Princesa blanca〜白の皇女〜 1

キルヴァス王ネサラは、獅子王カイネギスが治めるガリアの領空を一人飛んでいた。

漆黒の翼が目指すはガリア王城。だが、ネサラの目的は獅子王その人ではなく、王が後見を努め保護しているサギの王族…更に言えばその姫にあった。

懐にはセリノスの森で見つけた果実を少々忍ばせてある。姫に見せてやりたくてだ。

『まったく…あの死の森が、よくぞ息を吹き返してくれた…』

ネサラは、セリノスの森が人間達に焼き払われ死の森と化していたこの20年の間、一度ならず、森を訪れていた。

何故かと問われれたら、曰く言いがたい。無残な森の姿を目に焼きつけることで、ニンゲンたちへの怒り憎しみを忘れまじとするためなのか、万が一にもサギの生き残りはいないか、森を蘇らせる手立てはないかと、どうにも諦めきれぬ思いに押されてのものなのか…それら様々な感情がない交ぜになってネサラを突き動かし、ネサラは、この20年、生き物の気配とて何一つないその森に、しばしば翼を向けずにはいられなかった。色を失っていた森の中を迷わず飛べるのも、リュシオンに当時の森の悲惨な状況を詳細に伝えられたのも、ネサラがそれだけ頻繁に森を訪れ、森の内実を熟知していたからだった。

その一度は死に絶えたセリノスの森が、サギ王族の再生の呪歌により、緑をよみがえらせたのは、つい、この前のことだ。

そして、ネサラは、森が色を取り戻した今も、時間をみつけてはセリノスの森に翼を運んでいた。

再生し命の息吹を取り戻しつつある森の様子をつぶさに見て回ることが純粋に嬉しく、また、いまだ、その森に帰れずにいるサギの姫に森の様子を伝えてやりたいと思うからだった。

本来サギの民はセリノスの森を守り、平和に穏やかに暮らす種族だ。樹木を友とするサギの兄王子・妹姫も、本当なら、今すぐにも故郷に還り、森の更なる再生を手助けしながら森で暮らしていきたいだろう。

しかし、20年前のサギの虐殺を思えば、身を守る術を持たないサギを森に返すことは、余りに危険かつ無謀だった。今も、サギを狩り立て売ろうとする密猟人がいないとも限らない。だから、サギの兄妹は、戦乱がとりあえず収束した今も森には帰らず、故郷にほど近いガリアの獅子王の許に身を寄せている。民を虐殺された衝撃からずっと病の床に臥せったままのサギの王ロライゼも、妹姫の生還に僅かに力を取り戻したものの、快癒したとはとてもいえない容態なので、サギが帰れば、森の再生は格段に捗るとわかっていても、森に返せぬのが実情だった。

だから、ネサラは替わりに、セリノスの森の様子を見てくるのだ。サギの姫に、森が次第に元気を取り戻しつつある様子を教えてやりたくて。

 

ガリアの王城に近づくと、ネサラは、獣牙族の民に見つからぬよう用心しながら、姫の住まう離れの塔へと向かう。カラスの王が我が国に何用かと大仰に騒がれたくないし、サギの姫に会うのに付き添いという名の監視付きでは息がつまる…だから、ネサラは、王城を正門から訪ねたりは、もちろん、せず、鳥翼族らしく、直接、部屋の窓からサギの姫を訪問することを常としていた。

「おい、リアー…」

と窓を叩こうとした処で、ネサラは思いとどまった。

姫の部屋に兄王子がいるのが見えた。

できれば、妹姫1人に会いたかったネサラは…ネサラ自身は、兄王子のことも親しく思っているが、色々とあった過去の経緯から、兄王子は自分が妹姫に近づくことを、諸手をあげて歓迎はしないだろうと思い、兄王子が、妹姫の部屋を出て行くのを待つことにした。そのまま木の枝の上で羽を休めて窓の外から様子を伺う。

二人は顔を突き合せるようにして、文机に向かっていた。と、妹姫が、顔をあげて兄王子に何か訴え始めたようだ。口を尖らせ、頬を膨らませている様子から、珍しく、兄に何か抗議しているようである。どうやら、兄王子は、そんな妹姫に何かを懇々と辛抱強く諭しているようだ。が、姫のふくれっつらは中々治らない。しばらくして兄王子は、諦めたように頭を振ると妹姫の部屋から出ていった。

部屋の扉が完全に閉まったことを見届けてから、ネサラは、コツコツと窓を叩いて合図を送った。

サギの姫がはっとしたように振り向きざまネサラのいる窓辺に駆け寄ってき、すぐさま、窓を開けてくれた。

「よう、リアーネ、元気だったか?」

「ネサラ!アソビニキテクレタノ?」

サギの姫・リアーネが、嬉しそうな笑みと共に、たどたどしい現代語で答えた。

「まぁな」

ネサラは、流れるように優雅な身のこなしで、姫の部屋に窓からするりと入りこむと

「ほら、おまえに土産だ」

と言って、懐から小さな果実を数個取り出し、机の上に静かに広げた。途端に爽やかに甘い芳香がふぅわりと立ち上った。

「おまえ、小さい頃から、これが好きだったろう?」

「ネサラ、コレ…セリノスノモリ…ノ…?」

リアーネは、翠緑の瞳をまん丸にして、机の上の果実とネサラの顔を交互に見比べた。

「ああ、まだ数は多くない、実も…昔に比べれば小さな物だが…けど、確かにセリノスの森に実った果実だ。20年ぶりにな…」

「…」

リアーネはその小さな丸い果物をそっと手に取ると、夢見るような瞳でそれを見つめてから、包み込むように掌の上で転がした。艶やかな果皮の感触を手で愛しんでいるかのようだった。

