Voluntary
イラスト 青空給仕様

「っ…」

堪えに堪えた欲望を解き放つのは、限界まで引き絞りに絞った弓弦から矢を射ることと、どこか似ている。

溜めれば溜めるほど、得られる成果…いや、喜びが大きいことも含めて。

そんなことを思いながら、たった今思い切り精を注ぎ込んだ愛しい女の肩口に、ラスは崩れ落ちるように顔を埋めた。

途端に夏の草いきれのような、微かに甘く青い香りがラスの鼻腔一杯に広がる。

ラスが愛して止まない彼女自身の香りは、二人の故郷の草原に萌え出する夏草の香を思わせる。彼女の情感が高まる時、その香りはより鮮やかに匂い立つことにラスが気付いたのは、幾度目の情事の果てだったろうか。

「っ…はっ…はぁ…」

ラスの固い胸板に、柔らかな乳房が押しつぶされている。いまだ荒い息遣いに乳房が大きく上下しているのが触れていてわかる。

「ラス…キスして…」

荒い息をおしてささやかれた願いは、折りしもラス自身が行おうとしていた行為だった。

「ああ…」

ラスは、自らの腕の中にすっぽりと納まっている女の顔を愛しげに見下ろした。深みのある暗緑色の瞳は、情事の余韻に濡れたように潤んでいたが、それでも、まっすぐにラスを見据えていた。

情欲の名残にけぶりながらも力強い光を失わないこの瞳の清冽な美しさはどうだ…ラスは、瞬間、惚れ惚れと見惚れた。

彼女の求めに応じる、いや、ラスの主観からすれば自分自身が欲したことでもあったが、口付ける前に、ラスは汗で幾筋か額に張り付いていた前髪をそっと外すように梳いてやった。

「リン…」

どう伝えていいかわからぬ愛しさをこめてその名を呼んでから、ラスは包み込むように愛する女…リンの唇に口付けた。

先刻の情事が、まるで剣戟のように鋭く激しく寸分も息つく暇がなかったのと対象的な、優しさに満ちた触れ方だった。

 

好きな男の唇はなぜ、こんなに柔らかく優しく感じるのだろう。口付けられると、どうして、ぽっ…と火が灯ったように体中が暖かくなるのだろう。

ラスの唇が初めて触れた時から、そうだった。それを知ってから、リンはラスに事在る毎に口づけを強請るようになった気がする。

ラスとキスするの、好き…そんな気持ちを伝えたくて、自ら舌を差し出し、ラスのそれに絡め合わせた。ラスが響くように応える。自分からも能動的に舌を絡めながら、リンの唇をきつく吸う。

接吻の悦びを堪能し尽くさんと、互いに執拗なまでに舌を絡めあった末、ラスは一度口付けを解いた。

このまま口付けていたら、また、情欲に火がつく、燃え盛る。それがわかっていたから、リンもまた再びのそれを求めているのかどうか、ラスは確めたかった。

リンの望みを聞こうと顔を覗きこむと、リンの方から話しかけてきた。

「ラス…あのね…」

「なんだ?」

とても優しげに細められた端麗な瞳。穏やかな笑みを湛えた形の良い唇。ラスを見つめ、見つめられていると胸が苦しくなって、リンは上手く言葉が出なくなってしまった。

「ん…なんでもない…」

何か言いたげだったのに、頬を染めて言葉を飲み込んだリンを、ラスはいぶかしげに見つめる。

「リン…?」

リンは自ら腕を回してラスの身を抱き寄せた。

「ラス…もっと抱いて…きつくきつく抱いて…」

「ああ…おまえがそう望むのなら…」

ラスがリンの身体を折れんばかりに力を込めて抱きしめた。

「ああ…ラス…」

『ラスは優しい、いつも、すごく優しい…何でも私の望みを聞いてくれて…』

ラスの傍らにいると、いつも感じることだ。

出会いからしてそうだった。

爵位の跡目を狙う叔父の手の者に不意をつかれて襲われた時、私の素性もわからないのに命を救ってくれた。そのまま私を守ってキアランまで一緒に来てくれた。アラフェンで再会した時も…詳しい事情も知らないのに、私が「力を貸して」と言っただけなのに、二つ返事で承知して一緒に闘ってくれた…

ずっと私の傍で…いつも私を助けてくれる…

心からありがたいと思う。

『他部族とはいえ、同じ草原の民を見捨てておけん』

ラスは、この気持ちだけで命がけの戦いに身を投じてくれたのだから。

ラスは『サカの戦士なら当然のことだ』というかもしれないけど…その気持ちの尊さ、ありがたさは、何よりも身にしみてわかる。今の私は…そういう多くの善意に支えられてここにあることを知っているから。

なのに改めてラスに『好き』って言おうとすると、何故か言えなくなってしまう…こうして抱きしめあっているのに…『抱きしめて』とは言えるのに、なんだか恥ずかしくて照れくさくて…ラスのあのやさしい瞳を見ていると、どきどきして言葉が出なくなって『好き』って言えなくなってしまう…『私のこと、好き?』って聞きたいのに聞く勇気も出なくて…

言葉で想いを確かめるより先に、自然に…本当に自然に、触れあい、結ばれていたからだろうか。

私はあなたの傍にいたいと言った。あなたの風を感じていたいと言った。あなたはそれを許してくれた。

ふと、指先が触れあった時、私が手を放せずにいたら、そのままその手を握ってくれた。

黙ってより添えば、肩を抱いてくれた。

あなたの肩にもたれていると、そこが戦場の片隅の野営地でも、急ごしらえの天幕の内でも、戦いで張り詰め、ささくれだった神経が緩やかに解れて、楽になれた。

自然と瞳を閉じたら…あなたが口付けをくれた。

気がついたら、きつくきつく抱きしめあっていた。

あなたが欲しいと…痛切に思った。あなたの風を全身で感じたかった。あなたの風を全身で受け止めたかった。

男と女の関係になったのは私が自分から望んだこと。

あなたを求めたのは私、私があなたに抱いてほしかったのだから。

でも、流れるように自然に、欲するままに結ばれた後は、却って、改めて「好き」って言うタイミングが難しくて…私、変に意識しすぎかしら…ラスがあんまり優しいから…ラスをこんなにも好きだから…胸が一杯になってしまって…上手く言葉がでなくなる…

リンは、ラスを離すまいとするかのごとく、ラスの背中に回した腕に力をこめた。

ラスは呼応するようにリンを固く抱きしめ返した。一分の隙間も許さぬかのように抱き返してくれたのが嬉しくて、そのラスの温もりを、リンは、寸分漏らさぬほどに感じとりたいと願った。おかげで、それ以外のもの思いは念頭から消えてくれた。

