Surprise for you 4

リュミエールがクラヴィスに命じられて広げたのは、様様な色の丸が描かれた大きなシートと、なぜか判目が、様様な色で左右の手足の書かれたルーレットだった。

「きゃー!これ『ツ○スター』じゃないですか!パーティーでこれすると、もりあがるんですよね〜!スモルニィの子達とホームパーティーでしたことありますぅ。」

いち早く反応したのはアンジェリークだった。

「『ツイ○ター』?何だ?それは…」

生きた化石である光の守護聖が首を傾げている。

「あー、これはパーティーゲームのひとつでして、ゲームに参加する各人がルーレットの出た目と色に合わせて、左右の手足をあのシート上の様様な色の丸に置いていくんですね。」

すかさず歩く百科辞典である地の守護聖が答える。

「しかし、それでは出た目によって届かなかったり、他人とぶつかってしまうだろう。そうしたらどうするのだ?」

「だから、そこがゲームなんですよ。どうしても届かなかったり、体が支えきれなくてつぶれてしまった人から負けになるんですね。そして最初に負けた人にはペナルティを課しておくと、より盛りあがる訳です。」

「なるほど、だからパーティーゲームと言う訳か…」

「私も聞いたことはありますが、実際にみたのはこれが初めてですよ〜。」

「ええ〜?皆さん、なさったことないんですか〜、楽しいんですよ、これ。つぶれた人が他の人巻き添えにしちゃったり、下敷きになっちゃったりする人がいたり…あ、そういえば女の子どうしでキスしちゃった子もいたっけ…」

何気なしに言ったアンジェリークの言葉に一部の男たちが一斉に色めきだった。

「はいはいはい!俺、俺アンジェとやりたいっす!」

「見え見えなんだよお!おまえは!」

「誰がこれを持ってきたと思うのだ。アンジェリークとゲームをするのは、私とリュミエールに決まっているだろう。」

「そうですね、クラヴィス様。他の方達は残りの2、3人ずつで適当に組みでも作ってください。」

「ええええ!そんなぁ!せめて籤にしてくださいよお。」

「むさくるしい野郎だけでこんなゲームして何が楽しいってんだよお!」

「え?え?え?あの、もう私はリュミエール様とクラヴィス様チームに参加することになってるんですか?」

「いかん、いかん、いかん、ぜえったいにいかーん!」

オスカーがどすどすと大股で歩いてきて、アンジェリークをがっしと後ろから羽交い締めに抱きしめると、そのまま持ち上げて自分の背後に隠してしまった。

「おまえらお嬢ちゃんを殺す気か!2人揃ってお嬢ちゃんの上に倒れこんだらどうするんだ!2人あわせた体重が何キロになるかわかってるのか!この俺でさえ滅多に体重をかけないように大事に大事にしているお嬢ちゃんにそんなデンジャーゲームをさせる訳がないだろうがっ!マシュマロより柔らかく、砂糖菓子より甘いお嬢ちゃんが壊れちまうだろうが!」

ふーふーと鼻息も荒く、オスカーが、がるるる…と牙を向いて唸っている。

「なら、仕方ありませんから一人ずつ順番ですね。クラヴィス様、どうぞアンジェとお先に…」

「ふ…すまないな。」

「それでもだめだあああ!」

「なぜです?一人ずつなら問題ないでしょう?オスカー。幸い私もクラヴィス様もあなたよりは軽いでしょうし。万が一倒れこんでもアンジェをつぶす心配はないと思いますが?」

「おまえらなあ、こういうゲームをするつもりで、そんなズルズルした物を着てくるか?普通!倒れても倒れこまなくても、姿勢によっては見たくもない服の中身まで見えちまうじゃないか!見たくもないものを見せつけるのも立派なセクハラなんだからな!家の主人としてそんな公序良俗に反することを俺は認めん!」

「あんたから、公序良俗に反するなんて言葉が聞ける日がこようとは…長生きってしてみるもんだねぇ。」

まったく論点のずれた部分で夢の守護聖は関心しきりであるが、本題に介入する気はないらしい。他の者もこの争点の行方にはあまり感心がないようで、こういう揉め事を嫌うジュリアスですら、『結果はわかりきっている』とばかりに静観を決め込んでいるようである。

「ならスラックスに着替えて参りましょうか、クラヴィス様。」

「うむ…」

どこまでも冷静かつ執拗かつ諦めの悪い2人組みについにオスカーが爆発する。

「それでも、だめなもんはだめなんだああ!」

オスカーはとにかくアンジェリークにゲームをさせたくなくて、理屈をこねていただけなので、屁理屈が論破されたら、もう理屈抜きで嫌も応もなく突っぱねるしか手は残っていないのだった。

その時おずおすとアンジェリークがオスカーの体の後ろから顔を出した。

「あ、あの、話題になってるのは…私がこれに参加するかしないかなんですよね?あの、私、オスカー様がしないでくれっていうことはしないようにしてますから…その、人が嫌がることはするなってよく言うじゃありませんか。だから、あの、クラヴィス様、リュミエール様、申し訳ないんですけど…」

「お嬢ちゃん、嬉しいぜ!俺の気持ちを汲んでくれて!その言葉の用法はちょっと違うんじゃないかと思うが…」

明かにほっとした顔のオスカーと対称的に、でろでろどよーんとクラヴィスの背後に暗雲が広がった。クラヴィスとリュミエールは2人で顔をつき合せてひそひそ話を始めた。

「やはり、思惑通りにそう上手くはいかぬか…」

「オスカーの存在を念頭におかないのが徹底しすぎましたね。介入を当然警戒してしかるべきでした。」

「こんなことなら他のグッズを買っておけばよかったな…真っ赤な全身タイツとか…キャットガールの衣装とか…うさぎさんの衣装とか…」

「ああ、アンジェのドキンちゃんは本当に愛らしゅうございましたからねぇ。陛下ももう一度ホロムービーの企画をなさってくれないでしょうか…」

「しかし、この様子ではオスカーにそれも取り上げられるのがオチだったようだな。買わずにいて正解だったかもしれぬ。」

2人は楽しい共同謀議の際に、オスカーの誕生日というよりアンジェとのホームパーティーをいかに楽しむかということだけに力点を置いて、俗に言う「パーティーグッズ」を某商会のショッピングページで検索して拾い、これはと思ったものを購入しておいたのだった。(そして当初はそれをプレゼントにしてしまうつもりだった。)

