Primavera
Olivie's Monologue

あんたは私にとって春の花そのものだった。

見た目も花みたいだったけど、その心栄えが春の花みたいだった。

いつも、歌うように踊る様に弾んでて、生きている喜びをそこに存るだけで素直に感じさせてくれる存在だった。

私はあんたを見てるだけで心が温かくなったんだ

 

あの子…もう、あの子なんていうのはおかしいかな?今はれっきとした人妻だもんね。でも、いつまでたっても私にはかわいいあの子なんだ。出会った時そのままのね。

あの子が女王試験をうけるために飛空都市に召還された時のことは、いまでもはっきり覚えてるよ。

なにせ私が守護聖になって初めての女王試験だったからね。

私は守護聖の任につくとき女王に忠誠を奉げる誓いをたてたし、実際その当時宇宙をその白い御手で支えていらっしゃった女王陛下を心から尊敬していたよ。

でも、初めての女王試験になんだか胸が踊っちゃったのも事実なんだ。

女王の交替を喜んでるわけじゃない。いくらなんでもそこまで不謹慎じゃないよ、私は。

特に、あまり先輩らしくはないけど一応目上のあの男の胸中を考えるとね。

だけど…さ、私たち守護聖が、これから仕えることになる若い女王を自分たちで選ぶんだよ。

やっぱり幾分期待とかしちゃっても仕方ないと思わない?

しかも、たまに祭礼とかで出張がある以外、聖地での守護聖の執務っていうのは、普段はあまり変り栄えしないっていうか、変化に乏しいものなんだ。どっちかというと地味なルーティンワークがほとんどさ。

私たち守護聖の仕事って結局メンテナンスなんだよね。なにか生み出すというより、今ここにある世界をつつがなく維持していくことが大事なんだ。

それはもちろんとても大事な仕事だよ。しかも私でなきゃできない仕事。それはわかってる。

でも、来る日も来る日も同じ仕事の繰り返しってたまにちょっとつらいんだよね。私はもともと物を作ることに喜びを覚える種類の人間だったし、サクリアの放出は目にみえて成果のでるものじゃないから、余計にね。

でも、女王試験って、新しくみつかった若い宇宙の育成だったわけ。私が送ったサクリアで眼下の大陸にみるみる命が溢れていくんだよ?人々の活力と精気に満ちた命の営みが眼前で展開していくんだけど、それがわたしたちの送った力のままに発展して行く訳よ。

これはエキサイティングだと思ったよ。

こう成果が具体的だとさ、手応えとかやる気とか、これでもかーって沸いてでちゃうのも当然でしょ。

しかも、その力を送ってくれって依頼にくる女王候補たちったら、とびきりキュートでチャーミングだったわけ。思わず力もはいるって。

もっともそれは婀娜めいた気持ちからじゃないよ。私からみたら、2人ともやっぱりかわいい妹って感じだったよね。

私は守護聖として召還されたのは結構年がいってからだったから、それなりに世間とか観てきてたし、社会にでてからの苦労もしてた。

そんな私からみたら、召還された時現役の高校生だった女王候補の2人はどうしても子どもにみえちゃったわけ。あいつの言葉を借りれば、二人ともまだまだお子様なお嬢ちゃんたちだったのよ、どうみてもね。

特にあの子はそうだったよ。

どこからみえも、普通の女の子だった。見た目も大人っぽくなくて、ふわふわ、きらきら、くるくるくりんとしててみるからにかわいい!っていいたくなるような外見だったから、ある意味損してたかもしれないね。

現女王陛下とは対照的だった。

女王陛下はその頃から、なんというか纏ってる雰囲気が違ってた。気概と責任感に溢れてて、きちんと教育されて、それに見合う成果もあげてきたという矜持と自信に満ち溢れていて眩しいほどだった。

実際女王陛下はその頃から育成も堅実で危なげがなかったよ。

でも、あのこは見た目が普通の女のこってだけじゃなくて、中身も普通の女のこだった。自分にサクリアが眠ってたことも知らず、だから、教育も心構えも最初はきちんとできてなくてね、

だから育成もはっきりいってなっちゃいなかった。うまく成果があがらないから、よく泣いてたしね。見てて痛々しかったよ。

痛々しい…それは、私たち守護聖の多くが、あのこに自分を重ねてたからかもしれないね。

なんていうか、自分たちの来し方があの子を透かしてみえちゃったからかもね。

ある日を境に急転した運命。否も応もなく見知らぬ場所につれてこられて、突然、宇宙の行く末とか他人の人生とか、多くの生き物の命とか背負わされちゃう訳。

それまでは、自分の人生にだけ責任負ってればよかったのによ?

今の女王陛下みたいに、幼少の砌より、そういう心構えをきっちり持つよう教育されたならともかく、寝耳に水の状態でそんなもの負わされたら、普通その重さに辟易するか、怖くならない?

なんで自分が!って納得いかなくて反発するか、逃げだしたくなってもおかしくないでしょ?

