百神の王 36

久方ぶりに、透き通る紅の光気が凝りゆく気配を感じた時、ヴァルナ神は、これは、自分の抑圧された願望ゆえの錯覚ではないかと、己を怪しんだ。

ウシャスとまみえ、言葉を交わす機会を、一方的にラートリーに奪われていることに、ヴァルナ神は、ミトラ神のように、あからさまな不平を述べたことはなかった。

自身が少々寂しく物足りない、という感情だけで、ヴァルナは他を批判したり、窘めたりはしない。ヴァルナ神の行動原理は、それが天則に則っているか、否か、それに尽きる。

しかも、夜の世界の支配及び守護は、ラートリーに一任されており、天則の守護者といえども、蒼穹神ーつまり、基本的には昼間の世界の神であるヴァルナには、明らかな違法・脱法がない限り、夜間のラートリーの行いに介入はできない。

そして、ラートリーの『ウシャスの実体化への介入』という行為は、天則に照らし合わせても、推奨されるものではないが、かといって、糾弾する根拠もない、という、甚だ曖昧な対応しかできない行いだった。

ラートリーは主観としては「ウシャスをあらゆる害悪から遠ざけ守るために、彼女の夜間の実体化を阻んでいる」と言い張っている。その主義・主張自体には、何ら問題はない、むしろ、立派な行いだ。

害悪=明らかに現スーリヤを指しているらしいことは、問題といえば問題だが、スーリヤの『ウシャスの夫としての権利』を天空の道上に限ると解釈するなら、ラートリーがスーリヤの権利を侵害しているとまではいいきれない。

それより、問題は、ウシャスの意思の如何が不明なことであった。

ウシャスが、自ら明確に実体化を望んでいるのに、それを阻んでいるのなら、ラートリーの行いは越権であり、公権乱用である、日没から夜明けまでの時間、確かにラートリーは絶対的支配者ではあるが、同格の女神ウシャスの希望を阻む権利までは、ない。が、ウシャスは実体化の意思を対外的に表明していた訳ではないし、ウシャスが実際に実体化を試みているのに、それを阻止されているかどうかは、外からはわからない…少なくとも、ヴァルナには知る術がない。而して、ヴァルナ神には、現在までのところ、ラートリーを窘める根拠がなかった。

ヴァルナ神は、個人的には、ラートリーの振る舞いは、些か先走りすぎ、専横に過ぎるとは感じていたものの、明らかに天則に背いている、と言い切ることもできないので、静観・黙認するしかなかった。

その点、自らの感情のままに、毎夜、ラートリーに愚痴も苦言も呈するミトラ神のとらわれのなさが、ヴァルナにはうらやましくもあった。

ミトラ神は、個人的な不平・不満のみならず、実体化の阻止という行いの有用性に関しても、疑問を呈していた。

「ウシャスが、夜に身体を持とうと試みたからといって、それがスーリヤの元への訪いが目的と決め付ける根拠は何処にある?我らの元を訪れたいと考えているやもしれぬではないか。よしんば、スーリヤへの訪いがあれの目的だったとしても…ラートリーよ、おまえに、あれの望みを邪魔立てする権利はあるのか?あるとしたら、何を根拠にしての権利か?」

と、ラートリーを問い質しているのを耳にしたのは一度や二度ではすまない。

が、その度にラートリーは

「あの子を守らんとする行いの何がいけませんの!?」

とミトラに食ってかかっていた。

「そう言い張るのは、おまえの勝手だがな…ならば、せめて、あれの意思を一度でも確認したのか?そなたの妨害工作が、ウシャスの意に反したものではないと証明するためにも、一度は我らの前でウシャスを実体化をさせ、あれの意思を確かめるのが、理というものであろうよ」

という甚だ尤もなミトラ神の理屈も

「私には、あの子の考えることなんてお見通しですの、だって、私はあの子の唯一の姉妹神ですもの、わざわざ確認する必要なんて、まったくございませんことよ」

という、まさに、女性ならでは理屈で封殺された。

ために、ウシャス本人の意思は誰にも確認できなくなっていた。これは、つまりラートリーは、情報を遮り、他に与えない、と宣言したも同じである。そして、情報の遮断とは、えてして、知られては困る、都合の悪い情報を隠したい場合に取られる手段でもある、自分たち天界神が、一人、火の眷属を出自とするスーリヤには、故意に、様々な情報を与えてこなかったように…。

それを思うと、ラートリーの振る舞いは、甚だ怪しいし、危うくも見える。

が、女性の意思は何をもっても第一に尊重する光の眷族の本性として、これ以上、ラートリーに苦言を呈すのは、誰にも不可能であった。ミトラ神は、よく、あそこまでラートリーに食い下がったものだと、ヴァルナ神は、むしろ感心していた程だ。

