百神の王 35

太陽の馬車が西の神殿の門をくぐり、車止めに止まった。その瞬間、ラートリーの意識は、紙燭に火が灯るように瞬時に、完全に覚醒する。自ら望んでとか、意識してのことではない、夜の女神としての務めを果たす刻限となると、自動的にスイッチが入るようになっているのだ。

太陽が空にある間は、世界はスーリヤのものだ、が、日没から夜明けまでの時間は、自分、ラートリーが、この世界のすべてを見通し、管理せねばならないから。そして、その責任に見合うだけの能力と権限と、それに比例する自負と矜持をラートリーは持っていた。

だが、今朝、ウシャスから声をかけられた時、ラートリーは、自分に授けられたこの能力と責任を、生まれて初めて、恨めしく感じてしまった。

自分・ラートリーは夜間は万能・無敵だ、それを知っているから、ウシャスは、私を頼ってきたのだ。夜に上手く実体化できない自分を『助けてね』と。私に頼れば、自分1人では、上手くできなくなっている実体化も絶対できると考えたからだろう。そして、その、ウシャスの認識は正しい。実際、夜間の自分に、できないことはないのだから。ゆえに、ウシャスに頼られることは、ラートリーにとって、いつもなら、大層、誇らしく、喜ばしいことである。

しかし、今日に限っては、違う。この夕刻に目覚めた時、ラートリーは困りきっていた。

ウシャスが、自分に会いたいと願ってくれたこと、おしゃべりしたいといってくれたこと、それは、ラートリーには純粋に嬉しくてたまらないことだ。

でも…と、ラートリーは考え込む…彼女は、私が、彼女の実体化を阻んでいる張本人だとは知らないはず。同時に、夜の私が万能であることは自明…だから私を頼ってきた、そして、だからこそ、困ってしまう。

今夜、彼女が私に会いに来た時、話の流れで『これからも、私が上手く実体化できずにいることがあったら、その時は、助けてね』とウシャスからお願いされたら、私はなんて答えればいいの?ウシャスに「夜のラートリーにできないことはない」といわれて頷いてしまっているー実際、事実なのだから否定したら変だしー以上、再び「明日の夜も、実体化したい」とお願いされたら「できない」とはいえない。一度や二度なら、気配を見逃してしまったという言い訳もできるかもしれないけど、ずっと、それで通すのはいくらなんでも無理がある。あの子だって、変に思うに決まってる。そうしたら、私、あの子に言うの?いえるの?『スーリヤに会いにいかないなら、実体化を手伝うけど、スーリヤに会いにいくなら手伝わない』なんて。そしたら、絶対あの子「何故?」って尋ねてくるわ。その上、今まで、私が、あの子の実体化を邪魔していた事実も露見してしまうかもしれない、それが知れたとき、あの子が、どんな哀しそうな、がっかりした顔をするかと思うと…私、もう、どうしたらいいか、わからなくなってしまう…。

それでも、一方で、ラートリーは、ウシャスの訪いに備え、目覚めるや否や、いそいそと、甘い菓子やら、いい香のする茶やら、瑞々しい果実を用意するよう、神殿付きの巫女たちに命じていた。

ウシャスは、その身のほとんどが光の性でできている上に、日の出の度に新たな生を受けるので、生きるための食物は、神酒も含め、一切必要としない。しかし、実体化した際には、そう大した量ではないものの、嗜好品を純粋に楽しむことはできた。特に、彼女は、甘く汁気の多い果物や、その果物を使った菓子類を好んだ。

が、ラートリーが、ここ暫く、ウシャスの実体化を阻んでいた所為で、ウシャスは甘く美味な物を食するという、ささやかな楽しみも、奪われていたはずであった。それに気づいて、ラートリーは罪滅ぼしのように、ウシャスの好む食物を、ふんだんに用意しようと考えた。

無論、ウシャスは、甘い菓子を食べたくて実体化したがっていたわけではない、と、ラートリーはわかっている。それでも、彼女の好む菓子を用意して、彼女を喜ばせることで、多少は、自分のうしろめたさが減じる気がするのだ…あくまで「気がする」だけで、根本的な解決でないことは百も承知の上なのだが。

つまるところ、ラートリーは、ウシャスへの純粋なもてなし、というよりは、自分が『ウシャスの望みを妨害している』やましさを補償する行いとして、馳走を用意したいのだった。ために、あれもこれもと多種多様な甘いものを用意させたのだが、いくら取り揃えても、何か、物足りない気がしてしまい、気づいた時は、卓が軋んで唸るのではないかというほどに、卓上に菓子や果物が溢れかえっていた。ただウシャス1人のため、というには、非常識な量だった。

ならば、ウシャスに会いたがっていた高位神たちも、この場に呼んでやるのが親切というものだろうし、常のラートリーであれば、鷹揚に、それを許していただろう。が、ラートリーは、久方ぶりのウシャスの来訪を誰にも知らせていなかったし、今これからも、知らせる気はなかった。

