On−Side 1

「先輩、どちらに行かれたのかしら…」

人気のあまり見えない学校の裏庭だった。夏の名残の日差しに、勢い良く繁った樹木が濃い陰影を投げている。豊かな植栽のせいで視界はあまりよくない。

その裏庭を1人の少女が困惑したように立ち止まったり、小走りに走り出したりを繰り返している。

愛らしい少女だった。リボンで飾った金の巻き毛が初秋の風にそよぐ。すんなりとのびた手足は妖精を思わせ俊敏そうだ。素肌は絞りたてのミルク色で、透き通るような白さでいながら健康的で溌剌としている。とりわけ印象的なのが大きく澄んだ翠緑の瞳だった。宝石のよう…というより初夏の若葉を思わせる生き生きと躍動するような美しさがあった。しかし、今その瞳には迷いの色が浮かんでおり、落ちつかなく周囲をきょろきょろと見渡している。

彼女の名はアンジェリーク・リモージュ。ここ、スモルニィ学園高等部の1年生だ。

スモルニィ学園は小学校から大学院まである一貫名門校である。良家の子女子弟が多く在籍するが、ただ単に家柄のいい生徒が集まるという意味での名門校ではない。もともと勉学という意味でのレベルも高いのだが、それ以上に一芸というか才ある生徒の能力を120%引き出す教育で定評があり、様様な才能に恵まれた生徒の能力を如何なく発揮させ、開花させて世に送り出すことで有名であった。また、学生も、この学校なら望む教育を受けさせてもらえると期待して入学してくるので必然的にレベルも意欲も高い。生徒には一人一人の能力や傾向、将来性をにらんだプログラムと教育計画が用意され、教師はそれに応じた教育を提供する。その結果在学中に世に出てそれ相応の評価を受けている生徒も少なくなく、学校側はそのような活動(経済活動であれ文化活動であれ)を推奨こそすれ、制限するようなことは金輪際なかった。学校の役割は社会に出るための訓練とシミュレーションの場である、それゆえ、その結果が他人より早く発揮されることは、学校の教育の正しさを証明し更に勇名を馳せることになるのだから、突出する才能は惜しまずどんどん世に出すべし、という方針であり、実際それに見合う教育を提供していた。また、若い学生の内なら、例え、躓きや挫折があっても容易にとりかえせるし、やりなおしもできる。失敗することは恥かしいことではなく、次回の成功への鍵であるのだから、社会に出る前にどんどん多彩な経験をせよ、というのがこの学園の基本方針であった。

そしてこのアンジェリークは聡明な頭脳と闊達な性格の明るい女生徒であったが、特に目立って突出した才能があるというわけではない、この学園では極一般的な生徒の一人だった。優秀で何事も吸収が早いというのは、この学園では結構当たり前の要素なのである。

ただ、PCでオフィス関連ソフトが扱える事から、現生徒会で書記として学校行事の運営の一端を担っている。

そして、スモルニィ学園は前述のような教育方針から、学校の運営はほぼ生徒たち本人に任せていた。さすがに経理や運営方針の決定は理事会が行っていたが、それ以外の行事の発案や運営は全て生徒たちに任されている。行事を企画・発案し、その計画をまとめ、実際に実行に移し、その過程で他者と協力し、時に命令して人を動かし、…学校行事の運営はまさに社会人、とりわけ、経済界や政界に出た時の格好のシミュレーションになるため、この学園の生徒たちは、皆この環境を面白がって積極的に運営に携わっていた。利益の事は度外視(もちろん予算はあるのだが)して、様様な企画がたちあげられるのだから、意欲のある生徒にとってはチャレンジスピリットを満足させられることこの上なかった。しかし学生の身ゆえ、あまりに現実味のない計画をたてた場合はそれが中途で挫折し、その見通しの甘さを知らしめられる生徒も数多くいたのだが、学園の方針として失敗は学生でいる間の特権であり、社会人になれば、責任や損益の関係で思った通りのことはできないのだから、やりたいことは全てやれ、失敗できるのも今のうち、という教育が浸透しているため、生徒たちは失敗を恐れず果敢に物事にトライする気風に満ちていた。

そして今、アンジェリークは生徒会執行部の先輩、オリヴィエを探してこの裏庭をさまよっているのだった。

学園自体は、まだ夏休み開け直後の幾分けだるい雰囲気が残っていたが、実は二学期というのは一年中でも一番忙しい。期間が長いうえにとにかく行事が多い。そこで、生徒会執行部は二学期早々、最早フル回転で様様な活動を始動させていた。

しかも二学期には一年を通して最大最重要の学校行事、ハーベストフェスタがある。この行事は、俗に言う学園祭というか文化祭というものを想定していただければ結構なのだが、この企画と進行計画のことで、アンジェリークはどうしてもオリヴィエ本人に至急に確認したいことがあったのだ。

