「ふぅ…」大き目の湯船でゆったりと手足を伸ばしながら、アンジェリークは小さな溜息をついた。
保湿効果の高いアロマオイルを垂らしたお湯がアンジェリークの体を柔らかく包みこむ。
たちのぼるスミレの香りを胸一杯に吸い込むと、体の芯に凝っていた一日の疲れが、固い結び目が綻ぶ様にゆっくりとほどけていく。
夢の守護聖がくれたバスオイルの効果はその言通り確かなものであった。
「いいかい?これは体を洗うときとは別に、ゆったりとリラックスするときに使うと効果が高いんだよ。鎮静効果があるから、夜寝る前にこれを垂らしたお湯にゆっくり浸かってごらん。ささくれた神経が鎮まって、よーく眠れる事請け合いさ。神経が昂ぶってるとよく眠れないし、睡眠不足はお肌の大敵だからね。」
ウインクしながらオリヴィエが手に一杯、いろいろな香りのアロマオイルを自分にくれたことをアンジェリークは思い出していた。
気配り上手な夢の守護聖はこんなこともいっていた。
「それに、疲れを貯めたりして仕事に差し支えがあると、あのこわーい筆頭守護聖になんて言って苛められるかわからないからね。どうしたって慣れない仕事は疲れるよね?あんたにはなにもかも初めてのことばかりだもんね。新しい環境、新しい仕事、そして新しい家族…そのちっちゃな肩が重さに悲鳴を上げる前に、困った時、助けてほしい時はなんでも私においい?遠慮なんかするんじゃないよ。いいね?」
その優しい心遣いを思うと、胸の中に暖かいものがじんわりと込み上げてくる。
アンジェリークが補佐官に就任してからまだ二週間たらず。
オリヴィエの言ったとおり、何もかも初めて出会う事だらけのアンジェリークの日常は毎日飛ぶ様に過ぎていく。
こまねずみのようにくるくると、というのは、こういう状態をいうのだろうかと頭の片隅でちらりと考えたりするほど、忙しない日々が明けては暮れていった。
新女王となったロザリアの力で綻びかけていた宇宙から新しい宇宙に既存の星系が転移してからというもの、新しい宇宙をつつがなく運行させるべく守護聖たちも、新補佐官となったアンジェリークも一丸となってロザリアを支えていた。
忙しくないわけがない。
ただアンジェリークの職場(聖地をそう呼んでもいいのなら)はある意味仕事というものを知り染めたばかりの人間にとって理想的なものといえたかもしれない。
上司といえるロザリアも、同僚とも言うべき守護聖たちもすべて気心が知れており、しかも皆が皆自分にとても親切にしてくれる。
オリヴィエは自分を厳しく指導する光の守護聖のことを冗談混じりに揶揄していたが、その厳しさも不慣れな自分を一日も早く一人前にしようと思ってくれてのことだとアンジェリークにはわかっている。
しかも、同じ職場で働いている者は皆、宇宙の移動という未曾有の経験を経て、そのサポートに努めると言うやりがいのある仕事に奮い立っていた。
新宇宙の安定とその運行を軌道に乗せることという大命題の前に、女王試験前に守護聖間のそこここに見られた不協和音も今はなりを潜め、守護聖の間の士気、モラルはいままでにないほど高まっていた。
その士気の高まりは守護聖たちが課せられた責務にやりがいを見出せたからだけではないことを、このかわいらしい補佐官は気付いていない。
いつも一生懸命でがんばりやの彼女が新女王の荷を少しでも軽くしようと、毎日東奔西走している。
それを冷たく片目でみていられる守護聖など一人もいなかったという部分も多分にあった。
アンジェリークは守護聖たちのその種の意図には疎かったものの、皆がとても自分に優しくしてくれることはひしひしと感じていた。
逆にあんまり甘え過ぎないようにと自分を戒めているほどだった。
だから、忙しいとはいっても心理的な重圧はほとんど感じていなかった。
