優しい雨


女王の庇護のもと、聖地は常に穏やかな天候が保たれている。朝夕は涼やかにすがしく、昼日中はうららかに柔らかな陽の光が満ちる。風はいつも爽やかに、花と緑の香気を乗せて、踊るように軽やかにそよいでいる。草木がいつも生き生きとした緑を保てるように定期的に雨も降る。そして降雨の予定は基本的に王立研究院の管理下にある。

だが、聖地は、たまさか、予定にない降雨に見舞われることがあった。

その雨は、静かに、けぶるように聖地に降り注ぐ。何故か、聖地の休日前夜に降ることが多いが、そう長い時間降ることはない。通り雨といった処で、大抵は夜明け前に止む。

まるで、聖地全体を潤すように、その雨は優しい。夜の間に、木々はその優しい雨に葉を洗われ、瑞々しく梢を潤される。そして朝の光を迎えると伴に、草木は、より色濃く、生き生きと緑を輝かせる。

だから、聖地に住まう人々の間では、この予期せぬ雨は、いつしか、女王陛下の優しい御心の現れと受け取られるようになっていた。木々や花々が、生き生きと萌え出、より美しく咲き誇れるように、人々が、休日に、その美しい緑を眺めて、1週間の執務に疲れた心を和ませられるように、きっと、陛下は、そんなお優しいお気持で、土の曜日の夜半過ぎに優しい雨を降らせてくれるのだろう、人々はそう噂しあった。

が、極たまに、この、予期せぬ雨が、昼日中に降ることがあった。

たまたま、その雨に出くわした人々は、不思議とその雨滴は暖かく、ほのかに甘く芳しい香がすると口々にいった。

 

「陛下は、まだ祈りの間においでなんだな…」

炎の守護聖オスカーは、ただ、現状を確かめるためにのみ、補佐官であるロザリアに尋ねた。

探るまでもなく、女王のサクリアは遠く隔たった宇宙に注がれていることが、オスカーには、よくわかっていた。彼女の意識同様にだ。彼女の意識が聖地に戻っているのなら、この俺にわからぬ筈がない、そう思っていても、オスカーは尋ねずにいられなかった。

「ええ、予定では、お昼前にはご公務もお済みになって、祈りの間からお出ましになれると思っていたのだけど…」

補佐官は麗しい眉を僅かに顰めた。女王の身を案じていることがありありとわかる。それはオスカー自身が全く同じ胸中だからだろう。

女王は祈りの間で一心に祈る。祈りの中で、守護聖たちのサクリアを操り、束ね、自らの女王のサクリアを要として、宇宙を守り覆う緞帳を織り上げる。どこかに綻びを見つければ、必要なサクリアを以ってこれを繕い、強化し、宇宙全体の安定と安寧を図る。これが所謂女王の「公務」である。

そして、女王の今回の「公務」は10日間の予定であり、今日が公務の最終日になる筈だった。

が、女王が公務を終えて、祈りの間から出てくる気配が見えない。オスカーはその事実に女王陛下の身を案じずにはいられない。

最近、陛下が公務に携わる時間が長くなる一方であることが、オスカーに一方ならぬ憂慮を与えている。

次元を隣接する聖獣宇宙の不安定さが、この神鳥宇宙によからぬ影響を与えているのは言を待たない。本来、若い宇宙にはありえないことなのだが、聖獣宇宙はいまや熱的死の一歩手前という危機的状況に陥っている。ために、聖獣宇宙からの影響を最小限にすべく、次元面での接触はできる限り抑制しつつ、一方で、こちらの宇宙からサクリアを送り届けるための道筋は残すという綱渡り的調整を、女王は、細心の注意を払って行っていた。加えて、聖獣宇宙との次元の連続面での綻びと侵蝕に絶え間なく目を配り、一度綻びを見つけたら、即座に修繕を施すことも欠かせなかった。

そして、今、考えられていた刻限に女王の「公務」が終る気配を見せない…ということは、恐らく思っていた以上に、宇宙は神経の集中とサクリアの細かな調整が必要な状態だったのだ。それで、予定より時間がかかっているのだろう。

ここまで根を詰めねばならない女王の心身の消耗が気がかりでならない、なのに、今、この時、オスカーには直接女王を手助けできる手段がない。そんなこの身がもどかしくてならない。

灼けつくような焦れの感情を持て余し、黙りこくってしまったオスカーに、ロザリアが申し訳なさそうに言った。

「オスカーも陛下の御身を案じて様子を見に来てださったのでしょう?けど、この様子では、陛下のお出ましも何時(いつ)になるかわかりませんし…今日は休日ですもの、どうぞオスカーも私邸でお寛ぎくださいな。陛下も『守護聖たちには、ゆっくり休んでもらって。聖獣宇宙の分も、いつも以上に働いてもらっているんですもの』という思し召しですし…陛下は、エトワールの選定から、神鳥宇宙のみならず聖獣宇宙に送るサクリアを放出してもらわねばならないことで、守護聖様方に過度の負担を強いておられることを、大層お気になさって、守護聖様がたの御身を案じておいででしたから…」

「…まったく、陛下は、ご自分こそが、誰よりも大きな重責を担い、今も…誰にも替わりのできぬ務めを果たしておいでなのに…陛下はいつも、ご自身のことは後回しで、周りのものを真っ先にねぎらい、気遣って…」

「ええ、だから、メルからサラやパスハの近況でも聞いて、久しぶりに占いでもしてもらえれば、いい気分転換になると思っていたのだけど…」

「メル?メルが聖地に来ているのか?」

補佐官は頷くと、一瞬「言おうか言うまいか」という顔を見せたが、結局、今、彼女が直面している、単純だが、すぐにも対処したい問題をオスカーに訴えた。

なんでも先刻から、メルが火龍星から非公式の客として聖地に来ており、陛下との目通りを待っているのだというー本来、今日は休日だから、この日この時刻なら陛下もご公務を終えて、私的な拝謁の時間が取れると踏んでのことだったのだろうーが、陛下は未だご公務中であり、陛下がいつ公務を終えて、祈りの間からお出ましになるかの目処もたたないので、ロザリアは、この場を離れるに離れられず困っていたのだということだった。ご公務を終え、お疲れになってお出ましになるであろう陛下を、すぐさまお迎えしてお世話をしてさしあげたく、一方で陛下からメルへ渡すようにと言伝られていたごメッセージもあって、こちらも、できればロザリアは直に手渡したいのだが、かといって、いつまでもメルを待たせてもおけず…と、ロザリアは、どうしたものかと考えあぐねていたのだという。

