Before it's too be late 4

パーティーは卒業生代表でロザリアがお世話になった恩師達に感謝の言葉を述べると共に、アンジェリークが花束を贈呈することで締めくくられた。和やか、かつ、しんみりしっとりとした雰囲気で、謝恩パーティーはこうしてつつがなく終了し、オスカーとアンジェリークは連れ立ってオスカーの部屋にやってきた。ここで一晩、2人きりで過ごしてから、アンジェリークの両親の駐在国に向かうのだ。

オスカーが10キーと電子ロックの2重鍵を解除し、アンジェリークを招き入れると、アンジェリークは「お邪魔します、オスカー先輩」とオスカーにぺこりと頭を下げてから、部屋にあがりこんだ。

この2年余、幾度も週末をこのオスカーの部屋で過ごしてきたので、部屋の造りや勝手は、もう自分の部屋同様に熟知しているアンジェリークであったが、それでも、ここはあくまで「オスカーの部屋」であって、自分の家じゃない、私は上がらせてもらう身だと自覚していたので、さっさと勝手に上がりこむようなことは決してしない。私物も置いていかない。お泊りセットはいつも全て持参し、また、律儀にもって帰る。そして、必ずいつでも「お邪魔します、お世話になります、オスカー先輩」と玄関先で折り目正しく挨拶をしてから部屋に入る。オスカーは「そんな、他人行儀にしなくても、自分の部屋と思ってくれていいんだぜ」と苦笑しつつ言ってくれてはいたが、慣れ親しむのと馴れ馴れしいのは違うと思うし、やはり、親しき仲にも礼儀ありというか、弁えは必要だとアンジェリークは思うのだ。招待していただいたことに感謝するから、お礼とあいさつをするのも当然のことだと思う。でも、私たちは恋人同士でもあるから…本当の意味での「お客様」ではないから、お客様然とするのではなくて、一緒にいる時は家の事をオスカーと一緒にする、例えば、翌朝の朝食を、オスカーと一緒に準備したりというささやかなもの程度だが。

だから、今夜もいつものように玄関先で挨拶しながら、ぺこりとお辞儀したのだ。と、顔をあげしな、オスカーに頤を摘みあげられ、くいと、顔を持ち上げられた。アンジェリークの眼の前に、怖いほど端正な顔立ちと、真冬の湖水のように澄み切った氷青色の瞳があった。秀でた額も通った鼻筋もギリシャ彫刻のよう、人が理想とする美しさをそのままに体現しているよう、と、アンジェリークは幾度となく、否、オスカーを見つめる度に、そう思い、比度もやっぱり見惚れてしまっていると

「オスカーだ、2人きりの時は、そう呼ぶって約束だろう?」

と、これもまた彫り出されたように形のいい唇に告げられざま、優しく口づけられた。途端にアンジェリークは、自分が雲の上にいるような、体がふんわりと宙に浮き上がっていきそうな軽やかに甘い気持になる。

だって、オスカーの唇は…彫刻のように端正だけど、彫刻と違って、蕩けそうに柔らかく、とびきり甘く温かい。触れられるほどに、うっとりと夢見心地になる。

「あ…はい、オスカー…」

包み込まれるような接吻に頭の芯がしびれたようにぼぅっとして、息があがってしまいそうになり、少しだけ唇を離した。「オスカー」という言葉の響きを、舌先で転がして楽しむようにその名を呼んでみた。

「そう、いい子だ…」

オスカーが僅かに瞳を細めて、にっ…と口角をあげた。その笑の凄艶とも言える色香に、アンジェリークはくらりと酩酊しそうになって、更に見惚れてしまう。と、再び角度を変えて、唇をふさがれた。軽くついばむように唇を唇で摘まれ、そして、それは不意に離れた。

アンジェリークは我知らず、やるせない吐息をついた。

もっと深く口づけてくれていいのに。もっと、オスカーの唇に触れていたかった…

思わず、そんな願いが頭に浮かぶ、同じ言葉を胸の中でつぶやく。無意識のうちに、オスカーの瞳を見つめる。

するとオスカーは、子供にするようにアンジェリークの額にちゅ…と口づけ

「さ、パーティーで疲れただろう?今、コーヒーでもいれような、お嬢ちゃんは座っているといい」

と言って、アンジェリークに居間のソファに掛ける様促した。アンジェリークは、はっと我に返った。

そうだわ、ここは、まだ玄関先で、私、荷物も足もとに置いたままで…帰ってきたばかりで、オスカー先輩だって、お疲れかもしれないのに、私ったらキリなくオスカー先輩にキスをねだるところだった、恥ずかしい…気をとりなおし、荷物を持とうとして、もう、オスカーが部屋の中まで運び入れてくれてた事に気づき2度赤面した。

アンジェリークが赤面している間に、オスカーは無造作にジャケットを脱ぎ、タイを緩め、さっさとキッチンに立っている。

「じゃ、私、ミルクを泡立てますから、せっかくだから、先輩のお好きなカプチーノを淹れましょ、ね?」

せめて、これくらいは、と思い、アンジェリークはかなり必死にオスカーに声をかけた。コーヒーは2人掛かりで淹れるようなものではないし、無理やりオスカーから豆を奪い取るのは滑稽すぎるし、第一迷惑だろう、でも、自分でも何かしたくて。オスカーはアンジェリークの胸中を察したのか、楽しそう、かつ、うれしそうに顔をほころばせた。

