恋ぞつもりて・・・3

オスカーは、アンジェリークのふっくらとした唇から自分の唇を一度離し、アンジェリークの髪に、額に、小さな鼻先に、まだ涙に濡れている頬にと、口付けの雨をふらせていく。

自分の唇で、アンジェリークの輪郭をなぞるように、その存在を確かめるかのように。

大柄な体躯でアンジェリークの華奢な体に覆い被さるように抱きしめながら。

アンジェリークは瞳を閉じて、小刻みに震えながら、オスカーの口付けを黙って受け入れている。

オスカーはひとしきりアンジェリークに口付けた後、アンジェリークの体をきつく抱きなおしてから、アンジェリークの頬に自分の頬を合わせ、アンジェリークに囁きかけた。

「だめだ・・我慢できない・・今すぐ君が欲しい」

アンジェリークのからだが一瞬びくりと震えた。

アンジェリークは無言のまま、恐る恐ると言った風情でオスカーを見上げた。

オスカーの真意を確かめるように、その瞳を覗きこむ。

氷青色の瞳に浮かぶ真剣な光に、ひたむきなまでに自分を求める思いを感じ取り、アンジェリークは自分の体をオスカーに預けオスカーの背に腕を回して、オスカーの体をきつく抱きしめかえした。

その抱擁にこめた承諾の意は、間違いなくオスカーに通じた。

「俺の部屋に行こう」

オスカーは軽がるとアンジェリークの体をだきあげて居間をでた。

 

滞在中自分にあてがわれていた客用寝室にオスカーはアンジェリークを抱いたまま入っていった。

ベッドサイドのスタンドにだけ明かりをともす。

きちんと整えられたベッドの上にアンジェリークの体をそっとおろすと、オスカーは自分もアンジェリークの隣に腰掛ける。

アンジェリークの顎を軽く摘んで顔を上向かせ、優しく唇を重ねた。

角度を変えて、何度もついばむような軽いキスを繰り返す。口付けの合間に何度も「愛している」と囁きながら。

固く体をこわばらせているアンジェリークを安心させるように、怯えさせないように、あくまでも優しい口付けでアンジェリークのからだと心を解そうと努める。

アンジェリークは自分のことを好きだと言ってくれた。

だが、ジュリアス以外の男を受け入れることに、まだ幾許かの躊躇いも葛藤もあるだろう。あって当然なのだ。

だから、オスカーは逸りそうになる心を必死におさえこみ、壊れ物を扱うようにアンジェリークにそっと触れる。

万が一でもアンジェリークに無理強いはしたくない。

自分を受け入れる決心だけでも、彼女には相当な思いきりが必要だっただろうと思うから。

彼女の心の準備ができないうちに、自分だけの欲望を押しつけて、性急にことを進めたら、彼女は再び心を閉ざして、自分を受け入れたことを後悔するかもしれない。

そんなことは絶対嫌だった。

いままで、長い長い年月、自分で自分の気持ちに自信がもてず、中途半端な思いに心はさまよっていた。

やっと自分の心がはっきりと掴め、しかも、彼女はそれに応えてくれようとしている。

変化を受け入れないほうが、彼女にとっては楽だったろう

でも、彼女は勇気を奮い起こして、新しい人生を踏み出す決意をしてくれたのだ。

少しくらい待つことはなんでもない。

でも、自分が彼女を請い求める気持ちも、まごう事無き真実だ。これ以上ないと思うくらい、思いは真剣だ。

だから、自分のできる限りの誠意をもって、それを彼女にわかってもらいたい。

わかった上で、彼女にも自分を求めてもらいたい。

そう思いながら繰り返した優しい口付けに、アンジェリークの体の線が徐々に柔らかくなって行く。

詰めていた吐息が緩やかに吐き出されていき、肩の力が抜けていく。

その気配を感じ、オスカーは初めてアンジェリークの着衣に手をかけた。

ひとつひとつブラウスのボタンをはずして行く。

はずされていくボタンの数が増えるに連れ、アンジェリークのからだが再びこわばりそうになる。

しかし、オスカーがアンジェリークを安心させるように肩をだき、なだめるように口付けると、アンジェリークは体の力を抜いて自分からブラウスのそでを抜きやすいように体を捩った。

