瞳、惹き付けられて
視線、逸らせない。
オスカー様はただ、執務服を着替えてらっしゃるだけなのに…
オスカー様は家に帰ってくると、すぐにお召し替えなさるの。
お仕事で重い甲冑をお召しになってるせいか、お家ではゆったりとした服を着るのがお好きみたい。
一見無造作な仕草でマントや甲冑を外されるのだけど、何故かしら、その所作のひとつひとつに私は目を奪われてしまう。
男らしいけど、荒々しくさえ見えるけど、粗野じゃない。むしろ、雅。滑らかで流麗。緻密でどこにも無駄のない動きが…そう、とても綺麗。何気ない仕草のひとつひとつが、喩えようもなく綺麗。舞うように優雅なのにぴしりと鋭いの。
ううん、仕草だけじゃない。
オスカー様の身体の線もとても綺麗…いつもは執務服で隠されているけれど、こうしてアンダーウェアだけになるとよくわかるの。肌にぴったりとしたアンダーウェアは、より身体のラインを強調してるみたいに見えてしまって、私どきどきしちゃう。
逞しくて、締まってて、鞭みたいにしなやかで、引き絞りに絞った一分の隙もない身体…これ以上は有得ない完璧な造形。
だから、私、オスカー様が普段は甲冑をお召しになっててよかったって思ってしまうの。
だって、こんな綺麗な身体のラインがいつもはっきりわかったら、私、きっと、ずっとみつめてしまう。どきどきするのに見つめずにはいられないと思う。
オスカー様がゆっくりと、そのアンダーも脱ぎ去ろうとなさってる。
鞣革みたいな褐色の肌が覗く。厚い胸板が露になっていく。濃褐色の先端が目に入って、心がざわめく。どきまぎしてしまう。いつも見てるのに、何度も見てるのに、見るたびに、心が熱くなる。見ればみるほど、どきどきする気持ちは強くなるばかりで胸が苦しくさえなってしまう。
どうしてオスカー様はこんなに綺麗なんだろう…
私、男の人の身体が綺麗だなんて思ったことなかった…オスカー様を知るまでは。オスカー様が教えてくれたの。男の人の身体ってこんなに綺麗なんだって。男の人の仕草ってこんなに瞳を惹きつけて止まないものなのだって。
その時、オスカー様が服を脱ぐ手を一瞬止めて、私の方を見てふっと微笑まれたの。
その、全てを見透かしたような笑みに、私、慌てて目を伏せた。
や…どうしよう…ずっとオスカー様を見つめていたのに気付かれちゃった?
「どうした?お嬢ちゃん、ぽーっとして…」
「…」
私、なにも言えずに俯いたまま。
「さては…俺に見惚れていたな?」
……やっぱり、気付かれてた…いや…恥かしくてたまらない…
「そ、そんなことないです…」
こんなの強がりだってオスカー様にはすぐわかっちゃう。だって、私の頬、燃えるように熱い。オスカー様の顔が見られない。さっきは目を逸らしたくても逸らせなかったのに…今は、逆。
「ふ…恥かしがらなくてもいいさ。」
なんでもないって感じでオスカー様はさらりとおっしゃる。
ああ、やっぱりオスカー様は何でもお見通しなの。私の考えてることなんてなんでもわかってしまうの。でも、でも、そう思うと余計に恥かしいのに…
「それに、俺はお嬢ちゃんが俺に見惚れてくれてたのなら、嬉しいんだがな?」
え?オスカー様、それは本当?
そう思った途端、くいっと顎に指を添えられ、私、顔をあげさせられたの。
オスカー様の顔が息が掛かるほど間近にあった。とろけるように甘やかな、でも、どこか悪戯っぽい笑みを浮かべて、私の顔を覗きこんでいらっしゃる。私、その笑みにまた捕らわれてしまったの。その瞳に心を射抜かれてしまったの。もう、オスカー様を黙って見つめることしかできない。オスカー様の裸の胸が眩しくて、目がくらみそうなのに視線を逸らせない…
「だって俺はいつもお嬢ちゃんに見惚れているんだぜ。一度見つめてしまったら、片時も視線を外せないほどに…だから、執務中はなるべくお嬢ちゃんを視線で追わないようにしているくらいなんだ。尤もその努力は大概無駄だがな。俺はお嬢ちゃんを見つめずにはいられないから…」
「オスカーさま…」
そんなに優しい瞳で見つめないで。そんなに柔らかな声で囁かないで…視線で、声で、愛撫されてるみたいな気がしてしまうから…
「だから、お嬢ちゃんも俺に見惚れてたって言ってくれたら、俺は天にも昇る心持ちだろうな?俺の想いが一方通行じゃないとわかって…」
ずるい、オスカー様はずるい。
こんな風に言われたら、私、もう、自分の気持ち隠せない。恥かしくて恥かしくて仕方ないのに、もう隠してなんておけない。
でも、これがオスカー様の優しさなの、私、本当はわかってるの。私がオスカー様を求めてやまない気持ちを素直に伝えられるようにしてくださってるんだって、わかるの。
だから、私、言ってしまったの。もう、自分の気持ちを留めておけなかったの…
「オスカー様…あのね、私、ほんとはずっとオスカー様に見惚れてたの…オスカー様ってどうしてこんなに素敵なんだろうって。オスカー様のお体はどうしてこんなに綺麗なんだろうって。あんまり綺麗すぎてあんまり素敵すぎてどうしても目を離せなかったの…」
すると、オスカー様はとても嬉しそうに微笑まれた。
「じゃ、おあいこだな?俺達は互いに目が離せず、互いの瞳に映るのは互いの存在だけ…そして、今はその至福を誰に遠慮もなく心行くまで確かめ合える…そうだな?」
オスカー様は物柔らかく微笑まれたまま。なのに、瞳に宿る光はとても強いの。その瞳に絡めとられたように、私、動けなくなる…
「俺は心の望むままにお嬢ちゃんを俺の瞳の中に閉じこめてしまいたい…」
「あ…オスカー様…んんっ…」
オスカー様の逞しい腕に抱き寄せられた。
さっきまで見惚れていた厚い胸板にかき抱かれた。
オスカー様の気持ちが柔らかな唇から伝わってくる。
熱い舌が私の身体も心も熱くしていく。
暖かくて私がどこよりも安らげるこの腕の中は、私が一番胸高鳴り心騒ぐ場所でもあるの…
ねえ、オスカー様、また、今日も執事さんに怒られてしまいそうね。夕ご飯がすっかり冷めてしまいましたよって…