On−Side 20

遮光カーテンがかかり室内は適度に仄暗い。ドアからベッドまでは数mの距離だ。その距離さえ一跨ぎしてしまいたいほどオスカーの気は急いている。一刻も早くこの手に掴みたい、この手で確かめたい、アンジェリークの熱さ、甘さ、柔らかさを。

頭の何処かで落ちつかなければ、という声がする。

腕の中のアンジェリークは頼りないほどに軽い。その軽さは脆さにも通じる。大事にしなければ…と思う。大切にそっと触れねば壊してしまいそうだ。俺を信じきって身を預けてくれている事実に、尚更、その信頼を裏切るような真似はできない、と切実に思う。

だが、先刻から頭は歓喜で沸騰しそうだ。

彼女も俺を求めてくれていた、欲してくれていた。恐らくは同じほどの熱さ、激しさで俺と触れ合いたいと感じてくれていた。

そう思うと、抱きしめる力を加減するのさえやっとのことだ。

ベッドの下端に辿りつく。アンジェリークをその端にそっと降ろした。瞬間、アンジェリークの腕はオスカーから少しでも離れることを厭うように、名残惜しげにオスカーの首に絡みついた。

オスカーが見下ろす、アンジェリークは顔を上げる。瞳と瞳があった。少し不安気な光が翠緑の瞳に揺らめいている。

オスカーは、浅くベッドの端に腰掛けているアンジェリークを前にして、床に膝立ちになり、その身体をきゅっと抱きしめた。

「怖いか…?」

宥めるように髪から背をゆったりと撫でながら尋ねる。

「離れるのが…」

「え…?」

「せんぱ…オスカーとちょっとでも離れると不安になってしまって…だから…お願い、放さないで…」

その言葉に、頭の内で何かが爆ぜた。次の瞬間、すっぽりと覆い被さるように、華奢な身体をベッドに組み敷いていた。折れよといわんばかりに思いきり抱きしめながら。

「ああ、放さない、片時も放すものか…好きだ、本当に好きだ…」

うわごとのように訴えながら、何度も何度もキスを落す。頬に額に唇に。キスを繰り返しながら、きりなく好きだと訴える。訴えずにはいられない。

「大事にしたい…何よりも大切なんだ…なのに…俺は優しくしてやれないかも…しれない…」

「そんなこと…ない…せ…オスカーは優しい…だから、今もこんなにきつく抱きしめてくれて…嬉し…」

「…アン…ジェ…」

その一言を最後にオスカーは言葉を発しなくなった。思い切り深深と口付けをしかけたから。

口付けながらアンジェリークの背に腕を回し、もどかしげにファスナーを引き降ろす。服から腕を抜いて、自分たちの邪魔をしているとしか思えない布を取り去る。それは自分も同様だから、片手でシャツをひき毟る。蹴飛ばすようにスラックスも脱ぎ捨てた。ぶつっとくぐもった音がしていくつかボタンが弾けて飛んだ。

時を置かず下着姿になったアンジェリークの肩に腕に足に、忙しなく掌を滑らせる。

肩を丸く撫でながらスリップの肩紐をずらす。背に腕にまわして抱きしめながら、ブラジャーのホックも外した。何かに追いたてられるように気が急く。もっと緩やかに穏やかに事を進めないと、彼女を戸惑わせやしないか、怯えさせやしないかとの危惧が頭の片隅にあるのに、どうにも手が止まらない。

だって、離れたくないと言った、放さないでくれと言った。

俺も同じ想いだ。片時たりともは放したくない。寸分余す所なく可能な限り触れたい、触れ合っていたい。何にも邪魔されることなく君と触れ合っていたいんだ。

だからどんな隔ても、もどかしい、我慢できない。こんな小さくなよなよとした布でさえ、俺と君の間を阻んでいるようでいやなんだ…

今は、とにかく、自分たちを隔てる障害を取り除いてしまいたかった。その単純な想いに突き動かされ、ためらうことなく素肌を露にしていく。

その間ずっと、アンジェリークの唇を、舌を、思う存分舐り、甘噛みし、吸い上げていた。撫でまわすようにアンジェリークの舌に自分の舌を絡め、両の唇を交互に食み、吐息ごと飲みこもうとするようにきつく吸う。

アンジェリークは未だオスカーの口付けに応える術をよくは知らない。絡められ弾かれる舌をどうすればいいのかわからないようだ。それでも、オスカーの唇だけは、食んではちゅくちゅくと懸命に吸ってきた。それはむしろ動物の子供が親の乳を強請っているかのようなたどたどしく幼い仕草だったが、同じように懸命で真剣この上なかった。オスカーは、そんなアンジェリークの健気さに酩酊にも似た感動を覚える。

あまりの愛しさに頭が変になりそうだ。

縛めるようにきつく抱く。裸の胸板にアンジェリークの乳房が押しつけられ、形が変わるのが感じられる。その感触にオスカーは更に逸りたつ。一度抱擁を解き、指と指を絡めあわせて掌をシーツに縫いつけて覆い被さる。だが、どのように抱きしめても、組み敷いても、何処か物足りなく感じてしまって、行為が無秩序になってしまう。

童貞でもないのに、上手く愛撫の順序が組みたてられない。女性の性感を高める手順ならいやというほど知っているのに、なぜ、システマティックに動けないんだ…こんな闇雲に抱きしめても、キスしていても、彼女の体と心を開いてやれるかわからないのに…

