ジュリアスが膝をわって、自分の中にゆっくりと入ってくる感触にアンジェリークは焦れるような思いを味わっていた。
自分の中がじわじわと圧倒的な質量で満たされて行く。
ジュリアスのものは硬質な感じのオスカーのものとはまた異なった充実感をアンジェリークに与えてくれる。
アンジェリークは自分の内部がジュリアスのもので柔らかく隙間無く埋めつくされていくような満たされた思いを感じる。
自分に与えてくれる愛のかたちと、そのものの印象が奇妙に反転していることにアンジェリークは不思議な感慨を抱く。
優しく包むような愛をくれるオスカーのものは鋭く激しく、厳しく支配するように自分を愛するジュリアスのものは逆にソフトでやさしげに感じるのだ。
そんなことに気を取られているうちに、ジュリアスが自分のものを根元まで収めきった。
「あぁ」
アンジェリークは満足げな吐息を漏らす。
しかし、満たされることは同時に、新たな渇望の幕開けでもある。
ジュリアスがアンジェリークに上体を預けるように覆い被さってきた。
アンジェリークの肩に端正な顔を埋め、背に腕をまわし、その体をぎゅっと抱きしめる。
日輪を束ねたような豪奢な金の髪がアンジェリークの白い体を所々覆い隠す。
アンジェリークもジュリアスの背に腕をまわし、その体を抱きしめる。
ジュリアスの重みが、その腕にこめられた力が、少し苦しいけれど、愛されている実感にも通じる。
「おまえの体はどこもかしこも熱く柔らかで・・・私を蕩かす・・」
ジュリアスはアンジェリークの首筋に唇をおとすと、そのままゆっくりと、腰の律動を始めた。
たちまちアンジェリークが艶のある声をあげ始め、ジュリアスの背に回した腕に力がこめられる
「あっ・・・あぁっ・・・・あっ・・・・」
その声に促されるように、ジュリアスの律動が少しずつ深く速くなって行く。
ジュリアスの動きに合わせ、アンジェリークも自分の腰を振りたてジュリアスに応えようとする。
アンジェリークが積極的に自分に応えようとすることが、また、ジュリアスの律動を速く激しいものにしていく。
愛する。応じる。更に深く愛する。より激しく応える。
旋律に、同じ旋律が被さり、リエゾンし、また新たなヴァリアシオンを奏で、複雑な変調を繰り返すコンチェルトのように、2人は互いに互いの情感を高めあっていく。
ジュリアスの動きが速くなるにつれ、アンジェリークの吐息は荒くせわしなくなり、切なく何かを請うるような色味が増して行く。
ジュリアスの背に回された小さな手は、自分の高まる情感のままに、行き場を求めて、白い背をあてどもなくさまよう。
「あっ・・はぁっ・・・あぁっ・・・はっ・・・」
ジュリアスの腰に、細くしなやかな足が絡みつき、より深い快楽を求めて、ジュリアスを逃すまいとする。
小さな顔がのけぞり、白い喉が露になる。
「あっ・・・ジュリ・・ア・・・さま・・もっと・・・もっ・・」
「・・・イきそうか?・・・・」
「んんっ・・・あと・・ちょっと・・あっ・・・だから・・・だから・・」
「・・ああ、イきたいのだな、なら・・・イくがよい・・・」
アンジェリークが素直に快楽を求める姿が愛しい。その快楽を与えてやれるのが自分で嬉しい。
ジュリアスは、アンジェリークの首筋をきつく吸い上げ、その体を抱く手に一層の力をこめて、腰の律動を更に早めていった。
「あっ・・あぁっ・・・・やっ・・・あああぁっ」
アンジェリークの背が反り返り、指先がジュリアスの肩に食いこむ。秘裂の収縮に酔いそうになるが、ジュリアスは懸命にその締付けに耐える。
「あ・・はぁ・・はぁ・・」
ジュリアスはアンジェリークが達した様をみて、その腕の戒めをほどき、少し上体を起こした。
快楽の余波に息をあらげ、肩を震わせているアンジェリークを目を細めて見つめ、ジュリアスは軽く口付けを落とす。
「ふ・・このように、乱れて・・・まだ、それほど深く突き入れてもいないのに、もう、我慢できずに達してしまったのか?・・・」
「あ・・はぁ・・・だって・・・」
「では、もっと奥まで突いたら、おまえはどうなってしまうのだろうな・・」
「えっ・・あっ・・くはぁっ・・・」
アンジェリークの細い足首を掴み、腰をもちあげんばかりに足を大きく広げて、ジュリアスは再びアンジェリークを深深と貫き、その体を揺さぶり始めた。