オリヴィエは生徒会では催事の演出統括者である。オリヴィエが運営に拘わった行事はとかく、華やかで人目を引き、なおかつ段取りが良くて、後味すっきりともっぱらの評判なのである。

そして、オリヴィエ本人の容貌も、それに見合って華やかかつキラキラしいもので、とにかく遠目からでもすぐにオリヴィエとわかる他者には真似できない、間違えようのない特徴があった。

長く伸ばした金髪はピンクからサーモンオレンジへ変わるグラデーションのメッシュが入り、そのかんばせは濃青色の瞳に合うシャドウや口紅で常に華麗に彩られている。体育の授業があってもメイクが崩れないのは、現スモルニィの7不思議のひとつになっているらしい。

高等部の男子の制服は元来はベスト&ネクタイ、詰襟、ブレザーの3種から選択なのだが(尤も制服も強制ではないのだが、この学園の生徒は母校に誇りかつ愛着高きこと甚だしい上、この制服自体が一種のステイタスになっているので、皆、進んで着用していた)オリヴィエはこの詰襟タイプの制服の上着の色をパールピンクに替えて髪の色に合わせたピンクのバイヤスでテーピングした上で金モールの肩章をつけ、その上で思いきりよく丈を短く詰めていた。ジャケットが短い分スラックスの丈は長めにとられ、もともと長い足がさらにすっきり見えるよう工夫されている。色もテーピングに合わせた思い切りのいいローズピンクだった。スモルニィ広しといえども、ここまで改造した制服をきているのも、それが違和感なく似合ってしまうのも、一人オリヴィエ以外ありえない。

これだけ異彩を放っているオリヴィエを学校側が黙認しているのは、もともと自由な校風、言いかえれば他者に迷惑をかけない限り自分の責任において取る行動には自由が保証されていることに加え、オリヴィエ自身が大手アパレル会社の御曹司であり、そのメインブランドのイメージキャラクターかつ専任モデルであるという理由が大きい。親の財力を考慮して黙認しているのではない。オリヴィエ自身が歩く広告塔なのであり、ブランドイメージであるため、身綺麗に装いかつ人目を引く容貌を保つこと即ち彼にとって義務であり仕事の一部であるからだった。メイクも「仕事上の必要」と言われれば、もともと生徒たちが広く在野で活躍する事を尊ぶ校風ゆえ、オリヴィエのこの一見どうみても高校生には見えない風貌も、何も問題になることはなかったのである。もっとも、生徒会長のジュリアスは「あれのどこが高校生に見えるというのだ…学生には学生らしい装いというものがあるであろう」とどうにもこうにも納得できないようであったが、自分も同じ生徒の立場ゆえ、学校側に黙認されている以上、止めろという権利もなく、気に入らないのだが何も口出しはしないでいる。ジュリアスはもともと権威や威光を笠に着るわけではなく、自分の信念として「学生の間は学生らしい装いをすべし」と思っているだけであるのだが。

そして、アンジェリークはこのオリヴィエに妹のようにかわいがられ、メイクのこつや、ファッションの見せ方…ファッションはディテールではなくシルエットの方が大事なのだとか、いろいろ自分を魅力的に見せる効果的な方法をレクチャーしてもらっていた。高等部に入学してきた当時、率直に言って垢抜けない雰囲気のあったアンジェリークが今や高等部1のアイドルと噂されているのも(高等部1の美少女とはちょっとニュアンスが異なる)オリヴィエの的確なアドヴァイスによることろが大きかった。当然、アンジェリークもオリヴィエには兄のような、姉のような…というとオリヴィエに怒られてしまいそうだが、とにかく親しみを抱いており、とても懐いている。

このように目立つオリヴィエであるからして、所在がわからなくても普段ならすぐに見つかる。校庭にいる生徒に声をかければ、どっちに行ったと即答が返ってくるのが普通である。

そして、今、アンジェリークはオリヴィエが裏庭の方に行ったということはすぐに聞き出せたのだが、その裏庭で広さと視界の悪さに手を焼き、オリヴィエの姿をどうしてもみつけられないのであった。

「あーん、どうしよう〜。これがはっきりしないと…絶対にジュリアス先輩のチェックがはいるわ。ジュリアス先輩がこの矛盾を見過ごすはずないもの〜!それにきちんと答えられないと、私もオリヴィエ先輩もどれだけお説教くらうか…わーん!オリヴィエ先輩、どこにいらっしゃるんですかー!」

と泣きべそ混じりに叫んで見たものの返事はない。

「この近くにはいらっしゃらないのかな…そうだ!裏山のふもとに東屋があったわ。もしかしたら、あそこでお休みになってるのかも…」

華やかな外見に惑わされ勝ちだが、オリヴィエはとても人に神経を使う性質(タチ)だ。だからこそ、時たま一人になる時間が精神衛生上必要らしいのである。

「何もかんがえずにぽやーんとしてると、いいアイデアがぽんぽん涌いてくることがあるんだ、これはね、人が側にいるとだめでね。私はつい側にいる人のこと考えちゃうから、自分の考えには没頭できないんだ。これも性分かねぇ」

