Before it's too be late 5

「もしもし、Mrsリモージュ、こちらはオスカーです、すみません、アンジェリークの電話に俺が出てしまって…彼女は、今、休んでいるもので…よかったら、替わりに俺がお話を伺います」

「あ!オスカー君?オスカー君なのね?!よかった!あなたと連絡がついて…あの子の寮に電話を入れたら、卒業に伴って退寮したっていうし、携帯電話に出てくれなかったらどうしようかと思ったわ、あ、それでね、急なことで申し訳ないのだけど、アンジェに伝えてほしいの、明日…いえ、そちらでは、もう、今日かしら?とにかく、こちらに来る予定を延期してほしいの、どのみち、こちらへのフライトは無いと思うけど、あなたたちが飛行場に行ってしまった後では、入れ違いになってしまうかもと思ったので、予め連絡がついてよかったわ」

「なんですって?どういうことです?」

「あと、その替わりといってはなんだけど、私がそちらに参りますって、アンジェに伝えてくださる?だから、ママの顔は見られるから、こちらに来れなくても心配しないようにって…」

「すみません、Mrsリモージュ、確認させていただきたいのですが、俺たちが、そちらに赴くには及ばず、替わりにご自身がこちらにいらっしゃるということなのですね?」

「ええ、そちらについたら連絡しますから…」

訳がわからなかった、鷹揚でおっとりとした夫人が、これまで、こんな風に自分の言いたいことだけを一方的に言い募る場面を、オスカーは知らない、言葉の中身も、どうにもとりとめがない。出立の日になって、突然、来るな、替わりにこちらから行く、しかも、母である夫人だけで…今までアンジェリークの両親は、駐在国を離れたことがなく、だから、休暇には、いつも、娘のアンジェリークの方が両親を訪ねていたのにだ。なのに、いきなりどうしたことだ?しかも、どちらにしろフライトがない?と確か夫人は言った、どういうことだ?いったい…

オスカーは、直観的にきな臭いものを感じ、傍らのアンジェリークをかなり強引に無理やりゆり起した。何か、尋常ならざる事態が起きたのではないか、そんな気がしてならなかった。

見えない敵に抗うように、アンジェリークがいやいやと抵抗し、オスカーの腕から逃れんと寝返りを打とうとした。いつもならアンジェリークの寝坊に寛容なオスカーであったが、今朝に限ってはそうも言っていられない。オスカーは確固とした意思をもって、容赦なく、強い言葉でアンジェリークを「お嬢ちゃん、君の母君から電話だ、緊急の用件のようだ、俺が聞いておいてもいいが…君自身で母君と話をしておいたほうがいい」と言って、無理やりのように携帯電話を持たせた。

アンジェリークは、寝ぼけた欠伸混じりの声で、少しばかり不満を声ににじませながら、電話に出た。 無作法と知りつつ、オスカーは、アンジェリークの傍らに寄り添う形で、母娘の会話を、少しでも拾おうとする。

「ママ?どうしたの?私たち、明日には…あ、もう、今日ね、そっちに行くのに…」

「いい、アンジェ、よく聞いて。あなたたちは、今日、こちらに来ちゃだめ、いえ、こられないわ、たぶん、飛行機は飛ばないから。替わりにママがそちらに行きますからね。空港についたら連絡するわ」

「え?え?どういうこと?だって、ママ、今までパパと1日でも離れたことなんてなかったじゃない?パパは?パパは一体どうしたの?」

「ああ、ケンカとかじゃないわよ、心配しないで、ここしばらく、パパのお仕事が立て込んでて、忙しくなりそうなの。それで、一段落つくまでは、こちらに来ない方がいいだろうってことになって…だから替わりにね、ママがそちらに行きますからね、あ、着いたら、こちらから連絡するから」

「え?だって、ママ、今までパパを1人にしたことなんてないじゃない、だから、いつも、私がそっちに行くことにしてたのに…やだ、ママ、どうしちゃったの?いったい、何があったの?」

このあたりで、アンジェリークも母親の様子が尋常ならざるものと感じたのだろう、口調に不安ゆえの詰問の色合いが混じりだした。

「ごめんなさい、アンジェ、あまり長く話せないの。有線の電話が使えるかどうかわからないから、携帯電話のバッテリーを大事にしなさいってパパに言われてて…そちらについたら、ちゃんと話すから、ママが行くのを待っててね」

夫人の言葉にオスカーの神経がささくれ立つ。電話ー有線の電話が使えるかどうか、わからないだと?あの国の通信施設がダウンしたのか?事故か災害か…もし、何者かが人為的に通信を途絶したのだとしたら…まさか、テロか?

