Surprise for you 6

オスカーがアンジェリークを抱いたまま寝室のドアを開けた時、アンジェリークは小さな溜息をひとつ零した。

オスカーと肌を合わせることが、気がすすまないのではなかった。あれだけおさらいに熱心だったオスカーが、誕生日当日のいわば、総まとめを忘れるはずがない。それどころか更にはりきることくらい簡単に予想はついた。それはいいのだが、アンジェリークは、オスカーが一体何を称して『まとめ』とか『力だめし』というのか、それがよくわからず、ちょっぴり不安だった。

『力だめしってつまりテストってことよね…私、今日まで毎晩おさらいをしてたとは言っても、それってほとんどオスカー様が私にいろいろなさって(きゃ!)私はそれを享受してただけなのに、自分からできることなんてそんなにあるかしら…。せいぜいアレとアレくらいしか…それに、今のカンカンでくたびれちゃってるから、あまり動けないかもしれない…どうしよう…』

せっかく張りきっているオスカーを落胆させたくなかった。

一生懸命おさらいしてくださったのに私が何も身につけてなかったら、オスカー様は自分ががんばって教えてきたことは無駄だったのかって、きっとがっかりしちゃうもの…どうしよう…

オスカーはただ単にアンジェリークをとにかく目一杯愛するために、その時々でいろいろ小手先の理由をつけているだけだということになど、アンジェリークはまったく気付いていなかったので、自分が期待に応えられなかった時のオスカーの心情を慮ってちょっぴり心が沈んでしまった。

そして、どんなにうきうき浮かれてはいても、オスカーはアンジェリークの溜息には即座に敏感に反応した。

「お嬢ちゃん、どうした、元気がないな…疲れているのか?もう休みたいのか?」

一転心配そうに顔を覗き込まれ、アンジェリークは、先刻とは別の意味でべそをかきたくなった。

「違います…あの、あの少し不安で…」

「どうした?お嬢ちゃん、お嬢ちゃんのそんな憂い顔は見ているだけで辛い。なんでそんなに気が塞いでいるのか話してごらん?今、俺に抱かれるのは気がすすまないのか?」

「ち、違います!あの、お、オスカーさまぁ。力だめしってどんなことをするんですか?テストみたいなものですよね?私がもしうまくできなかったら、せっかく一生懸命おさらいしてくださったオスカー様をがっかりさせちゃうでしょ?だから、もし、ご期待に添えなかったらどうしよう…ってちょっと不安になっちゃったんですぅ。あの…あんまり難しいことはでません?私でも、大丈夫でしょうか…」

「…………ぷっ…」

懸命に真顔を保とうとしたオスカーだったが、堪えきれずについ吹いてしまった。

「?オスカーさまぁ…」

必死で笑いを堪えているオスカーの様子にますます不安そうになってしまったアンジェリークをオスカーはベッドの上にそっと降ろした。そして自分もすぐその横に腰掛け、アンジェリークの顎を摘んで上向かせると、軽く口付けを落して髪を撫でた。

「すまん、すまん、お嬢ちゃん。力だめしなんていうのはほんの冗談だ。あれはできるか、これは覚えているかなんて、いちいち試したりしないから安心してくれ。」

「???」

ますます混乱している様子のアンジェリークにオスカーはもう一度触れるキスを与えて、きゅっと抱きしめた。

「お嬢ちゃんを不安にさせてしまって悪かった。お嬢ちゃんがあんまり真剣におさらいの総仕上げやまとめのことを心配してるので、ついふざけちまったんだ。それを口実にすれば、お嬢ちゃんを今すぐ抱けるからな。」

「口実…?」

「ああ、口実なんて本当はいらなかったのにな。俺は目の前のキュートでコケティッシュでラブリーでプリティーな踊り子にくらくらのめろめろにされちまったんだ。この踊り子があんまり魅力的に俺をそそってくれたから、今すぐ欲しい、今すぐ抱きたい、今すぐ愛し合いたいって気持ちで辛抱できなかった。そう素直に言っちまえばよかったな。」

オスカーの言葉の意味を理解すると同時にアンジェリークの頬に朱が刺し、彼女はまた俯いてしまった。もちろん先刻とは異なる理由で。

オスカーはそのアンジェリークの顎を摘み上げて上向かせた。

「お嬢ちゃんのダンス姿にハートをノックアウトされた観客を憐れと思って、いくばくかの愛と情けを与えてくれるか?」

「…そんな……」

オスカーが頬を包みこむように手を添え口付けた。今度の口付けはアンジェリークを求める気持ちを示す深いものだった。アンジェリークが条件反射のようにそれに応えてくる。どう対応したらいいかわからず、戸惑っていただけだった昔が嘘のようだ。

まだ呼気に荒さも残っているようだったが、それも忘れたかのようにアンジェリークは探るようにはいってきたオスカーの舌を自分から捕らえて絡めてきた。『総まとめ』なんてもう考えてはいなかったが、丹念にキスの復習を繰り返した成果はしっかりとあがっているようだと、オスカーは心の中で満足する。キスは情事における始めの1歩でもあり、途中の情感を高める手段であり、情事の後を穏やかに幸せにしめくくってくれるものでもある。だから、オスカーは決してキスをおざなりにしない、してはいけないと思っている。それをアンジェリークには実戦で伝えているつもりだ。

生き物のように舌をからませあい、喉をならすようにアンジェリークの唇を貪り、溺れる。体と同じようにアンジェリークの舌もいつもより熱い。

銀糸を引いて名残惜しげに唇を離すと、アンジェリークが夢見るように目を開けた。その瞳は今は微熱があるように潤んで、オスカーを見上げた。

オスカーはアンジェリークの濡れた瞳に請われたような気になって、腕を背中に回してファスナーを降ろし、アンジェリークの腕をドレスから引きぬいた。艶やかなサテンの手袋もいっしょに外してしまう。

露になった肩にかるく歯を立てた。

「あんっ…」

軽い痛みにアンジェリークが身を捩る。オスカーは円な肩口に顔を埋めたまま、首筋をなめ回し所々で唇を止めて吸う。

腕を引きぬいた衣装はそのままアンジェリークのウェストのあたりに自然とおちてまとわりついている。ボディスがトップレスなので、アンジェリークのかわいい乳房はもはや露になってしまっている。