 

戦いが日に日に激しく、険しくなっていく。

戦場での実戦の積み重ねは、1人草原で剣の練習をしていた頃とは比べ物にならないほど、リンの能力を飛躍的に伸ばした。戦いに長けていくことは、人を殺す技に長けていくことと同義だったが、リンがそれを恐れたり卑下せずにいられたのは、自分が強くなることが、自分の大事な人を守ることに直結すると知っているからだ。そして、力がないばかりに、自分の大切な人を失うことはもう絶対に嫌だと思っているから、強くなることに迷いはなかった。

だから…自然と考えたのだ。私もサカの女、普段は剣使いだけど、そろそろ弓だって撃てるようになりたい、なれたら役に立つかも…と。

自然とラスの姿を探した。

『ラスに声をかける口実みたいだけど…でも、ラスは上手いから…変じゃないわよね?』

弓を教わるだけなら、弓使いなら誰でもいいのだろうけど…という考えには目をそむけた。以前、ウィルがラスから弓の手ほどきを受けていた姿をみて、羨望と微かな嫉妬心を抱いたことは誰にも…ラスには当然…言ったことはなかったが、その時の思いが引き金になったことは確かだった。

「あ…」

ラスの姿を見つけ、弾かれるように近寄ろうとしたところで、慌てて踏みとどまった。

ラスが、同じクトラ族の少年ギィと何か話していた。

『今、忙しいみたい。また、今度にしよう…』そう思って、踵を返そうとしたリンがその場に足を止めてしまったのは、自分の名前が風に乗って聞こえてきたからだった。

ラスとギィ…何か私のことを話してる?

立ち聞きするつもりではなかった。でも、聞いてみたい…私のいないところで、ラスは、私のこと、どう思ってるのか…聞いてみたい…その誘惑に勝てなかった。

ギィは、リンが明らかにサカの女の風体なのに、リキアの公女でもあることに疑問を感じているようだった。貴族にいい感情を抱いていないことが口調からわかる。

自分もそうだったからギィの気持ちはわかった。傭兵として頼っておきながら、サカを蛮族と蔑む貴族は多い。私だって、ヘクトルやエリウッド、お祖父様に出会ってなかったら、貴族に反感を抱いたままだったかも…。でも、それならラスはどうなんだろう、そう思った時だ。

全ての経緯を知っているはずのラスは、リンの事情をギィに何も言わなかった。ただ一言、

「リンは同族だ。素性を知って、それが変わるわけではない」

とだけ言った。

「…そうか、そうだよな。命を張って同族を守るのが、サカの戦士だもんな」

リンはこの言葉に自分でも思いもよらぬ激しい衝撃を受けた。続く会話をもう聞く気になれず、そっとその場を立ち去った。

ラスの言葉が嬉しかった、なのに、哀しくもあった。

そう、今、改めて気付いた。

ラスは…ラスだけは変わらなかった。

私がリキア貴族の血を引いているとわかっても、私をリキアの公女ではなく、ロルカのリンとして扱ってくれた。私のことを『リン様』とか『リンディス様』って呼ばないのは、ヘクトルとエリウッドを除けばラスだけ…

…親友だと思ってた、いえ、今も思ってるフロリーナでさえ、私をもうリンとは呼んでくれない。それはけじめだと言われたら、無理やわがままはいえなかったけど…さびしかったのも事実。

だって、私にとって公女の立場というのは…否定はできないけど、借り衣のように中々この身になじまないもので…

私はロルカのリンとして15年以上生きてきて、キアランのリンディスになったのは、この1年あまり。しかも、私は貴族になりたかったわけじゃない…たった1人の肉親である祖父がたまたま侯爵だった…お祖父様に会いたいだけだったのに、そうしたら貴族になってしまって…私にとって爵位とは単にそれだけの意味しかない。

でも、周囲はもう私を公女とみなす、ううん、公女としてしか見ない。私が、人の気配を追って黒い牙のアジトがわかるかもって言った時も、本当にアジトを見つけ出すまで、ヘクトルもエリウッドも半信半疑だったもの…

そう、エリウッドもヘクトルも、私の大事な仲間、大切な友人だけど、彼らはあくまで私をキアランの公女として扱う。当たり前のことで、それが不快って訳でもない。

でも、やっぱり、何かしっくりこない。仮初の自分という気持ちも拭えない。だって、さもなくばどうして、時折、無性に草原に帰りたくなるの?風が、草の匂いが恋しくなるの?私が生粋のリキア貴族だったら、リキア貴族になりきれたのなら、こんな思いは感じないはず…だから、やっぱり私はサカの女。それを誇りに思ってもいる。だけど、周囲はそうは見てくれない。それが、どこか落ち着かなくて、居心地悪かった。誰も彼もが私が爵位を継いで、女侯爵になることを当然と思っていることにも、何か違うって思ってたけど…でも、言い出せなかった。

だけど、ラスは…出会った時から、それこそ私の素性が知れた時も、再会してからも、いつでも全く態度が変わらなかった。どこまでも私のことを同じ草原の民の女として遇してくれた。

だから、私はとても楽に息がつけて…

ラスの前では、ありのままでいられるの。何も構えなくていいの。無理することも、自分を守るために強がることも必要なく、自然体でいられる。同じように1人で生きてこなければならなかったことを知ってからは尚更…絶対の孤独の寒々しさも、焦がれるような望郷の思いも、ラスにはわかってもらえるし、私もラスの気持ちを自分のものとして感じられた。

ラスの傍にいると、落ち着けて、心地よくて…だから、私は、ラスの傍にいたかった。ラスのまとう風はいつも優しくて、私、その風に包まれていたかった。

だから、もっと近くなりたいと望んだ…体中全てでラスの風を感じたくて、ラスの風に包まれたくて…ラスはその気持ちを察して、私に触れてくれた…のだと思う。一度触れられたら、歯止めが効かなくなったのは私の方。それぐらいラスの手も唇も暖かくて心地よくて、触れてもらうと幸せになって…そう、私が望んだことよ。ラスに抱いてほしかった。ラスと分かちがたく一つに結ばれてるって感じたかった…

でも、ギィの言う通りなら…ラスが私に優しいのは…ラスが私の想いに応えてくれたのは、それは私が…寄る辺ない哀れな同族の女だったから…?命を張って同族を守るのはサカの戦士の務めだから…だったの…?