「じゃ、そうしてもらおうか、俺1人だと、どうしても、そこまでは億劫で、コーヒーだけで済ませちまうからな」

といって、アンジェリークにミルクとシェイカーを手渡してくれた。

アンジェリークがミルクの泡だてに奮闘する間、オスカーはなれた手つきで豆を計量し、ざっと無造作にコーヒーメーカーにセットする。アンジェリークは、その何気ないオスカーの仕草、男らしい手指に、またも、つい見惚れてしまい、オスカーに「ん?どうした?」という顔で微笑みかけられて、またまた赤面してしまった。

だって…オスカー先輩の指先は…ううん、瞳も唇も微笑も…魔法を宿しているのだもの…魅惑の魔法を…

だから、つい眼で追ってしまう、そして、触れたい、触れられたいと切に思う。思った途端、お腹の奥がきゅうっとしぼられるように熱く苦しくなる。でも、それは全然嫌な苦しさじゃなくて、むしろ、痺れるように甘い感覚で。

またぽーっとしてしまいそうになったが、折よく、コーヒーが抽出された音で我に返った。すかさず、オスカーがカップに注ぐ。その上にアンジェリークはふんわりと泡立てミルクを乗せて、軽くシナモンパウダーを振る。こんな些細なことだけど、2人で作った気がして、アンジェリークは嬉しくなる。

さりげなくオスカーが、カップを2つとも手にして、さっと居間のテーブルまで運んでくれた。オスカーは目顔でアンジェリークに掛けるよう促してから、自身もアンジェリークのすぐ隣に腰かけた。

「何かつまむか?」

「あ、いえ、カプチーノだけで十分です」

「そうか、俺も、こんな静かな夜は…後はお嬢ちゃんさえ、傍にいてくれればいい」

そう言うと、オスカーはアンジェリークに体ごと向きなおり、温かで真面目な声音でこう告げた

「改めて、卒業おめでとう。そして、しばらくしたら、すぐ、入学おめでとう、だな、アンジェリーク」

「!…はい、先輩、いえ、オスカー、ありがとうございます」

そうだ、私、もう、高校生じゃないんだ。もうすぐ大学生になる、オスカー先輩と同じ大学生になれるんだわ、ようやく…

「オスカー、私…卒業できて嬉しい…ちょっと薄情みたいだけど、今、ちっともさびしくなくて、むしろ、新年度から大学生になれると思うと嬉しくて…だって、また先輩と…オスカーと一緒のキャンパスを歩けるんだって思うと…すごく、嬉しい…嬉しくてたまらないの…」

大きな喜びが実感を伴って沸きあがったのは紛れもない、なのに、どうしたことだろう、卒業式の間も、謝恩会の時も全くそんな気配はなかったのに、突然、ぽろりと涙がこぼれた。

「アンジェリーク、俺もだ。君が高校を卒業して、俺と同じ大学生になる日を、俺は多分、君以上に心待ちしてた…でも、この1年は…わかっていても、寂しい時があった。君も…寂しかったか?」

アンジェリークは、頷くことも、首を横に振ることもできず、瞬間、固まってしまった。この1年、全く寂しくなかったといえば、嘘になる。

でも今日の自分の卒業式は真実、さびしくも切なくもなかった。本当に泣きたかったのは、去年のオスカーの卒業式の時だった。

だって、3年生になったら…もう、朝、先輩と一緒に登校できない。生徒会室に行ってもオスカー先輩の「よう、お嬢ちゃん」っていう声が聞けない。学食で一緒にお昼を食べることも、待ち合わせて一緒に帰ることもできない、移動教室の際、偶然廊下ですれ違って、笑みを交わしあうという、ささやかな喜びもなくなる。日々、何げない時に、小さな一緒の時間を重ねることはできなくなる、それが、本当にひしひしと実感されたから。

でも泣かなかった。オスカーは1学年先輩で、先に卒業するのは自明で、しかも1年経てば、自分も同じ大学生になれる、オスカーは他学に進学しないでくれたから。しかも通うキャンパスは高校のすぐ隣の大学部で、会いに行こうと思えば、すぐ行ける距離で…こんなに恵まれていて、寂しいなんていうのは、とんでもない我儘だと、きちんと自覚があったから。何より、こんな、どうにもしようのないことで、泣いたりしたら、オスカーを困らせてしまう、心配をかけてしまう。オスカー先輩は、これから、困難な世界に立ち向かう志をお持ちなのに、私は、そんなオスカー先輩を支えたいと思って、だから、少しでも力になれるように、オスカー先輩への誤解や偏見を解けるように、自分なりに頑張ろうと誓ったのに、そんな自分が、先輩の卒業という当たり前の出来事にも「さびしい」と泣くことなんて、絶対、ダメ、こんな事くらいで泣いたりしたら、これから先、どうやってオスカー先輩と共に歩んでいけるというの?オスカー先輩は社会に出たら、きっと、世界中を飛び回るようになる、お仕事でめったに自国に帰る時間もないかもしれない、そんな時でもオスカー先輩を心配させないように、私は、私でしっかりしなくちゃ。オスカー先輩が、後顧の憂いなくご自分の戦いに専心できるように。