乳房の谷間にも汗の珠が光っている。オスカーは下から支えるように乳房に手を添えると、その汗の珠を綺麗になめ取りはじめた。

「や…オスカー様、だめ…だめです…私、汗かいてますから…先にシャワーを…」

アンジェリークがオスカーを押しのけるように腕をつっぱり体を引こうとする。

「このままでいい。」

ぐいとオスカーがアンジェリークを引寄せなおし、再び乳房全体に舌を這わせはじめた。微かな塩の味のする乳房を唇で味わうように食む。

「だめ…オスカーさま…汗かいてるから…きたない…」

「お嬢ちゃんの体はとても綺麗だ、艶々光って、ほんのり色づいて…この汗のしずくも俺を力一杯祝ってくれた証だ。感謝こそすれ、汚いなんて思うものか。それに…今はこのままの方がお嬢ちゃんの匂いがしていい…お嬢ちゃんはすごくいい匂いがする…甘いのに野性的で妖しい匂いだ…」

「や…恥かしい…そんな…」

実際アンジェリークの体からは花のような甘さの中、微かに麝香のような妖艶さを湛えた香りが立ち上っていた。オスカーはこれは欲情の匂いだと思う。ダンスによる急激な高揚感が愛撫にも似た興奮を与えたのだと思う。この高まった情感をシャワーで流してしまうなどもったいなくてできるものではない。

しかも、この香りにオスカーも恐ろしいほどに刺激され興奮していた。自分の中心が疼くように脈打っている。匂いというのは根源的な部分で人の情動を強く深く動かすものだと実感する。

「このまま、お嬢ちゃんの香りに酔わせてくれ…」

乳房の谷間に顔を埋め、顔全体をこすりつけるようにして乳房の感触に酔った。淡い麝香ようなの香がより強くオスカーの鼻腔を満たし、オスカーは眩暈を覚えた。まちがいなく発情の匂いだと思った。男を狂わせる香だと…

乳房を両手で寄せるようにしながらキスの雨を豊かな膨らみのそこここに降らせ、赤い花びらを点々と散らした。

しかし、オスカーの目は自分の散らした痕よりも更に赤く固く尖っている蕾に釘付けだった。ランジェリーで彩られているせいか、乳房が全裸の時より淫靡に艶やかに見えてしかたない。いつもは白い乳房が今は内側から灯りがともるように暖かな色に染まっている。体が火照ったまま、その熱が引かないようだ。

誘われるようにその蕾に舌先でそっと触れた。

「ん…」

アンジェリークのまだ穏やかな反応がかわいらしい。でも、自分が狂おしいほどに彼女を求める気持ちはまだ彼女に伝染していないと思うともどかしい。

きつく吸いたてたい思いを必死で堪えて、オスカーはゆっくりと乳房の先端を舐る。アンジェリークにみせつけるように舌を伸ばして、敏感な先端を弾くように舌先を踊らせる。まだ軽く触れているだけだが、舌が右に左にひらめくたびにその固さが増していくのがわかる。

屹立していく乳首はオスカーの胸を射ぬくかのように誇らしげでさえある。愛されていることの喜びと誇りに自信を持って立とうとするかのようだ。

その誇らしげな有り様に誘われるようにオスカーは乳首を口に含んだ。舌で転がしながらしなやかな弾力を味わい楽しむ。

「ん…んふ…」

アンジェリークの吐息が少しづつ忙しなくなっていく。オスカーが自分を熱く求める気持ちが唇から伝わってくるようでアンジェリークの体はどんどん落ちつかなくなっていく。

オスカーの舌がいとおしそうに乳首を舐め上げる度に体中に電流が走るようで、切なくやるせない思いはどんどん体の中にたまっていく。体を確かに何かが満たしていっているのに、それが増えるほどにもっと…という渇望感も増える一方で、苦しくさえある。

どうして私はこんなに欲張りなの…そう思いながら、腕は自然とオスカーの首に回され、更なる愛撫をせがむようにオスカーの顔を自分の胸乳におしつけてしまう。指は無意識のうちにオスカーの髪や逞しい首の線をまさぐってしまう。満たされつつあるのに、飢えている、そんな相反した感情に苛まれている故の仕草だった。

オスカーがふと顔をあげ、柔らかく微笑んで小さなキスをくれた。

「お嬢ちゃん、お嬢ちゃんも俺を脱がせてくれるか?」

アンジェリークは素直に頷いて、オスカーのタイを緩めた。シャツのボタンを探るような指先で外していく。胸元から浅褐色の肌が少しづつ見えてくる。もっと触れたい…この肌に。隔てる物を早く取ってしまいたい。アンジェリークは確かに昂ぶっている自分を感じている。

ボタンを全て外しおわる。袖のカフスボタンも外してサイドテーブルに置く。厚い肩を撫でるように手を滑らせシャツの腕を抜こうとするとオスカーが体を捩って協力してくれた。

眩しいほどの上半身が現れる。

『本当になんて綺麗…』

アンジェリークは羞恥も忘れてオスカーの裸身に見惚れてしまう。厚い胸板も引き締まった腹部も生硬な体の線の全てが男というものを象徴している。オスカーの体躯をみているとあの胸に自分を預けてしまいたい、逞しい腕にしっかり抱きとめてもらいたいという情が自然と湧きだすような気さえする。

その思いを見ぬかれたように唐突にぎゅっと抱きしめられた。同時に塞がれる唇。腕はすぐ緩んで、アンジェリークのドレスを足まで下ろしにかかっている。でも、唇は塞がれたままだ。

アンジェリークもオスカーの熱意に押されるように、口付けは解かぬままにオスカーのスラックスに手をかけた。スラックスの上からもオスカーが既に熱く滾っているのが手に感じられ、それを感じるとアンジェリーク自身も体の中心が熱くなった。

『きっと私も濡れてる…』

そう思ったのと、オスカーがアンジェリークのショーツに手をかけたのは同時だった。

2人ともに熱に浮かされたように体をまさぐりあい、身につけているものを取り去りあっていく。

 