オスカーは、この時、ある可能性に気づき、急ぎPCを開ける。海外配信のニュース、及び、外務省のHP、特に渡航者向けに情報を発信しているファイルを探す。その間も母娘の会話は続く。

「大丈夫よ、パパのお仕事が落ち着いたら、すぐ、戻りますからね。とにかく、あなたたちは、出発しちゃダメよ。あ、キャンセル待ちの呼び出しがかかったから行かなくちゃ…とにかく、今からママがそちらに向かいます、いい?あなたはオスカー君と一緒にいること、勝手に動いちゃダメよ、それと電話したら、今度はすぐに出てね」

「あ、ママ?ママ?!」

唐突に、電話は切れた。

こんなことは初めてだった。アンジェリークはなんだがとても嫌な気持ちがして、落ち着かなくなった。とらえどころない不安が募り、いてもたってもいられない気分なのだが、何をすればいいのかわからない、母がこちらに向かっている、しかも、母の言を信じるのなら、飛行場に行くだけ無駄、むしろ、ここを動かないのが1番賢明なのかもしれない…が、何が何だか、訳がわかならい、自分はどうしたらいいのか、今、どんな行動が最善なのかもわからない、不安の落ちつけようが見当たらないことが、どうにも情けなく、ふがいない。無意識にPCを操るオスカーの顔をみつめる。

オスカーは、そんなアンジェリークの不安をくみ取る。その場しのぎの「大丈夫だ」「君の母上が心配ないと言っているのだから、心配いらないだろう」なんて、軽々しいことは決して言う気はなかった。不安を覚える人間が、1番欲しいのは、慰めよりも情報だ。不安の根源は『確実性の無さ』だからだ。はっきりと結果がわかる、100%予測可能な事態に、人は不安を覚えない。何が何だかよくわからない、全体像がつかめない事態に、人は最も強く不安を感じる、だから、オスカーは、耳に厳しいことを承知で、自身の考えをアンジェリークに述べた。

「お嬢ちゃん…あの国で何かあったのかもしれない、君の父君が執務で忙殺され、有線の通信回線が遮断されたか、もしくはされかねない、その上、こちらからのフライトは着陸できないが、母君のフライトはまだ可能…つまり入るは難く、出るは易い…いや出ざるを得ないような、何かが…」

『しかも、外交官の駐留家族を、空港が完全に閉鎖される前に、急ぎ、出帰国させねばならないような…つまり民間人に危害が及ぶ懸念が否めない、そんな事態ー大規模テロ、もしくは、クーデターの類の国家レベルの事変が起きた可能性が否めない…』

とまで、オスカーの考えは及んでいたが、これはもちろん口に出さなかった。アンジェリークを無暗に悲観的な予測で無用に不安がらせることは避け、ただ、こう続けた。

「だから、今は可能な限り、情報を収集しよう。母君の到着を待つ間に、俺たちにできることは、それだけ…いや、それが1番だ」

アンジェリークが、真摯な顔でこくこくと頷いた。

オスカーは情報を求めて、さまざまなサイトにアクセスを続ける。

真っ先に外務省の渡航安全情報を提供するHPを見る。と、つい先日まで、微塵もそんな気配がなかったのに、今見るとかの国は「退避勧告及び渡航の延期推奨」国扱いになっていた。しかも、最危険のレベル5だ。しかし詳細情報のリンクをたどっても「安全保障ができないため、同地域への渡航は延期のこと。また、同国に滞在中の方は、安全な場所に退避するとともに、退避に際し又は退避後速やかに、退避手段(便名等)及び退避先を領事館に連絡のこと。やむを得ない事情のため残留される方は、領事館と緊密な連絡を維持するとともに、いつでも退避できるように準備してください」とあるだけで、その理由がわからない。

渡航を自粛・延期せねばならない危険な状況といえば何だ?オスカーは考える。

SARSが流行した折、WHOがアジア諸国に移動自粛勧告を発令していたことを思い出し、オスカーは、念のためWHOにアクセスしてみて、この国の近辺で疫病のパンデミック情報などはないかどうかを確認してみる、が、WHOから移動自粛勧告は出ていなかった。

ということは、この渡航延期・移動自粛要請は、疾病などの保険的な意味合いではなく、恐らく政治・治安的な面での危険を鑑みて発せられたものだろう。

それにしては、詳細情報が貧弱にすぎることに、オスカーは、おそらくリモージュ氏が、急ぎ、最低限必要な手を打った、いや、必要最低限の対処をするのが精いっぱいだったのではないかと、と判断した。何か突然に、不測の事態が起きて、かの国の治安が一挙に危険レベルに達し、とにかく急ぎ、民間人の入国を1時ストップ及び在留人には退避勧告をせねばならなくなり、取り急ぎ、絶対最低限必要な退避勧告情報を本国に伝えたのだと。詳細情報が乏しいのは、限られた条件下で最低限の情報を本国に伝えるのがやっとだったからか、もしくは外務の上層部が、公にしない方がいいと判断した内情があるからか…。とにかく、かの国の政情不安?が夫人の言う「パパのお仕事が立て込んで」の理由だろう。異国で不測の事態が起きた場合、領事館の職員は、まず在留人の安全確保に奔走せねばならぬ。民間人の出国が優先順位の第一であり、職員が出国するのはその後だ、その中でも退避させるのはまず職員の家族、次いで、一般職員であろう、現領事館のトップであるリモージュ氏なら必ずそうする、そして、彼自身はおそらく退避する気はないのではないか…それこそ情報を少しでも多く発信するために。それがオスカーには一番の懸念だ。