『ツイス○ー』を見つけた時は、これをアンジェとできたらどんなに楽しかろうということで頭が一杯…というよりオスカーは存在は故意に無視しようというポジティブシンキングが強すぎて、当然あってしかるべきであるオスカーの邪魔まで考えが至らなかったのだ。

「仕方ありません、アンジェが参加しないのでは、こんなゲームをしても何にもなりませんからね…」

あっさりとリュミエールはシートを片付けて一度引き下がったかに見せてから、にっこり微笑み有無を言わせぬ圧力でがぶりよってきた。

「では、体を使わないゲームならよろしいですね?私どもは今夜のパーティーを盛り上げようと他にもゲームを持ってきてあるのです。」

「にゃに?他にも何やら不埒でヨコシマな魂胆みえみえのグッズがあるのか?没収だ!」

「ああ、そう警戒心も露に威嚇しなくてもいいですよ、オスカー。単なるすごろく…のようなものですから。それにこれなら何組みかにわけなくても、この場にいる全員が一度に参加できますよ。いかがですか?アンジェ?」

「すごろくならいいんじゃありませんか?オスカー様。」

「ううむ、お嬢ちゃんがいいというならいいが…」

本当の事をいえば、食事が済んだら客をさっさと追い返したいオスカーなのだが、アンジェリークの手前もあるし(なにせアンジェリークが呼んだ客である)、こちらから「さあ、飯も済んだし、皆帰れ」なんて言おうものならジュリアスから「それが客を招待した主人のとる態度か!」と数時間の説教をいただく可能性が大である。これだけはどうしても避けたいのでオスカーは本音を言うにいえない状況である。

そのあたりの事情を見越したかのようにリュミエールはにっこりと微笑み、

「では、皆さんで一緒にゲームをいたしましょうね。」

と言って取り出したのは『人生○ーム女王試験版・目指すは宇宙の女王様!』というボードゲームであった。

「なんだ?これ人生ゲー○ってのは子供の時やったことがあっけど、仕様がちょっと違うみたいだな…なになに? 『飛空都市での素敵な冒険があなたを待ってるわ。九人の素敵な守護聖様と仲良くなりながら、育成したり、お話したり…あっ!ライヴァルの妨害!でも、負けてられないわ!宇宙の女王になるその日まで!』ってこれ、女王試験そのまんまじゃねーか!」

「はい、下界で売り出された時事バージョンの人生○ームなのですよ、これは。宇宙の移動があったので、今回の女王の交替は下界の衆集に広く知れわたっています。で、新女王即位を記念して女王試験を模したゲームが発売されたようなのですよ。私が中身を少々見ました所、どうも、女王試験の際に飛空都市にいた住人がスーパーバイザーといいますか、監修とでもいますか、とにかく何らかの形で関わっているらしく守護聖の既述などがどこかで見たような人たちばかりなのですよ。で、これを私どもで遊んだらおもしろいのではないかと思いまして、お持ちした次第です。」

「へぇ…ちゃんと女王府の名前がはいってるじゃねーか。闇商品じゃねーってことか。」

「恐らく、子供たちに聖地や女王試験にいいイメージを持ってもらおうと許可したのでしょうね。プロパガンダビデオは誰かさんのせいでお蔵入りになってしまいましたし…」

「なにがいいたいんだ?リュミエール。」

「いいえ、別になにも…さあ、ではゲームをなさるのはどなたですか?」

「俺はいい、お子様向けのすごろくに興味はない。」

「オスカーさま、なさらないんですか?」

「お嬢ちゃんはしたかったらするといい。俺はお嬢ちゃんのプレイを見ているから。」

「なら、オスカーには銀行…じゃなかった王立研究院役をお願いします。カードやアイテムの受授に専任の人が必要だったのです。ちょうどよろしゅうございました。」

「げっ!」

「では、他の方は皆さん参加でよろしいですか?」

「はい、はい、はーい!」

「皆でこんなゲームするなんて、楽しそうだね〜」

「まあ、たまには童心にかえるのもよかろう。」

「とかなんとか言って、内容が気になるんじゃないの?聖地がどう描写されてるかとか、機密が漏れていないかとか…」

「女王府の許可が出ているなら心配はないと思いますがね〜」

そして、各人、様様な色に塗り分けられたスモルニィの制服らしきものを着た女の子型のコマを選んでスタートにつき、順次ルーレットを回すことになった。

「わははは!ちゃんと飛空都市そっくりに作ってあるじゃねーか、このボード!量産品にしちゃ結構いいジオラマになってるぜ。」

「ルーレットを回してコマをすすめて…ゴールは女王の宮殿ですね?」

「えっとお、ハートのカードをもらうマスと、使うマスがあるんだね。…カードを集めておいて使うマスでそのカードを出しておしゃべりか育成か選ぶんだね?おしゃべりを選ぶと、守護聖のハートチップがもらえてそれが仲良しの目安になって…育成なら建物がもらえるのか…」