体は大変でも、仕事はつらくなかった。むしろ、なにも考える暇がないほど忙しく立ち働いているほうがアンジェリークは気分的に楽だった。
時間ができるとどうしても、思考があの人のことだけで占められてしまうから。
新しい家族とオリヴィエが言った人、いや、家族なんて言葉じゃ表しきれない自分の魂の半身。
出会うべくして出会ったのだと何の理屈もなく思えた人。
会えなくなったら自分の心は死んでしまうと、何の疑問もなく思えた人。
今は自分の夫となった炎の守護聖オスカーのことを。
オスカーと結婚して一緒に暮らすようになった今でも、アンジェリークはこの自分の幸せをどこか信じられない気持ちを拭い切れなった。
出会って互いに惹かれあって、等分の重さで別ち難く、離れがたく思いあえたこと。
周囲の協力で守護聖という特殊な地位にいるその人と供に暮せるようになったこと。
なにかひとつでも歯車がかみ合わなかったら、こんな溶けそうな幸福感に浸ることはできなかっただろうという確信がある。
そう思うと世界中のなにもかもに感謝したくなる。
そして、アンジェリークはだからこそ、自分のできることは何事であれ全身で取り組むつもりだった。
運命に感謝しているからこそ、自分のできうる限りの力でその感謝の気持ちを周囲に返したかった。
ただの偶然が自分に幸せを運んできたとは、アンジェリークは思っていなかった。
運命と言う物があるとしたら、それは自分が精一杯がんばってこそ微笑んでくれるのではないかと思えるから。
きっと、幸運に胡座をかいているような人間だったら、あの人は私を愛しいとは思ってくれなかっただろうから。
あの人…オスカーのことを考えるだけで、呼吸が苦しくなった。幸せで溜まらないのになぜか胸が痛くなる。
結婚する前もオスカーのことが好きで好きでたまらなかった。
なのに結婚してからも、日々好きと言う気持ちは募っていくばかりだ。
愛し合うことの悦びもオスカーが教えてくれた。この上なく優しく、限りなく情熱的に。
その感じ方が、悦びの質も量も日毎夜毎深まる一方だった。
苦痛を感じたのは最初の数回だけだった。
その時でさえオスカーの巧みな愛撫と、そこから導き出される圧倒的な快楽にいわば力技でねじ伏せられるような形で苦痛を忘れさせられた。
苦痛が減じていくに連れ、純粋な快楽だけがより深く激しくアンジェリークを満たし、翻弄するようになった。
意識は途切れがちになり、自分という存在はオスカーに与えられる快楽だけに染めあげられるかのようだった。
アンジェリークは白い二の腕を一度湯から持ち上げ、自分の胸を抱きしめてみた。
ぽしゃんと小さな水音が響き、腕からしたたった水滴で湯面に幾重もの波紋が生じる。
悦びの度合いが深まるに連れ、自分の体が微妙に変化してきていることにアンジェリークは気付いていた。
乳房も、白い臀部も以前よりふっくらと丸みを帯びて円かになっているようだ。
肌もしっとりと柔らかく艶やかになっているような気がする。
自分の変化はすべてオスカーの与えてくれる愛情と言う魔法の所為のような気がする。
そして昨日よりも今日、今日よりも明日、自分はますますオスカーが好きになっていく。
オスカーがいなかったら生きていくことさえ覚束なくなりそうで、こんなにオスカーに執着している自分が空恐ろしくさえなる。
だから、つい余計なことを考えて不安になる。
『私はオスカー様がいなかったらもう生きていけない。今はオスカー様も私のことをとても愛してくださってる。けど、もしオスカー様が私を嫌いになっちゃったり、飽きたりしちゃったら、私はどうしたらいいの?私はどんどんオスカー様のことが好きになっていく一方なのに…オスカー様といられるならどんな努力だってするつもりだけど…でも…』