そう思って、オスカーの卒業式の時、我慢して泣かなかった。今にも泣きそうだって、周りにはバレバレだったかもしれないけど、実際、涙線は決壊寸前で、かなり際どく危うかったのだけど、それでも、瞳から涙滴をこぼさず我慢した。

そして、3年に進級してからは、先輩たちの分もしっかりしなくちゃ、と、生徒会でロザリアと一緒に、後輩の指導にあたり、職務を順次、引き継がせていった。大学部で志望学部に進学できるよう学内選抜試験のために勉強に勤しむ一方、オリヴィエのブランドを素敵に見せられるよう、お肌やボディラインの維持に前より気をつけるようにもなって、ウォーキングのレッスンやフィニシングスクールにも通ったりもした。外部受験しなくて良い分、別の面で自分を磨こうと思って、一生懸命、悔いのないよう、高校生活を送ってきたつもりだ。

それでも、やっぱり進級して最初の一月くらいは、生徒会室に行く度に、つい、この前まで当たり前みたいにいた人の姿が見えないことに…オスカー先輩だけじゃない、お兄さんみたいでもありお姉さんみたいでもあるオリヴィエ先輩も、優雅でたおやかなのに力持ちのリュミエール先輩も、その仲良しのお3方の楽しいやりとりが見られなくなって『心に穴があいたようって、こういうことかしら』なんて思ったこともあったのだ。

でも、振りかえれば、この1年、ただ、寂しいだけでもなかった。平日に会えない寂しさがあってこそ、オスカーに会える週末が待ち遠しくてならなかった。会える時は、今まで以上に嬉しくて、一緒にいられる時間は、宝石のように眩しい、貴重なものだと、実感した。会える幸せをかみしめた。毎日、会えていた時は、会えること自体が、幸せなのだと、今ほど切実にわかっていなかったと思うし、それがわかって良かったと思う、それも本当なのだ。大学生となったオスカーは勉学で忙しくて、毎週末に会えるとは、限らなかったからこそ、尚更に。

「ん…正直言うと、寂しい時もありました、特に、去年の先輩の卒業式の日は、寂しくて、悲しくて、切なくて…でも、会えない時間があったからこそ、会える日は、もう、たまらなく嬉しくて、幸せで…オスカー先輩と会えること、一緒の時間を過ごせることは「当り前」のことじゃなくて、すごく、大事で、幸せで、ありがたいことだって、ひしひしと実感できるようになりました…それは、良かったと思うんです、強がりみたいだけど…本当なんです。それに、先輩は、この1年、勉強でお忙しいのに、可能な限り、時間を割いて…私と会う時間を作ってくださっていたでしょう?それが、わかっていたから、私、すごく、嬉しかった…」

「当り前だ、お嬢ちゃん、君に会えなかったら、俺の方が渇き死にしちまう。週末になれば君に会える、君のかわいい声を聞き、君をこの手に抱きしめられる、それが俺の学生生活の励みだったんだからな。君に会えると思えばこそ、俺は、この1年、頑張ってこれたんだ」

「私も同じです。デートの朝、ドキドキしながら、先輩との待ち合わせ場所に向かうのが、すごく楽しみでした。この前より少しでも素敵だって先輩に思ってもらえるよう、先輩と並んで恥ずかしくないよう、自分を磨きたいって思うのは、プレッシャーでもあったけど…だって大学には、きれいな人、魅力的な人がたくさんいるだろうから…でも、オスカー先輩を好きな気持ちは誰にも負けないって思って、頑張るのも励みだったの…でも、でもね、やっぱり、今日、卒業して…もうすぐ先輩と同じ大学生になれるんだ、また同じキャンパスを歩けるんだって思うと、やっぱり、すごく嬉しくて…今、嬉しくてたまらなくて…嬉しいのと、安心したのと、この1年、ちょっぴり寂しかった時のことも思い出しちゃって、なんだか、気持ちがごちゃごちゃで…ごめんなさい、泣いちゃって…止まらないの…」

この1年、一緒にいられる時間、その絶対量は格段に少なくなった、それで不安になったり不満に思ったりしたことは決してなかったがーオスカーが、可能な限り、時間を割いてくれていることもわかっていたし、少ないからこそ濃密な時間を過ごせたし、自分が、オスカーからどれほど大事にされているかも、しみじみと、よくわかっていたから。でも、もっとたくさん会いたいな、もっと長く一緒にいたいなと、幾度となく思った事も、また事実だった。

そんな、これまで抑えつけてきた寂しさとか切なさが胸の奥底から急激にこみあげてきて、喜びに混じりあっていた。アンジェリークは自分の胸中がマーブル模様の渦を巻いているようでー白く甘い歓喜の中に、ほんのりほろ苦い切なさとか寂しい思い出が入り組んで溶け合わずに混在しているようなーそんな感情をもてあました。胸が詰まっていっぱいで、今の混沌とした感情を吐き出さずには、訴えずにいられない気持になっていた。

「ああ、我慢しなくていい、好きなだけ泣いていいんだ。お嬢ちゃん。去年の俺の卒業式の日も…いや、その日から、この1年間、ずっと我慢してたんだろう?でも、今はいい、泣きたいだけ泣くといい」