ラスが私の素性がどうあれ同族だと言い切ってくれて嬉しい。でも、ラスの優しさが同族への戦士の努めなのだとしたら哀しい…。

だから、私は躊躇ってしまったのかしら…はっきりと『好き』と打ち明けることに。『好き?』と尋ねることに。ラスがあまりに優しいから…それは同族に向けられる惜しみない助力でしかないのかもって心のどこかで不安に感じていたのかしら…

一族を失った草原の女は、他部族に身を寄せるのが普通だ…1人で草原で生きていくことはとても難しい…1人でできる狩はたかが知れてるし、武器や衣服を得るには貨幣も必要だから、遅かれ早かれ他部族に身を寄せざるを得ないだろう。子供を産める女は、どこの部族も喜んで受け入れてくれるし…

そして、ラスはクトラの族長の息子。

いつかは草原に帰って、一族を束ねていくだろう。

その時、同族を失い1人残った他部族の女が保護を求めてきたら、族長は受け入れるだろう。

ラスも…ラスもそうだったのかしら…

私が、哀れで…私がラスを求めていることを察して…義務感や同情心で受け入れてくれたのかしら…同族を守るのはサカの戦士の役目だから…それだけだったのかしら…

私…わがままだわ…

ラスが、私の想いを汲んでくれた、受け入れて応えてくれた…

それがたとえ、慰撫や思いやりの気持ちだけであっても…それはラスの優しさであることも確かで、それだけでも、幸せだとも思うのに…

でも…それだけじゃ嫌だって思うなんて…

同族への義務感や責任感で私の求めに応じてくれてるだけじゃ、さびしいって思うなんて…

そこまで考えた時、リンの心にふと差し込んできた考えがあった。

でも、それなら…戦士の務めとして私の傍にいてくれるだけなら、ラスは…いつか、私から離れていってしまう?

前のように…?

私をお祖父様の許へ送り届けた途端、姿を消してしまったラス。

もしかしたら…今度も…この戦いが終わったら、もう役割を果たしたと思っていなくなってしまう?

自分の役目は終わったと…

また私から遠くに離れていってしまうんじゃないの…?

…いや…そんなのはいや!

私、私はずっとラスの傍にいたい、ラスに傍にいて欲しい。

その時、リンは、とても単純な、だけどとても大事なことに気付いた。

だけど、私は、自分からその気持ちをはっきりとラスに伝えてみたことがあった?まっすぐに正直に自分の気持ちを伝えてみたことがあった?

ないじゃないの!

なんだか、恥ずかしい、照れくさい、はっきり答えを聞くのが怖いって、うやむやにしていたのは自分自身じゃないの!

でも…不安を言い訳に、何も意思表示しないでいたら、本当に大事なものを失ってしまうかもしれない。

もう、大事なものを失うのは嫌、そう思って強くなりたかったのに…まだ、私の心は弱いままだったみたい…。

リンは心を決めた。決めてしまえば迷いはなかった。きっとラスの放つ矢もこんな気持ちなのかもしれないと、そんなことを思いながら、リンは今来た方向に踵を返した。

 

ラスは、まだ、先刻と同じ場所にいた。

もうギィはその場におらず、ラスは1人、愛馬を立ち木につなぎ、ブラシをかけてやっていた。愛馬に向けるまなざしは、譬えようもなく暖かく優しい。

リンはラスのその瞳の色に見覚えがあった。だけど、今は、ラスに自分の気持ちをきちんと伝えなくちゃということで頭が一杯でそれ以上のことは考えられなかった。ラスが1人でいる今は、願ってもない好機に思えた。

「ラス!」

「リン…どうした?」

リンを認めると同時に微笑んだラスのすぐ傍らにリンは駆け寄った。ラスの瞳をまっすぐに見つめる。

「ラス、今、話してもいい?私、あなたに聞いてもらいたいことがあるの」

「なんだ?」

「ラス、私、あなたのことが好き」

「!」

「私、あなたが好き、いつも私を助けてくれるあなたの優しさが好き。たった1人で運命を担おうとしてきたあなたの強さが好き。私は、あなたと孤独を分け合いたい…あなたに寄り添う風になりたい…だから、いつも、いつまでも、傍にいたい、いさせて欲しいの……あなたが私に優しいのは、サカの戦士としての義務故だとしても…同胞への助力というだけかもしれなくても、でも、私はあなたが好き、大好きなの…だから、これからも…あっ…」

言葉の途中で、突然、ぐいと力任せに腕を引き寄せられた。ために、リンは、もんどりうつようにラスの胸の中に倒れこんだ。次の瞬間、頤をつかまれ、噛み付くように口付けられた。性急に差し入れられた舌は、縦横に口腔内を暴れ回り、リンは息が止まるかと思った。

「んむっ…んふぅっ…」

一際強く唇を吸われ、意識が朦朧とした。身体から力が抜け、へたり込みそうになった腰を力強い腕で支えたところで、ラスが漸く口付けを解いた。リンが何がなんだかわからなく呆然としていると、ラスが荒い吐息まじりに耳元で囁いた。

「俺は…単なる同族への助力や…義務でこんなことはしない…」

「!…」

「何故、そんなことを思った…?」

自分をまっすぐに見つめるラスの瞳に苛立ち?怒り?そんな感情が渦巻いているのが、リンは、ありありとわかった。

「あ…私…ごめんなさい!」

リンの表情が叱責された幼女のようになった。

「さっき、ラスとギィとの話を聞いてしまったの…サカの戦士は、命を張って仲間を守るのが当たり前だって言っていたから、ラスが私に優しいのは、同族への助力とか義務からなのかもって…私が求めるから、ラスは哀れみとか慰めの気持ちで、私に触れてくれてるのかもって思ってしまったの…でも、ラスにとっては義務でしかなくても、私はラスが好きだから…それだけははっきり伝えなくちゃって…そして…できれば、私のこと、女として好きになってって…そう思って…」

ラスの瞳から苛立ちの色が失せ、替りに、困惑の色が置き換わった。ラスは一瞬の間の後、考え考え、言葉を紡いだ。

「仲間への助力とは…共に闘うこと。親密に…触れあうことは違う。おまえは、仲間だと思っていれば…公子たちとも同じことをするか?」

「!!…あ…しない…しないわ……仲間として好きだし、助け合うのは理屈じゃないけど……じゃ…じゃ…ラス…ラスも私のこと、好き…なの…?好きだから、私に触れてくれてた…の…?」

