恭しくアンジェリークの手をとってベッドへと向かうと、オスカーは、まず、アンジェリークがぎゅっと胸元に抱え込むようにーまるで誰にも渡すまいとでもするようにー持っていたワインを籐の籠ごとごく自然な手つきで受取り、サイドテーブルに置いた。そうしてから、オスカーは、先に自分がベッドの際に腰かけると、萎れた花のように縮こまってしまっていたアンジェリークを抱きよせて、己の膝の上に乗せて座らせた。そして、大きな手で、何度も柔らかく金の髪をなでーアンジェリークの体の強張りを解き、緊張をほぐすようにーながら、こう告げた。
「お嬢ちゃん、俺は、確かに、君のこの姿を見た時、思いがけず胸がいっぱいになってしまい、その所為で言葉を失った。でも、それは、望んでも叶わない望郷の念に、胸が痛んだからじゃない。安心していい、君の気持は俺を傷つけたり、苦しめたりはしていない、それは、信じてくれるか?」
「オスカー様…」
アンジェリークは、実のところ、半信半疑だった。オスカーが、自分を慰めるために、自分の、悪意がないとはいえ考えなしな振る舞いを気に病ませないために、それこそ罪のないウソを言っているのではないかとも思ったが、でも、オスカーが信じてくれ、と言っているのだから…と、こっくり頷いた。すると、オスカーはうれしそうに微笑んだ。
「じゃ、どうして…何に胸が詰まって、黙りこくってしまったのかって思うだろう?その…お嬢ちゃんが、今、身につけている、その衣装な。それは、俺の故郷では祭りの時の晴れ着、それも、乙女が…つまり未婚の女性が身につけるものなんだ」
「え?やだ、どうしよう、私、そんなことも知らなくて…」
無知ゆえに、ちぐはぐなおかしなことをしちゃってたんだわと、恥じ入り、さらに小さくなってしまったアンジェリークを安心させるように、オスカーは、その額に軽く口づけた。
「ああ、いや、風俗ってのは、地方ほど、地元の者じゃないとわからない細かいしきたりや、作法があるものだから、それはいいんだ、君にはそのドレスは良く似合っているし…ただ、俺は、君の晴れ着姿を見たその瞬間……俺が子供…少年だった頃のある祭りの日、妹が俺を呼びにきた、その時の思い出が、本当に一瞬のうちに蘇り、頭の中いっぱいに溢れかえった。妹が、その年、新調した晴れ着を着せてもらって、うれしそうに、誇らしげにそれを俺に見せにきて「早く、祭に行こう」と俺を誘いに来た、その時の光景がまざまざと記憶に蘇って…一度、思い出したら、洪水みたいに、後から後から色々な思いが溢れてきて…それで、しばらく、言葉を失っちまってたんだ。と、そういえば…お嬢ちゃん、俺に妹がいたことは、話したことが、あったかな」
「あ、はい、私がまだ女王候補だった頃に、伺ったことがあります、弟さんと妹さんがいらして…仲のよい御兄弟だったと…」
「ああ、そうか…そうだったな…昔…君とデートした時、話したことがあったな…」
「オスカー様…」
「そんな顔をしなくていい、お嬢ちゃん、俺の兄弟は疾うに天寿をまっとうし、鬼籍に入って久しいだろうが、きっと平凡な…だからこそ幸せな一生を送ったと俺は信じている。それもこれも、俺が守護聖になって、宇宙の安定をしっかり支えてやったからだぜって、俺は思うことにしてるしな。だから、兄弟のことは、めったに、思い出すこともなかったんだ。何も悔いはない、いい思い出しかないからだ。気持の上での引っかかりや拘りがないからこそ、普段は思い出さずにいるんだろうな。でも、君が、少しはにかんで、それでいて誇らしげな、見るからにわくわくした様子で、生まれ故郷の晴れ着に身を包んで出てきた姿が…誇らしげにうれしそうに晴れ着を見せにきた妹の姿と、瞬間、重なって見えた。君と妹は面差しや外見に全く似たところはないんだが…妹は赤褐色の髪に濃い青の瞳、肌も俺ににて女性にしては浅黒く、じゃじゃ馬と言っていいくらい、やんちゃでお転婆だったからな…」
そう懐かしそうに語るオスカーの瞳は、なんともいえず、優しくて、アンジェリークは見ていて、胸が詰まった。
「ただ、妹のことを思い出したことで…一緒に色々な思いがとめどなく想起された。たとえば、俺が君を妻として故郷に連れ帰っていたら…君と妹は、きっと、義理とはいえ、仲の良い姉妹になってくれただろうなとか、そういえば、姉妹っていうのは、どんなことを話すんだろうな、とか。既婚と未婚だと揃いとはいかないが、君と妹は似たような晴れ着をまとって、俺と弟と一緒に祭に繰り出したりもしたんだろうなとか、君は、それはもう、可憐で愛らしいから、弟がきれいな義姉にあこがれたら、俺は、ハラハラしただろうな、とか…自分では一瞬のつもりだったが…色々…本当に色々な楽しい想像が、次から次と想起されて、その甘い夢に暫し俺は酔ってしまっていたらしい。だが、その所為で、君を不安にさせてしまい、すまなかったな」
「いえ、そんな、オスカー様…でも、私も…オスカー様の弟さんと妹さんと…きっと、仲良くできたと思います」
お会いしてみたかった、とアンジェリークは言わない。オスカーも「会わせてみたかった」とは言わなかったし、言おうとしない。それが不可能だったことは、わかりきっていて、わかっていて口にするのは「無い物ねだり」だから。無いものねだりは、口にした瞬間、どうしたって苦味を伴うから。
「ああ、本当に、ありえない「もしも」なんだが…な」
そう言ってオスカーは、少しだけ、さびしそうに笑んだ。
空想の上で「もしも」を語るだけなら、それは、ほの甘い後味を残すだけで済む。だから、オスカーは、自分を律して、それ以上のことを口にしない。
アンジェリークはただ、黙ってオスカーを見つめた。オスカーの言いたいことはわかる。オスカー様は守護聖で、私が女王候補だったからこそ、私たちは出会え、今、こうして、歩調を合わせ一緒の人生を歩めるのだから。でも「ありえない、もしも」を語るオスカーに頷くことは、何か惨いような気がして、だから、アンジェリークは、ただ、黙ってオスカーを見つめ、その言葉に耳を傾けた。