アンジェリークのその動きに後押しされ、オスカーは続けてアンジェリークのスカートを取り去った。今度は手の動きに迷いはない。

オスカーは口付けを止めることなく、自分の着衣を手早く脱ぎ捨ててから、アンジェリークの下着に手をかけた。

一瞬アンジェリークはぴくりと震えたが、その体はもう固く縮こまることはなかった。

アンジェリークの様子に意を得て、オスカーは肩紐をずらして、ブラジャーをとりさった。

白いたわわな乳房がふるりと揺れて零れおちる。オスカーはその眺めに目を奪われ、アンジェリークの唇から己の唇を離した。

アンジェリークが羞恥にその豊かな胸乳を腕で覆い隠そうとする

その白い腕をオスカーはすかさず、しかし決して力は入れずにそっと掴んだ。

縋るように自分を見上げるアンジェリークを、オスカーは優しい瞳で見つめながら、だまったままゆっくりと首をふる。

そして、アンジェリークを見つめたまま自分の口元にアンジェリークの手を運び、その手のひらに口付けた。

懇願を意味するその口付けに、アンジェリークはもう自分の体を隠そうとするのを止め、全身の力を抜いていった。

その様子に、オスカーは自分の浅褐色の体を傾けて、自然にアンジェリークの体をベッドに横たえた。

金の髪がふわりと広がる。シーツの冷たさにアンジェリークが一瞬身を竦める。

オスカーはアンジェリークの体の下に自分の腕を回し、アンジェリークの体をその胸に柔らかく抱きとめる。

目を細めてアンジェリークを見つめると、アンジェリークは細い腕を伸ばし、オスカーの首に自分の腕をまきつけた。

そして自分もオスカーの瞳を見つめ、初めて言葉を発した。

「オスカー・・あなたの体・・暖かい」

アンジェリークの自分を見つめる濡れた瞳に、うっすらと開いた唇に、そして、自分を受け入れてくれた証の言葉にオスカーは自分を引き絞っていた手綱を緩めた。

もう、こらえない。もう、待たない。

オスカーはアンジェリークの体をきつく抱きしめると、今度は貪るように唇を重ねた。

薄く開いた唇に己の舌をさしこみ、アンジェリークの舌を絡めとると、きつく吸い上げた。

アンジェリークの舌は驚いたように瞬間逃げようとしたが、すぐ、思いなおしたように、オスカーの舌に自分から絡みついてきた。

互いの舌が生き物のように絡み合い、口腔内を探りあった。

 

突然の情熱的なキスに、アンジェリークはほんの一瞬戸惑ったが、すぐ、積極的に応えていった。

自分はオスカーに惹かれている。はっきり彼のことが好きだと言える。

でも、ジュリアスのことも忘れることはできない。だから、自分から、その気持ちをオスカーに打ち明けるつもりはなかった。

でも、オスカーはそれでいいと言ってくれた。その上で、自分のことも好きだといってくれた。

自分の心がオスカー一人で占められるのではなくても、かまわないと言ってくれた。

ありのままの自分を受け入れてくれたうえで、自分を求めてくれた。

だから、自分も素直な気持ちを打ち明けられた。

オスカーが差し出してくれた手を取って、もう一度愛する人と二人で歩んで行く人生を踏み出す勇気が持てた。

だから、オスカーに自分を欲しいと熱い思いをぶつけられたときも、その真剣さに打たれ、自分もその思いに応えようと思った

それでも、最初、アンジェリークの体は、緊張に固くこわばってしまった。

そんな自分に、オスカーはその緊張を解すように、どこまでもやさしく接してくれた。

耳元で「愛している」と囁かれるたびに、心は歓喜に打ち震え、眩暈にもにた陶酔を味わった。

繰り返される触れるだけの口付けに、体の力が抜けていくのが自分でもわかった。

肌が露にされていくことに羞恥の気持ちも沸き起こったが、オスカーの真摯な情熱にいつしかそんな気持ちも薄れて行った。

オスカーの胸に抱きすくめられ、直接素肌を合わせたとき、人の肌はこんなにも温かく、心地よいものだったかと改めて思った。

ずっと忘れていたこの温もりが愛しくて、アンジェリークがオスカーを求めるように手を伸ばしたとたん、オスカーのキスが激しいものに変わった。

『ああ、私が自分から求める準備ができるまで、待っていてくれたのね・・』

オスカーの優しさに、心が更に温かく充たされる。

だから、自分もきちんと伝えよう。自分もオスカーを求めている気持ちを。

そう思って、アンジェリークはオスカーの体に回した手に力をこめた。

激しく自分の口腔を貪るオスカーの舌に,自分も同じように熱く応えながら。

 