わかってる、それだけ夢中なんだ。我を忘れちまうほどに、段取りなぞ吹っ飛んでしまうほどに。

今まで機械のボタンを押すように女性の反応を楽しめたのは…その余裕を持っていられたのは…要するに本気じゃなかったからだ…ここまで痛切に欲しいと思っていなかったからだ…

「アンジェ…アンジェリーク…君が好きで…欲しくて…俺はどうにかなっちまいそうだ…」

一度口付けを解いて訴えた。この気持ちを伝えないと本当におかしくなってしまいそうで、言わずにいられなかった。響くようにオスカーの背に回された腕に力が込められた。

オスカーは後押しされたような気持ちで、桜貝のような耳朶を食んでから、唇をすんなりとした首筋に滑らせた。すんでの所でどうにか抑制が効いて、跡を残すほど吸うことだけは堪えた。その替り髪をかきあげ、首筋からうなじへと存分に舌を這わせて唾液の跡をつける。

「あん…」

アンジェリークがくすぐったそうに首をすくめる。やはり、まだまだ性感は未発達なのだろう。が、だからといってオスカーの行為に抑制はかからない。唇を押し当て、首筋を軽く吸ったり舐めたりを繰り返す。

同時に、アンジェリークの胸の膨らみを包みこむように掌を宛がった。そのままゆっくりと掌を回すように揉みしだく。

オスカーの掌にすっぽり収まる乳房はまさに瑞々しい一対の果実のようだった。こぼれるばかりに豊かとは言い難かったが、えも言われぬ綺麗なラインの膨らみで、オスカーは純粋にその造形の妙に感嘆した。指を食いこませればどこまでも柔らかく、それでいてオスカーの指を弾き返すほどの張りがある。

「あ…」

だが、アンジェリークはオスカーの掌を乳房に感じて戸惑ったように身を捩った。反射的に片手で胸元を隠そうとする。

アンジェリークはオスカーの掌を肌に直に感じた時、初めて、自分の素肌が完全に露にされていることに気付いた。抱きしめられて組み敷かれて、息もろくにできないほどの激しく深いキスに無我夢中に応えるだけで精一杯だったから。

『…恥ずかしい…』

オスカーが自分の乳房に触れている。撫でるようにさするように大きく掌を動かしながら。

理屈ではなく、隠れてしまいたいような気持ちが湧きあがる。オスカーを真っ直ぐに見られなくて、顔を少しはすかいに背けた。せめて少しでもと思い、片手で自分の乳房を抱くように覆おうとした。

「隠さないでくれ…」

オスカーがそっと懇願する。

「だって…恥ずかしい…」

「恥ずかしがることはない、君は…とても綺麗だから…俺は触れたい…もっと…この手で、この唇で…キスしたい、君の肌にすべて…」

「オスカー…」

身を焦がすような羞恥は変わらない、なのに、同じほどの強さで今まで感じたことのないほど激しい喜びが湧きあがって身中を充たし、アンジェリークはその蕩けるような甘さに眩暈を覚えた。これが求められる喜びなのだと…

オスカーは自らの言葉通り、再び、唇と手と両方でアンジェリークの肌を弄りはじめる。ミルク色の素肌はどこまでも滑らかで肌理こまかい。触れるほどにもっと触れたくなる。唇は首筋から胸元の稜線を滑るようにかすめていき、掌は徐々に熱意を増して乳房を揉みしだく。乱暴に思いきり揉みしだかないよう手の力を加減するのが大層困難だ。

その瑞々しい膨らみの頂点は可憐な薄紅に染まり、オスカーの目を惹き付けずにはおかない。

片方の乳房を揉みながら、引寄せられるように自然に、もう片方の乳首にオスカーはそっと口付けた。

「あっ…」

単に唇が触れただけだった。なのに、その一瞬に走った甘やかで鮮烈な衝撃にアンジェリークの口から同じほどに甘い吐息が漏れた。

オスカーはその吐息を聞いて、改めて、唇で乳首をそっと挟んでみた。ついばむように幾度か唇だけで食むとその弾力が明かに変わっていくのが唇に感じられる。

「う…ん…」

アンジェリークの眉が僅かに苦しそうに顰められる。恥ずかしい、恥ずかしくてたまらないのに、触れられることに忌避感はない。ただ、いたたまれないような、むずむずした感覚が次第に強まっていく。

オスカーが舌を差し出し、探るようにゆっくりと根元部分から先端へと乳首を舐め上げはじめた。

「あんっ…」

アンジェリークは軽くのけぞった。さっき単に触れられたものとは比べ物にならないほどの鋭い感覚が背筋を走りぬけた。

オスカーは意を得たように丹念に乳首を舐り始めた。右に左にと周囲に舌を回す、下から上へと何度も何度もなめあげる。先端でちろちろと小刻みに舌を蠢かす。

「あ…あん…や…なに?変…」

オスカーの暖かい舌がいろいろな角度から自分の乳首を舐めたり弾いたりしている、瞳を瞑っていても濡れた暖かな舌の感触がわかる、その度にどうにもやるせない不思議な感覚が身体中に走る。堪えきれずに声が出る。

アンジェリークはその感覚に戸惑って思わず自分の指を噛んだ。こうしないと変に鼻にかかった声がきりなく零れてしまう。

胸の先に触れられると、こんな不思議な感じがするなんて知らなかった…身体にもキスするってこういうこと?…触れるだけじゃなくて…こんなに、いろいろするの?でも口付けも同じだったから…キスは唇が触れあうだけじゃなくて、舌を絡められたり吸われたりすると、触れるだけのキスより、もっとぼーっとしてしまうから…それと同じ?だって、こんな感覚、知らなかったけど…でも、嫌じゃない…どうしたらいいのかわからないけど…嫌じゃないの…でも、声が出ちゃうの…どうしよう…