考えたって答えのでようはずのない疑念なのはわかっている。
あんまり今が幸せだから、それを失う恐ろしさを少しでも想像することに耐えられない。
なのに、わざと自分で自分の恐怖を煽るような思考がときおり頭を掠める。
幸せ過ぎるから恐くなるのだ。そう悟っている自分がいるのに、無意味な不安が沸き上がるのを押さえきれない時がある。
一緒にいるときはオスカーといられる幸せに心から満たされているから、こんな感情はまったく生じない。
一人でいるとき、オスカーのことを考えると、時折思考の迷路に迷い込んでしまうことがあるのだ。
だから、仕事は忙しいほうがアンジェリークにとっては都合がよかった。
『オスカー様が好き…どうしようもないほど好きなの…』
思いつめたような瞳でぼんやり湯面をみつめていたアンジェリークはそのオスカーの声とノックの音ではっと我に返った。
「お嬢ちゃん、待ってたんだがまだでないのか?でないなら俺もはいっていいか?」
「あっ!ごめんなさい、オスカー様、私すぐ出ますから!」
慌てたアンジェリークは湯船の栓を抜いて浴槽からでようとした。
そこに浴室のドアをあけて裸身のオスカーが入ってきた。
もう、何度もみているオスカーの体だが、正面からはいまだに正視できない。
広い肩幅も、厚い胸板も、締まった腰の線もすべてに無駄がなく完璧な均整を持つオスカーの肉体は、アンジェリークにはあまりに綺麗で眩しく思え、一度見つめたら目が離せなくなりそうな自分をアンジェリークは感じていたから。
どぎまぎと目を伏せ、アンジェリークは
「ぼんやりしてたから、長くなっちゃってごめんなさい。オスカー様、お風呂すぐ空けますから…」
といって湯殿をでようとしたところでオスカーに手首を掴まれた。
「何だ、湯を抜いちまったのか…」
「え?だってオスカー様お入りになるんでしょう?」
オスカーはくっと破顔した。
「俺はお嬢ちゃんと一緒に入るってつもりだったんだけどな。お嬢ちゃんがすぐ出てくるならベッドで待ってるのもよかったんだが、なかなか出てこないから、それなら俺も一緒にとおもったんだが…わからなかったか?一緒に風呂に入るのも初めてじゃあないだろう?ま、そんなに回数はこなしてないがな」
アンジェリークの顔がみるみる朱に染まった。
一緒に風呂に入ると言うその行為自体に恥らっているのか、自分の早とちりに赤くなっているのか、恐らくはその両方なのだろうがかわいそうなほど真っ赤になってしまった。
「ご、ごめんなさい、オスカー様…」
「いいさ、お嬢ちゃんにきちんと言わなかった俺が悪いんだ。今度は最初から一緒に風呂に入ろうな?お嬢ちゃん…」
「だって、そんな恥ずかしいです…私、オスカー様に見られてるんなんて思ったら、洗えなくなっちゃいます…」
「お嬢ちゃんがそう言うから、これでも結構遠慮してたんだがな。でも、俺は本心を言えばいつも風呂も一緒に入りたいんだがな。だめか?」
ダメか?と問われて、心から嫌なわけではないことだけに、だめと言えるはずもない。
アンジェリークは小さく首を振った。
「だめ…じゃないです。でもやっぱり恥ずかしい…」
オスカーが嬉しそうに微笑む。
「恥ずかしくても嫌じゃないんだな?風呂に一緒にはいるのがまだ恥ずかしいなら…そうだな、シャワーくらいは一緒に浴びてもいいか?」
言い終わった途端にオスカーはアンジェリークの顎をくいと上向かせ、覆い被さるようにその唇を塞いだ。
そのまま湯殿の隣にある小さ目のシャワーブースにアンジェリークの体をオスカーは押しやる。
オスカーに押されるままにシャワー室のタイルにアンジェリークの背中が押さえつけられた。