「でも、そんな「もしも」に思いを馳せるのが、正直、俺は、楽しかったんだ。君と妹が、一緒に、楽しげに笑いさんざめきながら、祭に向かう、そんな光景を一瞬、俺は想像して…その思い描いた光景の甘さに胸がいっぱいになっちまった」
この時、オスカーは穏やかに笑んでいた。自然なあるがままの笑みだった。
「オスカー様…」
「だから、ありがとう、お嬢ちゃん。俺を…俺の胸をこんなにも甘く温かい思いでいっぱいにしてくれて」
オスカーがこの上なく優しい笑みをアンジェリークに向けた。
「っ…オスカー様…オスカー様っ…」
アンジェリークは、はじかれるように、倒れこむようにオスカーの胸にむしゃぶりついた。きゅっ…と、自身の精一杯の力でオスカーを抱きしめ、その広い胸に自分の頬を押し当てる。
オスカーが手の届かない「もしも」を思い描いていたというその時、オスカーは、何か、痛みに耐えるような瞳をしている、と、アンジェリークは感じた、それは、間違いないと思う。だって「ありえない、もしも」を思い描くことは、確かに甘いかもしれないけど、同時に、どうしたって、胸をちりちりと焦がすものでもあると思うから。でも、オスカーは、自分の考えなしな振る舞いが想起させ、触発したものをただ「甘く温かい思い」と言ってくれる。その優しさに、アンジェリークの胸もいっぱいになる。
私、もっともっと、賢くなりたい、この優しい大きなお心をお持ちのオスカー様に相応しい、真に優しい聡明な女性になりたい。本当に信じられない幸運と偶然と運命が重なって、こうして、この素晴らしい方と一緒に歩んでいけるのだから、それを許してもらったのだから。
「オスカー様、愛してます。私、オスカー様に出会えて、一緒の人生を歩むことを許していただけて、本当に幸せです、だから…だから、これからも、ずっとお傍に居させてくださいね。私は、ずっと、オスカー様のお傍にいたい、オスカー様と一緒にいたい、いたらない所がいっぱいある私ですけど…それでも…」
私は決してオスカー様の傍を離れない、離れたくない、守護聖としての多大な栄誉とそれに伴う重責、そういう諸々すべてを担い、お辛いことも多々おありだったと思うのに…なお、それでも、雄々しく凛々しく笑う、私に笑いかけてくださる、そんなオスカー様だから、ずっと傍にいたい、私の手はこんなに小さくて、力も弱いけど…オスカー様を思い切り抱きしめていたい。そのためなら、どんな努力だっていとわない、そう強く思う。
アンジェリークが微かに露を含んだ瞳で、でも強い意志を胸にオスカーを見あげると、オスカーはそんなアンジェリークの鼻先に小さな口づけを落とし、その背をふんわりと抱きしめて、こう言った。
「ありがとう、お嬢ちゃん、俺には、何より嬉しい言葉をくれて…。でも、その思いは俺も同じだ、お嬢ちゃんは、こうして、俺の誕生日を…毎年、当り前のように祝ってくれる、守護聖になった身では、考えられないような幸せを…今まで知らなかった幸せを、君はいくつも俺に教えてくれた。君にもらった幸せは数えきれないほどだ、アンジェリーク。だから、俺からも…今日は俺の誕生日だから、少しばかり、我儘を言わせてくれ…これからも、ずっと、俺の傍に…いつまでも、俺のすぐそばで、俺と一緒にいてくれ、アンジェリーク」
「はい…はい、オスカー様、喜んで。だって、それは、私の願いでもありますもの、いつも、そう願ってます、だから、それって全然我儘じゃないです。こんな、我儘なら、いくらでも言ってほしいくらい、いえ、もっと、色々な我儘を言ってほしいくらいです。だって、そう言っていただけて、うれしいのは、私の方なんですもの…」
アンジェリークは勢い込んで言いつのってから、しゃんと居住まいを正し、かしこまり改まった姿勢でーオスカーの膝の上に乗せられている状態での精一杯のかしこまり方ではあったがーオスカーにこう告げた。
「オスカー様、改めて、お誕生日おめでとうございます、次の1年もオスカー様がお幸せでありますように、そして、この1年、いっぱい、いくらでも、遠慮なく我儘をおっしゃってくださいね…いえ、言っていただきたいです」
「お譲ちゃん、その祝辞は、今、この瞬間から有効か?」
オスカーは、なんとも嬉しそうに口角を上げ、ぐいと、力強くアンジェリークの細腰を抱き寄せざま、耳元で囁いた。
「は、はい、もちろんです、オスカー様…」
「ふ…お嬢ちゃん、後悔しても知らないぜ?お嬢ちゃんは、俺が、どんなに我儘か、きっと、まだ、よくわかってないんだ」
いたずらっぽく笑みながら、頬にいくつも小さなキスを落としてくるオスカー。
炭酸水の泡がはじけるような、そんなキスを受けながらアンジェリークは、
「ふふ、だって、私が、オスカー様に我儘を言ってほしいって思ってるんですもの。私、オスカー様が我儘を言えるような存在でいたいし…我儘を聞かせていただくことは、むしろ、私の喜びなんですもの…」
と言って、にっこりと満面の笑みをオスカーに返した。心底、偽らざる気持ちだった。だって、オスカー様は、守護聖として、辛い思いをしたり鬱屈を感じたとしても、責任感や義務感でそれを押し殺し笑えてしまう方、守護聖として在るべしという姿に…いえ、そうあるべしと期待される以上に、雄々しく強く在らんと努め、実際に、自身を律することができる方、だからこそ、私の前では…私には思いきり我儘に振舞って下さるくらいの方が、私はうれしい。
「オスカー様、大好きです」
アンジェリークは手をのばして、その小さな手でオスカーの頬を包み込むと、指先をオスカーの顔の輪郭に滑らせながら、少し背伸びしてそっと唇を重ね、すぐに離れた。
と、オスカーがすかさず、アンジェリークの手をとり、その指先に返礼とばかりにちゅ…と口づける。
「なら、今日は…君のその優しさに、甘えさせてもらっていいか?アンジェリーク」
「はい、オスカー様…喜んで…ん…んんっ…」