「おらあ、オスカー、ハートカード2枚よこせ!」

「せかすな!カードやらチップやら建物やら、こちゃこちゃしたアイテムが一杯あって訳がわからないぜ、まったく…」

「ぼくはハートカード2枚使って建物一個建てます!はい、交換してください!」

「私も育成を致しましょう。やはり自分の地の建物をたてましょうかね〜」

「うむ、女王候補としては育成に励むのが当然であるな。私も育成だ。」

「ああああ!一遍にカードをださないでください!」

「この程度の事務処理でてこずっていてどうするのだ?オスカー。女性なら一時に数人相手することなど日常茶飯事であっただろうが。男相手だと一時にさばけないとでも言うのか?まったく嘆かわしい…」

「え?ジュリアスさま、オスカー様がなんですって?」

「ぐぇほ・ぐぇほ…なんでもないぜ、お嬢ちゃん、はい、それぞれ建物一個とカードを交換いたします…ぜぇぜぇ…」

「ふ…やればできるではないか…」

「俺も育成しようかな…でも、ここに『育成も大事だけど、守護聖様と仲良くしてハートチップをたくさん集めておくと、あとでいいことがあるわよ!』って書いてあるしなぁ。いいことってなんだろな?」

「ふ…それはゲームがすすんでからのお楽しみだ…私は守護聖とおしゃべりしてチップを集めて親密度を上げるとするか…」

「やる気のないおまえらしい言い草だな。最初から育成は放棄しておまけを狙うとは…」

「ふ…相変わらず視野の狭いことだな…」

「なに!?」

「あ、私も別れ道だわ。『真面目に育成・ばりばりコース』と『守護聖様と仲良くなるわよ・スイートコース』ね。私はスイートコースに行こっと。」

「アンジェリーク、そなたまでこの怠惰なコースを選ぶとは…嘆かわしいぞ…」

「だって、そっちのコースは近道のようでいてペナルティマスが一杯あるんですよ?スイートコースは遠回りだけど一回休みとか、戻されちゃうコマ少ないですもん。」

「ほら、早速おまえの番だ…なになに?『光の守護聖からきっつーいお説教をくらって落ちこむ。一回休み』だそうだ…」

「うぬ!?そういうおまえはどうなのだ?『闇の守護聖の執務室に行ったら昼寝中だった。自分もつられて居眠りしてしまう。建物1個失うが闇のハートチップを一つゲット。』このゲームの製作者の観察眼はなかなか鋭いとみえるな。そなたの怠惰さがよく出ているではないか。」

「えっと…『緑の守護聖のおやつにつきあって5キロ太る。ジョギングをするため10コマ戻る』って、えー?なにこれ?」

「ん?『風の守護聖にフリスビーを投げてはとってくる遊びに付き合わされ体力を使い果たす。2回休み』ってひっでー!」

「『鋼の守護聖の実験の爆発にまきこまれる。爆風で15コマ戻る』…って、俺そんな爆発おこしたことなんてあっかよ!」

「ひーひー!あまりの可笑しさに息もできないよ、私は!」

「んなこと言ってていいのかよ〜ほれ『夢の守護聖に捕まってフルメイクを施される。特別寮に帰っても本人とわかってもらえず入れない。ルーレットで奇数がでるまで休み』だってよ。」

「って失礼ね〜、私は素顔のわからなくなるようなメイクなんてしてないよ!」

「あ、私は…ライヴァルの妨害だそうです。誰かとルーレットを回して負けたほうが、建物を一個返すか20コマ戻させなくてはならないとは…私は争い事は嫌いですのに…哀しいことです…」

「って、すごろくってそもそも争い事じゃねーの?これ持ってきたのどなたさんでしたっけ?」

「ゼフェル、目端が効き過ぎると不幸になりますよ。あなたの妨害をしてさしあげましょう。」

「げえっ!」

『ばりばり育成コース』を選んだ面子はペナルティコマの多さに2歩進んでは3歩戻るような状況である。その点、道のりは長いが『スイートコース』を選んだクラヴィスとアンジェリークは順調にコマを進め早くも第一チェックポイントにさしかかろうとしていた。

「皆さん、コース選ぶ前に行く先やマスの内容見なかったんですね。行く先確認は人○ゲームでは基本ですよ?」

「ふ…短絡的な展望しか持たないからこういうことになるのだ。」

「何がいいたい?」

『水の守護聖にモデルを依頼され一日動けず1回休み』のコマに止まっていたジュリアスがつっかかる。

「別に…ただ、おまえの辞書に『いそがば回れ』と言う言葉は存在しないのだろうな…と思っただけだ。む…ここで、一度必ずストップだそうだ…」

「『必ずストップ・チェックポイント!』とは何をするところでしょうね〜『ハートチップが15個以上ある守護聖がいた場合、その建物を2個づつもらえる。ハートチップ5個以下の守護聖がいる場合、逆に建物を一個づつ没収。』なるほど!プレゼント育成と妨害ですか!守護聖とも仲良くしてないといけないのは、このためですね〜」

「ふ…おまえは守護聖とのお喋りやデートを馬鹿にして親密度をまったく上げていないから、今まで育成で建てた建物はおそらくここで半減するぞ。目先の利と目に見える結果ばかり追っているからだ。その点私をみろ。すべての守護聖と仲良しなので、今まで育成しておらずともいきなり建物が18個になるぞ。さあ、オスカー、私に建物をよこせ。」

「ぐぐぐ…なんと邪道な…」

行き先を見通してみると、もう親密度をあげるコマはチェックポイントまでないので、クラヴィスの不吉な予言はどう考えても真実となってジュリアスに襲いかかること必定である。

「きゃっきゃっ!なんか試験のこと思い出しちゃう!懐かしい〜!私も、つい炎の守護聖様とおしゃべりやデートばかりしてるから、炎のハートチップはもうマックスの20個になっちゃいました。あら、オスカー様大丈夫ですか?なんだか、とってもお忙しそう…」