だから、ゼフェルなんて女王試験自体にすっごく反発してたもんね。だからってそれはあの子のせいじゃないんだから、やつあたりするのはお門違いだったんだけど、ゼフェルも、まあ、あの頃は有体に言ってお子様だったから、自分の抱えた感情を持て余しちゃったんだよね。

ゼフェルはゼフェルなりに、あの子がかわいそうだと思って、心配もしてたんだけど、自分も同じような立場でつらい思いをしてきたからこそ、余計にやりきれなくて、いらついた部分もあったみたいだった。

優しい気持ちがあるのに、それをそのまま表す術をゼフェルは知らなかったんだよね。

ただ、あの子のことが気にかかる気持ちを素直に出さなかったのは、ゼフェルに限った事じゃなかった。

私だってその点じゃ同じだったよ。いや、むしろゼフェルみたいに純粋にあの子を心配してた訳じゃなかったからゼフェルよりずっと性質(タチ)が悪かったかもしれない。

あの子をみてると、なんだか、こう穏やかならぬ気持ちにさせられるのはゼフェルと同じさ。あの子が慣れない飛空都市で、いきなり与えられた使命とか、運命とかってやつに戸惑い、何をどうしたらいいのか、どこに向かって進めばいいのか、迷う気持ちが、いつかの自分のようで、手に取るようにわかっちゃうんだ。

ああ、かわいそうに…って思うんだ。それは事実。

でも、その一方で、あのこは女王候補なんだからって、冷めた目であの子をみてる自分もいて。

ただ、泣いててかわいそうだからって手を貸しちゃ、かえってあの子の為にならない。転んで泣いてる子を抱き起こしちゃったら、自分で立ち直る心の強さは培われないだろう?それと同じことさ。あの子はちゃんと理由があってここに呼ばれたはずなんだから。

ここに呼ばれたってことは、その背に白金色に輝く翼をもっているはずなんだから。

一人で宇宙を背負ってたてるほどの強さと優しさを持ってるはずなんだから。

だから守護聖たちの多くはあの子がどんな行動をとっていくのか、興味と期待で遠巻きに眺めていただけだった、最初はね。もちろん私もその一人だった。

あの子をかわいそうにと思う心と、でも、それだけじゃない何かをみせてもらいたいっていう期待の心。

思わず手をさしのべたくなる気持ちと、お手並み拝見とでもいうような、一種突き放した気持ちと。

そんな相反した複雑な心境で、私は最初、あの子をみていたんだ。

あの子のことは気になったけど、それは守護聖なら皆が皆持った興味にすぎなかったと思う。

かわいい女王候補たちと過ごす日々に心が浮き立ったのは事実さ。

だけど、わたしたちはやっぱり守護聖なんだ。

宇宙を支えていける力量はどちらがあるのか。そして、自分たちの人生を預けるにたるのはどちらか。この2人の内、どちらになら、自分のなにもかも捧げても惜しくないと思えるか、程度の差はあれ、みんなどこかで彼女たちを値踏みするような気持ちは持っていたと思う。

ただかわいいだけの子に心が動くほど、わたしたちは初心じゃいられない。そう、運命づけられちゃったもんでね。

そういう意味で、同じような境遇を経験してきてその苦労がわかるにも拘わらず、私はゼフェルより、よく言えば冷静、悪く言えば冷たい目であの子をみていたと思う。

ね、タチ悪いでしょ?やだよねぇ、大人ってさ。

 

あの子は最初ほんとにあぶなっかしかったよ。

へたくそな育成は端で見ててもどかしかったから、つい手を出したくなっちゃうし、泣いてるときはよしよしって慰めてやりたい気持ちはあったよ。

でも、守護聖に同情されたり、一方的に保護される存在じゃ女王にはなれない。それじゃ普通の人と一緒でしょ。

守護聖は女王を支えるのが義務だけど、それはあくまで女王が尊敬できる存在であることが前提だし、そういう意味で女王と守護聖は対等でもあると私は思ってるよ。

あのこがあからさまに同情や保護を求めるような子だったら、私たちの誰も心は動かされなかったと思う。

だけど、あの子はそれだけの子じゃなかった。

育成がうまくいかなくて泣いてたのは、ジュリアスに怒られたからじゃなくて、大陸の民に申し訳ないと思ってたからだった。

自分の力量が、いや、ほんとは力量じゃなくて、やり方のコツがうまくなかっただけなんだけど、足りないせいで、民をうまく発展させてあげられないのが悔しくて悲しくて泣いてたんだ。

ほんとに優しい子だと思ったよ。そして優しいだけの子でもなかった。

よく泣いてたさ、それはほんと。でも、泣くだけじゃおわらせなかった。

育成がうまくいかない、じゃあ、どうすればいいのか。

もう一人の女王候補はうまくやっている、何が自分と違うのか。

自分の足りない所をきちんと把握しようと、その指導や手助けをあの子は求めてきた。

やる気のある子の意欲が空回りしないよう手助けしてやるのは、過保護でも、同情でもない、必要な指導さ。彼女は力は持ってる。その発現の仕方をうまく学んでなかっただけだった。

だから私たちは助力を惜しまなかった。あの子にはなんとかしてやりたいって人に思わせるなにかがあったから尚更だった。

だってさ、あの子は自分に突然課せられた運命や義務ってものから、一歩も退かなかった。目を背けなかった。ちゃんと立ち向かっていった。気負うこともなくね。

なんの心構えもなしに、そういうものを背負わされて、それをすんなり受け入れることの難しさ、しなければならないことからは逃げてはいけないのだと潔く思いきる心の強さをもつことの困難さを、私も、そして多分他の守護聖もよく知ってる。