ラスが、長い吐息をついた。

「リン……言葉にしたことはなかったかもしれん…が…わかっていると思っていた…」

リンは零れそうに瞳を見開き、唇を震わせた。

「ラス…言ってくれないと、わからない…私、わからなくて…だから、もしかしたらって、不安になって…私、あんな風に考えてしまったのかも…」

「そうか……確かに、俺は言葉というものに重きを置かない…言葉とは用件の伝達にのみ使うものでしかなかったから…何より俺は傭兵だから…傭兵は行動と結果が全てだ…いくら自分を勇猛だ、一騎当千だと言っても、言葉だけの傭兵など誰にも信用されない。男が戦場で信用されるのは、その実績だけだから…俺は確かに言葉を軽んじていたのだろう…おまえに対しても…すまない…」

「あ…!」

そうだ…ラスの今までの経歴を考えれば…行動と結果が全ての世界でずっと1人で生きてきた男が、言葉に価値を見出さないのは当然だ。口先だけの傭兵など信用されるわけがないのだから…だから、ラスは行動や態度で全てを示し表そうとする、当たり前のことではないか…

「…そうね、そうよね…私、馬鹿だわ…ラスの私に向けてくれる優しい瞳を見れば…私に触れる唇の熱さを思えば…不安になる必要なんて全然なかったのね…」

「いや…俺も、今わかった。感情を…気持ちを言葉にすることも大切なのだと。その境遇を俺は感謝すべきなのだと。俺は今まで自分の感情を言葉にしたことがない…その必要がなかった。自分の気持ちを伝えたい、わかって欲しいと思う相手と出会ったことがなかったからだ…」

「ラス…」

「今感じた、今知った。気持ちが伝わらないと、もどかしく、苛立つのは、伝えたい気持ちがあるからだ。気持ちを伝えたい相手がいるからこそだと。そして、そういう相手と巡り会えたことが、どれほど幸福なことかも…」

「ラス…ラス…」

「だから…おまえを不安にさせてはいけなかった…気持ちを伝えたい相手がいて、大切に思うのなら、その努力を怠ってはいけなかった…すまない、リン…おまえが安心できるのなら、俺は想いをそのまま言葉にするよう努めよう。俺も、おまえが好きだ、リン…おまえは、俺のただ一人の女だ…」

「ラス…嬉しい、ありがとう、でも…ごめんなさい。表面しか見ない私が馬鹿だった…今ならわかるわ、幾千の言葉より、あなたの私に向ける眼差しが、一つの口付け、一度の抱擁が、どれほど雄弁だったか…暖かな想いに溢れていたか…これからだって、私、あなたに100回好きって言われるのと、1回抱きしめられるのと、どちらか選べって言われたら、きっと、私、あなたに抱きしめてもらうことを選ぶ…」

「リン…」

「あなたの言うとおりだわ、ラス…あなたは、行為と態度で…私にこれ以上はないほど、深く熱い想いを伝えてくれていたのにね、ずっと。…ラス…ありがとう、好き…大好きよ。でも、私は言葉でも伝えられてよかった…言葉だけじゃ物足りないけど…あなたを好きな気持ちを私は少しでも多く伝えたいから…」

「俺も同じだ、リン。…俺の想いは、全ておまえのものだ…俺も、おまえにそれを伝えたい、知ってほしい…」

リンはラスの上衣をきゅっと掴み、何かを強請るような甘えた瞳でラスを見上げた。

「教えて?ラス…私に…。私も伝えるから…あなたをどれほど好きか…」

ラスが、ふ…と微笑んだ

「ああ…おまえが二度と不安につかまることのないよう、俺は、俺の想いを示そう…」

次の瞬間、リンの背中は固い立ち木に強く押し付けられた。囲い込むように抱きすくめられる。唇をふさがれ、荒々しく舌が割り入ってきた。

「んんっ…」

リンが身動きできないよう、身体全体で押さえ込むように口付けながら、ラスはまず自分の手甲を外した。

 

ここが何処かなど、問題ではなかった。

誰かに見咎められるかもしれないことも、どうでもよかった。

そして、俺はリンにもそう思わせねば…いや、そんなことを考える余裕もないほどの切望した想いに、その身を圧倒せねばならない。

そんなことを考えながら、ラスは、リンの耳朶から首筋へと唇を押し当てながら彼女の襟の袷を緩めた。掌一つ分の隙間が開くや否や、手を強引にねじこんで乳房を絞り上げるように揉みしだき、こね回す。

乳房の先端が頭をもたげ始めたのが掌にわかる。自己を主張し始めた乳首を指先で捕らえ親指の腹で押し上げるように擦ると、あっという間に小気味いいほどに固くそそり立った。固く立ち上がった乳首の弾力を愉しむように指先でつまんで、軽く捻る。敏感な先端を指先で円を描いて転がす。

乳房を愛撫しながら、片手でリンの襟元を完全に開け広げると、黒のアンダーを強引にたくし上げ乳房を全て露にした。

ふるりと震えて零れた乳房に、間髪をいれず、むしゃぶりつくように顔を埋める。リンに恥らう暇、尻込みする暇など与えない、与える気もない。だから、ぴんと張り詰めた乳首を即座に唇で挟み捕らえる。

「あ…」

心地よい硬めの弾力が唇を通して伝わってきた。その感触を堪能する間もなく、ラスはリンの乳首を乳輪ごと口に含み、舌で舐め転がす。

「あんっ…」

立ち木に全身を押し付けられているリンには逃げ場がない。身をかわすこともできない。ラスの断固とした愛撫に翻弄されるばかりだ。

ラスは乳首全体に舌をねっとりと回すように絡ませる。先端にたどり着いた舌先を小刻みにすばやく揺らす。舌で乳首を押しつぶすように押さえ込み、反発する弾力を愉しんだかと思うと、根元から先端へと優しく丁寧に舐めあげる。優しく舐めた後は、軽く歯をたて、乳首を極軽くこそげるように歯先を滑らせる。

穏やかな愛撫と、加減を間違うと痛みを与えかねないきつめの愛撫、それらを交互に無秩序に両の乳首にラスは繰り返す。リンには次の愛撫の予測がつかない、身構えたり心の準備ができないから、驚くほど激烈に反応してしまう。恥ずかしいほどに声が出る。

「あんっ…あっ…あぁっ…やっ…」

頬を上気させて首をふり、背をしならせて、リンは図らずも乳房を誇示してしまう。底意のない所作が、飾らぬ媚態となってラスを更に煽る。

ラスは、乳首を軽く歯で挟んで、尖らせた先端の上で激しく舌を躍らせた。

「ああんっ…」

リンが、大きくのけぞって白い喉元を露にする。誘われているような気がして、ラスが喉笛に食いつくように口付けると、リンの膝頭が切なげに擦りあわされた。その機を逃さず、ラスは手刀を差し込むようにリンの腿の間に手を割りいれて足を開かせる。即座にそこに自分の膝頭を押し入れ、リンが足を閉じられないようにする。