「はあはあ…クラヴィス様の建物配布終わり…お嬢ちゃん、炎の守護聖と仲良くしてくれてうれしいぜ。忙しくてマスの内容が読めないんだが、炎の守護聖の記述はどんな感じだ?えーっと、次は誰に何の建物わたすんだっけな…このカードは誰のだ?」

「その…『炎の守護聖に朝からデートに誘われる。』ってコマばっかりです。デートすると建物を失うかわりに替りハートチップをゲットできて、デートを断ると建物は増えるけどハートチップを無くしちゃうんです。」

「で、お嬢ちゃんはいっつも俺じゃない、炎の守護聖とデートしてくれるんで、ハートチップが溜まったってわけか、ありがとうよ、お嬢ちゃん。でも、育成は大丈夫か?お嬢ちゃんが負けるのもかわいそうだからな。」

「炎の守護聖様がハートチップのおかげでたまにプレゼント育成してくださるから大丈夫ですぅ。普通のコマのなかにハートチップが18個以上ある守護聖がいる場合、建物を一個もらえるっていうのが結構あるんです。」

「とかいいつつ、お嬢ちゃん、日曜日のコマでどうして、光の守護聖とデートしてるんだ!炎の守護聖はどうしたんだああ!」

「だって日曜にデートするとハートチップ2枚もらえるんですもん。もう炎のチップは20枚たまってしまってこれ以上増やせないから、他の守護聖さまのも集めないと、チェックポイントで建物没収されちゃいますもの。ほら、今チェックポイントに漸く辿りついたあそこのジュリアス様みたいに…親密度がないから、妨害で今までの育成がほとんど無に帰しちゃったんですよ?おかわいそう…真面目に育成なさってたのに…」

「くっ…無念…だが、光の守護聖とデートするのはよいことだぞ、アンジェリーク。いろいろと有用なことを教えてくれるだろうからな…しかし、育成にこんな邪道な方法がまかりとおってよいものか…くくく…仕方ない、したくはないが今度は闇の守護聖とおしゃべりだ…」

「でも、ジュリアス様だって私の試験の時、よくプレゼント育成や、妨害なさってたじゃないですか。私、覚えてますよ。ジュリアス様から一杯光のサクリアいただきましたもの。」

「そ、それを言ってはならん!」

「じゅ、ジュリアス様、何時のまに俺のお嬢ちゃんに…」

「オスカー、何だ!その目は!わ、私にはやましい所などないぞ!ただ、アンジェリークが懸命にがんばっていたので、ちょっと手伝ってやろうと思っただけで…」

「かっかっか!まったく、このゲームの作者はよく見てたんだな〜、俺たちのことをよ!な、首座の守護聖さま?」

「むぐぐぐ…何故、このゲームの発売を女王府が許可したのかわからぬ…」

「ふ…」

「おや、また妨害のコマに止まってしまいました。私は妨害のコマにばかり止まるような気がしますね…ルヴァ様、申し訳ありませんが、妨害させていただきますね?」

「あー、あのー、トップを走っているのはアンジェとクラヴィスですよ〜。あっちに妨害をしかけたほうが、あなたの勝利の確率は高くなると思うのですが…」

「アンジェに妨害をしかけるなど、そんなかわいそうなことを私ができるとお思いですか?クラヴィス様にはいわずもがな、ですね。というわけでルヴァ様、20コマ戻ってくださいね、ふふふ…」

「あ〜れ〜」

「お嬢ちゃん、今度は闇の守護聖とデートか?炎の守護聖はどうしたんだ?すっかりお見限りじゃないかぁ〜」

カードやアイテムの受け渡しに大忙しのオスカーはちらちらとアンジェリークのゲーム進行に目を配っていたが、この所、炎の守護聖はちっともお呼びがかかっていないのが、寂しいオスカーである。

しかし、このセリフを聞いたアンジェリークは顔をあげてきっとオスカーを見据えた。

「ぷんぷん!もう、炎の守護聖様となんてデートしません!だって、『執務室に行ったら炎の守護聖が女性を数人つれての朝帰りに丁度出くわす。ショックで寮で寝こみ一回休み』ってコマがあったんですもん…知らなかった…オスカー様が飛空都市でそんなことなさってたなんて…」

オスカーが手にもっていたカードをどさーっと取り落とした。

「ちょ、ちょっと待て!お嬢ちゃん!そ、それは誤解だ!」

「あーあー、こんなにばらまいちまってよお。動揺しまくりでやんの…」

「そんなに動揺なさるなんて…やっぱり、本当のことだったんですね〜。私、ショックです…オスカー様が女王試験の最中もそんなことなさってたなんて…」

「違う、違う、ちがーう!俺が動揺したのは思ってもみなかったことをいきなりつきつけられたからだ。大体、この炎の守護聖はあくまで架空の存在で俺本人じゃないだろう?俺は試験の時、そんなことは絶対にしてないぞ!」

「でも、他の皆さんの描写もありそうなことばっかりじゃないですか〜。オスカー様だけ違うなんてことあるんですか?」

「天地神明にかけて誓う!飛空都市にいる時、俺はそんな真似は一度たりともしてないぜ!俺は試験の最中からお嬢ちゃんに夢中だったからな!」

「ほんと?ほんとに?オスカーさまぁ…」

「ああ!絶対に本当だ!」

「よ、よかった…私、信じちゃう所でした、ごめんなさい…くすん…」

「ばかだな、お嬢ちゃん、泣くことないじゃないか…さあ、涙を拭いて…」

「でもよう、飛空都市に来る前はどう…もがむぐごはっ…」

オスカーがゼフェルにアイテムを渡す振りをしながらヘッドロックをかけた。

「ゼフェル…ほら、おまえのチップだ。余計なことをしゃべったら…殺す!