ひとしきり、アンジェリークの甘い舌を味わってから、オスカーは名残惜しげに唇を離した。二人の唇の間に銀糸がかかる。

その唇をオスカーはアンジェリークの白い首筋に移した。

所々軽く吸い上げながら、舌を這わせる。

「ふ・・あぁ・・」

アンジェリークの吐息が切なげな色を帯びて行く。

オスカーの背中にまわされた腕はオスカーの肌を求めるように力がはいり、アンジェリークはオスカーの体を自分のほうに引き寄せようとする。

自分を求めるようなアンジェリークの仕草に、オスカーの愛撫も熱を帯びて行く。

首筋を舐っていた舌を徐々に白い胸乳のほうに伸ばしながら、腕の戒めを緩めて自分の掌を豊かな乳房にそっとあてがった

どこまでも柔らかなその感触はオスカーの掌に吸いついてくるようだ。

その感触をもっと確かめたくて、オスカーは大きな掌で乳房を包み込むようにゆったりともみしだいた。

柔らかかった乳頭がその輪郭を露にし、自分の存在を主張し始める。

立ち上がりはじめた乳頭を軽く指に挟みこんで、その重さを確かめるかのように何度も乳房を掬い上げる。

滑らかで、少し冷たい、そしてオスカーの手に吸い付くような肌は、いくら愛でても物足りない思いをオスカーに抱かせる。

唇はもう片方の乳房の輪郭をなぞり、徐々にその頂点を目指す。

白い乳房の先端に咲く薄紅色のその部分の、いじらしいような可憐さにオスカーは吸い寄せられるように唇を寄せた。

「んっ・・」

唇で軽く挟むと、アンジェリークが切なげな吐息を漏らす。

オスカーは乳輪ごと乳首を口に含みなおし、舌で転がすように愛撫した。途端に乳首が口中で固く立ちあがっていく。

下から上へと何度も何度も舐めあげ、時折舌先でつつき、軽く吸い上げる。

もう片方の乳房もやわやわと揉みながら、その先端を指の腹で転がす。

「あっ・・あん・・んんっ・・」

執拗なまでの乳房の愛撫に、アンジェリークは背を撓らせ、その口からは絶え間なく艶やかな声が漏れ始めた。

その声に促されるように、オスカーは乳房を揉む手に力をこめ、絞り上げるように先端を際立たせると、両の乳首を交互に吸い上げる。

アンジェリークの指がオスカーの緋色の髪に埋められ、オスカーを抱き寄せる。

オスカーは乳房への愛撫を続けながら、手をなだらかな腹部に伸ばして行く。

滑らかな肌とは異なるレースの感触を探り当てると、一枚だけ残っているその下着に手をかけゆっくりと脱がして行く。

アンジェリークが少し腰をうかし、オスカーの指の動きを助ける。

そんな何気ない仕草にもオスカーは安堵する。

アンジェリークの下着を取り去ると、オスカーは少し自分の体をうかせてアンジェリークの裸身をその目で確かめようとした。

感嘆にも似た思いで、全身をほんのりと朱の色に上気させている、輝くようなその裸身をみやる。

和えかに上下する胸も、なだらかな腰の曲線とその先に続くまろやかな臀部も、淡くけぶるような金褐色の繁みも、そして、その奥に透けて見える鮮紅色の裂目も、全てがオスカーを妖しく幻惑する。