しかし、かの小国にいったい何が起きたのだろう。政権交代に伴う動乱でもあったのか、民衆による大規模なデモということもありうる…デモ自体に危険はなくとも、治安部隊が発砲も辞さず鎮圧しようとした場合、市民が巻き込まれる可能性が出てくる、それより最悪なのは軍事クーデターだ、軍事政権が戒厳令を敷けば、そも人の移動が難しくなる、しかも、外国人は、下手をすると人質ー軍事政権を国際社会に認めさせるためのカードーに使われかねない…そういう事態なのだろうか?

ロイターやAP、共同通信などの国際通信社のニュースにもアクセス・検索をかけてみるが、特にこの小国に関するニュースはHITしない、小国すぎてニュースバリューに乏しい所為だろう、通信社の支局もないのかもしれない。経済的にも軍事的にも特に発言力・市場への影響力もなく、バチカンなどと違い宗教国でもないし、領土が小さいゆえに資源国でもない、あらゆる面で国際情勢に特に大きな発言力がない、欧州にはありがちな観光で身をたてる小国である所以であろう。

それでも、少しでも何か情報は得られないかと、藁にもすがる思い、ダメでもともとという気持ちで、その国に関するHPを開いてみてわかったこともあった。観光立国らしく、政府の公式HPより、観光公社のそれの方が充実していたのだが、中世に開かれたとある大公領がそのままの形で独立国として認証されたこの国は、歴史こそあるものの規模としては都市国家レベルであった。主な産業も、大公の居城見学をメインとする観光と記念切手の販売、珍しいところで国籍を売るというビジネスで国庫をうるおしており、自前の軍隊ももたないー同盟している隣接国の軍に自国の警備を依頼しており、一朝事あらば、隣国の国軍が速効で駆けつけるー『王宮警護の衛士隊交代ノタイムテーブル』というトピックを見て、かの小国には、軍隊がないことをオスカーは思い出した。小国のこととて、警察と近衛兵を兼任したような「衛士隊」という防衛維持部隊があるだけで、軍備は隣接している同盟国に頼り切りだと、リモージュ氏から聞いたことがあったことも。

「だから、ここは比較的、国情が安定している。中世から続く大公一族が統治しているが、軍隊がないから、軍人による政治への介入や口出しがないし、軍のトップを担ぎ出してのクーデターが起きる心配もない、軍隊を持たないというのは、政権転覆を防ぐ最も有効な手段と言えるね。尤も、他の軍事大国のひも付き…庇護下にいることが、絶対条件となるから、それを良しとしない価値観もあろうがね」と、そしてリモージュ氏は皮肉めいた口調で更にこう続けたのだ、だから、君もこの国のことは、あまり知らない…もしかして、名前を聞いたこともなかったんじゃないかね?と。

面目ないが、正直、その通りだった。まだ恋仲になる前のアンジェリークとの雑談で、彼女の父の赴任先だと聞いた時「そういえば、そんな国があったような」と思った位だった。というのも、軍隊がないため、オスカーの実家であるアルテマツーレでも、この国には支社どころか事務所や営業所さえおいておらずー市場がないからだーオスカーもアンジェリークと知りあい、彼女の両親がこの国に駐在していると知るまでは、興味を抱いたこともなかったし、国情も全く知らなかった。武器商人には関心の持てない国だったからだ。自前の軍隊をもたない、ということは、オスカーの生家にとって、この国は顧客になりえないので、眼中になかった、というのが率直なところだった。

そして軍隊がない=アルテマツーレの支社・営業所がおかれないような国であるがゆえに、オスカーは情報収集がままならず、今、苦労している。拠点がないから、どうしても情報が集まらないし、そも集めるための手立てもない。必要のない部分に情報網は発達しないから、この国の内情がわからない。小さくとも支局があれば、それこそ、公私混同とそしられようと、オスカーは社の人間に連絡をとって、内部および現地にいる者にしかわからない情報を得られるのに、と、無いものねだりな気持ちがこみ上げる。が、逆に、軍隊がないということは、軍事クーデターの可能性は、ほぼ皆無と判断できるということで、これは、尭幸といえる。