オスカーはアンジェリークのショーツをすっかり足から抜き去った。

ダンスで見る分にはいいが、レースでボリュームのありすぎるショーツは情事においては興を削ぐ。ただし、このショーツをとってしまえば、トップレスのボディスとガーターベルトで留めてある網タイツが残る、つまり、コルセット型の胴着とガーターは着けたまま、アンジェリークの乳房と臀部だけが剥き出しとなる。この狙いすました淫靡さもたまにはいいとオスカーは思う。

このようなわざとらしいセックスアピールは常のアンジェリークのものではないし、オスカーも求めたりはしない。アンジェリークが普段の情事で自らこのようなランジェリーをつけたらオスカーは喜ぶより戸惑いを覚えたかもしれない。

しかし、今夜のアンジェリークは男の特殊なフェテイシズムを刺激し満足させるために在る踊り子なのだから、あざといまでに情欲を煽るような装束でも不自然ではない。むしろそれは似つかわしい。踊り子の中には、男の潜在意識に巣食う情欲を視覚で解き放ち顕在化させるために特化した存在であるものがいる(そうでない踊り子ももちろん多数いるが)。そういう類の踊り子は舞台を降りればそのまま遊女にもなったという歴史や地域もあるくらいだ。

そして、この姿は通常の彼女ではない。それがわかっているからこそ、今夜だけこの特殊なアンジェリークを特殊なままにオスカーは愛してみたいとも思った。これは自分の身勝手な欲望の押しつけだという自覚を持ちつつも…

アンジェリークもオスカーの体をじれったそうにまさぐっている。細くしなやかな指先で服を取り払われる事自体がオスカーには前戯となる。アンジェリークの柔らかな手が自分の無骨な肌を滑っていると思うだけで、オスカーの心はふつふつと煮えたぎっていく。

アンジェリークもいつになく興奮しているのが、その手の動きでわかる。どちらかというと受け身な彼女なのに、自分の肌を求める彼女の指先からもどかしさが滲みでているようだった。

動悸を覚えるほどの体の昂ぶりが心の昂ぶりをも導いたのかもしれない。自分がずっとアンジェリークを注視していたという事実も彼女を知らず知らずのうちに高めていたのだろう。

オスカーは確信をもってアンジェリークの股間に指を差しいれた。汗とは異なる熱いぬめりがオスカーの指を捕らえた。

「あ…」

オスカーの肌をまさぐっていたアンジェリークの手が一瞬止まった。

「お嬢ちゃん、もうこんなに濡れて…どうしてこんなに欲情してるんだ?」

オスカーは、アンジェリークの耳の下のくぼみにキスをしながら、くちゅりくちゅりとその液体の感触を楽しむかのように、襞の合せ目でゆっくりと指を曲げ伸ばしする。

「あん…オスカー様だって…こんなになってるのに…」

アンジェリークが自分から猛り切ったオスカーのものを小さな掌で包みこんだ。いつになく気丈な振舞いが彼女の興奮を物語っている。

「言っただろう?俺はこの踊り子に骨抜きにされたって。ほら、もっと触ってごらん…」

「ん…」

オスカーが無理に手を添えなくても、アンジェリークは軽くしごくように自分の手を上下させた。

「すごく固くなってる…熱くて…」

「そうだろう?こんなになるほど俺は物狂おしい気持ちにさせられたんだぜ。さあ、この思いを受けとめてもらえるか?」

「ああ…私も…私こそ…」

「わかっている。お嬢ちゃんも俺が欲しいんだろう?こんなに濡らして…」

オスカーが指を動かす速度を少しづつ早めていく。アンジェリークの頬はさらに紅潮する。オスカーはもう片方の手で乳房をこねながら、再び乳首を舐り始めた。今度は最初から音高く吸い上げる。

「っ…んくぅ…」

「ふ…声を殺さなくていい…もっといい声で鳴いていいんだぜ?」

オスカーはもっとアンジェリークに声をださせたくて、乳首を軽く噛んだまま突出させた先端を舌先で弄った。強い刺激と粘るような舌先での愛撫が同時に乳首に加えられ、アンジェリークの脳裏に火花が散る。

「ああっ…」

「気持ちいいか?」

「いい…いいの…でも、でも、おすか…さま…待って…お願い…」

「だめだ。待てない。」

もう1つの乳首に同じように噛みながら舐る愛撫を加えながら、オスカーがつっぱねた。しかし、アンジェリークはそれでもいやいやと首を振った。

「だめ…だって、私も、オスカー様にしてさしあげたいの…オスカー様はいいっておっしゃったけど、やっぱりせっかくおさらいしてもらったことだから…」

「お嬢ちゃん…」

「それに…オスカー様、これも、私にできること、そうでしょう?今日はオスカー様のお誕生日だから…」

言いながらアンジェリークはオスカーのものを、軽く握りしめた。そしてオスカーのものを優しく手でなでさすりながら、自分からオスカーに口付け、その唇を自然に首筋に滑らせていった。

太い首のラインから肩にかけて舌でなぞると、お返しをするようにオスカーも顔を巡らせてアンジェリークの首筋に舌をはわせてくる。

「あ…ん…」

首筋の生暖かい舌の感触がぞくりと快い戦慄をもたらす。その感触に煽られるようにアンジェリークは更に大胆になる自分を意識する。いつも自分がオスカーにされているように、小さな胸の突起も口に含んでみた。見様見真似で舌を回して吸ってみる。それにあわせてオスカーがアンジェリークの髪を撫ではじめた。

「お嬢ちゃん…」

「ん…気持ちいいですか?オスカーさま…」

「ああ、上手だ。」

「ふふ…うれしい…」

アンジェリークは本当に嬉しそうに微笑んで、オスカーに抱きついた。

「これも…ちゃんと言ってくださいね?だめだったら、だめって…」

そう言ってアンジェリークはベッドに腰掛けているオスカーの前に跪いて、オスカーのものの先端にそっと口付けた。根元を柔らかく揉むように指で軽い圧迫を加えて握る。同時に根元から先端へとかわいい舌を差し出してその幹の部分を舐め上げて行く。

節くれだつような逞しい幹は当然一回では舐め切れない。アンジェリークの舌は何度も何度も往復を繰り替えすことになる。

一通り全体を舐めあげると、唇を軽く開いて、ハーモニカを吹くように幹に滑らかな愛撫を加えはじめた。唇を押し当ててそのものの感触を楽しんでいるようにオスカーには思える。唇が触れない所はないように丹念に丁寧に愛撫を続けるアンジェリークがたまらなく愛しい。自分を愛しもうとしてくれる真摯な思いと、彼女自身の昂ぶりが渾然一体となってアンジェリークの身中にうねっている気配をオスカーは感じていた。