「そういうことなら、陛下のお出迎えは俺が引き受けよう。陛下は、俺が責任を以ってお守りしお世話申し上げる。陛下のことは俺に任せ、補佐官殿は、安心してメルをもてなしに行くといい」

オスカーが誠意と熱意を込めてそう言うと、補佐官・ロザリアは一瞬逡巡を見せたが、すぐさま「では、陛下のこと、お願いいたしましてよ」と言うと、そそくさと控えの間から出て行った。

ロザリアの姿が見えなくなるのまって、オスカーは女王がおわす祈りの間に通じる扉の正面に立った。オスカーの身の丈の悠に2倍はある重厚な扉が、オスカーと女王とを実際の距離以上に遠く隔てていた。

オスカーはこの扉の向こう、一心に祈りをささげているであろう、女王の姿を心に思い描く。

この扉の向こうで彼女は、神鳥宇宙の安定を守るため、聖獣宇宙を救うため、もてる力を、心の限り注いでいるのだろう。

叶うことならば、この腕で直に彼女を支え、励ましたい、俺のもてる力の全てで彼女を守りたい。彼女の負担が少しでも軽減できるのなら、この身が枯れるまで、炎のサクリアを放出することも厭わない、むしろ、喜んでそうする…だが、そんなことをしても、直接的には何の役にも立たない…。宇宙を守り、支えることは、一人女王である君にしかできず、俺は、君のすぐ傍らに佇むこともできない。

今の俺にできることは、この扉の前で、君を思うこと、君の無事を願い、君の笑顔を望み、この俺の腕が、胸が、君を抱き、包みこみ、君の心が少しでも解れ、安らげるようにと祈ることだけ。

「アンジェリーク…」

誰よりも何よりも愛しい名をオスカーは口にする。

『っ…冷たい…』

オスカーは、はっと顔をあげた。

気のせいか、空耳か…彼女の声が聞こえたような気がしたが…。

彼女が寒さに凍え、指をかじかませている幻視が、一瞬、オスカーの頭の中に弾けるように閃いた。理屈ではなく、直感的に、これは彼女の置かれている「現実」だと感じた。

オスカーの胸の最も奥深い処から、ふつふつと抑えようもない熱いものが湧きいで、溢れでた。オスカーは、何かに突き動かされるように、炎のサクリアのありったけを力の限り迸らせた。ひたすらにアンジェリークを思い、ただただ彼女を暖めたいと願う心の赴くままに。この俺のサクリアよ、どうか彼女の許に届いてくれと切に祈りながら。

 

『冷た…』

神鳥宇宙の女王・アンジェリークは次元の綻びをサクリアで繕おうと触れた瞬間、思わず呟いて、身震いした。その裂け目から忍び込んでくる身を切るような冷気に、つい、手を引っ込めてしまった。

もう何日も何日も、次元の綻びを見つけては守護聖たちのサクリアを束ねて繕いをしてきた。聖獣の宇宙からの冷気が、この神鳥宇宙に滲出し、はびこることのないように、と。

でも、繕えど繕えど、隙を見て触手を伸ばしてくるような冷気に、いまやアンジェリークの指先はかじかみ、体はすっかり底冷えしてしまっている。

アンジェリークが、今、感じている冷たさは、あくまで心象上のものであり現実のものとは異なる、それはアンジェリークもわかっていた。

次元の綻びをサクリアで繕おうとするたびに、骨の髄まで染み渡るような冷気が、指先から腕へと這い上がってくるかのよう…だけど、この冷たさは、幻の冷たさ。私の心が感じている冷たさで、実際に、私の体が冷気に晒されている訳ではないのよ…と、アンジェリークは自分を励ましてきた。

…でも、しんしんと、じわじわと、染み入るように冷気が入り込んでくるこの感覚は、現実としか思えない。だからこそ、この綻びを、そのままにはしておけないと、アンジェリークはより強く、心に思うのだ。

エルンストに説明された「宇宙の熱的死」そして「熱平衡」……エネルギーの分布が均質化すると宇宙の全部が均一の温度になってしまう、そうなると、宇宙全体は限りなく冷え切って、文字通り、凍った湖面みたいに、何も動かない世界になってしまうらしいーそれは星一つ瞬かない凍りついた世界ー聖獣の宇宙は今、そんな風になりかけているらしい。

『サクリアの絶対量が足りないので、エネルギーは循環する以前に宇宙全体に散らばってしまい、結果としてエネルギーが均質化して、聖獣の宇宙は冷却化のスパイラルに陥った…と推測されます』

と原因を推測したエルンストが、続けて

『最終的に、熱的死を迎えた宇宙は限りなく絶対零度に近づきます。そして、これが問題なのですが…熱いものと冷たいものが隣接する場合、熱量は高きから低きに流れ、時間が経つにつれ、隣あうものの温度は同じになります。これを熱平衡といいますが、私たちの神鳥宇宙と聖獣宇宙は、まさに時空間的には隣り同士ともいえる近しい関係にあります。しかも、物体の組成や密度により、平衡化した温度が2つの物体の平均になるとは限りません…つまり、聖獣宇宙が絶対零度近くまで冷え込んだ場合、隣接する時空間連続体ーつまり我々の神鳥宇宙も近似値まで冷却化が進行する可能性もあるということです』

と言った時、私、本当に慄然としたわ。その言葉の意味が…このままでいたら、この宇宙がどうなってしまうのか、簡単に想像できたから。

そんな、怖い…寂しい世界は嫌。大好きな人たち、愛しい物たちで溢れているこの世界が、凍りついて何一つ動かない世界になってしまうなんて、嫌よ、絶対に嫌。

私、その時、何を考えるより先に、あなたの方を見た…何より大事で、誰より大好きなあなたが、そんなことになったら…そう思うと怖くてたまらなかったからだと思う。

そうしたら、あなたも、私を見つめてた。そして、私にだけわかるように、力強い瞳で頷いた。私を安心させるように、力付けるように…

だから、私、絶対、この宇宙を…あなたがいるこの大事な宇宙をそんなことにはさせないって気持が、強く芽生えた…。怖いと思うほどに、この宇宙を守らなくちゃという気持も強くなったの。

そして、隣の宇宙でも、私と同じように考え、感じる人は一杯いると思うの。大事なものを守りたいと思う気持は、きっと誰でも同じ、私だけじゃない。

だから、私、できる限りのことをして、この愛しい大事な世界を守りたいと思うの。あなたを育み、あなたと私を出会わせてくれたこの世界を、大切に守っていきたい。だって、あなたがいてくれるから、この世界は、こんなにも喜びに溢れ、眩しく、暖かく、優しいのですもの。