もし国情不安の原因が、騒乱とは無縁のものー事故か災害なら対策は時間の問題だし、なれば夫人がいうように、早晩、渡航自粛は解かれるだろう。他に…在りうる非常事態といえば外国からの侵入?しかし、この小国を侵攻するメリットが誰のどこにある?資源もない、生産的な産業もないから、征服による利点が見当たらない。利ではなく信条に基づくー理屈抜きの宗教対立や政治的イデオロギー対立があれば、利害度外視の侵攻もありうるが、この国は宗教面でも穏健だったし、周辺諸国は自由主義国家ばかりで、政治的対立や摩擦も考えられない。宗教的テロリストが示威のための行動を起こす理由も見当たらない、しかも、すぐ隣に軍事大国が控えていて、一朝ことあらば、即、そこの精鋭軍がかけつけるような国を侵攻するのは、リスクが大きすぎる。小さな国を侵略征服するのは容易くとも、すぐ次のターンで、軍事・経済の底力は並々ならぬものを持つ同盟軍事大国と真っ向から事を構えねばならないとしたら…そんなリスクを冒してまで、この小国を制圧したいと思うものが、どこにいる?

逆にいえば…この国で、何らかの軍事行動が起きれば、動くのはこの国の政府ではない、隣の軍事大国だ。

そこで、オスカーは何か思いついたように急ぎ電話をとって、コールした。

隣国は、欧州諸国の中でも国費に占める軍事費の割合が際立って高いことで有名な軍事大国だった。つまり、兵器商にとっては優良顧客であり、この国軍で兵器が採用されれば、大きなシェアを獲得できるのみならず、自社の兵器は性能面でもトップレベルというお墨付きをもらうことにも通じ、他国での商売もやりやすくなるーつまりは兵器商が営業に最も力を入れている国であり、当然、アルテマツーレ社でも、常在の営業どころか、欧州でも有数の規模の支社の中でも最大規模のものがあるはずだった。

この国の営業所に見知った営業マンはいただろうか…と思考を巡らせつつ、オスカーはいざとなれば、野次馬根性溢れるバカな2代目を装ってでも情報を集めるつもりだったし、もし、この支店の営業が、まだ何もつかんでいなければ、またとない商機かもしれないと、営業を焚きつけてでもーあまり気乗りはしなかったがこの際背に腹は変えられないーかの国の情報を集めるつもりだった。

そして、電話をかけた営業所は、隣の小国の政情など、この時点では何も知らなかった。外務省のHPの更新が、もし、ほんの数時間前だとしたら…ここS国の政府は、目下、現王から救援要請を受けている、ちょうどただ中かもしれないし、今、この国の精鋭軍はちょうど出撃進軍準備中かもしれない、なら、まだ情報が伝わってなくとも無理はない。オスカーは隣国がただならぬ状況にあるらしいことを伝えつつ、隣国で政変や動乱が起きれば、即、この国の軍隊が動くはずだ、なれば、小火器類などの追加やメンテナンス用品の受注が見込める、商売のチャンスだということを示唆した。打てば響くという察しの良さで、支店側もすぐにそれは理解した。そこで、オスカーは

「もし政変の兆しがあるー政争の段階で、まだ、実際には戦端が開かれていないようなら『火種が小さいうちなら、消火活動も容易い、用心に越したことはない』という理屈を使って、軍部と連絡をとって、隣国の国情を調査するよう仕向けてくれ。その際、倉庫内の在庫は全て掛け売りで、速やかに出荷する、という確約をつけるといい。武器の調達に不安がなければ、国軍も思い切った作戦が展開できるだろう。その結果、非常事が判明してから商売に駆けつける他社を出し抜ける。現下、国軍が既に出撃準備中、もしくは、すでに出撃済みの場合でも同様だ。速やかに補給ラインを確保してその旨提言してみてくれ。アルテマツーレの補給ラインを使ってくれれば、国軍も武器弾薬の補給に頭を悩ませずに、迅速な作戦行動が可能になる、ひいては、自国軍の人的損害を減らし、戦費もトータルで節約できるはずだ、と売り込むといい。また一方、この非常事態が自然災害に因するものであった場合でも、国軍は救助に動くだろうから、その補給をアルテマツーレ一社のラインで担わせてもらえばいい。とにかく原因が何であれ、非常事態への対処は時間が勝負になるはずだ、そのためにも、正確な情報を集めてほしい。可能ならば隣国の領事であるリモージュ氏と連絡がとれないか、試してみてくれ。彼があの国の内情は最も詳しい。必要な物資ーそれが弾薬なのか食料なのか、それ以外の何かなのかも、最も的確に把握しているだろうから。アルテマツーレの名を出すだけでも彼は情報提供はしてくれようが、俺個人、オスカークラウゼウィッツが、かの国の国情を安定化のための物資面での全面的な協力を約束している、と、総領事のリモージュ氏に伝えてくれれば、話はより早いはずだ、迅速な対応のためにも、総領事のリモージュ氏の消息をなんとかつかんでくれ」