だから、私はあの子を最初かわいそうだと思ったことを恥かしく思った。そんな風に思うことはあの子を見縊っていたってことだからね。心の内で謝ったよ。

ゼフェルはあの子のことを『鈍いだけだ』なんて、憎まれ口叩いてたけど、それだけじゃないことなんてゼフェルのほうがよくわかってたんじゃないかな。

ただ、それを認めちゃうと、同じ境遇だったにも拘わらず課せられたものをすぐには受け入れられなかった自分の幼さとか弱さも認めなくちゃならないから、素直に彼女を偉いって言えなかったんだよね。

そしてあの子はみるみる花開いていった。

的確な指導を受けていなかったから、最初もたついていただけで、もともとの素養はあったからね。

生来の素直さで年長者の指導を受け入れて、自分の足りないところをきちんと補っていった。

方向性と、力のだしどころを覚えれば、あの子の開花を妨げる物はなにもなくなった。本当にめきめき力をつけていったんだ。

民を思って泣いてたこと、うまく行かない時も腐らずへこたれず自棄にならず、自分のできることを探していって一段一段階段をあがるように着実に力をつけていったことで、あのこの優しさと強さが図らずも証明された。

負けん気も、意地も、やる気もあった。そのくせ頑なさは微塵もなくて、いい所はなんでも吸収できる素直さ、柔軟さに溢れていた。

優しさと強さ、どちらも女王になくてはならないもの。それを試験の過程であのこは私たちに自然にしらしめた。

民と大陸は一気に発展していった。それがあの子の笑顔を晴れやかにした。自信につながった。態度も表情も伸びやかにまぶしくなる一方だった。

最初が危なっかしかったから、余計にその開花は眩しく見えたっていうのはあるかもしれない。

それを差し引いても、なんの準備もしてなかったあの子が、僅かの間にみるみる成果をあげて、今の女王陛下と肩を並べるまでになったってことは、やっぱりすごいことだった。

気がついたら、わたしたちみんなあの子に夢中になっていた。目が離せなくなってた。

どこまで輝くのか。

どこまで艶やかに美しくなるのか。

あの子の替り様はどこまでいっても終わりがないように思えた。昨日より今日はすばらしく、明日はそれよりさらに輝いた。

もちろん、それは私だって同じさ。気がつくとあのこの様子を目で追うようになっていた。

それはただ単にあの子の才能が花開いたからじゃなかった。

なぜだか、あの子の様子は私には馴染み深い、懐かしいものに思えて仕方なかった。

なぜだろう。会ったばかりのあの子にどうして、懐かしさなんて感じてしまうんだろう。私は考えて…ああ、そうかって気がついた。

あの子が一気に明るく花開いた様子は、私にあるものを思い出させたんだ。

そう、あのこはまるで…雪深い故郷の春そのものだったんだ。

雪に埋もれているその時には、その下に何が眠っているかわからない。

でも、目にはみえなくても確かに華やかな暖かなものが、目覚めを待っている。

時がくれば…暖かな風と陽光が大地を覆えばそれは待ちわびていた様に一気に芽吹いて花開く。

それまで貯めていたものを眩しいばかりに解き放って。

あの子の様子はまさに雪解けあとの春みたいだったんだ。

温暖なところに育った人にはわからないだろうね、

私みたいな雪深い田舎で育った人間がどれほど春に焦がれるか。

いちどきに訪れる一面の花と温もりにどれほど心踊るか。

そして、そんな春そのもののような女の子…そんな子が現実に、しかも私の目の前にいたんだ。

つい、見惚れてしまい、そして、どうしようもなく惹かれてしまう自分が押さえきれなかった。

私は守護聖になるまえに、自分から故郷を捨てた人間さ。

雪ばかりで、長い冬に息を潜めて生きていかなくちゃならない故郷が決して好きじゃなかったから、出てきたことを後悔なんてしたことはなかった。

私は逃げだしたんじゃない、夢を追って突き進んでるっていう自負もあったしね。

でも、それはいつでも帰りたいときに帰れると思っていたからこそ、持てた余裕だったのかもしれない。

いざ、守護聖となってもう故郷に帰るに帰れなくなって初めて、あの、長い冬と、だからこそ光り輝く春の風景が恋しく思われた。

長く苦しい冬があるからこそ、一気に弾けるような春がこの上なくありがたいのだとわかったのは、自由に帰れなくなってからだった。

あの子は、そんな、もう見たくても見れない故郷の春を思わせてくれた。

あの子といると、だから心が和んだ。ずっと一緒にいられたらと思った。あのこが側にいてくれれば、それは故郷にいるのと同じことのような気がしたんだ。

でも、私は迂闊にも気付いてなかったんだ。

春って、ただ待ってればやってくるものじゃない。

眠っている花が開くには、その花を目覚めさせる温もりが必要だってことに。

そしてその温もりがどこから、いや、誰からもたらされたのかってことに。

 