だから…指先がちょっと冷たいくらい我慢、我慢…この隙間から、冷たさが忍び込んでこないように、あなたが凍えることなんてないように…そして、私と同じように、愛しい大切な存在を胸に抱く人たちが、同じような思いで胸を痛めることのないように…急いで、この綻びを繕わなくちゃ。守護聖たちも、とても、一生懸命頑張ってくれてるんですもの。自分の宇宙も支えて、聖獣宇宙の分のサクリアも与えて…こんなにたくさんのサクリアを私に託してくれた守護聖たちのためにも…私、頑張らなくちゃ…

でも…冷たくて…指が、中々、動かない…サクリアを織り上げるのに、いつもより、時間がかかって…後、少しなのに…

上手く動いてくれない指先にアンジェリークが焦れていたその時、アンジェリークの頭の中に、ばしっ…と音をたてて真っ赤な閃光がはじけるように閃いた。唐突に、体の中心にぱっと火が灯ったような心持がした。

『え…何?暖かい…いえ、熱い…?』

…体の中心から全身に迸り、染み渡っていくような暖かさを感じる…心から安心できる、懐かしく慕わしい暖かさ…この暖かさに、体の奥底から、ぐぅっと音を立てて幸せな気持がこみ上げてくる…熱い程のこの奔流…私の体がよく覚えている…この熱く爆ぜるように迸るものは…

「…オスカー…オスカー!」

オスカーだわ、オスカーがすぐ傍にいる、目には見えないけど、今は触れることはできないけど、オスカーの魂が、私のすぐ傍にいてくれてるのを感じる、私に寄り添うように、私を暖めるように…私を支えようとしてくれているのを感じる…オスカーの炎のサクリアが私を暖め、力付けてくれてるのが、わかる。

この祈りの間は、魂がまっさらになって開け放される場所だから…何も飾らぬ心が、大切な願いが、形となる空間だから…?

アンジェリークは、もう、寒さなど感じなかった。燃えるような熱さが体の中心に灯り、内側からアンジェリークの身を暖めてくれていた。

オスカーが私を守ってくれてる、暖めてくれてる、限りない優しさと力強さで。

オスカーの心が私に力を与えてくれるのがわかる。私の心を強くしてくれる。オスカーがいてくれるから、私は勇気が出せるの。

私、オスカーのいるこの世界を守りたい、オスカーと何時までも一緒に、笑みを交わしながら歩いていきたいから…。オスカーには、いつも幸せでいてほしい、笑顔でいてほしいから…

炎のサクリアは、アンジェリークの精神を熱いほどに暖め、眩いほどに照らした。その強きサクリアの力を得て、アンジェリークは、見違えるように手際よく次元の綻びを繕い、冷気が忍び込む隙をしっかりと塞いだ。これで、暫くは聖獣宇宙からの冷気の侵入を防ぐことができるだろう。その間に、エトワールが私の守護聖たちのサクリアを十分に向こうの宇宙に運んでくれれば、きっと…

アンジェリークは、ほぅ…と小さく吐息をついた。

途端に、自分の周りの岩壁が見えるようになった。自分の精神が体のある世界に戻ってきたのだと知った。

すぐさま、アンジェリークはぱっと立ち上がると、まとわるドレスの裾ももどかしく、祈りの間の扉の前に駆け寄った。女王のサクリアに扉が呼応してゆっくりと開きはじめる。漸く人一人分通れるほどの隙間が開くや、アンジェリークは矢のようにまっすぐに、勢い良く外に飛び出した。

次の瞬間、厚く、逞しい腕が自分を抱きとめてくれることを、微塵も疑っていなかった。

だって、彼女の魂は『知って』いたのだから。誰より愛しい、大切な存在が、すぐそこに居てくれることを、感じていたのだから。

「オスカー!オスカー!」

「!!!…アンジェリーク!」

子供のように自分の胸元に思い切り良く飛びこんできたアンジェリークを、オスカーは、あやまたずにしっかと抱きとめた。が、その思いがけなさに、守護聖としての礼節を忘れ、素に戻って愛しい恋人の名を呼んだ。

アンジェリークは人懐こい子猫のようにオスカーの胸に頬を摺り寄せた。瞳をきらきら輝かせ、頬をばら色に染めて、オスカーを見上げた。

「オスカー、ありがとう、オスカーがすぐ傍にいてくれたの、ずっと感じてた。オスカーが私を暖めてくれて…ずっと一緒にいてくれた…ありがとう、オスカー、好きよ、大好きよ…」

「アンジェリーク…」

事情を飲み込むまでの戸惑いは、ほんの一瞬だった。己の懐にすっぽりと納まっている華奢な体を、オスカーは、改めて思い切りかき抱いた。

「そうか…俺の魂は…ちゃんと君の傍らに辿りつけていたんだな…君の心が寒さに震えている姿を感じて、俺はいても立ってもいられず…」

「ええ、オスカーがずっと私を暖めて、力を与えてくれた、だから、私、凍えずに済んだの、オスカーの炎のサクリアのおかげで、指先も上手く動くようになって、次元の綻びもきちんと繕えたの、本当にありがとう、オスカー」

にっこりと晴れやかにアンジェリークは微笑んだ。

が、オスカーは憂いの隠せぬ表情で

「だが、君の体、今もまだ冷え切っているようだ…この可愛い指先も…」

と言って、アンジェリークの手を取ると、その白く細い指先を己の唇に押し当てた。

「あ…」

アンジェリークの頬に、さっと朱が差した。

「この桜貝のようにかわいい耳も、こんなにも冷たくなって…」

「あん…」

オスカーに耳朶の上辺を唇ではさまれるように口付けられ、アンジェリークは思わず、やるせない吐息をついた。

すかさず、オスカーもまた、熱い吐息交じりにアンジェリークの耳元でささやいた。

「俺が暖めてやりたい…体ごと…」

アンジェリークは一瞬、大きく瞳を見開くと、ぽすんとオスカーの胸元に顔を埋めて、小さく小さく頷いた。微かに風に揺れる花の蕾のように。

オスカーは己の眼下でふんわりと揺れた金の髪にそっと口付けた。

 