冷たいタイルの感触にアンジェリークの肌が粟立ちかけたとき、頭上から熱い湯が全身に降り注がれた。
オスカーが片手で壁面のコックを捻りながら、もう片方の手でアンジェリークの手を捕らえ、指をからめてやはりタイルに押し付ける。
小さなシャワーブースの中は満遍なく湯が降り注ぐ。
容赦ないスコールに降り込められたように、唇を合わせたまま離れない二人を湯の幕が閉じこめているかのようだった。
湯の熱さに煽られるようにオスカーの舌がアンジェリークの口腔内で縦横に暴れまわる。
アンジェリークは舌を逃さずオスカーの口付けを受けるので精一杯だった。
オスカーに舌を吸われるとそれだけで頭に霞がかかっていく。
その上間断なく降り注ぐ熱い湯に呼吸がうまくできない。
苦しくなったのと、自分を見失いそうになったのでアンジェリークは引き剥がす様に唇を振りほどこうとしたが、オスカーの唇は角度を変えて追ってきてアンジェリークのそれを逃そうとはしない。
アンジェリークの体から力が抜けきるまでオスカーの深すぎるほどのキスは続いた。
息も絶え絶えにオスカーにもたれかかるアンジェリークの体を支えながら、オスカーは耳元で囁いた。
細められた瞳に妖しい光が宿っていた。
「俺から逃げようとしたな?悪いおじょうちゃんだ…俺からは絶対逃げられない、逃さないってことをじっくり教えてやろうな?」
シャワーを止めてタオルで簡単に水滴を拭い去ると、オスカーはそのまま朦朧としているアンジェリークをさっと抱き上げて寝室まで運んだ。
キングサイズのベッドの上に放り投げるように、しかし決してアンジェリークが怯えるほど荒荒しくはなく、アンジェリークの体を軟着陸させるとオスカーは自分もその上に覆い被さった。
アンジェリークの背中に腕を回し、その細い体を折れよとばかりにだきしめながら、オスカーは
「お嬢ちゃん、俺のキスから逃げ様とした罰だ。今度はお嬢ちゃんから俺にキスを仕掛けてくれ」
と耳元で囁いた。
アンジェリークは苦しそうに身じろぎしながら、戸惑いを隠せない。
「そんな…私、どうすればいいか…」
「いつも俺がしているだろう?よく思い出してみろ。まずは口を開けてそのかわいい舌を差し出してみな?お嬢ちゃん」
言われるままにアンジェリークがうっすらと唇を開いて小さな舌をおずおずと差し出した。
そのかわいらしい舌を思いきりむさぼりたいという火のような欲望を必死に押さえながらオスカーは、あくまで落ちついた口調でこう告げた。
「そうだ、そのまま俺に口付けて、自分の舌を差し入れて俺の舌にからませながら唇を吸うんだ。うまくやろうなんて思わなくていいから、さあ…」
オスカーに促され、アンジェリークは潤んだ瞳を半開きにしてオスカーに顔を近づけてくる。
いつも瞳を閉じて自分の口付けを受けるだけのアンジェリークしかみたことのなかったオスカーは、この妖艶ともいえる表情に恐ろしいほどそそられた。
自分から口付けてしまいたいという欲望をありったけの力で押さえこみ、アンジェリークの唇が触れるのをまつ。
はすかいにそっと触れてきた柔らかな感触、同時に自分の唇を割って入ってきた暖かくぬめらかなものを感じてオスカーは歯列に隙間を作った。
探る様におずおずとアンジェリークの舌がオスカーの歯列をくぐって口腔に入ってきた。
ぎこちなく、たどたどしくオスカーの舌に自分の舌を絡めようとする。
その世馴れぬ動きが更にオスカーを煽った。
アンジェリークの舌が自分の舌に触れたのを感じて、押さえていた欲望が火花を散らして弾けた。
アンジェリークの舌に自分からも舌を絡めてきつく唇を吸う。
アンジェリークも懸命な様子でオスカーの唇をくちゅくちゅと吸おうとしている。
飲み込みきれない唾液が互いの口の端から溢れだす。