オスカーからアンジェリークの唇に触れてきたその口付けは、最初から、とびきり熱く深いものだった。
唇が角度を変えて2、3度触れあわされるや、すぐさま、もどかしげにオスカーの舌がアンジェリークの唇を割り入った。
熱い舌が、荒々しく無遠慮なまでにアンジェリークの口腔内を暴れまわる。その強引さが、アンジェリークには、むしろ嬉しい。舌をはじかれ、捕えられ、からめられると、それを待ちかねていたように、アンジェリークもオスカーに熱く応えてしまう。
いくらでも、きりなく口づけを交わしたい、そんな思いで唇を合わせ、舌をからませあう。
口付けが長引くうちに、軽く開けた唇から、やるせない喘ぎが、熱い吐息とともにアンジェリークの口から漏れ出てくる。
と、オスカーの舌は、一層激しく、猛々しいまでにアンジェリークの口腔内で暴れる。
オスカーの舌の動きが荒々しくなる程に、アンジェリークは、早くも、おなかの奥の方が、きゅ…っと絞りこまれるような、むずむずと疼くような、落ち着かない心持になってくる。
オスカーの唇はやわらかく、舌は熱い。この優しい唇が、程なく肌の隅々を撫でてくれること、熱い舌が、触れられるだけで、声が漏れ出てしまうような気持ちいい所を、大切に、丁寧に舐りいつくしんでくれることを、わかっているから…それを私は心から待ちわびているからだと、アンジェリークはわかっている。
早く、この唇で、私の肌にくまなく触れてほしい…キスのさなかにも、ふと、そんなことを願っている。
だから…オスカーと肌を合わせることは、純然たる、そして最たる喜びだから、自ら着衣を解いたっていい、オスカー様の着衣も進んで解いてしまいたいとアンジェリークは思っているー思っている内に、いつのまにか、手際の良いオスカーに着衣をすっかり取り払われてしまっているのが常なのだが。
ただ、今宵は…自分がよかれと思って身につけた衣装が、オスカーにーオスカーは明言せずともー複雑な思いを抱かせ、心を波立たせたとわかっているので、いつもより、アンジェリークは体が硬い。オスカーを求める気持ちを、素直に表すのは、おこがましいような図々しいような…どこか遠慮する気持ちが心の片隅に残っていて、だから、おずおずとしてしまい、いつもならオスカーが着衣を解きやすいよう、自然に体を浮かしたり捻ったりするのだが、今はそんな如才もおぼつかない。この衣装が、乙女の晴れ着と聞き知って、それも、自意識過剰の元になっている気がする。どう振る舞えばいいのかわからず、オスカーの膝の上で、情熱的なキスに応えるだけで、いっぱいいっぱいだ。
優しいオスカー様のことが、大好きなのに。拙くても、力及ばなくても、私の精一杯で、オスカー様を抱きしめたい、と思っているのに…と、もどかしい気持ちがアンジェリークの中で募りゆく。
すると、いつになく体を固くしているアンジェリークに気づいたのだろう、オスカーは
「今宵のお嬢ちゃんは、いつにもまして初々しいな…この衣装の所為か…初心な…君に恋する男からの熱烈な求愛に戸惑い竦む乙女のようだぜ」
と、耳にした瞬間、体が芯からとろけるような、甘くよく響く声でアンジェリークに語りかけた。
「そんな、オスカー様…そんなことない…」
アンジェリークは、あわてて、オスカーにきゅっ…としがみつくように抱きついた。
「私、オスカー様にいっぱい触れてほしい…私からも、オスカー様にたくさん触れたい…今、自分の中で、そんな気持ちが大きくなりすぎて、それで、却って、どうしていいかわからなってしまってたの…」
身を固くしていたことで、オスカーと触れ合うことに乗り気でないなんて誤解されたくない、これ以上、決して、オスカーを傷つけたり、不快な思いをさせたくない、オスカー様が好きで、好きでたまらないからこそ、臆病になったり竦んでしまうこともあるけど、でも、オスカー様に触れたい、触れられたい気持ちは何にも勝る、そんな思いを懸命に訴えた。
と、オスカーは、アンジェリークを安心させるように優しい口づけをくれた。
「ああ、お嬢ちゃんは、初めて俺と肌を合わせた時から、そう望んでくれていたな…」
「!あ…はい、そうです、オスカー様…オスカー様に触れたくて、触れてほしくて、触れていただくのが嬉しくて…初めて抱きしめていただけた時は、あまりに幸せで胸がいっぱいで息もできないほどで…」
「乙女であった君にそこまで思われ、欲してもらえ、俺が、どれほど嬉しく、幸せだったことか…そして、俺のその気持ちは、今もその時と寸分変わらない。愛しているアンジェリーク。君がほしい。いつでも初々しく、情愛深く、俺を愛し、欲してくれる君が…」
「オスカー様…私も…私もです、気持ちはずっと変わりません、オスカー様に愛してるって言ってもらえて、私からも好きですって告白した時からずっと…私は、オスカー様に触れたい、触れてほしい、心からそう願ってました」
「それは俺も願ってやまないことだぜ、お嬢ちゃん、だから、俺の傍に…いてくれ、いつも、いつまでも。そして、この幸せを俺に、確かめさせてくれ」
「オスカ…さ…んんっ…」
オスカーが改めて深々と口づけてきた。
同時にオスカーの手がアンジェリークの肩に触れる、胸元に伸びる。ブラウスのボタンがひとつづつ、手早く、正確に外されていき、白いレースに覆われたふっくらと丸い乳房のふくらみがあらわにされる。と、ボタンだけは全て外したものの、まだ、下着に覆われたままの乳房にオスカーは顔をうずめてき、胸のふくらみに沿わせるように、手を乳房に添えた。
アンジェリークは、切ないような愛しさが胸いっぱいに込み上げて、オスカーの髪に指をうずめ、自らの胸に押しつけるようにオスカーの頭を抱き寄せた。