それは、自分・ラートリーの苦労を知らない、もしくは、知ろうとしない、高位神たちへ、意趣返ししてやりたいという思いと、純粋に、ウシャスと二人で話したいという、二つの気持が、ラートリーにあったからだった。

とくに『ウシャスの顔を暫く見ていない、いつになったらあれに会えるようになるのか…実体化の干渉など無意味…一利もなかろうに…』と、あからさまに不平をもらすミトラ神は、ラートリーにとって、鬱陶しい以外の何物でもなかった。私の苦労も知らず、何、勝手なことを言っているのかと、本当に腹が立つ。私が、ウシャスの実体化を阻止していなければ、きっと、あの子は、スーリヤの許を足しげく訪れてしまうのに、そして、どんどん、二人の仲が親密になってしまったら、どうするのか…そういう危機意識もなく、ただ、自分の不満を垂れ流すミトラ神に、ラートリーは、いらいらさせられ通しだった。

かといって、表立っては、何も不服を漏らさないヴァルナ神に対しても、ラートリーは、別種の、だが同程度の苛立ちを覚えていた。彼の神とて自分の苦労を知らないという点では、ミトラ神と似たようなものに思えるから…というより、ラートリーには、ヴァルナ神は、嫌な役どころを自分一人に任せて、望ましい結果だけを享受しているように思えるからだった。

ヴァルナ神は『ウシャスに会えない』と不服を漏らさない、ラートリーが、ウシャスの実体化を阻んでいることを知っていて、それに賛同はしないが、あからさまに反対もしない…つまり、黙認している節があった。

ラートリー自身は、自分の「ウシャスを守らん」とする行いが、他方、ウシャスの意思を蔑ろにしていることでもあり、それは、光の眷属としては褒められない行いであると、ソーマ神に指摘されて初めて気づいたのだが…ソーマ神が気づいていたことに、あの、光の眷属としての理念・理想を守ることにやかましいヴァルナ神が気づいていない、などということがあろうか、と今になって思うのだ。

なのに、ヴァルナ神は、奇妙なほど沈黙を保ってきた、となると、多分、ヴァルナ神は、自分ラートリーの行いを、光の眷属の理念からは外れているが、そう大きな逸脱ではない、とみているか…さもなくば、必要悪とみなし、ために、私のウシャスへの邪魔立てを黙認してきたのではないかと、ラートリーは考えた。

つまり、恐らくは、ヴァルナ神も私と同様「ウシャスをスーリヤに必要以上に会わせたくはない、あのスーリヤが、ウシャスに近づきすぎるのを良しとしない」と、考えているのだろう。だが、自分からウシャスに、あからさまに「あまりスーリヤと親密になってはいけない」とは言えない。公的には、スーリヤはウシャスの夫なのだし、最高位の光の女神の振る舞いに干渉できる存在などいないから。

だから、光の眷属の理念に照らし合わせると、私のウシャスの実体化への干渉をあからさまに称揚はしない。けど、かといって非難もせず、ただ黙認してきた…改めて考えてみて、ラートリーには、そうとしか思えなかった。

そして、それはヴァルナ神が、ミトラ神よりは、スーリヤの存在に危機感を抱いているからに他ならないだろう。彼も、今上のスーリヤが、今までのスーリヤとは少々違う、而して、ウシャスとの関係性も異なってくる可能性がある、という処までは認識しているのだ。

だから、表立ってのことではないが、ウシャスの望みを蔑ろするという、光の眷属としては忌むべき行いをしている私を咎めだてしたり、止めようとはしないのだろう。

しかし、だからといって、ヴァルナ神は、自分・ラートリーの苦労や心の葛藤を理解しているとは到底思えない。

ウシャスの実体化を阻止して、二人の仲が親密にならないよう邪魔をするーいわばこの汚れ役は、確かに、ラートリー本人が、誰に命じられたわけでもなく、自ら、進んでやっていることだ。だが、己はなんら手を汚すことなくーウシャスに嫌われたり、悲しい目で見られたりする心配がない、という意味だーヴァルナ神は、自分の希望通り『ウシャスを守る』という目的をかなえている…つまり、良い所取りではないか、と。

ラートリーは思う、私は、ウシャスの望むところを邪魔して、あの子を哀しませる危険を犯してることに、こんなに悩んで…悩みながら、それでも『これはウシャスのためなのよ』と自分にいいきかせながらウシャスの邪魔をして、だから、あの子と言葉を交わすのも憂鬱になってしまって…と、こんなに色々苦しい思いもしてるのに、ヴァルナ神は、何も葛藤もないというのは、あまりに不公平・理不尽ではないかと。私の苦労に、おんぶに抱っこをしているだけではないかと思えてしまう。