人気のない休日の聖殿の回廊を、オスカーは、アンジェリークを腕に抱きかかえ、堂々とした風情で、足早に彼女の私室に向かった。オスカーは、自信に満ちた振る舞いこそが、邪推や憶測を撥ね退けると知っている。補佐官には「陛下は自分がお送りして即刻お休みいただくので、心配なきよう」と伝言を残しておいたので、こちらから邪魔が入る心配もない。

女王の私室の扉を開ける。まっすぐに寝台を目指し、そっと彼女を座らせてから、自分もそのすぐ隣に腰掛ける。

ベールのついたサークレットを静かに外す。豪奢なマントのついた金糸の胸当ても肩から外して横に置く。彼女が、ほ…と、安堵したように吐息をついた様子をオスカーは見逃さない。柔らかな金の巻き毛をかき分けて、そっと、うなじに唇を押し当てると、アンジェリークが息を飲む気配が伝わってきた。オスカーは背後からうなじと首筋に幾つもの口付けを落としながら、薄紅色のドレスのファスナーをゆっくりと下げる。真っ白な背が露になっていくにつれ、オスカーの唇も、アンジェリークのうなじから肩へ、肩甲骨から背筋へと、少しづつ下に下りていく。

「アンジェリーク…」

ビロードで耳朶をなでるようにその名を呼ぶと、アンジェリークが、反射的にオスカーの方に顔をむけた。

その顔をすかさず捉えて、今度は唇に口付ける。様々に角度を変えて彼女の唇を丹念についばみながら、袖から腕を抜き、腰を浮かせてドレスを剥ぎ取り…そして、絶え間ない口付けの合間合間に彼女の名を呼ぶ。幾度も幾度も、呪文のように。

そう、これは呪文なのだ。

彼女が「女王陛下」から「アンジェリーク」に戻るための。

オスカー自身もそうだが、正装を身につけることで、公的な立場を担う心構えが強化される、という処がある。意識が公のものに切り替わり、より確固とするとでもいうのか、正装には「守護聖」としての顔、「女王」としての立場の自覚を促す力がある。正装とは、担うべき物ー責任・義務・立場などーの象徴だ。

だからこそ、オスカーは順々に、時間をかけてアンジェリークの豪奢な正装を解いていく。「アンジェリーク」と彼女自身の名を呼びながら。彼女を飾っている物が少しづつ取り払われ、その身が軽やかになっていく様子が、彼女自身によくわかるように。色々なものから解放されて、心も体も、ゆるやかに息がつけるように。

オスカーは、二人きりの時には、アンジェリークに「自分自身」を取り戻させてやりたい。女王という立場、責務、そういった諸々全てを忘れさせてやりたい。女王は、気の遠くなるような歳月の間、その責任から逃げることも、立場を投げ出すこともできない。そして、彼女はそんなまねは絶対しないし、考えもしないだろうとわかっているからこそ、一時の限られたものであっても、彼女に、何もかもから解放された時間を与えたい。自由に魂を飛翔させてあげたい。

そう思うから、オスカーは、重ねてアンジェリークの名を呼び続け、蕩けるような口付けを与えながら、ドレスも、可憐な下着も…彼女を締め付けるもの、飾り立てるもの一切を綺麗に取り払っていく。アンジェリークは、オスカーのその想いがわかっているのだろうか、安心しきったように、オスカーの手に一切を委ねてくれる。装飾を解いていくほどに、アンジェリークの体の線も、解れて柔らかになっていくのが、オスカーの手にはよくわかる。同じように、オスカー自身もまた、何も飾らぬ身となって、アンジェリークと向き合う。

アンジェリークを横たえざま、天蓋の垂れ布を引いて寝台をすっぽりと覆い隠し、何者にも侵されない、二人きりの小さな世界を作り上げる。薄い布1枚で隔絶された空間は、擬似的かつ象徴的なものでしかない。が、何もかもから切り離された、この時、この場所では、互いの姿だけを見つめあい、互いのことだけを思いあえる…そう感じられることが大切なのだとオスカーは思う。

そして、オスカーは、アンジェリークの華奢な体を思い切り抱きすくめた。

 

小さな頭を抱え込むようにして口付ける。差し出した舌で彼女の歯列をなぞって促すと、アンジェリークがおずおずと応えてくれる。オスカーは、すかさず彼女の舌をきつく捕らえて、絡みあわせる。唇を強く吸いながら、アンジェリークの背中に腕を廻して交差させ、しっかりと抱きなおす。

俺の体全部で、彼女をすっぽりと覆いつくしてしまいたい。俺の熱を全て彼女に伝えたい。

それ程にアンジェリークの体は冷え切っているようにオスカーには思えた。

「は…」

が、アンジェリークが幾分苦しそうに身じろぎしたのを感じ、オスカーはほんの少しだけ、腕の力を緩めた。彼女との間にできるだけ隙間も作りたくないのは、自分の温みを少しでも多く彼女に分け与えたいからだ。

「お嬢ちゃん…かわいそうに、こんなに冷えきって…」

アンジェリークは小さく首を振りながら、オスカーを安心させるように微笑みかけた。

「オスカーがサクリアをくれてたから大丈夫…でも…」

「でも…?」

「炎のサクリアも暖かかったけど…やっぱり、本当のオスカーの体は、もっと、ずっと、あったかくて気持いい…こうして、ぎゅってしてもらえると、とっても安心できて…私、すごく、幸せ…」

「アンジェリーク…」

「きゃぅ…」

思わずオスカーは、力の加減も忘れて、アンジェリークを抱きしめてしまう。

「もっと…もっと暖めてやる、俺の全てで」

オスカーは囁きざま、もどかしげに、アンジェリークの首筋から肩口、胸元へと縦横に唾液の線をつけ、きつく吸い上げては、ミルク色の肌に紅の花を散らしていった。

漸く抱擁を緩めた手は、すかさず、アンジェリークの乳房を包み込む。真っ白な膨らみは、指がどこまでも食い込みそうな程柔らかいのに、つんと上向いて、瑞々しい張りに満ちている。掌に吸い付いてくるような肌の感触が、たまらなく心地よく、飽くことなく触れていたいと思う。その魅惑の膨らみをこねるように揉むうちに、彼女の乳首が硬さを増しているのを掌に感じた。感じた途端に、オスカーは、心の欲するままに、乳房の先端にちゅ…と口付けた。

「あん…」

アンジェリークが半ば驚いたような、半ば甘えたような声を零す。

瞬く間に乳首がより硬く立ち上がったのが、オスカーの唇に感じられた。

その様子が愛しくて、オスカーは両の乳首の天辺に、交互に何度も口付ける。

すぐさま、口付けるだけでは物足りなくなって、乳首を口に含んで舌で丹念に転がした。乳輪から乳首全体に舌を這わせるように舐めあげ、敏感な先端は、特に丁寧に、小刻みに舌で弾く。