その上で、ラスは差し入れた手を太腿から股間に滑らせ、布越しにリンのふっくらとした花弁を指先をそろえてすっとなぞった。

「あっ…」

リンが僅かに戸惑ったような声をあげた。ラスの指に触れられたことで、その部分が今にも溢れんばかりにひたひたと愛液を湛えているのが自分でもわかったからだ。

ラスの指は自信ありげにショーツの細いストリングの中に割り入ってき、流れるように自然な動作で小さな布を取り去ってしまう。すぐさま、いとおしむようにふくふくと豊かな花弁の合わせ目を撫でさする。だが、ラスの指は、今は、花弁の表面を優しく撫でているだけだ。

「ああ……」

リンは、羞恥に瞳を閉じて唇を噛む。花弁の合わせ目を少しでも指先で割られたら、止め処もなく、愛液が溢れ零れることがわかっていたから。今は、花弁の合わせ目が堰き止めているが、自分の内部から滾滾と熱いものが湧き出し、今にも溢れんばかりなことは自分が一番良く知っていたから。

だが、ラスは、この時は、指をそれ以上奥には進めなかった。

替りにもう片方の手で、リンの手を取って布越しに己の怒張に導き、あてがった。

「あっ…」

リンは思わず目を見開いた。布越しでも、ラスのものの熱さ硬さ、天を突かんばかりに力強く屹立している様が掌にはっきりと感じられた。リンの手は吸い付くように、そこから動かせなくなった。

リンは熱に浮かされたようにラスを見つめた。

「…ラス…すごい…」

口にすることで、リンは自分の欲情を自覚する。頬が熱を帯びるのが、自分でわかる。

「これが俺の想いだ…」

ラスはあくまでも涼しげな相好を崩さない。

「リン、おまえの想いを示せ…」

言うや、ラスはつぷりと指先で花弁を割った。

「あ…」

途端に、愛液が、堰を切られることを待ちかねていたように、とろりと溢れてラスの指に熱く絡みつく。

ラスは、溢れかえる愛液の感触を愉しむように花弁の合わせ目で指を上下させた。くちくちと、粘り気のある水音を故意に響かせる。まだ、ほんの入り口を弄っているだけなのに、リンの花弁は豊かな弾力でラスの指を逃がすまいと包み込んでくる。

指を滑らせ、肉芽を愛撫するか、このまま指を奥深く差し入れてやるか…迷ったのは一瞬だった。ラスは2本の指をそろえて、いきなり、リンの秘裂を奥深くまで突き刺すように穿った。

「はぁっ…」

リンの身体が電撃に撃たれたように跳ねる。

ラスは、2本の指を奥深くまで挿入したまま、親指の腹でぷくりと膨らんだ肉芽を莢の上から転がしはじめた。同時に、乳首を再び咥え込み、舌で弾きながらちゅくちゅくと吸う。

「やっ…ああっ…」

リンの身体が小刻みに震える。

ラスは、滾る坩堝のようなリンの秘裂の中で、2本の指を交互に折り曲げて肉壁を擦りあげる。かと思うと、そろえた指で秘裂の最奥を突き上げたりもする。

「あっ…ああっ…ラス!」

「リン…おまえのここ、俺の指を締め付けて離そうとしない…」

「あぁっ…ん…」

ラスの言葉に、自分の胎内で蠢くラスの指の動きをより意識してしまう。

「ラス…ラス…」

リンは、自分の乳房に添えられていたラスのもう片方の手をとり、自らの頬にあてがった。

「ラスの…ラスのこの手が…この指が私の中に…」

大きな掌、鍛え上げられ節くれだった長い指、この長くて男らしい指が誰も知らない私の最も奥深い処を擦ってる、突き上げている…そう思うと、どうしようもない愛しさと物狂おしさがこみ上げてきて、リンは思わずラスの指を口に含んだ。

「っ…」

ラスの眉が切なげに顰められた。同時にリンの胎内で蠢いていたラスの指の動きが一瞬止まった。その機に乗じるように、リンは、咥えたラスの指をちゅぷちゅくと舐めまわし軽く吸ってみた。同時に、布越しではあったが、ラスの張り詰めた怒張に添えられっぱなしだった自分の手を、その輪郭を確かめるように柔らかく上下させる。

ラスを何もかもを感じたかった。ただ、それだけの想いに突き動かされていた。

僅かな間をおいて、ラスが差し入れたままだった指で肉壁を擦り始めた。すりあげながら、勢いよく奥をねらって抜き差しを繰り返す。

「んんっ…」

私の口の中のラスの指…この同じ指が私の一番奥深い処で暴れて、蠢いている…時に荒々しく、時に優しく、擦って突き上げて、私を狂おしく乱す…その様を想像すると、リンは酷く昂ぶった。謝意を込めるように、ラスの指を懸命に吸う。

同時にラスの怒張をやわやわと撫でさする。愛撫するというより、確かめるために。これがラスの想い、私に示す想いの丈。この熱さ…力強さ…逞しさ…怖いほどの硬さ…その全てが…

リンは、一度ラスの指を口から外した。

「ラス…もう…私…」

瞳を潤ませ、頬を紅潮させているリンの言わんとするところはわかった。

だが、ラスは今はリンの願いに頷く気はなかった。

「まだだ…まだ充分ではない…」

安心させるようにリンに口付けてから、ラスは無理矢理引き離すようにリンの秘裂から自分の指を抜き去った。指にまとわりつくリンの愛液を無造作に舐め取ると、間をおかずリンの前に躊躇いもなく跪いた。

ラスの意図がわからず戸惑うリンをよそに、ラスはリンの服の裾をなぎ払い、腰をしっかりと両手で支えた。手指でリンの叢あたりの肌を軽く引っ張りあげて肉芽の莢から紅色の珠をむき出しにすると、尖らせた舌先で丁寧にその珠を舐めあげ始めた。

「やぁああっ…」

突然全身を貫いた鋭い刺激にリンの身体がびくんと跳ねた。

ラスはリンの身体が退けぬようしっかりと腰を抱え、むき出しにした肉の突起を唇で挟んでは激しく舌で弾いた。こりりと硬く張り詰めきった珠の感触が愛しく、執拗なまでに舌を回し、つついて、その硬さを愛でる。濃厚なリン自身の香りに咽かえりそうになりながら、太腿まで滴る豊かな愛液を舐め取るように、花弁の合わせ目を奥の方から手前へと、何度も舐めあげもする。

