柔らかな手
挿絵 青空給仕様

 

ある日の夕刻、祖父の世話を済ませ自室で休んでいたリンに、家令がサカの青年の来訪を告げた。

「!」

リンは弾かれたように立ち上がり、すぐに来客を自室に通してくれるよう頼んだ。

今日、こちらに来るという話は聞いていない、何用だろう、ああ、でも思いがけずあの人の顔が見られる、声が聞ける…そう思った途端、自分の外見が気にかかり、慌てて鏡を覗き込み前髪を整える。ほんの僅かの間も気持は落ち着かず、椅子に座って待っていることなど到底できず、部屋中をそわそわうろうろと立ち歩いていたら、控えめなノック音と同時に扉が開いた。涼やかな印象の長身の青年が佇み、リンを見て微笑みかけた。リンは、自分が落ち着きなく浮き足立っている処を思い人であるラスに見られ、首まで真っ赤になってしまった。

しどろもどろにリンは「会えて嬉しい、でも、急にどうしたの?」とラスに尋ねると、ラスは、武具の調整のために警護隊長を努めるトリアの城主から半休をもらってきたのだと言った。目的の職人との用向きが思っていたよりも早く済んだので、帰路、リンの住むキアラン城に立ち寄る時間ができたと、リンはラスに告げられた。

リンは、自分が腰掛けることもラスに椅子を勧めることも忘れたまま、ラスから一瞬たりとも目を離さず、貪るようにその端正な顔を見つめながら尋ねた。

「嬉し…ラス、あの、どれくらい居られるの?」

「夜までに帰ればいいことになっている…」

「ホント?じゃ、お夕飯、一緒に食べていける?」

「飯などいい…」

リンの返答を待たず、ラスはリンの細腰をぐいと抱き寄せると、噛み付くように深々と口付けてきた。

ラスの柔らかな唇と熱い舌を感じるや、リンも無我夢中でラスの唇を吸い返していた。

 

久方ぶりの、しかも数時間しか共にいられないとわかっての逢瀬は、忙しなく、濃密で止め処もなく熱かった。

二人ともに一糸纏わぬ姿で、口付けを解かぬままもんどりうつように寝台に倒れこみ、互いの身体に力いっぱい腕を回す。

隙間なく触れていてももっと触れたいと思い、どれ程強く抱きしめても、抱きしめられてもまだ足りないと思う。そんなもどかしさに互いが同じほどに苛まれ、狂おしく、飢えたように、ラスとリンは互いに素肌の感触と、その温もりを貪りあう。

口付けを解くや、ラスはリンの乳房を形が変わるほどに荒々しく揉みしだく。乳首の根元に軽く歯を立てながら、舌で転がし弾く。リンの乳首は固く挑発的に尖って、ラスを更に激しい愛撫へと駆り立てる。請われるままに、ラスは、リンの乳首をきつく吸いあげる。リンの背中が弓なりに反る。ラスの引き締まった身体をリンのしなやかな腕が思いきり抱きしめ、リンはもどかしげにラスに己の細腰を擦り付ける。

ラスの手は名残惜しげにリンの乳房から離れ、綺麗なS字を描くウェストを、すべすべとした下腹をくすぐるように撫でながら、迷わずリンの脚を割り花弁に触れた。指が花弁の合わせ目を軽くなぞっただけで、そこが熱く、しとどに濡れていることをラスは知る。ラスは豊かな潤みを湛えたリンの秘裂をムキになったようにかき回す。彼女自身の愛液をまぶすが如く、ラスは濡らした指で花芽を転がすように弄ってやる、指先で軽く摘んで捻ってもみる。

「あぁっ…あんっ…」

リンの手も、もどかしげにラスの背から締まった臀部へとあてどなく彷徨う。ラスの滑らかに熱い素肌を感じながら、抗いがたく惹き付けられるように、リンは、ラスのものへと手を伸ばしていく。

僅かに冷いやりとしたふぐりに手が触れ、次いで、直上に反り返り、臍に着きそうなほどにそそり立っている雄渾の存在をリンの手は確かめた。やんわりと茎の部分を握りこむと、そこは人の身体の一部とは思えないほど固く、熱い脈動がじんわりとリンの掌に染み入ってきた。そのラスの熱さがリンの身体の芯を更に熱くとろかす。

「ラス…ラス…」

リンは、大切そうに、いとおしげに、ラスの男根に指を絡ませた。真綿で包むように柔らかな掌で包み込み、優しく手を上下させて、張り出したカリを刺激する。滑らかな先端に先走りが滲んでいるのを指先が感じると、リンは流れるような手つきで男根の先端を撫でさすり、先走りを塗り広げる。ラスはこんなにも私を欲してくれてる…求められる悦びにリンは酔いしれる。リンの手は更なる熱意をこめて、ラスのものを優しく愛撫する。

「リン…」

ラスは、リンのその柔らかな慰撫に礼を言うように、包み込むような口付けを与えると、長くしなやかな指でリンの重なりあう襞を掻き分け、肉壁を擦る。花芽の莢を指先で器用に剥き、敏感すぎる小さな突起の先端を触れるか触れないかくらいの微妙な力加減で愛撫する。

「んんーっ…」

固くしこった肉珠の先端にそっと指を回すたび、リンは堪えきれないように首を振って口付けを解こうとする。が、ラスの唇は、逃げようとするリンの唇を追ってはまた塞ぐ。

リンも、ラスも夢中で互いに互いを擦りたてあって高めあい、同じほどに昂ぶっていく。

より確かな繋がりを欲する気持が押し寄せる波のように、二人の身体の中でどんどんうねって大きく膨らんでいく。

「ラス…もう…おねが…」

苦しげに口付けを解いたリンが眦に涙を滲ませラスに訴えた。ラスは限りなく優しい瞳でリンを見つめると、リンの手を取って己のものから外し、リンの手に謝意を込め口付ける。同時に潤びるリンの花弁に先端をあてがう。リンの腰がじれったげに蠢いて浮き上がる。その瞬間をあやまたず、ラスは雄渾のもので、思い切りよくリンの花弁をこじ開け貫いた。リンの身体を折れよとばかりに抱きしめると同時に。