「あっ…あん…あん」

アンジェリークのあげる声が、艶めいていく。

オスカーは、片方の乳首を指の腹でくりくりと捻るように摘まみあげながら、もう片方の乳首をねっとりと舐め転がす。それを両の乳首に交互に繰り返す。瞬く間に、アンジェリークの乳首は、オスカーの愛撫に硬くとがって色濃く染まり、艶々と濡れ光る。その眺めは、愛らしい一方で、たまらなく扇情的だ。オスカーはこのかわいらしい乳房を無性に苛めてやりたいような気分になり、乳首に軽く歯をたてて、全体を歯先でこそげるようにしごく。軽く触れるくらいの力加減で乳首を噛んだまま、舌先で先端を弾いては、音を立てて吸う。

「あぁっ…はっ…やん…」

アンジェリークがオスカーの髪に指を埋める。さらりと張りのあるオスカーの髪を、アンジェリークの白い指がなやましげに梳く。

「あんっ…ぁあ…オスカー…も……変になっちゃ…」

「まだ、ここにも触れていないのに…か?」

笑みを含んだ声音で囁きながら、オスカーは、手を極自然な動きでアンジェリークの脚の間に差し入れると、そろえた指先で股間をすっとなで上げた。

「あぁんっ…」

アンジェリークの腰がひくんと跳ねて、一瞬、持ち上がる。暖かなぬめりが、オスカーの指で花弁全体に塗り広げられたのを感じてだ。

「胸への愛撫だけで、もうこんなに濡れてるぜ、お嬢ちゃん…」

オスカーは、つぷりと、極浅く指先で花弁を割ると、指先で円を描くように、合わせ目をゆっくりとかき回した。

「はぁっ…ん…」

「ほら、とろとろに蕩けて今にも溢れんばかりだ。わかるだろう?くちゅくちゅ言っているのが…」

オスカーは、指先で愛液の感触を味わうように、じっくりと花弁を弄っている。

アンジェリークは粘りつくような水音が恥ずかしくてたまらぬ一方で、花弁の合わせ目への浅い刺激が、なんともやるせなくて、焦れてしまう、そして、そんな風に感じている自分に、更に羞恥の度合いが深まる。

「なら、ここに直に触れたら、お嬢ちゃんはどうなってしまうのかな…」

と、アンジェリークの心の揺れを読んだかのように、いきなり、オスカーが、秘裂の奥まで、ぐっ…と指を沈めた。

「っ…」

アンジェリークは声にならない声をあげる。

しかし、オスカーは、すぐさま指を引き抜くと、花弁の合わせ目を割るようにその指先を幾度も上下に滑らせはじめた。併せて、改めて乳房の先端を口に含んで強く吸い上げた。

「あっ…あぁんっ…」

オスカーの指先は、花弁の合わせ目をくすぐるように愛撫しながらも、奥に隠れている花芽には決して直に触れてこない。花芽のほんの少し手前を掠めるように、オスカーの指は行き来している。乳首をじっくりと舐られながら、花弁を浅く愛撫され、アンジェリークは、たまらずに嫌々と頭(かぶり)を振った。

「や…オスカー…イジワルしないで…もっと…」

「どうした?お嬢ちゃん…」

ちゅっ…と音をたてて咥えていた乳首から唇を離し、オスカーが口付けを与えながらアンジェリークにわかりきった問いを投げかける。いたずらっ子のように微笑みながら。

「…もっと…ちゃんと触って…」

「こうか…?」

オスカーはこの上なく優しい笑みを口元に湛えながら、懇願の言葉を待っていたかのように、アンジェリークの花芽に指先をあてがい、優しく転がした。

「あぁっ…」

身も心も待ちわびていた甘やかな刺激に、アンジェリークの背が綺麗な弧を描いてしなった。

「ここを弄ってほしかったのか?俺の愛撫を待ちかねたように、ここをこんなにぷっくりと膨らませて…」

「あぁ…ん…んふっ…」

オスカーは乳房の先端を唇で咥えて吸い上げつつ、アンジェリークの愛液をたっぷり乗せた指を回して硬くしこった花芽を弄い、もう片方の指先で花弁の合わせ目を割っては、くちゅくちゅとわざと高い水音を立てて擦った。時折、長く形のいい指をぐっ…と秘裂の奥深くにねじ込むように差し入れては、複雑に重なりあった襞をかき回す。

「ひぃんっ…」

そのまま、腹側のざらついた肉壁をじっくりと指の腹で撫で回してやると、アンジェリークが悲鳴にも似た嬌声をあげた。

ぬれて薄く開いた唇が、とてつもなく艶かしく

「ああ…かわいいな…こんなに乱れて…お嬢ちゃんは、本当にかわいい…」

オスカーは些か強引にぐいと顎を捉え、噛み付くように口付けた。が、アンジェリークは、苦しがってすぐさま唇を解いてしまう。

「あぁっ…オス…カー…恥ずかし…」

「いいんだ…もっと、乱れて…乱してやりたいんだ…」

オスカーは、一転、包み込むように優しい口付けを一度落とし、自分の体をアンジェリークの脚の間に滑り込ませて、彼女が脚を閉じられないようにする。アンジェリークの膝頭を折るように力を加えると、かわいいお臀が僅かに浮いた分、花弁が上向いてオスカーの眼前にくっきりと艶やかに開かれた。金の繊毛に彩られ、紅色に染まった花弁のあまりの愛らしさに、心を根こそぎ奪われる。

「あっ…」

アンジェリークが羞恥と快楽への期待に胸震わせることを企図して、オスカーは、わざとゆっくりと花弁に顔を近づけていく。濃厚なバラの香りにもにたアンジェリークの愛液の香が鼻へと抜けていき、くらくらする。

その眩暈に喜んで身を任せながら、オスカーは花弁を押しつぶすかのように、思い切り強く唇を押しあて、そのふっくらとした弾力を楽しみつつ、合わせ目に舌先を差し入れる。

と、オスカーは、いきなり、とがらせた舌先を秘裂の奥深くまで、勢い良く抜き差しし始めた。重なりあう柔襞を舌でこじ開け、押し開き、わけいる。蕩けるような媚肉の感触が、舌にまとわりついてきて、たまらなくオスカーを酔わす。