そして、このラートリーの頑なな態度を見るに、ウシャスの真意はどこにあれ、彼女がそれを表明する機会が与えられることは、当分の間、無いものと思わざるを得なかった。そう、ラートリーは宣言どおり、現・スーリヤが退任するまでーそれが数百年に及ぼうともー意地でもウシャスの実体化を許さないのだろうと、近頃、ヴァルナ神は、嘆息しつつ、諦めの境地になんとか己をたどり着かせようとしていた。

だから、今夜、透き通る紅の光気の気配を感じた時ー間違えるはずもない、ウシャスの気だったーヴァルナ神は、驚き、喜ぶよりも、まず、己の知覚を疑った。

が、己と対をなす契約神ミトラの表情に、驚愕、そして、信じられないというような表情、次いで、隠しきれない期待の感情が現れたことを見て取って初めて、ヴァルナ神は、この気配は、自分が強い願望を抱く余りの錯覚ではないのだと、確信がもてた。

二柱の神は、どちらともなく顔を見合わせ、無言で頷きあうと、同時に、同じ場所をー夜の女神の神殿をー頭に思い描いて、そこに己が身を転移させた。

どんな気まぐれか、心替わりかは知らぬが、ラートリーが依怙地な態度を改めたらしい、今、この時を逃せば、ウシャスの真意を確かめることは出来ぬ、そう思うと、ヴァルナは、転移に要する僅かな間にも、どうにも気が急いてならなかった。ミトラ神からも、同様に急いた感情が発せられていたが、彼は純粋に、次は、いつ、またウシャスに会えぬかわからぬという危機感に苛まれているからだろう。

そして彼らは、ラートリーの神殿に姿を現すや、意中の女神の姿を見出し、同時に、麗しい二人の姉妹神が、強い口調で何事か言い争っているらしいという、未曾有の場面に行き合わせた。二神の歩みが、同時に止まった。

この姉妹神が、言い争いをするなど信じられない、そんなことはあったためしがないし、起きるはずがない…二神は、呆然自失で、暫しの間、女神たちにそれ以上近づくことも、声を掛けることもできずにいた…が、その僅かな間が、二神に、これは言い争いではないことを、知らしめた。

声を荒げ、激昂しているのは一人、夜の女神のみであり、暁紅の女神は、あくまで静かな口調と落ち着いた態度で、切々と懇願するように、一方で粘り強さと辛抱強さを滲ませて、ラートリーに己の意を訴えていたからだ。

そして、この「ウシャスが己が意を姉妹神に訴える」様は、ある意味、ヴァルナに、二人の女神が言い争っているという誤解と同じ程か、もしくは、それ以上の衝撃を与えた。

というのも、天地開闢以来の永劫にも近い歳月、暁紅の女神は、いつでも、その存在は頼りないほど繊細で、見るからに柔らかで優しく、触れるのが恐いような危うさを湛えており…たとえ、天則に許されていたとしても、ヴァルナ神は、この繊細に過ぎて壊れそうな女神にこの手で触れてみたいなどと、恐ろしくて、とても思えないし、考えたこともなかった。

そして、ウシャスは、見た目の印象通り、その性向も極めて優しく、ふんわりと柔らかな笑みをいつも絶やさず…言い換えると、ほとんどの年月、己の意思を明確に見せることは、皆無だった。いつも、ただ、ひたすらに優しく微笑み、どんな生き物も分け隔てなく慈しみ…俗にいう犯罪者にすらウシャスの愛は平等に注がれるため、地上の民たちの間では「咎人には目覚めを与えないでほしい」とウシャスに願う祭祀さえ存在した…すべての生き物に健やかな目覚めを与えることに、ありったけの思いを注いでいた。天則に定められし勤めを一心に果たす純粋な…あまりに純粋な存在、それがウシャスだった。大切なものは、常に己の外にあり…彼女の本質は『利他』であり、『我(が)』というものを滅多にみせない、己を感じさせない、それがウシャスという女神だった。

だからこそ、ごく稀に、彼女が「○○したい」と訴えた時はーそれも、あくまで極控えめな態度で、その望みもささやかに過ぎるものが大半だったーヴァルナ神は、ほぼ、二つ返事で承諾し、彼女の望みを叶えてやったものだ。最近では…そう、現スーリヤが、まだ学徒の折に、ウシャスが自らの耳飾りを褒賞として彼の者に下賜したい、と申し出た時ことがあった…その時は、ウシャスの装飾品は、学徒にはあまりに過ぎる栄誉だと、渋面を見せはしたものの、結局、ヴァルナは、ウシャスの願いを呑み、彼女から預かった耳飾を、当時はまだ海の者とも山の者ともつかぬ訓練生だったあの火の子に送り届けたのだった。その時…ウシャスが太陽神候補を気にかけること自体、珍しいと思ったが、私が異を唱えても、ウシャスが珍しく退かず、諦めず…いつも通りの控えめな態度と口調ではあったものの、反対されてもなお、ウシャスが、自らの望みを強く訴える、というのは本当に稀有のことで…だから、ヴァルナは、内心「特別扱いは感心できぬが」と思いつつも、ウシャスが、それ程強く望むことであれば…と、彼女の願いを汲んだことを、思い出していた。

が、その時に比しても…今、己の目に映るウシャスは…本当に、私が知っているウシャスなのか?とヴァルナは、思わず、目を瞬いてしまう。

彼女はこんなにも強くはっきりとした輪郭を持つ存在だったか?空中に半ば溶けいくような、茫洋として曖昧な光の輪郭をようよう保っているのが、いつもの彼女ではなかったか?