アンジェリークはもう瞳を閉じて、なされるがままに恍惚とオスカーの口付けに酔っていた。
執拗にアンジェリークの唇を貪るオスカーは、もっとアンジェリークの婀娜っぽい表情を見ていたかったのに、どうしてこう自分はアンジェリークを前にすると堪え性がなくなってしまうのかという忸怩たる思いを感じていた。
自分からキスを仕掛けさせなければアンジェリークは受身となって瞳を閉じてしまうのに、つい我慢できなくなってオスカーは自分のほうからアンジェリークの舌を貪ってしまう。
しかし、それを上回って余りあるほどアンジェリークの唇は甘く、吐息は芳しい。
深い口付けを繰返すうちにアンジェリークを欲しいと言う気持ちが押さえきれないほど高まっていき、それ以外のことが思考から追いやられてしまう。
オスカーはキスを続けながらアンジェリークの顔を飽くことなく見つめつづける。
オスカーのキスに酔った様に頬を紅潮させ、苦しげに眉根をよせているアンジェリークもやはり妖しく美しかった。
ふと思い立ってオスカーはいきなりアンジェリークの股間に指を滑りこませた。
奥まで分け入る前に、火のように熱い場所が指に触れ、同じように熱いぬめりが指先に絡みついてきた。
「んんっ…」
何の前触れもなしに股間をまさぐられ、アンジェリークは驚いて首をふり口付けを解いた。
オスカーはふっくらとした花弁の上で円を描く様にその指を躍らせた。
「どうした?お嬢ちゃん。キスだけでこんなに溢れさせちまって…いつにまにお嬢ちゃんはこんなにいやらしくなったんだ?」
オスカーの言葉にアンジェリークの顔がみるみる泣きそうに歪んでしまった。
自分からオスカーにキスを仕掛けるという非日常的な行為に常にない昂ぶりを感じていたのは確かだった。
オスカーの舌に拙くとも自分から舌を絡めていると、なにか体の奥から熱くこみあげてくるものも感じていた。
だがオスカーに、どこも触れられぬうちから自分がはしたなく濡れそぼってしまったことを指摘されたのは、耐えられないほど恥ずかしかった。
きっと呆れられた、きらわれちゃったのかもしれない、そう思ったら先ほどまでのわた雲を踏むようなふわふわとした幸福感がぺしゃんこにつぶれてしまった。
どうしよう、私はこんなにオスカー様が好きなのに、もし嫌われちゃったらどうしたらいいの?と途方にくれてしまい、同時に押さえようもなくじんわりと涙が眦に滲み出した。
ぎょっとしたのはオスカーである。
「ど、どうした?お嬢ちゃん!そんな悲しそうな顔をして!」
「ふぇ…オスカー様、私のこと、呆れちゃいました?き、嫌いになっちゃいました?オスカー様に嫌われたら、私…私…」
口に出してしまったら更に哀しくなって、あとからあとから涙がぽろぽろと零れてきた。
オスカーはアンジェリークの涙に無様なほどうろたえてしまった。
なんでアンジェリークが泣いているのか、突然思いもかけないことを言い出したのか全く理解できなかった。
「そ、そんなことある訳ないだろう!俺はこんなにお嬢ちゃんに夢中なのに!」
「だって…私が、いやらしくなったって…いやらしい子なんて、きっと、もう、もうオスカーさまに嫌われちゃ…ぅっ…ふぇっ…ぇっ…」
顔を覆ってしくしく泣き出してしまったアンジェリークをオスカーは力いっぱい抱きしめた。
「違うんだ、お嬢ちゃん!悪かった!頼む、泣かないでくれ!そんなつもりじゃないんだ!」
オスカーは漸く合点が行くと同時に、嵐のような後悔に苛まれた。
自分がほんのちょっと羞恥心を煽ってさらにアンジェリークを燃え立たせようと不用意に漏らした言葉にアンジェリークは傷つき、辱められたと受取ってしまったのだ。
まだ性の悦びをほんの知り染めたばかりの、少女を脱したばかりのような無垢な彼女に羞恥を煽る言葉の責めは早すぎたし、へたをすると、悦びを感じることに変な罪悪感を植えつけてしまうところだったとオスカーは冷や汗をかいた。
