「着いたぜ、お嬢ちゃん」「うにゃ…ん…」
アンジェリークは自分を軽く揺さぶる手から逃れるように身体を捩った。
なんだか寝返りがしにくいわ…とおぼろげに感じたところで、ぐいと身体を返されて、同時に唇を暖かいもので塞がれ、更に熱いものに口腔内を侵された。
「んむむぅ…」
びっくりしてじたばたしたら、すぐにそれは離れた。
「目が覚めたか、お嬢ちゃん?」
目の前に楽しそうに笑んでいる恋人の顔があった。アンジェリークは自分の頬がかーっと熱くなるを感じた。
「あ…先輩…やだ、私、眠っちゃってたんですか?」
「ああ、車に乗った途端にな。乗る前から眠そうだったが、ほんとに気持ちいいくらいストンと寝入ってた…」
「やん、ごめんなさい…」
「いや、謝るのは俺の方だ、こんなに君を疲れさせちまってたんだな…君と思いが通じて嬉しくて…抱けば抱くほど君がかわいくて愛しくなって…無茶しすぎた…すまない」
「そんなこと…ないです…」
ぼんと頭から湯気が出そうな気がした。その言葉にオスカーと過ごした一両日の記憶が雪崩のように脳裏に蘇ったせいで。
耳まで真っ赤になっているアンジェリークを余所に、だが、オスカーは少しだけ寂しそうに笑んだ。
「本当は今だって帰したくないんだ…、だが、もう、門限の時間だからな…」
「はい…」
改めてオスカーがちゅ…と触れるだけのキスを落した。
「そんな目をされると本当に帰せなくなる…だから逆に門限があって…君が寮住まいでよかったと俺は思うんだ…」
「先輩?」
「さもないと俺は、本当に君が倒れるまで無茶を強いちまいそうだからな…」
「………」
アンジェリークがどう答えていいかわからず真っ赤な頬のまま俯いて黙りこむと、オスカーはとろけそうな優しい笑みと声で言った。
「さ、行こう、本当に門限に遅れる…」
「あ、はい…」
車から降り立ち、些か足許の覚束ないアンジェリークをオスカーはさっさと抱き上げ、すたすた歩きだした。
「せ、先輩。降ろしてください〜」
とアンジェリークが必死に懇願してもオスカーは知らん顔だ。漸く降ろしてもらった時には、もう寮の門前に着いていた。オスカーが心配そうにアンジェリークの顔を覗きこんだ。
「ここまでしか運んでやれなくてすまん。少し辛いかもしれないが、ここから自分の部屋までは歩けるか?」
「は、は、はい…大丈夫です…」
「いい子だ…」
ご褒美のように軽くキスをおとす。アンジェリークは迫る門限に仕方なく寮の玄関に向った。玄関に入る間際にくるっと振り向いた。
「先輩…大好きです」
「俺もだ、愛している…昨日よりもっと、多分明日はもっと…」
「先輩…」
「ありがとう、アンジェリーク、最高のバースディだった…また明日な…」
アンジェリークは、これ以上はないというほど幸せそうに微笑んで、オスカーに小さく手を振ってから寮の建物内に入っていった。
自室に戻るとアンジェリークは床にぺたんと座りこんでしまった。
ついさっきまで、オスカーとずっと一緒にいたことが信じられない。
あまりに幸せで幸せで、胸がはちきれそうで。
でも、この幸せな気持ちは、まごうことなく真実で。
身体の中には、まだオスカーが留まっているような感覚があって、そのことを思うとアンジェリークは頬が熱を持つと同時に、あまりの幸福感に倒れそうになってしまう。
この一両日、オスカーのベッドの上だけでほとんどの時を過ごした。
食事すらオスカーがベッドまでトレーに載せて運んでくれて、そのままでいいと押し留められた。ベッドから出たい時はオスカーが抱いて運んでくれた。
その間、何も身につけずに…身につけている暇もなくて。何時でも私の身を覆うものはオスカーの温もりだけで…それがたまらなく幸せで…
いつのまにか、うつらつらして、目が覚めた時も大抵はオスカーの腕の中にいて。
目が覚めた時、真っ先に目に入るのは愛しい人の姿。それが寝顔でも、微笑んでいる顔でも幸せに替りはない。
目が覚めた時、真っ先に触れるのは愛しい人の肌の温もり。人の肌がこんなにも暖かく気持ちのいいものだったなんて、アンジェリークは知らなかった。