オスカーが優しく髪から背を撫でてくれた。アンジェリークは『寂しい、もっと一緒に居たい』と口に出したことはなかった…なかったと思うけど、私の顔や目に、そんな気持ちははっきり表れていたのかもしれない、オスカーには、隠せてなかったのかもしれない、と思った。だから、今、オスカーはそんな私を甘やかそうとしてくれてるんだと、感じた。嬉しかった。素直に甘えたいと思った。

「ごめんなさい、私、泣き虫で、さびしがり屋で甘えん坊で…これから大学生になるのに、ダメですね…我儘でしょうがない子だって叱ってほしいくらい…」

この言葉自体が、どうしようもない甘えだとわかっていた、わかっていて、臆面もなくオスカーに甘えてしまう。

「ふ…だが、俺は、そんな君が…泣き虫でさびしがり屋なのに我慢強い君が、こうして、俺に、その身を預け切って、甘えてくれるのが嬉しくてならない。愛情深く、素直で、人懐こい子猫みたいな君がかわいくて、愛しくて仕方ない、かわいい俺のアンジェリーク」

この上なく優しい笑みを向けられ、丁寧に涙をなめとられる、願い通りに、際限なくオスカーが甘やかしてくれているのがわかって、アンジェリークは震える程の喜びと満たされた思いと気恥かしさを同時に味わう。

「それでだ…卒業と入学のお祝いであり、君に寂寥を強いた埋め合わせであり、何より俺の愛の証として…これを受け取ってほしい、アンジェリーク」

オスカーが、サイドボードの引き出しから小さな箱を取り出して、蓋をあけた。中には極細身のプラチナ台に、キラキラと幾面にも光を反射する淡いグリーンの小さな色石がセットされた見るからに繊細な指輪が入っていた。オスカーは恭しい手つきでアンジェリークの左手を取ると、その薬指に手にしたリングをはめた。

「オスカー…この指輪…きれい…すごく…きれいで、かわいい…これを私に?」

すすりあげながらのうっとりと夢見がちの言葉は童女のようにあどけない。

「ああ、気に入ってくれたか?君の瞳の色に近い、でも、普段つけても大仰にならない大きさの石にしてみた」

「はい、すごく嬉しい、ありがとう、オスカー…」

「これなら、学生が身につけていても大げさすぎない。でも、それは、婚約指輪としては、少々物足りないってことでもあるから、君が大学を卒業する時に、もう1つ…今度はブルーダイヤのリングを贈る。そのリングとセットでつければ、青と緑の金剛石が2つ寄り添うにように並ぶリングになって…つまり、2つ合わせて正式な婚約指輪になる」

「え?オスカー…この石…淡い緑色のこの綺麗な宝石はダイヤモンドなの?」

「無論、婚約指輪と言ったら、ダイヤモンドが基本だろう?そして、記念の指輪なら、君は俺の瞳に似た色の石がほしいと言ってくれ、それはとても嬉しいことだったが、俺自身は君には君の瞳の色に似た石が似合うと思った…そして、高校卒業時の婚約記念は内輪の結納程度に控え目にするようにと君の父君から言われていたから…重ねづけした時、1つのリングに見えるような細身の2連の指輪にして、そのひとつひとつに、それぞれ、青と緑のダイヤをセットすればいいって気づいてな、オリヴィエにデザインさせておいた。今日に間に合ってよかったぜ。入学式の日に渡してもよかったんだが、どうせなら、明日、着けていってもらって、君の父上に、俺の甲斐性を認めてもらいたかったんでな」

「ふふっオスカーったら…オスカー…ありがとう、本当にありがとう…私、こんなに幸せでどうしよう…」

「指輪一つで君が幸せになってくれたのなら…1年の寂しさが少しでもまぎれたのならよかった…それでだ、気にいってくれたようなら…4年後に青ダイヤを贈る時が、もっと楽しみになるように、その指輪、肌身離さず、つけていてもらえるか?お嬢ちゃん」

「はい、もちろんです。外したりしません、うれしくて仕方ないんですもの。あ、でも、今、私…何もお返しできるものがない…せっかくだから、私もオスカーに何か記念になるものを差し上げたい……婚約の記念品を…」

オスカーが指を立てて、ちっちと横に振った。

「お嬢ちゃんは、その存在自体が宝石なんだ。俺の大事な宝物…さ、こっちにおいで」

「っ…はい、オスカー…」

「お嬢ちゃんは、さっきから子猫みたいな瞳をしていた。思わずこの胸に抱き抱え、頬ずりして、口づけずにはいられないような、愛情に満ちた、それでいて、愛情を求めてやまない、そんな目を…力いっぱい抱きしめたくて、仕方なかった」

「だって…オスカーが好きなんだもの…オスカー、大好き…心から愛してます…」

アンジェリークは、それこそ子猫のようなしなやかさと軽やかさで、オスカーの胸元にその身をより添わせた。

オスカーはそんなアンジェリークの細腰を抱きよせ、顔を少し上向かせて、覆いかぶさるように口づけた。

オスカーの舌が、確固たる意志を持つ生き物のように中に入って行き、アンジェリークの舌に触れてきた。アンジェリークは、慌てたように自分の舌をオスカーのそれに絡めあわせると、自らオスカーの唇を食んで吸った。