「あぁあっ…」

リンの全身を重く痺れるような衝撃が刺し貫いた。

ラスはリンを貫くと同時に容赦ない律動をくりだし始めた。思い切り突き上げられる度に、リンは、閉じた瞼の裏に蒼白い火花が飛び散るように感じた。いつしか、ラスの律動にあわせ、自分も腰を半ば浮かすようにして夢中で応えていた。

「あっ…あぁっ…あんっ…いい…いいの……」

熱く灼けつくような快楽が、身中にうずまき、うねり、どんどん嵩を増していく。もう堪えきれない、はじけて、砕けてしまう…

ラスの突き上げは、リンを壊さんとするかのように力強く、雄雄しく、激しかった。ひたすらにがむしゃらな行為が、ラスの切実な求めを否応なくリンに伝えてくる。ラスの熱く一途な思いに、自分も、もう、灼ききれてしまう…リンの意識は駆け上がり、頂点で真っ白に弾け散る。

「ラス…ラス…もう…あ…やっ…あぁああっ…」

ラスの男根が、リンの最奥を思い切り叩いた瞬間、リンのしなやかな腕がラスの締まった腰を絞り込むように抱きしめた。リンの媚肉がうねるように蠕動してラスのものを締め上げ、たまらずにラスも爆ぜた。

ラスの熱い迸りが身体の奥にひたひたと染み入っていくのを感じて、リンは身体も心も熱く震わせた。

 

リンの喘ぎが収まってくると、ラスはリンのしっとりと汗ばんだ身体を抱きしめ、優しく口付けてきた。角度を変えて触れるだけの口付けを与えながら、ラスは

「おまえの手…柔らかくなった…」

というと、己の手で包みこむようにして、リンの手をきゅっと握りしめた。

「え…?」

リンは、ラスの言っていることがよくわからなかった。

ラスはリンの手を取って自分の口元まで運ぶと、リンの掌に口付けた。

「は…」

「やはり…柔らかい…俺に触れてきた感触でわかった」

白い指の付け根に、唇を押し当てられ、指の股をラスの舌先でくすぐられて、快楽の熾き火がまだくすぶっているリンはやるせない吐息をついた。

「昔の傷跡もすっかり綺麗になっている…昔、弓弦で痛めた指の傷も…漸く消えたな…」

「あ…」

リンは思い出した。ラスに請うて弓の手ほどきを受けた時のことを。

サカの娘だったリンにとって弓矢は幼少時から慣れ親しんだ玩具でもあった。だから、教えを請えば、きっとすぐ弓も使いこなせ、戦いに役立てるようになると思って、ラスに手ほどきを頼んだ。

すると、ラスは、まずは矢を番えず、弓弦を引くだけの素引きをきちんと行えとリンに言った。綺麗な射型を身体に覚えさせないと危険だし、放つ矢も当たらない、そうラスに言われ、リンは、素直に頷いた。

この地道な鍛錬もきちんと行うつもりで、ラスに言われた通りに弓を構え、弦を親指にかけた。力任せに弦を引くのではなく、むしろ左手に持った弓を押すように…ラスが自分の手を取り教えてくれた通りに弓弦を引いてみた。痛い…弦が指に食い込む。もちろんいつも通り手甲ははめていた。それでも、細い弓弦は指に容赦なく食い込んでくる。矢が飛べばそれで良しという玩具ではなく、反撃してこない動物を狩るためでもない、人を殺めるための武器としての弓矢は威力が違う、而して、弦を引くための力もそれに比例する。その扱いの難しさはリンの想像を越えていた。それでも、リンは諦めず…ラスだっていつも指を中ほどまで覆う手袋をはめただけで弓を放っている。私の手は慣れてないから痛みを感じるだけ…そう思って更に弓を引こうとしたが…

「痛っ…」

どうにも我慢できずに、リンは弦を緩めてしまった。

ラスが、はっとして慌てたようにリンの手を取った。

「リン、手を見せてみろ」

ラスが急ぎリンの手甲を外すと、リンの親指は細い弦が食い込んだせいで、皮膚が裂けてしまっていた。

ラスはすぐにリンの滲んだ血を舐め取り、清潔な布を巻き結んだ。

「すまん、リン、おまえの手甲を先に確かめなかった俺が迂闊だった…」

「大したことないわ、でも、ラス、どうして謝るの?…だって、弦を引けないのは私の手が柔だからで…」

「違う。俺の手甲は騎射用のもの、おまえのは剣士のそれだ。剣の握りを確として滑らないようにすることが目的だから指の部分が強化されてない、皮自体も薄い…俺のものとは違う」

「え?うそ…だって同じでしょう?私とあなたの手甲…」

「触ってみろ。親指の部分だ…」

「あ…硬い…硬いわ…」

「そうだ、騎射用の手甲は…諸懸けというのだが…親指の部分に木枠を仕込んである。だから、弦を思い切り引いても指を痛めない」

「私の手甲は薄く柔らかすぎるのね…弓を引くならラスのような手甲じゃないと…」

「ああ、だが、この木枠があるせいで、当たり前だが剣の握りは甘くなる。…だから、俺はあまり剣はつかわん。いちいち手甲を変える暇は戦場ではない…しかも、握りの甘い剣など素手よりマシという程度にしか役にたたん」

「でも、それなら…私も…私だって…」

「そうだな、おまえが弓を覚えたいというので…俺は嬉しくて失念していたが…平時ならともかく、戦場で俺達が武器を変えようとしたら、武器だけではなく、それを持つための手甲も変えねば、結局は武器の力を完全には引き出せない。かといって手甲まで変えていては、その間攻撃ができず、隙を作るだけだろう…」