「お嬢ちゃん、とても上手だ…お嬢ちゃんの唇で蕩けちまいそうだ…」

「ほんと?」

「ああ、それにとても大事そうに丁寧に愛撫してくれるお嬢ちゃんの気持ちも嬉しい。」

「だって…オスカー様が好き…オスカー様に喜んでいただきたいの。それに…いつも私も優しくしてもらってるから…同じようにしてさしあげたいの…」

「なら…俺もお嬢ちゃんが好きで、お嬢ちゃんを喜ばせたい、気持ちよくしてやりたいって思う気持ちもわかるな?」

「はい…」

「さあ、ベッドに上がっておいで、お嬢ちゃん、俺にもお嬢ちゃんをかわいがらせてくれ…」

「オスカー様…」

アンジェリークはオスカーに手を引かれて立ち上がり、立ち上がった所でぐいと腰を抱いて引寄せられそのままベッドに横向きに寝かされた。

オスカーも横向きに、ただしアンジェリークとは頭の方向を互い違いに寝て、アンジェリークの足を持ち上げ自分の体に乗せてからアンジェリークの股間に顔を埋めた。これでオスカーの雄渾のものは、アンジェリークの顔の方に向くはずだ。体格差が大きいので互いに口唇で性器を愛撫し合うときは上下より横向きのほうが互いに体の負担が少なくて済むのだ。

「これなら互いに愛しあえるだろう?互いに気持ちよくなってもらいたい気持ちを存分に発揮できる。こんな風にな?」

オスカーはぽってりと肉感的な秘唇全体をぺろりと舐め上げた。

「ひゃんっ!」

「でも、お嬢ちゃんは体が小さいから届かないようなら無理しなくていいからな?」」

オスカーは言い様、アンジェリークの花弁を指で押し開いた。秘唇は濃い紅珊瑚色に染まって濃厚な蜜を滴らせている。蜜の香もいつもより野性的で猛々しく感じたが、それがまたオスカーをより激しく昂ぶらせる。

「お嬢ちゃんのここ…凄く綺麗な色に染まって…蜜で溢れかえってる…とろとろにとろけてるぜ…」

「ああっ…そんなに見ないで…恥かしい…」

「恥かしいなんて気持ち、すぐわからなくなるさ。わからなくしてやる。」

オスカーは指で秘唇を押し広げたまま、舌を尖らせて秘裂に差しいれた。溢れかえる愛液を喉を鳴らすように味わい、襞の隅々まで舌で探る。

「あああっ!」

オスカーのものを口に含もうとしていたその感触にアンジェリークが一瞬のけぞる。でも、すぐ思いなおしたようにオスカーのものに手を添えなおして、その猛り切ったものの先端を口中に治めた。そのまま滑らかな先端に舌を回す。合せ目に軽く尖らせた舌先をしのびこませ、先端を吸いもする。すべてオスカーにしこまれた技巧だった。

「いいぜ、お嬢ちゃん…俺も負けてられないな…。」

オスカーは花弁の合せ目を更に大きく押し開き、控え目にかくれていた花芽を露にした。秘裂に差しいれていた舌先を移動させて、そのまま花芽の莢を押し上げて内部の宝珠を曝け出した。

「ん…んふ…」

アンジェリークが宝珠を剥き出しにされただけで、声を漏らした。その声に愛撫を急かされたような気がして、オスカーは逸る心のままにその宝珠を尖らせた舌先で円を描くように舐め回す。

「んくぅ…ん」

アンジェリークがオスカーを咥えたまま、快楽に耐えられずにいやいやをするように首を振る。それがまたオスカーのものに違う刺激となってオスカーの背筋を快楽が駆けぬける。

アンジェリークにひとつ快楽を与えられると、それを勝る快楽を与えてやりたくなって、オスカーは左右上下に素早く舌を閃かせる。同時に指を秘裂の奥に差しいれ、腹側の肉壁をこすり上げるように刺激した。

「あああっ!だめ!」

アンジェリークが堪え切れずに口を外してしまう。

自分への愛撫は中断してしまうのに、オスカーはそこまでアンジェリークを乱れさせてやれたことに満足を覚えてしまう自分を度し難いと一瞬思ってしまった。自分達は競い合ったり闘ったりしている訳ではないのに…と幾分反省の気持ちを込めて、今度は穏やかな柔らかい舌使いで花芽を丁寧に舐め上げる。指の抜き差しもゆったりと襞の隅々まで探るような緩やかなものに変えた。

アンジェリークも昂ぶりながらもある程度の余裕を取り戻したのか、気を取りなおしたようにオスカーのものを再び口に含んだ。今度は唇をすぼめながら上下させ幹全体に満遍なく刺激を与えている。張り出している雁首の部分は細かく舌先で弾きながら唇の動きは緩めない。

「お嬢ちゃん、俺にはもうお嬢ちゃんを試す気なんてさらさらなかったが…この愛撫なら満点だ。」

「うれし…オスカーさま…喜んでくださって…」

アンジェリークが一度オスカーのものを口から外し、いとおしそうに指でしごくようにそれを撫でさすりながらこう言った。

「ああ、お嬢ちゃんは最高だ。こんなにがんばったいい子のお嬢ちゃんには俺も最高のご褒美をあげないとな?」

オスカーはアンジェリークの愛撫を制して体を起こし、一呼吸置いてからゆっくり首を振った。

「……いや、違う…」

「え?」

「俺がもう我慢できないんだ…お嬢ちゃんが欲しくて気が狂いそうなんだ…」

そういいながら、オスカーはアンジェリークの体をきゅうっと抱きしめた。

「オスカーさま…」

一瞬オスカーの否定の言葉に不安を感じたアンジェリークは、続くオスカーのこの言葉に身も心も白熱し溶けてしまうかと思うほどの喜びにうち震えた。腕を回してオスカーのことをしっかりと抱き返す。

