークが自分の手をふりほどき、赤ん坊を受け取った。
つかれきった表情なのに、満足げで、これほど満ち足りたアンジェリークの顔をオスカーは見たことがなかった。
アンジェリークになにか言わなくては・・
オスカーは言いたいことがいっぱいありすぎて、胸がはちきれそうなのに、逆に言葉がでてこなかった。
気がつくと,なんの変哲もないありふれた言葉を、ひたすら繰り返していた。
ありがとう、ありがとうと・・・
涙を流していることにも気付いていなかった。
アンジェリークが赤ん坊を抱いて、にっこりと微笑んだ。
「ほら、オスカー様も触ってみてください」
オスカーがこわごわと赤ん坊に手を伸ばす。
看護婦が
「赤ちゃんの手を触ってごらんなさい」
と言ったので、オスカーが赤ん坊の奇跡の様に小さな手にそっと触れると、赤ん坊がオスカーの指をぎゅっと握ってきた。
アンジェリークと同じ金色の髪、瞳の色は自分と同じ氷青色だった。
「お嬢ちゃん、この子が、俺の指を握り返してくれた・・」
「赤ちゃんにもわかるんですよ、オスカーさまがパパだって・・」
オスカーの瞳からまた図らずも涙がどっと溢れ出た。
そこに看護婦が声をかけた。
「奥さんは、あともう一仕事よ。後産がありますからね。それが終わったら、赤ちゃんと病室に行きましょうね」
看護婦がもう一度赤ん坊を抱きあげ、ベビーベッドに寝かせた。
後産はあっけないほど楽だった。出血の処置をしてもらい、ストレッチャーに乗せられて、アンジェリークは病室に連れて行かれた。
もちろんオスカーも一緒だ。
ほどなくして、赤ん坊も連れてこられた。
アンジェリークのベッドの隣に小さなベッドがおかれ、そのなかですやすやと眠っていた。
「奥さん、つかれたでしょう。今夜はゆっくり休んでくださいね」
看護婦が、こう言って病室を出ていった。
オスカーとアンジェリークはどちらからともなく、2人そろって長い吐息をつき、それに気付いて、顔を見合わせて笑った。
「お嬢ちゃん、俺はなんと礼をいったらいいかわからないくらい、感謝している。ほんとうにありがとう」
「そんな・・この幸せを私に下さったのはオスカー様の方です・・」
アンジェリークが恥らう様に、嬉しそうに、微笑んだ。
「疲れただろう?今日は、もう寝たほうがいい、眠るまで俺がそばにいるから・・」
アンジェリークはオスカーのこの言葉に、スイッチが切れたようにベッドに沈みこんで、目を閉じた。
「おすかーさまも、お休みになってね・・」
「ああ、君が眠ったら一度家に帰る。明日の朝、また来るから心配するな。ようやく終わったんだ。ゆっくり休むといい」
「オスカー様・・違うの・・終わったんじゃないの・・始まったの・・私たちと赤ちゃんの新しい・・しあわせ・・」
夢みるように言うと、ことんと、アンジェリークが寝入ってしまった。
オスカーは胸をつかれたように、アンジェリークの寝顔を見つめた。
『そうだな、終わったんじゃない、今日がまた俺たちのあたらしい始まりの日なんだな・・』
オスカーは立ち去りがたい想いを抱いて、飽かずにアンジェリークの顔を見つめつづけた。
後ろ髪を引かれる思いだったが、オスカーは一度自分の私邸に帰ってきた。
アンジェリークのそばにずっといてやりたいのは山々だったが、アンジェリークに、明日は真っ赤なばらの花束と大好きなイチゴのタルトを
見舞いに持っていってやろうと思い、その手配を執事にさせるつもりだった。
できれば、明日は休ませてもらいたかったが、ジュリアスがなんと言うかわからないので、出仕の用意もしなければならなかった。
私邸の玄関を自分で開けようとして、オスカーは広間に明かりがついているらしいことに気がついた。
玄関の鍵も開いている。
執事が、アンジェリークの出産を気にして、起きてまっているのだろうかと思い、オスカーがドアを開けた途端
「いようっ!パパのおかえりだぜぇっ!」
という、威勢のいい声が聞こえた。
オスカーが何事かと思い部屋を見渡すと、玄関ホールに続く広間に守護聖が一同に会していた。
一瞬オスカーは自分が、ぼうっとして自分の家ではなく、聖殿の謁見の間にでも来てしまったのかと錯覚したが、
考えてみれば,今は真夜中だったし、間違いなくここは自分の家だった。
しかも守護聖たちは、銘々勝手な様子でくつろぎ、酒を飲んでいる様子だ。マルセルなど、ソファですやすやと寝息をたてている。
オスカーがあっけにとられていると、ゼフェルがつかつかと、オスカーに近づいてきた。
「オスカー、アンジェリークはどうした?赤ん坊は無事産まれたのかよ?」
「あ、ああ、母子ともに健康だ。アンジェリークも今は休んでいる」