オスカーは、アンジェリークが小指を噛んでいるその腕を取って一度口付けてきた。

「我慢しないでいい…」

アンジェリークは恥ずかしさにきゅっと瞳を閉じた。

「や…だって、変な声が出ちゃうの…恥ずかしい…」

「いいんだ。その方が俺は嬉しいから…君が少しでも気持ちよくなってくれてるとわかると嬉しいんだ」

「声…出ちゃってもいいの…?」

「ああ、君が気持ちよくなってくれればくれるほど、俺は嬉しいから…もっともっと声を出させてやりたいくらいだ…ほら…」

「あんっ…」

不意に乳首に軽く歯をあてられ、歯をあてたまま舌先でその先端を弄られた。我慢できずに高い声が出た。

そのアンジェリークの嬌声が合図だったかのように、オスカーは口全体に乳首を含んで、ちゅっと音を立てて吸い始めた。しかも両の乳房を交互に、捏ね回すように揉みながら。

「あんっ…やっ…あぁ…」

声を出させてやりたいと言われて自分への抑制が減じた。アンジェリークは感じるままに声をあげてしまう。

オスカーの意識もアンジェリークの吐息に白熱していく。もっと声を出させたい、少しでも気持ちよくしてやりたい、幾らでも愛撫してやりたい。

乳首を存分に舐めまわす、吸う、口腔に含んで舌で転がす、舌先で弾く。乳首が固く張り詰めているのが、唇にはっきりわかる。

その感触に夢中になってしまった。固さを確かめるように、つい歯をたててきつく吸い上げた。

「痛…」

アンジェリークがむずかるように身体を捩った。オスカーはその仕草に、はっと我に返った。

高まる情欲に任せて、つい、きつい愛撫を加えてしまった。まだ未成熟な性感に、強烈な愛撫は苦痛なだけだろうに、そんなことも思い至ってやれないなんて…自分を抑えられないにもほどがある…

「すまない、つい、夢中になっちまって…」

「あ…平気…です…」

「いや、俺が悪い…乱暴にしてすまなかった」

アンジェリークの髪を撫でて謝罪した。彼女はこれが初めての情交なのに…無垢な彼女に、情交が痛い、つらいばかりの物だなんて思わせたくない、思わせてはいけない…

オスカーはアンジェリークの頬を包むように手を添えた。

「…優しくする…」

「…オスカーはいつも優しくしてくれてます…」

柔らかな頬に添えた無骨な己の手に、アンジェリークの小さな手がそっと重ねられた。

言葉で応える替りに謝意を込めて口付けた。

逸る気持ちはどうにも抑え難い。この匂い立つような素肌を直に感じている今は尚更だ。思いきり自分の激情をぶつけてしまいたくなる。今も、実際そうなりかけた。だが一方で無防備なまでのこの信頼を、愛情を、少しでも損ねてはいけない、曇らせるような真似はしたくないと痛切に思う。

溢れ出る愛しさに髪を撫でながら、顔中にキスを降らす。髪を撫でていた手は、流れるように素肌に滑って乳房を愛撫し始める。キスを繰り返す唇も自然に降りていって再び乳首を捕らえる。アンジェリークの背が僅かにしなるのを感じる。

時折インターバルのように唇に口付ける。自分をクールダウンさせるために。アンジェリークを安心させてやるために。そしてまた乳首を口に含んで舐め上げたり、吸ったりを繰り返す。

乳房を愛撫しつつ、なだらかなS字を描く腰のラインや膝から大腿部も無秩序に撫で摩する。その流れに沿って自然に、手をそっと内股に差し入れた。

ふわふわと柔らかな繊毛を掌に感じた。そのままその奥に手を差し入れようとしたらアンジェリークが膝頭に力をいれ、それ以上の侵入を拒むような気配を見せた。

背に腕を回してぐっとその身を抱き寄せ、耳元で囁いた。

「力を抜いて…」

アンジェリークがオスカーの胸板に額を摩り付けるように軽くいやいやをする。

「や…そんなとこ、恥ずかし…」

だが、その恥らう様子が、オスカーにはたまらなく愛らしく見える。アンジェリークは自分の手を撥ね退け様とはしないでくれている。自分が触れていることをいやがってはいない。純粋に恥らっているのがわかる。だからアンジェリークをおちつかせるように、低い声でゆったりと囁いた。

「…君が嫌がることはしないと約束する…俺を信じてもらえないか?」

「あ…オスカー…」

アンジェリークがオスカーの首元に腕をまきつけ、ぎゅっと抱きついてきた。

「はい…オスカーはいつも優しいって…知ってます…」

「アンジェリーク…」

彼女の体がとろんと解れるように弛緩した。何よりも雄弁に彼女の信頼が示される。

「不安だったら…俺に思いきり抱きついて…」

こくんと小さく頷く首。

オスカーは勇気付けられたように迷いなく指を進めた。ほわほわとした繊毛の奥、こんもりと豊かな秘唇がオスカーの指を柔らかく受け止めた。ふっくらとした秘唇の合せ目はかっちりと閉じている。だが、オスカーは試すように合せ目につぷりと指先を差し入れてみた。