「一つ食ってみろよ。数はあるから…後で、リュシオンと…ロライゼ殿に持っていってやるといい。セリノスの森の息吹を直に感じればロライゼ殿も、きっと、元気がでる」

「アリガト…ネサラ…アリガト…」

リアーネは、なんとも嬉しそうに顔を綻ばせながら、色々な思いで溢れそうな瞳でネサラを見つめてき、途切れ途切れに礼の言葉を言った。感情が溢れる分だけ言葉が出にくくなっている、という面もあるようだが、リアーネは慣れない現代語を無理に使おうとするあまり、言いたいことを上手く言えずに、もどかしく焦れているらしいことも、ネサラは見てとった。

「なぁ、おまえ、なんで無理に現代語でしゃべってるんだ?俺には古代語でしゃべっていいんだぜ。まだまだなんだろ?現代語は…」

すると姫の顔が一瞬ぱっと輝いたが、その直後、姫はキマリの悪そうな、悪戯が見つかった子供のような表情になって、もじもじしながら、それでも、やはり助かったという顔で、改めて古代語で話を始めた。

『だって、兄さまが、現代語を早く覚えろって言うの。ここには、古代語のわかるものはいないのだからって…』

「まあ、リュシオンなら、そういうかもな。それで現代語を勉強して…いや、させられていたのか?」

ネサラは、先刻、二人が机にむかって頭をつき合わせていた光景を思い出していた。

『うん、ガリアに来てからずっと…でも、私、兄さまみたいに、そんな、すぐには現代語を覚えられないのに、毎日、あれも覚えろ、これも覚えろ、って言われて…それで、さっき『もう、現代語ヤダ!覚えらんない!もう勉強しない!』って、癇癪起こしちゃったの。『現代語なんて別に覚えなくてもいい!兄さまもティバーン様もネサラも、私の言うこと、わかってくれてるもん、だから、現代語の勉強なんて、もういらない!』って…」

それで、さっき、リアーネが珍しくふくれっ面をしてたわけか、とネサラは得心した。

「そうしたら、真面目なリュシオンに説教でもされたか?」

『う…ん…怒られたわけじゃないんだけど…兄さまったらね、ため息ついて…「ティバーンも、おまえの言うことは、漠然とわかるだけだと言っている。ましてや、ここはガリアだし、私もおまえの通訳に四六時中傍にいることは難しい。しかも、おまえは女だから、男の私には、言いづらいこと、障りのあることもこれからはあるだろう。このままでは、侍女におまえの世話をまかすこともできないのだから」って言うの』

「まぁ…正論…つーか、むしろ、リュシオンはおまえのこと、大事に思ってるから、早く言葉を覚えろって言ってる気がするが…」

『うん…そうだよね。…それにね、兄さまは、こんなことも言ったの。「それにおまえはサギの王族で、たった1人残った女性体だ…この意味がわかるか?」って…』

「リュシオンがか?おまえに、そこまで言ったのか?」

『うん、兄さまはね、すごく真面目な顔で「おまえも、いつの日か鳥翼族の誰かと結婚して、子を為さねばならない。森を守り、呪歌を伝えていくために。それはサギの王族としての義務だ。しかし、夫と妻で言葉が全く通じないのでは、おまえも、おまえの婿になる男も困るし、寂しいだろう?それこそ、婚家にまで私が通訳についていくわけにはいかないのだから、一日も早く簡単な現代語だけでも覚えてもらわんと困る」って…』

「そうか、リュシオンが、そんなことを…しかし、おまえに、もう結婚の心構えを説くってのは、いくら何でも気が早すぎるように思えるが…」

『う…ん。でも、私だってサギの王族だもん…兄さまの言いたいことは…わかるの。私…いつか、誰かと結婚してサギの赤ちゃんを一杯産むんだよね』

リアーネはここで一度言葉を切って、ネサラの顔をじっと見つめ…そして、徐に口を開いた。

『私、それを嫌だなんて思ってないよ。だって、そうすれば、再生の呪歌を歌えるサギが増えるから、セリノスの森はもっと元気になるだろうし…そうしたら、いつか、皆で森に帰れる日が来ると思うから。今は、お床から出られないお父様も、サギが増えて森が元気になれば、きっと一緒に森に帰れる…』 

「………」

ネサラは考え込んだ。

サギの王子としてのリュシオンの気持ちは理解できる。リアーネが見つかったことで、サギは絶滅を辛くも免れたのだ。リュシオン1人の血統では、サギの血は、代を経るにつれ薄れていく一方だったろう。かといって、近すぎる血族婚は、生まれてくる子供にリスクが大きく、結果的に長期の血統存続は望めない。だが、リアーネとリュシオンがそれぞれに子を為し、次代以降は少し遠い血族同士で婚姻させることを繰り返せば、サギの血は一定の割合で保たれる。そして、呪歌を唱えられるのはサギの王族のみなのだから、リュシオンがリアーネに次代を期待する気持ちはわからなくもないが…。