「悪かった!俺の言い方が悪かった。誤解なんだ。お嬢ちゃんを嫌いになったりしない!むしろ俺は嬉しいんだ。こんなに感じてくれて、俺を欲しがってくれて。お嬢ちゃんが感じてくれればくれるほど、俺もお嬢ちゃんが愛しくなるんだ。あんなに濡れてくれてて俺は嬉しかっただけなんだ。俺の言い方に傷ついたのなら謝る。だから、そんな悲しそうな顔をしないでくれ。お嬢ちゃんを愛してる、心から愛してるんだ!」
すがるような瞳を涙で濡らしてアンジェリークがオスカーを見上げる。
「だって、だって、私ほんとにいやらしくなっちゃったんだもの。オスカー様にキスしていただいたり、触れられるだけでなんだかおかしくなっちゃうの。すっごく気持ちよくてふわふわ浮かんでるみたいな気がして…それが日増しに強くなって…。オスカー様…こんな風になっちゃった私でも、好き?嫌いにならない?私、私はオスカー様のことがどんどん好きになっちゃうのに、もし、オスカー様に嫌われちゃったら、う…ふぇっ…」
またほろほろと泣き崩れそうになるアンジェリークの涙を吸い取りながら、何度も髪をなで、軽く口付けてからオスカーは改めてアンジェリークを固く抱きしめた。
「いいんだ、どんどんおかしくなって…気持ちよくなっていいんだ。それはちっとも悪いことじゃない。好きだから感じる、好きだから欲しくなる、その気持ちが強くなることを、俺が嫌がる訳ないじゃないか。むしろ、俺のすることが気持ちいいって言ってくれたら、俺はとても嬉しいし、もっとお嬢ちゃんを悦ばしてやりたくなる。いやらしいっていったのも、俺は悪い意味で言ったんじゃないんだ。信じてくれ。」
アンジェリークはまだ半信半疑の呈で、オスカーに問いかける。
「ほ、ほんと?オスカー様、私が、あの…どんどんえっちになっちゃっても、嫌じゃない?はしたない声とかあげちゃっても、呆れたりしない?」
オスカーは優しい瞳でアンジェリークの髪を梳き、手をとって白い指先に口付けた。
「心配しなくていい、お嬢ちゃんが乱れれば乱れるほど、俺はお嬢ちゃんをかわいいと思う、愛しくてたまらなくなる。お嬢ちゃんが素直に感じたままを現してくれたほうが嬉しいんだ。愛し合っている俺達の間には悦びを求めることも、与えることも、それを率直に表すことも、だめなことなんて何ひとつないんだ。」
オスカーはキスをひとつ落してから、諭す様に言葉を続けた。
「さあ、だから、正直に言ってくれていいんだ。どうされたら気持ちいいか。逆に嫌なことがあったら我慢しないで言ってくれていい。今みたいに俺の独り善がりが君を傷つけてしまうこともあるからな。」
いい終わると同時にオスカーはアンジェリークの肩口に顔を埋めると、首筋から肩にかけて舌を這わせ、所々、止まっては吸ったり軽く歯をたてたりした。
「う…ふぅ…ん…」
アンジェリークが切なげな吐息を漏らす。
「こうされるのは気持ちいいんだな?なら、ここはどうだ?」
オスカーは大きな手でアンジェリークの乳房を包み込むように揉みしだきはじめた。
手で乳房をゆっくりと捏ね回しながら、掌全体でさりげなく乳頭に刺激を与える。
唇は鎖骨から乳房の裾野を徐々に這い上がって豊かな膨らみの頂点を目指す。
乳輪を尖らせた舌先でなぞると、乳首がくっと頭をもたげる。早くここにも愛撫を与えてくれと言わんばかりに。
その誘惑に抗いきれずオスカーはその可憐な先端を根もとのほうからぺろりと嘗め上げた。
「あふ…ん」
アンジェリークが軽く身じろぎする。
そのままオスカーは様様な角度から乳首を嘗めあげてから、尖らせた舌先で最も敏感な先端をつつく様に弾いてみた。