オスカーに触れたいと思っていた。これ以上ないほど間近に触れられて、重なり合ってひとつになって…何度も、何度も…そして触れるたびにオスカーのことをもっと好きになっていく。触れ合ってひとつになって溶け合う度に、愛しさが積もっていく。
そして、オスカーも同じように感じてくれたのだ、きっと。
抱けば抱くほど愛しくなると言ってくれた。昨日よりもっと好きになると言ってくれた。
それはそのまま自分の気持ちだったから。
これほどの幸せを私は知らない。これ以上の幸福など望むべくもない。
私は、この気持ちを忘れない。絶対忘れないようにしよう…そして、この幸福を積み重ねていきたい…いつまでも、オスカーと供に。
アンジェリークは自分の胸を抱きしめた。そこにオスカーがいるかのように。
明けて翌日は終業式、それが終われば年度末のダンスパーティーが開催される。
年末年始の休暇中の諸注意と、成績票をもらっただけで終業式はすぐに終わった。
ダンスパーティーに出席する予定の生徒たちは、うきうきそわそわした様子で急いで帰宅した。もちろんパーティーの仕度をするためだ。
アンジェリークも寮の自室でパーティーの準備をすませ、今、オスカーにエスコートされて会場のホールに向うところだった。
オリヴィエが簡単にリフォームしたと言っていたドレスは、ワンピースからスリップ型のドレスに変貌していた。スリップ型といっても、胸の開きは大きくない。肩甲骨すれすれに浅くV字になされたカッティングは、これ見よがしにセクシーではなく、アンジェリークの水鳥のように綺麗な首のラインを際立たせるよう計算されたラインのようだ。スカートはもともとふんわりとした長めのフレアーだったが、そのシルエットを生かしたまま裾がアシンメトリーに大胆にカットされていた。片方の足は踝が隠れるほどだが、反対側は膝小僧が見えそうなくらい短い。
色は大人びた赤だが、金糸が裏糸で隠し織られているので光の加減で金の差し色がはいる。艶消しの素材なので華やかではあっても派手ではない。
ドレスをカットした素材で作られたストールとリボンが幾組か同梱されていた。そのリボンを結んでクリップをつけたイヤリングも入っている、アンジェリークは髪を結い上げてそのリボンを結び、ストールを羽織って、イヤリングをつけた。あまったリボンはそのまま持っていくことにした。オリヴィエが何かアレンジしてくれるかもしれないと思ったので。
昼間なのでメイクはナチュラルだ。ドレスの色に合わせて瞼にシャンパンゴールドのシャドウをうっすらぼかし、唇はベージュピンクのグロスを引くに留めるようにとオリヴィエからアドバイスされていた。
オスカーの方はというと、今日は普通のダークスーツだ。昼の正装であるフロックコートを着るほどの席でもないと思ってのことだった。
ホールにつくと、オリヴィエがてぐすねを引くように2人を待ち構えていた。
「あ、来た来た、アーンジェ!ドレスはどぉお?」
「オリヴィエ先輩、ありがとうございます、ぴったりですー!」
オリヴィエは無意識に目をしばたいた。何故だろう、アンジェリークがいつになくまぶしく見える。鮮やかな赤のドレスのせいだろうか、今しがた咲き綻んだ花のような笑顔のせいだろうか?いや、何か全体の印象というか、雰囲気がいつもと違うのだ。
「じゃ、こっちに来てよーく見せてご覧…」
オリヴィエはドレスの着こなしの検分にかこつけて、アンジェリークを注意深く見つめた。
この雰囲気は…そう…「あでやか」というのだ。今までのアンジェリークの印象は一言で言えば「可憐」だった。しかし、今日のアンジェリークには、可憐さの中に何か得もいわれぬあでやかな風情があった。オリヴィエは咄嗟にアンジェリークのこの艶やかさを、もっと鮮やかに際立たせてみたいと思った。
「ふむん…アンジェ、リボン、もっとあったでしょ?今持ってる?」
「あ、はい」
「じゃ、それちょっと貸して…でもって、手出して?あ、片手じゃなくて両方ね」
アンジェリークが「?」と思いながら素直に手を差し出すと、オリヴィエはその細い両手首にブレスレットのようにドレスと供布のリボンを結んだ。
「あ、かわいい…」
「それだけじゃないよ、そのストールもかしてごらん、これはストールにしてもいいけど、それだと踊る時邪魔だろ?だからぁ…」