「それで、おまえは何て言ったんだ?」

『でも、それなら、兄さまが先にお嫁さんをもらえばいい。って言ったの。兄さまは、もう現代語でお手紙だって書けるんだから、お嫁さんは困らないし、兄さまは、そんなにきれいなんだから、兄さまのお嫁さんになりたい鳥翼族の女の子はきっと一杯いる、私が現代語を覚えるよりずっと早くて簡単。って』

ネサラは、思いがけぬリアーネの返答に破顔した。

「そりゃ一理あるな。そしたら、リュシオンは何だって?」

『「おまえを、安心して託せる相手を見つけるのが先だ」って言うの。「カイネギス王は我らを賓客として遇してくれてはいるが、今の我らは結局の処亡命者でしかない。おまえを嫁がせるのはともかく…あまり大した仕度はしてやれんと思うが…カイネギス王がなんとおっしゃろうと食客である私が、ガリアの王宮で世帯を持つことなど、礼に反することだ。私が世継ぎをもうけるのは、セリノスの森に帰れた暁でいい」…って…』

「う…む、義と礼を重んじるリュシオンのいいそうなことだがな…」

しかし、ついこの前、長い長い眠りから目覚めたばかりのリアーネに、もう、王族として、そこまでの自覚を促すとは、リュシオンは何か焦っているのだろうか、いや、ロライゼ殿の体調が今も思わしくないことを思えば、無理もないかもしれん…なるべく早いうちにリアーネを信頼できる男に託して、サギ族の未来の展望を開くことでロライゼ殿に安心していただき、少しでも生きる気力を取り戻してもらいたいと願っているのかもしれない、なんとか、蘇ったセリノスの森を一目なりとも見せたくて…というのは、ありそうな話だと、ネサラは思った。

『「だから、おまえは、現代語を一日も早く身につけなくてはならんのだ」ってまた勉強に話が戻っちゃって…』

といった処で、リアーネは何かを言いかけて、躊躇い、結局口を噤んで黙り込んだ。

ネサラは、この時、リュシオンの思惑と意図する処への思考に気を取られてしまい、リアーネの言葉を話半分に聞きながら、彼女のことをじっと見つめていた。

もし、リュシオンが、一日も早くリアーネを誰かに嫁がせ、子を為さしめたいと思っているのだとしたら…それならリアーネの相手は誰だ?リュシオンは、誰か、リアーネに相応しいと思う男の当てが既にあるのか?ないのか…?可能性があるとしたら…それは誰だ?タカ王・ティバーン…か?虐殺を辛くも逃れたリュシオンは、父王を連れてティバーンの許に身を寄せてしまったのだから…昔馴染みの俺の許ではなく…それなら、リアーネもまた…

そう思った時、自分では特に何も意識しない内に、ふい…と、ネサラの口は、こんな言葉を紡いでいた。

「なぁ、それなら…俺がもらってやろうか?おまえを。そうしたら、おまえ、無理して現代語を覚える必要ないぜ?」

すると、リアーネは澄んだ瞳を落っこちそうなほどに見開き、白金の翼を広げて、ネサラの懐に一飛びに飛びこんできた。そして、ネサラの顔を痛いほど見つめ、心配そうにこう言った。

『ネサラ?ほんとに?本当にいいの?だって…私、ジサンキンないよ?』

「はぁ?何言ってんだ?おまえは…」

自分で自分が口にした言葉にも驚いていたネサラだったが、リアーネの返答は、更にネサラの理解を超えていた。全然意味がわからない。

『その…さっきの話の続きなんだけど…私ね、兄さまのお話がまた「さぁ勉強勉強」に戻ったものだから、頭が一杯になっちゃって…それで『いいもん!それなら、私はネサラのお嫁さんになるから!ネサラだったら私のいうことわかってくれてるもん!』って言っちゃったんだもん』

「!」

ネサラは、思い切り驚愕した顔で、マジマジとリアーネを見つめた。真摯な瞳のリアーネと目が合った途端に、かぁーっと顔が熱くなるのを感じた。思わず、口元を掌で覆い隠し、一瞬、天上を仰ぐ。

「おまえ、自分の言ってる意味わかってんのか?」

『うん、ネサラだって、今、私をお嫁さんにしてくれるって言ったんだよね?あ…でも、ジサンキンないとダメ?やっぱりダメかな?』

「だから、持参金ってなんのことだ!?全然、話がみえねぇんだよ!」

『だって、兄さまったら…私がそう言ったら、やれやれって顔で「ネサラは…金が大層、入用らしいから、嫁には持参金をたくさん持って来る金持ちの娘でなければ貰い受けないだろう。さっきも言った通り、私たちは大した嫁入り仕度はしてやれそうにないのだから」って言うの。サギはお金がないから、私がネサラのお嫁さんになりたいって言っても、ネサラの方が貰ってくれないだろうって…そして、「私が一時に色々言ってしまったので、おまえも混乱したのだろう、今日はもうここまでにするから、少し頭を冷やしなさい」って言って、兄さまは出ていったの…だから…私…』

「はぁあ?おまえに一時に何でもかんでも詰め込みすぎだってのは俺も同感だが…いや、リュシオンのヤツ、何、知ったようなこと抜かしてんだ。俺がいつ、持参金付きの女しか嫁にしないなんて言った?そんなこと、一言も言った覚えはないぞ、俺は。リアーネも、鵜呑みにするんじゃない」