オスカーがわが意を得たりという表情で、アンジェリークの乳房の膨らみを大きく口に含んだ。柔らかさと弾力と、その両方を楽しむように、乳房全体を唇で極軽く食む。食みながら、口の明きを少しづつ小さくしていき、ふくらみの頂点を、レースごしにちゅ…と軽く吸った。オスカーの唇が触れた時点で、アンジェリークの乳首は、それとわかるくらい、くっきりと屹立していた。鮮紅色の先端が、白いレースを押し上げるように立ち上がっているのがアンジェリーク自身にも見え、アンジェリークは「これでは、私、いかにもオスカー様に「早く食べて」とねだっているみたい」と、我知らず、頬を染めた。それが、正直な気持ち、偽らざる本音だからこそ、頬が熱くなるのだ。
レース越しに吸われるうちに、乳首はさらに硬さを増したようで、オスカーがその感触に誘われたように、かりっと極軽く、歯をたてた。
「あんっ…」
アンジェリークは軽くのけぞった。布越しだから、少し強めの刺激位がぞくそくする程心地いい。が、布越しの刺激が、なんとももどかしく、じれったい、そんな我慢しきれない思いも同じ強さで積りゆく。
「オスカー様、お願い…」
「どうした?お嬢ちゃん…」
オスカーが見せつけるように舌を差出し、レースごしに乳首の先端をつつきながら、いたずらっこのような笑みを浮かべて尋ねた。
「あっ…ん…も、もっと…あの…直接、触れて…?…オスカー様の唇で直に触れてほしいの…」
とても恥ずかしかったけど、アンジェリークは、きちんと自らの望むところを言葉にする、それが、オスカーを喜ばせると知っているから。
オスカーは嬉しそうに笑むと、ブラを上に押し上げる形でアンジェリークの乳房をあらわにするや、差し出した舌を縦横に動かして乳首をねぶり始めた。下から上へと乳首を幾度も舌で掬いあげ、左右に躍らせる舌で、その先端を素早く弾くように弄う。乳首全体に舌をねっとりと押し当てるようにしたかと思うと、ぐるりに舌を回しもする。
「あぁっ…あ…うぅん…」
自然と、鼻にかかった甘えるような声がアンジェリークの唇から漏れ出る。
「こんな風に…舐めてもらいたかったのか?…お嬢ちゃんは…」
多彩に自在に乳首の上で舌を躍らせる合間にオスカーが尋ねる。
オスカーは、自分にこの淫らな光景を…自分の乳首がオスカーの舌に執拗なまでにねぶられ、唾液で淫靡に彩られている様を、見せつけたいのだ、見せて、更に情欲をあおりたいのだと、わかる。そして、アンジェリークは、それをこの上なく嬉しいと感じてしまう。実際、オスカーの愛撫を喜び、更に強請るように、乳首は硬く立ち上がり、色濃く染まっており、オスカーの舌がそんな自分の乳首を舐め弾く様を見ていると、恥じらい以上に白熱するような喜びでいっぱいになる。あんまり気持ちよくて、幸せで、だから、それをオスカーに伝えずにはいられない気持ちになる。
「んんっ…そう、そうなの、オスカー様…こんな風に…いっぱい舐めてほしかったの…」
「舐めるだけでいいのか?お嬢ちゃん」
「ううん…もっと…もっと、いっぱい食べて、オスカー様…」
「あぁ、本当に食っちまいたいくらいかわいいぜ、お嬢ちゃんは…」
いうや、オスカーはアンジェリークの身を思い切りきつく抱きしめる。と、すぐにオスカーは乳房のふくらみを乳輪から大きく口に含むと、口腔内で乳首を執拗に舐めころがし、舌先で押しつぶし、わざと音を立てて幾度も吸いあげた。闇雲なまでの勢いと無秩序さで、それを両の乳房に繰り返す。アンジェリークの乳首は吸われたことで、さらに紅色を濃くして、きつく尖る。乳房全体がオスカーの唾液にまみれて、淫らに艶やかに濡れ光る。
「ほら、こんなに乳首を硬くして…すごく、気持ち良さそうだぜ、お嬢ちゃん」
オスカーは濡れた片方の乳首は、指先でくりくりと捻り摘みあげながら、指の腹で先端を擦り、もう片方の乳首には、これ見よがしに差し出した舌を丁寧に這わせ、それはそれは美味そうに舐めまわす。
「あ…ぅうん…だって、本当に気持ちいい、すごく気持ちいいの、オスカーさまぁ…」
「ああ、俺もずっと舐めていてやりたいくらい、お嬢ちゃんのおっぱいは、美味しいぜ?」
ちゅぅっ…と音をたてて吸われ、アンジェリークは軽くのけぞる。オスカーの髪に埋められた指先には自然と力が入ってしまう。
「は…あぁ…」
「だが…俺は、お嬢ちゃんの花にも同じくらい惹かれ、そそられてる…お嬢ちゃんも、同じ気持ちじゃないか?ほら…」
オスカーは流れるようにアンジェリークのスカートの中に手を差し入れ、ショーツの上から、花弁のふくらみを、すっとなぞるように撫でた。
「ぁあん…」
アンジェリークは戸惑うような声をこぼす。ブラと揃いのレースのショーツが、ぐっしょりと滴る程にしとっていることを思い知らされて。そして、それ以上に、オスカーの指にレース越しに触れられた瞬間、反射的に「布越しじゃ嫌」と感じてしまった自分に。
「あぁ…オスカー様…」
アンジェリークは自らの内に燻ぶる情欲をもてあまし、オスカーの逞しい首にだきついて、その肩口に顔をうずめ、厚みのある肩に軽く歯をたてた。
一刻も早く、直に触れてほしいと思った自分に気づいてほしいのか、気づかないのでほしいのか…気づいてほしいからの甘噛みだと自分では思うけど、焦らされたら…きっと、はしたなくも、すぐにも、口に出してねだってしまいそう。
「お嬢ちゃん、ここにも触れてほしいか?」
そんなアンジェリークの願いを読みとって言葉にしながら、オスカーが、ショーツの脇から指先を忍びこませ、極軽く花弁の合わせ目を撫でさすった。
「あぁん…」
アンジェリークは、無意識のうちに、少し腰を浮かせてしまう。ショーツに締め付けられて、オスカーの指は、まだ、あまり大きくは動かない、動かせない。それがもどかしい、早く、この邪魔な布を取って、いっぱい…思う存分触れてほしい…と願っている自分に気づき、アンジェリークの顔が熱く火照る。
「どうした?お嬢ちゃん、顔が真っ赤だぜ?まだプレゼントのワインを開けてもいないのに…」
ゆったりとまさぐるように、オスカーの指は花弁の上で蠢く。
「だって…オスカー様…お願い…」
アンジェリークは、むずかる子供のように頭を振る。