しかも、自分・ラートリーが、ウシャスの実体化を阻んでいる限り、スーリヤとウシャスがまみえるのは、夜明けの儀式の極短時間、天空の道上でのみであり、ならば、大してウシャスとスーリヤとの仲が進展するはずがないと、ヴァルナ神は、高を括っている気配も見て取れる。実際、ウシャスとは天空の道上でしか会う機会がなかった既存のスーリヤたちは、ウシャスと親密になることはなかったからだ。

儀式での逢瀬はやむをえないし、極めて短時間であるから、今までの事例を考えれば、これなら、格別の心配はいらないだろうと、ヴァルナ神は、考えているようなのだ。

それが、また、ラートリーには腹立たしい。ヴァルナ神が安閑としていられるのは、私が汚れ役を一手に引き受けているからこそではないか、その上、この危機意識も、ラートリーから見れば、甚だ生ぬるい気がしてならない。あのスーリヤは、色々な意味で、規格外で油断がならないのだから…私自身、二神の夜の逢瀬を邪魔していれば万事大丈夫と言い切れるのか、危ぶむほどなのだから。

と、このような理由で、ラートリーは、ヴァルナ・ミトラの両神の態度が、どちらも気にいらない。

しかし、ラートリーと同じ危機意識を抱け、というのは、ヴァルナ・ミトラ両神には、少々酷なことだったかもしれない。彼らは、それこそ、ラートリーの干渉の所為でウシャスに暫く会えずにいたため、ウシャスの美貌に艶やかな変化が生じている様子を、直に目にしておらず、ゆえに、ウシャスの精神面が、進行形で劇的に変化していることにも、全く気づいていなかったのだから。

そういう意味では、ラートリーは、ウシャスの変化を、両神に見せ付ける方がよかったのかもしれない。

が、両神の態度の何もかもが業腹で仕方なかったラートリーは、結局、彼らには、意地でも、今宵はウシャスの実体化を許したことを、教えてなどやりたくない、と、結論付けてしまった。

同じように、ウシャスの息災を確かめたがっていたソーマ神のことも、ラートリーは、わざと、この場に呼ばなかった。第一、ソーマ神は、ウシャスの実体化を阻んでいるのは自分だとはっきり知っているー憶測ではなく、私自身が、それを認めてしまった…認めさせられてしまったーその事実を、何の気なしに、ウシャスに伝えないとは限らない。

ウシャスの実体化を阻んでる私と、阻まれてるウシャスを前にして「おや、今宵は特別待遇で、ウシャスの実体化を許したのかね?ラートリー。それとも、ウシャスの実体化への干渉は、もう、すっぱりと、やめたのかい?まあ、あまり、いつまでも、ウシャスの邪魔を続けていたら、周囲の神々のみならず、そのうち、ウシャス本人にも恨まれるようになりかねないだろうからなぁ」と、屈託なく笑いながら、さらっと、人の痛い所を突いてくるにきまってる。それでなくとも、ソーマ神は、私をこんなにも悩ましい葛藤に追い込んだ張本人だ、ウシャスの姿を拝む機会を与えてやるのも癪だった。

そして、万が一、もし、その場に、ヴァルナ・ミトラ両神でもいたら…さらに事態は最悪だ。

だって、実体化が上手くできないのは、私の干渉の所為だと、ウシャスがソーマ神の言から知ってしまって…結果、私への不審や不満を、もし僅かでも口にしたら…『酷いわ、ラートリー』なんて、あの子から言われたらと思うと、私、それだけで泣きたくなってしまうのに、その上、万が一、それを、あの両神とソーマ神とに、聞きとがめられたら…特にミトラ神は「それみたことか」と、鬼の首を取ったように得意になって、私を非難して、これからはウシャスの望みを決して妨げないよう、私に釘を刺すに決まってる。ヴァルナ神だって、ウシャスが「夜、自由に実体化したい」とはっきり口にしたら…その言を耳にしてしまえば、今後は、私の行いを黙認できなくなるだろう。「こうあるべき」光の眷属の理念を遵守することにかけては、ヴァルナ神は、どの神より厳格なのだから。

そうなれば…私1人が悪役になって、終り。今までの苦労が全部水泡に帰した上で。ウシャスに嫌われる危険を犯して、彼女を泣かせる可能性に怯えながら、スーリヤとの仲を進展させないという目的だけは達成していたのに、今後は、その目的も果たせなくなって、一人、私が悪者になって終ってしまう。そんなこと…絶対に、納得いかないわ!

