この日を二人で迎えるのは、何度目のことだろう。
オスカーは、アンジェリークに「オスカーさまぁ、もうすぐオスカー様のお誕生日ですね、何か、欲しいものはありませんか?」とにこにこ顔で聞かれる度に「もう、そんな時期か…」と思う。つい、先日お嬢ちゃんが俺を祝ってくれたばかりのような気がするのに、あれから、もう、360余日も経過したというのか?と。
アンジェリークと暮らすようになってから、時間が経つのが、早くて仕方ない。
毎日が同じような日常の繰り返しだから、いつの間にか日がすぎているというのではなく、むしろ、その逆だ。
毎日毎日が刺激的で、楽しすぎて、あっという間に、時間が経ってしまうのだ。
1週間、それぞれに守護聖として、補佐官として執務に勤しむうちに、お待ちかねの休日がやってくる。アンジェリークと、誰憚ることなく、二人きりで、好きなことをして過ごせる楽しい日だ。実際に休日が嬉しく楽しいのは無論のこと、オスカーは「何をして過ごそうか」を考える時間も楽しい。その楽しい時間を励みに仕事に励んでいると、あっという間にまた次の週末が来ている、その繰り返しなので、気がつくと、毎日が飛ぶようにすぎている、少なくともオスカーの主観では、そんな気がする。
その休日の過ごし方も、今は、多岐に渡っている。結婚した当初は、それこそ、1日中寝室から出ない、出さないという状態だったー彼女をいつも腕の中に閉じ込めて放したくなくて、彼女の肌の温もりを常に感じていないと気がすまなくてーでも、彼女を一人占めできる悦びに耽溺しすぎる弊害に気づいてからは、そこまで極端に走ることはなくなった…というか、よした。
今は、主星に降りて遊ぶこともあれば、聖地から出ずに、野に咲く花を見にピクニックに行ったり、森の湖で水遊びをしたり、乗馬のレクチャーで一日が終ることもあるーそう遠くない将来、二人で遠乗りにいけるだろうと思える位に、アンジェリークの乗馬技術も上達してきているので、レッスンそのものが楽しい。明日の仕事のことを気にせずにすむ夜に、庭園に二人で散策に出て、星や月を見上げながら、飽く事なく口付けを交わすのも、また違った楽しみだ。口付けを交わすうちに、どうしようもなく、互いに互いを欲する熱が高まりゆき、昂ぶる気持に任せて愛しあう時は、少年のように心弾む。
他愛無い遊び、子供のようなじゃれあいも、オスカーには新鮮で、楽しくて仕方ない。二人でするからこそ楽しいことは、無数にある、と、思い知るばかりだ。ベッドの中で、自分しか知らないアンジェリークの愛らしく艶やかな姿を見せてもらえるのは、もちろん、何時だって最高の悦びだ。が、同時に、オスカーは、陽の光を弾いて煌めくアンジェリークの髪の美しさや、花と緑の中でより際立つ彼女の愛らしさに魅了されることにも、同じhほどに悦びを感じる。自然の中で、より輝きをます彼女の可憐さは、共に外出を楽しまなければ、わからないことだ。星や月も二人で眺めるからこそ、こんなにも美しいのだとオスカーは知ったし、月明かりに映える彼女のしっとりとした神秘的な美しさも、ほのかな星明かりの下で交わす口付けの甘さ芳しさも、ベッドの中だけにいたのでは味わえない悦びだったということも悟った。
そして、アンジェリークもまた、オスカーと共に過ごす時間をこよなく大切にしてくれ、何をするにしても、心から喜んでくれる。オスカーは、だから、尚のこと、彼女と二人ですることは、何でも楽しくて、月日の経つのが、まさに飛ぶように早く感じるのも無理からぬことだと思う。
それをしみじみと思い知らされるのが、彼女の中で抜きん出て特別に大切な年中行事であるらしい自分・オスカーの誕生日がやってくる12月であった。彼女にこの話題を出されて初めてオスカーは「ああ、また1年がすぎたのか」と初めて気づく。彼女が、この話題を持ち出さなければ、オスカーは、100年くらい経ったところで、漸く、時間の経過に思いを馳せるくらいではないかとさえ、思う。
聖地の暦で12月に入るや、毎年のように「今年は何をしてお祝いしましょうか、オスカー様」とアンジェリークは言い出す。毎年、色々と趣向を凝らして、少しでも自分に喜んでもらおうと惜しみなく力を尽くしてくれる。自ら進んで、わくわくウキウキと明るい笑顔を絶やさずに。オスカーには、それが、見ていてよくわかる。
だから12月が来て、この話が出ると、オスカーはなんともこそばゆいような、胸が温かいもので一杯になるような気がする。これが「幸せ」というものかと、しみじみ思う。毎夜毎夜、アンジェリークと全身とろけそうな歓喜を互いに分け合うたびにも「これぞ人生最大の幸福」と思っているのだが、それはそれ、これはこれで、別種の幸福なのだ。悦びとは、幸せとは、一つではないのだなと実感する。
これも、全てアンジェリークと出会い、愛し、愛されたからだ。こんなにも多種多様の幸福を自分に教えてくれるアンジェリークの存在がオスカーはありがたくて愛しくて仕方ない。アンジェリークが傍に居て、自分を想ってくれる、オスカーは、これこそがあらゆる幸福の源なのだと知っている。何より愛しく大切な存在が、自分と同じほどに、自分のことを「何より愛しく大切」と思ってくれていること、その気持を惜しみなく現し伝えようとしてくれること、これを奇跡と呼ばずして、なんと呼ぶのかとさえ思う。それくらい、今が幸福なのだ。
だからだろうか、今年「何が欲しいですか?」と問われた時、オスカーは
「お嬢ちゃんが俺のためにと用意してくれるものなら、なんでも嬉しいさ」
と、するっと気負いなく言えた。オスカーはそんな自分に驚いたほどだ。
今までなら…1年に1度のことだから、少しくらいの我侭を言ってもバチはあたらないよな?と自分に言い訳しつつ、彼女にかなり無茶を言っていたのに。何故か、今は、不思議とそんな気がおきない。
アンジェリークも、一瞬、驚いたように目を見張った。
「本当に?何でもよろしいの?オスカー様、今は思いつかない、じゃなくて?」
と重ねて聞いてきた。
当然かもしれない。今まで、誕生日を理由に、裸エプロンを披露させられたり、フレンチカンカンを踊らされてきたんだものなぁ、この恥ずかしがりやのお嬢ちゃんが。でも、この恥ずかしがりやさんのお嬢ちゃんが、それでも、俺のために、必死に、募る羞恥心を堪えて俺の願いを丸ごと受け入れてくれている…というのが、物凄く嬉しくて、感激で、俺をこよなくそそってくれて…同時に、そのお嬢ちゃんの健気さが、俺の心の空隙?渇き?そんな部分を満たし、潤してくれたことも事実なんだ、と、オスカーは思う。
「ああ、いつも言っている通り、俺は、お嬢ちゃんが俺のすぐ傍にいてくれて、幸せそうに笑っていてくれることが何よりの贈り物で…そして、欲を言えば、俺が君を思う同じほどに、俺を愛しく思ってくれていれば…これに勝る幸せ、これに勝る喜びはないんだ、だから、改めて欲しいもの…をいくら考えても君自身しか思いつかない。翻っていえば、君が俺のことを思って用意してくれるものなら、きっと、何でも嬉しい」
強がりではない…と思う。口にしてみて違和感がなかったから。
すると、アンジェリークは、咲き初めのバラのように頬を染めながら、自分も同じ気持なのだとオスカーに告げてくれた。オスカーが傍にいてくれること、幸せでいてくれることが、何よりの自分の幸せだから、そしてオスカーがこの世に生を受けた日は特別に大切な日だから、やっぱり特別にお祝いしたいのだと、彼女にしては、些か強めの語気で主張した。