なんてことを教えてもらった時がある。オリヴィエ自身はモデルより本当服を作る方のデザイナーになりたいと思っていて、この学園で服飾の単位も選択してる。『服のデザインも1人でいると一杯思いつくんだ。秋のお祭りの時にあんたが着るドレスは私がデザインしてあげるよ』なんて言われて、アンジェリークはすっごくうれしかったことを思い出した。

きっと、あそこにいらっしゃるわ!お一人で心鎮めてる時にお邪魔するのは申し訳ないけど…こっちも緊急事態なんだもの!

アンジェリークは確信に近い思いを抱いて、裏山へ向ってたたっと駆出した。

 

学園の裏手は小高い丘陵となっており様様な広葉樹がよく繁茂している。秋色の風が立ち始めたとはいえ、まだ色づいている木々はほとんどない。広葉樹林は針葉樹林に比すると手入れに手間がかかるのだが、木の実がなったり、綺麗な花が咲いたりと、人間にも小動物にも心安らぐ恩恵を与えてくれるものが多いのでこの学園では意図的に植栽されていた。

尤もアンジェリークはそんなことは知らないし、木々の緑は大好きだったし、初夏には木イチゴを摘ませてもらってタルトにしたりと既に恩恵も受けていたのだが、今は、このあまりに豊かな緑が少し恨めしかった。全然見通しが効かない上、裏山の麓の東屋の屋根は見えているというのに、遊歩道が入り組んでいるので、なかなか目的地に辿りつけないのだ。

「あーん、これで先輩があそこにいらっしゃらなかったらどうしよー」

この広くてうっそうとして裏山で、同級生のゼフェルがよくしているように昼寝でもされていたら、自分は絶対オリヴィエをみつけられないという、変な自信のあるアンジェリークである。

そうだ!遊歩道からは外れるがこの大きな桑の木を回りこめば確か東屋のまん前に出たはず、そう思ってアンジェリークはくるりと身を翻した。途端にぽっかりと開ける視界。つたの絡まる支柱とカントリー調の切り妻屋根、その真下には瀟洒な白いベンチがあって、そこには一目でそれとわかる華やかな色彩の持ち主がいた。

いたことはいたのだが、アンジェリークの探し人は一人ではなかった。

それに気付き、アンジェリークはオリヴィエの元に駈け寄るどころか、声もかけるのも躊躇ってしまった。といっても、オリヴィエは女性とラブシーンの真っ最中…だったわけではない。一緒にいるのは男性だった

「誰…あれ…あんなひと、うちの学校にいたかしら…」

アンジェリークがこう思ったのは、オリヴィエと供にいる人物が印象に残らない、いわばすれ違っていても気付かないタイプだったからではない。むしろその逆で、あの華やかなオリヴィエと並んでも遜色のない、下手をするとオリヴィエより人目を引く風貌をしていたからだ。この学校にいたら、嫌でも目にはいるというか、一回でも見たら忘れるはずのない容姿の持ち主なのに、アンジェリークはこの男性をみた覚えが全くなかった。

その男性はオリヴィエと並んでベンチに座っていた。座っていても、長身のオリヴィエより僅かに背が高い様だったが、それ以上に違うのは線の太さだった。比較的細身のオリヴィエに比べ、体全体に厚みがあり、いかにも鍛えているという印象を受ける。顔は距離があるので細かいディテールまではよくわからないが、はっきりいって整った造作のようだ。とりわけ氷のような蒼い瞳が眼光鋭く浅褐色の野性的な肌の色によく映えている。そして、何より目立つのが燃え立つ炎を体現したかのような緋色の髪だった。オリヴィエのように染めているのではなく、地毛のようだ。それでなくても燃え盛る炎のような髪をわざわざ焔にみせたいかのように、逆毛をたてている。その髪の色といい、瞳の色といい、一言でいえばまさに燃える炎の男という印象だった。

顔立ちは整っているだけでなく、大人っぽい。同級生のゼフェルやランディと明かに雰囲気が違う、だから、アンジェリークは一瞬この男性を大学部の先輩なのかと思ったのだが(それなら見たことがないのも納得いく)すぐにそうではないことに気付いた。

着崩していたので、最初はわからなかったが、その男性が着ているのは間違いなくスモルニィの高等部のベストタイプの制服だったからだ。

しかし、アンジェリークはこんなにだらしなく制服を着崩している生徒を見た事がなかった。シャツのボタンは第二か下手すると第3ボタンまで開きっぱなしで胸元を惜しげなくはだけていてまるで厚い胸板を誇示しているかのようだし、そのシャツの裾は全部だらーっとスラックスの上に垂れているし、ベストはこれもお体裁で引っ掛けているといった印象がありありだった。