「げえ…目がマジでやんの…」

気をとりなおしたアンジェリークは調子よくコマを進めている。

「あ!私、森の湖だわ。ルーレットの数が偶数なら守護聖様が来てくれてデート。奇数ならハートカードを失うだけ…えいっ!やたっ!偶数だわ!で、もう一回ルーレットをまわしてデートの相手を決めるのね…」

「あー、1から9までのこの数字ボードがそのまま守護聖のボードにもなってますね〜1番から光、2番・闇と書いてありますよ。」

「んんん〜!あ、7が出たから…えっと鋼の守護聖様とデートだわ。チップを2枚もらえるのね。」

「きししし、オスカーすまねえぁ。俺がアンジェとデートしちまって。」

「おまえがじゃないだろう!おまえがじゃ!」

「それなら、おっさんだって、いちいちアンジェが炎の守護聖とデートできたかどうか一喜一憂してんじゃねえよ。勝手に参加しなかったくせによぉ。」

「ぐぐぐ…」

「私の番だな…『必ず、ストップ・最終チェックポイント』か…なになに、女王への道へそのまますすむか、人生最大の賭けをするか…チップがマックスの守護聖がいる場合、人生最大の賭けができます…か。建物の数は十分だがチップがマックスの者はないな…私はこのままゴールを目指そう…」

「ああっ!クラヴィス様、早い!最早ゴール直前じゃないですか!」

「クラヴィスじゃ後が怖くて誰も妨害しなかったからね〜。しかも、ペナルティの少ないコース選択で最初に親密度あげておくあたり、効率いい育成してるよ、まったく。こっちのお方は出足が悪かったからなかなか親密度があがってないみたいだねぇ。」

「そなたのように、最初からトップを諦めているよりはマシであろう!」

「きゃははっ!私はこのマスの解説読んでるだけで楽しいもーん。あら『夢の守護聖にネイルアートされ、一日手が使えず一回休み』だって…」

「あー、私はですね…『地の守護聖の書庫で本の整理を手伝っていたら本の雪崩にまきこまれ圧死しそうになる。10コマ戻る』あー、そう言えば陛下をそんな目に合わせてしまったことがありましたねぇ。一体誰に見られていたんでしょう〜。しかし、また戻るんですか〜。全然前に進めませんね〜。」

「み、未来の女王陛下を失うところだったとは…ルヴァ!万が一もう一度女王試験があっても、女王候補に2度と書庫の整理を頼んではならぬぞ!しかし、それで陛下はルヴァの書庫には近づかないのだな。どんな書物も必ず人づてに取ってこさせるのでおかしいとは思っていたのだが…」

「もう一度女王試験か…なんで女王候補は2人なんだろーな。このゲームみたいにもっといれば、俺にも彼女ができたかもしれないのになー。」

「まったく、おめーは単純だよなー。候補が一杯いたって、おまえに惚れるとはかぎらねーじゃねーか、しかも、こんなにいっぱいいる女王候補全員から『たくさん育成』でも集中してお願いされてみろよ?俺たち、腎虚で死ぬんじゃねーの?ったく、目先の事しか考えねーんだからよー。」

「なんだとおお!」

「ああああ!喧嘩はやめてよおお!」

「おまえら…お嬢ちゃんの錫杖で尻ひっぱたかれたいか?静かにしないとたたき出すぞ。」

アンジェの錫杖で…ちょっとされてみたいかも…

「ん?何か言ったか?アイテムでも足りんか?」

「わたたっ!いえ、なんでもないっす!」

「あ、次、私の番ですね。あ、私も最終チェックだわ。チップがマックスの守護聖様がいたら、人生最大の賭けができるのね…私が持ってるマックスのチップは、光・闇・水・炎・鋼の5人の守護聖様。賭けをする時は、ここから一人だけ選ぶのね…」

アンジェリークがちらりとオスカーの方をみたら、オスカーはいかにも『俺は何にも気にしてないぜ!』といった面持ちでわざとらしく横を向いて、冷静さを演出しようとしていた。

アンジェリークはくすっと笑うと

「私は賭けをします。えーっと、一ヶ所にチップを置いてルーレットを回して、その数が出たら勝ちなのね…どの守護聖さまの所で賭けをしようかな?」

どろろろろ…と太鼓の音がなり響くような雰囲気のなか、自分自身でないとはわかっていても、ノミネートされた守護聖が手に汗を握ってアンジェリークの発表を待っている。

「ん〜ん〜ん〜!やっぱり5番、炎の守護聖様と人生最大の賭けよ!」

「おっじょうちゃん!俺はお嬢ちゃんを信じていたぜ!」

オスカーがくううううっと唇を噛み締め感動に震えている。

「ここは、是非俺にルーレットを回させてくれ!お嬢ちゃんとの幸せな未来は自分の手で掴みたい!」

「さっき、この炎の守護聖は自分とは別人だって、言ったくせによー(ぼそっと)」

「うんうん、まったく手前勝手っていうか、なんでも自分に都合のいいように解釈しちゃうっていうか…(小声で)」

という周囲の雑音を無視するオスカーである。

「集中、集中…ふっふっふ。伊達にカジノで鍛えたわけじゃないぜ!出ろ!5番!」

といってオスカーが回したルーレットは、その気合ゆえか、お約束通り5番にとまったのである。

「きゃー!オスカー様、やりました!炎の守護聖様とらぶらぶEDで補佐官就任です!えーとらぶらぶEDカードをとってゴールへ…なのね。この炎の守護聖様のイラスト、やっぱりオスカー様に似てますよ、ほら…えっと『俺に真実の愛を教えたのは君だ…』ですって…いやーん!照れちゃうぅ〜。」