「どうしてほしいんだ?お嬢ちゃんは…。遠慮せずに言ってごらん?」
『そんな…恥ずかしい…』と反射的に出かかった言葉を飲み下し
「オスカー様…直に触って…いっぱい私に触れてください…」
と消え入りそうな声で告げながら、アンジェリークは、少し上体をのばして、オスカーの首根っこにきゅっと抱きついた。
「こんないじらしいおねだり…聞かずにはいられないな」
オスカーは自分の肩口に顔をうずめてしまったアンジェリークの髪から覗く耳朶をかぷっと唇で食んだ。優しい声音には、紛れもない喜色が滲んでいる。アンジェリークがオスカーに抱きついたのは、恥じらいから、顔をみられないと思ってのこと、それも確かだが、同時に、上体をのばして腰を浮かせることで、オスカーに早くショーツを外してほしいと強請る気持ち、期待する気持ちを伝えたくもあってのことで…でも、そんな自分が、とってもはしたない気がして、余計にはずかしくて、アンジェリークは尚のこと顔があげられない。でも、オスカーは、そんなアンジェリークの気持ちを何もかもかわっているみたいだった。オスカーはアンジェリークのショーツにさっと手をかけるや、流れるようにそれを彼女の足もとまで引き下ろした、と同時に、もう片方の手で少し浮かせ気味にしていたアンジェリークのお尻を包み込むように撫でまわす。
オスカーの大きな掌がお尻を撫でまわす感触に、アンジェリークは身中がぞくぞくと慄くように震える。オスカーの手の動きに合わせて、「は…ぁ…」と熱い濡れたような吐息が勝手に唇から漏れ出てしまう。
オスカーは、アンジェリークの臀部を撫でていたその手を、すっと彼女の脚の方に滑らせていき、それとない自然な強引さで、アンジェリークの膝を大きめに開かせて、向かい合わせになるように自身の膝の上に座らせた。オスカー自身が脚を大きく開いてベッドに腰かけているので、その大腿部に片足づつ乗せる形で座らされると、アンジェリークは、自然に、大きくー無防備なまでにー足を開かされてしまった。でも、オスカーがショーツを下しただけで、スカートをそのままにしてくれてあるので、自分がどれほど大きく足を開かされているかは一見、わからない、それは、アンジェリークの羞恥心を少し慰めてくれた。
が、これは、オスカーの計算でもあったのかもしれない。アンジェリークがリラックスできるように、もしくは、大胆な愛撫も受け入れやすいように、との。
オスカーの手はアンジェリークの大腿部から股間へと、外側から内側へと、素肌の感触を掌で愛でるように自然な動きで滑っていく。そして、オスカーの大きな手を肌に感じるほどに、もっと触れてほしいと願う気持ちは募るばかりで、アンジェリークは自然と腰が浮き気味になってしまう。だから、オスカーの指先が焦らしも溜めもせずに、素直に花弁の膨らみに触れてき、さらに、その指先が、すぐさま合わせ目を割って前後に動き始めるや、アンジェリークの肌は歓喜に粟立った。
しかもオスカーの指は合わせ目の浅い処を2、3度前後するや、性急に、花弁の頂点でぷっくりと膨らんでいるーいかにも触れてほしそうにー花芽の表をくりくりと撫で転がし始めた。あらかじめオスカーは花弁を割って手指に露を宿していたので、アンジェリークに痛みは微塵もなく、ただ、じんじんと痺れるような白熱する快感が、いきなりのように迸った。
「あぁっ…」
でも、今のアンジェリークは、オスカーのその性急さが、むしろ嬉しい。どこを触れてもらうと快いか、もう、知っているーオスカーに教えられているから、その分、辛抱が利かなくて、オスカーに早く触れてほしくてたまらない気持ちになっていたから。
オスカーの指が花芽の上で円を描き、小刻みに前後する。
「あん…はぁ…んんっ…」
その度に、アンジェリークの口からは、もっと愛撫を強請るような甘ったれた声が自然とこぼれてしまう。
と、オスカーはアンジェリークの願いを汲んだように、後背から、もう片方の手も花弁へと伸ばしてき、数度合わせ目で指先を前後させるや、いきなり1番長い中指を秘裂の奥まで一気に飲み込ませ、突きたて、くちゅくちゅと激しく中をかき回してきた。
「ひぁあんっ…」
更なる愛撫を待ち望んでいたとはいえ、唐突に強烈すぎる程の刺激を与えられ、アンジェリークの身は瞬間、電撃を食らったように小さく跳ね、口からは悲鳴にも似た嬌声がこぼれた。その拍子にわずかにオスカーに抱きついていた腕の力がゆるんでしまい、あわてて、オスカーにしっかと抱きつきなおす。
「そうだ、そのまま、しっかり俺にしがみついていろよ、お嬢ちゃん」
嬉しそうにいうと、オスカーの指は、アンジェリークの胎内で、もっと激しく暴れ始めた。柔襞をかき回し、指を折り曲げて肉壁をこする。も先刻から花芽を愛撫していた方の指は、いまは、花芽の莢を器用に剥いて、剥き出しにされた肉珠の先端を、絶妙な力加減で転がし始めていた。
「ぁああっ…やぁ…んんーっ…」
敏感な肉珠の先端を濡れた指先で擦られ、摘まれ、転がされると、全身が痺れるような、蕩けて正体がなくなっていくような激烈な快感が、その小さな一点から、劇的に閃く。しかも、後から後から途切れることなく。同時に、体の奥でオスカーの指が時に荒々しく、時にねっとりとうごめくのを感じるたびに、どうしようもなく、じれったいような、やるせないような心地よさが募る、腹側の襞をざらりと擦りあげられると、無意識に、更なる刺激を求めるように、腰が前にせり出してしまう。
「気持ちいいか…?」
「あぁっ…んっ…いい……」
オスカーは、前後から巧みにアンジェリークの花を執拗なまでに愛撫する。そのオスカーの愛戯に翻弄されて、今にも、何もわからなくなりそうなほどにアンジェリークの頭の中は白熱してる。