「・・きれいだ・・君はほんとうに・・」

オスカーが感に耐えかねたように、吐息混じりにアンジェリークに告げた

アンジェリークは羞恥に体を手で隠そうとする。

その手を捕らえ、指を絡めてシーツに縫い付け、オスカーはもう一度アンジェリークに覆い被さり、こう言った。

「隠さないでくれ。やっと君を手に入れたんだ。君のすべてを俺は確かめたい」

そしてアンジェリークにもう一度軽く口付けた。

アンジェリークの手を解放してから、自分の手をアンジェリークの下腹部に伸ばして足の間に差し入れ、軽く足を開かせた。

アンジェリークはオスカーが加えた力のままに、逆らうことなく体を開く。

程よく張りの在る腿をなでさすりながら、柔らかな繁みをかき分け、アンジェリークの中心を探った。

襞をかき分けるまでもなく、少し触っただけで、その部分が熱い愛液を今にも溢れさせんばかりに湛えているのがわかる。

「すごいな・・こんなに溢れさせて・・」

ふっくらとした秘唇を指で上下になでさすると、とろりとした愛液がオスカーの指を光らせる。

「あっ・・やっ・・恥ずかしい・・」

アンジェリークは自分の指を噛んで、顔を背けてしまう。

オスカーはアンジェリークの顎を摘んで自分のほうに向けさせ、アンジェリークの瞳を覗き込んで囁いた。

秘唇を撫でさする指の動きは止めぬままに。

「恥ずかしがる事はない。俺は嬉しいんだ。君が俺をこんなに欲しがってくれているのが・・俺の思いが独り善がりじゃないと解って・・」

そして、指で秘唇を少しづつかきわけていく。固くしこった花芽を指が探り当てる。

「もっと、俺を求めてくれ。我を忘れるほど俺を欲してくれ・・」

こう言うと同時に、オスカーは愛液ですべらかになった指で、花芽をすりあげはじめた。

「あああっ」

アンジェリークのからだがびくんと跳ねた。背中が弓なりに反り返る。

その白い体を、自分の浅褐色の体で押さえこみ、オスカーは花芽を指で挟み、円を描くように撫でさする。

唇は乳房の先端をもう一度捉え、舌で舐る。

「あっ・・あっ・・あぁっ・・」

敏感な部位に間断無く与えられる愛撫に、アンジェリークも切ない声を途切れることなくあげつづける。

アンジェリークの艶やかな声をもっと聞きたい。

オスカーはこう思い、花芽を指で転がしながら、もう片方の手で秘唇を押し開き、秘裂に指を差しいれて行った。

「ああぁっ・・やっ・・」

アンジェリークが白い喉をのけぞらせる。

軽く曲げた指で内壁をこすると、襞が絡みつくようにオスカーの指を締付けた。

アンジェリークの内部は、熱く、柔らかく蠢き、その甘やかな締付けにオスカーは陶然とする。

ゆっくりと、アンジェリークの内壁をくまなく探るように、長い指を抜き差しする。

透明な愛液が後から後から溢れ出し、シーツにしみをつくっていく。

オスカーの指技に花芽も紅くはちきれんばかりに膨らんでいく。

オスカーは乳房を口から離して体の向きをかえると、一度秘裂から指をひきぬき、アンジェリークに息つく暇もあたえず、その足を掴んで大きく開かせ、濡れそぼるその部分に今度は舌を這わせた。

「ああっ・・だめぇっ」

オスカーの舌に与えられる鋭い快楽に体がついて行けず、アンジェリークが抗議の声をあげるが、オスカーは愛撫を止めない。

嫌がっているわけではないのは、止めど無く溢れる愛液であきらかだから。

そのあふれ出る愛液を音をたててすすり、宝石のように紅くつやつやと光る花芽を口に含んで舌で嬲る。

アンジェリークの愛液の香りに酔いながら、舌を秘裂に差込み、内壁をも味わう。

「ああっ・・やぁっ・・だめ・・もう・・もう・・ああっ!」

アンジェリークが激しくかぶりを振る。金の髪が白いシーツに大きく散らばる。

オスカーがアンジェリークの股間から顔を上げた。

「・・欲しいか?」

その声は切なげに擦れている

アンジェリークは、即座に答えることができない。

オスカーの優しい、だが、情熱的な愛撫に、すでに体も心もとろりと蕩けて開ききっている。

今すぐにでも、体はオスカーを求めている。

しかし、今夜初めて肌を重ねたばかりなのに、自分からあからさまにオスカーを求めることは、恥ずかしくてどうしても躊躇ってしまう

縋るような瞳でオスカーを見つめるのが精一杯だった。

なにか言いたげに自分を見つめるアンジェリークに、オスカーは苦しげに絞り出すようになおも尋ねた

「俺が欲しかったら、欲しいと、言ってくれ。君が俺を好きだといってくれたその言葉が真実なら・・」

その苦汁に満ちた口調に、アンジェリークはオスカーもまた不安なのだと言うことを悟る。

オスカーの愛を受け入れる決意をしたといっても、自分はなかなか緊張をとくことができなかった。

ジュリアス以外の男性を受け入れるのも初めてだし、自分の体がオスカーを受け入られるように開くかも不安だった。

しかし、オスカーはあくまでも優しく、なだめるような愛撫で自分の不安を取り去っていった。

その優しさにアンジェリークの心と体は柔らかく開き、自分でも意外なほどオスカーの愛撫に乱されていった。

『私がオスカーの愛を受け入れるのが不安だったように、オスカーも私が本当にオスカーを愛しているのか,不安なんだわ・・』

初めて愛を確かめ合って、肌を重ねるのだから、自分だけが不安なわけはない。

その思いが真剣であればあるほど、相手も同じ重さで自分を求めてくれているのか、不安になって当然なのに・・

アンジェリークは自分だけの不安に気を取られていて、オスカーのことを気遣う余裕がなかった事に気付いた。

こんなに自分のことを思ってくれたオスカーに、どこまでも優しくしてくれたオスカーに自分もオスカーを求めていることを、羞恥を言い訳に伝えないのは、誠意に欠ける行いだと思う。