ばかだよねぇ。

美しさを司る守護聖のくせに、なぜ、あのこが急に眩しいほどきれいになったのか、見惚れてるばかりで気付かなかったんだ。

根雪に耐えていればいつか春は巡り来る。そして、今その春が来てくれて、自分は春の喜びを享受してる。そんな気持ちだった。

人間は、自然とは違う。ただ待っていれば花開くってものじゃないってことは自分が一番よく知ってたはずだった。花開くには自分の努力や、周囲からの導きってやつが欠かせないのにね。

いくら春みたいな女の子だからって、春そのものじゃない。待っているだけ、耐えているだけで花開くわけがないし、ましてや棚ぼたみたいに私がその美しさを甘受できる訳ないのに、あの子が春みたいって思っちゃったから、混同しちゃったのかもね。待っていれば、春は向こうからやってくるって。

でも、そのうちいやでも気付いた、気付かされたんだ。

あの子がみるみるきれいになったのは、とびきり綺麗な夢を見せてやってた誰かがいたからだってことに。

あの子に向上したいというエネルギーを与えていた誰かがいたんだってことに。

そして、それは私じゃなかった。

あいつといる時が、あの子は一番きれいにみえるってわかっちゃったんだ。

あいつと一緒にいる時のあの子ときたら、頬を染めて、瞳をきらきら輝かせて、踊ってるように軽やかな足取りで、そりゃもう、羽化したばかりの春の蝶か、開いたばかりの花の精と見まごうばかりだった。

それは、メイクやヘアをいくら整えても感じさせることはできない、内面から溢れる命の輝きそのものだった。

そう、あの子は恋してた。恋してる者だけが放つあらゆるものを慈しみ感謝するような気持ちが全身から零れんばかりに溢れて、その心が周囲を潤していた。

あいつは…あの子をそんなにきれいにしたあいつは、普段はそんなに人と深くかかわろうとする方じゃなかった。

誰にでも優しい様でいて、本心は見せず、一歩ひいて人と接するようなところがあった。

ギャラントリーとダンディズム、そして洗練されたセックスアピールで自分を覆って、その華やかな壁で他人を弾いて自分の内面に踏み込ませないような頑なさを私は感じてた。

普通の人間はその華やかさに幻惑されちゃうんだろうけど、どんなものであれ、壁は壁だからね。根っ子のところで他人と拘わるのを拒んでるみたいな所があるような気がしてた。

