劫火の炎      
                               

ゆか様作

   補佐官になりたてのアンジェリークにとって もう、毎日が寝不足・・・。
  ロザリアに頼まれた書類の束を持って、毎日あっちこっちと走りまわり、
  夜も遅くまで補佐官室の明かりは消えない。

   見かねたオスカーが『お嬢ちゃん、君は何の為に補佐官になったんだ・・・、
  俺の為じゃなかったのか?』と、問いただすのも無理はない。
 
   せっかく恋人同士になれたっていうのに、これじゃ女王候補の時よりまだひどい。
  休日返上の度、デートをすっぽかされる上、『ロザリアが一人じゃかわいそう・・・』と
  一緒にくらす事さえ断られ・・・・・、
  『これじゃ、俺の方がおかしくなりそうだ』と、考えても不思議ではなかった。

   そのオスカーの想いが、愛が、時折二人きりで会える時に暴走し、アンジェリークを
  組み敷き追いつめてゆく。
   
   無理矢理と思える程の愛撫、深い繋がりを求め乱暴なまでに確かめる身体・・・・・。
  会えない時にも忘れないようにと、つなぎ止める為だけにアンジェリークを抱き、
  逃れられない様にと、きつい体制をわざととらせる。
  アンジェリークが泣き叫び、哀願してもオスカーの身体も心も満たされていかない。
  
   乾いてゆく、心も身体も・・・この想いすら・・・・・。

   追いつめたかった訳じゃない、まして君からこんな言葉を聞く為でもない。
  俺は君が・・・、アンジェリークお前が欲しかった・・・
  ただ、ただそれだけだったんだ・・・・・。


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     「オスカー様、本当にごめんなさい・・・・」
   
   その一言から俺のこの胸の痛みは始まったのかもしれない・・・・。
    
    
   夢の様な日々が走馬燈のように駆けめぐり・・・消えてゆく・・・。
  自らの心臓をえぐり出され・・・口内に押し込まれ、何も言葉がでない。
  
  
   視線を外せば・・・君が永遠にこの腕には戻ってこない気がした。
  力ずくで組み敷いたら・・・君を壊してしまうだろう、それでもいいとさえ思えてしまう。

  
  何ができる、この俺に・・・。
  こんなにも愛してしまったというのに・・・。
  こんなにも君の身体を知ってしまったというのに・・・。

  
   「オスカー様を嫌いになった訳じゃないんです・・・でも、でも・・・ダメなんです。」

  
   貴方の想いが怖い・・・押しつぶされそうで・・・。
  貴方の想いが熱い・・・灼き尽くされてしまいそうで・・・。
  ちいさな私には受け止め切れない程の、貴方の想い・・・どうしようもなく
  怖じ気づく私を・・・・・貴方は許さない。

   きっと許さない、生半可に貴方を愛したら・・・
  そんな私を貴方は・・・・・絶対許さない。
   
   何ができるの、この私に・・・。
  ゆっくりと愛していきたいのに・・・。 
  なのに貴方の身体を知りすぎてしまった・・・。


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   「アンジェ・・・・・オスカーと別れたってホントなの?」
   
   「ロザリ・・・あっ、陛下どうして・・・・・」

   「ロザリアでいいわよ、こういう二人きりの時はね。それで・・・本当なの?」

   「・・・・・・・・・・」

   「アンジェ・・・あなた私の事どう思っているの?」

   「えっ・・・・・・・・?」

   「私とのあの競い合っていた女王候補の日々を捨てて・・・・・この女王の座を捨てて、
  選んだのじゃなくて!?・・・・・・私はまるで譲り受けた様に女王になって・・・」

   「ロザリアそれ違う!!譲ったなんて・・・そんなこと」

   「でも、あなたの方が勝っていた・・・・・」

   「譲ってなんかいない・・・私は・・・・・・私が聖地にきた本当の理由を知ったから・・・
  知ってしまったから!・・・・・そう思ったの、そう・・・・・確信したのあの時は・・・、
  だからロザリアはきっと初めから女王になるために・・・ここに来たのよ。
  私なんかじゃなく・・・・・うまく言えないけど、絶対そうなの」

   「だったら、どうして?・・・・私は女王になりたかった・・・どうしても、なりたかったの。
  あなたもそうだと信じてた・・・だからあなたが試験を降りてオスカーを選んだとき、
  はじめ裏切られた様な気分だったわ・・・・・・・・。
  でも、解ったの・・・女王の座、それ以上のあなたの気持ち、だから・・・だから・・・、
  それなのに・・・どうして!?」

   「・・・・・こわいの・・・・・」

   「アンジェ?」

   「あのひとが・・・オスカー様が・・・・・怖いの」

   「何かされたの!?」

   「・・・愛してくださるの・・・強く・・・」

   「・・・・・・・・・」

   「オスカー様の炎に灼き尽くされそうなの・・・・・強くて、真っ直ぐで、
  私がわたしでなくなってしまうの・・・・・もうすぐ私、逃れられなくなってしまう・・・・。
  オスカー様に抱かれていると・・・・・
  オスカー様の炎は・・・・・劫火の炎、全てを灼き尽くすまで消えない、
  そんな気がして・・・ものすごく怖い・・・・」