自分がオスカーを求めていることも、紛れもない真実なのだから。

アンジェリークはオスカーに細い腕を伸ばして、その逞しい体躯をだきよせ、オスカーを見つめてはっきりと、告げた。

「・・オスカー、来て、私、オスカーが欲しい・・」

オスカーの瞳が切なげに細められた。

浅褐色のからだがアンジェリークの膝をわり、オスカーはゆっくりとアンジェリークの中に入っていった。

「あぁ・・」

オスカーがじわじわと自分の内部を埋めていくその感触に、アンジェリークは満足げな吐息を漏らす。

熱く固い塊に自分の中心を満たされ、そこから、全身に熱さが広がっていくようだ。

オスカーは己を根元まで飲みこませると、アンジェリークに覆い被さるように上体を倒した。

初めて入ったアンジェリークの内部は坩堝のように熱く、襞は柔らかく包みこむように己に絡みついてくる。

若い娘にはないこなれた弾力があるその肉襞の感触は、予想以上にオスカーを酔わす。

オスカーは苦痛を与えることなくアンジェリークに快楽だけを与えられることを、純粋に嬉しいと思う。

アンジェリークの背に腕を回してその細い体をきゅっと、だが、苦しさを与えないよう抱きしめた。

なるべく、アンジェリークと隙間なく肌と肌をあわせようとする。

「いま、俺たちはひとつだ・・ようやくひとつになれた・・」

オスカーがアンジェリークを見つめて囁いた。
アンジェリークもオスカーを見つめ、オスカーの広い背中に腕をまわして、その体をだきしめる

「オスカー・・好き・・あなたが、好き・・」

「・・・アンジェリーク、俺も愛している。もう・・押さえられない・・」

そう言うとオスカーは、アンジェリークに口付け、そのまま腰をゆっくりと動かし始めた。

アンジェリークの体をきつく抱きしめ、唇をふさいだまま、最初は浅く軽く、そして徐々に腰の動きを激しくしていく。

「んんっ・・んっ・・」

口を塞がれているアンジェリークが、苦しげにあえぎだす。

しかし、オスカーの背に回された腕はより強くオスカーの体を抱きしめている。

オスカーの体を離すまいとでも、するように。

その手にこめられた力に、アンジェリークがもっと自分を求めてくれているように感じ、オスカーは注挿を深め、腰を強くうちつけはじめた。

「ん・・んふ・・ふぁっ・・・あぁっ」

アンジェリークはたまらず、唇を離してしまう。一度こらえられなくなった声は、途切れることなく高くなっていく。

「あっ・・あん・・あぁっ・・んっ・・」

オスカーはアンジェリークが離した唇を、首筋に移して、首から胸元に舌を這わせながら、なおも突き上げを激しくしていく。

「ああっ・・やっ・・はあっ・・」

「感じるか?俺を・・」

「ああっ・・オスカー・・オスカー・・」

アンジェリークがうわごとのようにオスカーの名を呼ぶ。

激しい吐息の合間に、悩ましい声が、苦しげに、だが、何かに追いたてられるように自分の名を繰り返す。

それ以外に聞こえるのは、じゅぶじゅぶという淫らな水音と、肉のぶつかり合う湿った音。

突き上げ、引き抜く度に、アンジェリークの襞が自分を離すまいと絡みついてくる。

奥を突き上げる瞬間、アンジェリークの細い指が自分の肩に食い込むのを感じる。

すべて、アンジェリークが自分を感じ、求めてくれている証に思え、オスカーは更に貪欲にアンジェリークを貪る。

もっと激しく、もっと深く。

アンジェリークはどんどん、熱く激しくなっていくオスカーの動きと、それに呼応して熱くなっていく自分の体と感覚をもてあます。

『熱い、この人は・・どうしてこんなに熱いの・・』

やはり、この人は炎なのだ。炎そのものだ、とアンジェリークは、オスカーの律動を感じながら、いまさらながらに思う。

最初オスカーが自分に与えてくれた愛撫は、暖かく穏やかで、そう、まるで暖炉の熾き火のようだった。

そんな、温かく自分を安心させてくれるような優しい炎もあるが、いま、自分をその快楽で焼き尽くそうとするかのような激しさも、紛れもなく炎のもつ一つの側面だ。

自分の体がオスカーの愛技に乱れていくにつれ、オスカーの愛しかたもより一層大胆に激しくなっていく。