アンジェリークがきゃーきゃー言って照れながらも、嬉しそうににこにこしている姿を見てオスカーもご満悦である。

「ふ…見たか、お嬢ちゃん。幸せは気合とやる気で掴むものなんだぜ?この分なら俺はディーラーでも食っていけそうだな。」

「じゃ、私は人生最大の賭けで勝ったから、一足お先に宮殿で女王様をお待ちしてますね〜えーと、負けちゃった場合はどうなってたのかな?…あ、スモルニィに戻る…か…スモルニィの子もこのゲームしたりするのかな…」

ちょっとしんみりしてしまったアンジェリークをすかさずオスカーが抱き寄せ様としたところ、その役はすでにクラヴィスに奪われていた。

「里心がついてしまったか?しかし、今、おまえの故郷はここであろう?おまえのことを誰よりも大事に思うものは皆ここにいるであろう?」

「あ、ごめんなさい、私ったら…皆さんのお気持ちも考えずに…」

「ほら、1、2、3と…私が女王としてゴールしたやったからな。こうして一緒にいれば寂しくないであろう?」

と、ゴールにコマを2つ並べるクラヴィスである。

「ふふ、そうですね、ロザリアと私みたい…ありがとうございます、クラヴィス様…」

「お嬢ちゃん!お嬢ちゃんの隣にいるのは炎の守護聖だろーが!」

「守護聖はぺらぺらのカードしかないのだから、コマに並べてたてることはできぬからな…ふ…」

「クラヴィス様、おめでとうございます。クラヴィス様が女王にお成りならきっとこの宇宙は末永く安泰です。補佐官のアンジェと末永くお幸せに…」

ひたすら他人の妨害に勤しんでいたリュミエールが目頭を抑えている。

「だから、お嬢ちゃんと末永く幸せに暮らすのは炎の守護聖だと言ってるだろーがっ!」

「私も納得いかんな…あの怠惰で無責任で、育成はそっちのけで守護聖とデートしかしていないものがなぜ女王位にトップでゴールインするのだ…」

「まあ、人生とはえてしてそういうことになりがち…いや、ゲームですから、あくまで…ね?ジュリアス?」

「いやあ、久々に童心に返って遊んだな〜!結構おもしろかったぜ!クラヴィス、リュミエール。」

「って、あんたもともと子どもじゃなーい?でも、マジで割と楽しめたよ、これ。」

「面白い物探してきてくださってありがとうございます。クラヴィス様、リュミエール様。」

「あなたが楽しめたのならそれでいいのですよ、私たちは…そうですね、クラヴィス様。」

「うむ…おまえが楽しかったのならそれでいい…」

「あの…このゲームはオスカー様へのプレゼントですか?」

「いや…そうではない、単なる余興用に用意したものだ。」

「あの、あの、じゃ、これ宮殿に持っていって、今度はロザ…陛下も一緒にまた皆さんとできないでしょうか!ロザ…陛下もきっとこのゲームみたら喜ぶと思うの!今日は陛下はウチに来られなかったから…」

「ああ、それはいい。私が陛下の許にお届けにあがろう。」

「お願いします、ジュリアス様。オスカー様も今度は参加なさってくださいね?」

「わかった、わかった、お嬢ちゃん。仕事の忙しくない時にな?」

オスカーはそわそわして心ここにあらずでとりあえずの返事を返した。これで余興もいくらなんでも終わりだろう。まずいことにお嬢ちゃんが少し眠そうな顔になってきている。カティスの酒のせいだろうか。お嬢ちゃんが完全にねむねむの霧に捕まってしまう前に、こいつらを早く追い返さねば…と決意し

「では、そろそろ余興も果てたようですし、皆さん、執務でお疲れのところ、今夜は拙宅でのささやかな招待に応じていただきありがとうございました。」

と宴をしめようと思ったその時である。

「待て…」

とクラヴィスがついと前に出た。

「私からのプレゼントがまだだ。」

「い、いや、もう、お気遣いなく、あのゲームも持ってきていただいてますし…」

とおしとどめようとしたオスカーを有無を言わせず制して

「私からのプレゼントはこれだ…」

と言ってクラヴィスが懐から出したのは、愛用のタロットカードであった。

「クラヴィス様、申し訳ありませんが、俺にはそれは使いこなせないと思うのですが…」

戸惑うオスカーにクラヴィスがふ…と笑った。

「誰がこのカードをやると言った。おまえのことを占ってやろうといっているのだ。このカードでな…」

『い、いや、俺はそういうのは…』

とオスカーは遠慮しようとした。占いなんぞ信じないといいたいところだが、クラヴィスの腕ではそうもいえず、しかも、その上で悪い卦でも出たら、俺は絶対気にしてしまう!と思って辞退しようとしたのに

「オスカー様、占っていただきましょうよ!クラヴィス様の占いはよくあたるんですもの!なのに、クラヴィス様が自分から占って下さるなんて事、滅多にないんですから!」

とアンジェリークが大乗り気なのである。

『よくあたるらしいから嫌なんじゃないか〜。お嬢ちゃんは、悪い結果がでるかもしれないなんて欠片も考えないんだな…まったくあの信じられないほどの楽天がうらやましいぜ…』

と思ったものの、アンジェリークの期待にきらきらした瞳に逆らえるものではない。ちょっと眠そうだった顔もすっかり溌剌としている。

オスカーは、まるで死刑囚にでもなったような気分で

「やってください…」

と半ば自棄になって、クラヴィスに頼んだのであった。

カードを並べるのに丁度いい、コーヒーテーブルが出されクラヴィスが独特の手つきでカードを繰り始めた。

「タロットは22枚の大アルカナと56枚の小アルカナがあるが…今日は22枚の大アルカナから7枚のカードを選んで六茫星を作るヘキサグラムで占ってみよう…素人にもわかりやすいだろうからな。」