というや、オリヴィエはドレスの片方の肩紐を少し持ち上げて、その下にストールを通した。そしてループを幾重にも重ねた大きな華のようなリボン結びを作って、アンジェリークの肩に咲かせた。
「ほーら、今回はリボンモチーフだよん、しかもとびっきり華やかな…」
アンジェリークは自分の姿を見下ろすと、嬉しそうに頬を染めた。
「オスカー先輩、あの、あの、私、ちょっと鏡で見てきていいですか?」
「それはかまわんが、いいか、お嬢ちゃん。他の男に声をかけられても決してついていっちゃダメだぜ?それから1stダンスが始まるまでには戻ってきてくれよ?」
「オスカー先輩ったら、そんな心配いりませんのに〜、じゃ、ちょっと行ってきます」
とアンジェリークがくるりと背を向けた瞬間、突然オリヴィエがぎょっとしたような顔になり、慌てた様子で
「ちょっと待った!」
とアンジェリークを引きとめた。
「どうしたんですか?オリヴィエ先輩…」
「あ、いや、アンジェ、この前使ったクリスタルタトゥの残りがあるから、それ、つけてあげるよ…そのドレス、背中をかなり開けてあるからアクセントに…」
オリヴィエは小型のバニティケースから花の形のクリスタルタトゥを取り出すと、前面に比すと大きく刳れたアンジェリークの背中の数ヶ所に、散らすようにきらきら光る小さな花のモチーフを張りつけた。
「さ、これでいい…じゃ、存分に自分の姿を鏡で見ておいで」
「はーい」
弾むような足取りでアンジェリークの姿が見えなくなったことを確認すると、オリヴィエはいきなりオスカーの背中をどついた。
「ちょっと、オスカー!」
「いて!なんだ、一体…」
「あんたねぇ、キスマークをつける時はもう少し考えてつけな!」
「……見えたか…」
「背中なら見えないと思ったのかもしれないけど、あのドレス背中の開きが大きいから、少し動くともー丸見え!でも、背中にファンデってのも見え見えで却って姑息だから、あんたのつけた跡を花芯に見たてて敢えてタトゥ張ってみたけど…目くらましにね。」
「制服を着た時見えないように…ってことしか確かに頭になかった…それすら何度も忘れかけた…以後気をつける。本当は見せつけてやりたい気持ちもあったんだが…お嬢ちゃんに恥ずかしい思いをさせたらかわいそうだからな…」
「…真剣(マジ)だね」
「ああ、独占欲や所有欲を満足させることが馬鹿馬鹿しく思えるほど、彼女が大事なんだ…俺は…もう彼女なしの人生なんて考えられないから…彼女を大切にしたい…俺のありったけで…」
「そっか…あの子がいきなり艶やかに花咲いたみたいに見えたから、どうしたのかと思ったけど…あの子の様子見たらわかる気がする…あんたが如何にあの子を大切に慈しんだか…だって、あの子ほんとに大輪の花みたいだよ。この世の春を歌ってるみたいに幸せそうに輝いてた…」
「そうか…そう言ってもらえると安心するな…」
俺も彼女に幸せを差し出すことができたのだろうか、自分が彼女からもらったものと同等の幸せを…そうならいいのだが…オスカーは思う。
アンジェリークと出会い、彼女を欲し、その手を取ってもらえ、彼女からも自身を求めてもらえ…オスカーは生まれて初めて「自分は正しい場所にいる。正しい場所にいたのだ」そう思えたのだった。
生まれてきて18年…いつも、自分の居場所に確信が持てなかった。自分の立っている場所が「ここ」でいいのか、という根源的な疑問に苛まれていた。自分がやらねばならないことはわかっていた。だが、それは決して自ら望んで選ぶ道ではなくて、ましてやその選択に誇りを持つこともなくて…そんな自分をどこか哀れむような甘えた気持ちで刹那的な快楽に耽っていた。他人との関係を大事にできなかったのは、畢竟自分を大事に思えなかったから、そういうことだった。
だが今は違う。
彼女は、俺に、俺が生きていく場所、今立ち、これから進んでいく場所が「正しい」のだと認めてくれた。そんな道を選んだ俺自身を認めてくれた。
心から愛しい大事に思える存在がいて、その人が自分をいとおしんでくれている。自分を認めて受け入れてくれている。そう思うと彼女が認めてくれた自分もないがしろにはできないと思う。
だから、俺はもう迷わない、仕方なくこの道を進むのでもない。誇りと自信を以って、自分の境遇を切り開いていける。