愛し合うことに口実や理屈やいい訳などいらないのだ。ただ、愛しい相手を愛しいと思い、欲しいと思う心をまっすぐに現せば、それはそのまままっすぐに相手に伝わり、その人の心を眩いまでの喜びで満たしてくれる。

アンジェリークはいつもオスカーにそう接してくれるから、オスカーはとても幸せに満たされる。なのにオスカーは自分は男で年上でという役割に縛られ、武人気質故につい物事を勝ち負けで見てしまいがちで、素直な心情をストレートに表すことが難かった。

でも、アンジェリークのどこまでもたおやかな心に接して、眩しいほどの愛に満たされて、オスカーは自分も率直に求める気持ちを表す事の大切さと、それがもたらす喜びを今は知っている。だから、自分も同じだけの喜びをアンジェリークに返したいと、いつも心から思うのだ。

「お嬢ちゃんとひとつになりたい…」

オスカーはアンジェリークを横向きに寝かせて片足をもちあげるように抱え、互いの体を交差させる形でゆっくりと挿入していった。自分のものがアンジェリークの内部に姿を消していくにつれ、とろけるような官能の悦楽がオスカーの身中を満たしていく。アンジェリークの柔襞はその猛々しい剛直をどこまでも柔らかく受けとめ包みこんでくれている。

「お嬢ちゃんの中…溶けそうに柔らかいのに熱くきゅうきゅう俺を締めつけてくる…たまらないな…」

「ああ…オスカーさま…オスカーさまでいっぱいです…私…」

この姿勢だとあまり激しい律動はできないが、密着度が高いので深い一体感をえられる。その密着感を保ったままオスカーはぐりぐりと回すように腰を使いはじめた。

「うくぅっ…」

アンジェリークの体がびくんと魚のように跳ねた。オスカーのもので自分の最深部が抉られながら掻き回されるようだった。オスカーが腰を回すたびに、そのものが色々な角度で最奥にあたって色の違う花火が脳裏にはじけるようだ。

「は…はぁっ…あっ…あぁっ…」

「気持ちいいか?」

「あぁっ…いい…いいの…」

「いっぱいよくしてやるからな…」

オスカーは横向きのアンジェリークの体を少しだけ回転させると改めて正面から貫抜きなおした。抱えていた片足を今度は自分の肩に乗せ、アンジェリークを折り曲げるような形で組み敷いて上下に激しい抜き射しを与える。溢れかえるほどの愛しさにアンジェリークの華奢な体をきつく抱きしめながら。

「はあぁっ!」

アンジェリークが首を打ち振る。金の髪が衣擦れのような音を立てて広がる。アンジェリークも夢中でオスカーの背に腕を回し、広い背中にその手をさ迷わせた。

誘われるようにオスカーはアンジェリークの肩口に顔を埋め、首筋を吸った。

アンジェリークもそれに応えるかのように、オスカーの肩を噛んだ。

「くっ…」

オスカーは思いきりアンジェリークを抱きしめなおした。

「お嬢ちゃん、好きだ、好きなんだ…綺麗なお嬢ちゃんを俺にいっぱい見せてくれ。」

オスカーはアンジェリークを抱きしめて起きあがり、その反動を保ってベッドに沈みこんだ。勢いアンジェリークはオスカーの体の上に乗るような形となった。

アンジェリークはまだ体位の変化についていけず、オスカーの腹の上で荒い息を繰りかえしている。

オスカーはアンジェリークの手を取って指を絡めあわせ、その手を自分の方に引っ張りながら腰をずしんと上に突き上げた。

「くぁっ…」

アンジェリークが大きくのけぞった。手を強く引かれていたので、激しい突き上げにも腰は浮くようなこともなく、オスカーの律動を全て受け入れさせられた。全身を貫かれたかと思うほどの衝撃に、脳裏に閃光が走る。

「ほら、俺たちはひとつに繋がっている…わかるか?」

オスカーは1度律動を止め、アンジェリークの手を導いて自分たちの結合部分を確かめさせた。先刻の律動に朦朧としていたアンジェリークは導かれるままに、その部分に触れる。熱く逞しい肉幹が確かにアンジェリークのその部分を信じられないほど押し広げている。オスカーのものはすっぽり根元まで自分の胎内に納まっている。あんな大きなものがあます所なく入ってしまうのが、アンジェリークにはいまだに信じられない気がする。

「ああっ…こんな…恥かしい…」

「でも、幸せだろう?こうして分かち難く一つになれて…結ばれて…」

「あぁ…はい…幸せです、オスカーさま…」

「俺も幸せだ…お嬢ちゃんとこうして一つになれて…そして、お嬢ちゃんが乱れるほどに俺はもっと嬉しくなる…さあ、少し自分で動いてみるか?」

「…はい…オスカー様…」

アンジェリークがオスカーのものを胎内に収めたまま、ゆっくりと腰を前後にスライドさせるように動かし始めた。オスカーの責めにもう息が上がってきてしまい、自分では上下に動くだけの余力がなかった。それでも、自分の花芽をオスカーの腰にすりつけるようにして必死に自分の情感を高めようとしてみた。

それがわかっているのか、オスカーは解いた手で下から乳房を鷲掴みにつかんで激しくもみながら、同時に突き上げを開始した。

オスカーはボディスと網タイツをつけたままのアンジェリークを下から見上げる形で愛したかった。自分の突きに合わせてボディスに支えられた乳房が重たげに揺れる。その揺れを押さえるように乳房に指を食い込ませ、時折固く尖り切った先端を摘んだり引っ張ったりする。突き上げと乳房への愛撫を同時に行う度にアンジェリークの背中が、くっと反りかえり、美しい乳房の稜線がより突き出され、オスカーの目を魅了する。

「ああ、お嬢ちゃんは綺麗だ…高まって色づいて、淫らに染まって咲き誇る花だ…俺の側で、ずっとずっと咲いていてくれ…いや、いつまでも綺麗に咲き誇らせてやる…俺が…俺のこの愛で…」

乳房をつかむように揉み、突き上げながらオスカーは感に耐え切れぬように呟いた。

「ああ…オスカー様…うれ…し…愛してます、私も…」

アンジェリークがオスカーの惜しげのない賛嘆と決意にも似た愛の誓いに頬を染め、歓喜に震えた。

幸福に身も心も溶けてしまいそうだった。愛しさを込めてオスカーを見下ろすと、オスカーも優しく愛に満ちた瞳でアンジェリークを見つめ返す。オスカーの熱過ぎるほどの視線を全身に感じて、アンジェリークは悦びと羞恥にいたたまれないような気持ちになってしまう。