先刻口づけられた時は、急なことにぽーっとしてしまい、為されるがままだった。星の数ほど、もう口づけを交わしているのに、接吻を知り初めて間もない頃の自分に立ち戻ってしまっていた。オスカーと唇を重ねあい、触れあうのが嬉しくてたまらない、それは、今だって全く変わらない。でも、あの頃は、口づけてもらえて幸せな気持ち、自分からも口づけたい、オスカーの口づけに応えたい気持ちを、どう表し、どう伝えたらいいか、わからず、その術も知らず、幸せなのに、もどかしくて、じれったくて、泣きたくなる程の焦りすら覚えたこともあった。

でも、どう伝えたらいいかわからない、で、踏みとどまってしまったら、自分がオスカーを好きな気持ち、オスカーを求める気持を伝えきれない、そんなのは嫌だったからーだって、気持ちは伝えようとしなければ、伝わらない、それも、まっすぐに素直な気持ちで伝えなくちゃーアンジェリークは、見よう見まねで、オスカーの舌の動きを真似て、オスカーの舌に自分の舌をからめてみた。すると、オスカーの動きがほんの一瞬止まった後、それ以上の激しさで、アンジェリークのそれを弾くようにねぶった。アンジェリークは、その激しさに応えるように、オスカーの舌に自分のそれを合わせる、オスカーが更にきつく唇を吸い、舌を激しく絡ませてきた。後はもう無我夢中だった。同じ程の激しい情熱で、互いの唇を貪るように吸い、舌を合わせ、弾き、絡ませあっていた。アンジェリークが、オスカーを好きという気持ち、求める気持ちを素直に伝えれば、オスカーはそれに応え、さらに倍する気持ちで自分を欲してくれた。それが、たまらなくうれしくて、オスカーへの愛しさは増すばかりで、アンジェリークは更に深く熱く、オスカーを求める、オスカーはまた、その求めに応じ、自身をより欲してくれるということが繰り返された。愛と情が重なりあって厚みをましていく、それが、2人の口づけであり、情事だった。

でも、当り前だけど、アンジェリークの気力は、オスカーのそれほど長くは持たない、だから、同じくらい激しく求めあった口づけでも、大概、アンジェリークの方が先に息があがってきてしまう、膝から、全身から力が抜け、いつも、気づいた時には、オスカーに腰をしっかと抱き支えられる形で、オスカーの胸にこの身のすべて、預けきってしまっている。

この夜もやっぱりそうだった。

口付を交わしているだけで、支えられているのに、もう全身崩折れてしまいそうだった。

「ん…オスカー…オスカー…」

口づけの合間に懇願するようにオスカーの名を呼ぶ。

「もう…ベッドに行くか?お嬢ちゃん」

耳朶を食みながら、吐息混じりの声を耳孔に流し込まれ、アンジェリークは、くらりと、そのまま、オスカーにしな垂れかかりそうになり…と、いつのまにやらオスカーはアンジェリークの膝がしらの裏に腕をまわして、アンジェリークを軽々と抱き上げていた。ドレスと揃いの薄桃色のヒールは、床に落ちるにまかせて。

「もう腰に来ちまったのか?キスだけで、こんなに感じて…本当にかわいいな、俺のお嬢ちゃんは…」

寝室にまっすぐ向かうオスカー。アンジェリークはオスカーの太く逞しい首根っこに、きゅっと腕をまわして抱きついた。

「だってオスカーとキスするの、好き…なんだもの…」

自分でも驚くほど甘えた声がでて、ちょっと恥ずかしい。

「キスだけか?お嬢ちゃん」

オスカーがわかりきったことを問う。この問いは、もっと私を甘やかすためのものだと、アンジェリークは知っている。

「オスカーが好き、オスカーに触れてもらうのも、触れるのも好き、オスカーの何もかも、好きでたまらないの…」

そう答えざま、一層固く、しがみつくようにオスカーに抱きつく。

と、オスカーの脚が止まり、止まったかと思うと、オスカーの胸のうちに収まったまま、一瞬、天地がわからなくなるような感覚の後、アンジェリークは冷いやりとしたシーツの感触と弾むスプリングを背中に感じた。

オスカーが、寝台に腕をついて、僅かに体を起こすと、片手でアンジェリークの髪の一房を掬いあげ、もう片方の手は、アンジェリークの手と重ね、指をからめあわせてきた。

「俺も好きだ、好きでたまらない…君のこの髪も、指も…やわらかな唇も…」

オスカーの唇がアンジェリークのそれに触れ、すぐ離れ、首筋へと移る

「あ…」

「かわいい声も…白く滑らかな肌も…」

オスカーは、アンジェリークのデコルテのそこかしこに唇を押し当て、肌の感触を確かめるように唇を滑らせていく。さりげなく腕をアンジェリークの背中に回して、軽くその身を抱き起こし、注意深くドレスのファスナーを下していく。大きな筋張った男らしい手が、花びらを1枚1枚はいでいくように丁寧に、華奢な肩を慈しむように撫でさすって、薄いシフォンクレープの袖をアンジェリークの腕から抜き去ると、なよやかなドレスはあっけないほど簡単に、アンジェリークの身から外し落とされ、ドレスに色を合わせた桜色のランジェリーが現れた。