「やぁんっ…んふっ…ふぁ…あんっ…」

アンジェリークの唇が艶めいた嬌声を絶え間なく零しはじめる。その媚声に応えるように、オスカーの愛戯も激しくなる。

舌がざらつく肉壁を探りあてた時は、そこをとがらせた舌先でこそげるように縦横に弾いてやる。と、アンジェリークの体がびくびくっと電撃をくらったようにはねて、細かく震えた。

「ひぁあんっ…」

「俺の舌で、こんなに感じて…最高にかわいいぜ、お嬢ちゃん…」

インターバルを与えるように一度顔を上げ、故意に淫らな口説をアンジェリークの耳に流し込みながら、長い指で秘裂をゆっくりとかき回す。すると、彼女の秘裂が、感極まったようにきゅっとオスカーの指を締め付けてきた。

この媚肉に自身が隙間なく包まれる瞬間を思うと、ぞくりと戦慄が走る。若造ならすぐさま果ててしまうだろうな、と、オスカーは一瞬苦笑した。それ程に彼女の柔襞の感触は怪しく艶かしい。

弾力に満ちた秘裂から、惜しむように指を引き抜きざま、オスカーは繊細な指先で改めて花弁を押し開く。オスカーの指にむき出しにされて紅色に濡れ光る突起に一瞬見惚れ、形のいい唇を押し当て、ちゅっ…と音を立てて口付けた。

「ひぁんっ…」

「紅く濡れ光るこの宝石を…早く愛してやりたかった」

跳ねようとする腰を押さえ込み、オスカーは舌の全部を使って、アンジェリークの宝珠を、丁寧に舐めあげはじめる。下から上へと、執拗なまでに、ねっとりと舌を絡ませて。

「ふぁ…熱い…オスカーの唇…熱いの…とても…」

「もっともっと熱くしてやる、熱くていられない程に…な…」

「あぁ…んんーっ…」

紅玉の根元を極軽く歯先で挟まれ、より尖らされた先端にオスカーの舌先が踊る。激しく左右に弾かれたかと思うと、全体をきつく吸われた。アンジェリークは閉じた瞼の裏に、真っ白な閃光が幾つも迸るのを感じた。

「はぁっ…だめ…も…痺れて…あぁっ…」

息も絶え絶えに訴えるも、オスカーは、愛撫を緩める気配がない。

むしろ、より大胆にアンジェリークの花弁を指先で押し広げると、宝珠の先端でちろちろと小刻みに舌をうごめかし始めた。同時に秘裂に指を飲み込ませて、激しく指の抜き差しを始める。

「ひぁあんっ…」

オスカーの繊細な指先が、執拗なまでに肉壁の敏感な部分を擦る。オスカーの舌は休むことなく縦横に紅玉を舐る。

「は…あぁっ…んふ…ふぁ…あぁん…」

アンジェリークは、いつしかすすり泣きにも似た声を唇から絶え間なく零し始めた。

その時、さぁっ…という、小さな数珠球が転がるような音が聞こえた気がして、オスカーは、ふと、顔をあげた。

「ああ、お嬢ちゃん、ほら、そろそろ雨が降ってきたようだぜ。君の歓喜の雫。とめどなく溢れる愛の徴だ…」

「んんーっ…」

アンジェリークには、オスカーが何を言っているのか、よく理解できない。

でも、オスカーに激しく愛される程に、あまりに豊かで深い思いが身中に満ち溢れ、堪えきれなくなって、この身から迸り出ようとする、その感覚はなんとなくわかった。

だって、あんまりにもやるせなくて、せつなくて、でも、幸せで、あったかくて、この体はオスカーへの愛しさで一杯で…好きでたまらない気持が留めおけない。抑えることなんてできない。だから、こんなに声も出ちゃう…

「オスカー…私、溶けちゃう…溶けちゃいそう…」

「ああ、溶けてしまえ…もっと…君を喜びで溢れさせたい…」

「あぁ…オスカー…オスカー…」

アンジェリークが無意識のうちにゆるゆると腕を上げて、オスカーの背を抱きしめた。

分ち難く一つに結ばれたい、解けぬよう、離れぬように…そう思った瞬間、アンジェリークの望みを汲んだように、オスカーは、がっしとアンジェリークの腰を掴んで支えるや、己の剛直で、一気にアンジェリークを貫いた。

「あぁああっ…」

アンジェリークがあげた嬌声は、すぐさま柔らかな唇で塞がれた。同時に、体の中心まで貫き通されたかと思うほどに、再び、力一杯突き上げられ、アンジェリークは一瞬気が遠くなった。

が、意識が薄れ掛けたのは、そこまでだった。

オスカーはアンジェリークの体をしっかと抱え込み、続けざまに、思い切り良く、男根を突きたててきた。

体の最深部を力いっぱい叩かれ、閉じた瞼の裏に無数の火花が散る。かと思うと、張り出した雁首に、柔襞をこそげるように擦られて、アンジェリークの意識はどこか遠いところにもっていかれそうになる。これでもかと言わんばかりの勢いで、この律動が繰り返される。

「んんっ…ふぁっ…あぁあっ…」

力強く突き上げられるたびに、狂おしい快楽が響きわたって、体も心も痺れさす。重苦しいほどの快楽は募りゆくばかりで、その息苦しさに堪えきれずに、アンジェリークは口付けを解いてしまう。

と、それを契機にオスカーはアンジェリークを抱いたまま、背筋の力でぐっ…と体を起した。瞬く間にオスカーの膝の上に乗せられたアンジェリークは、自重でオスカーのものに脳天まで貫き通されたような気がして、意識が真っ白にはじけて飛び散りそうになった。

が、オスカーがそれを許さない。

アンジェリークの腰を大きな手で鷲掴みに掴んで、勢い良く揺さぶりをかけはじめた。オスカーの男根に力強く最奥を突かれるたび、アンジェリークは肺腑の全てから呼気が搾り出されるようで、気が遠くなる。それ程にオスカーの量感は圧倒的だった。意識が遠のく暇もなく、立て続けに貫かれ、突き上げられる程に、体中がオスカーに埋め尽くされるようだ。アンジェリークはオスカーの体に溺れるもののようにしがみつき、律動に合わせて、ただただ、喘ぎ続けた。