だから、やっぱり、この場に誰も呼ぶわけにはいかない。

万が一、他の神から、ウシャスの耳に、私の行いが耳に入って「酷いわ」といわれたりするのは、どうあっても、耐えられない。

『でも、これも、元はといえば、全部、あの火の子がスーリヤになんて、なったからよ…ああ、本当に忌々しい、さっさと神力を燃え尽きさせて、退位してくれないかしら…』

今までは、火神の力の不安定さを「高位の神なのに困ったものだ」と思っていたのだから、我ながら手前勝手だとは思ったものの、それでも、ラートリーには、現スーリヤはどうにも目障りで、つい、天界の女神として、あるまじきことを考えてしまう。

と思ったものの、スーリヤの神力は、本当にまちまちで、あっという間に燃え尽きてしまうものもいれば、存外ながらえるものもいる。そして、あの火の子…現・スーリヤは、認めたくはないが、中々強い力を持っていることは、同じ天界神として、否応なくわかる。神の力の強弱というのは、容姿と同じく、一目みれば、自ずとわかるものだ。そして、あのスーリヤなら…下手をすると、今までのスーリヤの中でも、類を見ないほど長期の在位になるかもしれない、それでなくともウシャスに執心しているから、意地でも、長々と居座りそうだし…

となると…スーリヤの在位が長引くほど、ウシャスの邪魔をし続けるのは、やっぱり、難しくなってくる。しかも、ウシャスに知られないまま続けるというのは、流石に不可能ではないかしら…。

私だって、今朝みたいにお願いされたら、実体化を邪魔することはできないし、その内、あの子の実体化を邪魔しているのが、実は私だったと、他の神の口からー一番ありそうなのは、ソーマ神だーウシャスの耳に入りでもしたら…その結果「酷いわ、ウシャス、あなたが、私の邪魔をしてたなんて…しかも、困っていた私が『手伝ってね』ってあなたにお願いしたのに、その時も、そ知らぬふりをしてたなんて…」と、哀しそうに非難されでもしたら…それこそ、私の胸は、あの子への申し訳なさと、自分自身への情けなさで、張り裂けてしまうわ。

ああ…考えれば考えるほど、ずっと、隠しておくことなんて無理に思えてきたわ…

その上、他人の口から、私の行いが明るみにでて、あの子から責められるかもしれない恐れを考えたら…

それくらいなら、いっそ、私の口から、はっきり、言って、謝ってしまう?今まで、あなたの実体化を邪魔していたのは、私なの、でも、それには、ワケがあるの…って言って。

罪悪感から逃れたい、そして、ウシャスからの非難には耐えられないと思ったゆえの、苦し紛れの思いつきだったが、ラートリーは、改めてこの考えを吟味するほどに、これが、むしろ、最善の策ではないかと思えてきた。

今夜は、二人きりで会うことになっているし、あの子にだけなら、私だって、悪いことをしたって自分からいえるわ。

その上で、なんとか、わかってもらうのよ、私は、あなたの実体化を邪魔していたけど、それは、あなたに意地悪してたわけじゃなくて、スーリヤに会いに行かせたくなかっただけだって。

そして、あの子が「私、スーリヤ様の処に行くなんて、言ってないのに…」と言えば、それでよし。私の勇み足だったってことで、私は素直に謝って、もう、二度と、実体化の邪魔はしないと約束すればいい。でも、あの子が「なんでスーリヤさまに会いに行ったらいけないの?」って聞いてきたら、スーリヤと仲良くなることの危険をあの子になんとかわかってもらうのよ…

そうよ、あの子が、スーリヤのところになんて行く心配さえなければー安心できれば、私だって、あの子の実体化を阻む必要なんてなくなるんですもの、こんな風に、後ろめたく思うこともなくなって、あのこと、また、楽しい時間を過ごせるようになるわ。その上、ミトラ様の愚痴に悩まされることもなくなるし、ヴァルナ様を腹立たしく思うこともなくなるじゃないの。

やっぱり、自分から、打ち明けて謝ってしまおう。

他人の口から私の行いが露見するより、ずっといい。

その上で、私は、あの子に、スーリヤと仲良くなってはダメって諭して…スーリヤのところに行く気なんてないって、はっきり約束させるか、もし、それでも、スーリヤを訪ねたいなんて考えているようだったら、それを、翻意させればいいのよ。

せっかく二人きりで会って話せるのですもの、これは、むしろ、チャンスだと思えばいいのよ。

そう思ったら、先刻までの気鬱はどこへやら、ラートリーは、すっかり、気が楽になって、ウシャスの来訪が純粋に楽しみな気持になってきた。となると、あとの心配は、余計な差し出口だけだ。

なにせ、あの子の紅の光気は、すごく、目立つ…神々を惹きつけ、引きよせる力がある、当たり前よね、誰より美しく、一点の汚れもない、純粋な光の性の持ち主なんですもの、光の眷属なら、あの子に自然に惹かれてしまうもの…

だから、あの子が、今宵ここにくることは誰にも知らせてなくても、いつ、誰が、あの子の光気に気づかれないとは限らないーそうよ、あの子の気配を察して、それこそ、ヴァルナ・ミトラの両神が、呼ばれてもいないのに私の神殿までやってくる可能性は高い。