思いきり改造してるといってもオリヴィエの方がきちんとして見える。かといってゼフェルのように、面倒くさいのと窮屈なのがいやでボタンを止めないというのとは、何か意味が違うような気がした。ゼフェルが服装にかまいつけない単純な粗野とすれば、こっちは一言で言えば…そう、計算したようなしどけなさ、そんな感じだった。

「ど、どうしよう…声かけていいのかな…」

なんとなく二人の男性の間に入れないような雰囲気を感じてアンジェリークは躊躇していた。

その時、緋色の髪の男性が胸のポケットから小さな箱を取り出すとなれた手つきでその箱の底を組んだ長い足に軽くうちつけ、その反動で飛び出した白い小さな筒状のものを唇で抜き取って口に咥えた。

「たばこ…」

そう、あろうことか、緋色の髪の男性は高校生の分際でありながら(制服を着ているのだからその筈だ)煙草を吸おうとしているという事実にアンジェリークはものすごい衝撃を受けた。

『ふ、不良だ…不良だわー!いやー!どーしよー!不良なんて見たの初めて…』

しかも、この男性、悪い事をしているくせにまったくこそこそおどおどした所がなく、実に堂の入った悠々泰然とした雰囲気で煙草を手にしているのである。そのあまりに堂々とした落ち着き払った態度にアンジェリークは『こ、この人ってもしかして不良の親玉とか親分とか…あ!番長とかいうものなのかもしれない…きゃー!ますます、どうしたらいいのー!』と実はパニック寸前になってしまった。

何故アンジェリークがこんなにも世馴れていないのかと言うと、それには訳があるのだが…

とにかくアンジェリークは本当の事を言うと速攻で回れ右をして逃げだしたかった。が、オリヴィエがもしかしたら人目のない裏庭で何かこの男性に悪い事をされているのではないかと心配で動くに動けない。何か脅されてるとか、カツ…カツ…あ、かつあげって言ったっけ?人からものを脅し取るの…とかされてたら大変だし…かといってただの非力な女子高生である自分がこの場に出ていったとしても、あの、どうみてもめちゃくちゃガタイのいい男性に敵うどころか、逆に何をされるかわからないし…かといって、オリヴィエを見捨てて自分だけ逃げられないし、誰か人を呼んでくる間にオリヴィエがのっぴきならないことになったら大変だしと、とにかくどうしていいかわからず動くに動けない3すくみ状態に陥っていたのである。

アンジェリークが煙草のことでパニックになっていなければ、この二人は実に和やか…というか、いかにも悪友っぽい笑みでじゃれあうように語り合っていたのに気付いたかもしれない。しかし、スモルニィで『不良』などというものを見たことがなかったアンジェリークは、この時すっかり平常心を失っていた。距離もあったせいで二人の会話はあまりよく聞こえなかったのだが、この時この二人の会話が聞こえていたら、アンジェリークはさらにこの男性を不良どころか人でなし!と思ってしまったかもしれない…

 

「どうだ?おまえも一本」

「んな、お肌に悪そうなもの私はやらないよ。で、どうよ、一年ぶりの母校の感想は…」

「ふ…変わってないといえば変わってないが…変わったところも多々あるな。特にお嬢ちゃん方だ。俺のいない間に随分かわいい新入生が一杯入ったんじゃないか?ちらっと見ただけでも俺の知らないかわい子ちゃんが一杯いたみたいだからな。」

「…たく、いきなり目をつけたのがそれ?この学園の生徒はあんたの火遊びの相手が勤まるほど世馴れてないんだからね!戻ってきて早々問題おこすんじゃないよ!」

「わかってるさ。この学園のお嬢ちゃんたちは、一時の火遊びに向いてないことくらいな…下手に手を出して処女だったりしたらやっかいだしな。それを逆手に取られてビジネスメリットのない家柄の娘との結婚を迫られたり、訴訟をおこされたりしたらおやじから勘当されちまう。それにおまえが心配しなくても、堂々と校内で煙草を吹かすような男にそれ相応の家庭の子は近づいてはこないさ。君子危うきに近寄らずってな。…俺との火遊びは、女の値を下げるからな。」

「あんたの煙草は虫除け?蚊取り線香じゃあるまいし…しかし、意外だね、あんたみたいな男と遊ぶは女のステイタスかと思ってたよ。」

「普通の女ならな。だが、この学園の大勢を占めているような良家の子女にとっては将来の縁組にマイナスにしかならんだろう。こんな遊び人と浮名を流しちまうとな。ま、留学先はもっと普通の家庭の子が多かったし、留学生でいつか本国に帰ってしまうから、俺が決してステディにはならないとわかった上で誘ってくる女ばかりだったので俺も気楽だったんだがな…」