「じゃあ、そうだな…」
その時、オスカーにふと、ある思い付きが閃いた。
「なあ、お嬢ちゃん。俺たちが、今、こんなにも幸せなのは、俺たちが、運命の導きで出会えたからこそだよな…女王試験がなければ…君が飛空都市にやってきて、互いに出会わなければ、今の俺たちはなかった…。だから、お嬢ちゃん。俺たちが初めて出会った年…君が飛空都市に招聘されたその年に仕込まれたワインを俺にくれないか?俺たちが出会った年はお互いにとって、まさに運命の扉が開いた時であり、俺たちが結ばれた年でもあるから…今年の誕生日は、その記念のワインを二人で開けて、俺たちの出会いを、その運命の妙を…改めて二人で乾杯しよう」
個人の人生における節目の年次ー誕生や結婚が最たるものかーに仕込まれた酒を開けて、越し方を祝うという習慣は、比較的どの星系でも一般的なもののはずだった。自分が生まれた年の酒は、もはや蒸発しきっているか、よしんば残っていたとしても骨董品としての価値だけで、飲んで美味いものでは決してないだろう、だが、自分の人生の転換点となった年ーつまり女王試験があった年度に仕込まれた酒なら、熟成具合も程よいだろうし、そんな酒を共に仰ぐのは、二人のいい記念になるのではないか、と、オスカーは、思ったのだ。さして、深い考えもなく。
「すてき…すごく、ステキなアイデアです…オスカー様」
アンジェリークは、一瞬、大きく瞳を開け、すぐに夢見るようにうっとりとした表情になって、こっくりと頷き賛同してくれた。
「じゃ、決まりだな?お嬢ちゃん」
オスカーは、ばちんとウインクして、アンジェリークの細腰をぐいと抱き寄せ、ちゅ…と軽く口付けた。
「今年の俺の誕生日は、年代物のワインを開けて、二人で…二人きりで静かに祝おう。ただ、多少なりとも寝かせたワインだと、物によっては、ヴィンテージ物もあるかもしれんな…あまりに高価なようだったら無理せず…」
「いえ、むしろ、その方がいいです、特別な贈り物って感じがしますもの、私、いつも、オスカー様によくしていただいてるから、せめて、それくらいのこと、して差し上げたいし…」
「かわいいことを言ってくれる。じゃ、今夜も…今から、お嬢ちゃんを飛び切り、よくしてさしあげような?さ、寝室に行こう」
5秒ほどの沈黙の後、自分の言葉がどう受け取られたのか悟ったアンジェリークは、耳まで真っ赤になった。
「そ、そ、そういう意味じゃ…いえ、それは、もちろん、いつも、私、身も心もとろとろに融けちゃいそうなほど気持良くしていただいてますから…だから、そういう意味だけじゃありませんって言うほうが正しいかも…って、私ったら、何言ってるのかしら…と、とにかく「良くしてくださる」っていうのは、オスカー様が、いつも私に優しくしてくださること、なにもかも全部って意味で…」
真っ赤になってしどろもどろになるアンジェリーク、しかも、さりげなく?いや、これは、するっと口を付いて出た計算なしの本音で、だから、尚のこと嬉しい、かわいいことを言うアンジェリークが、オスカーはかわいくて愛しくてたまらない。
「ああ、まったく、どこまでかわいいんだ、お嬢ちゃんは…」
「オスカーさま…ん…」
あんな可愛い嬉しいことを言われて、これで発奮しなけりゃ男じゃない。今夜は寝かせない…寝かせてやれそうにないぜ?お嬢ちゃん。
そう思いながら、オスカーは、すかさず、深い口付けをアンジェリークに仕掛けた。
そして、オスカーの誕生日当日。
「オスカー様。お誕生日おめでとうございます」
「ありがとう、お嬢ちゃん」
二人は、グラスを控えめに合わせながら、にっこりと微笑みあった。
深みのあるルビー色の液体がグラスの中で揺れた。葡萄をもっと濃厚にしたような芳醇な香がくゆりたつ。オスカーが所望した、アンジェリークが飛空都市にやってきたその年に醸造された赤ワインだった。
アンジェリークは、聖地御用達の某・商会に頼んで、このワインを探し出してもらってあった。ワインのよしあしは、自分には、よくわからないので、御用聞きに来てくれる商人さんの選定眼にかなり頼ってしまったが、その彼が、絶対のお薦めと太鼓判を押してくれたワイナリーのものに決めた。その商会を通じて購入したので、品質の管理も信頼できた。
ただ、寝かせることで価値のでる年代ものワインにしては、それは、まだまだ若い部類だった。
これは、ロザリアが女王位に就いてからの外界と聖地の時間の流れが、まだ、そう大きく隔たってはいなかった所為だった。
新しい沃地ともいえる今の宇宙に移乗された旧宇宙の星星が、しっかり根付き安定するまでは、宇宙の綿密な経過観察が欠かせなかったし、何らかの異変があった時、すぐに対処するためには、彼我の時間差は、あまり大きくないほうが都合が良かったからだ。例えば、ある恒星表面で異常爆発が起きたなどの予期せぬ天災が報告されて、聖地でその善後策を検討している数時間の間に、その星系では1ヶ月が経ってしまう…などということになったら、その星の生物が、その間に全滅してしまうかもしれない。現女王ロザリアは、その危険性を鑑みて、ジュリアスやアンジェリークとの相談の結果、聖地と外界との時間差は、宇宙が安定したと確信できるまでは、1:4〜5という程度に留めておくのが賢明だと結論し、そのように時間の流れを操っていた。
そのため、アンジェリークが補佐官となってオスカーと共にこの聖地に暮らすようになり数年経った現在、外界で流れた時間は、まだ十数年というところであった。アンジェリークが欲した年のワインも、比較的入手が容易だった。
ただ、贈り物がワインだけでは、やはり、寂しいと思ったアンジェリークは、今年のバースディケーキは、ちょっと趣向を変えて、赤ワインに合うように、甘くないチーズケーキを作ってみた。ゴルゴンゾーラチーズを主体にした、菓子というより軽めのオードブルのようなチーズタルトだ。青カビ系のチーズがワインに合うことはわかっていても、ブルーチーズをあまり食べつけてないアンジェリークにはそのままでは香も食感も少々ヘヴィなのだが、タルトにすることで、チーズの豊かな風味は残したまま、口当たりが軽くなり食べやすくなる。これなら、ワインを傾けながら、私もオスカー様も一緒に摘めるわ、と思ってのことだった。
「オスカー様、今年のバースディケーキは、このワインに合うように、甘くないチーズケーキを作ってみたんです、よかったら、ワインと一緒に試してみていただけますか?」
オスカーも、アンジェリークのこの工夫をことのほか喜んでくれた。今宵のテーブルには、他にもワインに合いそうな前菜風の料理が各種取り合わせて用意され、ビストロでのディナーという趣をかもし出していたが、オスカーは
「ほう…これは、珍しいな」
というや、真っ先に、アンジェリーク手製のゴルゴンゾーラのタルトを一切れを長い指でつまみ上げ、豪快にぱくりと食してくれた。
「うむ…風味は豊かなまま、口当たりよく、軽やかで…ワインにピッタリだな」
「よかった、お口にあって…」
アンジェリーク自身は、オスカーの手にした一切れを更に3分の1くらいの大きさに切りわける。それくらいが自分の口には丁度いい。
「君の心づくしがありがたい、本当に、お嬢ちゃんには、いつも、驚かされる。ワインだけでも十分嬉しいのに、そのワインにあう誕生日の祝い菓子を、わざわざ考えて、工夫して作ってくれるなんてな…俺の誕生日を祝い、もてなそうと色々心を砕いてくれる、その君の気持が、俺は、本当に嬉しい。…本当に君は…このワインと同じように、俺を魅了し、酔わせてくれる」