ただ、人の主義主張は尊重するのが大人ってもんでしょ。踏みこまれたくないってるのに、無理やり押し入ろうとするのは無作法で礼儀知らずなことだと私は思ってた。

あいつはやるべきことはやってたし、身の処し方もうまくて誰に迷惑をかけてる訳でもなかったから、私が口出すような所はなにもなかったしね。

もっとも上滑りの刹那的な人付き合いを次から次へと繰り返すことの何が楽しいのかわからなかったから、そのことをからかったりすることはあったけどね。

ところがあいつはあの子にだけ、突然、その壁をとっぱらったんだ。

あいつとあの子と間に何があって、どんな会話が交されたのか、私は詳しくは知らないよ。

あいつのほうから胸襟を開いたのか、あの子があいつの心の壁の内側にいつのまにかするりと入りこんでしまったのか…私は後者じゃないかと思ってるけどね。

とにかく一度隔てをとったあいつは、まったく別人みたいになった。

あの子に対してだけは、みっともないほどに、しゃにむでがむしゃらで、それまでのダンディズムなんかかなぐり捨てたみたいになりふりかまわなかった。

みっともない…そう、そのはずなのに、あいつは今までの私が知ってる中で一番かっこよく見えた。外側を取り繕ってた時より、全然かっこよかったよ。

そして、負けた…と正直思ったよ。

私はあの子にそこまで働きかけてやってはいなかった。

何もしないでいたくせに春の美しさという収穫を甘受しようとしてた虫のいいだけの男だった。

あいつみたいに、火のつくほど熱く激しく、息もできないほどにあの子を求めていたかと聞かれたら、沈黙するしかなかった。

夢を司るからこそ、どうしようもなく見えてしまうことがある。

あいつにとって、あの子と人生を歩むことは何を投げ打っても手に入れたい夢そのものだった。

なぜ、あいつがそこまで思いつめたのかまではわからない。ただ、あいつの真剣さ、真摯な思いだけはこう、ひたひたと迫ってきた。

あいつが享楽的ともいえる日々を送っていたのは、真摯なものを求めても得られないでいた事の諦念と反動だったって事もうすうすわかってきた。

あの子がいなければ、あいつのそんな面に私は気付かなかったろう。あの子の存在があいつの素の部分を表に出したともいえる。

あいつが変わったわけが、私はなんとなくわかるような気がした。

固い城壁で守られているものほど、その内部は脆く柔らかく傷つきやすい。脆いからこそ、丈夫な外壁が必要なんだといえる。

だから、固い城壁の内側は驚くほど無防備だったんだろう。

そしてあいつは自分を鎧で覆うことがほんとは好きじゃなかったのかもしれない。もっと楽に息をしたかったのかもしれない。

自分の城壁を明渡すことを、密かに夢見ていたのかもしれない。

きらびやかな城壁の外観に惑わされない相手に、自分の柔らかい部分を受けとめてもらいたかったのかもしれない。

そこまで思いつめた夢を、夢の守護聖としての私は応援してやりたくなっちゃったんだ。

しかも、あの子も同じくらいの真剣さであいつと同じ夢をみていることが、これも伝わってきちゃったからね。

きっと、あいつが外に対して必死に支えてきたものの内側がどんななのか見知って、放ってはおけなかったんだろう。

確かにあの子なら大丈夫、いや、あの子くらい強くて優しい子だからこそ大丈夫なんだろう。

優しい子だから、そして、しなやかに強い子でもあるから。本当なら宇宙を背負えるだけの器がある子なんだものね。

ほんとに小さくて、華奢で、かわいくて、見るからに守ってやりたいと思わせる子なのにね。

2人は互いが互いのために生きていくことを夢見ていた。

夢は人が生きて行く為の原動力だもの。

二人が同じ夢をみていることがわかった以上、それを応援してやりたいじゃないか。夢の守護聖の私が応援しないで、誰が応援してやるのさ。

だから、何かの行き違いで、あの子とあいつがしばらく会えずにいた期間があったとき、私はほかの男たちみたいに、鬼の居ぬ間にとばかりに、あの子を振り向かせようと躍起になることもなかった。

結果を恐れず、ある意味傲慢なまでに、あの子を自分の力でもう一度輝かせてみせるって、私はそこまで思いきることができなかった。

あの子を輝かせたのは私じゃない。

あの子の輝きを取り戻せるのも私じゃない、それが悲しいくらいわかっていたからね。

でも、そんな風に思いきれない人間だってもちろん、いる。

あいつのことを忘れさせて、自分に振り向かせようと必死の男たちの気持ちもわかったよ。

でも、あの子は困りきっていた。

あの子は進行形でずっとあいつを思う気持ちを抱えていたんだからね。

ちょっとあいつと会えなくなったからって、それで気持ちは終わったわけじゃない、別の男に目をむけろと言ってもそれはできない相談だった。

だから私は、夢を応援する立場に徹した。

あの子の逃げ場?隠れ家?みたいなものになってやって、あの子の不安に震える心を受けとめてやろうと思った。

あいつが黙って出仕しなくなったのには訳があるはずだ。あいつはあの子を避ける為にそんなことをするようなやつじゃなかったし、第一あの子を避ける理由がまったくなかったからね。

そう言って安心させた。

端からみて二人が愛し合っているのは、もう歴然としてたんだから。

あいつも周り中がライバルじゃかわいそうでだしね。一人くらい私みたいな物好きがいたっていいと思わない?

私はあの子の話相手になって、あいつが戻ってきたときに驚かせてやるくらいきれいになろうねっておしゃれさせたり、とにかくあの子の心を浮上させてやることに努めたんだ。

あいつを信じて、自分を信じて、今自分のできることを一生懸命してればきっと大丈夫!って言ってね。

前にもいったけど、あの子はただ運命を嘆いたり泣いたりするだけの子じゃないからね。

あいつに会えない間も、一生懸命明るく健気に振舞っていたよ。

でも、私ができることはいわばその場しのぎの対処療法だってこともわかってた。あの子の明るさを根本から取り戻す事はできない。

それがわかってたから、私は、結局あいつがあの子とうまくいった時、他のやつらみたいに地団駄ふんだりしなかった。

一点の曇りもない晴れやかな笑顔をみせてるあの子をみて、本当に掛け値なしの笑顔を久しぶりにみせてもらって、心からよかったと思ったんだ。負け惜しみじゃないよ。

 

ところが、あいつときたら、あの子を手に入れて安心するんじゃなくて、さらになりふりかまわなくなった。

あの子に女王試験を放棄させるやいなや、いきなり結婚式を挙げたんだよ。

どんなことをしても手に入れたかった宝物を実際に手中にしたら、今度はそれを失うことが今まで以上に恐ろしくて仕方なくなっちゃったんだろう。

それほどあの子が大事だっていうその気持ちはわからなくもないよ。

ただ私はこの急過ぎる結婚に内心かーなーり不満だった。

準備期間がほとんどなかったから、ドレスもお仕着せのもので済ませなくちゃならなかったし、宇宙を移動した直後の残務処理やなんやかやで、パーティーもごくごく内輪で済ませるしかなかったからね。

結婚式って女の子なら、あんな風にしたい、こんな風にしたいって誰でも一度はいろいろ想像巡らせるものじゃない?

女の子が見る夢の中でも、もっとも具体的で身近なものじゃない?