それでも、アンジェリークは、すぎる快感から、なんとか少しでも気をそらそうとする。だって、熱烈に愛されるばかりで、私、まだ、オスカー様に何もしてさしあげてない、私もオスカー様が大好きなのに…オスカー様にも気持ち良くなってほしいのに…そう思って、オスカーのシャツの内側に手を差し入れ、胸板をあらわにする。オスカーの肩に軽く歯を立て、そのまま分厚い胸板に舌を這わせ、茶色の先端を一心に舐め、夢中で吸ってもみる。それでも、オスカーの指が奥を突き、柔襞をこね、肉珠を転がすたびに、愛撫が中断してしまう。
「ひぁっ…そ、そんなかき回しちゃ…あぁっ…」
「感じてるんだろう?お嬢ちゃんの柔襞は、俺の指をきゅうきゅうと締め付けてくるし…豊かに溢れる蜜で、俺の手首までぐっしょりだぜ?」
オスカーは、指の動きはそのままにアンジェリークの首筋に舌を這わせながら、淫らな口説をアンジェリークの耳に流し込む。
「やぁ…ん…」
「ほら、ここもこんなに…痛々しいほど硬くして…」
肉珠の根元を指先で縒るように捻られると同時に、尖りきった先端を指の腹で押しつぶすように擦られた。
「ひあぁっ…あっ…ぅくぅんっ……」
「あぁ…奥から、また熱いものが溢れてきた…自分でもわかるか?お嬢ちゃん…俺の指でこんなに感じて乱れて…なんてかわいいんだ、お嬢ちゃんは…」
「だって…あっ…気持ちいい…気持ちよすぎて…私…もう…」
「もう?なんだ?お嬢ちゃん?もっと弄ってほしいのか?…それとも…もう我慢できないのかな?お嬢ちゃんは…」
耳朶に流し込まれたオスカーの声音は1段と低く、妖しく、恐ろしい程に色っぽく聞こえて、アンジェリークはくらくらする頭で、反射的にこくこくと頷いてしまった。
「あぁ…はい、ください、オスカー様…私…もう…オスカー様が欲しい…」
「ふ…今日のお嬢ちゃんは辛抱が足りないな…だが…」
オスカーが、アンジェリークの頤を強引に摘みあげ、噛みつくように口づけてき、が、その唇はすぐに離れ
「それが、俺にもありがたい…俺も…そう長くは待てそうになかった…早く、君の中に入りたくて…」
「あぁ…オスカー様…」
オスカーが手早くスラックスを緩め、男性器を露出させた気配を感じた。大きく広がったスカートの下での行為だから、アンジェリークにわかるのは雰囲気というか気配だけだが。
「お嬢ちゃん、俺が欲しいなら…さ、腰を浮かせて、自分でいれてごらん?」
オスカーが、アンジェリークを腰を抱きかかえて、屹立に花弁が触れるか触れないかという処まで導く。
「はい、オスカー様…」
アンジェリークは、はにかんで頷きつつ、まさぐるように手を伸ばして、オスカーの屹立を探り当てる。火傷しそうに熱く、鋼のように固く猛々しい屹立に、優しく愛おしげに手を沿わせ、幾度か上下させる。弾力に富んだ先端に先走りが滲み出ているのを感じて、それを塗り拡げるように小さな手をくるくると回すと、オスカーが目を眇め、小さくではあったが、熱い吐息をついた。アンジェリークはぞくぞくするような喜びを覚える。そのまま大切そうに肉茎に手を添えながら、操り人形のように若干きごちなく、ゆるゆると、その上に腰を落していく。オスカーのものが、とぷり…と花弁を割って入ってくる。刻々と自分を満たす圧倒的な量感に、自分とオスカーをつなぎ貫いていく、その悩ましい感触に、身が震えるほどの喜びと充実をアンジェリークは覚える。
「ん…オスカー様の…大きい…あぁ…私の中に入って…きます…すごく熱い………」
「ああ…お嬢ちゃんの中も、熱くてとろとろで…からみついてくる…つながった処から、溶けちまいそうなほど、気持ちいいぜ…」
「…うれし…」
アンジェリークは、ぽっと頬を染めながら、オスカーに自ら口づけ、にっこりと笑みかけた。自分がオスカーと一刻も早くつながりたくて、急いて強請って、一つになれて、それだけでも幸せだけど、それをオスカーも幸せだと思い、快いと感じてくれるなら、なおのこと嬉しさも増す。その笑みの妖艶さに、オスカーが眩しそうに瞳を細めたことに、アンジェリークは気付かない、気づく余裕がない。
と、漸く、オスカーのものを根元までおさめきって、アンジェリークは安堵したように、ほぅ…と吐息をついた。
「オスカー様で、私の中、いっぱいです…すごく大きくて…苦しいくらい…幸せ…」
「ああ、俺も…と、言いたいところだが、俺は…もっと…君を感じたい…」
「オスカー様…」
見つめあえば、オスカーの瞳に吸い込まれそうになる、そして、今、私の瞳も、きっと、オスカー様を欲する気持ちが溢れかえっているはず、そう思った時に、アンジェリークは飾らない気持ちを口にしていた。
「私も…いっぱい…もっとオスカー様を感じたい…体の奥から感じさせてほしい…」
アンジェリークが、拙い動きながらも、ゆるゆると腰を動かそうとしたのと、オスカーが、それはそれは嬉しそうににやりと笑んで、いきなり勢いよく腰を突き上げたのは、ほとんど同時のことだった。
「あ…あぁあっ…」
脳天まで貫き通されたかのような衝撃、すぐその後を追って、一瞬、気が遠くなるほどの深く重い快感がアンジェリークの身中に炸裂した。
その深い快楽からアンジェリークの意識が戻ってくるより先に、オスカーは、アンジェリークの腰を自分の身に押しつけるように、しっかと抱きかかえて下から激しく腰を突き上げはじめた。立て続けに、矢継ぎ早に、これでもかというほどの力で、オスカーは自身の肉の楔をアンジェリークに刺し、打ち込む。まるでアンジェリークを己に縫い付け、決して離すまいとするように。
激しく突き上げられ、荒々しく揺さぶられる。しっかと抱き支えられているのと自重で、力の逃がしどころはなく、ために、アンジェリークは、オスカーの渾身の律動と、それが生み出す快楽の悉くを受けいれ、受け止め、浸りきる。体の最奥をオスカーのもので叩かれるたびに、苦しい程の快楽が全身を突き抜ける。
「ぁあっ…すご…深い…深くに、来る…きちゃう…んっ…」
「っ…いい…か?お嬢ちゃん…」
「んんっ…すご…奥、あたって…おかしく…な…あぁっ…」
「ああ…でも、それが…奥にあたるのが、いいんだろう?お嬢ちゃんは…」
オスカーがその言葉を思い知らせるように、ひときわ、力強く突き上げた。