「熱い…」

坩堝のようにその内部はとろとろに溶けていた。

オスカーは、此度は迷わずに秘唇の合せ目で指先を前後に滑らせた。溢れんばかりの愛の証を秘唇全体に塗り広げるように…

「きゃ…や…?」

アンジェリークはまたも未知の感覚に戸惑った。オスカーの指が柔らかくなめらかに自分の股間を滑っている。何か熱いとろとろした物が自分の身体に満ち、溢れ返って流れ出しているのがはっきりわかった。

「アンジェリーク、わかるか?君が俺を求めてくれた証だ…」

「私…私がオスカーを求めた…証…」

「ああ、こんなに濡れて…俺を受け入れようとしてくれている…俺を欲してくれているんだ、君は…」

揃えた指の腹でやさしく秘唇をさすりながら、オスカーはそっと口付けた。

「俺が今、どんなに嬉しいか…君にわかるか?」

「あぁ…オスカー…オスカー…」

アンジェリークがぎゅっとしがみつくようにオスカーに抱きついてくる。

「アンジェ…」

オスカーはたっぷりと愛液をのせた指先で合せ目の上方を探る…あった…ぷくりと固くしこった花芽に指をあてがう。

「や!なに?」

指を添えただけで、アンジェリークの身体がびくんと緊張した。その感度のよさは、オスカーにとって喜びであると同時に、よほど注意深く愛撫してやらねば苦痛を感じさせてしまうことも気付かせた。

「もっとよくしてやりたい…だから…」

オスカーが言葉と同時に指の腹で円を描きはじめた。

「あぁっ…やっ…」

アンジェリークの身体が電気に撃たれたように跳ねた。実際、電流が走ったような気がしたのだ。オスカーが触れた股間の一点から。痺れるような、腰が跳ねあがってしまうような不思議な衝撃。

オスカーはそのまま指を蠢かし始めた。花芽の周囲で指先を回す。上下に擦る。時折指先を差し入れて蜜を掬い花芽になすりつける。

その度にアンジェリークの身体を電撃にも似た衝撃が走る。アンジェリークにはその刺激が激しすぎて受けとめきれない。だが、腰が退けないよう、いつのまにか臀部をしっかり抱きかかえられていて、アンジェリークは強すぎる刺激を逃す術がなかった。

「ああっ…やぁっ…」

アンジェリークが大きく首を打ち振る。眦にうっすらと涙が滲む。するとオスカーに顎を摘まれ、宥めるような口付けを落された。

「指だとキツイか?なら…」

オスカーが一度抱擁を解き、指の愛戯を止めた。アンジェリークはほっとするような、それでいて、何か寂しい思いを抱いたが、その感慨に浸る間もなく、膝頭が掴まれ、そのまま脚をぐっと大きく押し広げられたことを感じた。

『なに?』と思った途端、ぬめぬめとした熱く柔らかいものが秘唇の合せ目に差し入れられた。

「きゃ…」

びっくりして思わず顔をあげた。オスカーが床に跪いて自分の広げられた膝の間にその体躯を置いていた。そして自分の股間に顔を埋めている。では、この、熱く濡れた柔らかい物はオスカーの唇?舌?

自分でもろくに見たことも無い場所が、オスカーの眼前に何も遮ることなくさらされて、しかも、その部分をオスカーは口にしている…

アンジェリークの頭は、羞恥で爆発しそうだった。思わず顔を両手で覆って頭を振った。

「いや…いや…オスカー、そんなところ、見ないで、見ないで…」

しかし、オスカーは愛撫を止めない。ぬめぬめとした熱い舌が撫でるように丁寧にその部分を舐め上げているのが否応なく感じられる。狂おしいほどの羞恥。なのに何故か、抵抗しようとか逃げたいとは思わない。

「大丈夫だ…君をよくしてやりたいんだ…」

オスカーは尖らせた舌先で合せ目を割るように幾度も幾度も舐め上げた。舌の突端が上方の一点に差しかかった時、アンジェリークの身体が痙攣するようにびくんとはねた。

「あぁっ…やっ…」

オスカーが舌を差しいれながら、手で秘唇を更に押し広げたのが感じられた。アンジェリークは恥ずかしさのあまり、もう、どうしていいかわからず、ぎゅっと眼を瞑った。

その途端、全身が痺れて頭が真っ白になるほどの鋭い衝撃が、しかも、先刻のものよりもっと純粋に痺れるような感覚が全身に走った。

「ああああっ…」

頭の内に火花が飛び散った。意識が白熱し、身体が溶け出すような気がした。

オスカーが花芽の周囲を右や左に大きく舐め転がしたり、かと思うと、舌先を激しく動かして先端を弾いていることなどアンジェリークにはわからない。わかるのは、ただただ、頭が真っ白になってしまって何も考えられないほど、様様な刺激を休み無く与えられているということだけだ。

しかも、この刺激は先刻指で与えられたものより、より純化され、先鋭化していた。指での刺激は強烈すぎて少しの苦痛も伴っていた。だから無意識に腰が退けようとした。でも、今はそれがない。指より柔らかく滑らかな舌先には、力が入りすぎることもないから。純粋に、意識を白濁させる、とろけるような刺激だけが、間断無くオスカーの舌から紡ぎ出されていく。

もちろん、アンジェリークにはそんな明文化された思考などできていない。舌で愛撫されていることはわかっても、具体的にどうされているのかはわからないし、これが快楽なのだということさえ、きちんと認識できてはいなかったかもしれない。ただ、さっきと違って逃げたくならない、ひたすら、オスカーの口戯を受け入れるだけで、どうしようなどと思い浮かばないほど、その刺激に圧倒されていた。最早、羞恥すら入りこむ余地がないほどに、その感覚に耽溺していた。アンジェリークは紛れもなく官能に身を任せきっていた。