一度燃え盛った業火がますますその火勢を強めて行くかのように、その愛は奔流となってアンジェリークを翻弄する。

オスカーに容赦なく内部を抉られ、奥を突きあげられ、その鋭い快楽に身も世もなく声をあげつづける。

あまりに激しい快楽に流されていくことに、一抹の不安を感じてしまう。

自分の体に、こんな感覚が眠っていたことを長い間忘れていたから。

それを、オスカーに目覚めさせられ、こんなに感じて、こんなに乱れて、自分はどうなってしまうのだろう。

その不安感から、オスカーの体にぎゅっとしがみつく。

オスカーを抱きしめても、どこかに流されずに済むわけではないのに、何かに縋らずにはいられない。

「ああっ・・オスカー・・オスカー・・私・・怖い・・」

「何が不安だ?」

オスカーが腰の動きはそのままにアンジェリークに問いかける。

「私・・どうにかなりそう・・どこかに・・んんっ・・流されてしまう・・・」

「・・・いいんだ、それで・・自分を解き放って・・ためらうことはない・・」

激しい動きと裏腹に、オスカーの声はどこまでも優しい。

「やっ・・一人にされるみたいで・・あっ・・怖いの・・もう、一人で置いて行かれるのは・・い・・や・・」

オスカーがアンジェリークの体をきつく抱きしめた。

「大丈夫だ。君を一人になんてしない。一緒にいくんだ。俺たち2人で・・だから、自分を縛るな。自分の体が求めるままに心を解放しろ・・」

こう言うとオスカーは、体をおこして、アンジェリークの膝頭をつかみ、更に最奥を目指して深深と腰を打ちつけた

「くはあぁっ!」

脳髄まで届くかのようなその衝撃に、アンジェリークの体はベッドの上で大きく跳ねあがった。

しかし、オスカーは動きを緩めるどころか、更に速く、更に深く、アンジェリークを突き上げる。

「あっ・・ああっ・・だめ・・もう・・だめぇっ・・」

「怖がらなくていい・・俺が・・俺が一緒にいる・・」

「オスカー・・オスカー・・あっ・・あああぁっ!」

「くっ・・アンジェリークっ」

アンジェリークの秘裂が不規則に収縮すると同時に、オスカーが己の欲望をアンジェリークの胎内で解き放った。

オスカーの熱い精がアンジェリークの最奥を激しく叩く。

『ああ・・温かい・・この温かさ・・私、知ってる・・』

体中に染み渡って行くその熱さ。

長らく忘れていたその熱さを、でも、体はしっかり覚えている。

その肌の色も、胸の厚さも、二の腕の逞しさも、そして、自分を愛するやり方も、すべて違う。

でも、くれるものは同じ・・真摯な、誠実な思い。体を充たして行く熱さが、それを教えてくれる。

オスカーの体がゆっくりと自分に覆い被さってきた。

己をアンジェリークの内部に留めたまま、アンジェリークの体を愛しげに抱きしめ、そっと口付ける。

「・・好きだ・・君が・・」

「オスカー・・私も・・」

二人はまたどちらからともなく唇を重ねた。

離れまいと、放すまいと、お互いをきつく抱きしめ合って。

長い口付けを交わすうちに、オスカーのものがまたアンジェリークの中で脈動し硬度を増して行く。

オスカーがアンジェリークの乳房にまた触れてきた。

固く立ちあがったままの先端を軽く指で摘み上げる。

「んんっ・・オ、オスカー・・」

アンジェリークは唇を離して、戸惑うように、オスカーを見上げた。

オスカーはふっと微笑むと

「俺はまだ君に飢えている。いくらでも君が欲しい。まるで押さえの効かない若造みたいで、自分でも恥ずかしいが・・君は嫌か?」

アンジェリークはふるふると首を横に振った。恥ずかしいが、率直な表現が嬉しかった。

それに、アンジェリークの中で,もうオスカーのものは先ほどと同じように熱く固くなっており、アンジェリークの心も体も落ちつかなくさせていた。

オスカーは嬉しそうに微笑むと、アンジェリークの豊かな乳房に顔を埋め、再び腰の律動を開始した。
そして、オスカーはこのあと、アンジェリークが疲れ果ててベッドに沈みこむまで、飽くことなく、幾度も彼女を求め悦びの声をあげさせ、同じ数だけ自分も放って果てた。