「ひぁっ…んっ…いい…気持ちいいの、オスカーさまぁ…」
「ああ…もっと…もっと感じてくれ…俺を…」
と、オスカーはアンジェリークの腰を抱き抱えていた手を片方外し、いささか強引に結合部分をまさぐってきた。激しい律動でアンジェリークのスカートはもう太腿までめくれあがっていたので、オスカーの手は容易く、自身とアンジェリークの繋がっている場所にたどり着く。快楽の証にそこは滴るほどに濡れそぼり、今も、オスカーが腰を突き上げる度に、じゅぷぬぷと淫靡な水音をたて、アンジェリークの中からとろりと熱い愛液を押し出している。が、そんなことは、今のアンジェリークにはわからない、わかったのは、オスカーが大きく開かれた花弁のーオスカーの男根に貫かれてより一層押し広げられた花弁の頂点に顔をのぞかせたままの肉珠にオスカーがその指先を添えたことと、あ…と思ったその時には、律動に合わせるように、オスカーの指が肉珠をころがし、擦り、押しつぶし、狂おしい程鮮烈で鋭角な快楽が、その肉珠に与えられたことだった。
「あぁああっ…」
間髪いれず、オスカーは目の前で揺れるアンジェリークの乳房の先端をも、巧みに唇でとらえ、乳首をちゅっときつめに吸い上げては、舌で左右に激しくねぶり始めた。無論、律動はまったく緩まぬままに。
「やっ…もう…すご…激し…あ…あぁあっ…」
アンジェリークは懸命にオスカーにすがりつこうとする、必死にすがりつくことで、意識の飛散をこらえようとするかのように。でも、それも、もう程なく限界だと自分で、わかってもいる。
「ふぁっ…オスカーさ…も…もう…私…ぁんっ…」
「ああ、俺もだ…」
と、言うやオスカーはいきなりアンジェリークに深々と口づけてき、アンジェリークも反射的に、夢中で、それに応える。互いに激しく、荒々しく舌をからませあい、その最中オスカーの抱擁が一際力強くなったーオスカーの腕に苦しいほど抱きすくめられた瞬間に、体の内部ですでに臨界まで膨らみきっていた快楽が、この最後のひと押しで破裂するように弾けた。
「んんっ…んぁあっ…」
自身の内側がうねる。求めるままに、限界まで快楽を注ぎ込まれ、たくさんの『気持ちいい』で体中いっぱいで張り詰めきって苦しい程で、それが、いきなり、凄まじい開放感を伴って、一時に弾けて爆ぜた。と、同時に、体の1番深い真芯の部分に凄まじい勢いで注がれ、隅々まで染み渡っていく熱い奔流を身の内に感じて、アンジェリークは、全身が、この上なく温かく、心地よく、幸せな気持ちで満たされた。
無意識のうちに、くったりと、オスカーに全身を預けるように抱きついていた。いつのまにか滲んでいた眦の涙滴を優しくオスカーがなめとってくれる。自然と目と目があって、心のままにオスカーに微笑みかけると、オスカーが優しい口づけで応えてくれた。
しどけなく乱れ切った衣装を大事そうに完全に脱がしてもらってからーオスカー自身は、互いの体液でしとどに濡れそぼってしまった自身のスラックスを蹴飛ばすように無造作に脱ぎ捨てていたがー貴重な宝物を、それも壊れ物をやわらかなクッションの上におくように、アンジェリークは、いかにも大切そうに恭しげに敷布の上に横たえられた。
性急だった交合の余韻に、まだ、アンジェリークの呼気は荒い。やわらかな枕に頭を沈み込ませて、目を閉じていると、ふっと柔らかなものに唇を塞がれ、すかさず、何かを口腔内に注ぎこまれて、アンジェリークは反射的にそれを嚥下した。とたんに、喉がかぁっと熱くなった。同時に葡萄の香気が鼻腔いっぱいに、口の中には、微かな甘味と品のある酸味が広がり、それに僅かにしゅわしゅわとはじけるような口当たりが伴った。
「これ…私がオスカー様にさしあげようとした、あの…」
「そうだ。予定とは順番がちょっと入れ替わっちまったが、喉が乾いただろうから、これでちょうどよかったかもな、お嬢ちゃん」
いたずらっこのような笑みーアンジェリークが大好きな笑みをオスカーは浮かべながら、オスカーは、いつの間にあけたのか、アンジェリークが贈ったワインのコルクを抜き、中身を2つのグラスに注いでいた。
「これが…オスカー様の故郷の味…なんですね…」
「…君の口にもあったのならいいが…」
「私、あんまりお酒のことは詳しくないけど、オスカー様がいつも美味しいワインを選んで飲ませてくださるから、多少の良し悪しはつくようになったと思うんですけど、このワインは…すごく、美味しいです」
「お嬢ちゃんに、そう言われると、なんだか妙に面映ゆいが、正直、うれしいな…」
「オスカー様、私…あの…」
アンジェリークはベッドから上体を起こしかけて、言葉を発しようとして、瞬間、口ごもる。
重ねての謝罪は、オスカー様にむしろ失礼な気がする。でも、このワインをオスカー様は、純粋に楽しんでくださってる?と、心配する気持ちも完全には打ち消せない。
と、心配そうに自分を見つめるアンジェリークの髪をぽんぽんといたわるように撫でながら、オスカーはこう言った。
「お嬢ちゃん。正直言って、俺は、君が贈ってくれなければ故郷のワインを、この聖地で口にしようとは思わなかっただろう、それは、帰ればいくらでも飲めると思ってたことと…地場の酒は、その地で飲むのが1番美味かろうと思ってのこと…言い換えると、故郷の酒は、どこで誰が飲んでも美味い1級の酒と、俺はみなしておらず…いささか見くびっていたからかもしれない。だが、聖地で飲んでも、この酒は美味い、繊細な味わいながら、どこか野趣にもあふれ、甘さと共にと草原のような青さも感じさせる…が、今、口にしているこれは…食事時のワインと少々味わいが…異なる…か?…」
「あ、はい、そうなんです、今年はオスカー様のお口に合いそうなワインを3本選んでもらったんです、その中でも、どれが1番お好みにあうか、教えていただこうと思って…」