「なら…そうね…私が弓も使おうとするのは、実戦向きでも現実的でもないってことね…」

「覚えることは無駄ではない…しかし、今のおまえの剣の腕と引き換えでは割りに合わない」

「なら、私は…今はこの剣に専心する。これからも、この剣であなたを守ってみせる」

「先を越されたか…ならば俺は、おまえをこの弓で守る。おまえに敵は近づけさせん」

二人は互いに見つめあい、信頼に満ちた微笑みを交わしあった。このことがあってから、リンは弓を使おうとするのを辞めた。だから親指の怪我はすぐに塞がった。が、その糸のような傷跡自体は、割と長く残っていた。痛みがなくなった後リンは指に怪我をしたこと自体を失念していたが…怪我自体は日常茶飯事であったから…が、自分の手を取ってくれることの多いラスには、いや、自分の不注意のせいと思っていたからかもしれない、それはとてもラスらしい優しさだが…自分の指の傷痕を気にかけていたのかもしれない、とリンは察した。

「私、すっかり忘れていたわ、ラス…」

リンは改めてまじまじと自分の手を眺めてみた。

確かに…キアランに帰ってきて…戦場から離れて傷痕が減った。怪我をすること自体がなくなったし、それに…そうだわ…私の手…ヘクトルとの手合わせでムキになって、力任せに剣を振るったりして、掌に血肉刺(ちまめ)を作ったこともあった。でも、今はその肉刺(まめ)も綺麗になくなってる。剣を握らなくなったから…暫く剣を握ってないからだ…

「それは、おまえが平穏な生活にいるという証拠だ…」

ラスは優しくリンの髪を撫でた。

「俺は1週間後にまた街へ行く。今日、修繕と調整を頼んだ諸掛けを取りに…だから、おまえも何か入用な物があるかと尋ねるつもりだったが…おまえの手に触れてわかった。今のおまえに武具は必要ないだろう」

「ラス…」

リンは、ラスの裸の胸にぎゅっとしがみついた。ラスは極自然な仕草でリンの肩を抱き寄せた。が、リンの無性に寂しく心細い気持をこの時のラスは気付いていなかった。

 

先日、ラスがキアランを訪れた日から1週間が過ぎた。

予定通りなら、ラスは今日、街に武具を取りにいくはずだ。もし、用事が早く済んだら、また、ラスは、帰途、キアランに立ち寄ってはくれるかもしれない、ううん、そうしてくれないかしら…それが気になり、リンは、朝からずっとそわそわしっぱなしだった。ラスがキアランに立ち寄るにしても、街で用事をすませた後になるのだから、そんなに早く来るはずがないとわかっているのに、ついつい、窓の外を眺めてしまう。

しかし、昼が過ぎ、日が傾きだしてもサカの馬も、馬上の青年の姿も見えてこない。

夕刻、リンは玄関を出て館の門まで幾度も外の様子を見にいき、門番に不審がられる始末だったが、それでも、キアランの館に向かってくる人影を見出すことはできなかった。

とっぷりと日が暮れても客が来る様子はなかった。リンは祖父の夕餉の世話を済ませたものの、自身は夕食を食べる気になれず、自室にひきあげた。

『もしかしたら、武具の仕上がりが遅れたのかもしれない…』

きっと、ラスは今日、街に行かなかったのだ、多分武具屋の都合で…リンは無理にでも自分に言い聞かせようとした。

落胆する心を宥め、落ち着かせたい…リンは戸棚を開け己の剣ーマーニ・カティーを取り出し、その刀身を見つめた。刃は綺麗に砥がれている。

『ラス、私…また、剣の練習を始めたのよ…そう、伝えようと思っていたのにな…』

リンは、1週間前から、祖父の介護の合間を見て、また、剣の稽古を始めていた。生真面目なキアラン騎士団長ケントは、突然、再び剣の稽古を始めたリンを危ぶみ「キアランの守りは我ら騎士団にお任せください、リンディス様。今はもう、リンディスさま自ら、剣をおふるいになる必要はないのですから…それとも、我ら騎士団の守りはリンディス様の目からみて信ずるに足らずということなのでしょうか」と詰め寄ってきた。リンは「最近、誰とも手合わせしてなかったから、剣の腕前を衰えさせたくないだけ、キアランの守りは、もちろんケントやセインたちに任せるし、危ないことはしないから」とケントを説き伏せたのだが…ケントたちにしてみれば、リンのはねっかえりぶりも言い出したら聞かないことも知っているからしぶしぶ我侭を聞いてくれているというところだろう。

練習用の剣は刃をつぶしてあるし、槍の先にはたんぽを付けるので、騎士との手合わせで創傷を作ることはない。それでも、武器が身体に当たれば痣ができる。踏み込みを誤れば転んで擦り傷くらいはつくる。それでなくとも、リンは祖父の世話に掛かりきりで剣を持たずにいたブランクを埋めようと、意地になったように剣をふるったので、せっかく傷痕が薄れた処だった手足に、また、幾つも小さな痣や傷痕が出来ていた。

『また、傷が増えちゃったけど…手にもまた肉刺(まめ)ができちゃった…』

リンは、今現在、キアラン領の実質上の統治者だから、騎士団長のケントからすれば、リンに無茶をしてほしくない、怪我などされたら困ると思うのは当然かもしれない。

それでも、リンはこのまま剣の稽古を続けるつもりでいたし、今日会えたら、ラスにそう伝えたいと思っていた。私、剣を忘れたりしない、だから、ラスと、いつも、どこまでも一緒に行きたいと…だって、戦い方を忘れたら、ラスと一緒に歩いていけない…そんな不安をリンは感じていたのだった。

静かに憂いに沈んでいると、ノックが聞こえ、リンは、はっと我に返った。もう、夜も遅いのに、誰だろう…まさか、お祖父さまの容態に何かあったんじゃ…慌てて扉を開けると、そこには、今リンが思いを馳せていたラスその人が立っていた。

「ラス?…ラスなの?…どうして…?」

これは夢かしら…とリンが呆然としていると、静かに淡々とラスが答えた。

「キアラン城を訪ねたら夜の見張りがセインだった。なので、直におまえの部屋に通してもらえた」

「…そうじゃなくて!」

一瞬だけ口を尖らせると、すぐ次の瞬間、リンは今にも泣き出しそうな童女のような表情になった。自分でもそれがわかり、リンは、ラスにそんな顔を見せたくなくて、くるりと、ラスに背をむけてしまった。