それもこれも、アンジェリークがいてくれるからだ。俺の選択を肯定し、俺の愚かさも受け入れてくれた上で、俺と供に歩んでくれると言ってくれた、何より愛しい大切な存在。彼女がいてくれれば、俺はどんな遥かな理想郷でも、目指していける。それがどんなに困難な道のりであろうと、覇気を持って立ち向かえる。いつかそこに辿りつくことができるような気がする。
そして、また、自分がこういう境遇を背負っていなければ、背負っていることに折り合いをつけようともがいていなければ、彼女の気持ちの在り難さもわからねば、彼女の思いを自分は受けるにも値しなかっただろう…提示されても気付けなかったかもしれないのだから。
そう思えば、厭うだけだった自分の出自ですら、今となってはありがたいものに思える。
彼女も昔言っていた。たくさん泣かなければ、自分の気持ちに気付かなかったと。欠けた想いを味わって初めて、人は、自分が何を欲するのかわかるのかもしれない。
「それならさぁ」
「ん?」
オリヴィエの言葉にオスカーの感慨は中断した。
「アンジェのローブ・ド・マリエは、ぜーったい私にデザインさせなよ?クラウゼウイッツ家の結婚衣装を担当できたら、デザイナーとしてこれ以上の華々しい宣伝はないもんねー」
「ふ…それなら、クラウゼウイッツがパトロンになるに相応しいデザインをあげろよ?そうすればお嬢ちゃんのソワレは一生おまえに担当させてやるよ」
「はん、さっきのドレスを見たでしょーが!リフォームだけでもあの子をあれだけかわいくできるんだから、最初からデザインさせたらもー無敵だよ、私は!」
2人でにやりと笑みを交していると、アンジェリークが息せききって戻ってきた。
「先輩、先輩、みんなすっごくかわいいって誉めてくれました!あ、私のことじゃなくて、ドレスのアレンジのことでしょうけど…でも、嬉しい!」
「ほーらね?オスカー?」
「俺は、かわいいって言葉はお嬢ちゃん自身にむけられたものだと思うがな。まぁ、とりあえずの最有力候補にはしておいてやるよ」
「?」
「さ、お嬢ちゃん、踊ろう」
「はい!」
オスカーがアンジェリークの手をとり、フロアの中央に導いた。一曲目の音楽が始まり、オスカーは流れるように優雅なリードを開始した。
「お嬢ちゃん、そういえば休暇の予定を決めてなかったな…また、俺の家に来てくれないか?何なら休暇の間中いてくれてかまわない…というか、いて欲しい…」
アンジェリークがみるみる真っ赤になった。
「そ、そ、それは、その…私もそうしたいのはやまやまなんですけど…きゃ!いやーん、私ったら…」
「ん?無理させすぎたので、躊躇っているのか?もう、あんなに無理はさせない…させないと思う…そう努力はする…」
「そ、そういう意味じゃないんです…」
「じゃ、何が問題だ?」
「あの、私、休みの間は両親のところに行くんです。もうかなり前から飛行機のチケットも送られてきてあって…その頃は先輩とその、こんなことになるなんて思ってもいなかったから…いきなり行かない、なんて言出したら両親を心配させちゃうので…」
「そうか…じゃ、俺も一緒に行く」
「は?」
「すぐにチケットを手配しないとな…同じ便は無理かもしれないが、なるべく近い便でおっかけて行くからな?万が一日付がずれた時の事を考えて、君のご両親のお宅の連絡先も教えてくれよ?」
「え?え?先輩…?」
「休みの間中会えないなんて、俺はそんなに辛抱強い男じゃないぜ、それに…」
「それに?」
「君のご両親にきちんと挨拶しないとな。お嬢さんとお付き合いさせていただいている者です。この後も一生お付き合いさせていただきたいのでご挨拶にあがりました…ってな。」
「そ、そ、それって、それって…あの、あの、まさか…」
「つ!」
「きゃ!ごめんなさい〜!」
あまりに唐突なプロポーズにも受取れる言葉にアンジェリークはステップを間違えてオスカーの足を思いきり踏みつけた。
「驚かしちまったか?でも、俺は正真正銘100%本気だぜ?もっとも、正式なプロポーズは改めて、もっときちんとするから、安心してくれよ?」
「じゃ、じゃ、やっぱり…先輩ったら、先輩ったら…もう…」
アンジェリークの瞳から、涙が一粒ぽろっと零れ落ちた。