しかし、ネサラもそれ以上は強くいわなかった。実際、リュシオンを金のために人間に売り飛ばした…尤も、人間から金だけ騙し取り、リュシオンのことはすぐ助け出すつもりだったが…のは事実なのだ。結果オーライではあったが、それが遠因となってリアーネが見つかったし、自分も謝罪したから、表面上は、リュシオンは何もわだかまりを見せない。実際、自分に売り飛ばされたことを、リュシオンはリアーネには内密にしてくれているらしい。だが、リュシオンが、自分・ネサラは、金になるならなんでもする、而して、金にならない行為は決してしないと信じていたとしても、それは無理からぬ話だと思ったからだ。

兄として、功利的な男…俺のことだ…妹を託すのが心情的に危ぶまれ、リアーネの短慮に待ったをかけたかった…ということもあるかもしれない。なにせ、自分は、昔馴染みの旧友を売り飛ばすような男なんだからな…

「ま、そう思われても仕方ないほど、俺が金に汚かったのは事実だがな」

ネサラは、一瞬、自嘲の笑みを浮かべた後、真顔に戻って、リアーネを見つめた。

「けど…おまえに関しては商売抜きだ…って言ったら、おまえ、信じるか?」

『うん!ネサラは嘘つかないもん!』

「きっぱり即答かよ…参るな…でも、そうか、おまえはそう思うか…」

ネサラは、微苦笑ともいえる笑みを口元に浮かべながら、瞳を細めてリアーネを見つめた。リアーネは、そんなネサラを生真面目な表情でみあげる。

『ねぇ、じゃ、ネサラ、ジサンキンなくても、私をお嫁さんにしてくれる?』

「その前に、一つ聞いておきたいんだが、おまえ、古代語がわかれば…誰でもよかったのか?例えばティバーンでも……」

『ティバーンさま?ティバーンさまがどうしたの?』

「あ、いや、いいんだ、今のは何でもない、忘れろ」

『???』 

リアーネが小首を傾げている様に、ネサラは冷や汗をかいていた。

この問に思い切り『うん!』と頷かれたら、どうするつもりだったんだ?俺は…。

頷かれたとして…「それなら、ティバーンのところに行けばいいだろ?言葉さえわかる男なら、誰でもいい嫁なんて、俺はごめんだね」と言い切る気が…自分にあるとは思えなかった。このリアーネを前にして…

考えてもみろ、そんなつまんないプライドに拘泥して、リアーネが、みすみす、他の男のものになってもいいのか?俺は。ティバーンのヤツに目の前でリアーネをさらわれて後悔しないと言い切れるのか?

20年ぶり…20年ぶりに会えたんだ…。2度と…生きて会えるなんて思っていなかった、取り戻せるとは思ってもいなかった…リアーネのこの笑顔も、愛らしい姿も…。

明日は今日の続きだと信じて疑いもしなかった日々、当たり前のようにいつでも会える、好きな時に会って話して笑みを交わせると思っていた存在が、突然、信じられない惨い形で奪われた。たった一夜にして俺の手の届かないところに奪い去られてしまったと…ずっと思っていたんだ。

…あんな思いをするのは…もう2度とごめんだ…。

そして…俺はカラスだ、カラスは、でかい利のため、目的のためなら、何でもやる。割り切れる。プライドにしがみついてたって何も得られやしない。リアーネにとっては、誰でも同じかもしれなくとも…リアーネを俺のものにできるなら…俺は…。

とても一言では言い尽くせぬ思いを胸にネサラはリアーネを見つめた。すると、まだ、きちんと返答していなかったせいか、リアーネが、少し心配そうな顔で念を押してきた。

『…ね、ネサラ、私のこと、お嫁さんにしてくれるんだよね?』

「…リアーネは俺の嫁になりたいか?」

『うん、私、ネサラのお嫁さんになりたい。ネサラ、優しいし、かっこいいもん』

「そうか、リアーネは俺がいいか…俺が優しくてかっこいいから…」

『うん!』

リアーネは無邪気に笑みながら、力強く迷いなく、こっくりと頷いた。

ネサラは、ふ…と軽く笑うと、白桃のようなリアーネの頬を大きな手で包み込んだ。リアーネは、俺がいいと言う、優しくてかっこいいからと…それだけで十分だと思った。その上にこの迷い無き信頼の眼差しがある、十分すぎるほどだった。

「リアーネ、おまえは、俺が嫁にもらってやる」

『ほんと?ネサラ』

ネサラはぐいとリアーネの身体を抱き寄せた。

「ああ、持参金なんてなくてもな…今からそれを証明してやるよ。おまえは、今日から…いや、今、この瞬間から俺の花嫁だ…」

『今から…?…ネサ…んんっ…』

リアーネの言葉は、ネサラの柔らかな唇に遮られ、飲み込まれた。

 

羽で触れるように軽やかで、翼で包み込むような柔らかな口付けを幾度も繰り返しリアーネに与える。それこそ嘴でついばみあう鳥のように、角度を変えて飽くことなく、唇を触れ合わす。