まるで、空白の年月を埋めようとするかのように。

 

「・・・ん・・」

窓からさしこむ明るい朝の光に、アンジェリークは上掛けの下で身じろぎをする。

いつも、寝起きはいいほうなのだが、なぜだろう、とてつもなく眠い。

目を開けられぬまま、横向きに寝返りをうつと、頬に、滑らかで暖かい、だが、硬質な感触を感じた。

はっと目をあけると、そこには浅褐色の厚い胸板があった。

「目が覚めたか?」

優しく耳元で囁かれ、アンジェリークの意識は一気に覚醒した。

オスカーの肩にもたれかかり、オスカーの逞しい腕に腰を抱かれたまま眠っていた自分に気付いた。

途端に甘く熱く激しい一夜がアンジェリークの脳裏にまざまざと蘇る。

恥ずかしい、けれど、嬉しいような、心浮き立つような気分に、くすぐったいような思いを抱く。

その感情そのままに、アンジェリークは頬をすこし上気させながら、それでも、にっこりとオスカーに微笑みかけた。

こんな幸せな朝を迎えたことは、ついぞ、ないことだったから。

ジュリアスとは結婚当初別々に眠る事のほうが多かったし、寝室を供にするようになったのは、ジュリアスとの別離が決まってからのことであと、幾日、一緒に目覚められるのだろうと思って迎える朝は、決して心弾むものとは言えなかった。

だから、朝、目が覚めて、最初に目に入るものが愛する人の顔だというのは、しかも、なんの怯えにも苛まれず、愛しい人と朝を迎えられる事はなんと、心が満たされることなのだろうと、アンジェリークは思う。

その、幸せだと思える心のままに微笑むアンジェリークを、オスカーはまぶしいものを見るかのようにみつめて、その体を抱きよせた。

そのまま、アンジェリークに軽く口付ける。

いつまでも、アンジェリークの唇を味わっていたいのは、山々だったが、克己心を振り絞って唇を離すと、アンジェリークにこう囁いた。

「このまま、ずっと君とベッドにいたいが、小間使いもおきてくるだろうし、出かけるしたくもしないとな・・」

このオスカーの言葉に、アンジェリークの顔が曇った。

オスカーが、昨夜、「故郷の星を見に行こうと思う」と言ったことを思い出したのだ。

二人で迎える憂いのない朝を知ったあとでは、わずかばかりのオスカーの不在もアンジェリークには辛い。

「・・オスカー。いつ、帰ってきてくださるの?あんまり、長くじゃない?」

「俺は君といつも一緒にいると、誓っただろう?君も一緒だ。俺の生まれ故郷を君に見てもらいたいんだ・・」

アンジェリークはおどろいたように、目を大きく見開いた。

オスカーは自分に故郷の星に来てもらいたいのだろうか。もしそうだったら、どうしよう・・

「・・オスカー、でも、私・・」

アンジェリークの不安げな様子を払拭しようと、オスカーはすぐ言葉を続けた。

「解ってる。君がここから、離れられないのは。 だが、1、2週間の旅行はどうだ?それくらいなら、かまわないだろう?新婚旅行がわりってことでどうだ?」

にやりとオスカーが笑う。

「俺が昨日外出してたのは、この手配をしていたからなんだ。もっとも、昨日君に断られていたら、一人寂しい傷心旅行になるところだったがな?」

真剣な面持ちにかわって、オスカーは言葉を続けた。

「君がジュリアス様のそばを離れられないのはよくわかっている。 ただ、俺も、君と自分の生まれ故郷を一緒に見たいんだ。君に俺の育った場所を見てもらいたいんだ。だから、俺の生まれた草原の惑星に一度行って、そのあとは、ここで暮らそう。二人でずっと一緒に・・」