と、自分個人の要望を話の流れに紛れ込ませる形で、事細かに対処法を伝授し、通話を切った。

営業所に商機を煽ったことになってしまったが、アルテマツーレは慈善団体やNPOではない、身銭を切って欧州の小国を非常事態から救う義理も理由もない、ましてやオスカーは、現CEOの息子で株主の1人ではあるが、決定権のない一取締役に過ぎない。経営責任者ではないオスカーには、本来なら、営業所を自在に使う権限はないし、採算を度外視して、事業所を勝手に動かそうなどとすれば、名ばかりの取締役も解任される恐れもあった。そんな状況下でオスカーが営業所に動いてもらおうと思ったら、どら息子の威光をかさに着つつ、社に利益を提供できそうな情報と引き換えにーつまり恩を売って便宜を図ってもらうしかなかった。それに、オスカーは、かの国の政情を一刻も早く安定させるために、武器を潤沢に供給すること、つまりアルテマツーレが商売することを、決して悪辣とは思わない。抑止力として武器が使われ、結果としてかの国の国情が速やかに安定すれば、アンジェリークの父の身の安全も格段に高くなるし、この個人的な事情を抜きにしても、小国内部のこととはいえ、地続きの欧州で動乱や暴動など不穏な事態を歓迎する国はあるまい、どこにどう飛び火するか、もしくは、難民が流入するかわからないのだから、速やかな沈静化は、周辺諸国にとっても恩恵となろう。

後は、Mrsリモージュの帰国を待って、当事者ならではの情報をーただし、リモージュ氏は家族をとことん、汚い政争や情報戦から隔離しているようだったので、あまり期待はできないなと思いつつ、夫人の到着を待つ、否、空港まで迎えに行こうとアンジェリークに提言した。かの国近隣の空港からの到着便は決して多くはない、なので、空港で張っていれば、即座に夫人を確保できる。情報は、ポケットサイズのモバイルを持参しれば、空港ならどこでもアクセスできるから心配ない。何もできずに、この部屋で悶々しているよりは、ずっといいだろうと、アンジェリークに提言してみた。

不安で押しつぶされそうになっていたアンジェリークは一も二もなくオスカーに賛同してくれ、2人は、急ぎ身支度を始めた。

 

目星をつけていたフライトの3便目で、リモージュ夫人を確保できた。

リモージュ夫人の顔色はさえず、消耗した様子だったがー取る物もとりあえず出てきたという雰囲気でーそれでも母娘はとにかく再会を抱きあって喜んだ。が、すぐにアンジェリークが不安を隠しきれぬ真顔になって、母に直球で尋ねる、いったいあの国で何があったの?パパはどうしてるの?と。

夫人は顔を曇らせ、口ごもった。何をどこまで話せばいいのか、迷っているようだった。

確かに公共の場、公衆の面前でできる話は限られているし、自分やアンジェリークが聞きたいのは、毒にも薬にもならない世間話でないのは確実だったので、オスカーはとりあえず彼女たちに

「まずは俺の車まで行きましょう、それから、俺の家に向かってそこで話をお聞かせ願いたい、Mrsリモージュ、もし滞在先がお決まりでなければ…いえ、お決まりであったとしても、事が落ち着くまで、ぜひ、俺の家に滞在していただきたいので。お嬢…アンジェリークもその方が安心するでしょうし、ああ、もちろん君も一緒にだぜ、アンジェリーク」

と提言した

「え?先輩…オスカー、いいんですか?母も私もオスカーのお家でお世話になって…」

「当然だろう?高等部の寮は引き払ってしまっているし、大学寮への引っ越しも済んでない、今日ご両親の元に出立するつもりだったからな。でも、俺の家が市内にあるのにホテル暮らしするのは、ばかばかしいだろう?…俺も、Mrsリモージュから、詳しく話を聞かせていただきたいですし、おこがましいことですが、微力ですが、アルテマツーレがお力になれることも、あるかもしれません。今も隣接するS国の営業所とは逐次連絡をとっているので、程なく、リモージュ氏の現況も掴めると思いますし、速やかに情報をお伝えするためにも、我が家に滞在していただいた方がよかろうと考えます」

すると、夫人の張り詰めていた表情が僅かに緩んだ。

「ほんと、カティスの言う通り…あの人ね、きっと、あなたが力になってくれるだろう、だから、娘の元に行け、って私に言ったのよ…オスカー君、ありがとう。じゃあ、娘ともどもしばらくお世話になりますわね」

と、夫人は丁寧に頭を下げてくれ、アンジェリークがあわてたように、母に合わせてぴょこんとお辞儀した。その仕草が、オスカーの目には、大層愛らしく、微笑ましく写った。リモージュ氏の安否を一瞬だが、忘れる程に。