そして、こんなにも、強く煌めくように輝く瞳を彼女は持っていただろうか?こんなにも強い意志の力を、その瞳に宿していたことなど、見たことがあったか?

また、柔らかで優しげな口調と声はそのままに…金の鈴を掌上でまろく転がすような愛らしい声音は、確かに耳に懐かしく慕わしい彼女のもので…でも、こんなにも凛とした態度で、真っ直ぐに相手を見据え、何かを伝えよう、わかってもらおうと彼女が主張していた場面など、見たことがあったか?

一方で、彼女からは、頑なさとか、口調や態度の硬さなど、硬直した雰囲気は一切感じられない。

久方ぶりに見るウシャスは、相も変わらず優しげでたおやかで、清楚で可憐なたたずまいは以前と変わってはおらず…なのに、今までのウシャスとは、何か、全く、決定的に印象が違ってみえ、そんなウシャスを見ていると、ヴァルナ神は、なにやら妙に落ち着かない気分になる…

そう思った時、ヴァルナ神は、漸く、気づいた。

柔らかそうな金の巻き髪も、クリームの肌にばら色の頬も、濡れたように艶めく唇も…今までのヴァルナが見知らぬつややかさ、あでやかさで、今の彼女からは、そこはかとない色香が感じ取れることを。

これは、本当にウシャスか?いや、姿形は、確かにウシャスそのものだが、私の知るウシャスとは思えぬ…あのふんわりと儚げで、いといけな童女のようにあどけなく…触れること躊躇うような危うさ、脆さをも感じさせる…風にもあてぬよう、ひたすらに守ってやらねば、と思わせる女神とは、とても思えぬ。

しかし、どんなに心の中を探っても、この見慣れぬウシャスに、ヴァルナは嫌悪の念は見出せない。

むしろ…片時も目が離せない、強くひきつけられる…無論、ウシャスは、いつだって美しかった、今も、その可憐な美貌は夜の神殿で輝くばかりだ。が、今のように、凛々しく、毅然とした雰囲気のウシャスをヴァルナは見たことがなかった。同時に、ウシャスは、こんなにも艶やかで、匂い立つような色香を滲ませていたことがあっただろうか…いや、今までの彼女の印象は、あどけない童女のようで、いつも極めて愛らしかったが、そこに艶を感じたことは、少なくともヴァルナにはなかった。

が、今のウシャスは…優しさの中に、凛とした揺るがないものを感じさせ、可憐な美貌の中には、はっとするような艶を滲ませている。柔らかな風情と凛々しさが、そして、かわいらしさと艶やかさが、絶妙な配合で、混交しているとでもいうのか。

会うたびに、ウシャスを美しいと思っていた。が、今ほどウシャスを美しいと思ったことは、なかった。

だが、今夜に限り、何故、ウシャスの印象が、こうも違うのか…ウシャスに会えずにいた間に、彼女に何が起きたのか、何が、ウシャスの印象を、ここまで変えたのか…それとも、久方ぶりに見る彼女の美しさに、私は、幻惑されているだけなのか?彼女の美しさは、今までと変わりなく…可憐さに艶やかさが加味されて、彼女の美しさに、より磨きがかかったように感じているのは、私だけか?

思わず、並び立つ契約神の横顔を見やる、と、彼の神も、瞳に明らかな賛嘆と驚きの色を浮かべて、暁紅の女神を食い入るように見つめていた。

二柱の男神が、魅入られたように、ウシャスを見つめていた時間は、決して、長いものではなかったと思う。

そのウシャスを見つめていた僅かな時間に、図らずも耳に入ってきた女神たちの会話から、多くのことが、否応なくわかった。

とくにウシャスの言葉は、明晰で、切実な訴えは、極めてシンプルなものだった。

そこで、ヴァルナ神は得心したのだった。

ラートリーの振る舞いは、ウシャスの意に反した専横であったこと。

同時に、ウシャスの印象が驚くほど変化していた理由に「もしや…」と、ある程度の憶測がついた。が、次の瞬間「まさか…信じられん」と、自身の憶測を疑う声が生じ、考えはようとして定まらない。