「お嬢ちゃんが、どれほど俺を喜ばせようと、心を砕いていてくれたか、これだけでも十分すぎるほどに伝わってくる…どちらのワインも俺には、新鮮なのに、どこか懐かしい味わいで、純粋に美味いと思えた。それに気づかせてくれて、お嬢ちゃんには、重ねて礼を言わなくちゃならんな」
「そんな…オスカー様…でも、オスカー様のお口にあってよかった…本当によかった…」
そう語りしな、アンジェリークの瞳から、ぽろっと涙が一粒、頬にすべりおちた。安堵の涙だった。
オスカーはそれを丁寧になめとてから、唇に口づけてきた。
「お嬢ちゃん、ありがとう、そして、お嬢ちゃんは何も気にしないでいい、お嬢ちゃんは、俺を、ワインと甘やかな夢の両方で酔わせてくれただけなのだから。故郷にはいつか必ず帰れる、それに、その時には、君が一緒だ、アンジェリーク。故郷の酒を1人で飲むのは、切ないことだったかもしれんが、今の俺には…俺の傍らには君がいる、いてくれる。だから…それこそが、俺にとって1番大事で、大切なことだから…」
「はい…はい、オスカー様、オスカー様の故郷のお酒、また、2人でいただきましょうね、そして、オスカー様の故郷のお祭りに、いつか、私を連れていってくださいね。私、衣装の着方もきちんと教わって、場違いにならないよう、気をつけますから…」
「ああ、君を連れて故郷に帰ったら…祭りの晴れ着を注文して…一緒に祭にいこう、約束だ」
「はい、オスカー様…約束ですね」
アンジェリークはオスカーの指を探って絡めあわせた。
戻れない過去を思って「○○してみたかった」という願いは、どうしたって悲しさや寂しさを伴うけど、未来に思いをはせて「一緒に○○しよう」って約束は、なんて甘くて暖かいんだろう。
そして、オスカーと、こんな甘い約束をかわせたのなら、故郷のワインを贈ってしまうという先走りも、雨降って地固まるになったのかな、とアンジェリークには思えた。いや、こう、自然に思わせてくれるのがオスカーの優しさなのだ、きっと。
ついさっき、オスカーはアンジェリークの髪をなで、きりのないほど甘えさせてくれたように、私もオスカー様を柔らかく温かく包み、受け止めたい、どんなことがあっても、どんな時でも傍らに寄り添い、支え、お助けできたら、これに勝る幸せはない。
そんな気持ちでオスカーを見つめていると、オスカーがアンジェリークにワインのグラスを手渡してくれた。2人はベッドに腰かけて自然に乾杯しーもちろん、オスカー様、おめでとうございますの言葉とともにーオスカーは一気に、アンジェリークは、少しづつ、こくこくとワインを口にした。ワイングラスを空けると、オスカーは
「じゃ、お嬢ちゃん、乾杯して、ワインもじっくりと味わったところで、もう1度、お祝いしなおしといくか」
と、ずいと身を乗り出し、アンジェリークの鼻先と自身の鼻先を、ちょんとくっつけ合わせて、楽しそうにこう告げた。
「え?あの?…」
「お祝いっていったら、決まってるだろう?お嬢ちゃん。元々、当初の俺の予定では、2人でワインを開けて、ほろ酔い気分になったお嬢ちゃんをーもう1つの、そして、本命のプレゼントであるお嬢ちゃんを美味しくいただくつもりだったからな。今、こうしてお嬢ちゃんも、ワインを楽しんでくれたことだし、ふ…ほんのり可愛くお嬢ちゃんの頬が染まった処で、さ、これから、本番のお祝いと行こう、いっぱい、気持ちよくしてあげるからな、お嬢ちゃん」
「え?え?え?あの、今、私、もう、すごく気持ちよくしていただいちゃいましたけど…」
「いやいや、さっきのは前菜以前のアミューズってとこだろう?俺も急いていたというか、辛抱きかなくて、ろくに愛撫もせずにいきなり挿れちまったから、お嬢ちゃんに申し訳なくてな、誕生日のコース料理がアミューズで終わりなんて、ありえんからな」
「いえ、その、あの、愛撫はいっぱいしていただいたと思うんですけど…」
あれで「ろくに愛撫してない」?なの?オスカー様の基準では?それが、オスカー様のクォリティ?
「ああ、何せ俺は、今日はまだ、お嬢ちゃんをこの唇であまり愛撫してない、つまり存分に舐めてあげてない、ゆえにお嬢ちゃんの甘露…どんな貴腐ワインよりも甘く芳しく貴重なお嬢ちゃんのラブジュースを味わってな…」
「も、いやーん、オスカー様ったら、何、おっしゃってるんですか、んもう〜」
率直にすぎるオスカーの睦言に、アンジェリークは耳まで赤くなって、手で顔を覆い…かけた処で、その手をオスカーに取られ、ちゅ…と掌に口づけられた。懇願の意をもつキスだった。
「だから、お嬢ちゃん、俺に君の甘露を存分に味あわせてくれるか?今日は俺の誕生日で…これから1年、俺はたくさん、わがままを言っていいんだろう?ん?」
ずい、と、オスカーに間近に迫られて、こんな端正に整った顔で、澄んだ優しい瞳で、男らしく色っぽい声でお願いされたことを、ダメなんて言える女性は、この宇宙に1人もいない、そして、このお願いは、私をこそ、幸せにしてくれるもので…こんなお願いをしてもらえる自分は、本当になんて幸せ者なんだろう、と改めてアンジェリークは己が幸福をかみしめ、だから、素直に、飾らずに自分の気持ちを口にした。
「はい、オスカー様、よろこんで…いえ、私からお願いします…あの、あの…その、存分に味わってください、オスカーさま…」
自分でも頬がぽっぽと熱いのが、アンジェリーク自身にもわかった。顔中、否、全身真っ赤になったアンジェリークがはにかんだ笑みを浮かべながら、上目づかいでオスカーを見上げると、オスカーは感極まったように1度息をのんでから
「っ…かわいい…なんって、かわいいんだ、俺のお嬢ちゃんはー!」
という雄たけびと共にアンジェリークに覆いかぶさって来、アンジェリークはその身をベッドに沈み込まされた。
オスカーの肌の温みと滑らかな素肌の感触とその身のどっしりとした重みとオスカーの男らしいを香りを全身でかんじながら、今年も、オスカーの誕生日は、自分の幸せを確かめる、そんな1日になったな、とアンジェリークはしみじみと思っていた。
FIN