が、オスカー宅に身を寄せる事がきまって安堵したのか、張り詰めていた反動か、空港から自宅に向かう車中で、夫人は疲れ切った様子で終始無言だった。我が家に夫人を招きいれたオスカーは、とにかく夫人に座ってもらう。とりあえず夫人に落ち着いてもらおうと、オスカーは、コーヒーをいれるため、キッチンに立った。

すると、アンジェリークが小走りに付いてきて、また、一緒にカプチーノを作らせてほしいとオスカーにねだった。何か、手を動かしている方が落ち着くから、と言って。

オスカーは頷いた。無心で単純な手仕事にいそしむことには、ある種の鎮静効果があり、アンジェリークがそれを要しているのが、よくわかったからだった。

 

2人でいれた泡立てミルクと甘いシナモン風味の温かいカプチーノは、リモージュ夫人の心も温かく解いたようだった。

夫人の表情がほころんだ様子を見て、オスカーは改めて

「あの国でいったい何があったのか、お話いただけますか?」

と切り出した。

すると、夫人もあの国で何が起きているのか、よくわからないのだという、とにかく、昨夜、夜半すぎ、突然、爆発音及び雹が降るようなリズミカルな音が、市の中心部から間断なく聞こえ始め、度肝を抜かれた。すると夫であるリモージュ氏はひどく深刻な顔つきになり「あの方向は…王宮か?…いかんな、王宮が襲撃されたのだとしたら…いいかい、君、万が一、市街戦になったらこの地区はかなり危険だ、だから君は今すぐ空港に向かいなさい。程なく閉鎖される可能性もあるからね、可能な限り速やかにフライトを抑えーキャンセル待ちを片っ端からかけてでも、アンジェの処に行ってなさい」と言って、かなり、強硬に出国させられたのだという。

総領事であるリモージュ氏は、本国と情報をやり取りして指示を仰ぎ、在留人の所在をつかんで出国を促さねばならない、その執務に気がかりなく専念してもらうために、夫人は、おとなしくーいかに後ろ髪ひかれようとー帰国便に乗ったのだろうことは、オスカーには容易に想像がついた。それにしても…

「王宮が襲撃?いったい何者が…その目的は…政権転覆でしょうか…」

「ごめんなさい、私も何もわからないの、襲撃も…夫がそうじゃないかと言っていただけで確かめたわけではないので…何か、大規模な事故だったかもしれないし…」

オスカーは考え込む、確かに単なる爆発音なら、ガスや燃料施設での爆発事故ということもありうる、施設の種類や災害規模によっては、爆発により周辺に有害物質が撒き散らかされる恐れがあるとみなせば、リモージュ氏が領事の判断として入国規制を発する可能性もあろう。が、「雹が降るような音」というのはおそらく銃声だ。自動小銃などは、その威力に比すると、意外なほど軽快でリズミカルな発射音を発するものだ。そして発砲を伴うような事態で、事故の線は薄い。

が、これだけではテロかクーデターかもわからない…身代金目的の要人誘拐?にしては、派手すぎ、おおっぴらにすぎて、いかにも危険すぎる。王宮警備の衛士隊は飾り人形ではないはずだから…

でも、とにかく何らかの戦闘が起きたらしい、となれば、幸か不幸かアルテマツーレができることは、それこそ、山のようにあるはずだ。

誰が、何の目的で、というのは、この際、置いておいていい、それを調べるのは俺の仕事ではないし、極論すれば、俺にはどうでもいいことだ。俺が為すべきは、未来の義父たる男の安全確保であり、そのために為すべきことは自明、かつ、俺にはそのために揮える権限が多少なりともある。とにかく、王宮襲撃を阻止、もしくは速やかに鎮圧できるような手助けを。市街戦に拡大する前に火を消し止め、かの国の政情と治安を回復することだ。

オスカーは即座に、S国の支社に連絡を入れた。

曰く、隣国の王宮が何者かに襲撃されたらしいのはほぼ確実であること、ただし、その目的はテロかクーデターかも不明、が、なれば鎮圧のためにS国軍はすぐにも出撃もしくはすでに出撃済みだろうから、武器弾薬・燃料及び兵士の糧食補給の手筈をアルテマツーレのラインで整え、隣国の治安安定のためといって、破格の値での提供を持ちかけることー最終的に利益は原価に1%でも上乗せできればそれでいい、それで、もし、本社が何か言ってきたら、俺が責任をとる、とオスカーは言いきったー無論、はったりだ。とにかく、必要な物資は迅速かつ正確に提供するように、と命じる。そして、引き続き総領事であるリモージュ氏となんとか連絡をとり、安否を確かめてほしい旨を言い添え、電話を切った。