が、とにかく、今は、まず、この言い争いをやめさせ…事態の整理と収拾を図らねば…激昂しているラートリーを鎮め、彼女に、まずは己の非を認めさせる、後のことはそれからだ。そう自身に言い聞かせ、意識して思考を切り替えて、ヴァルナは、姉妹神たちの思念に割って入っていったのだった。

《まったく、こんなことになっていようとは…》

色々な意味合いが込められた慨嘆だった。思いもよらなかったウシャスの変貌も、麗しき姉妹神の言い争いも…こんなものを目の当たりにすることがあろうとは、信じられぬという気持からでた言葉だった。

それゆえか、発した思念は苦々しい響きを伴っており、ヴァルナ神は、その苦さに、自身も一瞬、驚いた。

二姉妹神が、自分たちの方を振り向いたのは、ほぼ、同時だった。

 

ヴァルナ神は、毅然とした態度でー調停者としてー二姉妹の話しに割って入った。

「ラートリーよ、今、耳に挟んだところによると、そなたの干渉を、ウシャスは望まないと明言していたようだが…」

そうだ、私の苦々しい思いは、その所為だ、とヴァルナ神は思おうとした。

ラートリーは『ウシャスの意を確かめる必要はない』と、我らに大見得を切っておきながら、実際は、新スーリヤ就任以来、ウシャスの意思、望みを蔑ろにし、故意に妨害してきたことになる、光の女神にあるまじき、恥ずべき行いと言える。

「ウシャスの意思が明らかである以上、ラートリー、そなたの干渉に、最早、理はない。即刻、ウシャスへの干渉をこれ以上はせぬと、この場で誓約をたてるがよかろう。さすれば…今この時までは、ウシャスの意をしかと確認できていなかったことを考慮し、これまでの干渉に関しては不問に処そう」

ヴァルナ神は、ラートリーの誓約を口約束にさせないために、ここは、ミトラ神の手で正式に契約をさせるがよかろうと考え、ミトラ神に目を向けた。ミトラ神の手を経た約定は、重い。ミトラ神は天則の体現ともいえる存在であり、ミトラ神を通して交わした契約を破ることは、すなわち、天則に背くことと同義となる。場合によっては、どんな高位神であれ、神職位を剥奪され、ただ人におとされる危険をも孕む。

が、黒髪の契約神は、ヴァルナ神の言葉を聞いていたのか、いなかったのか「ふむ…」と瞳を伏せて、何か深く考え込む素振りをみせていた。

ミトラ神が、黙りこくったままなので、ヴァルナ神は、小さく咳払いをして、気を取り直し、まっすぐにラートリーを見つめた。ヴァルナ神は、すぐさま、ラートリー女神が恐縮して、今までの独断専行を恥じ入って、詫びるものと思っていたゆえだった。

が、次の瞬間、ヴァルナ神は己が耳を疑った。

「お言葉ですが、ヴァルナ様、これは、私とウシャスの間のこと、余計な差し出口はご遠慮願いますわ」

「何だと?そなた…今、なんと申した?!」

「おわかりになりませんの?これは、私とウシャスの問題、口出し無用、と申しているのですわ!」

「そなたは…ウシャスの意を蔑ろにし、光の眷属として、恥ずべき振る舞いを長きに渡って続けていたことを、なんと思っているのか!ラートリーよ、以前より、そなたの行いは、些か出すぎ、とは感じていたが、天則に背いているとまではいえぬと思い、黙認していたが、それが、まずかったようだな…光の高位神に相応しからぬ振る舞いを恥じ入るどころか、自分だけは何をしても許されると思うほど、おごり昂ぶっていたとは…」

「私は、その光の眷属の名誉と誇りにかけて、この子の自由を阻んできたのです!それは、もちろん、この子の自由を阻むなど、普通なら、許されることではないことなど承知してますわ。けれど、それを上回る大儀があれば、小事に構いつける必要はなくなるというもの、そして…私、今、確信してましたのよ、私は、むしろ、これでも甘かった…いえ、甘かったと歯噛みしたからこそ、これからも、ええ、これから…あのスーリヤ在任中は、決して、夜にウシャスに身体を持たせませんことよ!」

「ラートリー!これだけ…これだけお願いしても、わかってくださらないの?」

「だからこそよ、ウシャス…あなたが、スーリヤに会いたいと強く願うほど、私は、純真無垢で疑うことを知らぬあなたを、たぶらかし、のぼせあがらせたスーリヤを苦々しく思うわ…」

「そんな…そんな哀しいことを言わないで、ラートリー…だけど、何を言われても、私がオスカーを好きな気持は変わらないし、変えられない…オスカーにあわせてもらえないなら…私の心は哀しみにうずもれてしまうわ……」

「スーリヤはあくまで、あなたの儀礼上の夫でしかないのよ、天空の道で、乾季には毎朝のように顔をあわせることができるのだから、それで満足すべきなのよ。これ以上…あなたが、深みに填まらないうちに…ここまでで、なんとか食い止めないと!今なら…まだ、会えなくて悲しい、寂しい、それだけで済ませられるはずなのよ!これ以上、あなたと、あのスーリヤの仲が深まることだけは…あなたが、今、泣いても、私は絶対に阻止するわ!」