「ラス、遅いから…もう…今日は来ないかと思ってた…」

「ああ、すまない、リン、遅くなった…」

謝りながら、ラスはリンを後ろからそっと抱きすくめた。リンは胸の奥が締め付けられるように苦しくなる。胸の動悸が激しくて、ラスの耳に聞こえそうで恥ずかしくてならず、つい、こんな事を言ってしまう。

「ラスのばか…ラスが中々来ないから…私、ラスに会いたい会いたいって願うあまりに今、あなたの幻を見ているのかと思っちゃったじゃない…」

語尾が小さくすぼんでいくリンの口調も、その言葉も、怒っているというより拗ねているのが明白で、ラスは、微笑みながらリンの腰に回した腕に力を込め、その細腰をきゅっと抱き寄せた。

「トリアを出たのが夕刻だったから…修繕の済んだ諸懸けを俺の手にあわせて調節してもらっていたら、この時刻になってしまった…」

「それなら、そうと…今日は遅くなるってこの前、言ってくれてればよかったのに…」

「すまん…では…今日は部屋にはいれてもらえないか」

あくまで淡々と語るラスに、リンは、慌ててラスの方に向き直った。

「ばかばか、そんな筈ないじゃない…私、ラスに会いたかったんだもの、今日一日、ずっと待ってたんだもの!」

リンは、ラスの胸に手を添えてラスの顔を見つめた。ラスの優しい笑顔を見つめていたら、つい今しがたまで拗ねて口を尖らせていたリンも、晴れやかで、少し恥じらいを含んだ眩しい笑みをラスに自然と向けていた。

「ごめんなさい、ラス…私、拗ねたりして…でも、よかった…もう、今日はラスに会えないのかと思ってたから…私、本当に嬉しい…」

「ああ」

「ね…ラス、もう少し、居られる?部屋に入って…」

リンはラスの手を取って、自室に招きいれた。

すると、ラスははっとしたように、リンの手を自分の目線まで持ち上げてみつめざま、こう尋ねた。

「どうした?リン…この手は…また傷が増えて…肉刺(まめ)で硬くなっている…」

「あ…」

リンは、何故だか急に恥ずかしくなって、手を引っ込めようとしたが、ラスはリンの手を離そうとせず、懸念顔でリンに

「まさか、おまえが剣を持たねばならんようなことがキアランにあったのか?キアランの騎士団は何をしていた?」

と尋ねた。リンは慌てて首を振り、

「あ…違う、違うの…これは、私が剣の練習をしてたせい、傷も、騎士たちとの手合わせでできただけ…何でもないの、心配しないで」

と答えた。が、ラスは懸念顔を解かない。

「何故、また急に剣を取った。今のおまえには必要あるまい…こんなに手を荒らしてまで…」

「………」

「リン…」

困ったように黙り込むリンに、ラスは言葉を促した。ラスは私を責めてるんじゃない、心配しているんだということは、ラスの瞳の色と表情から容易に知れた。だから、リンは、躊躇いがちに、叱られるのを恐れる子供のような気持ではあったが、口を開いた。

「あの…その…だって…だって寂しかったんだもの…」

「リン?」

「この前、ラスに、私の手、柔らかくなったって言われて…自分が…もう、リタイアした剣士みたいって言われた気がして…でも、剣士じゃなかったら、私、ラスと一緒に歩いていけない、ラスと並んで草原を走れない…そんな気がしてしまって、無性に寂しくなってしまったんだもの…だから、剣の腕を取り戻したくて…いつでも、いつまでも、ラスの隣にいられるようにって思って…だから…」

ラスはびっくりしたような顔をした後、考え考え、ゆっくりとリンにこう告げた。

「……リン。おまえが剣士であろうと、そうでなくとも…俺はリンがリンであればいい。おまえが2度と剣を持たずとも…いや、むしろ、おまえをもう戦場に出さずに済むなら、その方がいいとさえ、俺は思う…」

すると、リンが弾かれたように顔をあげ、切実な瞳でラスを真っ直ぐ見つめた。

「いやよ、そんなのいや!私、いつもラスの傍にいたいんだもの!」

「リン…」

「私はラスが好き、いつもラスの傍にいたい。でも、ラスはクトラの戦士…雄雄しく勇敢な…だから、ラスの隣にいるためには…一緒についていくには、私も同じように戦えなくちゃダメなの。ラスが危険な目に合わないよう、私が、ラスを守りたいんだもの。母なる大地は果てなく広いけど、よい放牧地には限りがあるから、クトラといえど、いつ、どこの諸部族との小競り合いが起きるかわからない、そんな時、ラスだけ戦場に行かせて、私は天幕で留守番なんて絶対にいや。ラスが無事に帰ってくるまで、心配で心配で、私…心臓が潰れそうになってしまうもの。どんなにラスが強いってわかってはいても…だから、私、いつでもラスのすぐ隣にいることを許されるだけの力を持っていたい…自分の力で一番大事な人は守りたい…」

一瞬の沈黙の後、ラスは静かに言葉を繋げた。

「…おまえの気持ちはわかった…有難く嬉しく思う…だが、俺はおまえが戦士だから、おまえを愛し、おまえを欲するのではない。おまえの父も…ロルカのハサル殿も、共に戦う戦士でなくともおまえの母を愛したように…」

「!!!」

リンは大きく瞳を見開いた

「ああ、そう、そうよね、母は…生まれながらの公女…私みたいに武器なんて持ったこともない…でも、傍目にも父と母はとても仲がよくて、それは幸せそうだった…そうね、確かにラスの言うとおりだわ…」

一息つくと、リンは強い意志を感じさせる瞳で、真っ直ぐラスを見つめた。

「でも、私は私の愛し方でラスを愛したい。幸福を二人で分け合うように、危険も二人で背負いたい、あなただけを戦いに赴かせるのは、私が嫌なの。あなたが私を守ってくれるように、私もあなたを守りたい、その気持は、エリウッドたちと戦ってきた時と寸分も変わらない…多分、生涯ずっと…」