「オスカ…さま…そんなに見つめないで…はずかし…」

オスカーの視線に恥らってしまったのか俯いたアンジェリークは、体の動きも躊躇いがちになってしまう。

高まってはいても、なりふり構わず快楽を追求するところまではいけないようだ。自分で快楽を極めるほどには体力がついていけないのかもしれない。だから、羞恥を振り切れないのだろう…それなら…

「見上げられるのは恥かしいのか?それなら…これならいいか?」

オスカーは一度交合を解くと、そのまま力を失いベッドに沈むように突っ伏してしまったアンジェリークに背後から覆い被さった。

アンジェリークの臀部を抱えて高々と持ち上げ、今の今まで自分のものを受け入れていた故に口を綻ばせしとどに蜜を零している花弁に見惚れた。

「お嬢ちゃんのお尻はほんとにかわいいな…花びらがまだ俺のことを咥えたりないみたいに物欲しげなところもな?」

オスカーはアンジェリークの白い臀部を手でくるくると撫でさすった。ガーターベルトの赤と網タイツの黒が白い臀部を強調して、より鮮烈に目を射ぬく。

「や…」

「お嬢ちゃんのダンスを見たときからこうしてやりたくて仕方なかった…」

オスカーはアンジェリークの臀部をがっちりと抱えこんで、自分のもので秘唇を2、3度つつくように撫でた。予告のつもりだった。

「え?あ…」

アンジェリークの太腿が固く締まったのをオスカーの手は感じた。待っているんだな…とオスカーは思う。

だから、遠慮なく渾身の力でその花を突き刺した。

「あああっ!」

アンジェリークの背がきれいなカーブを描いて撓った。

オスカーは素早いリズムで抉るような鋭い律動を矢継早に放つ。

「こうして抱えこんで思いきり突き上げてやりたくてたまらなかった…」

「くぅうっ…すご…すごい奥まで…」

「いいか?お嬢ちゃん?もっと突いてほしいか?」

「ああっ!一杯!一杯突いて!」

「ああ、一杯気持ちよくしてやるからな…」

オスカーはアンジェリークの臀部を割り開くようにさらにしっかりと抱えこんで高めに持ち上げた。アンジェリークの頭は逆に下がって枕に突っ伏す。オスカーは膝立ちから半ばしゃがむような姿勢でアンジェリークに激しく腰を打ちつけた。不安定な姿勢所以に、オスカーの突き上げはアンジェリークにその勢いと体重を全て掛けるような深く激しいものになった。その渾身の力をこめた律動をできる限りの速さでこれでもかとばかりに繰り返した。

「ああああっ!」

アンジェリークが激しく頭をうちふり、一声高く鳴いた。

坩堝のように熱い秘裂が戦慄くように震えた。

「くぅっ…」

その締め付けにオスカーも自分を解放した。アンジェリークの最奥を突いた瞬間に、アンジェリークに自分の思いの全てを染み入らせるかのように…

 

ぐったりと突っ伏したアンジェリークから、オスカーは身にはりついたままのボディスとタイツを丁寧に取りさった。下着をつけたままでは寛げないだろうし、汗をかいたまま身につけているのは気持ち悪いだろうと思って、人形のようにくったりしているアンジェリークの手をとり足をもちあげ産まれたままの姿にしてやった。

「ふにゃ…」

アンジェリークが力なくみじろいだ。

「お嬢ちゃん、シャワーを浴びたいか?もしそうなら連れていってやるが?」

「はい、オスカー様、できれば…」

オスカーは黙って頷くと、くてんとしているアンジェリークを抱いて浴室に入った。シャワーで互いの汗や体液をざっと洗い流しさっぱりとした。

綺麗にしたアンジェリークをもう1度ベッドまで運んでやり、枕を調節してヘッドボードにもたれ掛けるように座らせてやる。自分もベッドに入ってその脇に腰掛け、アンジェリークを抱き寄せて、頬や額や耳朶にいくつもキスした。

「お嬢ちゃん、ありがとう、最高のプレゼントだったぜ?誰にも真似できない、最高のな?ダンスもその後も…」

「やん…あんな拙いもので…私、その…ああいうダンスだとは思ってなかったから全然準備できてませんでしたし…」

「そうだったのか?お嬢ちゃんが俺にテイルコートを着せたから、てっきりダンスのことを予測してたんだと思ってたぜ。お嬢ちゃんはなんだと思ってたんだ?」

「その…実は勝手に思いこみで…あっ!オスカー様、ちょっと待っててください…」

アンジェリークはベッドから起きあがると、自分が全裸であることを思い出して、羽織るものを探した。が、滅多に夜着を着ない、というか着る暇もないというか着させてもらえないというか…なので夜着はクロゼットの奥にしまいっぱなしなことを思い出した。クロゼットに行くのに全裸でオスカーの前を横切りたくないのに、そのクロゼットの1番奥まで行かないと夜着がないのだ。浴室からも全裸でベッドに運ばれてしまったので体に巻くタオルすら手近にないのである。困ってしまった。

「ん?どうしたお嬢ちゃん?」

「あの、オスカー様、私クロゼットに取りにいきたいものがあるんですけど、そこまで着ていくものがないんで、困ってしまって…」

『遠慮しないで、そのまま行けばいいじゃないか』とオスカーは思ったが心情的にそうできないので、アンジェリークは困っているのだろう。艶かしい気分が今は霧消したので妖艶な大胆さも姿を消し、あどけなく恥かしがりやな常の彼女が顔を出している。オスカーはその落差自体が魔法のようで楽しいと思うが、今はもう、先刻のように自分から誘うような仕草や瞳はしてくれないのかと思うと、ちょっと寂しかったりもする。なのでオスカーはなるべく自分の目に楽しいであろう提案をしてみる。