「あっ…やぁっ…だめぇ…」

リンが、戸惑いと恥じらいに真っ赤になって、ラスの頭を抱え込む。自分の股間から引き剥がしたいのか、もっと押し付けたいのか、自分でもよくわからない。

すると、肉の珠を舌で丸く転がしながらラスが言った。

「リン…俺を跪かせることができるのはおまえだけだ…」

誰より誇り高いラスが、私の前でだけ膝を折る、その意味にリンが圧倒され、眩暈すら感じたその時だ。

ラスは突起全部を口腔内に納めて、羽で触れるように軽く歯をたてた上で、ちゅぅっ…と音を立てて吸った。

「ああぁっ…」

真っ白な閃光が脳裡に炸裂したかのようだった。支えられていても、リンの腰はびくびくと無秩序に踊り、膝頭はがくがくと震えた。

そのまま、ラスはすばやく絶え間なく、尖らせた舌先でむき出しの肉の珠を弾いた。

「やぁああっ…だめ…ラス…もう…もう…」

「っ…舐められるのは…嫌か?」

「ちが…」

リンはふるふると首を振った。

「ラス…私…も…お願い…」

リンはそれだけ言うと、崩れ落ちるように、がくりと膝をついてしまった。

快感が鋭すぎて立っていられなくなったか…と思い、ラスは一度立ち上がった。リンに手を差し伸べて立たせてから、挿入を果たそうと考えた。

するとリンは立ち上がったラスの前に膝立ちになり、ラスのものに手を添えた。そして、ラスのものを布から解き放そうとしたが、あまりに硬く張り詰めたそれを上手く扱えず、中々外に出せない。

「リン…?」

ラスは、リンに差し伸べた手の行き場に困ったように、先ほどとは逆に自分の前で膝立ちになっているリンの髪をなでた。

「ラス…私は…まだ、あなたに想いを示してない…私にも…私があなたをどれほど好きか、示させて…」

リンは、布の中から漸くラスのものを自由にできた。急峻な角度で硬く脈打つそれに、リンは敬虔な仕草で手を沿えると、先端に恭しく口付けた。

「う…」

ラスが切なげに瞳を細めた。

「ラス…私も…私が跪くのはあなたにだけ……」

「リン…」

まろび出させたラスのものは天を向いて屹立しているので、膝立ちしているリンには、上手く口に含むことができない。替りに、リンは、舌を差し出して根元の方から雁首の張り出しへ、更に滑らかな先端へと裏側から側面を丁寧に何度も舐めあげた。張り詰めきった怒張全体に唇を押し合て、撫でるように唇を滑らせもする。

「く…リン…」

リンのふっくらとした瑞々しい唇が己の性器を撫でさする感触に、ラスも熱い吐息を思わず零す。

「ラス…好きよ…どう伝えていいかわからないくらい好き…」

ラスのものに無数の口付けを落としながら、リンの考えていることは、自分がされて気持ちよかったことをラスにもしてあげたい、これだけだった。自分が口付けされると幸せだから、舐めてもらうと痺れるほどに感じてしまうから、だから、ラスに同じように感じて欲しくて、一生懸命唇を押し当て、舌を回した。これで、ラスを好きな気持ちがどこまで伝わるかはわからないけど、何もしなかったら、何も伝えられない、わかってもらえないから…ラスが私に示してくれたように、私もラスに「好き」の気持ちをできる限り伝えたいから…

ラスは、半ば信じられぬような思いで、リンを見つめる。

リンが…誇り高いリンが俺の前になんの衒いもなく跪き、俺の性器を丁寧に懸命にいとおしんでいる。激しくはない。ただ一心に、俺を好きだと伝えようとしている。淫らな所作から、リンの健気さが、純粋さがひしひしと伝わってきて、ラスはリンへの愛しさで自身が破裂しそうな気がした。

リンの顎をつまみあげ愛撫を中断させた。

「…だめだ…もう俺が…おまえに挿れたい…挿れたくてならない…」

ラスの熱っぽい言葉に、リンの瞳も熱を帯びて潤んだ。

「ラス…私も、ラスに挿れて欲しい…」

ラスはリンの手を取って立ち上がらせると、そのまま、目の前の立ち木にリンを前かがみにつかまらせた。濃い紅色に染まった花弁が、濡れ濡れと艶めいてラスを誘う。ラスはリンの腰をしっかりと掴んで、自らの先走りとリンの愛液を混ぜ合わすように、幾度か先端で花弁を擦った。

「あ…ラス…」

リンが焦れるように後ろを振りむこうとしたその瞬間、ラスはリンの腰が浮き上がらんばかりに勢いよく己を突きたてた。

「あああっ…」

ラスは即座に上体を起こして、下から突き上げるようにリンの秘裂を激しく抉った。

急峻な角度のラスの怒張は、抜き差しのたびにリンの背側の肉壁を入り口から奥まで容赦なく擦る。張り出した雁首は幾重にも重なった柔襞を強引に押し開き、最奥を力強く突き上げる。急角度のすりあげと、力強い突き上げを同時に食らい、リンの意識は瞬く間に沸騰した。

「あっ…やぁっ…すごい…すごい擦れて…ああっ…」

幾度でも際限なく、息つく暇など寸分もないほどに、ラスは腰をしたたかに打ち付ける。湿った肉を打つ音が鈍く響く。だが、その激しい打擲にも似た律動を、リンの豊かな真白い臀部はしなやかな弾力で受け止める。肉を打つ振動は、リンには、むしろ奥深く肉体に響きわたる伴奏のような快楽となる。

「くっ…リン…いい…か?」

「いい…気持ちいいの…気持ちよすぎて…も…あ…はぁあっ…」

執拗なまでに肉壁をきつく擦りあげられ、刺し貫かんばかりの勢いで突き上げられ、肉を打つ振動に酔わされ、三重の快楽にリンは圧倒され、翻弄される。

だが、快楽に流されそうなのはラスも同様だ。

あまりの力強い突き上げに、リンの腰は持ち上がらんばかりだが、勢いを殺さぬためにラスはリンの腰を思い切り自分に引き付けるようにしっかと抱えている。突き上げるたびに、肉壁の、特に入り口のあたりがきゅっとすぼまるように締まり、怒張全体をみっしりと包み込む。引き抜く時、リンの襞が己の性器に名残惜しげに絡みついてくる。張り出した雁の部分が逆撫でされるような気がして、思わず声が出そうになる。押し入る度、引き抜くたびに違う質のスパークする快楽が脊髄から脳天までつきぬける。