それを中途半端な形で終わらせちゃったんじゃないかって言う後悔もあったし、なにより、あのこの幸せを願っていた私自身、あの子が結婚するっていうなら、ドレスはあのこの魅力を200%引き出すようなものを自分でデザインして、仮縫いは最低二回はして…って頭に描いてた計画がぶちこわしにされたのが、納得いかなかったんだ。

それでも、あのこがこれ以上はありませんっていう幸せな顔してたから、私が文句いう筋合いじゃないと思って黙ってたけどね。

しかし、あいつの暴走ぶりは、結婚してからさらに酷くなる一方だった。

あの子を自分の私邸に閉じ込めたっきり外にだしやしない。

そりゃ、執務があるから聖殿には出仕してたよ。

でも、お茶の時間も食事の時間も片時も離れない上、終業とともにかっさらうように馬車に押し込んですっとんで帰っちゃうし、休みの日に訪ねても執事に門前払い食らわされるって若いもんがずいぶん零してたよ。

私もいくらなんでも、こりゃやりすぎじゃないのとは思ったけど、で、周囲からは実際文句もでたけど、これもあの子が納得ずくであいつの側にいるって宣言してからは表だって文句をいうやつもいなくなった。

私はあの子がきらきら輝いていてくれさえいればよかったから、あのこが幸せならなにも口だしする気はなかったよ。

だけど、これは見逃せなかった。

あの子の肌がだんだんくすんできてたのさ。

幸せそうではあるよ、溌剌ともしてる。時々、ふにゃぁっと蕩けそうな笑顔も見せるし。ああ、幸せなんだね、よかったねと思ってた。でも、なんか肌に艶がなくて疲れてみえるんだ。

すぐにぴんと来たね。

あいつが無理させすぎてるんだって。

暇にあかせて体鍛えていたような体力ばかな男が、そいつの半分くらいの大きさしかない女の子に全力でぶつかっていったらどうなると思う?

愛があったって、しかも、あの子自身ははそれを辛くもなんとも思っていなくても、むしろ嬉しく思ってたとしても、体には負担がでて当たり前でしょーが。

いくら好きだからって、相手に負担を強いたり、無理強いで成り立つ関係なんて不自然だよ。当人が今は気付いてなくても、無理を重ねるといつかきっと大きな破綻がくるよ。

私はそんなのはいやだね。

あいつのためじゃないよ、あの子のためにそんなことになるのは許せないね。

あの子を泣かせるために、あの子をくすませるために、あいつに預けたんじゃないよ。

あいつの側にいる時が、あの子は一番輝いてきれいに見えると思ったからこそ、応援したんだからね。

あいつの側にいて、輝きが曇ってしまうんじゃ本末転倒じゃないか。

でも、きっとあいつは、あんまりあの子に目がくらんでて、自分があの子に無理させてるなんて気付いてないだろうね。

悪気がない分、余計にたち悪いんだけどね。

あの子もあいつの全力投球の愛情表現を拒むような子じゃないから、きっと体力の限界まで我慢しちゃうだろうし。

ここは、やっぱり私が出るしかないでしょ!

あの子のピンチに私がでなくて誰が出るのさ!

そこで私はあの子の『きれい』を取り戻させてやるにはどうしたらいいか、考えた。

とにかくあいつと引き離して、ゆっくり休ませてあげるのが先決だよ。

あの子が一人になるようにするには、外出させちゃうのが手っ取り早いんだけど、ただ外出させたんじゃ却って疲れさせちゃうかもしれないし、今のあの子の友達といったら自由な外出はままならない至尊の存在しかいないし…第一、あいつがあの子を一人で外に出すわけがないし、あの子もあいつを一人にしたがらないだろうし…

そうだ!

私ったら美しさを司る守護聖のくせに、なぜこんな簡単なこと、思い付かなかったんだろう。

あの子がきれいを取り戻せて、しかも、体をゆっくり休める事ができて、その上、あいつがついてくる心配のないところが、私のアドレスの筆頭にあるじゃないか!私のテリトリーと言える場所がね。

あの子もきっと嫌とはいわないはずだよ。鏡を見る女の子なら、きっと自覚しててなんとかしなくちゃとも思ってるだろうしね。

あとは、あいつの扱いだけど…これは、あの子に任せよう。

あまり表に出さないだけで、あいつの扱いに関してはあの子以上にうまくやれる人間なんていないだろう。

あの、なんでもかんでも自分で抱えこもうとして気苦労の耐えないあいつの上司より、あいつの操縦法に関してはずっとうまいはずだよ、きっと。

はっきり言って、あの子がその気になれば瞬きひとつで、あいつにバンジージャンプだろうが、山盛りグリンピース完食だろうがさせられるんじゃなかろうか。

というわけで、私は楽しい計画を巡らせながら、あの子が私の執務室に来るのを待ってた。

私からあの子の執務室を訪ねてもよかったんだけど、あのこが自分の執務室にいる時はかなりの確率であいつも一緒にいるし…なにしてんだか知らないけど、そのうちジュリアスにみつかってもしーらない!あいつには、この計画を直前までしられたくないからね。

だってさ、あの子が私とでかけることにあいつがいい顔するわけないからね。その意図がなにで、例えあの子が自分から望んだことであってもさ。そして、あいつがいい顔しないと、あの子も遠慮しちゃうかもしれないし。

なんたって、これって形だけとはいえ一応私とデートっていえなくもないでしょ?