「それならとりあえず俺のシャツでも羽織って行ったらどうだ?」

「いいんですか?じゃ、お言葉に甘えて…」

アンジェリークがオスカーのシャツを軽く羽織ってボタンを1、2ヶ所だけ留めると、クロゼットの奥に消えてった。

アンジェリークの白いシャツから覗くすんなりとした足と見えそうで見えないお尻を楽しく見送るオスカーである。クロゼットから帰ってくるときは、逆に見えそうで見えないあわあわとした金の叢を楽しめるしな…と思っていたところ、アンジェリークが大きな衣装箱を抱えてよたよたと歩いてきた。

「お嬢ちゃん、着替えを取りにいったんじゃなかったのか!そんな大きな箱、俺が持ってやるから…」

とオスカーは慌てて箱をひったくった。ただ、その箱は見かけよりは軽かった。

「お嬢ちゃん、一体何を持ってきたんだ?」

「その…さっきの話の続きなんですけど…私、オスカー様がご希望のダンスは、もしかしてフラメンコかな?って勝手に思ってたんです。1人で踊るしドレスの丈も長いし…」

「じゃこれはフラメンコの衣装か?自分で準備していたのか?でも、何故今出すんだ?もしかして、せっかく準備してくれたからフラメンコも見せてくれるっていうのか?」

「いいえ、これは私の衣装じゃないんです。オスカー様はきっと私のドレスはご自分で準備なさると思ってたから…」

「じゃ、これは何なんだ?」

「その…開けてみてください、オスカー様。」

オスカーは訳がわからんなーと思いつつその箱を開けると中には漆黒に金モールの刺繍が至る所についた華々しいボレロのような丈の短いジャケットと七部丈のスラックスが入っていた。そのスラックスにも側面に隙間なく金糸の縫取りが施されている。白のシャツとネクタイはいいとして、子どもの時以来履いたことのないような白のハイソックスも入っていた。

「これは?」

「その…闘牛士の衣装なんですぅ。オスカー様の…」

「あぁ?俺の衣装?闘牛士?」

見ても聞いてもやっぱりさっぱり訳がわからない。

「あの…私、自分がフラメンコダンサーになると思ってたので、どうせなら、オスカー様に闘牛士の格好をしていただいていっしょに記念のホログラムでも撮れたらいいなって思って、勝手にオスカー様の衣装を注文しちゃってたんです。でも、フラメンコって私の早とちりだったから…スパニッシュの闘牛士とフレンチカンカンじゃ全然ミスマッチですものね…」

オスカーはふむ…と考えこんだ。事情はわかったが、アンジェリークがわざわざ俺にこれを見せたということのその意味は…

「でも、お嬢ちゃんとしてはこの俺の衣装を無駄にしたくないというか…有体に言って着てほしいのか?俺に?」

アンジェリークがすごく申し訳なさそうに、でも、こくこくと頷いた。

「だって、だってぇ、オスカー様の闘牛士姿、きっととっても素敵だと思うんですもの。だめですか?オスカーさまぁ…あの、私の誕生日の時にプレゼントってことにしてくださっていいですから…」

一瞬の沈黙の後、くっくっくとオスカーの唇から笑みが零れた。自分がアンジェリークに色々なコスチュームを着せて楽しんだものが、自分に跳ね返ってくるとはまさか思ってもいなかった。

『まったくお嬢ちゃんには驚かされるぜ。自分が踊り子にさせられるから思いついたんだろうが、俺にも衣装を着せようとこんな物を注文していたとはな。俺が常にない姿になるのが楽しいとか見たいとか思うのも意外だ。それの何が楽しいんだろう?』

とも思ったが、考えてみたら自分だって同じではないか。アンジェリークだって、裸エプロンとかフレンチカンカンの格好をするとどうしてオスカーが喜ぶのかわからなかっただろう。それでも、自分オスカーが喜ぶと思って、そして誕生日だからということで、アンジェリークは自分の無体とも言えるわがままを聞いてくれたのだから、オスカーとしても自分だけ嫌だなんて言うつもりはなかった。まったくアンジェリークがいてくれるおかげで、オスカーは誕生日も楽しくなれば、生きていること自体に感謝もできるようなったのだから…

「わかった、わかった、じゃお嬢ちゃんのご所望通り俺はこの衣装を着ればいいんだな?それならお嬢ちゃんが自分で言ったみたいに、お嬢ちゃんも改めてフラメンコの衣装を作って、その時まで俺も衣装を着るのは待って、一緒にホロでも…撮る…か………」

ここまで言ってオスカーは突然「はっ!」とした様子で体がぴきんと固まってしまった。思考が何かに捕らわれたようで視線が激しく宙を泳いだ。

「え?いいんですか!ありがとうございます!オスカー様!」

アンジェリークは突如固まったオスカーの様子に不審も抱かずにはしゃいでいる。闘牛士のコスプレをしてもらえるのがよほど嬉しかったのだろうか。

そしてはしゃぐアンジェリークをよそに、実はオスカーの心中は、この時激しい後悔で嵐の海のように逆巻き荒れうち揺れ動いていたのであった。

『しまったあああああ!なんてこった!何故俺は今までのお嬢ちゃんのかわいい姿を記録に残しておかなかったんだああ!このオスカー痛恨の極み!一生の不覚だぜ!』

という後悔の念で…アンジェリークにホロを撮るといわれて、たった今自分もその事に気付いたのだった。

アンジェリークはオスカーの心中も知らずににこにこしている。きっとオスカーと一緒に撮るホロのことに意識が飛んでしまっているのだろう。

そのアンジェリークを見ながらオスカーは『いや、考えてみたら何も後悔することはないかもしれん…』と、ふと思いなおした。

そうだ、何事も遅すぎるなんてことはないはずだ。不覚と思える事態だって気付いた時点で仕切り直せばいい…

切り替えと立ち直りの早さはオスカーの美点であり長所であり自慢でもある。攻撃が上手くいかなかったり、予期せぬ反撃を受けてたからといって、いちいちうろたえたり、呆然としていたら、軍人なんてあっという間に戦死である。臨機応変にその時々で最良かつ効果的な策をいかに迅速に組みたてなおせるかこそ、優れた軍人に求められる資質なのだから。