ネサラは、リアーネの唇を、上下交互に自分の唇で食んでは極軽く吸う。まだ舌は差し入れていない。

リアーネを、いきなり驚かせたくない気持ちもあるが、まずは、この甘やかな唇そのものを心行くまで味わい尽くしたかった。

リアーネの唇は蕩けるように柔らかく、食むほどに、瑞々しい弾力を伝えてくる。吐息は花の香のように甘く芳しい。ネサラは際限なく口付けたいとさえ思う。

接吻する合間合間に、リアーネの流れる金髪を撫でて指先で梳き、額に、かわいい鼻先に、ふっくらとした頬にも、唇を押し当てる。

もう片方の手で、リアーネの身体を覆っているなよやかな衣装をやんわりと肩から滑らせて床に落とす。リアーネの足元に柔らかな布が花のように広がる。その中心に、どんな花より美しい、眩いほど白い裸身が姿を現す。

並行して、ネサラは自分の着衣は乱雑ともいえる無造作さで脱ぎ捨てていく。リアーネに柔らかな口付けを与え続けながら。

互いに一糸まとわぬ姿になると、ネサラは、改めてしっかりとリアーネを抱きしめた。滑らかで暖かなリアーネの素肌は、譬えようもないほど心地よい。己の胸板に押し付けられ、形を変えている乳房は、思っていた以上に豊かで、柔らかに張り詰めたその感触にネサラは酷く胸がざわついた。リアーネが自分の腕の中にいることが、いまだ夢のようにも思えて、ネサラはリアーネの存在を、その温もりを全身で感じたくて、彼女を抱く手に更に力を込めた。

その上で、ネサラは、リアーネを抱きしめていた腕を、彼女のお臀の下に回すと、特に力みもせずにひょいとリアーネの身体を持ち上げ、傍らの寝台の上にそっと降ろした。

その上で自分も寝台の上に膝立ちにあがると、懐に抱えこむようにして、リアーネの身体を更に密に抱き寄せた。漆黒の翼は、意識せずともリアーネを包みこむように弧を描いた。

『ネサラの身体…あったかいね…』

リアーネが、ネサラの腕の中で、ほぅと吐息をつきながら、うっとりと夢見るように呟いた。

「リアーネ、俺が好きか?」

『うん、好き…ネサラ…大好き…』

率直な愛の言葉とともに、リアーネは極自然に腕をネサラの首に巻きつけてきた。

ネサラは一瞬、眩暈にもにた陶酔を味わう。

優しい眼差しでリアーネを見つめると、艶やかに波打つ髪を撫で、滑らかな背中からまろいお臀へと手を滑らせながら、唇を柔らかく食むように口付けた。リアーネの唇を優しくついばみながらも、もっと深く、もっと密に触れあいたいという気持ちのままに、ネサラは、自然に舌先でリアーネの唇を割り、滑らかな歯列の表面をなぞった。

が、無垢なリアーネは、ネサラの口付けに応える術を知らないのだろう、それ以上、口を開こうとしない。

「リアーネ、ちょっと口を開いてみろ」

『こう…?』

「ああ…それで舌を…」

皆まで言う前に、ネサラの舌はリアーネの舌に触れ、それをしっかと捉えた。

捉えるや、ネサラはリアーネの舌に己の舌を絡めてじっくりと舐めまわし、左右に弾く。時折、軽く口を吸ったり、リアーネの歯列の裏にも舌を這わせる。

舌をねっとりと絡めてき、吐息ごと飲み込もうとするようなネサラの深い口付けに、リアーネはどうしていいかわからず戸惑う。飲み込みきれない唾液が溢れて、顎に伝わる。

『ぅ…ん…ネサラ…息が苦しいよ…』

喘ぐようにして、リアーネが唇を僅かに離す。口腔を深々とネサラの舌に侵されて、巧く息ができないせいか、頭がくらくらしていた。

「息はとめなくていい」

ネサラは軽く笑いながら、リアーネの鼻先と唇にちゅっと軽く口付け、安心させるようにリアーネの身体を抱きすくめた。すると、リアーネがやるせなげな吐息とともに、こう呟いた。

『そうなの?…それに…何か…固くて熱いのが、おなかにあたるよ?』

「ああ、これは…俺がおまえを好きで…おまえが欲しくてたまらないしるしだ」

『ほんと?ネサラも私のこと好き?』

「ふ…そうでなければ、おまえを嫁にもらわない」

ネサラは、本当に嬉しそうに笑うと、リアーネの身体をもう一度きゅっと抱いて、改めて深々と口付けた。ネサラが舌を差し入れると、此度はリアーネは素直に口を開けた。待ちかねたように、ネサラが舌を絡めてきた。

リアーネはとても不思議な心持になっていた。

ネサラの唇が触れると、頭がぽーっとして、心がふわふわ浮かんでるみたいで、身体の奥の方が段々熱くなっていくみたいで…どうしてだろう、ネサラの顔しか見えない、もう、ネサラのことしか考えられないよ…

リアーネは、無意識のうちに、ネサラの首に回した手に力をこめていた。

 

ネサラの深く情熱的な口付けに、リアーネはいつしか切なげな吐息を零し、頬を上気させていた。

とろんと力の抜けた身体を、すっかり、ネサラに預けきっている。

ネサラは、そんなリアーネを、翼を傷めぬよう注意して寝台に横たえて、指と指を絡めあわせた。

改めてリアーネを見つめ、見惚れた。頬だけでなく、リアーネの白皙の身体全てが、ほんのりと内側から光るように、薄桃色に染まっていた。つんと上向いてる形の良い乳房は、少し荒めの吐息にあわせて柔らかく上下している。花蕾のような薄紅色の乳首は可憐の一言に尽きた。