オスカーにもそれがわかる。だから、尚のこと能うる限りの熱意を以ってアンジェリークへ口戯を与え続ける。

指での刺激と違って腰が逃げようとしない。彼女自身は無意識だろうが、むしろ腰を俺の口に押しつけるようにせりあがらせている。喜んでいる…気持ちいいと、もっとしてほしいと、せがんでくれているんだ…

オスカーの意識も一点に絞りこまれる。できる限りの快感を与えてやりたい。それしか考えられない。

慣れぬアンジェリークには、刺激が強すぎるかも、とか、早すぎるかも、などという分別も最早吹っ飛んでいた。自分が知る限りの快楽を高める技術を施さずにいられない。

秘唇を指で上に引っ張りあげるようにして更に花芽を露出させた。尖らせた舌先で莢を剥き、宝珠を露出させるや否や、唇を押しあてて思いきり強く吸った。

「きゃふぅっ…」

大きくアンジェリークの身体が跳ねた。オスカーはそれに構う余裕もなく、剥き出しの宝珠を、舌先で円を描き、上下左右に激しく弾き、合間合間に愛液ごと啜るように全体を吸い上げた。

「ひぃ…ん…くふぅっ…」

アンジェリークはオスカーの与える鋭く純粋な快楽に翻弄されきっていた。

今、自分が何をされているのか、どんな肢体を曝しているのか、何もわからない、何も考えられない。ただひたすらに与えられるものを享受するだけだ。

オスカーはそんなアンジェリークに途切れなく執拗なまでに愛撫を与える。耳に響くのは、粘り気のある水音、それに火のついたようなアンジェリークの吐息と、合間合間にあがるすすり泣きに似た喘ぎだけ。

オスカーの際限ない愛撫に応えるようにアンジェリークの花も止めど無く蜜をこぼしている。その豊かさはオスカーの唾液と交じり合ってシーツをじっとりと湿らせている程だ。

こんなに俺を求めてくれている、俺の愛撫を受け入れ喜びを示してくれてる。そう思うと、矢も盾もたまらなくなる。

実際張り詰めきった欲望はもう限界だった。青さを思わせる蜜の香に噎せかえりながら、彼女の花弁を愛し続けるうちに、彼女とひとつになりたいと、早くこの花に受け入れられ溶けて混じってひとつになりたいという思いがどんどん膨らみ、今や叫び出しそうなほどだった。

オスカーは身体をおこし、アンジェリークに軽く口付けてから、言った。

「アンジェリーク…君とひとつになりたい…」

官能にその身を委ねていたアンジェリークの瞳は茫洋として焦点があっていない。なのにオスカーの方にゆるゆると腕を伸ばしてその身体を抱き寄せ様とした。本能のようにオスカーを求める仕草。オスカーの胸中に、白熱する歓喜と欲情が吹き荒れた。

ベッドサイドから避妊具を取りだし手早く装着すると、己の身体で膝を割ってアンジェリークをしっかりとかかえこむように抱きしめた。

「俺にしっかりつかまっていろ…」

いきり立つ自分のもので、潤びた秘唇をつつくように位置を確かめると、その固さ熱さに慄いたように一瞬アンジェリークの腰が退けようとした。

しかし、オスカーはアンジェリークの腰をがっちりと抱えてそれを許さない。秘裂に宛がう。入り口をほぐすように、ほんの少しだけ先端を差し入れた所で

「力を抜け…」

と言うと同時に一気に貫いていた。

「ひぃっ…ん」

アンジェリークが溺れるもののようにオスカーに抱きついてきた。この細い体のどこに…と思うほどの力で肩にしがみつく。鞣革のような肩にアンジェリークの爪が食い込む。

先端に感じた破瓜の抵抗より、肩に食い込む爪より、その悲痛な叫びが耳に痛い。アンジェリークがそれ以上の叫びを必死に押し殺そうと震えながら荒い呼気をはいて堪えているのが抱いている腕に伝わってきて、オスカーはどうしようもない罪悪感に苛まれる。

苦痛を感じさせていることも、それを与えているのが自分だということも辛いが、その苦痛を与えているのが自分だからこそ、彼女は苦痛を必死に堪え耐えているのだということがわかって、尚更すまないと思う。

だが、交合を解く気にはなれない。そんなことは考えられない。彼女と結ばれた喜びのあまり、動く気もおきないほどなのだ。

漸く…漸くひとつになれた。俺は今、確かに彼女に包まれ受け入れられている。きつく、柔らかく、熱く、隙間なく俺を包みこんでくれている彼女…一分の隙もなく抱き合いながら、ひとつに重なり連なるこの喜び…これを至福といわずなんと言うのだろう…

「すまない…俺はどうしようもないエゴイストだ…君を苦しめているとわかっているのに、俺は…俺の心は君とひとつになれた嬉しさで破裂しそうなんだ…」

何かに引き離されるのを怖れるかのように、アンジェリークの華奢な身体をきつく抱きしめる。苦痛を堪えて息を荒げ、細かく震えているアンジェリークにしてやれることがそれしかない。震えを抑えるように固く抱きしめることしか…彼女はこんなに辛そうじゃないか、抜いてやれ。そのほうが彼女は楽だという声がどこかから聞こえる、なのに、どうしてもできない。したくない。だから、思うのだ。俺はどうしようもないエゴイストだと…