アンジェリークの秘裂が自分のものに貫かれている様がジュリアスからはっきりとみえる。
自分の物が引きぬかれるたびに、紅色の襞がめくりかえり、また自分のものを咥えこもうとするかのように絡みつく様は、いつ見ても、例え様もなく淫靡で、ジュリアスの情欲を更に煽る。
ジュリアスは腰の動きを緩めぬまま、アンジェリークを更に言葉で追い詰めようとする。
淫らな言葉にアンジェリークがより乱れるのを見越してのことだ。
「ほら、おまえのここが私のものを悦んで咥えているのがよく見える・・」
「あっ・・いやぁっ・・」
「こんなにひくついて、嬉しそうにわたしを締付けて・・」
「やっ・・あぁっ・・」
「だが、私のものを離すまいと、おまえの襞はいやらしく絡みついてくるぞ・・」
「やっ・・そんなこと・・おっしゃらないで・・・あぁっ・・」
「隠さずとも良い・・感じているのだろう?淫らな言葉を言われるたびにおまえのここは更にきつく私を締め上げているからな・・・」
「あっ・・やあぁっ・・・」
「では、やめてしまってもよいのか?そうではないだろう?よいのだ。もっと淫らに、もっと乱れてな・・・」
ジュリアスはこういって、更にアンジェリークの奥を狙って自分のものを突き入れた。
「ひぁっ・・」
そのまま激しく腰をうちつけ、アンジェリークの肉壁を抉る。
「あっ・・あっ・・やぁっ・・・だめ・・また・・・あ・・ああっ・・」
アンジェリークがかぶりを振る。余りに過ぎる快楽から逃れ様とでもするかのように。
快楽に薄桃色に上気した肌が、窓から差し込む柔らかな陽光に照り映えて、殊のほか美しい。
「快楽にその身を委ねるおまえは、とても美しい・・いくら見ても見飽きぬほどにな・・・」
「あっ・・あん・・ジュリアス・・・・さま・・・ジュリアス・・」
アンジェリークが緑の瞳をうっすらと開けた。霞がかかったように焦点は朧だ。
「・・きれいなのは・・ジュリアスさま・・ほんとに・・ほんとに・・きれい・・・」
途切れることなく与えられる悦楽に酔いしれながら、アンジェリークは夢見るように言葉を紡ぎ出す。
律動にあわせて揺れるジュリアスの金の髪は、逆光を浴びて煌く光の帯のようだった。
深い海の色を思わせる瞳は切なげに愛しげに細められ、ジュリアスの白皙の身体も、高まる情感にうっすらと色づいている。
高まり行く官能に翻弄されていたアンジェリークには、光そのものが具現化したようなジュリアスの存在自体が夢のように非現実的に感じられ、
ここにほんとうに、彼の人はいるのかと確かめるようにゆるゆると、その手をジュリアスのほうに伸ばしてきた。
ジュリアスは反射的にその手をとり、指を絡めた。
「私はここにいる。常におまえのそばに・・おまえとともに・・命のある限り・・・・」
真摯な声で語りかけ、ジュリアスはアンジェリークの足を肩に掛けなおすと、手はアンジェリークと指を絡めあわせたまま、またアンジェリークを深く激しく貪り始めた。
今まで以上に深い結合に最奥を突き上げられ、アンジェリークはあまりの愉悦に一瞬声を失う。が、すぐ、今まで以上に切なく忙しない吐息が、押さえきれない艶やかな声が、その愛らしい口から際限なく零れ出す。
「・・・・・っ・・・・はっ・・ぁあっ・・・はぁっ・・・あっ・・ああっ・・・」
ジュリアスの強く激しい突き上げにアンジェリークの秘裂の締付けも一層きつくなる。
先ほどから自分の欲望を絞りに絞ってきたジュリアスも、もう限界だった。
2人が互いにかさねあい、高めあってきた旋律は今、歓喜の歌というコーダに収斂していく。
「・・・っ・・・愛している・・アンジェリーク・・・」
「あぁっ・・ジュリアスさまぁっ・・・・」
熱く迸るジュリアスの精をその体に余す所なく受けとめ、アンジェリークの意識は燦爛と輝く光の色に埋め尽くされていった。
ジュリアスの体がゆっくりとアンジェリークの上に覆い被さってきた。
しばらく己をアンジェリークの中に留め置いたまま、アンジェリークの両の乳首を軽くついばんでから、唇に深い口付けを与えた。
互いにまだ激しく胸が上下している。その体をどちらからともなく、またきつく抱きしめあう。
ようやく唇を離したジュリアスが、アンジェリークの瞳を覗きこみ、ためらいがちに言葉を紡いだ。
「おまえを愛している。・・・・だが、私は、私なりのやりかたでしか、おまえを愛せぬ・・・・もし、おまえがオスカーのほうを愛しているというのなら・・・」