オスカーは素早くその涙を吸いとった。
「お嬢ちゃん…この涙は…嬉しい涙だと思っていいのか?」
「もう…先輩、決ってるじゃ…ないですか…」
くすんとかわいく鼻をならしてから、アンジェリークが微笑んだ。
「よかった…いや、万が一と思っちまって…」
「だってあんまりいきなりで、あんまりびっくりしちゃったから…でも、でも、ほんとに?」
「ああ、さもないと俺の方がおちおち眠れなくなっちまう。お嬢ちゃんを早くリザーブさせてもらわないと心配で仕方ないんだ…俺は、お嬢ちゃんが側にいてくれないとダメなんだ。ずっと側にいてほしいから…」
「先輩、私も、私も、ずっと先輩のおそばにいたいです…」
「ああ、決して放さない…幸せにする」
「いいえ、先輩、幸せになるんです。2人で…」
「ああ、そうだな…その通りだ…」
一方的に幸せにするのではない、幸せにされるのではない、2人で幸せになるのだ。
オスカーはこの上なく優しい穏かな瞳でアンジェリークをみつめると、いきなりステップを止めてその身体をきつく抱きしめた。響くようにアンジェリークもオスカーをきゅっと抱き返した。互いに引き寄せられるように唇が重なった。
ダンスミュージックが続き、幾つものカップルが脇を擦りぬけて行っても、2人は1対の彫像のように固く固く抱き合ったままだった。
FIN
私初めてのパラレル長編となりましたOn−Side、とても楽しんで書かせていただきました。リクエスターのななせさんのご要望は、ななせさんのお描きになったイラストをモチーフにしてスイアン設定の学園物語を…という非常に自由度の高いもので、そのリクに甘えさせていただいて、王道少女マンガの世界を目指しつつ、私の趣味全開でお話を構成させていただきました。ななせさんにはとてもお気に召していただけて、私もほっとしております。今までパラレルってきちんと書いたことがなかったのですが、おかげでパラレルを書く楽しさを教えていただけました(^^)話中では明記していませんが、オスカーをポルシェ911カレラに乗せ、愛飲のシャンパンはクリュグにする…なんて楽しみはパラレルならではですからねー(笑)
このOn−Sideには、こういった小物だけでなく、他にも私なりの拘りが随所に散りばめられています。
私にとってのオスカーは、何らかの葛藤を抱えつつそれを乗り越えようと務め、実際それだけの実力もあり、でも、それだけでは心が荒んでいってしまう繊細さを持つ人なんです。パラレルでもこのオスカー観は崩せないし崩したくない。そこで考えたのがオスカーの実家がいわゆる「死の商人」という設定でした。
そして、アンジェにはそのオスカーの複雑な心象や立場を理解できるような女の子として、様々な国を渡って成育したため凝り固まった価値観に捕われない柔軟な思考の持ち主ということで外交官の娘という設定を考えました。
On−Sideという言葉にも意味を持たせていますが、これは、作中で感じとって戴けたら…と思いますので敢えて解説はいたしません。サッカー用語の「オフサイド」の反対語だと言うだけで十分かなと思います。
この世界のオスカーとアンジェの物語はある意味始まったばかりです。これから本当の意味で彼等の物語は始まるといってもいいでしょう、でも、それはまだ先の、また別の物語になります。このOn−Sideというタイトルを持つお話は、オスカーとアンジェが出会い、互いに惹かれ、思いを確かめあって、そして求め合って結ばれて、互いの掛替えのなさを一層噛み締め、二人で生きていくことを、同じほどの強さ熱さで思いあう…という所で終わらせるのがよろしいかと思っています。
もっとも、これだけきっちり世界観を作っておいたので、別の物語で続編を…ということも可能かなーとも思います(笑)ご要望があれば…ですが(笑)
書いた私も楽しみ、ゲッターのななせさんも楽しんでいただけたこのお話、大元のモチーフであるななせさんのイラスト以外にも、イメージイラストや挿絵をたくさんの方からいただけて感謝の言葉もございません。おかげで目で見ても楽しめる作品になったのではないかと思います。読んでくださった方も同じように楽しんでいただけたらいいなーと思ってます。