「どういうことだ?ラートリーよ…そなたが、光の者としては恥ずべき行いと知りつつも、ウシャスの望みを阻むのは、これ以上、ウシャスとスーリヤとの仲を深めないため…と申しているようだが…それは、どういう意味か…」

「おわかりになりませんの?文字通りの意味ですわ!あのスーリヤは、恥知らずにも、このウシャスを愛していると公言して憚りませんのよ!しかも、力の定まらない火の眷属のくせに、この子を、生涯、愛し続けるなどと、できもしない甘言を垂れ流して、この子をたぶらかして…今までのスーリヤには、この子から懐くなんてことはなかったから…この子が自分からスーリヤを訪れようとしたことなどなかったから、スーリヤがどんな大言壮語を吐こうが、ただの身の程知らずと聞き流せましたわ。けど、今のスーリヤは、全く油断のならないくわせものですのよ!この子は限りなく純真無垢で、疑うということを知りませんわ。この善意のみでできているようなこの子が…夜間に、あのスーリヤの許を無邪気に訪れたりしたら…どんな無体なことをされるか、知れたものではありませんことよ!絶対に、許すことあいなりません!」

ラートリーの言葉に、ヴァルナ神は絶句した。

では、スーリヤは、触れれば壊れそうに危うい存在の女神と…ちょっとしたきっかけで、その身は即、光の粒子に還ってしまうような、か弱く、脆いこのウシャスと、真の意味で「夫婦の契り」を交わすつもりなのか、あのスーリヤは…本気でそんなことが可能だと…そんな大それたことを本気で考えているというのか?

「信じられん、そんなことが可能だと、本気で信じているなどと…正気とは思えぬ…」

その時、それまで沈黙を保っていたミトラ神が、静かに顔をあげ、静かな口調で、ラートリーに話しかけた。

「それは…つまり、あのスーリヤは、ウシャスを我が物にしたいと…ウシャスと契り、名実共にウシャスを妻にしたいと、そう、明言しているということか?」

「火の眷属は、皆、そうですわ!名目上ウシャスの夫と称されているだけなのに、身の程知らずも甚だしい!」

「ラートリー、おまえがどう思うかではない。スーリヤは、己が意を明らかにしているのか、そして、それを、ウシャスは、知っているのか?知っていて、スーリヤの許を訪れようとしていたのか?どうなのだ?ウシャスよ。おまえは…スーリヤの意思を…彼奴の望みを知っていたか?…その意味するところは、わかっているのか?」

「はい、ミトラさま…明確に、とは言いかねますが、おおよその所は…わかっているつもりです。オスカー…スーリヤ様が教えてくださいましたから。色々なことを…本当に、色々なことを…」

「…ふむ…おまえは、スーリヤから、何を教えられた?」

「心と心を重ねあう喜び、そして、思いを伝え、応えてもらう…思いを響き合わせる喜びを、です」

「ほう?おまえは、スーリヤと心を重ね、思いを伝え合っていたというのか?どのような思いを重ねてきたのか…私に説明してはくれぬか?」

「はい、ミトラ様。オス…スーリヤ様は、夜明けの儀式の折々に、念話を用いて、私と、色々なおしゃべりをしてくださいました。天空の道にある僅かな時間に、可能な限り、それは、もう、様々なことを…。スーリヤ様がその御名をいただくまでの鍛錬の過程や、今、スーリヤ様を支えてらっしゃるサヴィトリ様とプーシャン様との出会い、友人、そして友情とは、どんなものか…その何もかもが私には珍しく、興味深いことばかりでした。スーリヤ様は、私の知らないこと、知りえない事を、それはたくさんご存知でらして…私が興味を示したことは、なんでも、わかりやすく丁寧に教えてくださいました。そして、私は替わりに、天界のことを…私が知る限りのことをオス…スーリヤ様に、お伝えいたしました。スーリヤ様は、私に優しく色々なことを教えてくださり、私は私で、スーリヤ様のお力になれることがあって、私は、それが嬉しくてたまりませんでした。どちらが導くでも、導かれるでもなく…一方的に守るだけでも、守られるだけでもない…相身互いに、手を差し伸べあい、支えあい、尊重しあう…同じ目線で、互いを必要とし、同時に必要とされる…こんな喜びを、私は今まで知りませんでした、オス…現スーリヤ様が初めて教えてくださったのです…」

「そうか…そういう類の係わり合いは…確かに、おまえには、初めてのことだったろうな…おまえは掛け替えのない女神だから…人々からは崇められ、神々からは守られる…常に一方的に…確かにな…」