嬉しそうに目を細めながら、オスカーは、くいと、小気味いい所作でルビー色の液体を飲み干した。
「やん、そんな、オスカー様、褒めすぎです〜」
照れながらも、アンジェリーク自身は、オスカーがワインを嚥下する時、喉仏が綺麗に上下するその様に、思わず目を奪われていた。がっしりと逞しいオスカーの首のラインは、すごく男らしくて、でも、その喉が上下する様は繊細で、なんともいえず色っぽいな、と見惚れてしまう。
「俺は本心しか言わないぜ。このワインも、良いものだというのは、一口でわかった。力強く芳醇で…ワインも、仕込まれてすぐの新酒は、フレッシュで口当たりよく、それはそれで美味いものだが、奥行きのある味わいという点では今ひとつ、物足りない。が、歳月が、その新酒を、こんなにも深みのある、香豊かなものに変えてくれたんだな。管理の仕方もよかったんだろう」
「そうですね、このワインも、私が、オスカー様に初めてお会いした時には、その新酒だったんですね…」
オスカーが、アンジェリークの言葉を聞きながら、チーズ菓子をつまみつつ、また、グラスを空にした。
『よかった、オスカー様、このワインを心からお気にめしてくれたみたい、嬉しい…』
そう思いながら、アンジェリークは、オスカーがグラスを傾ける、自然で流れるような手さばき、そして、ルビー色の液体を飲み干す度に上下する喉の動きに、知らず知らずのうちに、また、見惚れてしまっていた。見惚れる程に、なんだか切ないような気持が、ふいにこみ上げてきて、気づいたら、アンジェリークは、こんな言葉を唇にのせていた。
「それが、この歳月を経て、香豊かに味わい深くなったのなら…それなら…このワインと同じ歳月を経た時、私も、同じほどに、深みと奥行きのある魅力的な女性になれていたらいいいなと思います…いえ、なりたいです…」
「え?君とこのワインは…あ、ああ…そうか、そうだな。このワインの仕込みと、君が聖地に来たのは同じ年でも、その後経た時間の長さは違うから…君の上には、このワインと同じほどの年数は経過してない…」
と、何の気なしに、事実を口にしたオスカーは、その自分の言葉にはっとした。
「すまん、俺は…年代を指定した酒を所望するなど…少々考えなしだったな。君に、外界とこことの時間差を、否応なく思い知らせてしまって…辛い思いをさせたんじゃないか…」
「え?そ、そんな、オスカー様、そういう意味で言ったんじゃないです!私、私がオスカー様とお会いした年を、オスカー様も、特別な年と思ってくださっていることが、とても嬉しくて、確かに、その、このワインが何年物なのかを知った時は、外界との時間差を感じましたけど…でも、嬉しい気持の方が大きくて、それを辛いとか切ないとかは、感じてませんでした、本当です。ただ、人は、年数さえ経れば、それだけでステキになれるとは限らないから…私も、無為な時間を過ごさないように、このワインみたいに重ねた時間の分だけ、深みや味わいを増したステキな女性になりたいなって、オスカー様に、そう思っていただけるよう頑張ろうって、そう思っただけなんです、それをあまり考えずに口にしてしまって…」
「お嬢ちゃん、だが、それは、君が…今のところ、本当の意味で、時間に置き去りにされるような思いをしていないからかもしれない。君が、そういう経験をせずに済んでいるのは、今はまだ、彼我の時間の流れが、あまり激しくないからこそで、これはあくまで暫定的な処置なのに…もし、彼我の時間差が従来どおりだったら、俺は、君に酷く辛い現実を突きつけてしまっていたかもしれなかった…今の今まで、このことに気づいていなかったとは…。本当に迂闊だった…すまない、俺は君との幸せに浮かれすぎていた」
「オスカー様、そんなこと、おっしゃらないで?私、そのことはきちんと理解してます。覚悟…っていうと、えらそうですけど…ちゃんと、覚悟もしているつもりです。もしかしたら、オスカー様のおっしゃる通り、私が、まだ、本当の意味で辛い思いをしてないから…こんな風にいえるのかもしれないけど…私の両親も、年はとってきたけど…昔の友達とも…年の差は開きましたけど、まだ、皆、元気みたいだから…」
「…う…む…」
「でも、いつか、悲しい報せを聞く日がきても…きっと、私、乗り越えられると思ってます。オスカー様が、一緒にいてくださるから。私はオスカー様と並んで歩いていくって決めたんですもの。外界のお友達や両親のことは、もちろん、懐かしく慕わしく思います。けど、でも、私は、オスカー様と同じ歩調で歩んで行きたいって思ったから…それが、私には何より大事なことだったから…自分で決めたことだから、その結果おきることは、どんなことでも、引き受けられる、そう、思っているんです。それに、そういう経験を経てみて、初めて、私、オスカー様や他の守護聖様のお気持とか、ものの感じ方、考え方をより身近に自分のこととして考えられるようになれるんじゃないかって…おこがましいかもしれませんが、もっと、共感とか理解とかできるようになれるかも…とも、思うんです。だから…時の流れをこの身に実感することは、その時は、辛く感じることもあるかもしれないけど…でも、結果としていいことになるような気もするんです…そうして初めてわかることが、私を、オスカー様にもっと近づけてくれそうな気がするから…」
「お嬢ちゃん……」
「なのに、わたしったら、オスカー様に心配かけてしまって、ごめんなさい。私、まだまだ危なっかしくて、考えなしで、オスカー様から見たら、新酒のワインみたいですね、きっと。でも、だからこそ、このワインが経たのと同じ年数を、実際に経た時には、私自身も、少しでも奥行きのある味わい深い女性になっていたいなって…本当に、そう思っただけなんです」
「まったく、君は…」
オスカーは、感銘を受けたように、一瞬、瞳を大きく見開いた後、すぐに、とろけそうな笑顔を浮かべて瞳を細め、柔らかな声で
「なら…どうして、そう思ったんだ?」
と、アンジェリークに優しく尋ねた。
「え?…そ、それは…」
「それは?」
「だって…オスカー様に相応しい女性になりたいの…少しづつでも、色々な意味で、ステキな、魅力的な女性になりたい、オスカー様にそう思っていただけたら…って思ってしまうの…私は、オスカー様が大好きだから…」
「そして、このワインと同じように、俺に味わってもらい…もっと俺を酔わせたいのか?お嬢ちゃんは…」
オスカーの眼差しと声音には、優しさと甘さに加えて、妖しいほどの艶が含まれていて、アンジェリークは。魅惑の魔法をかけられたような気持になった。オスカーの氷青色の瞳にみつめられると、視線を外すこともできない…いえ、外したくない。促されるままに、心の内に秘めるつもりだった切なる願いを、するりと唇に載せていた。
「…やん…ううん、そう…かもしれません…。私、オスカー様が、とってもおいしそうにワインを召し上がってるところを見て、このワインと同じように、オスカー様を魅惑できるような存在になりたいって…オスカー様に美味しいって満足していただけるようになりたいって…そんな気持が、あったのかもしれません…」
オスカーの喉仏が動くその様に見惚れていた自分を、アンジェリークは思い出していた。あんなふうに美味しそうに私という存在も飲み干してもらいたい…私は、オスカー様にとって、熟成したワインと同じほど「欲しい」と思っていただけるかしら、オスカー様を魅了できるような、そんな存在になれるかしらって、一瞬でも思わなかったとは、いえない。