「はぁ…」

オスカーには異星の言葉にしか思えない不可思議で意味不明な言葉の羅列が続く。しかし、

「私の前に座れ。そして、自分とアンジェリークの未来を思い描け、強く念じるのだ…」

クラヴィスからこう言われ、オスカーはぴしぃっと背筋を伸ばした。アンジェリークとの将来といわれたら、オスカーは嫌でも真剣にならざるを得ない。『お嬢ちゃんといつも、いつまでも微笑みあってすごせますように!』と神頼みするような気分で真剣に念じた。

「ではカードを引くぞ…」

クラヴィスは一枚目のカードを中央に置き、その周囲に順次カードを並べ、中央のカードを囲む6角形を作り、それを一枚づつめくっていく。オスカーは我知らず唾を飲みこんでしまう。

「ふむ…」

クラヴィスは出たカードを見て、その意味を考える。

すべての物事に影響を及ぼす中央に「恋人」のカードが正位置で出た。オスカーの行動原理の基本はやはり「恋愛」のようだ。中央のカードの上に位置する本人の考えや、下段の相手…この場合アンジェリークとなる…の考え、斜めに位置する現在の状況と周囲の態度、起り得る変化と、最後に最終的な結果をめくった。

「おまえは現在、目的を果たし精神的に満足しているようだ。人生とは自分の力で闘い勝ち取るものだと思っているようだな…今後小さな過ちや諍いはあっても、大事には至らぬだろう。周囲とは…浅からぬ縁が続く。最終的な結果は「女帝」の正位置…」

「な…なんなんですか…それは…」

「アンジェリークと歩む将来でおまえは大きな収穫を得るだろう。それがいつで、何を意味するかはまだわからぬがな…」

「なんか、どうとでもとれる言葉ばっかで、よく意味がわかんねーな。」

「占いとはそういうものだ。カードは暗示であり、指針にしかすぎぬ。その意味を解釈し、それに対し行動を起こすのはあくまで自分の力だ。例えば怪我や病気の暗示が出た場合は、それに思い悩むのではなく、それに陥らぬよう用心して留意すればよいのだ。」

「し、しかし、と、とりあえず、俺とお嬢ちゃんの将来に大きな問題はなさそうってことですね?…」

「よかったですねー、オスカー様!」

表面上は平静を保っていたものの、オスカーの心臓は今までばくばくであった。万が一、よくない結果が出たら絶対自分は気にかけてしまうと思っていたので、今、とりあえずの問題はなさそうなことがわかり、天にも昇らんばかりの気持ちだった。

もっとも、クラヴィスの言う『大きな収穫』とは何なのだろうと気になったが、今の生活自体が自分の人生には最大の収穫なのだから、つまりはそういうことなのだろうと解釈した。

「詳しい解釈が知りたければ、日を改めて私のところに来るがいい。このような観衆の面前で自分の内面を晒してによいのなら、今カードの意味するところを解説してやってもいいがな…」

「いえ、お心遣い感謝いたします…」

「私も一緒に聞いてもいいですか?」

「オスカーを占った結果が聞きたいのか?」

「んん〜、だって、好きな人のことは知りたいんですもん!きゃっ!いやん!」

「ふ…そのうち、おまえが望むならおまえのことも占ってやろう…私の執務室に暇をみつけてくるがいい…」

「きゃー!是非、お願いします!」

アンジェリークはよくもまあ、こんな物を自分から頼めるものだ。アンジェリークの度胸がまったく信じられないオスカーである。自分だったらあんな最後の審判を待つような気分は2度と味わいたくない。

「もっとも、結果はなんとなく予測できるがな…」

くっくっと笑うとクラヴィスは自分からこの場を辞する言を述べ始めた。

「遅くまで居座ってすまなかったな…そろそろ私は失礼させていただこう。」

「そうですね、もう夜も遅いことですし…お暇いたししょうか、クラヴィス様。」

「そうだな、そろそろ潮時ってやつか。」

「うん、楽しかったね〜」

「では、皆で辞するとしよう。オスカー、本日は楽しい一時を過ごさせてもらった、礼を言う。」

「こちらこそ、いろいろ戴いてしまい恐縮しております。ささやかなおもてなしでしか、御返しすることができずに失礼いたしました…」

「皆さん、本当に今日はありがとうございました。来てくださってとっても嬉しかったし、一緒に遊んでいただけてとっても楽しかったです!」

にこにこしているアンジェリークを見て守護聖一同は、揃って幸せな気持ちになった。詰まる所、アンジェリークが客を呼びたがり、パーティーをしたいのだろうと言うことは皆がわかっていた。オスカーはアンジェリークの望みだからそれに協力したのだろうということも。だから、アンジェリークが楽しく過ごせたのなら、それで皆満足な気分に浸れたのである。

玄関先でオスカーとアンジェリークが客人にボンボンと下賜された花輪を解体して作った花束とワインを手みやげに渡しながら一人ずつ送り出していく。

「あの…ジュリアス様、お使いだてして申し訳ないんですけど…」

「これを陛下の分もお届するのであろう?あいわかっている。あのゲームと供に私が預かっておこう。」

「申し訳ありません、よろしくお願いします。」

「そういえばよー、アンジェはオスカーに何やるんだ?それとも、もう、何かやったのか?」

帰る間際にゼフェルがふと思いついて尋ねた。

「え?いえ、これからなんですけど…あのー、そのー、ダンスです…」

「ああ、ダンスを一緒に踊ってさし上げるんですか?微笑ましいですね〜」

「いえ、その私が一人で踊ってみせるらしいんですけど…よくわからないっていうか…むにゃむにゃ…」

「はぁ?何それ?」

「はっはっは!聖地といえど夜は流石に冷えこんできましたな。道中お気をつけてお帰りください!」

詳細を聞き出そうとした面々の目の前でドアは威勢良く閉められた。

「何?あの態度!早く帰れっていう本音が最後の最後でモロだし!」

「さしずめ、何やら詳しく取り沙汰されては困ることでも企んでいるのではないでしょうか…失敗しました…アンジェリークが不埒な目にあわないよう一晩中でも居座るべきでしたか…」