そして、私と同格の神の訪問を、私には断れないし…もし、断ったら、ウシャスも変に思うだろうし…

となれば、他の神々に、かぎつけられる前に…なんだかんだと、口を挟まれる前に、とにかく、ウシャスの気持を確認して、万が一、スーリヤに会いたいなんて思っているようなら、何が何でも、そんな気をなくさせるのよ、いいわね、ラートリー。

ラートリーが、自分に言い聞かせるように、硬く決意した、その時だった

金色に発光する無数の光の粒が、中空の一点に寄り集まり始めたかと思うと、見る間にそれは凝縮し、一瞬、鮮やかな紅の閃光を迸らせた後、そこには、艶やかな乙女が佇んでいた。乙女は、夢見るように、ゆっくりと瞳を開き、ラートリーを認めると、嬉しそうに微笑み、優雅に脚を引いて一礼した。

「ごきげんよう、ラートリー」

「ごきげんよう、ウシャス」

ラートリーは、あわてて、つられたように、それでも、流石に優雅な礼をかえした。

本来、こんなにも容易にできる実体化を、今までは、何故上手くできなかったのだろうと、ウシャスが訝しがったり、怪しんでいたりしないか…そんなことを考えていたので、自分から、進んで彼女を出迎えることができなかった。

加えて、ラートリーは、ウシャスの美貌に気をとられたというのもあった。

明け方も思ったが、月の光の下で見ても、やはり、ウシャスは、明らかに、以前より、更に美しくなっている。透明感のある肌はクリームのように滑らかで、頬は夜明けの雲の色のような薔薇色に染まり、唇は濡れて艶めき、いよいよ紅い。佇んでいるだけで、艶やかな香気が匂いたつようだ。

元々美しいウシャスが一層美しさを増すことは、ラートリーにとっても、嬉しく誇らしいことだ、なのに、ラートリーは一方で、自分の姉妹神が、どんどん自分の知らない存在、知らない場所に向かっているような気がして、妙な気詰まりと息苦しさを覚えてしまい、そんな自分を訝しく思う。と、その瞬間、ラートリーの身体は、しなやかな腕に、ふんわりと優しく抱きすくめられた。

「よかった、ラートリーが、今、私と目を合わせてくれて…」

「ウシャス、あなた…」

ラートリーは、そう、言われて初めて気づいた。ここ暫く、自分が、ウシャスをあからさまに避けていたことで、自分が、どれほど、ウシャスに心配をかけていたかを。

『そうだわ、それで、ウシャスは、珍しく、強情なほどに、私に会いにきたいと、言い張ったのね、きっと…』

そう思うと、今朝のウシャスの態度に得心がいくと同時に、ウシャスへの申し訳なさは、更に増した。それでも、ラートリーは、今、ここで謝罪の言葉は言えない。ごめんなさいと言ってしまえば「目を合わせなかった」ことを、事実だと認めてしまうことになるし、そうすれば、その理由を説明せねばならなくなる…が、それは、じっくりと腰をすえて語り、釈明したい。あわてて、言い訳のように話すことは、いい結果にならない気がする。

「何を言ってるの、あなたは…さ、こちらにおいでなさい、あなたの好きなものを、色々用意していおいたのよ」

だから、ラートリーは、今は、そのことには、あえて何も触れずに、すぐ傍の卓にウシャスを導いた。一刻も早く本題に入って今までのことを説明したい気持と、罪滅ぼしのように、ウシャスをべたべたに甘やかして、目一杯もてなしたい気持とに、天秤が揺れた。が、それは、ほんの一瞬で、すぐさま、ラートリーの天秤は明らかに片方に傾いてしまった。いきなり、いい難い話題を出すより、飲み物と菓子で、和みながらのほうが話もしやすいかも…と。

促されるまま、卓をみたウシャスは、驚きに目を丸くしていた。

「まぁ…果物がこんなにたくさん、お菓子もいっぱい…これ、私のために?ラートリー」

「もちろんよ」

だって、甘い物をつまむのも久しぶりでしょう、と言いかけて、ラートリーは口を噤む。自ら、痛い処をさらすことはない…だから、一言

「さ、たんと召し上がれ」

とだけ言った。

ウシャスが、素直にいちごを一粒手にとってーもちろん、へたは取ってあるー口に運んだ。

「…っくん…すごく甘くて瑞々しい…とても美味しいわ、ラートリー」

「そう、よかったわ」

「ええ、だって、苺に限らず、食べること自体が、すごく久しぶりなんですもの。それは、私には、本来、食事は必要ないものだけど…やっぱり、甘くて美味しいものを食べられるのは、嬉しいわ」

「そ、そう…なら、他にも色々、おあがりなさいな」

あなたの言葉次第では、また、いつ、あなたを実体化させてあげられるか、私、自分でもわからないのですもの…だから、今夜のうちに一杯おあがりなさいね…これが、ラートリーの本当の台詞だが、いえたのは、その最後の部分だけだった。