「リン…」

「…でも、本当はね、理屈じゃなくて…可能な限り長い時間、私、ラスの傍にいたいだけ…なのかも……」

リンの表情が、少しはにかみを湛えた笑みへと変わった。

「それは俺も同じだ…そうでなければ、この時刻にキアランには来ない」

「ラス?」

「俺が今日、遅くなったのは…半休を夕刻からにしてもらったからだ。そうすれば…朝までにトリノに戻ればいいから…」

「!…ラス、本当?本当に?」

「ああ…」

「じゃ、ここに泊まっていけるの?私、ラスと朝まで一緒にいられるの?…」

信じられないという表情、次いで満開の花のようにぱぁっと明るく咲いたリンの表情は、しかし、次の瞬間、心配そうな憂いを湛えたものに変わった。

「あ、でも、そうしたら、ラスが、明日の朝、すごく早くに出立しなくちゃならない…身体が大変になっちゃう…」

涼しげなラスの瞳が柔らかに細められた。

「そんな心配はいらない。可能な限り長く、おまえに触れたい、おまえの温もりを感じていたいのは俺のほうなのだから……」

「ラス…」

「だから…もう…黙れ…」

答えは待たずに、ラスはリンの唇を塞いだ。限りある時間、ラスは、今はこの唇を、言葉をかわすことより、リンの素肌に触れることに用いたかった。

リンの手も流れるようにラスの腰に回された。リンも同じ気持だと知り、ラスは、感謝と熱意を込めた口付けを送りつつ、リンの衣装を緩めていった。

 

ほのかなランプの灯の下で、ラスは、指と指とを絡めあわせてリンの手を寝台に縫いつけた。膝頭でリンの脚を割って、互いの脚をも絡み合わせて口付けを交わす。深々と舌を差し入れて、リンのそれを絡めとってはきつく吸う。

吐息ごと飲み込むような口付けの後、力いっぱいリンの身体抱きしめながら、ラスの唇はリンの耳朶を食み、水鳥のそれのようにすんなりと美しい首へと降りていった。手にもつと冷やりと艶やかな髪をかきあげて白いうなじに口付け、首筋にも縦横に唾液の条を残していく。

この前の逢瀬があわただしかったせいもあって、ラスは、今宵、リンの素肌の隅々まで、この唇で触れてやりたかった。

肌理の細かい滑らかな胸元の肌を唇で撫でていく。譬えようもなく柔らかでいながら、弾むような張りのある乳房の稜線を辿っていき、濡れた唇でリンの乳首を捕らえ、含む。

「あぁ…」

リンがやるせなげな吐息をつく。その吐息をもっと熱く、切羽詰ったものにしたい。ラスは舌を差し出し、丁寧に幾度も乳首を舐め上げる。舐めるたびに乳首がつんと上向いていくその様も、触れる傍から固くなっていく弾力も何もかもが愛しい。ラスは、固くなった乳首の輪郭をなぞるように舌を回し、左右に弾き、敏感な先端を尖らせた舌先でつつく。

「あっ…あんっ…」

リンの声に艶が増していく。ラスの柔らかな唇に摘まれ、熱い舌で乳首を弾かれるたび、リンは胸の先端からしんわりと痺れるような快楽が身体に広がっていくのを感じる。

十分な昂ぶりを見せるリンの乳首を、ラスは深く咥えこみ、きつく吸いたて始めた。

「はぁっ…ん…」

リンの背がしなやかに反り返る。ラスは、思わず、リンの背に回していた腕を解き、リンの乳房を鷲掴みに、形が変わるほどこね回した。リンの腕はまちかねていたように広いラスの背にまわされ、その鋼のような肉体を抱きしめる。ラスはリンの両の乳首を交互に、ちゅくちゅくと音を立てて吸い上げる。きつく吸われたリンの乳首は痛々しいほど固く尖って濃い紅色に色づく。それがラスの唾液に塗れて艶やかに光るさまは、酷く淫らで艶かしい。見るからに感じやすそうで、もっと激しい愛撫を待ち望んでいるようで…

だからこそ、ラスは、一層激しい熱意をもって乳首を舌で縦横に弾き、意地になったようにきつく吸いたててしまう。

「あぁっ…はっ…ラス…いい…吸って…いっぱい吸って……」

「ああ…」

リンは官能を素直に表す。それがとても愛しく、だから、ラスは、もっともっとリンを愛撫してやりたくなる。ラスは、リンの乳首を極軽くしごくように歯を立てながら、吸ってやる。

「あぁんっ…はぁっ…」

リンがやるせなげにラスの髪に指を埋める。

ラスは、乳首の吸い上げを緩めないまま、手を下方へと伸ばしていった。ふんわりと柔らかな繊毛の感触を手で楽しみながら、リンの内股を撫でるように手を差し入れる。すぐ、とろりとした液体の感触が指先に触れた。リンの花弁は既に愛液を存分に溢れさせているようだった。

ラスは指先でリンの花弁の合わせ目を割ってみた。熱い愛液が更に豊かに溢れ出て、ラスの指をしとどに濡らす。その火傷しそうな熱さが尚更に愛しい。リンの心も身体も既にとろけきって自分を待ちわびているのだと思うと、ラスの胸は苦しいほどに熱く満たされる。

「リン…すごく濡れている…」

ラスは、にちゅぬちゅと淫らな水音をたてて、愛液に溢れかえるリンの秘裂を指でねっとりとかき回した。

「やぁっ…ん…」

リンが羞恥に唇を軽く噛む。でも、ラスの指が己の身体を内側からかき回す感触に、自然と声がこぼれてしまう。

「熱く…とめどない…」

ラスはそろえた2本の指先でリンの愛液を掬いとると、その、とろりと糸を引く透明な蜜を見せ付けるようにリンの唇にあてがった。素直にリンはラスの指を舐めとる。

「奇妙な…味…」

ラスが思わず口元をほころばせる。

「俺には…何物にも替えがたい甘露だ…」

ラスは自分の身を下方にずらしざま、リンの腰を幾分上向きに持ち上げるように支えなおした。ふっくらともりあがった花弁全体が艶めいて濡れ光っているさまが、ラスの目にはっきりと映った。花弁の合わせ目はラスの指戯に僅かにほころんで豊かに蜜を滴らせ、ラスに更なる愛撫を強請っているようだった。