だが、自分の欲望は厳然としてあっても、それを無理に押し通そうとするほど身勝手にもなりきれない。アンジェリークが大切だから。何よりもどんなものよりも、愛しく大切だから。オスカーの心は2つに引き千切れそうだ。

「だが、君が辛いなら…辛いなら止める…から…」

無理矢理絞り出すようにそう言った。

正確にはそう努力する…だ。すんなりできるかどうか自信はないが、懇願されたらどれほどキツかろうと身を放すつもりもあった。交合を中断する苦痛など、彼女の破瓜の苦痛に比べればいかほどのものか…というのがひしひしとわかるから。

だが、その言葉にアンジェリークはびっくりしたように慌ててオスカーの背にしがみついてきた。破瓜に耐えた時よりも、一層強い力で。

「いや…いや…そんなこと言わないで…」

声が震えている。身体も細かく震えている。なのにオスカーを抱く腕の力は緩まない。

「…だが…」

「嫌…放さないで…って言ったじゃないですか…放さないって言ってくださったじゃないですか…」

「アンジェリーク…」

「い、痛かったけど…でも、だからって手放されたら、私、寂しくて心細くてきっとわんわん泣いちゃいます。せんぱ…オスカー、私を泣かせないって言ってくださったじゃないですか…」

「そうだ、泣かせたくないんだ、だから…」

「オスカー…私も…私だって、オスカーとひとつになれて嬉しいんです…私自身が望んだことなんだもの…だから…辛くなんてない…止めるなんて…放すなんて言わないでください…このままずっと抱いていてほしい…」

歓喜とそれと同じほどの衝撃にオスカーは言葉を失った。

俺は…俺はとんでもない思い違いをしていたのかもしれない…君が俺と同じほどに俺を求めてくれていると俺は知っていたはずなのに…目の前の君の辛そうな様子に俺は君の本当に望むところを見誤るところだったのかもしれない…

「ああ、アンジェリーク…俺だって…このままずっと君を抱いていたい、君とひとつになれて、幸せで…本当は手放すなんて考えられない、ずっとずっと抱いていたいんだ…」

「オスカーは優しい…優しすぎるから…」

アンジェリークが自分からオスカーの唇に口付けた。

「お願い、このまま抱いていてください…ずっとずっと抱いていてください。それが私の願いなんだもの…」

オスカーは感に耐えかねたように深深と嘆息した。

「アンジェリーク…もう…だめだ……堪えられない…」

言うや思いきり突き上げた。

「あぁっ!」

その途端アンジェリークの悲鳴にも似た声があがった。それでも動きはもう止められなかった。

そのまま素早く腰を激しく前後させる。アンジェリークの頭を抱えこんで口付けを与えながら、乳房が形を変えるほどにきつく抱きしめながら。

アンジェリークの熱く湿った柔襞がオスカーのものを包みこむように絡みつく、それを振りきって突き刺すような律動を立て続けに放つ。

オスカーは草原に放たれた悍馬のようだと自分を思った。

愛を追い求める喜びにもう止まることなどできない。

塞いだ口からもアンジェリークのくぐもった喘ぎが漏れ出る。それももうブレーキにはならない。

アンジェリークのその忙しない吐息がむしろ、拍車のように思える、もっと早く、もっと激しくと俺を急きたてる。その望みに応えて、思いきり疾走することの喜び、この開放感。

己の望むままに力強く腰を打ちつける。深く、えぐるような律動に、アンジェリークが堪えきれずに頭を大きく打ち振って口付けを解いた。

「あっ…あぁっ…やぁっ…」

アンジェリークが苦しげに眉根を寄せている。実際、一方ならぬ苦痛を感じているのだろう。肉壁は生硬で痛いほど固く締っている。恐らく痛みに耐える緊張のせいだ。それがわかっていて尚、オスカーは律動を早める。

君が俺を求めてくれたこの上なく真摯な想いに、俺も同じほどの真摯な想いで、ありったけの激情で応えてやることこそが誠意だと俺は思い知らされたから。

君は俺の想いの丈を全て受けとめることをこそ、欲しているのだとわかったから。

苦痛を見るに忍びないからと言って、それに目を背けてその場をやりすごすのは…優しさでもなんでもない、軟弱というのだ。

だから、俺はもう止まらない。思いきり、できうる限りの激しさで君を抱く。苦痛を与えてしまうなら、それを凌駕するほどの悦びも与えてみせる。

君が欲してくれた俺の想いを、俺も全身全霊でたたきつける。

だから、どうか、受けとってくれ。これが掛け値なしの俺…俺の…全てだ…

「アンジェ…アンジェリーク、愛している!」

「ああっ…オスカー…オスカー!」

「くっ…」

腰のあたりに蟠っていたものが一気に爆発した。

喩えようもない開放感、幸福感にそのまま気を失いそうにさえなった。

あっという間のような、それでいて永遠とも思える至福の瞬間、そして、その幸福感の香気は色褪せぬまま、徐々に激情だけが潮が退くように失せていく。最後にとてつもなく穏やかな、充たされた思いが残った。

アンジェリークがオスカーの腕の内で、小さくすすり泣いていた。涙を吸い取り、そっと口付けた。

 

名残惜しかったがいつまでも彼女の胎内に留まっていては避妊具をつけた意味がない。

オスカーはアンジェリークから己を引き抜いた。破瓜の証が、数条、赤い痕跡を残しており、それを見るとやはり心が痛んだ。放った精を始末してから、改めてアンジェリークの身体を抱きよせた。