が、そう考えてから、ラートリーは、ウシャスを見守りつつ、こうも、思い返す。

いいえ、弱気はだめよ、なんとか、今夜中に、これからは、実体化しても、スーリヤのところには行かないって、この子に約束させればいい、言質さえ取れれば、明日だって、明後日だって、好きなだけ、この子をもてなしてやれるんだって、私自身が、そう強く思わなくちゃ…と。

が、ウシャスは、苺を一つだけ食すと、改まった様子でラートリーに向き直った。

「ありがとう、でも、今夜はたまたま、久方ぶりになってしまったけど…そんなに間をおかず、身体をもてるのなら、今、あわてて、いちどきにいただくこともないかな、って思うし…今は、お菓子をいただくより、あなたとお話したいのよ、ラートリー」

「…」

いつもふんわりとした印象のウシャスにしては毅然とした口調に、ラートリーは、一瞬、のまれた。それは、どういう意味?と尋ね返したいのに、ラートリーは言葉が上手く出てこない。

ウシャス、あなた、何を言い出すつもり?もしかして、今、私に、更なる助力を請いたいの?今夜みたいに、明日も明後日も、これから毎晩、実体化を手伝ってね?って?でも、もし、本当にそう頼まれたら…私、なんて答えればいいの?

…だめよ、わたくしったら、何を弱気になってるの?今、むしろチャンスじゃないの、話のきっかけを、この子が作ってくれたって思いなさいな、ラートリー。

「ウシャス、あのね、あなたの実体化が、久しぶりだったのは、実は…」

「ええ、ラートリー、私、そのことを、あなたとお話したくて…あなたに、お願いがあって、来たの。ラートリー、私、オスカーに…スーリヤ様に会いに行きたいの、今すぐじゃなくていい、雨季に入ってからでいいの、でも、どうしてもスーリヤ様に会いに行きたいの、夜に…私をスーリヤ様の元に行かせて…」

今度こそ、ラートリーは間違いなく絶句した。

何故、いきなり、こんなことを言いだすの、この子は?この子は知ってた?私が、実体化の邪魔をしているって?しかも、その目的も?どうして?

こういう場合、沈黙は、何より雄弁に「その事柄に心当たりがある」と語ってしまうことになる、そうわかっているのに、ラートリーは「何のことだか、わからない」と如才なく誤魔化すこともできなかった。いきなり核心を突かれてーしかも、よりによってウシャス本人にーラートリーは動揺の余り、心の内をそのまま言葉にしてしまっていた。

「ウシャス…あなた、なんで、そんなこと、言い出すの?…まさか、あなた…あなたの実体化を邪魔しているのが私だって、知っていたの…?しかも、その理由も?…その上で…何もかもわかった上で、今朝も私に頼んできたの?夜の実体化を手伝ってって…」

「ラートリー…私は『オスカーに会いに行きたい』って言っただけ…なのに…」

「!!!」

「ラートリー、あなた、今、自分で、はっきり、おっしゃった…私の実体化を邪魔してたのは、あなた自身だって…」

「ウシャス…あなた…私を…」

「…そうかも、とは思っていたわ。けど、100%の確証はなかったから…ただ、干渉が誰からのものでも、ラートリーの力添えがあれば、無効化できると思って、お願いした、というのあったの…でも、やっぱり、ラートリー、あなた自身の干渉ゆえだったのね…私が、ここ暫く、身体を持てずにいたのは。あなたの口から、今、はっきり聞けてよかったわ…」

「…ウシャス、まさか、あなたが、こんな…」

ラートリーは、混乱していた。ウシャスが、言葉での駆け引きをして、人の本音を引き出すなんて…人にかまをかけるなんて、そんなこと、思いもよらなかった。傍から見れば、ウシャスの言葉は、単純で他愛無い、駆け引きといえないほどの、かわいらしいものだったし、その意図もすぐ看破される程度のものだ、だが、ウシャスが、どんな形であれ、言葉での駆け引きを、まさか自分に仕掛けるなんて、ラートリーには想像の埒外だったのだ、だからこそ、こんなにもあっさり内実を露呈してしまったし、そんなことをしてきたウシャスがどうにも信じられなかった。

この時のラートリーには、自分がウシャスの実体化を阻んでいた事実を、ウシャスがどう感じたかを想像する余裕は一切なく、自身は『一方的に嵌められた』というような被害者意識に苛まれてさえいた。つい今しがた、真実を確信したウシャスも『本当に、ラートリーは、私に黙って、私に干渉し続けていたのね…』と傷ついた可能性を、全く想像できていなかった。