「あん…や…はずか……あぁっ…」

リンに羞恥を感じる暇を与えぬうちに、ラスは、リンの花弁に唇を押し当ててその合わせ目を舌で割った。

尖らせた舌先を合わせ目に差し入れ、下から上へとゆっくり舐めあげていく。鮮烈なリン自身の香が鼻腔をみたす。花弁の突端まで舐め上げると、小さくちょこんと顔を出している肉芽をさっと舌先がかすめる。と、そのたびに、リンが「あぁん…」と焦れたような声をあげ、腰を僅かに揺らす。

ラスは、リンの脚の付け根をしっかと抱えなおすと、親指に力を込めて潤びるリンの花弁を大きく押し広げた。紅色の媚肉が重なり合って濡れ濡れと光るさま、それより更に色濃い宝石のような小さな肉珠が控えめに顔を覗かせているのが見えた。

ラスは、その肉珠を根元から丁寧に幾度も舐め上げ始めた。こりっと固くしこったその珠を、舌先で優しくいじめるように、突付いて舐め回す。

「ふあぁっ…はっ…あぁあっ…」

リンが小さな叫びのような嬌声をあげる。

「リン…吸われるのも、好きだろう…」

ラスが、むしゃぶりつくように突起全体を口に含んで吸い上げてやると、支えているリンの腰がびくんと跳ねた。

「やぁあっ…あ…ラス…あぁっ…あついの…痺れて……」

「もっと…よくしてやる…」

ラスは珠の先端を尖らせた舌先でちろちろと弾き、執拗なほどに舐めつづける。時折、舌先を秘裂に差し入れ、リンの愛液をすすりとる。リンの身体が無秩序にびくびくと震え始める。

「ひぁっ…ああっ…だめ…ラス…も…あっ……おかしくなっちゃう…」

リンは指を噛んで頭を振りながら、懸命にラスの方に手を伸ばしてきた。

「ラス…もう…来て…ほしいの…ラスがほしいの…」

「ああ…」

ラスは上体を起こして一度リンに口付けた。

「俺も…おまえが欲しい…」

ラスは、己の身体でリンの脚を割って大きく開かせると、リンの膝頭を折り曲げてしっかり掴んだ。花弁の合わせ目にラスが己の怒張をあてがうと、リンが強請るような瞳でラスをみあげた。ラスは焦らすようにゆっくりとリンを貫いていき、一度根元まで収めきった。が、次の瞬間、ラスは、いきなり引きぬきざまに、思い切りリンの最も深い処を狙って突き上げた。

「ひぅっ…」

脳天まで貫き通されたような衝撃に、一瞬リンの意識が遠のいた。リンが背をそらして、白い喉を露にすると、ラスはリンの上に覆いかぶさるように倒れこみ、リンの首筋をきつく吸いながら、激しい律動を放ち始めた。

「あぁあっ…やっ…あっ…激し…」

おなかの奥からずしんと全身に響きわたるような衝撃を立て続けに与えられた。それと共にこみ上げてくる官能は、苦しくて息もつけないほどで、リンは溺れる者のように、懸命にラスの背中に腕を回してしがみついた。律動を緩めて欲しいのか、もっと激しい挿送を望んでいるのか自分でもわからないまま、ラスを抱く腕に力がこもる。

すると、ラスはリンのお臀を鷲掴みにして片足だけを腕に抱え上げると、上方に、意識して肉壁を擦るような突き上げを放ち始めた。脚を持ち上げられている分、抉りこみは深く、だが、抱えるのは片足だから、二人の身体はぴたりと密着して離れない。ラスは、己の突き上げに合わせて揺れるリンの乳房の先端をも唇で捉え、きつく吸い上げながら、苛烈な突きを放ち続けた。リンはラスの灼き鋼のように熱く硬い男根に身体の最奥を容赦なく叩かれるたび、痺れるような、圧倒的な快楽に全身を射し貫かれるような気がした。ラスが腰を叩きつけて来る、その肉のぶつかる振動も、募る快楽を更にいや増しにするようで、リンは、切なくて、苦しくて、それでも、ラスを求めずにはいられなくて、力いっぱいラスに抱きついた。

「あぁっ…すごい…奥まできて…いい…いいの…ラス…」

「ああ、おまえの中も…火傷しそうに熱くて…きつい…」

実際、子宮口を思い切り先端で突き上げると、リンの秘裂はきゅうっと絞りこむように痛い程にラスを締め付けてくる。その一方でリンの媚肉は蕩けるように柔らかくて熱く、男根全体をみっしり包みこむように絡みつきいてきて、ラスを脳髄まで痺れさせる。きつい締め付けに、引き抜く度にカリが酷くめくり上げられて、ラスは思わず呻き声をあげそうになる。自分に、こんなにも豊かな官能の悦びを与えてくれるリンが愛しくてならず、だからこそ、ラスは、リンを更に酔わせてやりたくなる。

ラスは、一度上体を起こすと、リンの膝裏に腕を回して両脚を抱え上げた。リンの腰が若干浮き上がる。痛々しいほど押し広げられてふっくり盛り上がった花弁、リンの愛液に塗れ、てらてらと濡れ光ってリンの胎内に出入りを繰り替えす己の男根、その挿送の度にめくりあがって絡みつくリンの紅色の媚肉も、媚肉の突端に顔を覗かせている昂ぶりきった濃紅色の宝珠も、まざまざと目に入ってくる。その淫らな眺めに更に突き動かされるように、ラスは、怒張が根元まで完全に隠れるほどに深々とリンに突き入れると、身体を密着させたまま、思い切りよくぐりぐりと腰を押し付けて回した。