アンジェリークの眦にはまだ涙が滲んでいたので、それをオスカーは唇で拭った。だが、アンジェリークの表情はこの上なく晴れやかで充たされている。

彼女は…今、涙を滲ませていた、実際に苦痛も感じた、それでも尚、幸せなのだ、幸せだと思ってくれているのだと、その表情からオスカーは悟った。

俺が俺の全てをぶつけたから、怯まず、恐れず、俺の思いのありったけを、俺の持てるもの全てを曝け出したから…

そして、それを彼女もまた怯まずに受けとめてくれたから、受けとめられたと彼女自身もきっと思ったから…

だから、彼女はこれほどまでに幸せそうなのだ、そして、彼女が幸せだと、俺自身、こんなにも充たされて幸せな気持ちになれて…

これが…これが本当の情交というのだと、唐突にオスカーは思った。「情け」を…つまり「心」を交し、互いに交わらせなければ、身体は交わっても、それは情交ではないのだ。今まで自分がセックスだと思っていたものは、単なる肉の摩擦と排泄の快感でしかないお寒い貧しいものだったと思い知った。

だって、この射精のあとの、喩えようもない幸福感は何だ?より一層いやました愛しさも、こんな幸福感も俺は知らない。たまったものを吐き出すことに幸福感など感じたことはなかった。あったのは溜息をつきたくなるような虚脱感だけだった。

本当に心から大切な愛しい存在と、互いに互いの欲する物を与えあう悦び、この悦びこそが愛しい者との身体を合わせる悦びなのだ。そして、この悦びを知らずして、どうして人と生まれた意義があろう。

俺は今まで、本当の意味で人としての生など生きていなかった…だが、今は…今なら…

自分より大切だと思う存在に出会え、心から守りたいと思う。だから、困難な現実にも立ち向かう気概が生まれる、勇気を持って挑んでいける。心から愛しいと思う存在と互いに支え、支えられていれば、どんな道でも怯まず歩んでいける。そして、互いに互いを欲し、それを与えあうことで生きていることの悦びを分かち合う。与える喜びも与えられる悦びも等分に限りなく…

君が教えてくれた…人としての在り方も、人として生きる本当の悦びも…

「アンジェリーク…ありがとう…俺は…君に出会えて、君と愛し合えて…本当に幸せだ…18年生きてきて、こんなに嬉しかったことは…こんなに幸せだと思ったことはない…ありがとう…」

アンジェリークはオスカーの裸の胸に顔を埋めた。

「そんな…私、私こそ、幸せです…先…オスカーに会えてよかった…好きになって、好きになってもらえて、こうしてひとつになれて…本当に幸せです…きっと、こんなに好きになれる人には2度と巡り会えない…」

「2度と巡り会う必要なんてないさ。俺たちはもう、互いに、これ以上は有得ない愛しい存在を見出したのだから…」

「はい…オスカー…どうしよう、私、こんなに幸せで…オスカーのお誕生日なのに私のほうがこんなに幸せになってしまって…」

「君の幸せは俺の幸せだから…そう言ってもらえるのは最高のプレゼントさ」

オスカーはアンジェリークに愛しげに頬ずりをした。

「だが…」

「はい?」

「もっと直接的な幸せを味合わせてもらってもいいだろうか?今日は俺の誕生日だから…」

その言葉と同時に、オスカーは身体の位置を変えて、アンジェリークの上に覆い被さるように抱きしめた。そのまま首筋に唇を押し当て、舌を這わせ始める。

「きゃ…」

「離さないでくれと君は言ったな?そして俺は片時も君を離さないと約束した。そうだろう?」

「え?え?…」

「さっきは俺も気が急いてて、あんまりじっくり愛してやれなかった…今度はもっとたっぷりじっくり気持ちよくしてやるからな?」

「それって…つまり……あの…」

「ああ、お嬢ちゃん、俺が一回で終わる訳がないだろう?」

「あの…その…こういうことって何度もするものなんです…か?」

オスカーは思わず破顔した。

「ああ、愛に制限や限りなんてないだろう?だから、お互いが満足するまでいくらでも、何度でも交していいんだぜ?だからこその愛じゃないか…」

「あ、はい…愛に限りはない、そう…そうですよね…」

なんて純真でなんて無垢なんだ…オスカーは笑い出したいような陽気な気分といやますばかりの愛しさにどうしようもなく心が浮きたつ。

「とりあえずは、さっき愛撫してやれなかったところからだな…」

「え?…きゃ!」

アンジェリークの身体をくるんとうつ伏せにして、オスカーは改めて背中からのしかかった。髪をかきわけうなじから、肩へ、背筋へと口付けを落していく。

「あっ…やぁん…」

キスを落す度にアンジェリークがやるせなげに頭を振り、すぐ力つきたように突っ伏してしまうのが、かわいくて仕方ない。

「お嬢ちゃんは背中もよく感じるみたいだな…」

「やぁ…だって…変なの…唇や舌が触れると…声でちゃ…」

「ああ、存分に感じてくれ…俺が感じるところを全部探しあててやる…」

そういって、オスカーは背中にキスの雨を降らせはじめた。同時にアンジェリークの腹の下に手をあてて少し身体を起こさせ、背後から乳房にも手を伸ばし、乳首を摘む。

「あぁっ…」

アンジェリークがのけぞって、すぐ崩れおちるように突っ伏した。金の髪がきらきらと広がる。

打てば響くような感度のよさに、もっともっと愛してやりたくなる。

今度は余裕を持って愛撫を加えるつもりだったオスカーは、早くも抑えがきかなくなりそうな自分に気付き内心苦笑した。

「お嬢ちゃんは、ほんとに感じ易いな…これじゃ、とてもすぐには君の感じるところ全てを探せそうにない…」

「え?あっ…やん…」

言う側からオスカーは、背筋にそって上からすっと唇を滑らせた。もちろん手は乳房を揉みしだいたままだ。唇が下るにつれ、アンジェリークの切なげな吐息がどんどん忙しなくなっていく。