オスカーは、やはり、細心の注意を払って、ストラップレス・ブラのホックをはずし、腰から臀部を愛撫するように、アンジェリークのレースのショーツと絹の靴下を流れるように取り去る一方、ここでようやく、自身のシャツに手をかけた。

 

仄かな灯火の下、アンジェリークの裸身は、夜桜のように、楚々として可憐なのに、におい立つような艶めかしさを感じさせる。

こんもりと盛り上がった乳房は、アンジェリークの肌が上気している所為で、白い肌の内側から火が灯るように、ほんのりと色づいており、可憐にして、妖しい程の色香を放つ。中でも、可憐の極みともいうべき膨らみの頂点は、まだ、触れてもいないに、半ば立ちあがり、うっすらと色づき、早く味わってくれと言わんばかりにオスカーを誘ってくる。

指がどこまでも食いこんでいきそうな程柔らかな、なのに、みずみずしい張りに満ちた乳房に手を添え、誘われるままに、オスカーはその頂を口に含む。輪郭に沿って舌を回す。含んだ時は頼りなかった弾力が、みるみる内に硬度を増し、つんと挑発的に屹立したのが、舌にわかる。その小気味いい硬さを、舐め転がしては、舌先でつつく。特に感じやすい先端で、小刻みに舌を蠢かす。それを交互に両の乳房に繰り返す。己の唾液で濡れ光る乳首を、指先で軽く摘んで捻り、先端に指の腹で円を描く。

「あ…んぅ…ん…」

軽く鼻にかかった、甘えた声をアンジェリークがあげる。まさに喉をならす子猫のようだ。愛撫されて心地良いと素直に訴え、もっと愛撫してくれとせがんでいる。

せがまれるままに、根元に歯先をあてがい、軽く吸いたてながら、乳首の先端を舌で小刻みにくすぐる。

「あぁんっ…んっ…はぁ……」

アンジェリークが小指を噛んで、いやいやするように軽く頭を振る。

「気持ちいいか、お嬢ちゃん」

「んっ…これ、好き…」

こくこくと懸命に頷く仕草が、なんともいじらしい。

「かわいいぜ、お嬢ちゃん、いっぱい気持ちよくしてやるからな…」

背中に腕をまわして、瞬間、きゅっ…ときつく抱きすくめると、アンジェリークの身がしなやかに反り返り、次の瞬間、自分からも懸命に抱きすがってくる。ほどいた腕でアンジェリークの手をとらえ、指をからめて敷布に押し付ければ、絡めた指に一層の力を込め、離すまいとするように握り返してくる。アンジェリークの仕草の、どれもこれも、健気で懸命でいじらしく、自身を求める気持ちに満ちていて、オスカーは奮い立つ。素直な喜びを表す彼女に、可能な限り、力の限りの悦楽を感じさせてやりたいと思う。

むしゃぶりつくように乳首を咥えこみ、唇を鳴らすように、忙しなく交互に吸いたてる。きつく吸われて、より固く尖った乳首を指の腹で押しつぶし、摘みあげる。そうして徐々に愛撫の手と唇を、乳房の稜線から腹部へ、まろやかな臀部へと滑らせていく。同時に、流れるように自身の身体を、アンジェリークの脚の間に置く。すぐさま、膝がしらをつかんでぐいと大きく…荒々しさを感じさせる程の手つきで、体を開かせる。すかさず、股間へと手を伸ばす。深く指で分け入るまでもなく、花弁の表が熱くとろりと濡れているのが、いや、金の繊毛までもが、ぐっしょりと滴る程に露を宿しているのが、手指に感じられた。

「すごいな、お嬢ちゃん、もう、こんなに濡れて…溢れて…」

「だって…だって…」

オスカーはアンジェリークの足首をつかんで持ち上げ、大腿部を腕で抑え込む形で、彼女の花弁を自分の眼前にあらわにした。ふっくらとした花弁は濡れ濡れとつやめき、僅かに入口をほころばせている。オスカーは、その花弁の入口を、形のいい指の先で、くすぐり、ほぐすように蠢かした。

「あぁ…や…ん」

羞恥を煽る体勢に、アンジェリークが戸惑うような声をあげるが、オスカーはかまわず。

「いっぱい舐めてあげような、お嬢ちゃん」

と宣言するや、アンジェリークの脚の間に顔をうずめる。ぷっくりとした花弁の表にちゅ…ちゅ…と幾度も音を立てて口づけてから、合わせ目を舌先で割ると、下から上へと、じっくりと舐めあげた。

「あぁっ…んんっ…」

「美味いぜ、お嬢ちゃんの蜜は…温かくて、甘い、いい匂いがして…いくらでも舐めてやりたくなる…」

丸めた舌先で、愛液をすくい取る。淫靡な水音を立てるように、わざと唇を鳴らして、愛液をすする。

「あぁ…恥ずかしい…」

「そんなことを言われると…もっと恥ずかしがらせたくなる…」

オスカーは、いきなり、尖らせた舌を花弁の合わせ目に深々と突き立て、勢いよく抜き差しを始めた。

「俺の舌でいっぱい犯してやろうな、お嬢ちゃん」

「あぁっ…あっ…」

「ほら、お嬢ちゃんの襞襞が俺の舌に絡みついてくるぜ、もっと、もっととせがむように…」

「あ…やぁ…恥ずかしい…恥ずかしいの…」

狂おしい羞恥に身をよじるアンジェリークを更に追い込むようにオスカーは舌の抜き差しを続けたまま、花弁の上方にちょこんといじらしく顔を出している花芽を指先で探り当て、注意深く莢を向いた。湿らせた指先を、そっと、その錘の先端にあてがい、極軽く滑らせる。