と思ってたところに、あの子が書類持ってやってきたよ。

うーむ、やっぱりお肌の肌理がそろってない。これは待ったなしだ。

私はとりあえずあの子にお茶を飲ませて、いきなり核心をついた。『お肌荒れてるよ!』ってね。

あの子がすぴょーんと後ろに飛び退った。びっくりした子猫みたいだ。この激烈な反応がかわいいったらないね。

でも、すぐにあの子は、いじけたり、むくれたりしないで、素直に私にどうしたらいいか助言を請うてきた。

あの子は私があの子に悪戯に惨めな思いをさせるためにこんなこと言出したんじゃないってちゃんとわかってくれてる。私がどうにかしてやりたいと思ってる気持ちを素直に汲んでくれる。

この賢さと優しさと素直さ、ほんとに得がたい子だよ。あいつが溺れるのもわかっちゃうところが癪だね。

だから私はあの子に私の考えを伝えた。

あの子は素直に私の提言に耳を傾けてる。あの子がかなり心惹かれてるのがわかった。

そりゃそうだよね。きれいになりたいって気持ちは女の子がうまれつきかけられてる魔法じゃないかと思うもの。で、実際女の子はその気持ちを現実に引き寄せる力を誰でも持ってると私は思ってる。

あ、話がそれたね。

でも、あいつのことがあるからあの子は躊躇ってる。

だから、私は駄目押しの一激を与えた。『結果を見たらあいつもその方が喜ぶよ、きっと』って。

あの子ははっとしたような顔で、それからこっくり頷くと、はればれとした笑顔を見せた。

あいつが喜ぶと思うとそんなに嬉しいの?

わかっちゃいるけど、妬けちゃったよ、私は。

だからって、あんたの外出に関してあいつを説得する方法は、自分で考えてごらんってあの子に言ったのは、意地悪じゃないよ。

あの子以上にあいつの弱点を知ってる人間なんていやしないんだから、私が変なアイデア授けるよりいいと思ったんだ。で、あいつが絶対断れないおねだりの仕方を考えてごらんって言ったんだ。

 

で、あの子はうまくやったみたいだった。

休日に私が誘いに行ったらすんなりあっさりお出かけできたからね。あの子は敏い子だから、上手におねだりしたんだろう。

で、出かける道すがら『どうやっておねだりしたの?』って聞いたんだけど、教えてくれないんだ。真っ赤になっちゃって。

これは相当あいつにとっては楽しいおねだりだったんじゃないだろうか。そのうち酒の席ででも聞き出してやろう。

で、私、はたと思ったんだけど、私って結局あの子のためというより、あいつのためによかれと思う事ばっかりしてない?なんだかばかばかしいような気もしたけど、あいつが喜ぶと、あの子が喜ぶから仕方ないんだってすぐ気付いた。

あの子喜ばそうと思ったら、あいつを喜ばすのが一番手っ取り速いんだもの。うー、やっぱりばかみたいだ。

でも、綺麗な女のこがもっと綺麗になるのは見てて気持ちいいよ。だから、今回はそれでよしとしよう。

私があの子を連れていったエステサロンは、完全個室でお客一人につきエスティシャンが2人ついて最高のサービスとリラクゼーションを約束してくれるところ。ほとんど全裸に近くなるから、個室じゃないと困るもんね、お互いに。

あの子、今頃どんなサービスうけてるかな、なんてちょっと想像しちゃったことは内緒ね。

施術がおわってパウダールームで私がお化粧なおしてたら、あの子のコースもおわってパウダールームにやってきた。そして私に聞いてきたんだ。

『あの、少しはましになりました?』って、おずおずと。

んもう、なに心配してるのさ。元がいいんだから、ちょっと磨けば元通り、いや、それ以上だよ、綺麗になったね、よかったね、いろいろ私は言ってやった。

でも、あの子が一番嬉しそうな顔をみせたのは

「早くあいつに見せてやりたいでしょ、きっとあいつも見違えたって言うよ。」

って、私が言った時だった。

その後、併設のレストランで一緒に軽く食事した。

一緒に食事するくらいの役得があってもいいよね?

私、その時少し無口だったかもしれないね。あの子の輝く素肌に見とれちゃってただけ、それだけさ。

で、その後、あの子を家まで送り届けたんだ。

あの子ったら、あいつの顔見た途端、鉄砲玉みたいに飛び出していって、あいつの腕の中が約束の地みたいにすっぽり収まっちゃって…

そしてあいつはあの子を抱いたまま、一瞬だけど故意に私を無視したわけ。あいつはあいつで、あの子を攫った私に僅かばかりの意趣返しをしたかったのかもしれないけど、そんな必要まったくないことに気付いてないのかね。

どこからどうみても、あの子はあんたのことしか眼中にないっていうのにさ。まったく。

これ以上あてられちゃかなわないから、私は、失礼にならない程度だけ滞在して…具体的にはお茶一杯飲むくらいの間だけね、早々にひきあげてきたってわけ。

あの子がきらきらに輝いて、嬉しそうに微笑んでたから、私はそれで満足さ。

あの子にあまり無理させないことと、お手入れに定期的に出かけてもいいって言質もあいつからとりつけたしね。

これって合法的に月一のデートの権利を得たってことだもんね、ふふん。

私はいつでも、あの子が困ったときの相談相手、いいお兄さんでいいんだ。あの子の幸せを応援してきた気持ちに嘘はないよ。

あの子もそんな私を信頼してくれてるから、素直に言うことも聞いてくれるんだろうし。

迷った時、困った時はなんでもお言い。なんでも聞いてあげる。わかることならなんでも教えてあげる。

好きな相手には却って聞けない事や、話せない事もあるだろう?肌をあわせちゃうと、それでわかった気になっちゃって、かえって交す言葉がすくなくなったりすることもあるだろう?