「本当に、君は…自覚がないにも程があるな…」
「?…オスカー様?」
「お嬢ちゃん、俺は、今、杯を傾けながら、こんなことを思っていた。君が俺に選んでくれたワインは、まるで、俺たちの愛のようだ、と…俺たちの愛も、年を経て、このワインのように熟成され、芳醇な香と深い味わいを増していくばかりなのだから…君の贈り物は、本当に今の俺たちに相応しい、とな」
「…オスカー様…」
「お嬢ちゃんは、俺には昔と変わらず眩しく瑞々しい存在だ、フレッシュでフルーティーで…でも、それだけじゃない。君は、もう、このワインのように、えもいわれぬ薫り高さと、芳醇な味わいで俺を虜にしている。将来、味わうかもしれない辛い思いも、俺ともっと近しくなれる糧と考えてくれるような君…俺と歩む人生が、何よりも大切だと言い切ってくれる…そんな君だから…。だから俺は、こんなにも君に夢中だ…夢中になる一方だ、歳月を重ねるごとに、ますます魅力的になっていく君に…」
「…オスカー様……嬉しい…」
「言葉だけ…口先だけじゃないぜ?今から、それを証明してやろう」
ばちんとウインクして席をたつと、オスカーは、アンジェリークの膝の下に、さっと腕を回して、その身体を羽のように軽々と抱き上げた。
「おっと、せっかくの心づくしを忘れては大変だ」
オスカーは、アンジェリークと共にワインのボトルも一緒に掴んで、力強い足取りで寝室に向かった。
手にしていたワインのボトルをベッド脇の卓においてから、アンジェリークを床におろすと同時に、オスカーはアンジェリークの背中のファスナーも降ろし始める。
シンプルで綺麗なラインのワンピースは、見た目がオスカーの好みである上に、脱がせやすさもバツグンなので、オスカーは、ことのほかお気にいりだ。アンジェリークも、オスカーの嗜好をわかっているようで、家での私服は、なよやかで柔らかな手触りのワンピースを身につけることが多く、そんな気遣いもまた、オスカーを喜ばせる。
元々可愛く愛らしい恋人が、自分のために、更に魅力的でありたいと、おしゃれをしてくれる。それを喜ばない男がいるだろうか。そして、オスカーは、ただ、喜ぶに留まらず、その女性の心遣いに感謝せずにはいられない。そのいじらしさを愛おしいと思うのは、当然のこととして。
そして、その謝意を、愛しさを現し伝えるために、オスカーは、アンジェリークに幾度も飽くことなく口付けながら、魔法のように手際よく、流麗な手さばきで、アンジェリークが身につけているものを全て取り去っていく。一方、自分の着衣は無造作にむしりとっては、無頓着にその辺に放り投げる。オスカーの神経の全ては、アンジェリークに、アンジェリークとの口付けに注がれているから。
何故、人は、かわいいと思う存在、愛しいと思う存在には、唇を寄せずにはいられないのだろう、唇で触れたくてたまらなくなるのだろう、そんな不思議な感慨に浸りたくなるほどに、アンジェリークに口付けしたい、せずにはいられない衝動は、強烈だ。
その衝動に任せて、アンジェリークの唇を堪能している内に、互いの間には夾雑物一切がなくなり…そうと悟るや、オスカーは、アンジェリークを抱きしめたまま、寝台の上に、もんどりうつように倒れこんだ。
小さな頭を抱え込むようにして、改めて口付け、舌先を差し出す。と、ほぼ同時に、アンジェリクークも薄く唇を開けて、かわいい舌を差し出していた。なんともいえぬ喜びがオスカーの胸にこみあげる。夢中になって柔らかな舌を絡めとり、瑞々しい唇を吸った。アンジェリークも、オスカーの舌を、唇をひたむきに吸いかえしてくる。幼子のようなその懸命さが、いじらしくてならない。
だからこそ、惜しみつつもオスカーは一度口付けを解き、アンジェリークの口元から喉へと唇を運び、白く優美な首筋に舌を這わせていった。
陶器のように滑らかな胸元を唇で撫でていくうちに、蕩けそうな柔らかさと、瑞々しい張りを、同時に、唇が感じとる。
その柔らかさに誘われるように、オスカーは、綺麗なお碗型を描く膨らみを大きな手で包み込む。柔らかで瑞々しい乳房は、まるでオスカーの手にあつらえたかのように隙間なくフィットする。手触りはしっとりと吸いつくようで、どうにも放したくないと思わせる心地よさだ。オスカーはその柔らかさ、瑞々しさを存分に堪能せんと、一心に乳房に指を食い込ませ、こねるように揉みしだく。
同時に唇は、乳房の稜線をなぞり行く。自然に、その頂点にそっと口付ける。
唇で軽く挟んだだけで、乳首が弾力を増して、軽く立ち上がったのがわかった。
「あ…ん…」
オスカーは、ちゅっ…と唇を鳴らして幾度も乳首に口付ける。まだ、深くは含まない。舌で転がしもしない。
「淡いロゼの色だな…味も甘い…」
「やぁん…」
アンジェリークがもどかしげに腰をくねらせた。
「お、オスカー様…もっと…」
「俺に食べてもらいたいか?」
「ん…食べて、オスカー様…おねが…」
言葉では答えるより先に、オスカーは、乳輪ごと大きく乳首を口に含んで、吸い上げ、吸い上げざま、乳首を舌で包み込むように舐めあげた。乳首がくっ…と立ち上がる、くっきりとした硬い弾力を口唇に感じた。
「あんっ…」
アンジェリークがあげた小さな囀りが合図であるかのように、オスカーは遮二無二舌を躍らせ始めた。
両の乳首を休みなく交互に口に含んで、乳首の輪郭を舌でなぞるようにねっとりと下から上へ舐めあげる。と、舌を左右に素早く閃かせ、乳首を舌で嬲るように強く弾く。乳首の先端をとがらせた舌先で突付き、くるくるとその上で舌を回す。
「あっ…あん…あぁっ…」
舌を躍らせるたびに、アンジェリークが艶やかな囀りをあげる。
「美味いな、お嬢ちゃんのおっぱいは…」
一度乳房から唇を離し、オスカーはアンジェリークの耳朶を食みながら、こう囁いた。唾液でぬれた両の乳首を形のいい指先で優しく捻るように摘み上げ、指の腹を回すように先端を擦ってやりながら。
「あぁんっ…」
「ここもこんなに硬くして…俺に食べてもらえるのが、そんなに嬉しいのかな?お嬢ちゃんは…」
「んっ…うれし…の…もっと…もっと食べて?…」
「ああ…いくらでも食べたい…食べてやりたい…」
オスカーはアンジェリークの背中に腕を回して交差させ、その華奢な身体を思い切りぎゅっと抱きしめた。
「は…」
強すぎる抱擁にアンジェリークの背が小さく反りかえり、それに伴い、まさに食べてほしいと言わんばかりに突き出された乳房の先端を、オスカーは過たずに唇で捉えた。より力強く舌を躍らせて乳首を弾き、きつく吸い上げた。
「あぁっ…」
「こうして…もらいたかったんだろう…?」
乳首を歯先で極軽くしごきながら、その尖りきった先端で小刻みに舌をうごめかすと
「あんっ…んっ…そう…なの…」
アンジェリークは悩ましげに、きつく眉を寄せながらも、懸命にこくこくと頷いた。
「食べてもらえて…うれし…気持いいの…オスカーさまぁ…」
「まったく…どこまでかわいいんだ、お嬢ちゃんは…かわいらしすぎて、どこもかしこも、食べてやりたくなる…」
オスカーは、力をいれずに歯先を当てがったまま、乳首をちゅくちゅくと吸った。吸いながら、乳房を、乱暴なくらい、思い切り良く揉みしだく。
「あぁんっ…」
すると、アンジェリークが、オスカーの燃え立つ髪に指を埋めて髪を梳き、幼子をあやすように、優しくオスカーの頭をなでた。
その何気ない所作に、オスカーは、アンジェリークの限りない慈しみの情を感じたような気がして、更に胸が熱くなる。