「居座ってたって邪魔できるとは限らねーじゃんか。オスカーはその気なら俺たちの目の前でも平気でその不埒な企みを実行するんじゃねーの?ばいきんまんの撮影の時のこと考えてみろよ。」

「確かに…オスカーの傍若無人ぶりを考えれば…」

「他のヤツらはどーだかしんねーけど、俺はもう目の前でこれ以上あいつらにあてつけられるのはごめんだぜ。げっぷがでらぁ。帰ってきて正解だな、俺は。」

「うらやましくなるだけだから見たくないって、素直にいえばいいのに。」

「ぅるせっ!よしんば邪魔できたとして、今晩だけ邪魔することに、なんか意味あんのかよ?今夜しなくたって、それが明日の晩に延期になるだけじゃねーの?」

「バースディの夜を妨害するということに、意味があるのですよ、ゼフェル。ふふふ…」

「やな意味だな、それってよー。でも、アンジェがなあ、そんなことをしたらどう思うかだよな?あいつはきっとオスカーを祝ってやりたいって思ってるはずだぜ?」

「そこが私のジレンマなのですよ……」

「そうだ!クラヴィス、あんた、なんで、あんないい結果のご神託くだすのさ!オスカーになんてもっと不吉なこと言って、危機感煽って蒼ざめさせてやればよかったんだよ!いい結果が出たもんだから、すっかり調子に乗ってるよ、あれは。」

「カードの結果に嘘はつけぬ…カードの解釈は占者の意識やその時の感情が反映するがな…ただ、幾多もあるカードの解釈で故意に危機意識を煽るような宣託を下すのは私の好みではない。」

ただし、クラヴィスはカードを引いた時、オスカーがアンジェリークを泣かせるような暗示が僅かでもあれば、それを容赦なく糾弾する心つもりはあった。今でなくとも将来、オスカーに不実の気配でもあれば、それをその場でアンジェリークに告げて『考えなおすなら今のうちだ』とはっきり告げるつもりもあった。しかし、カードの暗示は、オスカーは今後も彼なりの誠実な愛をアンジェリークに精一杯呈し、アンジェリークはそれを慈愛の心で受け入れると出てしまい、突っ込む余地がほとんどなかったのだ。

「それにな…わざと危機を煽るなど…そんな事をすればあれがどんな顔をするか…」

「むぐぐぐ…そりゃ、私だってあの子の沈んだ顔なんてみたくないから、このお呼ばれにも来てあげたんだけどさ!でも、あんたが自分からさっさと暇乞いしたことは私は本当に意外だったよ。リュミエールじゃないけどもっとしつこく粘ると思ってたからさ。」

「それは…まあ、美味い酒を振舞ってもらったことへの礼の意味もあったがな…オスカーがあんなことを言うとは、思ってもみなかったのでな…カティスの酒はカティスの気持ち、だから皆で楽しむ方がヤツも喜ぶなどと、な…」

「んむ、確かに…オスカーは別に昔からけちなヤツじゃあないけど、ああいう考えや行動をあからさまに表に出すタイプじゃなかったよね。あいつも変わったのかな…?」

「ふ…恐らくは…な…」

「それって、やっぱりあの子の影響…だよねー。いや、つくづく凄い子だよ、あの子は。私たちだって絶対角とれてるもんね、昔より。」

「それにしても、アンジェのプレゼントって何なんだろ?ダンスって…あげられるものなの?」

「一緒に踊ってもらえれば嬉しいんじゃないか?俺だったら嬉しいもん。」

「そりゃ、おまえならな、でも、あのオスカーが、その程度で満足するとはとーてーおもえねー!」

「あ!そうだよ!一緒に踊るんじゃなくて、一人で踊って見せるって言ってたじゃないか!あのこ!」

「アンジェが踊り子になるってーの?で、オスカーは観客…わかったああ!絶対ストリッ…」

「それ以上口にするな。いくらオスカーでも、妻にそのようなことをさせるほど酔狂ではあるまい。」

「オスカーだから、やりそうなんじゃんねぇ。」

「しかし、オスカーはアンジェリークを毎日身近に置いているではないか…それでも、妻にそんなことをさせたいものなのだろうか…」

「あんたにゃー、まだまだ、その辺の機微はわからない…いや、恋したってオスカーみたいな思考はしないだろうから、永遠にわからないかもね〜。ねえ、夜といってもまだ宵の口だよね?陛下はまだ起きてる時間だよね?」

「ああ、恐らくな。」

「ジュリアス、あのゲーム持って帰ってきたでしょ?今から宮殿いかない?陛下一人の所をこれ持って襲っちゃうの。明日はお休みだし、今日はアンジェリークのところに皆が行ってたのは知ってるんでしょ?話が聞きたいんじゃない?」

「このような時刻に非常識ではないか?」

「だから、まだ夜は始ったばかりだって!陛下のところで、このゲームのリベンジといこうじゃないの!」

はあ、と溜息を付いてジュリアスは頭を振った。宮殿に一人でおわすであろう陛下のご心情が気にかかかっていたのは、ジュリアスも同様だったからだ。

「断られた時はすっぱり諦めるのだぞ…」

「んじゃ、陛下のところで2次会する面子はついておいで!」

離脱したものはいなかった。そして、宮殿の扉は首座の守護聖にはなんの淀みもなく開かれたのだった。

同時刻オスカーの私邸では、オスカーが邪魔者も消えたし、さて自分の要求をどうやってアンジェリークに切り出したものかと考えていた。


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