にやりと凶悪とも言える笑みを片頬に乗せてから、その男性は言葉を続けた。

「だが、それと女の口に戸を立てることは別物だった。留学先で一度でも俺と寝た女はそれを自慢気に吹聴してまわるんで、女同士で喧嘩をはじめるは、ベッドテクを事細かに喧伝されるは、あげくの果てに校長から呼び出しをくらっちまって参ってな…」

「あんたが一年で留学先から帰ってきたのは…いや、連れ戻されたのは、そのせい?煙草はあっちじゃ虫除けの役に立たなかったわけだ。」

「ぬかせ!煙草を堂々と吸うような不良と付合おうって女はもともとそういう男が好きだから、効果がなかったのは確かだが…だが、この学園の子は皆真面目だからな。俺みたいな見るからに悪い男には本気でのぼせあがったりしないだろうよ。俺も捌けていない女の相手は面倒だしな。だから、まあ、高価な花は手折らず摘まず愛でるだけ…目の保養だけにしておくからおまえが心配しなくてもいいぜ、オリヴィエ」

「なに外道なこといってんだか!誰があんたの心配してるって言ったさ。例え、あんたがワルだってわかっていても、あんたの見た目に惑わされて道を踏み外す子がいないかどうかが心配なんじゃないさ。敢えて危険な香りに触れたくなる年頃ってのがあるからね…あんたに本気になる子がいたらかわいそうだよ…」

「何、じじむさい分別臭いこと言ってるんだ?俺はそういうタイプの女には手を出さない。火遊びと割りきれない女はタチが悪い。俺に勝手な幻想を抱いて押しつけてくる純愛も、財産目当ても、見ていればわかるさ。そんな女に手を出すほど不自由してない。後腐れのない遊び相手はこの学園外にいくらでもいるからな。」

「…あんたってさぁ。寂しい男だよね…」

「俺がか?ふ…それにおまえだった同じじゃないのか?例え、良家の子女ばかりでも…いや、良家の子女ばかりだからこそ、この学園の女生徒には手を出すなっておまえだって言われてるだろう?アパレルじゃ世界一の規模を誇るおまえさんの実家から。ただ家柄がいいだけの没落貴族とか…ビジネスに何のメリットもないような女に引っかかるような真似はするなってな。向こうにそれ相応の力があると、面子の問題もあってやっかいなことになるからな。」

「おあいにく様、私はいつかこの腕一本でやっていくつもりだから、恋愛相手は自由に選ぶよ。実家のメリットなんて考えて伴侶を選ぶなんざ…じじむさいオヤジの分別に侵されてるのはあんたの方じゃないの、まったく…」

「そうかもな…しかし、俺はオヤジの会社の相続権と経営権を手放すような危ない橋を渡るわけにはいかない…」

「そりゃ、あんたの実家の扱い品の性質考えたら人任せにはしたくないってのもわかるけどね…変な儲け主義に走られてもこまるし…しかし、それならなんで帰ってきたのさ。女性問題おこしてもまた違う国に留学してたってよかったでしょうよ。」

「この学園に在籍してること、卒業する事はこの国じゃステイタスだ。どこぞの国の知らない大学を出るよりもな。財界・政界に同門のコネもできるしな。」

「ふん…これも将来への布石ってやつ?それにしてもわざわざ2年生やり直すなんてさ、何考えてんの?向こうで二年次の単位は取れてるんでしょ?」

「3年に編入してもジュリアス先輩やクラヴィス先輩がいるんじゃ頭を抑えられるからな。どうせなら学生のウチに好きなことをやりたいし、モラトリアムは長いに越した事はないさ。否応なく岐路はくるんだからな…」

手にもったままだった煙草に漸く火をつけ…別に吸いたくもないんだがな…そんなことを思ってふと遠くに視線を飛ばそうとした緋色の髪の男は桑の木の傍らで自分の方を何か必死の形相で見つめて入る華奢な少女に気付いた。こっちに声をかけたくても、かける勇気がなくて、立ち竦んでいる…そんな風に見えた。

「すまんな、オリヴィエ、自粛するつもりだったが、既に手遅れだったようだ。登校は明日からなのに、もう熱烈なファンにみつかっちまったみたいだ…」

「は?何、言ってんの?ファンって何のことさ?それにあんたこの学園の子には手を出さないんでしょ?」

角度の関係で桑の木が見えないオリヴィエには何のことかわからない。

「こっちからはな。でも、誘われて来ちまったものは仕方ないだろう。俺の溢れる魅力は止めようったって止まらないからな。それに愛でるだけでも自分の花園は多彩かつ美しいに越したことはない…あの花は…ふむ、華麗というよりは可憐…もしくはまだ蕾…3分咲きまでもいってないな。よう、お嬢ちゃん、俺になんか用か?この再編入早々のこの俺に目をつけるとはまったく目が高いな。だが、お嬢ちゃんにはまだこの俺の相手はちょっと早いと思うぜ?」