「・・・オスカー・・・」

アンジェリークの瞳が更に大きく見開かれた。信じられないといった表情で口元を手で押さえている。

なぜ、この人は、こんなにも、私のほしいものが解るのだろう。私の欲しい言葉をくれるのだろう。

「それに、ジュリアス様にちゃんと見ていただかないとな?君が毎日幸せそうに笑ってすごす姿を。 ジュリアス様に見られていると思えば、俺も嫌でも真剣に守らざるを得ないからな?君を幸せにするといった約束を・・そして、俺が君を幸せにするところを見ていただいて、ちょっぴり悔しがっていただこうか?」

アンジェリークの瞳から、涙があふれ出た。

ふざけたように言っているけれど、それは、全部自分のためにしてくれること。

それを、また、重荷に感じさせないように、押しつけがましくならないように、ことさら軽い口調で告げてくれる。

オスカーの際限のないやさしさに、アンジェリークは、どう感謝していいか、解らなかった。

「・・ありがとう、ありがとう、オスカー、私、なんてお礼をいったら言いか・・」

「・・礼を言うのは、俺のほうだ。ありがとう、俺の手を取ってくれて。俺と歩いていく決心をしてくれて」

「そんな、私のほうこそ・・ほんとうに、私でいいの?オスカー・・」

「俺がほしいのは君だけだ。」

「オスカー・・」

「涙はこれで最後だ。」

オスカーはアンジェリークの頬を濡らす涙を唇でそっとぬぐってから、アンジェリークをみつめた。

その翡翠の瞳は涙にも曇ることなく、清冽な光を湛えて、オスカーを見つめ返していた。

「・・愛している」

「私も・・愛しているわ・・」

二人はまた固くだきしめあい、唇を重ねた。

明るい陽光が二人を包む。

窓からさしこむその柔らかな暖かい光はそのまま、二人への祝福をもたらす光だった。

 

小高い丘の上に位置するその墓石の前に二人は佇んでいた。

二人とも普通のスーツ姿だ。

二人でこの場所を訪れることは、初めてのことだった。

アンジェリークは、墓石の前に跪き、生前ジュリアスの好んだ白い花を墓前に捧げる。

「ジュリアス、あなた、私、少し屋敷を留守にします。二週間ほどでまた帰ってきますから、心配しないでくださいね」

隣にいるオスカーに一瞬微笑みかける。このうえなく幸せそうに。

「オスカーと一緒だから、これからずっとオスカーがいてくれるから、大丈夫です。一緒にオスカーの故郷を見てきますね。」

オスカーが言葉を引き継ぐ

「ジュリアス様、俺がアンジェリークを守って行きます。どうか、ご安心ください」

『そう、俺がそちらにいくまでの、しばらくの間、あなたから、アンジェリークをお借りします。あなたからみれば、たいした時間でもないはずだ。やきもちなんか妬かんでくださいよ。』

オスカーは続けて、心の中でこう、ジュリアスに話しかけた。

別れを意識させる言葉はなるべく、アンジェリークの前では使わないようにしようと、オスカーは思っていたから。

意識しようと、しまいと、いつか別れはやってくる。

それはどんな人間でも同じだ。

自分たちは特別不幸なわけではない。愛する人と、人生を交差させて生きていけること自体は幸福なことなのだから。

いまから、何十年も先の別れを嘆いて、目の前の幸せが目に見えないとしたら、それこそ不幸なことだろう。

だから、アンジェリークには別れの予感など意識させずに、微笑と光に溢れる日々をすごさせたい。

今日一日一日を大切に慈しんで生きていけば、いつか来る別れの日も、悔いを感じることなく受け入れることができるのではないか。

いつかは、アンジェリークを残して逝かねばならない以上、

せめて、アンジェリークが自分と過ごした日々を悔いることがないようにすることが、自分の責務だと、オスカーは思う。

『そして、ジュリアス様、俺がそちらに逝った暁には、いかにアンジェリークが愛らしく、愛しかったか二人で語り合いましょう。きっと、お互いに、自分しか知らないアンジェリークの話があるでしょうからな。 そして、アンジェリークがそばに来てくれる日を二人で待つとしましょう。』

「オスカー?」

黙ってしまったオスカーにアンジェリークが声をかけた。

「・・ああ、すまない、少し、ぼんやりしていた」

「何を考えてらしたの?」

「君がいかに、愛らしく、愛しいかさ」

そう、嘘ではない。

「・・もう、オスカーったら・・」

「さ、もう行こう。シャトルの時間に遅れる」

「ええ、じゃ、行ってきます、ジュリアス」

二人はジュリアスの墓所を後にした。

穏やかな午後の日差しに包まれて、ジュリアスの墓石は二人を見守るように静かにたたずんでいた。

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