と、

「キスをくれ…アンジェリーク…」

オスカーが、切な気に眉を顰めて、噛み付くように口付けてきた。

アンジェリークは請われるまま、夢中になって、オスカーの紅い髪に指を埋め、柔らかな唇を吸い返す。

どこもかしこもオスカーと繋がってる、そう思うとたまらなく幸せな気持がアンジェリークの体一杯に満ちて、広がった。

外では雨音が1段と激しくなっていたが、二人の耳には、もはや、互いの呼気の音しか入らない。

が、オスカーの激しすぎる突き上げに、もう、呼気が追いつかなくなって、アンジェリークが嫌々をするように口付けを解いてしまう。そのままアンジェリークの背は綺麗な弧を描いて、スローモーションのように寝台に倒れ込んでいく。オスカーは、あえてそれを追わず、アンジェリークの身が敷布に沈み込むのを待って、改めて、その身に覆いかぶさった。

そして、アンジェリークの両の膝頭の下にそれぞれ腕を回し、しっかと腰を抱えあげる形で、改めてアンジェリークを貫く。

「あぁ…んっ…」

アンジェリークが切なげな声をあげるや、オスカーは意識して腹側の肉壁を擦るように腰を遣い始める。

「あぁっ…はぁ……やっ…すごい…中…擦れて…ぁあんっ…」

ふっくらとした花弁を惨いほどに押し開いて、節くれだった己の男根がアンジェリークの中に出入りしていた。オスカーが突き入れる度に、紅色に濡れ染まった柔襞がやんわりと剛直を包み込み、引き抜く時は、名残惜しげに絡みついてくる様が、はっきりと目に映った。その淫靡さにオスカーは眩暈がする思いだ。

「ほら、俺のものが君の中に勢い良く出たり入ったりしてる…よく…わかる…」

「あぁんっ…はっ…はずかし…」

アンジェリークの羞恥を故意に煽ると、肉襞がオスカーのものを絞り込むように蠢き、オスカーは思わず、切なげな吐息をついてしまう。

それでなくとも、彼女に触れるのは久方ぶりだ、そう長くは保たない…そう思ったオスカーはアンジェリークの膝を抱えこんだまま、己が身でアンジェリークの体を押しつぶすように倒れこんだ。

「んっくぅ…ん…」

アンジェリークが苦しげな声をあげる。アンジェリークの乳房はオスカーの胸板に押し付けられてひしゃげ、互いの腰もぴったりと密に接している。今、オスカーのものは、根元に一分の隙も見えぬ程、アンジェリークの胎内を満たしており、その灼けつくような熱さ、猛々しいほどの雄雄しさ逞しさに、アンジェリークは息をするのも苦しい程だった。

一方、熱く蕩けるような媚肉に、みっしりと隙間なく包まれる感触に、オスカーの吐息も自然と荒くなっていた。密着度が高くなったせいで、自身を絞られるような締め付けが一段と増したように感じる。

「きつい…か…」

「ん…オスカーで身体中一杯…息もできないくらい…こんなにオスカーを感じられて…私、幸せ……」

悩ましげに眉を顰めたアンジェリークの表情は、確かに苦しそうなのに、幸福を訴える言葉と共に背に回された手は、オスカーを包みこむように優しい。その流れるような指の動きに、オスカーの背にぞくりと甘やかな戦慄が走った。

「俺もだ、アンジェリーク…っ…」

隙間なく密に繋がって苦しいほどであることも、それが幸せでたまらないことも。

同じ思いを胸に、オスカーは、思い切りよくアンジェリークの身を刺し貫き、力の限り最奥を突き上げた。

「ひぃんっ…」

悲鳴をあげかけた唇をオスカーは強引に塞いだ。

アンジェリークの身を、自分の体躯で2つに押しつぶしたまま、オスカーは遮二無二腰を突き上げ、内壁を擦った。その律動を緩めぬまま、内股から手を伸ばして、親指の腹で尖りきった肉珠を探り当て、転がした。

「んんんーっ…」

アンジェリークが狂ったように頭を振って、オスカーの口付けから逃れようとするが、オスカーは改めてアンジェリークの唇を捉え、痛い程に強く吸い上げる。

互いに互いの熱で溶けて混じりあってしまいたい…そんなことを切望しながら、固くその身を抱きしめ、オスカーは渾身の律動を放ち続けた。

「んふっ…ふぁっ…あぁあっ…」

アンジェリークが堪えきれなくなって、口付けを解いた。が、此度はオスカーも唇を追わない。花芽からも指を離し、更に一心に、容赦ない律動を、これでもかといわんばかりに立て続けにくりだした。

熱に浮かされたように、ひたむきに、がむしゃらに

「愛してる…愛しているんだ…アンジェリーク…」

と囁きながら、自身を突き立てる。

「っ…あっ…私も…好き…オスカー…すきなのっ…くぅっ…ぁあっ…」

アンジェリークが啜り泣きを零しながら、感極まったように、オスカーの肩口にかりりと歯をたてた。同時に肉壁が生き物のように震えて、オスカーのものをきゅぅっ…と絞りあげた。

「くっ…」

たまらずに、オスカーも爆ぜた。

一瞬目の前が真っ白になり、次の瞬間、奔流のような快美感と、それに倍する愛しさが体中に溢れかえった。アンジェリークの中一杯に、己の命の証が注がれ、受け止められるのを感じた。何物にも替え難い、例えようの無い幸福感がこみ上げてき、オスカーはその幸福な感情の奔流に素直に身をゆだねた。

 

潮が引くように、ゆるゆると、昂ぶりきった激情が凪いでいくなか、彼女への愛しさは、いや増しに募りゆく。

オスカーは、その、募るばかりの愛しさを、柔らかで暖かな口付けに替えて、アンジェリークに伝える。

幾つものキスをオスカーから受けるうちに、アンジェリークも、すん…と一息つくと、漸くすすり泣きが収まった。

オスカーが改めて、アンジェリークを己が胸にしっかと抱き寄せ、いとおしげに、柔らかな巻き毛に頬擦りした。

「もう、体も十分温まったようだな…」

「ん…オスカーの…とても熱くて…私の身体の中…オスカーのくれたあったかいもので一杯で…私、とても、しあわせ…」

とろりと濡れたままの瞳で、体が感じるままを口にしていたアンジェリークは

「それはよかった」

と嬉しそうに応えたオスカーの声に、一瞬はっとして、ぽ…と頬を染めると、オスカーの胸板に顔を埋めてしまった。

ふと、訪れた沈黙の時間、互いの鼓動しか聞こえないほど、周囲は静かだった。オスカーは、実際には外は見えぬのだが、天蓋の外に視線を投げるように顔をあげ

「ああ…雨も止んだな…」

と、呟いた。

と、アンジェリークは頬を真っ赤に染めたまま、おずおずとした様子でオスカーを見あげた。

「オスカー、私、また…?」

「ああ、豊かに溢れ出た君の想いや悦びが、この地を潤す雫となって、暫く降り注いでいたようだ。君が、深い悦びに涙するほどに、雨足も強くなっていたようだしな」

「や…恥ずかしい…なんで、私が…その…オスカーと二人きりの時を過ごすと、雨が降るのかしら…」

オスカーは、アンジェリークを安心させるように肩を抱く手に力をこめ、優しい口付けを繰り返しながら、こう応えた。

「君の情愛が、あまりに熱く豊かだから…と言うことに尽きるだろうな。君の想いがとめどなく溢れ迸って、この地を包み潤す雨となるんだろう。まさに恵みの雨なんだから、気にすることはない。実際、君が雨を降らせた後は、木々の緑の輝きが違う。君の豊かに溢れる情愛を分け与えてもらい、草木も嬉しいんだろう」