「きゃ、きゃ、きゃーっ!」

彫像のように固まっていた少女がいきなり耳をつんざかんばかりの悲鳴をあげた。緋色の髪の男は女性にきゃーきゃー言われることには慣れていたが、この「きゃー」はどう聞いても自分への賛嘆の歓声には聞こえなかった。むしろ山中でいきなり熊にでも出くわしたかのような、恐怖と恐慌の入り混じっているような、いや、まさかな…

その声にオリヴィエも弾かれたようにたちあがり、声の主を探し、そして気づいた。

「アンジェ!アンジェじゃないのさ!こんなところで一体全体どうしたの?」

「お、お、オリヴィエ先輩〜ふぇ〜」

その子の顔が安堵の故にかくしゃくしゃと歪み、緋色の髪の男は反射的に実家にいた狆を思い出した。しかし、その子は、こっちに来たいような、来るのを怖がっているような、矛盾した感情に捕われているようで、切実な表情をしているのに身体が動かない。緋色の髪の男は更に実家にいた子猫のことを思い出した。初めて親猫が取ってきたネズミを前に、手…いや前足を出していいものかどうか、手を出したいけど勇気が出ないで迷っていた子猫を彷彿とさせるその様子。一体何を躊躇っているというのか。

「なんだ、おまえの知り合いだったのか。オリヴィエに用があるならこっちにおいでお嬢ちゃん、遠慮しなくていい、大した話をしてたわけじゃないからな。」

すると、その子は、その場ですぴょーんと飛びあがったように見えた。実家がもっている狩場で見付けた子鹿のようだと、その男は更に思った。なんというか、目まぐるしい少女だ。

しかし、オリヴィエにはアンジェリークが何に戸惑っているのかなんとなくわかった。

「ああ、怖がらなくていいよ、この男のことは。ちょっと目つきが悪いけど食い付いたりはしないよ。心配しなくてもあんたにゃ何にもしないし、させないから。こいつはオスカー、オスカー・クラウゼウィッツ。私の…まあ、悪友で、帰ってこなくていいのに一年間の留学から帰ってきたばっかり。明日から2年生としてこの学園に再編入するんだよ。」

「ふえ?オリヴィエ先輩のお友達?ですか?」

「そんな紹介のし方をしたら却って怯えちまうだろうが!目つきが悪いだ?おまえと違って垂れ目じゃないだけだろうが…改めて、はじめまして、かわいいお嬢さん、俺はオスカー。去年の九月から今までちょっとばかし遊学してたもんでこの学園を留守にしてたが、もともとここの生徒で、オリヴィエの言う通り、明日から復学する。ところでお嬢ちゃんの名前を教えてくれるか?」

「あ…はい、アンジェリーク、アンジェリーク・リモージュといいます…」

「アンジェリークか、お嬢ちゃんにぴったりのかわいい名前だな。しかし、俺はうちの学校のかわいい子は皆知ってると思っていたんだが、すまんな、お嬢ちゃんみたいなかわいい子がいるとは知らなかったぜ。迂闊だったな。」

「あんたが知らなくて当たり前だよ。この子は高等部からの入学者だからね。」

「ほう、うちの学校に高等部からはいってくるとは…お嬢ちゃんは優秀なんだな。高等部の試験は下手すると大学部に入るより難しいんじゃないか?」

「そうだよ、私たちみたいに積み木積むだけの試験ともいえない試験で入った初等部持ちあがり組と違うんだからね、この子は。まだまだこの学校に慣れてない所もあるから、私が目をかけてかわいがって…」

「あ、いえ、私、帰国子女枠で受験しましたから実力じゃないんです、オリヴィエ先輩。多分、かなり甘く採点してもらって…」

実際アンジェリークは本人もいう通り帰国子女であった。外交官の父親の赴任先に同行して、海外で通った学校は現地校あり、自国に本校がある分校だったり様様だったが、とにかく、そういう学校は基本的に小人数でのんびりおっとり和気あいあいとしていて、俗にいう『不良』なんてものは現実に見たこともなく、まさに物語りの世界でしかアンジェリークは知らないのだった。

そして、この大規模な名門校に高等部から入学して、最初はそのあまりに活発で華やかで自由な雰囲気にのまれがちだったが、このオリヴィエがよくかわいがってくれたおかげで、本来の明るい闊達さが表に出て楽しく学園生活を送っていたアンジェリークだったのだが…

『この学園に不良がいるなんて思わなかったわ…でも、こんなに大きな学校なんだもの、いないと思うほうが間違っていたのね…』

とカルチャーショックに呆然としているのだった。

オリヴィエはああ言ったものの、友達は友達でも不良の友達なのかもしれないし…オリヴィエは懐深く、人付き合いは広いから不良の友達だっているかもしれない。なのでアンジェリークはいまだ、今紹介されたオスカーという男性に親しい笑みを見せる気に到底なれないでいる。