女の子にはわかりにくい男のものの見方、考え方なんてものも、私なら教えてあげられるからね。

あんたの顔が曇ることのないよう、ずっと見てるよ。

あんたがきらきらの笑顔でいてくれたら、それでいいんだ。

でも、あの一瞬…

あんたの顎をもちあげて、あんたの顔をまじまじと見たとき…ほんとに確認するだけのつもりだったのに…翠の瞳に吸いこまれそうになった。私が焦がれてやまない一面の春の野がそこにはあった。愛らしい唇はまさに野に咲く可憐な花だった。

思わず、触れたくなった。ただ、単に触れたくなった。ほんの一瞬だったけど、確かにそう思った。

美しく可憐な花びらに唇を寄せたいと思うのは、人としての自然な情だよ、それ以上でも、それ以下でもない。他の思惑はなにもなかった…と思う。

美しいものを美しいと感じる心は誰でも同じだろう?

しかも可憐でいじらしくて愛らしいこの花は、私が知ってる限りでも最高に美しい物のひとつなんだから。

でも、私は知っているから。あんたはもう誰が愛でてもいい野の花じゃない。あいつが風にも当てぬよう慈しんでる掌中の薔薇だ。あんたを愛でていいのは、全身全霊であんたを守ろうとし、思いを注いでるあいつだけだ。

もっともあんたは風にあたったら倒れちゃうようなそんなにひ弱な存在じゃないけどね。

花泥棒は罪にならないって言う人もいるけど、私はそうは思わない。特に人が大切にしてる花はね。だから見るだけにしておくよ。人の花は外から見てるほうがいい。

第一せっかく得ている花の信頼をなくしちゃったらもったいないもんね。

だから私はあんたに唇で触れる替りに、金の髪をふわんと撫でさせてもらってその場を辞した。

たんぽぽの綿毛みたいに軽やかで、春の光みたいに暖かな感触だった。掌がほんのり温かく感じたよ。

やっぱりあんたは陽春の光の申し子、春の花そのものみたいな女の子だなって改めて思った。

私は、あいつにも言えないようなことを打ち合けて相談してもらえる、そんな場所にたってられればいいよ。それってかなりおいしい場所だと思うしね。

春の花みたいなあんたを知れて、一方ならぬ関わりを持てて、私は幸せだよ。あんたが私の人生の外にいないでくれたことを感謝したいくらいさ。

きっと、私には、私だけの春がどこかで目覚めを待ってるって、そうも思えるからね。

あいつが、あんたと出会うまで、ずっと冬の只中のような心象だったことを今は知ってるからね。あいつにもあんたという春がやってきた。いや、あんたもあいつの与える熱さで花開いたんだから、互いが互いに春をもたらすような存在だったんだろう。それならきっと私にも私の春がどこかにいるはずさ。

それまでは、あんたという花を眺めさせてもらうよ。

あんたがいつまでも美しく咲いていられるように、ほんの少し手助けをさせてもらいながらね。

それが今の私の喜びなんだ。


77777HITでキリ番をGETしたげんちゃん様のキリリクは
基本はオスアンで、その世界をヴィエ様の視点からみたモノローグということでした。
「ほんのりアンジェに恋心を持ってたけど、アンジェの相手は自分ではないと悟った。そんなヴィエ様の独り語をお願いしたいかな?と。」
ということだったので、丁度時期的に「珠磨かざれば…」でヴィエ様を前面に出したばかりだったということもあり、この番外編的な形にまとめてお渡ししました。
実は私は「珠…」を書いているとき、このヴィエ様はアンジェにほのかな想いを寄せていたけど、アンジェがオスカーのことを好きだということがわかっていたので、何も言わずに相談役に徹した、みたいなヴィエ様の心情を挿入しようとして、「いや、これはヴィエ様の物語じゃないから、かえってテーマがぼける」と思ってカットしてたんですね。
ところが、ゲッターのげんちゃん様は「珠…」を読んで、このヴィエ様はアンジェを好きだったに違いないと、行間を読んで下さって、で、このリクを思いついたそうです。さすがヴィエ様に愛のある方は違いますね〜。私も行間読んでいただいて嬉しかったです。
で、私のオスアンあまあまシリーズをヴィエ様の視点でみた形になってますので、他のシリーズ読んでないとわかりにくい描写が若干ありますね。アンジェとオスカーの愛の成就の経緯は「ディアスポラ」を背景としてますので、未読の方はよかったらお目を通してみてやってください。ただ、基本はオスアンなのでヴィエ様には少し切ない話にまとまってしまいました。
でも、ヴィエ様のお相手は今のところちょっと思い付かないので、ヴィエ様の春のお方はあなたの心のなかで…ですね(笑)
この話を書くにあたって、ヴィエ様の過去をさぐるべくトロワでおっかけを繰り返して、おかげで興味深い話しも聞けまして、私としても創作の幅がほんの少し広がったかしら?思っております。


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