俺にできること、影響を与えられるのは、ここまでだ。後は、情勢の変化を、その情報を待つしかない…

アンジェリークに向き直ると、彼女は青ざめた顔ながら、しっかりとオスカーに頷いてみせた。くだくだしく説明せずとも、自分が下した指示の意味を理解してくれたのだと、オスカーにはわかった。彼女は、懸命に口を閉ざして、不安故の繰り言が口から漏れ出ないように懸命に自分を律しているようだった。青ざめた顔で小刻みに唇を震わせながら、それでも、うろたえたりしないよう、気をしっかりもとうとしているのがわかった。夫人の前だったがー前だったから、オスカーはアンジェリークの肩をしっかと抱きよせた。本当なら胸の内にしっかとかき抱いて、震えを止めてやりたかったが、肩を抱くにとどめた。

実際、アンジェリークは『落ち着いて、私、とにかく、落ち着いて』と呪文のように胸の内で繰り返し自分に言い聞かせていたのだが、オスカーの温もりは、何よりも効果的にアンジェリークを落ち着かせてくれた。父の安否が気がかりで、頭がどうにかなりそうだったけど、オスカーができる限りの手を打ってくれたのがわかっていたし、何より、自分1人では、それこそ、途方にくれるばかりだったろうことを思うと、オスカーには、いくら感謝しても感謝しきれないほどだった。外交官が任地で政情不安に巻き込まれ、心身に危険が及ぶ可能性はいつでもありうること、実際、内乱状態の国で射殺されてしまった外交官もいて、そういう一切を頭では、理性ではわかっていたつもりで、覚悟もしていたつもりだったけど、実際に、その場になってみたら、うろたえないように、パニックにならないよう自身を律するので精いっぱいだった。母を力付け、慰めたくても、その余裕がない、オスカーに肩を抱かれて、少しほっとしている自分にやましさすら覚えた。今、ママの傍にはパパがいないのに、私にはオスカーがいてくれて…ママ、ごめんなさい、という、理屈ではない申し訳なさだった。

でも、観念的にしか外交官の仕事を理解していなかった自分は、うろたえないようにするだけで精いっぱいだけど、母は、憔悴はしていても、自分程危うげには見えなかった。やはり覚悟のほどが、父と過ごした歳月の重みが違うのだろうし、自分は覚えていないけど、過去にも似たようなことはあったのかもしれない。母がしっかりしてると信じられるから、父も自分の職務に専心できるのだろう、安心して領事の務めを果たせるのだろうと、アンジェリークは思った。

パパは無事かしら…と、思わずにはいられない、でも、母の判断同様、父が最後の最後まで、出国しないだろうことはわかっていたから、口に出せば切なくなるだけの詮無い問いは発しずにいた。

とにかく、母は無事で、このオスカーの家に滞在させてもらっていれば安心だ、これが、どれほど幸運なことか。

しかも、オスカーができる限りのことをしてくれている、ならば、あと、自分にできるのは、おとなしく、待つことだけだ、どんなにもどかしくても、焦っても…。

でも、ああ、どうか、どうかパパが無事でありますように。

あの国の騒乱が1分でも早く収まり、父が無事でいてくれるなら…こういう立場に立って、アンジェリークは、アルテマツーレのように武器を供給する存在が必要な状況が確かに在ること、そし普通の学生、普通の女の子である自分のような存在が、武器の供給を熱烈に望んでしまうような状況もあるのだと思い知った。

アルテマツーレのような会社は絶対になくならない、人が決定的に種として変わらない限り武器もなくならない、ならば、せめてなるべく正しいと思われる使われ方をするように、オスカーが武器商の手綱を自身で握り、自分の目で行く先を見据えてしっかり制御し、決して暴走させないよう尽力したいと切望する気持ちが、この時ほど理解できたことはなかった。

そして、自分の肩を抱いてくれているオスカーを見上げて思った。オスカーも、きっと、社会に出たら…アルテマツーレの経営者になったら、危ないこともあるかもしれない、そんな時、私も母みたいに何があっても落ち着いていられるように、自分の心を鍛えよう、オスカーが自由に存分に動くためには、私自身が、しっかりと1人で自分の脚で立っていられる強さがなくちゃダメなんだ、今はこうして、慰められ、力づけられているばかりだけど…

父は窮地にあっても自身の務めをなす、それは、母が取り乱さず、落ち着いた覚悟を見せることで、父の後背を支え守っているからだ。それを悟り、両親の姿に、アンジェリークは、自身とオスカーの未来を重ね見た。そう考えることで、自身を落ち着かせようと意識した。

 

時間はじりじりと過ぎていった、S国の支社からの連絡は、全体的には良い報告であったが、個人としては、安心しきれない、そんなものだった。

オスカーが指示した通り、S国の軍部は、速やかなアルテマツーレの全面協力申し出を驚きつつーその人道的見地と情報の早さ、それに供給物資の良心的な価格設定の全てに大層満足し、補給の一切を任せてくれたという。アルテマツーレにしても薄利とはいえ、実際の軍事行動が始まる前に、他社に先んじて必要な物資の供給を一手に任されたことは、総合的に見て利益の大きいことだった。