しかし、オスカーはアンジェリークが自分を見て何を思っているかも知らずに社交辞令ではない笑みを向けてアンジェリークに声をかけた。悪友のオリヴィエのかわいがっている子とわかって少し興味を持った。

「じゃ、お嬢ちゃんも留学帰りか?気が合うかもしれんな?俺たちは。」

すると、アンジェリークがいかにも疑わしそうな目でオスカーをじとーっとねめつけたので、オスカーはたじたじとした。女性に熱い視線を投げられるのには慣れているが、こんな風呂場のゴキブリでも見るような視線を投げられたのは初めてだった。

「その目は…俺に見惚れてるってわけじゃ…なさそうだな?何か俺に言いたいことがあるのか?お嬢ちゃん?」

「クラウゼウィッツ先輩は…」

「オスカーだ。オスカーと呼んでくれ。」

オスカーは姓で呼ばれるのが嫌いだった。自分の名から逃げようもないし、逃げるつもりもないが…

「あの…オスカー先輩はオリヴィエ先輩のお友達なんですよね?」

アンジェリークの目線であきらかにオスカーにではなく自分に尋ねていることを知り、訝しがりながらオリヴィエは答えた

「ん、まあ、悪友って類の友人だけどね、確かに昔からの友達だよ?なんで?」

「あの…」

アンジェリークはこそこそとオリヴィエの耳元で何か囁いた。オスカーはその様子に憮然とする。目の前で内緒話をされるのは気分がよくない。そして、アンジェリークは何を言ったのか、途端にオリヴィエがぶふーっと吹出した。

「あーっはっはっは!そうだよね、そりゃ、そう思うのも無理ないわ!」

「なんだっていうんだ、まったく…俺はつんぼさじきは好きじゃない。」

「アンジェはね、あんたが不良じゃないかって。しかも、不良の親玉じゃないのかって。この学園の番長さんじゃないんですか?番長さんには、どんな風にご挨拶したらいいんでしょう?だって!ひ〜苦しい〜!」

「は?」

「きゃー!オリヴィエ先輩、なんで本人の目の前で言っちゃうんですか〜!」

「言われてみりゃ、そりゃ、まっとうな学生には見えないよ、あんたは。そのだっらしない服装、その悪い目つき、しかも、手にもってるもの考えれば。」

その時オスカーは自分が煙草を指に挟みっぱなしなのに気付いた。

「ああ、これか。なんだ、煙草を吸ってる人間は不良なのか?お嬢ちゃん。」

「ふ、ふ、不良です〜、だって、法律違反です〜、この国では煙草は18才になってからって…」

「ひーひー、こ、こいつはね、留学してたせいで一年だぶってるから、本当なら3年生。もう18才なんだよ。」

本当は今度の誕生日で18だがな、と思ったがオスカーは敢えてそれを指摘しなかった。オリヴィエもわかっていて言っているのだと思った。恐らく不良であるという誤解を解いてくれるつもりなのだろう。いや、単におもしろがっているだけかもしれないが…

「ええっ!そ、そうだったんですか!ごめんなさいっ!煙草吸ってても大人なら不良じゃないですね!」

なんかよく訳のわからん理屈だが、一応アンジェリークの態度が軟化した。しかし、何かまだ釈然としないらしい目つきをしている。

「でも…」

「でも、なんだ?」

「年齢は大人でも制服着てるってことは学生でしょ?周りにはオスカー先輩の年までわからないし、オスカー先輩が法律違反してると思われちゃうから、学校で煙草はあまりよくないと思います。オスカー先輩が悪い事してると誤解されますし、わざわざ誤解を招くような真似をさならなくても…」

「ふむふむ」

「それに…制服に煙草って似合いません!やっぱり不良に見えます!私が制服着てフルメイクしたらおかしいのと一緒です!制服には似合う物似合わないものがあると思います!」

「ぶわーっはっはっは!」

溜まらずオスカーが吹出した。オリヴィエは既に呼吸困難の様相を示している。

「くっくっく…じゃ、お嬢ちゃん、聞くが、警察官とかパイロットとか軍人とか職業制服組で煙草を吸う人間は不良か?制服に煙草はやっぱり似合わないか?」

「私も制服でメイクしちゃってるんだけどねぇ。制服にメイクは似合わないかい?それじゃスチュワーデスとかデパガはどうするの?」

「そ…それは…大人の制服はいいんです!高校生の制服に煙草は似合わないってことです!それと、オリヴィエ先輩のメイクは似合ってるからいいんです!」

「俺の煙草は俺に似合ってなかったか?お嬢ちゃん。」

「う…そ、それは先輩ご本人には似合わなかったわけじゃないですけど……」

「ま、いいさ。お嬢ちゃんの忠告に従い制服姿での喫煙は自粛するとしよう。法律違反だと間違って通報拘留でもされたら困るからな。」

オスカーはそう言うと懐から携帯灰皿を取り出してきちんと吸殻をそこに収めた。綺麗な芝目を煙草の火で焦がしたり吸殻で汚すようなことはしなかった。

アンジェリークは、オスカーがさっさと煙草をしまってくれたので、ちょっと嬉しくなって、こくこく頷いた。

「そ、そうですよ、オスカー先輩!おまわりさんに見つかった時年齢を証明できるものを持ってなかったら大変ですし!」

するとオスカーは、いかにも哀れっぽい顔でオリヴィエにしなだれかかった。

「オリヴィエ、いいよなぁ。おまえは。制服にメイクは似合わなくてもおまわりさんにしょっぴかれる心配がなくて。18才未満はメイク禁止って法律もなくてよかったなぁ…くっくっく…」