「私は、スーリヤ様と言葉を交わせることが、楽しくて、うれしくて、仕方ありませんでした、すると、スーリヤ様も、私に会え、言葉を交わせることは無上の喜びであると言ってくださり…そして、それは、私のことを好きだから、と…私に恋し、私を愛しているからだ、とおっしゃいました。私は、最初その『恋』という言葉の意味がわかりませんでした。私は他の多くのことと同じく『恋』を知りませんでしたから…ただ、私にも『好き』な気持はわかります。私はラートリーのことも、お優しいヴァルナ様、ミトラ様のことも好きですから…でも『恋』とは、もっと激しい感情で……好きだけど、でも、ただ、好きと思うに留まらず、会えて嬉しいのに寂しい、抱きしめていて、なお、もっと触れたいとも思うような…欲張りで身勝手ともいえる、制御の効かない感情を伴う『好き』な気持を『恋』というのだと…スーリヤ様は、私に、そのような感情を抱いていると…『私に恋している』とおっしゃいました。そして、愛しているからこそ、僅かな時間しか言葉を交わせず、瞬きする間しか触れ合えぬことが、寂しくもあると…恋する者とはなるべく長い時間、できる限り近しくありたいと願うもので、それは、特別に思う一人だけに抱く強い感情なのだということも、教わりました。そのお言葉を聞いて、私は…私も、胸が熱く高鳴る自分に気づいたのです、そして、私も…そんな自分の心を見つめてみて…私が今胸に感じる思いは、スーリヤ様と全く同じだと…私も、また、スーリヤ様に恋していることに…気づいたのです…ほんの…ほんのつい最近のことです…」

ウシャスは、ほんのりと頬を染め、はにかみ恥らう風情を見せながらも、その瞳は眩しいほどにきらめき、生き生きとして、誇らしげでもあり…彼女の気持が弾むように高揚していることが、傍目からでも、よくわかった。

ミトラ神は目を眩しそうに眇めた。

「そうか…おまえは生まれて初めて『恋』を知った、その相手が現スーリヤだったと…そう言うのだな…」

「はい…」

かみ締めるように呟いたミトラ神に、恥らいながらも嬉しそうに、そして力強くウシャスは頷いた。そんなウシャスを見つめ、ミトラ神も頷き返し、少しだけ寂し気に微笑んだ

「ふむ…だが、その気持の赴くまま、夜にスーリヤの許を訪うつもりでいたのなら…確かに、ラートリーの懸念も尤もなことに思える。そなたは…恋情に逸る男が、どれほど危険な存在になるか、それは、知らぬであろう?」

「オス…スーリヤ様が、危険なんて…そんなこと、ありえません、スーリヤ様ほど、優しく、誠実な方はいらっしゃいません」

「おまえを脅したくはないが…何も知らぬ乙女からすると、恐ろしく、厭わしいと思うような真似を…恋に逸る男は、欲するものだ」

「それは…恋しい相手とは…より近しく触れ合いたいと…隙間ないほど抱きしめあって、結ばれたいと願う…その事をおっしゃっているのですか?」

「おまえ…男女の情の理を知っているのか?それも、スーリヤの教えか?」

「はい、恋する相手を欲する気持…それは、身も心も一つに結ばれたいと思う気持で、男と女は、望めば、一つに結ばれうるのだということ、スーリヤ様は、教えてくださいました。スーリヤ様が、そのように私を欲しているという思いの丈と一緒に…それを聞いて、私は…浅慮にも、私をスーリヤ様に差し上げれば、スーリヤ様は喜んでくださるかと…具体的に何をどうすればよいのか、よくわからないままに、そのように申し出たのですが…」

「!!!…ウシャス!あなた!なんて…なんて浅薄なことを!そんな狼の口の中に自ら飛び込むような真似を!」

「ええ、本当に、私は考えなしだったの、ラートリー。でも、スーリヤ様は…男女が結ばれる時は、互いに互いを欲した上でなければいけないと…相手を欲する想いは一方的な物であってはならず、愛し合う者同士が、互いに心から求め合った末、互いに与え合う…そうあるべきだと…スーリヤ様は、そう望んでおられました。だから、私自身がスーリヤ様を欲する気持を感じるまでは…私をもらうわけにはいかないと、スーリヤ様はおっしゃいました。それで、私も考えてみて…そして、スーリヤ様ともっと近しくなりたいと願っている自分に気づきました、だから…私は…自ら、望んで、スーリヤ様の許を訪れたかったのです」

「そうか…すべて承知の上…覚悟してのことか…」

「覚悟?覚悟って何のことです?」

「…簡単にいうと、おまえは、スーリヤが恐ろしくはないのか?ということだ。男女が結ばれるとは、どういうことか、はっきりとはわかっていないと、おまえ自身が言っていた、なのに、スーリヤの許を訪なえば、おまえは、その、よく、わからないことをスーリヤからされるかもしれないのだぞ、それが恐くは無いのか?以前のおまえはスーリヤに…今までのスーリヤには、怯えているように感じていたが…」