たまらなく愛らしく、そして、艶かしい眺めだった。

ネサラは、リアーネの上に倒れこむように覆いかぶさると、一度軽くキスしてから、耳朶を唇で食んだ。

『あ…』

リアーネの身体がぴくんと震える。

ネサラは、リアーネの僅かに尖った耳先を軽く噛んでから、舌を耳裏に這わせた。ネサラの舌は、そのまま、自然にリアーネの細い首筋へと降りていく。熱く柔らかなネサラの唇が、リアーネのうなじから首筋に押し当てられ、暖かな舌は縦横に唾液の跡をつけていく。と、その度にリアーネの背筋を、今まで感じたことの無い戦慄が走る。

『…や…なに?…』

戸惑うリアーネに構わぬ様子で、ネサラは、白くすんなりした首筋を所々吸いあげ、鎖骨のくぼみに舌を這わせる。胸元に顔を寄せるほどに、リアーネ自身の甘い香が乳房の谷間から香りたつようで、ネサラの手は流れるように極自然にリアーネの乳房をすっぽりと覆い、やわやわとそれを揉みしだき始めた。

リアーネの乳房は、どこまでも指が食い込みそうな程に柔らかく、かつ、ネサラの手を弾きかえすようなしなやかな張りがあった。触れる肌はしっとりとしてきめ細かく、乳房は自らネサラの手に吸い付いてくるようだ。いや、この手を離したくないから、そう感じるのか…そんなことを思いながら、ネサラは掌を回すように柔らかく乳房をこね回す。

指と指の合間に見え隠れする薄紅色の先端が、少しづつ立ち上がっていくのが手に感じられた。

早く触れてほしいと誘っている…そんな風に思えた。

ネサラはリアーネの乳房をやんわりと捏ねながら、繊細な指先で乳首をそっとつまんで軽く捻り、指の腹を回して先端を擦った。同時に、もう片方の乳首を、濡れた唇に挟み込む。

『あんっ…』

リアーネが今までより甲高い、戸惑ったような声をあげた。同時に背中が軽く反る。

その声に押されたように、ネサラは、リアーネの乳房にむしゃぶりつくように顔を埋めた。舌を差し出して乳首を掬い上げるように下から上へと幾度も幾度も丁寧に舐めあげる。乳輪と乳首の周囲に舌を回し、舌先で乳首を押しつぶすようにつつきもする。

器用そうな指先はリアーネの乳首を絶妙な力加減で捻り、軽く押しつぶしながら、指の腹は敏感な先端を擦り続ける。

ネサラの唇に、指先に、リアーネの乳首がぴんと硬く尖っていく感触が伝わってくる。その硬い弾力がたまらなく愛しい。

『あんっ…あっ…やん…やん…』

リアーネが困惑の混じった、それでいて艶やかな声音を、途切れなく零す。

ネサラが、胸の先端を口に含んだ途端、そこから迸ったやるせない感覚に、リアーネは戸惑い、翻弄されていた。ネサラが、自分の乳房を、その先端を、夢中になって舐めまわしてる様を不思議な気持ちで眺めながら。

何?これ…ムズムズする…嫌じゃないけど…すごく胸がドキドキして、とっても恥ずかしい気持ちになって……こんなの知らない…

『やっ…ネサラ…変…私、変なの…』

「嫌…じゃ、ないだろう?」

リアーネの声には戸惑いはあっても嫌悪は感じられなかった。

それを本人に思い知らせるように、くりくりと指先で乳首を捻り弄りながら、ちゅぅっとネサラはその先端を吸った。

『ひゃんっ…』

リアーネが驚いたような声をあげ、背を反らせた。

更なる愛撫を強請るように突き出されたその乳房を、ネサラは、律儀に交互に吸っては丁寧に舐めまわす。

リアーネが切なげに眉を顰めて、ぷるぷると身体を震わせた。

唾液に塗れた乳首を指の腹で擦られると、なんだか背中がぞくぞくする。腰が変に落ち着かない。胸の先をネサラに吸われると、痺れて、身体の力が抜けていくようで…なのに、不思議と、リアーネの中に、もっともっとネサラに触れてほしいような、不思議な気持ちが募っていく。

なんで?…ネサラは私のおっぱいを吸って、夢中で舐めまわして…赤ちゃんみたい…なのに…何?これ…この感じ…もっとして…止めないで…って…思う、この気持ちは何?