ラスの怒張に押し出されるのか、ラスの律動に刺激されて今も溢れてくるのか、愛液はリンの太腿から膝のあたりまで滴り溢れている。ラスの怒張も、リンの愛液に塗れ洗われて、濡れ光っている。愛液に塗れたふてぶてしい肉の棒が、リンのふっくらとした優しげな花弁を極限まで押し開いて突き刺さり、また引き抜かれる様は、惨くさえある。が、だからこそ、この上なく淫らなのだと思い知る。もっともっと、押し開き、刻みつけ、圧倒したい。リンが愛しくてたまらないのに、愛しさに比例して凶暴な征服欲、支配欲のようなものが同時に生まれ、ラスは、より一層激しく貫き、容赦なくかき回し、渾身の力で腰を打ち付けてしまう。

「あっ…あぁっ…ラス…だめ…わたし、もう…立てない…」

リンの足ががくがくと震えている。腕がわなないている。もう、自分を支えていられないのだ。自分を支えることを意識すると、気が散じてしまって快楽に酔いきれない。あと一息で、忘我に達せられずどうしようもなく焦れてしまう。

「なら…俺につかまれ…」

ラスは一度己を引き抜き、向きあう形でリンを自分に抱きつかせた。そして、リンの片足を大きく持ち上げて己の腕にかけると、そのまま前から思い切りよく貫きなおした。

「ふぁっ…」

木の幹にリンの身体を押し付けながら、下から抉りこむように突き上げを繰り出す。突き上げるたびにラスの腕にかけられたリンの足が揺れ、つま先がピンと反り返る。

「あっ…ラス…ラス…」

リンが夢中でラスの首に腕を回してしがみついてくる。

「ああ…思い切り…俺にしがみつけ…」

ラスはリンの臀部をがしと鷲掴み激しい揺さぶりをかける。

後背位と逆に、ラスの怒張に今度は腹側の肉壁をきつい角度で擦られる。半ば身体を持ち上げられるように突き上げられ、自分の体重がかかる分、リンは、より深々と容赦なく刺し貫かれて、もう声も出せない。擦りあげられる度に走る快感は痺れるほどに鋭く狂おしく、貫かれるように突き上げられる度に重く力強い快楽が全身にずしんと響きわたり、頭の中はもう真っ白だ。

だが、全身でラスの激情を…迷いなど寸分もない激しい感情の発露を身体で受け止めていると、ひしひしと感じるものがある。魂に直に響いて伝わってくる。

ああ…私は本当に馬鹿だ…ラスはこんなに激しく、こんなに切実に、私に訴えていたのに、私に指し示してくれていたのに…こんなにも…深く豊かな想いを…

「はぁっ…はっ…ぁあっ…」

だけど、あまりに激しく強く伝えられるラスの想いが受け止めきれない。内圧を高める官能を持て余し、リンはラスの肩にきり…と歯を立てる。

ラスはむしろ、そのリンの激しさが嬉しい。

「っ…好きなだけ…食らい付け、俺の想いをすすり取れ…全て…おまえのものだ、リン…」

そして、おまえの全身に染み渡れと、ラスは最期の頂に向けて疾駆した。

「ぅあっ…あっ…あああぁっ…」

リンの秘裂がきゅうっとラスを絞り上げた。柔襞は無秩序な痙攣を繰り返した。

「くっ…」

引き絞りに絞っていたものが爆ぜた。迸った。ラスの激情を余さず受け止め、リンの全身は小刻みに震えた。微かにすすり泣きをもらしていた。

 

ラスに支えられたまま官能の余韻に浸るリンは、まだ息が整わず足腰も覚束ない。とりあえず落ち着くまで休ませてやりたい。かといって、下草が生えているとはいえ、地面にリンを横たえる気になど当然なれず、ラスは、まず、自分が胡座で座ってから、自らの組んだ足の上にリンを横抱きにしてのせ、子供のように座らせた。

とろとろに溶けて正体のなくなってしまったような気分のリンは、素直にラスの組んだ足の上にちょこんと落ち着き、ほぅと息をついて、身体をラスに預けた。

ラスは、リンの髪に口付け、乱れた衣装を整えてやってから、リンの肩を抱きなおし、頬と頬を寄り添わせた。

「もう…大丈夫か…?」

「ん…」

リンは、恥らった風情でうつむき加減に頷いた。短い言葉の中に、ラスの想いが一杯詰っているのを感じた。

「ラス、ありがとう…私、一杯…本当に一杯もらったわ…感じさせてもらったわ…あなたの真摯な想い、深く優しい想い…だから、もう、あんな馬鹿なこと考えない。つまらない不安につかまったりもしない…」

「そうか…」

ラスは、安心したように柔らかく微笑んでから、言葉を続けた。

「俺は、おまえが望むなら、いつでも俺の想いを示そう…だが、それでも迷いや不安を感じた時は…リン…俺たちの再会を思いだすといい…」

「…?」

「リン…アラフェンで出会った時、俺は自分から尋ねた。『俺の手は必要か』と…。おまえに助けを請われるより前にだ。それは、俺が…俺自身がおまえの傍にいたい、おまえの力になりたい…と願ったからだ…」

「あ…」

「おまえは気にしていたようだが、俺はおまえに請われたから戦いに加わったのではない。おまえを助けたい、おまえの力になりたいと、俺の方から望んだ。『俺の手は必要か…』と尋ねた時、この手を取ってくれと俺は切望していた。差し出した手を取ってもらい、おまえから必要とされたかったのは、この俺の方だ…その時は、この気持ちを何と呼ぶのか…よくわかっていなかった。おまえが困っているのなら助けたい。おまえが苦しんでいるのなら手を差し伸べたい、そして、おまえに必要とされたい…そう切望する、この気持ちを…」

「ラス…ラスはあの時から…私を…?私は…ラスは、困ってる同族は…仲間の苦境は助けるのが当然だから…それだけで…ラスは優しいから、一人の私を見捨てておけなくて…優しくしてくれてるのかと…好きって気持ちなのは、私だけかもって思ってた…」

「おまえと初めて出会った時、おまえを襲っていた輩に弓を引いたのは確かにそうだ…だが、サカの血を誇りに思う気高いおまえ、戦いの中でも優しさを失わないおまえ、孤独と向き合いながら強くあろうとするおまえ…俺は、そんなおまえにどうしようもなく惹かれた。同じ孤独を理解するおまえが傍にいてくれると、俺もまた理屈でなく心が安らいだ…」