「はい、確かに、今までのスーリヤ様のことは、少し、恐いと思う時がありました。皆様、すごい目で睨むように、私を見つめていらっしゃるので…でも、オス…現スーリヤ様は、この上なくお優しい方です、スーリヤ様が、私が怯えるようなことをなさるなんて、絶対にありませんもの。それに…今、すぐでなくていいのです、雨季に…女神としての勤めに支障のない時分に、私は、スーリヤ様の許を訪れようと思い、でも、先の雨季の時は、それが果たせなかったから…次の雨季には、干渉を止めてもらいたくて…それをお願いしたくて、私は今夜ラートリーの元に参ったのです」

「そうか…おまえは…承知の上で…それでも寸分の恐れも厭気もなく…スーリヤの許を訪れるつもりだったと…そう言うのだな?」

「その…正直、よく、わからない処もあるのですが…オス…スーリヤ様は、丁寧に教えてくださったのですが、それでも、想像しきれない処もあるのですが…でも、スーリヤ様は、私が恐ろしく感じるような事は、絶対になさいません、そう、言い切れます。それに、私自身、今、スーリヤ様に抱きしめられ、口づけられると…心が喜びに震えるのです…ですから…スーリヤ様の許を訪れて、恐ろしく厭わしい思いをするなどありえません、オス…スーリヤ様は、心から信じられる、誠実な…清廉なお方です。私に向けてくださる念話も、いつも一点の曇りなく、清しく、まっすぐで…」

「くっくっく…まさに…まさに、こんなことになっていようとは、だな、ヴァルナよ」

「ミトラ…そなた、なにがいいたい…」

「あのスーリヤ…型破りだとは思っていたが…まさか、ウシャスに恋を知らしめていようとはな…ラートリーよ、私は、前々から、干渉など無駄なことだといっていたであろう?そんなことは早々に辞めてしまえと…それでも、ここまでは、想像していなかったがな…そなたたちは、二人とも、あのスーリヤを見くびっていたのだ。スーリヤの決意の程も、ウシャスへの思いの強さ、深さもな…まったく夜の実体化だけ制限したとて、何の意味があったというのか。それくらいなら、早々にウシャスを自由にさせてやっていた方が、これも喜び、我らだとて、これに会える機会も増し、と、良い事尽くめであったろうに…しかも、恐らく、今まで以上に美しく、見たこともないほど艶やかで、生き生きとして幸せそうなウシャスに、もっと早くから、会えていたであろうにな…」

「ミトラさま…」

「ミトラ…そなたは一体、何が言いたいのだ!」

「ヴァルナよ、気づかんか?このウシャスの輝かんばかりの美しさに…今まで、見たこともないほど、溌剌として生気溢れ、同時に、匂い立つような艶やかさを湛えている様子に…」

「む…」

「ラートリーよ、そなたは気づいていたのではないか、ウシャスがより美しくなったのは、あのスーリヤが就任してから顕著なことだと…」

「そ、それは…」

「ウシャスよ、そなたは、自分ではわからなかっただろうが…女性は、恋をすると、それはそれは美しくなるものらしい。おまえのそのいや増しに増すばかりの美しさは、確かに、恋をしているからであろうよ、お前が言うとおりににな」

「はい、ミトラさま、私、恋をしています、はっきりわかったんです、私、オスカーに…スーリヤ様に恋しているんだって…」

「そうか。特におまえは、光の性が誰よりも強い…いわば、純粋な精神体に近いから、心のありようが、誰よりも如実に、そのまま外観に現れる。おまえに艶やかな美しさが増したのは、まさに、初めて恋を知り染めたからであろう…それにしても、そなたが、恋を知る日がこようとはな…長生きはするものだ。この長き年月、我らが誰一人として、そなたに知らしめようとも…知らしめる事ができるとも思っていなかったものを、あのスーリヤは、おまえに教えたのだな…」

「ミトラさま…」

「私には、おまえが、曇りなき笑顔でいること、幸せでいることが、何よりの大事だ…なにせ、お前は、心情がそのまま容姿に現れるからな、私は、いつも美しいおまえを見ていたい。して、そのスーリヤは、おまえを幸せにしてくれそうか?」

「今の私にとって、一番の幸せは、オスカーと…スーリヤ様と一緒に過ごすことです、ミトラさま。そして、オスカーは、私が、そう望む限り、スーリヤ様でいてくださると…そうできると、約束してくださいました」

「ほう、それはまた、大きくでたものだな、今まで天界には、どうにも手の打ちようがなかった…あちらを立てればこちらが立たずで…スーリヤの在位の問題を解決できると、大見得を切ったか、あのスーリヤは、くっくっ…それは面白い…全く飽きない男だな、あのスーリヤは…」