「ひぃいいんっ…」

リンの身体が敷布の上で悍馬のように跳ねた。男根の先端で子宮口を擦り上げられ、小突きまわされる感触の狂おしさに、リンの意識は白熱して灼ききれそうになった。

「ひぁあっ…はっ…あぁっ…やっ…もう…溶けちゃ…」

「ああ…俺も…だ…」

リンの官能が深まるほどに、ラスもまた、受け取る官能も更に深く豊かになっていくような気がしていた。リンの中で硬く昂ぶる一方の身体の反応と反比例して、ラスの魂はリンに熱く柔らかくとろかされていくようで、ラスは歓喜をもってその感覚に痺れるように溺れこんでいく自分を感じていた。

「やっ…も…私…だめ…いく……」

「ああ…見ていてやる…」

すると、リンが眦に涙をためていやいやと首を振る、ラスの肩に置かれた手に一層の力がこもる。

「やっ…一緒…ラスも一緒に…おねが…」

「…わかった…」

ラスはリンに一度口付けると、リンの脚を抱えたまま上体を倒し、リンの身体を押さえ込むようにして、矢継ぎ早の律動をくりだし始めた。時折、思い切り男根を突きいれたまま引き抜かずに腰を回して、子宮口を刺激しては、また、突き上げる。腰を一度溜めおくごとに、ラスの挿送は力強くなっていき、リンは短く忙しない吐息と嫋嫋たるすすり泣きとを交互に上げ続ける。リンの媚肉は、突き入れるたびに熱く柔らかにラスを包み込み、引き抜くたびに痛いほどきつく絡みついてくる。一突きごとに痺れるほどの快楽がラスの背筋を駆け抜け、より一層激しい律動へとラスを駆り立てる。ラスの内部でその快楽が塊となって大きく膨らんでいく。リンを高めると同時に、己を高めるためのラスの律動は激しさと力強さを増す一方で、白熱する頂点をめざし、二人はひたすらに駆け上がっていく。

「ひぁんっ…ふぁ…ぁあっ…はっ…やぁあっ…」

リンは、白く消えいきそうな意識の中で、必死にラスに抱きつき、懸命にラスを見つめていた。ラスの吐息も荒い。眉は苦しげに顰められ、涼やかな瞳は切なげに細められている。ラスの差し迫った気持が伝わってくる…ラスの…私しか知らない…私だけに見せてくれる顔…嬉し…

「ラス…好き…!」

唐突に涙が溢れ出るような歓喜が、ぐぅっと唸るようにこみ上げてきて、リンをいっぱいにした。リンの体中が戦慄くように震えた。

「…あぁあああっ…」

「くっ…」

その瞬間、ラスの内部で高まりきった快楽は、頂点で堰を切って大津波となり、一気にリンの中に雪崩れ込んだ。何も見えず聞こえない一瞬間の後、熱い何かが脈打って迸り、リンの中に注ぎ込まれていくのを感じた。

爆発する歓喜の中で魂は絡み合い、溶け合い一つのものになる…そんな幸福な幻視に酔いながら、荒い息をそのままに、ラスはリンに口付けた。

リンは小さな啜り泣きを零しながら、ラスの口付けを素直に受けた。

 

リンは快楽の残照にたゆたいつつ、ラスの胸にちょこんと頭をもたせかけていた。

リンの呼気が鎮まってくると、ラスが、ぽつりと呟くように問うた。

「俺はおまえに無理をさせているか?」

「え?…」

「おまえは…ああいっていたが…本当に、おまえの身体に、痣や傷跡を増やしてまで…おまえが戦士である必要はない。俺が族長の息子だからといって、伴侶もまた戦士である必要はないんだ…」

「ううん、ラス、私、無理なんてしてない、鍛錬は、私が自分でしたくてしてることなんだもの」

「だが、リン……俺は、おまえの手は柔らかなままでもいいと…そう思う。共に戦場を駆ける戦士は他にいくらでもいる、だが、おまえは1人しかいない…俺が…おまえに望むのは、こうして俺の腕の中にいてくれること、笑っていること…そして…いつか…俺の子を産んでくれること…それだけだから…」

リンは上体を起し、ラスの裸の胸に自分の身を半ば乗せるように預けると、ラスの顔を覗きこんでこう言った。

「あのね、ラス、私、すごく欲張りみたいなの。私は…あなたの恋人でいたいし、戦友でもありたいし、あなたの守り手でもいたい…どこまでも一緒に行きたい、あなたの何もかもで1番近くにいたいの。あなたが戦う時、1人でゲルで待ってるなんて絶対に嫌。どんな時でもあなたにとっての1番近くを他の人には譲りたくないし、譲る気もないわ。だから剣の鍛錬はこれからも続けるつもりよ」

と、リンの生き生きと強気な瞳は、次の瞬間、はにかんだ愛らしい笑みにと変わった

「でもね、あの…これからは、あんまり手を荒らさないように、肉刺(まめ)も作らないよう気をつけるわ、怪我もなるべくしないようにする。ラスに、傷跡だらけで見苦しい身体だって思われたり、硬くてごつい手だって思われるのは嫌だもの…それで、ラスが私に触れてくれなくなったり、私からも触れられたくないなんて思われたら…私、寂しくて死んじゃうもの」

ラスは一瞬、端整な眉をあげ、次いで面白可笑しそうに笑った。

「俺は…おまえが俺に触れたいと思ってくれるなら、どんな手でも拒んだりはしない」

「でも…でも、がさがさの手より、柔らかな滑らかな手の方がラスだって気持いいでしょう?私、いつでもラスと一緒にいたいし、ラスに触れたいし、触れてほしいし…やだ、こうして口にしてみると、私、本当に凄く欲張りだわ…恥ずかしい…」