駆り立てられるような思いで、膝頭を、アンジェリークのゆるく閉じあわされた脚に押し当てる、と、アンジェリークが、ゆっくりと、でも、躊躇いなく脚の力を緩めてくれたのが、感じられた。
オスカーは、その期を逃さず、アンジェリークの脚に己の脚を絡めると同時に、開かれた花弁に手を伸ばしてみた。舌は休むことなく、乳首を弄いながら。
「あっ…」
するり…と指が、驚くほど滑らかに滑った。指先で割るまでもなかった。とろりした蜜は、既にしとどといえるほどに溢れかえって、彼女の花弁を潤していた。
「すごいな…とろとろだぜ、お嬢ちゃん…ほら、くちゅくちゅ言ってるのがわかるだろう?」
オスカーは指先を花弁の合わせ目につぶりと差し入れると、わざと高い水音を立てるように、合わせ目で指を上下させた。手全体を使って、花弁そのものも、ぷにぷにと揉むようにも愛撫する。ふっくらこんもりと豊かな花弁は、愛撫するほどに、瑞々しい弾力をもってオスカーの手を跳ね返してくるようで、それがまた、たまらなく心地いい。
「こんなに豊かに…滴るほど溢れさせて…それ程に、俺に味わって欲しいんだな、お嬢ちゃん…」
アンジェリークが、やるせない吐息を零す。
「あぁ…オスカー様…」
「さ、言ってごらん、お嬢ちゃん、ここも食べて…って。いや、これでは飲んで…かな?」
「や…やぁん…」
「それとも、指で弄られるだけの方がいいか?お嬢ちゃんは…こんな風に…」
いうや、オスカーは、指先を自然に滑らせて、花弁の奥に控えめに顔を覗かせている肉の莢の表面を、すっと、その指先で掠めた。
「あぁっ…」
途端に、痺れるような鋭い快感が、ほんの刹那、アンジェリークの身に走り、それは、即座に消えうせた。
快楽を小出しに与えることで、オスカーが自分を煽っているのが、自分から求めさせたいのが、アンジェリークには、わかる。
恥ずかしい…でも、嫌じゃない。
だって、好きな人に求めてもらいたい、自分を求めてほしいと思うのは、とても自然な情。愛すれば、愛するほど、その人を求める気持も強くなるから…オスカー様も、そう思ってくださってるのかと思うと、私、はちきれそうに嬉しい。だって、私も同じだもの。オスカー様が嬉しそうにワインを飲む様に、私自身も、欲してほしいと思った。それは、それだけ、私が、オスカー様を好きで、欲しくてたまらないから…。
「どっちも…して?オスカーさまぁ…」
「…お嬢ちゃん…」
「触れてほしいし、食べても欲しいの、選べないから…だってオスカー様が大好きだから…オスカー様を感じるのが、嬉しくて幸せでたまらないから…」
「っ…君は…かわいすぎる…」
俺の意図を、気持を汲んだ上で、遥かに嬉しいこと、かわいいことを、飾らぬ言葉で伝えてくれる。
オスカーは、アンジェリークの膝頭を掴んで大きく脚を開かせ、同時に、アンジェリークの腰の下に枕をいくつか押し込んだ。
「あ…」
オスカーの意図を察したアンジェリークが、耳まで真っ赤になって、でも、うるうると濡れた瞳でオスカーを見上げた。
が、オスカーは、一瞬間、自失していた。眼前に咲き誇るアンジェリークの花の艶やかさ、妖しいまでの美しさは、自分は見慣れているはずなのに、つい、目を奪われて、見惚れてしまって。みるからにとろりと芳しそうな蜜にまみれた花弁は、きらきら・つやつやと濃い紅色に光ってこの上なく美しい。
「オスカーさまぁ…」
アンジェリークの甘えた声に、オスカーは、我にかえって、
「ああ、君の花が余りに綺麗でかわいくて見惚れちまってた…こんなにも愛らしい花を、食べて…なんて、言ってもらえる俺は、なんて、果報者なんだろうってな」
と臆面もなく率直な感慨を述べると、ちゅ…とアンジェリークに一度口付けた。
アンジェリークは、先刻よりもっと真っ赤になってしまった。
「そ、そんな…恥ずかしい……うれし…ですけど…」
「ああ、お嬢ちゃんの心づくし、存分に味合わせていただこう…」
オスカーは、アンジェリークに覚悟…というよりは、期待させるように、ゆっくりと脚を開かせ、そしてまた、ゆっくりと花弁に顔を埋めていった。
その緩慢な動きが、焦らされるようで、いたたまれないような、たまらない羞恥となってアンジェリークの心を焼く。思わず『早く…』と身も世もなく、求める言葉が口をつこうとした時、オスカーの手に大きく花弁がこじあけられる感覚と、暖かく柔らかいものがぬめりと身体の内側に入ってくる感覚、そして、敏感な肉の芽の部分から、痺れるような鋭い快楽が迸ったのを、アンジェリークは同時に感じた。
「あぁああっ…」
オスカーは、容赦なく開かせた花弁に尖らせた舌先を差し入れ、秘裂の奥へと幾度も出し入れしていた。蕩けそうに柔らかく熱い媚肉を、舌で掻き分け、かき回す。時折、むしゃぶりつくように花弁全体に唇を押し当て、ちゅぅっとわざと水音とたてるように、蜜を吸う。
「ああ、本当に美味いぜ、お嬢ちゃんの愛液は……豊かに薫り高く…瑞々しく…あのワインに勝るとも劣らない…極上の味わいだ…」
「やぁんっ…あぁっ…はっ…」
「お嬢ちゃんの中も…熱くて、とろとろで、俺の舌は溶かされそうだ…たまらないな…」
自分の胎内に、オスカーの舌が勢い良く出入りしているのがわかる。まさに、自分を味わい尽くすように。舌ならではの柔らかさと弾力のある感触を、身体の奥深いところで感じることが、恥ずかしいのに、嬉しくて、やるせなくて、アンジェリークは羞恥と悦びとで頭が焼き切れそうだ。
その上、オスカーは、媚肉を舌で愛するに併せて、ぬらした指の腹で、肉芽をくりくりと転がし、指先で軽く摘まんで捻っていた。
たまらなく恥ずかしさを煽る愛撫に、鋭い快感の迸る愛撫を重ねて与えられ、アンジェリークは、その快楽の奔流にすっかり翻弄されてしまう。
「あん…あぁん…はぁっ…オスカー…さま…」
その甘いなまめかしい声音に、オスカーは、更に舌の動きを激しくする。蕩けそうな媚肉が舌にまとわりついてくる、その、なんともいえない淫らな感触に、更に頭に血が昇っていく。
夢中になって花弁を口唇で愛撫し、愛液をすするうちに、肉の莢の下で、宝珠がこりっと硬くしこっているのが、指先に感じとれた。優しく剥いてやると、尖りきった肉珠が、控えめにおずおずと莢から顔を覗かせた。艶々と紅玉のように濡れ光る肉珠は、オスカーの更なる愛撫を待ちわびているかのようだ。いかにも触れてほしそうに張り詰めているのに、同時に引っ込み思案な少女のような控えめな風情が、オスカーを誘ってやまない。
「ああ、ここも、こんなに硬くして…かわいく俺を誘ってる…」
オスカーは、たっぷりと愛液をのせた指で、触れるか触れないかくらいの加減で、珠の表面をそっとさすった。
「ひぅんっ…」
アンジェリークがびくんと跳ねた。弾みで、腰が更に前に突き出された。まるで、オスカーの更なる愛撫をねだっているかのように。
「ここも食べてやろうな…」
そういいながら、このかわいらしい珠を口にしたいのは、口にせずにはいられないのは自分自身だ、とオスカーはわかっている。
「んっ…食べて…いっぱい…」
が、だからこそ、アンジェリークの素直な懇願は、オスカーを、尚のこと、奮い立たせた。
オスカーは、むき出しにした肉珠を、むしゃぶりつくように口に含むと、根元から、ちゅぅっ…ときついほど吸いあげ、より尖った先端に、小刻みに舌を躍らせた。
「ひぁあんっ…」
途端に、アンジェリークは、頭の中で真っ白にはじける火花を感じた。一つでは終らず、次から次へと、絶え間なく、咲いては飛び散るような火花を。