ネサラが、その硬い弾力を楽しむように指先で乳首を転がし、先端を擦り上げながら、リアーネに諭すように囁いた。

「ほら、こんなに硬くして…気持ちいいだろ?リアーネ」

『あ…』

言葉にされてみて、初めてわかった。そうだ…私…気持ちいいんだ…だから、こんなに…もっとしてほしくなって…

『うん、気持ちいい……もっと…もっとして…ネサラ…』

リアーネが荒い吐息まじりに、切なげな瞳でネサラに訴えた。

ネサラが、瞬間、息を飲んだ。

弾かれたように、ネサラは、乳輪ごとリアーネの乳首を深く口に含んだ。舌で激しく弾き転がし、極軽く歯を立てる。その、より尖らせた乳首の先端で勢いよく舌を躍らせては、強く吸い上げる。

『あぁっ…あんっ…あん…やっ…あぁっ…』

「っ…いいか?」

『うん…気持ちいい…ネサラ…気持ちいいよ…あぁんっ…』

気持ちいい…けど…どうして、こんなに変な声がでちゃうの?止らない、どうしよう…

ネサラの舌が胸の先端で踊るたびに、ぞくぞくするようなむずむずするような感覚がどんどん強くなっていく。ちゅぅっと音を立てて天辺を吸われると、身体が勝手にびくびく跳ねてしまう。頭の中に段々霞が掛かっていくようで、何も考えられなくなっていく…。

それでも、ネサラの手がいつのまにか自分の胸から離れ、腰やお尻、そして太腿のあたりを撫でさすっていくのをリアーネはぼんやり感じていた。ネサラの手はあったかくて大きくて優しい…ぽーっとそんなことを思っていた時だ、

ネサラの手がするりとリアーネの脚の内側に入り込み、脚の付け根の奥まった部分を、すぅっとなぞった。

『あぁんっ…』

リアーネは、ネサラに触れられた瞬間、身体の中を電気が走り抜けていったような気がした。同時に自分の股間が、何故か、ぬるりと潤びていることに、この時初めて気づいた。

間をおかず、ネサラの指が忙しなく股間で動きだした。

『ひゃんっ…』

くちゅくちゅという水音が高く低く耳を打った。その度に、リアーネを痺れさすような不思議に鋭い心地よさが身体を突き抜けていく。お腹の奥がうずうずして、頭の芯がぼうっとしてくる。

『あっ…あんっ…やっ…んっ…ぅうん…』

胸の先をついばまれていた時より、更に忙しなくリアーネは声が出てしまう。

と、膝頭を軽くつかまれ、大きく開かされたリアーネの脚の間にするりとネサラが身体を滑りこませてきた。

『あ…』

なんだか無性に恥ずかしくて、脚を閉じたい…とリアーネが思う間もなく、暖かく柔らかなものが、リアーネの身体の中心に触れてきた。すぐに、より熱くてぬめっとしたものがリアーネの奥まった処を割り、中に入ってきたのを感じた。

『ふぁあっ…』

リアーネは身体の力が全て抜け、頭の中が真っ白になった。

ネサラが、リアーネの花弁に口付け、その合わせ目を尖らせた舌先で割って舐めあげていた。花芯から上方へと、何度も何度も、執拗に丁寧に。舐め上げ切った処には小さな肉莢が控えめに顔を覗かせていた。ネサラは、その肉の莢を僅かにかすめるような微妙な舌遣いで、花弁とその合わせ目を丹念に舐める。

ネサラが舌で割ったリアーネの花弁の内側は、熱く芳しい愛液が豊かに溢れかえっていた。花弁を手でまさぐり、指先に熱いぬめりを感じた時は正直驚いたが、すぐに、たまらない喜びがネサラの胸にこみ上げた。こんなにも素直に己の愛撫に応え、豊かな官能の喜びを謳ってくれるリアーネが愛しくてたまらなかった。リアーネに、こんなにも熱く求められていることが嬉しくてならなかった。

ネサラは胸にこみ上げた喜びのままに、リアーネの股間に顔を埋めた。とろりとした愛液を舌で掬いあげて舌鼓を打つように一心に舐め取っていく。花の香のように甘く、若葉のように青く鮮烈な香気がネサラの鼻腔を突き抜ける。ネサラは、尚のこと夢中になって、ぴちゃぴちゃと音をたてて舌を躍らせ花弁をくすぐった。

『ふぁっ…あん…やぁん…くすぐった…あぁんっ…』

リアーネの甘い声に押されるように、ネサラは、リアーネの大腿部をつかんでいる手に自然と力をこめ、花弁をより大きく押し広げていく。

ふっくらと豊かな盛り上がりを見せる花弁はほんのりと淡いピンクに染まり、その奥まった部分には、鮮やかな紅色の肉襞が幾重にも複雑に重なっている様子が僅かに垣間見えた。合わせ目の先端には濃い紅色に染まった肉芽が、ちょこんと、愛らしくも妖しい風情で顔を覗かせていた。

リアーネの全てが、きれいで、愛らしくて、たまらなく妖しい。

この花弁のどこもかしこも、いやというほど口付け、舐め回し、思い切り吸ってやりたい。この愛らしい部分を思う存分に弄ってやりたい、リアーネが愉悦にむせび泣くほどに…そんな思いに突き動かされる。

ネサラは改めて、ふくふくした花弁全体を唇で食んでは、尖らせた舌を秘裂に幾度も抜き挿しした。かすかに甘酸っぱい、より濃厚な愛液の香が鼻腔に満ちてむせ返りそうになる。

そうしてリアーネのとろけるような花芯を味わいながら、愛液に塗れたその舌を少しづつ上方に滑らせていく。小さな突起がネサラの繊細な指に器用に莢を剥かれてむき出しにされる。濃いピンクの肉珠は痛々しいほどに小さく、なのに、ぴんと尖って、ネサラを誘うようにも、挑発するようにも見えた。無性に苛めたくなるような愛らしさだ。