リンが頬を染める様は大層愛らしく、ラスは瞳を細めて見つめた。

「かまわん…おまえのそういう気持は…かわいい…と俺は思う」

「やだ、ラスったら…」

リンは、耳まで真っ赤になってラスの胸に顔を埋めてしまった。ラスはそんなリンの肩を優しく抱きよせた。

「リン…なら、俺も遠慮はしない、おまえに俺の全てを預ける。おまえはいつも…いつでも俺の傍にいろ」

「ん…だめって言われても一緒にいるわ…あなたの傍を離れたくない」

「…さっきも言った…可能な限り長く、おまえに触れたい、おまえの温もりを感じていたいのは俺のほうだ…」

「ラス…私もよ、私だって…」

競い合うように、吸い寄せられるように二人は唇を合わせ、きつく抱きしめあって互いの肌をまさぐりあった。

リンが生涯この誓いを守りぬき、それを無上の幸福とすることを、まだ、この時は知る由もなく、二人はただ、互いの温もりの大切さをしみじみとその身に染み入らせていた。

FIN

 今回のラス×リンも今までのお話と同じシリーズ物で、時間的には「会えない時間U」の後、もちろん、オーラスの「地上より永遠に」よりはかなり前のお話です。 
 実は、この話の元の元ネタを思いついたのは台湾の故宮博物館見学中でした。
 展示物の中で『搬指』という玉(翡翠)製の太い指貫みたいなものをみつけまして、何かと思ったら、これが弓使いが弓を射る時指の保護に使ったものだったのですね。
 ラスたちサカの民のモデルは明らかにアジアの遊牧民ですから、となると弓の射方も大陸式(モンゴル式ともいう)のはずでして、ならば、ラスも指の保護に絶対この「搬指」みたいなものを親指に嵌めていたはず!という連想が一気に私の頭の中を駆け巡りまして(短弓などモンゴル式の弓は親指で弦を引きます。和弓もそう。一方洋弓は人差し指・中指・薬指で弦を引きます)それで、この指の保護道具をモチーフにラスとリンの話を書いてみたくて仕方なくなくなってしまったのです(こういうの、同人で『神が降りる』っていうんですかね)
 しかし、更に実はなんですが、帰国してから私は、このネタを一度あっさり諦めそうになりました。だって、ラスのキャラ絵見ても、デカイ指貫状のものなんて指に嵌めてませんから!
 となると、あの手甲がきっと手を守ってるんだわ…ということで、弓使いが手指の保護のためにつける道具を更に調べてみたのですが…これ、日本では弓懸けという名前でして、手にフィットするかしないかで弓の命中率が全然変わるという、弓矢そのものと同じくらい重要な武具だった上に、それこそ職人が匠の技を駆使して作る工芸品のような武具だということがわかりました。、
 射手は手にあった弓懸を入手するのも一苦労だし、一度手にあわせたものは、修繕しつつ10年以上使ったりするということもわかりまして、例えば、リンがラスに弓懸を用意して「離れてる間もこれを私と思って」みたいな展開にするとか、自分で弓懸を手作りしてラスにあげる…とかの少女漫画的展開を最初考えていた私はあっさりこの案を捨てました。
 だって命に関わる職人芸の武具をリンがいきなり作れる訳ないし、作ったとしてもラスにあげるわけありません。素人細工の手にフィットしない武具なんてつけさせたら命取りになっちゃうんですから、何よりラスを大切に思うリンが、そんなことするわけないですから。
 で、このネタはもー使いようがないかなーと諦めかけた時に指の保護→手の保護と連想が進みまして、そういえばリンはキアランに帰ってからは祖父の介護で忙しくて、多分武器を振るってないはず、となると、戦いでの傷跡も薄れていきましょうし、手も柔らかくなりましょう。元々手入れされた柔らかい手(苦労してない手)は上流階級の証ですからね。
 じゃあ、リンの手が柔らかくなっていたらラスはどう思うか、そしてリン自身はどう感じるか…を考えだしたら一挙にこの話ができあがったのです。
 FE世界ではキャラは一度死んだら2度と生き返りません。そんな過酷な世界ですから、ラスは、リンが戦場に出ずに済むならその方がいいと思うと、私は考えました、リンの手が柔らかになったのなら、そのままでいいではないかと…。でも、リンはリンで、どんなに強い戦士でもまかり間違えば死ぬ戦場にラス1人で行かせたくない、むしろ一緒に戦ってラスを守りたいと思うでしょう、これはオーラスの話にも通じる私のリンへのキャラ観ですから。それで、できあがったのがこの「柔らかな手」でした。
 そしてまたまた、青空給仕さまに優しいお声をかけていただきまして!このお話にも、超絶美麗挿絵をいただいてしまったのですよー!もう、嬉しすぎますー!
 私、このファイル開けさせていただいた瞬間、とろとろのぐずぐずに溶けて正体なくなってしまいましたよ…それくらい甘い!ラブい!二人が互いに互いを大切に思ってる様子が圧倒されるほどのパワーで絵から伝わってきたんですよ!
 ラスの優しい包み込むような表情もたまりませんし、何より、あの愛情溢れるリンの抱き方がたまらんのですけど!
いっつも青空さんの描くラスは、キリリとした眼差しにものすごい優しさと無限の愛しさをこめてリンを見つめる様子がほんと素敵で、のたくりまわるほど、うっとりしちゃうのですが、今回のラスは、更に腕と手指の動きが最高にリンへの愛を表現してくれてますよ!
もう、本当にラスったら、なんて大事そうにリンを抱いているんでしょう…リンがいかに大事かがひしひしと画面から伝わってきます。
 また、リンの切ないような甘えた表情が最高にかわいいったら、かわいい!リンがこんなに甘えた表情見せるのはラスに対してだけなのよねーって思うと、なんとも嬉しくなります(あくまでウチのリンは、ですが)
 リンがラスに全身預けきってる構図も、ラスに心を許しきってる証のようで、もうもう、私はあまりの幸福に失神…きゅうぅうう〜
 とろとろにとろけそうな、あんな幸せそうな二人を見させてもらって、本当に私は果報者です、青空さん、本当に心からありがとうございます!
 そして骨董甲子園さまではバージョン違いのイラストが掲載されているのですが…これがまた、ステキなんです!愛の褥に横たわる二人の上に窓を通して優しく月光が降り注ぐ…といった大変にしっとりした趣のある情緒溢れるラス×リンイラストなんですよー!ウチにいただいたものと、また、受ける雰囲気が違いますので、是非是非骨董甲子園さまにもおいでになってみてくださいー!


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