「あっ…はっ…あぁーっ…」
オスカーの熱い舌が翻るように肉珠を力強く弾くたび、つま先まで痺れてしまうような激しい快感が、アンジェリークの身中を駆け抜けて迸った。と、一転して、オスカーが、じっくりねっとりと舌でなでるように肉珠を舐めあげるときは、全身がとろとろに溶けてしまいそうな気持になる。ちろちろとオスカーの舌が動くと、そこが、どうしようもなく熱くなって、やるせない。
しかも、舌が肉珠を愛撫している間、オスカーの長い指は、いつのまにか秘裂の奥深くに差し込まれていた。
ぐっ…と長い指で身体の奥を穿つように突かれた、かと思うと、その指先は淫らに蠢いて胎内をかき回し、お腹の側の肉壁を妖しく擦りあげる。息が止りそうな快楽がはじける。身体の奥底の方から、絞りこまれるような切ない疼きがこみ上げてくる。
「あぁああっ…すご…あぁんっ…あっ…あついの…」
「ああ、お嬢ちゃんが俺の指をきゅうきゅう締め上げてる、まるで、俺の指を美味しいって、言ってるみたいだぜ?ほら、ここを舐めてやると…」
オスカーが、痛々しいほど硬く尖っている肉珠を、ぺろりと舐めあげる。
「ひんっ…」
と、アンジェリークは、溶けて痺れるような快感と同時に、またも、下腹部に、きゅぅっと絞られるような疼きを感じる。
「ほら…俺の指を…指なのに、かな?…くわえ込んで離そうとしない…」
オスカーが、わざと穏やかに、焦らすように、ゆっくりと指を抜き差しした。
すると、募る快楽に耐えかねてか、アンジェリークが、眦にうっすらと涙を滲ませ
「っ…おねがい…オスカーさまぁ…」
と、濡れた瞳と濡れた声で訴えてきた。
「何をお願いしたいんだ?お嬢ちゃん…」
オスカーは、アンジェリークが、もう挿れてくれとおねだりするものだとばかり思って、わざと、わからないふりをする。
「お、オスカー様…私も、オスカー様に…」
が、アンジェリークは、荒い息を押して、オスカーの身体に手を伸ばしてきた。
燃えるように熱く硬いものが、すぐにアンジェリークの手に触れた。猛々しく節くれだつ肉の幹は、オスカーの臍下に触れんばかりの勢いで、力強く屹立していた。アンジェリークは、知らず知らずのうちに感嘆の吐息を零しながら、やんわりとそれを握りこみ、自然に手を上下させた。張り出した先端が、ぬるりと濡れている。アンジェリークは、そのぬめりを塗り広げるように、滑らかな先端を、小さな掌をくるくる回すようにして、なでた。
「っ…は…ぁ…」
予想していなかったアンジェリークの行為に、オスカーは一瞬息をのみ、すぐにやるせない吐息をついて、僅かに眉をひそめた。
その吐息に、アンジェリークは、先刻からこみあげていた、絞られるような切なさと愛しさが、もう、身体中一杯になって、溢れ出しそうに思えた。
「私も…オスカー様に気持よくなってほしいの…」
ビロードを撫でさするような繊細な手つきで、アンジェリークの小さな手が滑らかに上下する。白く小さな手が、凶暴な外観で猛々しく屹立する男根をいとおしそうに撫でる様、ふぐりをやわやわと指を絡ませるように揉む様は、どこか背徳的で、だからこそ、例えようもなく淫らだった。オスカーは、体中の血が沸騰するかのような気がした。それほどまでに欲情した、いや、させられた。
「お嬢ちゃん…そのまま、導いてくれ…」
「っ…オスカー様…」
身体を起そうとしていたアンジェリークがー恐らくオスカーのものを口に含むつもりだったのだろうー一瞬、問いかけるような瞳で、オスカーを見つめた。
「たのむ…俺が…もう、欲しくて…お嬢ちゃんの中に入りたくてたまらない…」
アンジェリークの愛撫を中断させたくないし、そんなこと、できようはずもないーそれは、彼女がどれ程俺を愛しく思ってくれているか、その証、愛情の発露だからーでも、自分が彼女を欲する気持も、もう限界で…だから、このまま…と、オスカーは祈るような気持で訴えた。
「…はい…」
アンジェリークは、はにかみながら、ほんのり微笑み、小さく頷いた。同時に、アンジェリークの手が、彼女の中心へと促し誘うように、オスカーのものに添えられて動く。合わせて、オスカーも自然に身体をずらす。見下ろせば、アンジェリークは目元をほんのりと朱に染めていた。オスカーは、綺麗な翠緑の瞳の濡れたような艶、その中に燃え立つ、己と同じ欲情の焔を見て取った。胸中に歓喜がこみ上げた。
先端が、熱く潤びた花弁に触れた。
一気に貫きたい、その衝動は激烈だった。が、アンジェリークが、己の剛直を、少なくとも、その先端を花弁に導きいれてくれるまでは…とオスカーは必死に堪える。
導いてくれと懇願し、聞き入れてくれたアンジェリークの優しさに対する、それは、自分なりの儀礼のつもりだったのかもしれない。
が、先端が、熱い媚肉にじんわりと包み込まれた、その時が、やはり限界だった。
オスカーは、その瞬間、衝動のままに、一気に、渾身の力で腰をたたきつけていた。
「ぁああーっ」
ゆるゆると自身の内に収めるつもりだったのだろう、アンジェリークは、その不意の衝撃に甲高い嬌声をあげた。
すかさず、オスカーは、アンジェリークのたおやかな身体を力一杯抱きしめ、唇を塞ぐように口づけた。
そのまま、力強く、勢いにのって腰をうちつける。
「んんーっ…んっ…ふぅっ…ぅんっ…」
柔襞が妖しくからみついてくる、カリがめくれかえる、その度に、背筋から脳天まで、痺れるような快感が迸る。頭の芯まで、蕩けそうだ。尚更、たおやかな身体を抱く手に力がこもる。
すると、アンジェリークが苦しいのか、いやいやと顔を背けるようにして、口付けを解いてしまう。いきなりの激しい律動に、溺れるもののように息をあらげ、喘いでいる。オスカーの胸中に、ふっくらとした唇を更に追いかけて口付けたい気持がこみ上げる。アンジェリークが苦しげな様子が、不憫で、でも、それは、俺との情交に我を忘れているからでもあって、それは、たまらなく嬉しいことでもあって…そのせめぎ合う気持が、オスカーに、再度の口付けは、ほんの触れるだけのものに留めさせた。
そして、その口付けが合図だったかのように、オスカーは、上体を起こして、アンジェリークの腰をがっしと抱きかかえなおすと、更に力強い律動を放った。
「ふぁあっ…」
アンジェリークの身体がオスカーの容赦ない突き上げに、ゆさゆさと激しく揺さぶられる。多少ずれはしたものの、腰の下には枕が入ったままなので、オスカーがしっかり腰を抱え込んだことで、挿入はより深くなって、アンジェリークの身体には逃げ場や遊びがない。その上で、急峻な角度で屹立しているオスカーのものが、肉壁をえぐるように擦ってくる。頭が真っ白に焼ききれそうな狂おしい快楽が迸る。身体の最奥を思い切り突き上げられると、ずしんと重い快感が全身に響き渡って、つま先まで痺れてしまう。
「あぁっ…はぁっ…やっ…あぁん…んんーっ…」
「ほら…わかるか?奥に当たってる…」
「んっ…来るの…オスカー様の…奥まで…いっぱい…」
「ああ、ここが…いいんだろう?」
「あ…ぁああーっ…」
オスカーは、突きいれる角度を微妙に変えつつ、アンジェリークの最奥に己のものをたたきつける。まるで、貫かんばかりの勢いで。
「ひぁっ…あぁっ…ダメ…こんな…すごい…」
「ああ、感じてくれてるんだな…きゅうきゅう…痛いほど、絞めつけて来る…」
「んっ…いいの…すごく…も…おかしくなる…」
「まだ…こんなものじゃ…ない…もっと、よくしてやりたい…」
オスカーは、一度アンジェリークに口付けると、その身を抱いて素早く裏返し、そのまま、真っ白な背中に覆いかぶさった。