「笑い事ではないぞ!そのような世迷言を真にうけるか、ミトラよ」

「世迷言と決めつけるのも一方的にすぎると、私は思うがな。要は、ウシャスの望む通りを、あのスーリヤが叶えると明言している以上、それを彼奴が真実、実現させられるか、どうかだ…」

「何の確証も保証もないことを鵜呑みにはできん!万が一、あのスーリヤの在任が、他のスーリヤと同様だったら、どうするのか?!」

「そ、そうですわ、ミトラさま、何故、あなたは、あのスーリヤの肩をお持ちになるんですの?」

「私は彼奴の肩などもってはいない。私の大事、肝要は、これの幸せ、美貌、輝かんばかりの笑顔が、そのままに保たれるかどうか、それだけだ。そして、現時点では、スーリヤの存在は、これの美しさを、より輝かせており、ラートリー、そなたの振る舞いは、明らかに、これの笑顔を損なっている、だから、それは、もう、やめておけ、そう言っているだけだ…」

「…なにをバカなことを、ミトラさまのおっしゃりようは、目先の事ばかりじゃございませんの!今、この子の好きにさせたら、確かに、この子は、今しばらくは、幸せかもしれません、でも、将来、この何倍も哀しむかもしれませんのよ!なのに、そんな場当たりな対応で…今、この子が憂い顔にならないなら、それでいいと、そんないい加減なことを、おっしゃるんですの?ミトラさまは!聞き捨てなりませんわ!」

「ウシャスよ、おまえのスーリヤは、今さえよければ、それでいい…そんな風に考えているようか?」

「おまえのスーリヤ…って、それ、私のスーリヤ様…私のオスカー…」

「どうした?おまえとスーリヤは好きあっているのだろう?そんな風に呼び合いはしないのか?」

「そういう…ものなのですか?でも…なんだか…そんな風に言っていただけると、胸が熱く、苦しく感じます、ミトラさま…」

「ほぅ…あのスーリヤ、本当に、中々に辛抱強いようだな…単に臆病なだけでないことを祈るが…とにかく、おまえに対し、居丈高な我が物顔は、全く、しておらぬようだな…」

「と、とんでもございません、ミトラさま、オスカーは…スーリヤ様は、いつも、とてもお優しくて、何も知らない私に、辛抱強く…ああ、本当に丁寧に、愛し合うとはどういう感情か教えてくださいました。決して、押し付けたりはせず、私が気持を見定めるまで…優しく見守り、待ってくださいました…私は、本当に、何も知らなかったので…」

「ふむ…そんな処も、確かに、今までのスーリヤとはかなり毛色が違うな…」

「だから…なんだというのだ」

「そのスーリヤだが…元来、彼奴の物と天則で定められているウシャスに対し、これの意思をここまで尊重しようとしたスーリヤなど、有史以来初めてではないか?」

「確かに、それは、そうだが…」

「その者が…そんなにも慎重な者が、これの望む限りスーリヤとしての勤めを果たすと、断言している以上、あながち、ただの場当たりな虚言とも思えぬがな…あのスーリヤには、何某かの勝算があるのではないか?」

「そんな、あやふやな物に、これの命運を託すのか?これが泣く事になるかも、しれぬのにか?!」

「多分、これは、それでも後悔はせぬと思うがな、どうだ?ウシャスよ」

「はい、私は、私自身が望み、その結果をきちんと受け止める気でおります、オス…スーリヤ様が教えてくれました、恋には…恋する故に苦しさや、寂しさを感じる時もあるし、身勝手な感情が芽生えることもあると。それでも、恋は素晴らしいもので、私に恋をして、幸せだとスーリヤ様はおっしゃってくださいました。私も、同じです。この想いを突き詰めた結果の苦しさなら、それも、また、恋のもたらす果実・収穫だと思えるのです、そして、それは、スーリヤ様と二人で得るものであればこそ、より、輝かしいものになると…」

「あの、赤子のようだったおまえが、言うようになったな…」

「私、赤ん坊みたいでした…?そう…そうですね、ミトラさまのおっしゃる通りかも…私、本当に、何も知らずに…いえ、知ろうとせずに、生きてきたのだと…ただ、与えられるままを当たり前のように享受し、為すべきと命ぜられたことをそのまま為し…自ら考えたり、動いたりはしていなかったと…スーリヤ様を知ってから…その思いは強くなるばかりです…」

「そうか…ここまで来たなら…そこまでの考えがあるのなら、私も見てみたいものだ、おまえが、真実の恋の…その深みを知って、どこまで美しくなるか…私では…私たちでは、できなかった…連れていけると考えもしなかった、その場所にたどり着いた時、おまえが、どのように変わるのか…」

「…なにを…ミトラよ!何を無責任なことを言っているのか!そなたは!」

それまで、ミトラ神の意図を図りかね、黙って二人のやりとりを聞いていたヴァルナ神が、大喝した。

戻り   次へ   パラレルINDEXへ   TOPへ