「あっ…あん…」
「お嬢ちゃん、全体を嘗めるのと、先端をつつかれるのはどっちが好きだ?」
「う…ん、どっちも…いいです、でも、先を嘗められるほうが…」
「こうか?」
先端だけを狙ってもう一度小刻みにすばやく舌を動かしてみる。
「ああんっ!」
アンジェリークがのけぞり首の線が露になった。
「かわいいぜ、お嬢ちゃん、気持ちいいんだな。」
オスカーは自分自身が乳首の弾力を味わいたくなって、軽く唇で挟みこんでから吸い上げてみた。
「んっ…」
「吸われるのも好きか?」
瞳をぎゅっと閉じたまま、アンジェリークはこくんと頷く。
「これはどうだ?」
オスカーは今度は軽く歯をたててみた。こりこりとした乳首の感触が心地よかった。
「う…、少し、痛い…です」
「噛むのは、まだ刺激が強すぎるか…なら、嘗めるのと吸うのをいっぱいしてやろうな」
オスカーは言葉通り、両の乳首を交互に舌で弾いては吸い上げた。
口に含んでいないほうの乳首は指先で摘んではこねる様に撚りあわせたり、押しつぶす様にして愛撫が途切れないようにした。
「はぁっ…あん…あふ…」
アンジェリークの乳房を食む様に吸いながら、オスカーは改めてアンジェリークの股間に手を差し入れてみた。
はたして、そこは熱い愛液が滾々と溢れかえり、既に花弁全体がそれに塗れてこの上なく滑らかになっていた。
オスカーはふっくらと豊かな花弁全体を愛液のぬめりを利用して優しく撫でさすった。
「うふぅ…ん」
アンジェリークの柔らかな喘ぎに意を得て、オスカーは秘唇を押し開くと、ぷくりと膨らんでいる花芽に指を添えてみた。
「このかわいいお豆を触られるのはどうだ?好きか?」
「や…ん、い、言わないとだめ…ですか?」
「ああ、お嬢ちゃんが嫌がることはしたくないからな」
「あの、あの、気持ちいいから、好き…です…」
言うなり、アンジェリークは掌で顔を覆ってしまった。
「好きか。それなら一杯触ってやろうな」
オスカーは嬉しそうに答えると添えていた指先をそろそろと円を描く様にすりはじめた。
途端にアンジェリークの背が反り返り今までより高い声があがった。
「ああああっ!」
オスカーは浮き上がるアンジェリークの腰を自分の体で押さえつけながら、秘唇を大きく押し広げて花芽を露出させると、力は込めずに愛液がたっぷりとからみついた指先で小刻みにすりあげたり、軽く挟みこんでみたりした。
アンジェリークの背が撓ったままなので豊かな乳房が突き出され、その眺めに誘われてオスカーは再度その先端を口に含んで吸い上げた。
そのまま花芽には指で、乳首には舌と唇で刺激を与えつづける。
「やっ…やぁ…も、もう、溶けちゃう…」
アンジェリークはもう顔を隠す余裕もなくなり、枕の端を掴んだり、シーツに指を当て所もなく這わせたりと取り止めのない仕草を繰返している。
「こんなにとろとろになって…お嬢ちゃんはほんとにかわいいな…溶けちまっていいんだ。溶けたところは俺がきれいにしてやるから…」
オスカーは乳首から唇を離し、アンジェリークの膝をぐいと開かせて股間に顔を埋めて秘唇全体を下から上へと嘗め上げた。
「ひぅんっ!」
アンジェリークの体に瞬間震えが走る。
オスカーは少しだけ顔をあげた。
「触られるのが好きなんだから、嘗められるのが嫌ってことはないよな?お嬢ちゃん。」
形のいい鼻先で花芽を刺激しながら問いかける。揃えた指先でふっくらとした秘唇も撫でさする。
「あ…ん、やじゃ…ないです」
「嫌じゃないだけか?もう少しだけ、正直になれるか?嘗められるのは好きだろう?好きだといえるか?」
花芽から走る痺れるほどの悦楽に真っ当な思考など覚束ない上に、畳み掛けられる様に問い詰められ、もう、アンジェリークに取り繕う余裕など全く無くなっていた。