動揺甚だしいラートリーに比して、それでも、ウシャスは、あくまで静かなたたずまいを崩さない。ウシャスには、今までのラートリーの行いを責める気はないからだ。ラートリーは、自分に強く激しい愛情を抱いてくれており、今までの邪魔立ても、ラートリーなりに、自分を思ってくれてのことなのだ、オスカーの言う通り…それが、ウシャスには、ひしひしとわかっていたから。

でも、だからといって、これからもずっとラートリーの邪魔立てを甘受することは、できない。それは、理のない行いであるし、何より、こんな干渉を私は望んでいない、そこに、私の幸せはない、それをラートリーにわかってもらいたい、大事なのは、これからのことで、今までのことじゃない…ウシャスの心にあるのは、それだけだった。

「ねぇ、ラートリー、あなたが、どうして、あんなにオスカーを…スーリヤ様を疎ましく思うのか、私にはわからない。スーリヤ様は天則で定められた私の夫で、私に触れることを許された唯一の存在…だからこそ、オスカーは、懸命な努力の末、スーリヤ様になってくださったのに…オスカーはきちんと天則に則って、私と近しくなる権利を自らの手で、自らの力で勝ち得てくださった…どこまでも正々堂々とよ…なのに、何故、あなたが、私を、あの方に会いにいかせてくれないのか…私にはわからない…けど、その理由が何であれ、私は、もっと、自由にオスカーに会いたい、私自身が、オスカーに会いに行きたいの。天空の道での逢瀬はあまりに短くて、話せることはあまりに少なくて…だから、お願いよ、ラートリー、私をオスカーに自由に会いにいかせて…」

「…あなた、何故、聞かないの?尋ねないの?私があなたの実体化を邪魔していたわけを…」

ウシャスは静かに目を伏せ、ゆっくりと頭を振る。

「どんな理由があるにせよ、それを聞いても…多分、私の気持は変わらないと思うからよ、ラートリー。あなたには、多分、私のことを思って、そうしたという理由があるのでしょう、あなたは、いつも、私を心から大事に、大切にしてくれたし…私もあなたが大好きよ、ラートリー。でも、同じように…いえ、それ以上に、私はオスカーが好き、私に会いたいがために、大変な苦労をして、必死の思いでスーリヤ様になってくれて…本当に私に会いに来てくれたオスカーが好きなの。オスカーと、もっと、深く強く、心をつなげたいの。それに、あなたが、私の実体化を邪魔していることで、あなた、ここ暫く、私と言葉も交わさないし、目もあわせなくなってしまった…そんなの、もう、いやなの、私を思ってしてくれていることで、私たちが、ぎくしゃくするのなんておかしいと思うし、嫌なの。だから、お願いよ、ラートリー、私たちが、元通りの姉妹神になれるようという願いもこめて…もう、私への干渉をやめて?夜の私を自由にして…私を自由にオスカーに会いにいかせて…」

「なによ…なんで、そんなことを言うの!?私と、今までどおりの姉妹でいたいなら、ウシャス、あなたが、そんなことを望まないで、スーリヤと会うことを諦めればいいだけじゃないの!そうしさえすれば、私たち、すぐに、今までどおりに戻れるわ!」

「ラートリー…」

「そうよ、あなたが、スーリヤの処に行きたいなんて思わなければ、私だって、あなたに干渉なんてしない!あなたの望みを邪魔するなんて…私だって、そんなこと、したくないのよ、だから、ウシャス、あなたが、もう、おやめなさい、スーリヤなんかと、心を通わせたって何にもならないのよ、今までは、そんなこと望まなかったのに…望んだことなどなかったのに、どうして?スーリヤとは儀礼上・儀式上の夫婦でしかなくとも、あなただって、それを、なんとも思っていなかったじゃないの!なのに、今になって、どうして!?」

「オスカーは違う、今までのスーリヤ様とは違うの。今までのスーリヤ様は私のことを知ろうとなさらなかった…私に話しかけようとしてくれたスーリヤ様なんて1人もいらっしゃらなかった…だから、私も、スーリヤ様と心を通わせることなんて…そんなことができるなんて思いもよらなかった…でも、オスカーは違うの、オスカーは…私と、心を重ね、思いを通わせたいと思ってくれた…私がウシャスだからじゃない、オスカーは、そんなことは関係なく…私をウシャスと知らなかった時から、オスカーは、私のことを大切に思い、心から優しくしてくれた……人と心を通わせあう喜びを、思いと思いが響きあう喜びを、オスカーは、初めて、私に教えてくれたの。オスカーと一緒にいる時間は、楽しくて、幸せで…だから、私も、もっとオスカーの傍にいたいの、オスカーと一緒にいたいの…」

「だって、どんなに親しくなっても、スーリヤは長くて数百年で、この天界を去るわ、その時、スーリヤと親しくなってしまった分だけ、あなたが悲しい、寂しい思いをして泣くことになるのよ、そんなのを見たくないのよ、私は!」