真っ白なかわいいお尻にちゅっと口付けると、

「きゃん!」

と言ってまた、身体が跳ねた。

かわいい…かわいくてかわいくて仕方ない。

オスカーは、アンジェリークの臀部に幾つもキスを降らせながら、笑みを含んだ声でこういった。

「お嬢ちゃん、俺は君に片時も放さないって約束しただろう?俺は文字通り明日部屋に送り届けるまで、君を片時も放さないぜ?覚悟しな…」

「え?あの?それ…どういう…あ…あああっ!」

アンジェリークはこの後意味のある言葉を一言も発せなくなった。

オスカーがアンジェリークの臀部を持ち上げるように抱いて、背後から舌を差し入れてきたからだ。

破瓜で傷ついた襞を綺麗に癒すように舌で丁寧に丁寧に舐め取られた。暖かい舌が容赦なく内部に侵入してくるその感触が恥ずかしくてたまらず、どこまでも優しい舌の動きには純粋に官能を刺激され、アンジェリークの意識はあっという間に沸騰してしまった。

「あ…あぁっ…だめ…そんな…あんっ…」

「痛かっただろう?だから、せめてもの詫び代わりだ…」

言うや唇を押し当てられ秘唇全体を吸われた。もう、四肢にまったく力が入らない。それを利するかのように、オスカーは更に臀部を高々と持ち上げると、背後から花芽まで舌を伸ばして掬い上げるように舐り始めた。前面から舐め上げられた時とはまた違う感覚が身体をかけぬけた。胎内を舐め癒すような舌の挿入と、花芽への鋭い愛撫が交互に休みなく繰り返される。アンジェリークは突っ伏したまま、啜り泣きの声をあげることしかできない。官能の波が高く低く途切れなくアンジェリークを洗い続ける。

「あ…はぁっ…や…も…あ…あぁっ…」

もう、弾けてしまう、身体のなかで何かが破裂しそうになったその時

「いくぜ…」

と言って改めてオスカーが自分の臀部を抱えなおした。同時に舌とは比べものにならない確かな量感をもった熱く固いものが後背から自分の内部に入ってきた。此度は焦らすようにゆっくりと。

「あ…あああっ…」

圧倒的な質量が、これ以上はないほどの存在感で徐々に自分の内部を埋め尽していく。埋められていくにつれ、火のような吐息が肺腑から押し出される。

先刻は痛みに耐えることに気がいってしまっていたので、アンジェリークはここまで明確にオスカーの存在を感じ取れていなかったことに思い至る。でも、今は刻々とわかる。『オスカーが…確かに私の中に…私とひとつに…繋がってくれてる…』ということが…

自分の最深部までがオスカーの存在で一杯になったのがわかった。その熱さ固さに圧倒され思考が覚束なくなる…と思う間もなく、オスカーが擦れる感触を楽しむかのようにゆっくりと抜き差しを始めた。

「あ…やぁ…」

オスカーのものが、内壁を擦るのがわかる、自分の最奥にあたって突き刺す、少しづつ早く、力強く。

どんどん頭が真っ白になっていく、何もわからなくなっていく。

「っ…アンジェ…さっきよりもっといい…熱くて…柔らかくて…」

「あっ…あぁっ…」

いつの間にか、思いきりゆすられ、突き上げられ、これ以上はないというほどの烈しさで打ちつけられていた。

苦しい、息ができない、もういっぱい、もうこらえきれない、なのに、止めないでほしい、心のどこかでもっと翻弄してほしい、もっとめちゃくちゃになってもいい、そんなことをふと思っている自分。

オスカーが自分に全てをぶつけてくれる。その激しさがたまらなく嬉しいから。全て受けとめたい、溢れても、受け止めきれなくても、身体全部で、自分のありったけで…

「おすか…好き…好きなの…」

息も絶え絶えなのに、訴えずにはいられなかった。

突然ぐいと顎を取られ、貪るように口付けられた。

「俺もだ…好きで…好きで…どうしようもない…アンジェリーク…」

一際高い音をたてて腰が打ちすえられた。

「あああっ…」

「くぅっ…」

オスカーが再び放った。

ぐったりと崩れ落ちた所にオスカーがスローモーションで倒れこむように全身を預けてきて、抱きすくめられた。その重さが、生硬な身体の感触が、愛しく慕わしかった。

その後も、何度抱かれたことだろう。向かい合ってみつめあいながら。背後から抱きかかえられながら。抱きしめられ、キスされ、愛撫され、挿入され、ひたすら受け入れ、与えられるままに声をあげ…幾度となく、際限なく。

自分がどんな肢体でオスカーを受け入れているのかさえ、覚束ない。気がつくとオスカーが自分の胎内にいて…圧倒的な質量と燃えるような熱さで気付かされて…気付いた後はすぐに何も考えられなくなってしまって…それが長い時間なのか短い時間なのかさえ、最後にはわからなくなってしまって…

オスカーの言葉通り、愛に限りがないように、愛の交歓にも限りがなく、オスカーはそれを身をもって証をたてた。

何もわからなくなったまま、いつしか意識を失っていた。眠りにおちたというよりは、気を失ったというに等しかった。

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