「あ…好き…好きです…」
「いいこだ。じゃあ、ここを掻き回されるのはどうだ?」
オスカーが長い中指を秘裂にゆっくりと飲み込ませた。
「ん…くぅ…ん」
アンジェリークが苦しげに眉をひそめ、それでいて鼻にかかった甘えた声をあげる。
熱く煮えたぎる坩堝のような秘裂がオスカーの指を締め上げる。
指先に幾重にも重なる豊かな襞が感じられ、オスカーは早く自分のものでここを貫きたいという衝動を渾身の力で押さえつける。
根元まで指を収めきると指を曲げて奥を刺激しながら、からみつく襞をかきわけるようにしてゆっくりと坩堝を掻き回した。
「ああっ…そ、そんな、奥をついたら…あっ…ああっ…」
「ついたらどうなるんだ?」
「やぁん…恥ずかしい…」
「なら、言えるようにしてやろう」
オスカーは片手で露出させた花芽を舌先で弄いつつ、指を大きくまわしながら抜き差しを繰返した。
「ああああっ!だめぇっ!そんな、そんな掻き回しちゃ…」
「なんでだめなんだ?言ってご覧?」
「だって…だって…」
「さぁ、言っただろう?俺はお嬢ちゃんの望むことをしてやりたいんだ。どんなことでも、恥ずかしがることはないから言ってご覧?お嬢ちゃん…」
「ほんとに?…あの、あの…ほしくなっちゃうの…オスカー様がほしくなっちゃうの…こんな恥ずかしいこと言っても私のこと嫌いにならないで!オスカーさまぁ!」
安心させる様にオスカーはアンジェリークに口付けた。
「そんな心配はいらない。いいか?俺も今お嬢ちゃんが欲しくてたまらないんだ。俺がお嬢ちゃんをほしいって言ったらお嬢ちゃんは俺を嫌いになるか?」
「そんなことない…嬉しいくらいです…あっ!…」
オスカーは優しい目でアンジェリークを見降ろし、アンジェリークの熱が冷めないように、秘裂をやんわりと掻き回しつづけながらこう言った。
「そうだろう?俺がお嬢ちゃんをほしいと言ったら、お嬢ちゃんが嬉しく思う様に、俺も嬉しいんだ。お嬢ちゃんが俺を欲しいと言ってくれたら…。相手を愛しいと思い、欲しいと思う気持ちは男も女も一緒だろう?俺が言うのはよくて、お嬢ちゃんが言うのはだめなんてことあるわけない。黙っているより、欲しいと正直に言ったほうがお互い幸せになれるんだ。だから、何も恐れることはない。乱れていい、貪欲になるくらいでいいんだ。俺がお嬢ちゃんをいやらしい子だなんて言っても、それはお嬢ちゃんを貶めているんじゃないんだ。お嬢ちゃんがすごく感じてくれて嬉しかったから、俺はあんな風にいっちまったが、でも、お嬢ちゃんが嫌ならもう言わない、約束する。」
アンジェリークが慌てた様にオスカーの背に腕を回して抱きついてきた。
「オスカーさまぁ!いいんです!オスカー様が私のこと嫌いにならないでくださるなら、いいんです!だって、オスカー様が好きで好きで、私、どうしていいかわからないくらい好きなんだもの!オスカー様になら、何をされてもいいの!」
「ああ、なんてかわいいことを、嬉しいことをいってくれるんだ、お嬢ちゃんは…俺も好きだ、たまらなく好きなんだ、お嬢ちゃんが…」
「オスカー様、お願い、もう、もう…」
「わかってる、俺達の気持ちは、望む物はひとつだからな…」
優しく囁くと、オスカーはアンジェリークの膝をその体躯で割り、アンジェリークを抱きしめながら怒張しきっていた自分のものをアンジェリークの中心にゆっくりと飲みこませて行った。
挿入した瞬間、自分の腕の中でアンジェリークが和えかに震えるのが感じられ、オスカーはどうしようもないほどの強さで沸き上がる愛しさに力の加減も忘れて更にきつくアンジェリークを抱きしめてしまった。
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