金の髪をかきわけて、うなじに、肩口から背中へと、満遍なく口付けを降らしながら、腕は、後背からアンジェリークの腰をしっかと抱えて持ち上げさせる。
真っ白なお臀に咲いた花弁は、オスカーのものをつい今しがた受け入れていた所為で、僅かにあわせ目が咲き綻んでいる。オスカーのものに押し出されたのと、情交の最中に更に溢れてきたものと両方だろう、アンジェリークの愛液は、花弁のみならず太腿にまで滴って、なまめかしい艶を与えている。
「あ…」
腰を高々ともちあげられて、オスカーが潤びた花弁に先端をあてがうと、アンジェリークの声が震えた。
「こっちからするのも…好きだろう?」
そう耳元で囁くや、オスカーは、アンジェリークのお臀に、思い切り力強く、腰をたたきつけた。
「あぁあっ…」
そのまま、オスカーは、続けざまに、湿った肉を叩く音を鈍く響かせる。
「…お嬢ちゃんの…花に…俺のものが、出入りしてる…よく…見える」
「ああぁんっ…はずかし…」
「でも…気持いいだろう?ほら…」
オスカーは、挿入の角度を意識して、背側の肉壁を存分に擦ってやりながら、思い切り良く最奥を突き上げる。激しい突き上げに、アンジェリークの腰が浮いて逃げないよう、快感が些かでも減じることのないよう、さらに、しっかりとお臀を抱えこんで。
「あぁあーっ…」
「いい…か?」
「んっ…いい…気持いいの…擦れ…奥に…あたって…あっ…はぁっ…」
アンジェリークが募る快楽に堪えきれなくなったのか、腕がくずおれて敷布に突っ伏してしまう。それでも、オスカーは、アンジェリークの腰をしっかと抱えて離さないので、アンジェリークは、腰だけを高々と上げたままの、より、淫らな姿勢となる。
「ああ…こんなに感じて…お嬢ちゃんは…なんて…淫らで、かわいいんだ…」
「やぁっ…ん…だって…好き…好きなんだもの…」
「ああ…俺も…愛して…る…」
「んっ…私…私も…」
互いに熱に浮かされたように、愛の言葉を囁く。気持が昂ぶりゆくほどに、アンジェリークの柔襞は柔らかく熱く蕩けてオスカーの剛直に絡みつき、密に包み込んでいく。
「っ……お嬢ちゃんの…襞が絡み付いてきて…俺のものを離そうとしない…」
「あぁんっ…だって…いいの…あ…ぁあっ…」
「っ……また締まった…本当に…っ…たまらない…」
「…ひぁっ…あっ…だめ…私…も…」
「くっ…お嬢…ちゃん…」
アンジェリークの身体が小刻みに震えた。秘裂が、うねるように蠕動してオスカーを締めあげてくる。その締め付けの甘さに屈服しそうになるぎりぎりのところで、オスカーは、己を一度引きぬいた。
そして、すぐさま、アンジェリークの身体を今一度表に返して、倒れこむように覆いかぶさった。
まだ、快楽の波に全身を洗われたままであろうに、それでもアンジェリークは、きゅっ…とオスカーの背を抱きしめてくれる。
「…はっ…はぁっ…オス…カーさま…」
「どうしても…お嬢ちゃんのかわいい顔がみたくなって…見ていたくて…でも、あのまま、後ろからするほうがよかったら…」
アンジェリークが、きゅっとオスカーの首根っこに抱きつく。
「ううん…オスカー様の顔、見れるの、私も嬉しいです。今も、気持よかったけど…」
「ああ、お嬢ちゃん…なら…」
オスカーはアンジェリークの背に腕をまわしたまま、背筋で上体を起し、そのまま、アンジェリークを己の膝の上にのせなおす。己を屹立をゆっくり飲み込ませながら。
オスカーのものが胎内に姿を消していくにつれ、アンジェリークが「は…ぁ…」と、艶かしく満足そうな吐息をついた。
オスカーは、アンジェリークの唇を一度食んでから
「今度は、このまま…互いに抱き合って…」
と、いって下から勢い良く突き上げた。
「あぁっ…」
アンジェリークが、溺れるもののようにオスカーにしがみつく。
オスカーはアンジェリークの腰をしっかりと支えるに留まらず、アンジェリークの腰を、己の膝下に打ち付けるようにして、思い切り良く揺さぶった。
「はっ…ふぁっ…あぁーっ…」
たわなな乳房が己の律動に合わせて、激しく揺れているのが見えた。
突き上げるたびに、すぎる快楽に、いやいやとむずかるように、かぶりを振る様も、いたいけで、いじらしくて、その度に、金の巻き毛が、きらきらと揺れて翻る様が美しくて…
「っ…あぁ…きれいだ…」
どうして、こんなにも愛らしいんだ、かわいくて、たまらないんだ。自分でも、空恐ろしいほどに、好きで、好きになるばかりで…心の底から、愛しくてたまらない。
少し冷んやりとして張りのあるお臀を指を食い込ませるほどに抱え込み、激しい突き上げを放つ。白い喉を舐めまわし、揺れる乳房の頂点にむしゃぶりついては、きつく吸い上げる。
「ぁあっ…オスカーさ…も…私…また…はっ…ぁあっ…」
「いく…か?」
「お願…一緒…に…っ…」
「ああ…俺も…もう……」
「んっ…きて…オスカー…さ…あ…あぁあーっ…」
「っ…アンジェリー…ク…」
抱きしめているアンジェリークの身体が、再び小さく震えた。アンジェリークの細い腕が、力いっぱいオスカーの背を抱きしめてくれているのを感じた。
例えようのない幸福感に満たされて、オスカーは、己を解放した。
「喉がかわいただろう?ほら…」
オスカーは、卓においておいたワインのボトルをとると、些か行儀がわるいのは承知で、ボトルから直にワインを口に含み、それを、アンジェリークに口移しで飲ませた。
「んんっ…んっくん」
アンジェリークの喉がかわいく上下した。
それでも彼女が嚥下しきれず零れたルビーの色の雫が、薄く開いた口元から僅かに零れた。オスカーは丁寧にそれを舐めとる。
「もう少しどうだ?」
「も、だめ…これ以上は…酔っちゃいます…」
「俺は君に酔わされっぱなしだからな、君にも酔ってもらわないと、不公平だろう?」
「あん…私だって、オスカー様にこんなに夢中なのに…それに、本当に酔って…何もわからなくなっちゃったら困るから…」
「なればいい」
「だめです…だって、私、気持ちよくしていただくばかりで、今夜はまだ…私からは、ほとんど何もしてさしあげてないのに…」
「っ…お嬢ちゃん…」
「あの…でも、もし、今夜は…これで『おやすみなさい』…だったら…私からは…その、今度でもいいですか?オスカーさま…」
「1回で「おやすみなさい」だなんて、そんなわけないだろう!俺を誰だと思ってるんだ?お嬢ちゃん…」
オスカーは、感激のあまり、アンジェリークをきゅーっと抱きしめる。と、胸の下でアンジェリークがくすくすとくすぐったそうに笑う気配を感じた。
「ふふ……だから…酔って何もわからなくなっちゃったら困るんです。私、オスカー様をちゃんと感じたいから…オスカー様のにおいとか温もりとか、重みとか肌触りとか、全部…」
「味とか、舌触りとかもだろう?お嬢ちゃんは、いつも俺のものを、見るからに美味そうに咥えてくれるからな」
「………や、やぁん…」
アンジェリークがオスカーの胸板に頭をすりすり、こすりつけた。
「本当にかわいいおねだりを言ってくれる…」
「…だって、私ばっかり、美味しく食べていただいちゃって、これじゃ、オスカー様のお祝いにならないから…」
「いや、ケーキに、ワインに、お嬢ちゃんを美味しく頂戴した、十分すぎるくらいだ…ん?ケーキにワインにかわいいお嬢ちゃん…というと………ああ、そうか、何かと思ったら『赤ずきん』だ」
「?…赤ずきん?」
「ああ、お嬢ちゃんからのプレゼント。ケーキとワインをプレゼントに持ってきたかわいいお嬢ちゃん…ときたら赤ずきんを思い出さないか?こうして、狼に食べられちまった処も同じだしな」