「失礼な、私のメイクは似合ってるんだからいいんだよ!大体なんで似合わないメイクが…いや、18才未満のメイクは法律違反なのさ!」

「だから、似合ってないメイクや高校生のメイクが法律違反じゃなくてよかったって言ってるんじゃないか。おまえの主観で似合ってても客観で似合ってない場合はどっちが適応されるかわからなかったしな…くくく…」

やりとりがここまで進んで初めて、アンジェリークは自分がからかわれていたらしいことに気付いた。

『私は、本気でおまわりさんに怒られたらかわいそうって、心配したのに…』

オリヴィエ先輩のお友達だっていうから、心配したのにそれを笑うなんて…この人、すっごく意地悪。ふざけてばっかりだし。なんでこんな意地悪な人が親切なオリヴィエ先輩のお友達なのかしら…

オリヴィエ先輩…あれ、私、なんでオリヴィエ先輩を探してたのかしら…

「きゃああああああ!」

「ど、どうしたお嬢ちゃん!」

「どうしたの?アンジェ」

二人の男が度肝を抜かれて同時に叫んだ。

「お、オリヴィエ先輩!秋祭りの進行でどうしても時間と日時が合わない個所があったんですー!これ、どっちが正しいのか、ジュリアス先輩に突っ込まれる前に書類をなおさないと!一体、これ、どっちが正しいんですかー!時間で見ると予定の日にちがおかしくて、日にちでみると進行時間があわないんですー!」

「え?私の計画書に不備があった?どれどれ…」

「なんだ、お嬢ちゃんは生徒会執行部だったのか、それでオリヴィエにかわいがられているのか…」

アンジェリークとオリヴィエはもう書類に没頭していてオスカーの言葉を聞いていないようだった。

まったく見てて飽きないお嬢ちゃんだなとオスカーは思っていた。どこからどうみても小動物のような無邪気なかわいらしさしか感じられないが、いくら帰国子女枠とはいえ、この学校に編入してきたのだし、生徒会活動にも携わっているとなると、それなりに優秀でなければ道理がつかないのだが、受ける印象は砂糖菓子のような甘さと動物の子供のような愛らしさだけだ。

「悪い、オスカー、もうあんたの相手してる暇ないや。アンジェと一緒に書類打ちなおしておかないと、またジュリアスにどやされるから。私はともかくアンジェが怒られたらかわいそうだしね。」

「はああぁ〜実はもうかなり時間が経ってるから、もはや手遅れかも…うう、生徒会室でジュリアス先輩もう待っていらっしゃるかも〜このままじゃ出せないし、でも、提出時刻に遅れたら…はああぁ〜」

「ジュリアス先輩は相変わらず健在らしいな…」

「オスカー先輩はジュリアス先輩もご存知なんですか?」

「知ってるもなにも…ああ、そうだ。明日ご挨拶に伺うつもりだったが、今、俺も一緒に生徒会室に行く。ジュリアス先輩と旧交を暖めたいからな。ジュリアス先輩の所に連れていってくれ、お嬢ちゃん。」

「え?ええ、それはいいですけど…」

「なるべくゆっくり思い出話に耽ってやるからな?書類の打ちなおしにも十分なほどにゆっくりと…」

ばちんとされたウインクで、アンジェリークもオスカーの意図がわかった。

『時間を作ってくれるつもりなんだ、この人…』

「じゃ、校舎に戻ろうか?」

「あ、はい」

アンジェリークはオスカーとオリヴィエの半歩後を付いていくように歩き出した。

初めて会ったばかりの私をからかって、思いきり笑って、すっごく意地悪な人なのかと思ったら、ジュリアス先輩とわざわざおしゃべりしに戻って書類直しの時間を作ってくれるみたいだし…意地悪なのか、優しいのか、よくわかんない。でも、学生なのに煙草は吸うし、服装はやっぱりだらしないし、少なくとも真面目には見えないわ、やっぱり。

でも、いくらオリヴィエ先輩のお友達でも二年生だもん。私のクラスに転入してくるわけじゃないし、もうそんなに接点ないよね…

と思ったアンジェリークだったが、それはあっさりその翌日に覆されたのであった。

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