   「・・・・・・アンジェ、そんなに愛してるの?オスカーのこと」
 
   「ロザリア・・・・・・・・・・?」

   「灼き尽くされてしまいなさい、あなたにはその価値があるわ・・・・・。
  愛している人の想いなら・・・灼かれて悶えて・・・たくさん傷つきなさい。
  誰かを愛したら無傷なんかじゃいられない、綺麗なままじゃいられない、そうでしょ?」

   「・・・・・・・・・・・・」
  
   「別れれば傷つかずにすむと、本気で思ってる訳じゃないでしょう?
  アンジェ、今苦しいでしょう?持て余してゆくのよ、その心も身体も・・・・・・ 
  これからずっと、ずっと・・・・、他の誰かに抱かれる時も・・・・」

   「他のって・・・」

   「そういう事でしょう?別れるって・・・・。
  まさか、あなたこの先死ぬまで誰も愛さずに生きてゆくつもり?」
  
   「・・・・・・・・・・・・」

   「オスカーだって同じでしょう?あなたと別れて・・・・いつかまた誰かを愛すわ、
  でもそれは・・・アンジェ、あなたじゃない」

   「イヤッ・・・・・そんなの・・・・オスカー様が他の誰かを・・・・・・」

   「あなた以外の誰かに『愛してる』と囁き、くちづけて・・・
  あなた以外の誰かを抱くのよ・・・・・・・・・」

   「・・・・・・・・・・・・・・」


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   「ちょっと、オスカー!!」
 
   「・・・・・・・・・・・」

   「あんた、剣を睨んだまま・・・いつまでそうしてるつもり?」

   「・・・・・・・・・・・」

   「オスカー・・・・そのうち、立ったまま剣と一緒に化石になちゃうわよ?」

   「・・・・・・・・・・・」

   「ふぅ・・・っ、アンジェならさっき会ったわよ『オリヴィエさま、書類にサイン下さい』って、
  真っ赤な目をしてさっ」

   「・・・・・・・・・・・」

   「その剣でアンジェ殺して自分も死ぬつもり?」

   「・・・・・・・・・・・」

   「ちょっと、何とか言いなさいよ!ここ数日のあんた、殺気立って・・・ランディどころか
  ジュリアスの話しさえ耳を貸さないって・・・・・」

   「・・・・・・・オリヴィエ・・・・俺を殺せ・・・・」

   「・・・・・・・なっ、なにを・・・・・馬鹿言わないでよ・・・ったく」

   「・・・・・このままじゃ・・・今お嬢ちゃんに会ったら・・・俺は、俺は・・・・・・・」

   「・・・・・・・・・・・」

   「許せない・・・・・・許せないんだ・・・・愛してるのに、許せないんだ」

   「オスカー、あんた・・・・・・・・」

   「他の誰かに・・・・あいつが・・・・・・・・!!
  あの瞳も、あの金の髪も唇も・・・・・・胸も・・・・・・すべて俺は知ってしまった。
  だから・・・・譲れない!誰にも譲れないんだっ!」

   「・・・・・・・・・・」

   「憎んでもいい、恨んでもいい、ただ俺は・・・・・、
  俺以外の誰かの腕にあいつが抱かれるなんて・・・・・・許せない!!」
 
   「そんな愛し方してたら、壊すわよ」

   「俺ならとっくに・・・・壊れてる」

   「あんたじゃないわよっ、アンジェリークの事よ」

   「あいつが・・・・・?」

   「愛したら壊され、別れたら殺されじゃたまんないわよね」

   「どういう意味だ!?」

   「アンジェリークはあんたが嫌いになったんじゃない、あんたから逃げたんだよ、
  あんたのその愛し方から・・・・、怖くなって逃げたんだ。
  オスカー、あんたのどん欲過ぎる愛が、いつか彼女を壊してゆく。
  それをアンジェリークは感じ取ったんだ、だから逃げた・・・愛してるからこそ」

   「・・・・・・・・・」

   「オスカー、彼女を愛してるなら・・・もう少し信じてやりなよ・・・・」

   「俺が、信じてないと?」

   「あんたは彼女が自分の知らない処で 何かをするのが許せないでいる、
  自分の見てない彼女の姿・・・・・それが信じられない、だからもぎ取ろうとしてる・・・、
  根こそぎ彼女のすべてを・・・・・・・
  これ以上何が欲しいんだろうねっ、彼女は翼さえ捨てたっていうのに・・・・・
  あんたが捨てさせたんだろう?」