「ひぁあんっ…」

アンジェリークの身体が大きくのけぞった。

「ああ、かわいいな、お嬢ちゃん、あんまりかわいくて、食っちまいたい」

オスカーは、秘裂から舌を抜きとると、休む間もなく、懸命に屹立している小さな珠にあてがい、素早く左右に動かした。

「や…あぁああっ…」

オスカーの下で、電撃を食らったように跳ねた。それをオスカーは体躯全体で抑え込みながら、舌と指での愛撫を続ける。

肉珠を根元から先端へと舐めあげれば、こりりとした硬い弾力が唇に心地良く、小気味よく、つい、意地になったように、舌で激しく弾くように先端をねぶってしまう。全体にぐるりと舌をまわしては、ちゅくちゅくと軽く吸い、歯先をあてがい、極軽くしごきあげもする。

同時に、秘裂には指を差し入れ、腹側の肉壁を意識して擦り、絡みついてくるような肉襞をねっとりとかき回す。後から後から豊かに溢れだす愛液を花弁全体に塗りたくるように掌で撫でたり、合わせ目を指先でくすぐるように焦らすような愛撫も与える。

アンジェリークは、時に小さく震え、時に大きく体を跳ねさせた。オスカーの与える快楽のうねりに揺さぶられ、翻弄されているのが、手に取るようにわかる。

「も…も…だめ…ゆるして…あぁっ……」

「もう我慢できないのか、お嬢ちゃん…これが欲しくて…」

オスカーは僅かに上体を起こすと、息も絶え絶えなアンジェリークの手をとり、自身の剛直を握らせた。

「ん…もう…ちょうだい…オスカーが欲しいの…」

アンジェリークは荒い呼気の間に率直にオスカーを欲する言葉を紡ぐ。臆することなく、むしろ、いとしげに、さも大切そうに、オスカーの凶悪なまでに逞しい肉幹に細い指をからませ、慈しむに様にその手を上下させる。滲むものの助けを借りて、先端を滑らかに包みこむように撫でさする。

オスカーは、図らずも深く熱い吐息をついた。アンジェリークの愛撫は、決して巧みではない。が、その真剣さ、誠実さで、何よりも自分をひたむきに求める心をまっすぐに伝えてくるので、少し気を抜くと、オスカーは、あっという間に達してしまいそうな気がする。敢えて、ひたすらにアンジェリークに息もつかせぬ愛撫を与え続けていたのも、それだけ自分に余裕がないからだった。それに、オスカーはできることならアンジェリークの中で果てて、受け止められたい、と、いつも願っている、だから、アンジェリークの求めは、オスカーにとってこそ、幸いであり…アンジェリークは、こんな自分の気持ちをわかっていて、俺を欲してくれるような気がして、オスカーは、アンジェリークへの愛しさが爆発するように膨らむ一方だ。

「ああ、今、あげような、お嬢ちゃん…」

オスカーはアンジェリークの手を剛直から外させおのれの肩へと導く一方、手早く避妊具をつけると、逸る心を押し殺して、ゆっくりとアンジェリーク中に己を沈めていった。

「ふぁ…ん…や…おすかー…」

アンジェリークが甘えた声をあげる、オスカーはかまわずゆっくりと浅いところで抜き差しを繰り返しながら、小さな口づけを降らす。

「どうした、お嬢ちゃん。これが欲しかったんだろう?」

「ん…だから…もっと…いっぱい…」

「いっぱい、奥まで突いてほしいのか?お嬢ちゃん…こんな風に!」

言うや、オスカーは思い切りよく、最奥を狙って突き上げ、そのまま勢いに任せて激しい抜き差しを始めた。

「あぁああっ…」

アンジェリークは弾かれたようにのけぞり、すぐさま、懸命にオスカーにしがみついてきた。

「ふ…あっという間に、こんなに乱れて…これじゃ、すぐにイっちまいそうだぜ、お嬢ちゃん…」

濃い紅色の襞がめくり替える様にめまいを感じつつ、オスカーはクールダウンするために、わざと少しだけ律動を緩める。

「や…いや…やめないで…」

アンジェリークが自ら腰を押しつけてくる、オスカーの背に回している腕に力が入る、こんな風にひたすらにひたむきに求められることに、ぞくぞくと戦慄する程の嬉しさを感じてしまう。そんな自分が度しがたいとオスカーは自覚している。