オスカーがふざけて、アンジェリークのかわいい鼻をかぷっと軽く噛んだ。
「きゃん!もう、オスカー様ったら…」
くすくす笑うアンジェリークは、こう続けた。
「でも…私、前にもいいましたけど、オスカー狼さんになら、いつ食べられてもいいです、ううん、たくさん、食べてもらいたい。食べてもらえなかったら、そっちの方が悲しいし寂しい…」
「お嬢ちゃん…」
「でも…オスカー様が狼さんで、私が赤ずきんなら、これからも、いっぱい召し上がっていただけますか?」
「…お嬢ちゃん…あったりまえじゃないかー!!」
「きゃ…」
オスカーは、今度は唇に噛み付くように口付けた。
「本当に怖いものしらずだな、この赤ずきんは。狼をこんなに挑発して…全身、貪り食われてもしらないぜ?」
「あぁん、嬉し…けど…だめぇ…だって、今度は、私からオスカー様に…んん…」
今は、アンジェリークのかわいい抗議を無視して、オスカーは再度、アンジェリークに口付け、同時に乳房を揉んでは、乳首を指先で摘まんで捻るように愛撫した。
今年は、何故、無茶な要求を言う気がおきなかったか、今、わかったぜ、と思いながら。
オスカーは、アンジェリークと暮らし始めて暫くは、いつも、自分が覚めない夢の最中にいるかのような心持がしていた。あまりに幸福すぎて、これが現実とは思えなかった。だからこそ、彼女に、かなり無茶な我侭を色々いった…ような気がする。
羞恥を煽るように、彼女が恥ずかしがるとわかっている格好を要求し、それを乗り越えてまでも自分を好きといってくれるか、試すような真似したのは「今、この時は夢ではないのか」という半信半疑な気持ゆえの大胆さと、あまりの幸福に我を失って、見境がつかなくなっていた、その両方だろう。つまりは…浮かれていたんだ、俺は。人生で初めて知った甘すぎる美酒に、正体を失くすほど溺れていたのだと思う。
だから固執した、手にいれた喜びは、喪うことへの無限の恐怖と表裏でもあったから。
でも、数年の時間を経て、オスカーは、最近、自分が漸く人心地がついたのかもしれん、と思った。
アンジェリークが、いつも自分の傍にいてくれる幸せを、漸く、自分のものとして、不安気なく実感できるようになったのかもしれない。彼女のこの豊かな溢れんばかりの愛情を、潤沢に、惜しみなく与えられてきて。
アンジェリークが、俺を限りない優しさで受け入れてくれ…今思うと、かなり甘やかされて…俺は漸く安心して息がつけるようになって…。
だから、今年は…もう、無茶な要求をする気が起きなかった、無茶な真似はしなくてもいい、といえるようになったのだろう。
だが…と、一方で、オスカーはこうも思う。
お嬢ちゃんが赤ずきん…というのは、我ながらナイス・イメージだったな、と。
だって、考えるだに、かわいいじゃないか、彼女の赤ずきんちゃん姿。それも、真っ赤なマントの下は生まれたままがいい、狼がすぐ食べられるように…。
そう、考えた途端、このアイデアを捨てるのは、あまりにもったいない…という気持が、こみあげて、頭から離れなくなってしまった。
『彼女にワインをくれと頼んだ時に、思いついてしかるべきだったんだ…彼女は、毎年、俺にケーキを用意してくれていたんだから。そして、実際に今年も…。今年の贈り物はワインとケーキと、気づいた時点で『じゃ、今年のお嬢ちゃんは、赤ずきんちゃんだな!狼に食べてもらいたいんだなー!』と、彼女のこともその場でいただいていたら、彼女は、どんなに恥ずかしがって、でも、きっと、優しく俺を受け入れてくれただろう…』
そう想像するだけでハナヂが出そうだった。
来年、同じように、また、ワインとケーキをプレゼントにくれと、頼んでみようか…
そんな自分の度し難さにオスカーは苦笑するしかなかった。
その上で、俺が、その場で、こんな恥ずかしい要求を訴えてみても…お嬢ちゃんは、それこそ、真っ赤になりながら、それでも、きっと、許容してくれるのだろうと思うと、オスカーは、こみあげるくすくす笑いを堪えるのに必死だった。そして、幸せな笑みを含んだ唇で、やはり、幸福そうに微笑むアンジェリークの唇を塞いだ。
FIN
2006年度のオスカー様お誕生日お祝い創作は、久々のあまあま、しかもシリーズならではの、今までのお誕生日お祝いを踏まえたうえでのエピソードにしてみました。
私は毎年11月の声をききますと「今年のオスカー様のお誕生日は、どうお祝いしようかしら」と考え始めます。創作の場合、それくらいの時期からエピソードを考えないと時間的に間に合わないからです(それでもいいネタが思いつかない時は、モノローグになったりする)
で、今年も「うーんうーん」と考えていたところ、ウチの旦那が11月の風物詩である「ボージョレ・ヌーボーが飲みたい、今年は買ってないのー?」と言い出しまして「赤ワインって年代物が珍重されるのに、何故、日本人はボージョレだけはぬーぼーぬーぼーと騒ぐんだろー、新酒って軽くてのみやすいけどさー」とふと思ったことが、今回のお話のエピソードを思いついた切っ掛けでした。
で、最初はED部分のオスカー様の独白にあるように「ワインとケーキをプレゼントするかわいい女の子って言ったら、赤ずきんだよなー。リモちゃんにピッタリイメージだわん」と赤ずきんネタをモチーフに、ライトで口当たりの軽い、それこそヌーボーみたいなコメディを書こうかと思っていたのですが、ワインの年代を話題にするとなると、どうしても「時間」に言及する流れになるよね、なるだろうと思い当たりまして。となると、ただ軽いだけの話にはできませんで、どちらかというと、しっとりと落ち着いた、ちょっと大人テイストのらぶらぶ・あまあま話に仕上がった…と思います。
シリーズものの場合、それまでに築き上げてきた二人の関係性というものがあるわけで、シリーズ最初の頃と今と(この話ではオスカー様の誕生祝は少なくとも4回目以降ですね)で二人の行動や振る舞いが、全く同じということは、ありえないと私は思うのです。人間同士の関係っていうのは、歳月の積み重ねで、有機的に変わっていくものだと思うので。
もちろん、二人の仲があまあまのらぶらぶであることは当然の土台として、オスカー様もいつまでもヤキモチ焼きのワガママ青年じゃあまりに進歩がないし(笑)ということで、今年は、少し落ち着いた話になりました。
いわば「大人の甘さ」な話しになったと思うのですが、いかがだったでしょうか?
それと、タイトルはとあるK−Popsのタイトルから拝借いたしました(私、韓流マニアではございませんが、K−Popsはたまに聞きます)
日本語的には珍しい表現だと思うのですが、何故か、韓国の歌では「シガン・ソゲ・ヒャンギ(時間の中の香気)」というのは比較的一般的な修司表現らしく、同タイトルの歌もいくつかあるようです。で、今回、お話ができた後、いいタイトルが思いつかないわーと悩んでいたとき、ふと「年代を経たワインのアロマって、時の流れの中に封じ込まれた香気ってイメージかなー」と思った時、この韓国歌のタイトルを思い出しまして、これピッタリかも〜と、直訳して借用させていただきました。
時間を重ねるごとに、愛の深みと味わいを増していく、そんな二人のあまあまでらぶらぶな雰囲気をかもし出せていたらいいのですが…お楽しみいただけましたら、幸いです。
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