   「・・・・・・・・」

   「『愛する事』と『信じる事』は同じに見えて、全然別物だと思うよ、
  愛するからこそ信じて、愛するからこそ信じられない・・・・疑って、嫉妬に駆られて、
  歪んで・・・・愛なんて矛盾だらけで・・・・・・・・、
  なら、プライドは捨てた方がいい・・・彼女の前じゃ、何の役にもならない、
  ・・・・・・・・でもあんたの愛し方は正直だよ・・・・・時々あんたを羨ましく思う・・・」

   「オリヴィエ・・・・・お前」

   「時々・・・・・ね・・・・・・」

   「・・・・・・・・・・」
 
   「あんたらしくないって言ってるんだよっ、そんなんじゃ炎の守護聖の名が泣くわよ。
  燃え尽きるなり、壊すなり、自分のその手で勝負賭けなさい。
  今までそうやって生きてきたんでしょう?・・・・・まったく人の話黙って聞くあんたじゃ
  ないでしょうがっ」

   「今更俺の愛し方を・・・あいつは許して・・・受け止めてくれるのか?」
    


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   あの人が・・・・・・オスカー様が他の誰かを愛する?
  あの瞳にみつめられ、あの腕に抱かれ・・・・『愛してる』と・・・私じゃない誰かに?
  
   そんなの・・・・イヤ・・・・。
  あの胸も、あの腕も、指先も唇も・・・背中も、全部私のものだって、お前にやるって
  言ったんだもの・・・・・でも・・・・・。


   「もう、遅いわ・・・・・」             「もう、遅い・・・・・」

   「オスカーさま・・・・・」             「お嬢ちゃん・・・・」

   「許してもらえない、きっと・・」        「許してくれるだろうか・・」

   「もう、私の事なんて・・・・」          「・・・・愛してるんだ」

   「でも・・・・」                   「だから・・・・・」

   「他の誰かになんか譲れない」       「他の奴になんか譲れないっ」

   「この愛だけは・・・・・」            「この愛だけは・・・・・」

   「オスカー様だけは・・・」           「アンジェリーク、お前だけは・・・」
  
            「許して貰えないかもしれないわよ」

   「うん、その時はオスカー様に        「ああ、その時はアンジェリークに
  殺してもらう・・・あの剣で・・・・・        殺してもらうさ・・・この剣で・・・・・
    そしたら私を忘れないもの」          それが俺の愛し方だ」

   「私、行って来るね・・・ロザリア」       「オリヴィエ・・・俺は行って来る」

            「全く、世話の焼ける・・・人の気も知らないで」

            「今夜は帰ってこないわね、きっと・・・・・・・・・」


    ・・・・・・アンジェ、あなたがあの日、女王候補を降りなければ・・・・・・・
   きっと私の方が候補から降りていたわ・・・・・。
   ・・・・・・・人を愛するって難しい・・・・・私だってその位知っているわ・・・。

    本気なの、許されなくても・・・・愛してしまったの、もう・・・引き返せないの。
   知ってしまったから・・・あの方の心も・・・・身体も・・・・・。
  

    「陛下・・・・おひとりですか?」

    「・・・やめて、陛下なんて呼ばないで・・・お願い・・・・今だけは」



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    なんて言おうあの人に・・・・・         ・・・・・なんて言えばいい
   
    『愛してる』・・・・・                ・・・・・『愛してる』

    ううん、違う・・・・・                ・・・・・いや、違う

    今、私がしてほしい事・・・・・         ・・・・・今、俺がしたい事

    
   「オスカー様、私をオスカー様の炎の中で女にして下さい。

  灼かれても、傷ついても・・・・・私、オスカー様の愛になら溺れて死んでもいい、

  ・・・灼かれて焦がされても 後悔しない、だからその愛は私にだけ・・・

  オスカー様の炎は・・・・。私だけを灼き続けてください・・・・」



   「俺の愛は罪かもしれない、お前を灼き尽くすかもしれない・・・・

  でも俺は他にお前への愛し方を知らない、俺の腕の中で女にしたい、

  そう想う俺は お前の望む様な・・・きれいな愛だけを与えてはやれないんだ、

  ・・・・・俺を・・・見捨てるな、お前がいないと・・・・俺は・・・もう・・・・・・・」   
              To Be Continued…

ゆか様から、とっても切ない愛の物語をいただきました!ゆか様、どうもありがとうございます!オスカー様の本気の愛は多分とっても重い。しかも余裕が無い。17、8歳の女の子がこんな愛を示されて、同じ重さで応えろと言われたら、多分怖気づいてしまうと思います。そう言う意味でゆか様のアンジェは17、8歳の等身大のアンジェですね。でも、オスカー様がこういう愛し方しかできないということも、アンジェは判ってあげて欲しい。受けとめてあげて欲しいと、すっごく感情移入してしまいました。いやぁいいもの戴けて幸せですわ、私。しかも、続きもあるらしいんですよ〜。皆様もどうぞお楽しみに〜

灼熱の炎へ