アンジェリークのまっすぐで純粋な恋心に、ひたむきに求める心に、オスカーは、自身も限りなく純粋にアンジェリークを求める心が一層募ってゆく。

「ああ、なんて淫らで、かわいいんだ、お嬢ちゃん…こんなに俺を求めて…」

オスカーは、心からの喜びに満たされて、激しく、力強い律動を放った。

求めるに任せて突っ走れば、自分が、そう長くは持たない、その日最初の交合であれば、なおのこと、それでもままよ、と思ってしまう、愛戯とか姑息な技や計算など、どこかになげうち、ただ、がむしゃらに、ひたすらにアンジェリークを貪る。悍馬のように、休みなく、途切れなく、走り続ける。一切の制御を忘れて、力いっぱい走ること自体が快楽なのだと思い知る。

「あぁっ…あっ……激し…」

突きあげる度にアンジェリークが、幾度も快楽の波に洗われ、さらわれそうになっていくのが、わかる。

肉襞は隙間なく男根を包み込み、限りない優しさ柔らかさで受け止めつつ、引き抜く時は、痛い程に締め付けてくる。そこに、むごい程の勢いで、肉の楔を突きさす、容赦なく腰を叩きつける、これでもかと言わんばかりに。

「ふぁっ…あぁあっ…や…」

細い足首をつかんで、肩に担ぎあげてから、己の身体で華奢な体を2つ折りにするように抑え込み、男根を立て続けに打ち込んだ。

「ひぁぁ…すご…奥まで…来る…来ちゃう…あぁあっ…」

アンジェリークは感極まったのか、すすり泣きをこぼしはじめる。

「もう…いく…か?」

オスカーの息もあがる、声がうわずる、腰のあたりに、背筋に、抑えきれない快楽が、駆け上がり、走り抜けていく。だめだ、堪え切れない。

瞬間、白熱する無音の世界に包み込まれる、すぐに、爆発する。怒涛のような、圧倒的な快楽が弾けて、爆ぜて、迸り、なだれ込む。

「あぁ…オスカー…オスカー…」

アンジェリークが、すすり泣きはそのままに、弱弱しく、それでも懸命にしがみついてくる。

オスカーは、しっかとその身をかき抱き

「好きだ…」

と、言いざまキス

「愛してる、アンジェリーク…」

と言って、もうひとつキス。

後は、もう、呪文のようにキスと愛の言葉を幾度も繰り返した。

が、名残惜しいが、いつまでもアンジェリークの中にとどまってはいられない、避妊具を付けた意味がなくなってしまう。

オスカーは、いかにも渋々アンジェリークの中から己を引きぬくと、手早く始末してから、アンジェリークを抱きよせ、改めて深々と口づけた。

時刻はまだ宵の口、明日のフライトは午後便だし、アンジェリークの実家を訪ねたら、しばらくは禁欲生活だ、何より、アンジェリークを求める気持ちは1度の情交では到底鎮まりきらないし、抑えられない。

アンジェリークの息が整うのをまって…否、整いつつある今も、アンジェリークの官能の火が下火にならぬよう、滑らかな肌を撫で、髪を弄び、乳房の感触を楽しんで、無数の口づけを降らす。アンジェリークが応え始めたら、すかさず2ラウンド目に突入する。

うつぶせにさせて、腰だけを高々とあげさせ、自身は膝立ちで、後背から思い切りアンジェリークを貪ったかと思えば、アンジェリークを己の腹の上に載せて、思い切り下から突き上げる。募る愛しさにこらえきれずに、筋力だけで起き上がって、崩れそうになるアンジェリークの身をきつく抱き支え、乳房にむしゃぶりつく。アンジェリークは、もう、声もだせずに、ただただ、荒く熱い呼気を繰り返し、それでも、本能的にオスカーを抱き返してくれる。

欲するままに、アンジェリークを求め、貪り、アンジェリークも限りない優しさ、柔らかさでオスカーを欲し、受け入れ、どうにもアンジェリークの体力がついてゆけなくなって、失神するように寝入ってしまったのは、もう未明といっていい時刻だった。

あどけない寝顔を見て、ちょっと泣かせすぎたかと思う、でも、限界まで求め、応えてくれるアンジェリークがことさらに愛しくて、オスカーはそれこそ大事な宝物を抱えるようにアンジェリークを抱いて眠りについた…のだが、その、ほんの数時間後、まだ、空が明け初めて間もない時刻に、しつこく鳴り響く電話の音で叩き起こされた。

呼び出し音は有線の電話ではなかった。携帯電話の着信音が、執拗なまでに鳴っている。オスカーは自分のそれはドライブモードにしておいたのでーアンジェリークと一緒に過ごす夜の当然の習慣だったー必然的にアンジェリークの携帯が鳴ったているということだった。

アンジェリークは、でも、この騒音の中も、まったく目の覚める気配がない、どころか、みじろぎもせず、昏々と寝入っている。それだけ疲れ切っているのだ。しかし、携帯電話の呼び出しは執拗で、誰かが出るまで諦める気がなさそうだ。

オスカーは、仕方なしにアンジェリークの電話を取り、発信者の名を確かめて、目を見張った。一気に覚醒した。着信欄には「お母さん」と出ており…つまり、このコールはアンジェリークの母からのものだった。オスカーは一瞬、電話に出ようか出まいか逡巡した。が、執拗に鳴り響くコールに根負けたしたのと、早朝の電話に、何やら、妙に嫌な予感・予兆を感じたこともあって、申し訳ないと思いつつ、電話にでた。

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