ラスはリンを両腕で包み込むようにかき抱き、そっとほお擦りした。

「ラス…」

「おまえの傍にいたい、力になりたい、誰より近しくなりたい…その気持ちを言葉に置き換える術を俺は知らなかった。それに…俺の風を感じると安心すると言ったおまえは、俺を通して故郷の面影を見ているだけかもしれないとも思った。帰りたくとも帰れぬ望郷の思いを、俺に仮託しているだけかもしれぬと…でも、それだけでもいいと…思っていた。おまえの力になれる、おまえの助けになれる…どんな形であれ、それは俺にとって何にも勝る喜びだったから…おまえに必要とされることは、今までに感じたことのない、譬えようなく深い喜びを俺に教えてくれたから。だから、どんな形であれ、おまえの力になれるなら…おまえの助けになれるなら…それでいいと満足してしまっていたのだろう。それで、俺はおまえを想う気持ちを言葉にすることを怠っていたのかもしれん。すまない…」

「ううん、謝るのは私のほうだわ…あなたの優しさに甘えて…甘えっぱなしで…自分の気持ちをきちんと伝えてなかった…ラスはこんなに私のこと、想っててくれたのに「義務感」から優しいのかもなんて馬鹿なことも考えて…ごめんなさい…。私、ラスが私を好きになってくれてすごく嬉しい…ラスが大好きだから…」

「ああ……少し遠回りしたかもしれないが…きちんと確かめあえた…だから、もう揺るがない…俺の想いも、おまえの気持ちも…」

「ええ…私たち、ずっと二人で歩いていけるわよね?」

「ああ…二人で…ともに歩いていこう。この命ある限り…俺たちは、未来をつなぐために闘っているのだから…そうであってこそ、俺たちが味わった孤独は意味を持つ…」

「ええ、ラス…二人で…二人の未来を紡いでいくために…」

「ああ…リン、二人でともに…」

ラスとリンはどちらからともなく、触れるだけの口付けを交わした。誓約のような、厳かで静かな口付けだった。

夕闇の帳が二人を包みはじめていたが、ラスとリンは互いに互いを離す気になれず、ずっと抱きしめあっていた。

FIN

このお話は、青空給仕さんのお引越しお祝い&「ラスの激しさ伝え隊」の隊活動の一環として書かせていただいたものです。前作の「Natural]と同背景で、時間的には少し前にあたります。
メインテーマは「揺れるオトメ心」とでもいいますか、前作冒頭で、ラスとリンは、自然と惹かれあって、するっと結ばれておりますが、告白をすっとばしてあまりにさくさくと男女の仲が進んでしまいますと16、7歳くらいの少女はかえって不安感が募ったり、改めて「好き」と言い出しにくくなってしまうのではないかという揺れるオトメの心境を題材にしています。でもって、ラスの無口がリンの不安に拍車をかけて誤解を生じかけるという少女マンガの王道的展開に進むわけですが、結末はご覧の通りのメロ甘らぶらぶです(笑)
また、私は、この「Voluntary]を書くにあたり、どうしても声を大にして言いたいことがありました。ラスの激しさ伝え隊としては、常に主張し続けているところなのですが
「ラスは、めっちゃ能動的な人間なんだよおお!」
ということです。
青空さんの『骨董甲子園』には北米のFEマニアの方もいらして、あめりかんなオタク視点で色々興味深い書き込みをしてくださるのでわかったことなのですが、北米のFEマニアの間では、寡黙なラスは「退屈・受動的・面白みのないつまらない」男などという、許し難い誤解&曲解&読解力不足がまかり通っているらしいのです。
日本のFEマニアはまさか、そんな表層的なものの見方はすまいとは思いつつ、万が一、こんな間違った認識を持っている方がいたら大変ですので(何が大変なんだか)「ラスの激しさ伝え隊」隊員として「ラスがいかに能動的な男」であるかを、何が何でも主張したかったんですね、私は。
ゲーム上で、ラスはですね、リンに協力を要請される前に「俺の手は必要か?」って自分から、いいですか?《自分から》申し出ているんですよ!まさに漢気溢れる男なんですよ!
リンは、戦いの渦中でのラスとの再会を懐かしがり無事を喜ぶばかりで、自分から「助けてくれ」なんて言い出さない子なんですな。そういう逼迫した状況下でも、自分のことよりまず他人のことを心配してしまうリンの心根の綺麗さに、ラスは改めて感じ入ったと思いますし、リンの手助けをしたい、リンの傍にいたいと「自分から」願ったからこそ「俺の手は必要か?」って自ら申し出てるんじゃー!って事を、どうしても主張したかったんですが、ラスの熱いパッション、溢れる漢気は拙作で少しでも伝わったでしょうか、どきどき。
そして私の隊員活動に、隊長の青空さんが挿絵をつけてくださったのですが、その挿絵の数々があーまーりーにすばらしくて!もうもう、ファイルをあけるたびに、あまりのかっこよさ、せくしーさ、艶麗さ、端整さに、失神するかと思いましたよ、私は!
挿絵を描いていただくにあたり、私は「ラスの顔を描いて描いてーv」とおねだりしていたのですが、自分に正直にわがまま言ってよかった…よかったよぉお!こんなにかっこいい超絶美形なラスを描いてもらえて、歓喜の絶頂ですよ、わたくしはっ!ああーなんて、りりしく麗しいそのお顔、聡明さのにじみ出る涼しいまなざしは優しく切なげにリンを見つめ、しかもはだけた胸元は乳首ちら見せ、筋肉の陰影はラスの胸板の逞しさと割れた腹筋のしなやかな強靭さを遺憾なく発揮しており、このラスのあまりのセクシーさに、興奮のあまり卒倒・昇天しましたよ、わたくしはっ!
ラスを懸命に愛撫するリンの横顔は、健気で真摯で愛らしいし、しかも、すっごく切なげだし。
また、2人の絡み絵が!リンの手の甲に自らの手を重ね合わせ、指を絡めているラスの大きな掌が、また、譬えようもなくセクシーの極み!あんな男らしい腕に私も支えられたい&抱かれたいよ!そして、感極まってすすり泣きをもらさんばかりのリンの表情がまた、愛らしさの極み!きっと、もんのすごくかわいい声を絶え間なくあげてるんだわー、ってのが、ばしばし伝わってきます!
こんな、イイモノ見せていただけて…生きててよかった…ラス×リン書いてよかったよぉお!
青空隊長、ありがとうございます!隊長に一生ついていきます、わたくしは!(びしっと敬礼)
なお、このお話は、一連のラス×リン創作同様、青空給仕さんの「骨董甲子園」で先行公開させていただいてます。しかも、青空さんが挿絵の色調を変えてくださってますので(つまり、各イラスト2枚づつ仕上げてくださってるんですよお、感涙)「骨董甲子園」とこちらでイラストを2バージョン楽しめるようになっておりますので、こちらを先見なさった方は、是非、骨董甲子園にもいらしてくださいねー!

青空給仕さんの「骨董甲子園」へ
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