ネサラは、その愛らしい珠に唇を押しあてると、ちゅくちゅくと音を立ててそれを吸った。

『ひぃんっ…』

リアーネの身体全体が電撃を食らったように跳ねた。

『あぁっ…やっ……ネサラ…そこ…痺れるみたいで…お腹の奥の方がきゅっとなって…あぁっ…変な声…でちゃう…』

リアーネが、身体を駆け抜けたより鮮烈な感覚に酷く戸惑い、少し、不安そうに顔をあげた。

ネサラはリアーネの手を取って、安心させるように、しっかり握ってやると

「いいんだ…もっと声出せよ」

と言って、徐に肉珠に舌を這わせ、再びそれを丁寧に舐めあげ始めた。

『え…?あぁんっ…』

ネサラの唇が改めて押し当てられたと感じると同時に、リアーネは、またも、押さえ切れない甘い声をあげてしまう。

ネサラの熱くて、やわらかくて、ぬめぬめした舌が身体の真ん中で縦横に躍っているのを感じた。そのたびに、びくんびくんと、雷光が身体の中を走り抜けるみたいな鋭い快感が走りぬけた。全身が痺れるみたいで、頭の中は真っ白になって、体が溶けてしまいそう…変な声ばっかり出ちゃう…と、意識に霞がかかっていくような、その最中、何か細いものが、身体の中につぷりと入りこんできたのをリアーネは感じた。

『ひぅ…』

一瞬、リアーネは息を飲む。苦痛はなかったが、自分の内側に『何か』がある、という初めて感じる感覚に僅かに身体が強張った。

握っていた手に力が込められたことを感じたネサラは、リアーネの秘裂に指を差し入れたまま、一度顔をあげた。ぬるぬるになっている己の口周りをぺろりと舐める。リアーネの股間から太腿までも、リアーネ自身の愛液とネサラの唾液が混然と交じり合って、滴るほどに濡れそぼっていた。

「指、もう、痛くないよな…ここ、感じるだろ?」

ネサラは男性にしては繊細で長い指で、リアーネの秘裂のごく浅い部分をゆっくりとかき回した。

『…へんな…感じ…』

リアーネが荒い吐息混じりに呟くと、ネサラは見せ付けるように舌を差し出し、むき出しにされたままの肉珠を舌先で再び転がし始めた。同時に指の向きを変えて、リアーネのお腹側の肉壁を指の腹でくすぐるように擦る。

またも、じれったいような、熱くて、痺れて、体が溶けてしまいそうな、狂おしい感覚がその一点から迸った。

『あっ…やっ…ひゃぁんっ…ダメっ…ネサラ…』

「ほら…リアーネの中、ぐちょぐちょだぜ」

『…っ…ぐちょぐちょ…なの?…』

リアーネには、それが、どういうことなのか、よくわからない。何もかも、初めてのことだらけで。身体が溶けてしまうような感じも、何も考えられなくなっていくのに、勝手に声が出てしまうのも、ここが、こんなにぬるぬるに濡れてしまうことだって、何も知らなかった。なんだか、すごく恥ずかしくて、思わず、ネサラの手を握る力が強くなる。

リアーネの手が、きゅっと自分の手を握ってきたのを感じて、ネサラは、リアーネの手を固く握り返してやる。そして、その手を己の口元に運んで、しなやかな指に口付け、指先を口に含みながら

「ああ、女は、好きな男と一つに繋がりたいって思うほど、たくさん濡れるんだ」

と、リアーネを安心させるように告げた。

『好きな男と…一つに…?』

「…だから、もっと、とろとろになっていいんだぜ、リアーネ…」

言うやネサラは再びリアーネの股間に顔を埋め、舌を差し出して、むき出しの珠の周囲を舐め回し始めた。肉珠を舌先で左右に激しく弾いたかと思うと、全体を口に含み、舌を押し当ててじっくりねっとりと舐めあげる、舌を長く差し出して、尖りきった肉珠の先端でちろちろと踊らせる。

『ひぁああっ…』

リアーネが眦に涙を浮かべ、一際高い声を放って、身体を震わせた。

『ひっ…あぁっ…やっ…痺れる…とけちゃう…とけちゃうよぅ…ネサラ…』

「いいんだ、もっと感じて…ほら、こうして、俺が、手を握っててやるから」

ネサラはリアーネの手をとり、改めてぎゅっと握り締めてやりながらも、その腕全体でリアーネの太腿を押し開いて抑えこみ、肉珠を口に含んで舌で転がし続けた。

こりりと張り詰めた肉珠の感触を感じるほどに、息つく間もないほど、きつく激しい愛撫を与えたくなる。

あまりに素直な反応が、いじらしくて、かわいくて…だから、きりなく甘やかして慈しみたい気持ちと、無性に苛めたいような気持ちが同時に同じほどに募ってしまう。

そんな自分の度し難さにネサラは呆れる。

俺は…自分で思っていた以上に…おまえに夢中みたいだぜ、リアーネ…。

リアーネの存在そのものが媚薬のようだ。きり無く貪りたくなり、貪る程に、もっと切実に欲しくなる。

もっと深く、もっと熱く、混じりたい、一つに分かちがたく交わって、己を刻み付けたい…

ネサラのリアーネを欲する気持ちも、もう限界だった。

 

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