供給物資を、オスカーの指示通り薄利多売に徹したことによりーそれこそ原価に1%利益を上乗せした程度の価格で提供したそうだー結果として、取引を独占できた。薄利多売とはいえ、1国の軍隊が動くとなれば、必要物資の総量は馬鹿にならないので、その取引を独占できたことで、かなりの売り上げが見込めそうだった。しかも、国情の政治的安定・治安維持のために、利益を(ほぼ)度外視して、必要な物資を供給したため、S国は軍事費が安上がりに済みそうだという実利を得られたのみならず、アルテマツーレが取引に際して明言した『欧州全般の治安維持・国情安定を願うので、利益は度外視して補給物資を提供する』という題目ー無論、オスカーの入れ知恵だーが、甚だ人道的・良心的な申し出であるとして、S国の高官・政府上層部にかなりの好印象・高評価を得たという。

「おかげで今後の入札で、他社よりかなり有利な地位につけそうです、戦乱特需となれば、需要という弱みにつけこんで、つい、ふっかけたくなるのが、私どもの商売ですが、人道的支援を謳ったおかげで、この業界では最も得にくい意味での信頼・信用を容易に得ることができました。1度信頼関係が築かれれば、次の商売が段違いにやりやすくなる、入札の情報などを、事前に流してもらえるようになったりしますからね。これも薄利多売に徹しろ、その際は人道支援を名目にしろと助言してくださった坊ちゃんのおかげです、流石は次期CEOと、目の付けどころ、先読みが並の経営者とは違う、とうちの支社でも坊ちゃんの評判は上上です」

と、支社長は興奮を抑えきれぬ声音でオスカーに報告してきたほどだ。

お世辞はいい、隣国の騒乱の様子は、わけても総領事と連絡はついたのか、と、問い詰めたい気持ちをぐっと自制して、オスカーは努めて冷静に、それで、隣国の騒乱はどんな様子か、沈静化したのか、そも総領事との連絡はとれたのかと問うてみるも、武器商は、武器を売った後のことまでは、関知しないのが常だ。支社の者によると隣国の政情の様子ははっきりしなかったが、総領事とは1度だけ連絡がついたと聞き出し、オスカーは安堵と懸念を同時に感じた。連絡のとれたことは喜ばしいが、1度だけというのは、どういうことだ?とオスカーが問いただすと、総領事の方から、アルテマツーレに連絡をとってきたのだという。総領事は、いきなり電話口で

「S国軍の出撃を速めてくれて感謝する。進軍が並々ならぬ手際の良さでね、よほど周到かつ潤沢な補給という安全網がないと、ああは、大胆かつ迅速に軍は動かせん、となれば、これはクラウゼウイッツの後とりの肝入りで、S国の補給は、君たちの会社が一手に担っているからだろう。その礼と言ってはなんだが、現地にいる領事からの情報ということで、S国軍に伝えてほしいのだが、王宮を襲撃・占拠しようとしている暴徒は10名足らずの少人数のようで、テロリストというほど組織だってもいないようだ、なので、圧倒的物量の差を見せつければ、制圧は容易いと。大公はこちらで無事保護してあるから、心おきなく軍事行動に精励してくれたまえと、伝えてほしい、ああ、後とり息子君の迅速なる処置に総領事はいたく感激しているともな」

と、一方的に言いたいことだけを言って、通話を絶ったという。それ以降連絡はないそうだ。

人を食ったような伝言は、リモージュ氏がいつもの諧謔精神を失っていない証左で、オスカーは、少々呆れつつも、少し安堵し、その旨、リモージュ夫人とアンジェリークに伝えた。まだまだ安心できる状況ではなかったが、S国軍が暴徒鎮圧に全面的突入するのは時間の問題に思えたし、何より、リモージュ氏から連絡があったことで、2人とも目に見えて安堵した。

そして、総領事からの正確かつ有効な情報と、アルテマツーレの迅速かつ的確な補給が功を奏して、かの国の王宮襲撃は、失敗に終わり、王宮は解放されたようだと支社から連絡がきたのはその3日後だった。ほぼ同時刻、交際通信各社も同時かつ一斉に欧州の小国の王宮がテロリストに1時占拠されかけたがS国軍の迅速な介入により、大公一家は事なきを得たこと、ただし、どうやらテロリストの主犯格は取り逃がしてしまい、襲撃目的は不明という報道を流した。

S国の精鋭が突入して、主犯に逃げられたという報道を、この時オスカーは、いささか不可解に感じた。その事情をオスカーが知るのは、暫く後のこととなる。

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