何時頃だったろう、オスカーが、アンジェリークと親密な時間を過ごす時ーそれも、彼女が啜り泣きをもらす程深い愉悦の極みに達すると、一時、雨が降り出すらしいことに気づいたのは。

オスカーも休前日の夜に、つまり、アンジェリークと甘く濃密な時を過ごした夜は『何故か予定外の雨が降ることが多いな』と感じてはいたが、当然、それは単なる偶然だと思っていた。

が、たまたま、外界への出張から帰ってきてすぐ、久方ぶりの逢瀬に我を忘れるように互いに求め合い、愛しあっていた時に、突然の降雨があり、それで「おや?」と思ったのだ。

しかも、この雨は、彼女が快楽の高みにいる間降り続け、快楽の余韻が潮が引くように鎮まると、止んだ。

後に人づてに、その雨滴は普段の雨と異なり、どこか優しく、甘く、芳しい香がしたと聞いた時、オスカーは確信に近い直感を得た。この雨を誰が降らせているのか、そして、何故、降るのか、を。

もちろん、証拠はないし、実験をして確かめることもできない。そんなことをする意味もないので、確かめようとも思わないが…。

と、アンジェリークが恥じらいながらも、恐縮した様子で呟いた。

「でも、せっかくのお休みに私が雨を降らせてしまったのなら…なんだか、申し訳ないわ…」

「いや、人の話によると、この雨は、不思議と暖かく、なんともいえぬ芳しい香がするそうだ、まさしく君のように、優しく、暖かく、甘い香がするのだと。…だから、この雨に遭った人間は、むしろラッキーだな。俺には、その事実を確かめようがないのが残念だが…それは、欲張りすぎってものだしな…」

「…?…」

不如意な表情のアンジェリークに、オスカーは朗らかに破顔すると、柔らかな頬にちゅ…と口付けた。

「だって、聖地の雨が、君の溢れる思いの徴なら、君に、そこまで熱く深い思いを抱かせ、溢れさせることができるのは俺しかいないだろう?つまり、俺自身は、君の降らす雨をこの身に受ける機会は永遠にないってことだからな」

自信たっぷりなオスカーの笑みに、アンジェリークも、ぱっと顔を輝かせ、この上なく幸せそうに微笑みながら、こっくりと頷いた。

「ええ。…こんな…抑えようもない熱い想いが、体中から溢れて止らないのは…オスカーだから。オスカーが好きでたまらないから…だって、私、どうしていいかわからないくらい、オスカーが好き…愛してるんだもの…」

「ああ、俺も…愛している。この身の全ては君のものだ、君に温もりを与えることを許され、こんなにも豊かな想いで応えてもらえ…こんなにも幸せな男は、宇宙に二人といないぜ」

「それなら、私は宇宙で1番幸福な女だわ…オスカー、あなたに出会えて…こんなにも愛して…愛されて…オスカー、好きよ、大好きよ…」

アンジェリークはオスカーの身にす…と自分の体を寄り添わせ、オスカーは、そんなアンジェリークの体を改めて抱きよせ、言葉の替わりに口付けで応えた。

彼女の柔らかな肢体、ほんのりとした温もりを全身に感じながら、オスカーは、本当に、俺ほど幸福な男はいない…と、思う。

君は女王だ、女王である君は、生きとし生ける者全ての幸福を願い、宇宙の安寧を祈る。宇宙全てを覆いつくせるほどに君の慈愛は、豊かにして深く、限りない。

それ程の情愛を、二人でいる時の君は、目の前の俺1人に注ぐ。心の底から俺を愛しく大切に想ってくれている気持がひしひしと伝わってくる。溢れかえる愛しさが、無意識の内に聖地全体を潤すほどに、その思いは豊かで限りない。君の豊かに溢れる想いが、暖かな雨となってこの地を潤している時、きっと、宇宙では、雨の替わりに、幸せと慈愛のサクリアがこの宇宙を満たしているのだろう。

そんな、宇宙全てを包みこめるほど豊かで果てない想いを、惜しみなく俺に注いでくれる君。

俺は、こんなにも愛しく大切に思える存在に出会え、心の限り愛し、そして、こんなにも深く豊かに愛された。人生で、これほどの幸福はあるまい。限られた人生、限られた時間であれば尚のこと、この幸せは甘く、掛け替えがない。

だからこそ、俺も、また、強く思うのだ。君の笑顔を、この比類なく豊かな慈愛の心は、必ず俺が守ってみせる。この俺の愛で…この俺の全てで。

オスカーは、アンジェリークの甘く柔らかな唇を、心行くまで堪能した。

何があっても離さない、離しはしない…そう、改めて心に誓いながら。

FIN


基本的にTVアニメ背景、具体的には「聖地の休日」をバックボーンにしたエトワール背景の女王リモ×守護聖オスカーのお話です。
が、TVアニメを知らなくても、エトワールを未プレイでも、女王アンジェと守護聖オスカーの日常的愛の交歓の一幕…と思って読んでいただける作りにいたしました(つもり)
画面にはでていなくても、女王であるリモちゃんと、オスカー様は、このように心を通わせあい、支えあい、愛し合う日々を重ねているのではないか…という、まさにサイド(シークレット)ストーリーですね。
女王になるアンジェリークを愛しぬくとなったら、オスカー様の心情には、ひとことでは現せない深い葛藤と苦悩があると、私自身は思います。そして、その複雑な心境を今は描く機会をもちませんが、とにかく公式のゲーム設定では、リモちゃんは女王になってますので、女王であるリモちゃんとオスカー様は、こんな風に愛し合っているんだろうなーと、このお話を聖地的日常の1コマと感じていただければ幸いです


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