ジュリアスの唇をアンジェリークの唇が塞ぎ、ジュリアスの言葉を押し留めた。
そして、アンジェリークは唇を離すと、ジュリアスの瞳をじっと見つめて縋りつくように訴えた。
「私にはジュリアス様が必要なんです。でも、オスカー様のことも私は・・・お2人ともいてくださらないと私は・・・」
そう、2人の支えがなかったら、自分は多分女王ではいられない。
女王のサクリアは守護聖のそれより、多分に意思の力に左右される。
2人と一緒にいる為に女王の道を選んだ。
だから、2人のうちどちらかでも欠けてしまったら、自分は女王でいるための存在理由を失って、そのサクリアは急激に衰えてしまうだろう。
それはつまり、2人を同時に失うことに他ならない。
2人と一緒にいるために女王になり、女王であり続けるためには、2人に支えつづけてもらわねばならない。
もはや、どちらが主でどちらが従なのか、どちらが陽でどちらが陰ともいえぬ、コインの裏と表のように不可分で等価値な存在理由。
それはそのまま、自分が必要としている愛のかたちに重なって行く。
オスカーの優しい情熱に包まれ女王の責務に疲れた身と心を癒されたい。
その一方で、ジュリアスに支配され従属することで、自分が宇宙を司っているという重圧をすべて忘れてしまいたい。
自分が女王でいるためにどうしても必要な2つの異なった愛のかたち。どちらが欠けても、自分の精神は破綻を来すだろう。
それが、自分のエゴなのは重々承知している。
それでも、アンジェリークは2人のどちらかを手放すことなど、もはや考えられなかった。
アンジェリークの言葉に、ジュリアスの瞳に安堵と決意の色が微かに浮かぶ。
「・・おまえは私を必要だと言ってくれるのだな・・ならば、私はおまえとともに生きていこう。私のサクリアのある限り、おまえを支えつづけよう。私とオスカーの2人で・・・」
ジュリアスはこう言って、再びアンジェリークをきつく抱きしめ口付けた。
ジュリアスにも解っていた。自分一人では、アンジェリークを支えきれないことを。
自分もオスカーも片翼として、アンジェリークの翼を支えて行くしかないことを。
ただ、その翼はどちらが欠けてもアンジェリークは飛びつづけることができなくなる。
だから、たとえ、それが片翼でも彼女を支えることが自分の愛であり、誇りでもある。
『・・・それでも・・・』
また、自分の愛を、そして、アンジェリークの愛を見失いそうになることが、あるかもしれない。
強く愛するからこそ、それだけ強い不安に苛まれることもあるかもしれない。
だが、そのときは、また、お互いの愛を見つめなおせばいい。アンジェリークの気持ちも、自分の想いも今日のように確かめ合えばいい。
愛を確かめうことは、心の弱さでも、恥ずべきことでもないと、気付く事ができたから。
ジュリアスは一度アンジェリークの唇から自分の唇を離し、アンジェリークに優しく尋ねかけた。
「・・・また、ここに・・・・おまえに会いに来てもよいか?」
「はい、ジュリアス様・・私はいつでも、ジュリアス様をお待ちしてます・・・好きです・・ジュリアス様・・・」
恥らった表情で、それでも、いささかのためらいもない受諾の返答に、その率直な愛の言葉に、背中を押されるように、ジュリアスは再びアンジェリークの体をきつく抱きしめ、口付けた。
アンジェリークの甘い舌を貪りながら、頭の片隅で、もう自分の執務室に戻らなければとジュリアスは考えていた。
それでも、アンジェリークをどうしても手放しがたく、ジュリアスはその固い抱擁をいつまでも解くことができなかった。
きっと、オスカーもこんな気持ちだったのだろうと、思いながら・・・
FIN
どうしても、光様の人となりを掘り下げてみたくて、書かせていただいたものです。
ただ、私の光様は、自分から動く人じゃないので、前振りとして炎様の夜這いが必要だったんです。
この3人の関係は完全な鼎立で誰か一人でも突出しようとすると、すぐ崩れそうになる脆さなんてものも書いて見たかったことのひとつです。
ちなみにジュリアス様のセリフは速見奨さんの声を思い浮かべながら読んで下さい。燃えます(笑)
私は個人的にオスカー様はキスだけで女をいかせる男、ジュリアス様は声だけで女をいかせる男だと思ってますので(笑)