「で、どっちだったんだ?男か?女か?」
「女のこだが・・」
「ぃよっしゃあぁっ!」
ゼフェルがガッツポーズを作った一方、何人かの守護聖は、がっくりと頭を垂れ、何人かはしてやったりと言った風情で微笑んだ。
「一姫二太郎という、言い伝え通り、やはり最初は女のこでしたね〜」
「うむ、私もなんとなく女のこのようなきがしていたのだ」
「ふっ・・ただのやまかんであろう・・私は違うぞ・水晶球がちゃんと示していた」
ゼフェルがオスカーに畳み掛けた
「で?髪の色は?金か?それとも、おっさんと同じ赤か?」
「あまり生えてないので、はっきりとはいえんが、多分金髪だが・・」
「よしっ!」
更にゼフェルが力瘤をつくる
「あーあ、俺、ここではずれか〜」
「し方がありませんね。最後まであたらなければ、もともと無意味なのですし・・」
ゼフェルが声を落として、オスカーにさらに問いかけた
「いいか、おっさん、ここんとこが大事なんだがよ〜、瞳の色は、翠か?青か?」
ゼフェルの勢いに押されて、オスカーはたじたじとしながらも正直に答えた。
「瞳は俺と同じブルーだが・・」
この返答に、ゼフェルががくっとうなだれた。
「なに〜!間違いねえんだろうな!おっさん!きしょーっ!ここまで来てはずれかよ〜!」
「・・ばかな・・私の水晶は翠の瞳と・・」
「そなたの水晶球もあてにはならんな。それとも、たんにそなたの好みを映しているだけなのではないか?」
「・・・なに?」
「あ〜、おめでたい席で争いごとはいけませんよ〜、争いごとは・・」
漸くオスカーにも事態が飲み込めてきた。
「・・・おまえら、人の子供でトトカルチョをやったな・・」
「へっ!こんなおもしろいイベント逃す手はねーからよー。エアバイクのレンタル料はこれでチャラにしてやっからよ〜。」
「ところで、ゼフェル〜?当たった人は結局いるの〜?該当者無しの場合はいったいどうすんのさぁ〜」
「金髪、青の瞳で、女のこだろ・・・そりゃ、無しの場合はそのまんまオスカーが・・」
「おまえら、いったい何を賭けたんだ・・」
「えっと〜、こりゃ、大穴だ・・あっ、おい、マルセル!起きろ!おまえだ!おまえの予想がどんぴしゃ、当たりだ!」
「うにゃ?なに?まだ僕眠いよ〜」
「ばか!起きろマルセル!おまえが権利を放棄したら、オスカーの好き勝手にされちまうぞ!」
「だーかーらー、おまえら一体、何を賭けたんだ!」
「え?僕のあたり?うわぁ〜い!やったぁ〜!じゃ、僕がアンジェの赤ちゃんの名前考えていいんだね?」
これを聞いて、オスカーの体がぐらりとよろめいた。
「・・お、おまえら・・人の子供をなんだとおもってるんだ・・いぬやねこの子じゃあるまいしっ!
子供の名前を考えるのは親である俺たちにきまってるだろうがっ!」
そこに、ジュリアスがやってきて、オスカーをたしなめた。
「ま、そういうな、オスカー、皆、アンジェリークと赤ん坊を祝福してやりたいのだ。なにせ、我々が知っている限り守護聖の初めての赤ん坊なのだからな」
「ジュリアス様・・ジュリアス様まで・・そんなことを」
オスカーががっくりとうなだれた。
ゼフェルが尻馬に乗って,言葉を続けた。
「だいたい、条件は公平だぜ。当たり無しの場合は、オスカーに一任ってことで合意ができてたしよ〜」
「・・・普通はそれが、当たり前なんだ・・だいたいアンジェリークがなんていうか、わからんぞ!」
「じゃ、明日、見舞いに行ったとき、アンジェリークにきいてみようぜ。で、アンジェリークがOKなら、文句ないよな?おっさん」
「・・・うむ。とりあえず、お嬢ちゃんの意見を聞いてみないとな・・」
次の日、聖殿は完全に開店休業であった。
守護聖が全員、聖地の総合病院に集まってしまったからだ。
そして、アンジェリークは守護聖たちの申し出を快く受けいれた。ただし、オスカーにも名前を考える権利を与えてほしいとの条件つきで。
そして、よりよいと思われる名前を協議の結果きめるということになったのであった。
アンジェリークとオスカーの子供は、眠り姫の様に、それぞれの守護聖の司るサクリアを祝福として与えられた。
もちろん、100年眠る呪いなんてものは、与えられることはなかった。
おしまい
藤原七穂様の「天使迷宮」にある、ばたぼー様のイラスト「天使の鼓動」(懐妊したアンジェのお腹に耳を当てているオスカー様)のあまりのすばらしさに触発されて、無理やり書かせていただいたもの。
出産に夢を抱いてたお嬢ちゃんたち、夢を壊してしまったら、ごめんなさい。
2人の子供の名前は皆さんの心の中に・・ということで(笑)