灰色の頭脳を必死に回転させ前向きな思考を構築する。

『そうだ、これからホログラムを撮ったっていいじゃないか。俺とお嬢ちゃんのホロを撮る時、このカンカンの衣装をつけた姿も一緒に撮ってはくれないだろうかってお嬢ちゃんに頼んでみるか…足やお尻を見せなくていいという条件をつければなんとなく行けそうな気がする…一昨年の水着の写真もまあ、グラビアみたいなものだし、上手くいえば撮らせてもらえるかもしれん…問題は去年の裸エプロンだな…』

オスカーはアンジェリークにどんなわがままでも言っていいとか、聞いてもらって当然だなんてことはさらさら思っていないし、そんなことをするつもりもない。去年のおねだりも今年のおねだりも、アンジェリークにはめちゃくちゃ恥かしいだろうことはわかっているのだが、誕生日だからということをエクスキューズにして、特別に聞いてもらっているのだ。アンジェリークがどこまで自分のわがままを聞いてくれるか、自分は愛情を試す子どものような振る舞いをしているなという自覚もしっかりある。だからこそ、アンジェリークが恥かしがって躊躇いそうな要求は誕生日以外には言わないという枷も自分に課していた(オスカーは自分ではそのつもりである)。しかし、どう考えても裸エプロン姿の撮影は快く承知してもらえるレベルの要求でないことくらいオスカーにもわかる。

今までの経験則から言って、撮影を誕生日プレゼントにすれば聞いてもらえる可能性は大である。しかし、そうしたら来年の誕生日は今まで見た姿を再確認するに留まり、アンジェリークに新しく何かしてもらうという機会を放棄することになる。いわば再放送見たさに新番組を諦めなくてはならないようなもので、あの感動をもう1度!という気持ちと、新たな感動を味わいたい!というアンビバレンツな要求にオスカーの心は今、悶々としているのであった。

『お嬢ちゃんが俺とホロを撮りたいなんて提案してくれたもんだから、俺もお嬢ちゃんの艶姿を記録に残したくなっちまったぜ。まったく罪なお嬢ちゃんだ。しかし、どうしたものか…』

来年の誕生日の時に、どうしてもしてもらいたいことが決まらなかったら撮影でもいいかもしれん、でも、その可能性は少ないかもしれんなぁ…と、その時オスカーにあるインスピレーションが閃いた。

そうだ、いっそのこと、10年くらいはこのままコスチューム系のプレゼントを続けさせてもらって、まとめて集大成でホロを撮ってもいいかもしれん!退任が決まって聖地を去るまで続けたりしたら、かなりのコレクションになるぞ!きっとすっごくかわいいぞ!今年までの艶姿3枚でまとめちまうより、見ごたえもばっちりだ!

自分でもこのアイデアが気に入ったオスカーの心はいきなり5月の空のように冴え冴えと晴れ渡った。さっきまでの後悔の嵐は綺麗さっぱり消えうせ、去っていく雲に替って光りが燦燦と降り注ぐような気分である。

アンジェリークはと見れば、ベッドに腰掛けながらオスカーのシャツが大きすぎて袖を一生懸命まくっているところだった。その姿が愛らしくて仕方ない。

オスカーはアンジェリークの肩を抱き寄せると髪を撫でながら、こう言った。

「お嬢ちゃん、ホロの撮影は別にプレゼントじゃなくてもいいからな。お嬢ちゃんも一緒に撮りたかったら自分の衣装も注文しておくといい。」

「ありがとうございます!オスカー様!でも、私のわがままですし、申し訳ないからそれが誕生日プレゼントでいいです、ほんとに。」

「まあ、それは今すぐ決めなくていいからな。欲しい物があったら遠慮なく言うといい。俺も遠慮なくおねだりさせてもらったことだしな?」

ばちんとウインクするとアンジェリークが頬をほんのりと染めた。

「やだ…オスカー様ったら…」

オスカーは再び、アンジェリークのそこかしこに小さなキスを振らせ始めた。アンジェリークも気持ちよさげにゆったりと瞳を閉じてオスカーのキスを享受している。

『そう、きっと俺は来年もまた遠慮のないわがままな要求をしちまうんだろうからな。今年のフレンチカンカンみたいに…さて、来年はどんなおねだりをすることになるんだろうな…』

なんてことを、オスカーは考えながらアンジェリークの唇を塞いで蕩けそうなキスを始めた。

とてもじゃないが、1回アンジェリークを抱いたくらいではあれだけ刺激された官能を昇華できるはずもない。ただ、この後何回アンジェリークを抱いたらこの身が鎮まるのかも、自分ではわからない。眠らせない言い訳に、『こなし切れなかったおさらいが、まだ残っていただろう?』なんて言ったら、お嬢ちゃんはどんな顔をするだろう。ちょっと意地悪過ぎるだろうか…いや、正直に『何度でも抱きたいんだ』と言ってもいいかもしれん…誕生日だものな。欲しいものを欲しいと、公然と、素直に、照れずに言う事が許される日なんだものな…

アンジェリークはオスカーの巧みな口付けに早くも夢心地だ。オスカーが自分を眠らせてくれないかもしれないことも、ましてや来年の誕生日のことを最早念頭に置き始めたことなど、当たり前だが想像もせずに、甘く痺れるようなキスに酔いしれるアンジェリークだった。
 
FIN


三作目のBD創作(2001年版・笑)で、前2作を2人の愛の歴史とさせてもらっているので、差別化のためにも今回はオールキャラ出演のコメディでオスカー様のBDを祝いつつ、オスカー様がアンジェにしょーもないおねだりを、それはそれとしてする、という構成にしてみました。連載でシリアス長編(魂魄)を抱えていた反動でコメディ部分もオスカー様の愛の追求ぶりも、とことん容赦がないものになってます(笑)
今後もオスカー様とアンジェは似たようなお祝いを続けていくんでしょうね。しかも、来年からはオスカー様もセットのコスプレかな?オスカー様も自分がコスプレさせられることになるとは思ってもいなかったでしょーね(笑)
BD創作まとめの1話的展開になりましたので、小説形式のBD創作はこれで最後になるかもしれませんね。スターウォーズみたいに三部作で完結、うん、いいかも。毎年コスプレってことで、もう先が見えてるし(爆)というか、いいかげんネタが…(爆)
ちなみに「人生○ーム・女王試験版」は由貴が勝手に考えだしたものですので、コー○イの通販で探しても売ってませんからね〜(笑)て、これから発売されたりして。


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