「ああ…やっぱり、ラートリーは優しい…大好きよ、ラートリー」

「ウシャス…」

「ありがとう、ラートリー、私が、遠い将来、哀しみにくれることを心配してくれて…でも、私は、今、オスカーに自由に会いにいけないことが、もう、哀しく寂しいの。それに、ラートリーが、心配しているのは、オスカーのスーリヤ様としての任期が、私たち、生粋の天界神に比べたら、短いってこと、それだけでしょう?でも、スーリヤ様の神力が、他の天界神みたいに安定していれば…ラートリーもそんな心配をしなくて済むでしょう?」

「だって、現実に、歴代のスーリヤたちは、皆、長くて数百年で、天界を去っていったわ、それは、私たちには、ほんの僅かな歳月よ!」

「大丈夫、オスカーは、歴代のスーリヤが短命だった訳も察しがついてるって言っていたわ。だから、私が、そう望む限り、ずっと、スーリヤ様でいてくださるって…そう約束できるって…」

「何ですって?!あのスーリヤ、言うにことかいて、そんな、でまかせを…ウソよ、ウソに決まってるわ!あなたを、自分の思いのままにしたいから、そんなウソを言ってるだけよ!………ちょっとまって…あなた、スーリヤと、いつ、そんなことまで話したの?私が、夜には、絶対、あなたに身体を持たせないようにしてたのに…あなたには、スーリヤと語り合う時間なんて、なかったはずよ!」

「もちろん、天空の道上で、心で…念話でよ。念話なら一瞬で考えを伝えられるから、僅かな時間でも、私たち、色々な事をお話できたの…それに、ラートリーも知ってるでしょう?念話では、思念をある程度抑えることはできても、発した思念では、ウソはつけないことを…偽りで覆った思念は、すぐに、それとわかってしまうから…それは、とても恥ずかしいことだって、もしかしたら、オスカーは、知らないかもしれない…そういえば、私、一度も、そんなこと、教えてさしあげてない…なのに、オスカーはいつも、清清しく、真っ直ぐな心だけを、私に届けてくれたわ…オスカーは一度も偽りの思念など発したことはないわ」

「!…まさか…あのスーリヤ…もう、そこまで念話を自在に操るっていうの!?天界神でもないくせに!」

「ラートリー、スーリヤ様は、並ぶ者なき天界神のお一人よ、念話を操ることに、何の不思議がありましょう、でも、私もオスカーから話しかけられるまで、思いもよらなかったの、スーリヤ様も念話を使えるって…考えてみたら、当たり前のことなのに…スーリヤ様は火の眷属の出自とはいえ、天界神の中の天界神なんですもの…今まで、どうして、どなたも気づかなかったのかしらと思うほどよ…」

「だって、何も教えてないんですもの!知らないはずよ!地上に生を受ける火の子は、元々は、念話を使わない、使えないはずなのに!だから…あえて、こちらから何も言わなければ…自分が念話を使えるなんて思いつくスーリヤはいない…実際、今まで、念話を試みたスーリヤなんて居なかったのに…あの、スーリヤは、確かに私に心で呼びかけてきたけど、思念は四方にとっちらかって、全方位に大声でがなりたててるようなもので、とても、念話なんていえたシロモノじゃなかったから…見くびって…油断していたわ…そんなにすぐに、念話を自在に使いこせるようになるなんて…しかも、ウシャス、あんたにだけ聞こえるように、指向性も上手く操作できていたなんて…なんて、なんて抜け目ない…あの火の子…忌々しい…ぬかったわ…まさか、ウシャスと自在に心で会話してたなんて…夜に会わせさえしなければ安心だと思っていたのに…」

「やめて、ラートリー、どうして、そんなにオスカーをあしざまに言うの?オスカーは、誰にも教えられなくても、念話を使ってみようって、自分で気付いて、試みて、どんどん上手になって…それは、賞賛されるべき事じゃないの…だから、私、オスカーと一杯、おしゃべりできたの、オスカーに色々なことを教えてもらえたの、でも、それでも、今は、もう、足りないの、もっと、オスカーと一緒にいたい、少しでも長く一緒の時間を過ごしたいのよ」

「…全く、まさか、こんなことになっていようとは…」

その時、艶めいた、低く響く声音が、ラートリーとウシャス、二人の思考に、同時に割り入ってきた。

「ヴァルナ神!」

「ヴァルナ様…ミトラさま…」

ラートリーは睨みつけるような青紫の瞳で、ウシャスは驚きに見開かれた翠緑の瞳で、思念を感じた方に向き直った。

豪奢な金の髪と、誰もがたじろぐような威圧感の持ち主である天界神が、厳しい面持ちで、そこに佇んでいた。

その隣に佇む艶やかな黒髪の契約神は、静謐な、だが、どこか熱に浮かされたような面持ちで、二人の姉妹神のうち、明らかに片方の女神を注視していた。

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