Famme Fatale 2

互いに全裸になった途端、引き合うように抱きしめあった。

寝台の上に倒れこむと同時に飽くことなく口付けを交わしあった。何度も何度も唇を合わせる。リンが何か息苦しいような気持ちで、僅かに口を開けたその時をすかさず、ラスの舌が口中に入り込んできた。熱い舌が絡みついてくる。苦しいようないたたまれないような不思議な感覚が胸の奥から生まれてくる。

だけど、口付けを解こうとは思わない。口付けは…約束や決意を示すためだけにするのではないのだと、今、リンは自らの身を以って感じていた。だって、単なる儀式なら…儀礼上の行為なら、こんなに身体が熱くなるはずない。こんなに何度でもしたいなんて思わない。ほら、また…ラスが口付けてくれるたびに、身体の内側にひとつづつ火が灯るような気がする。その熱さをもてあますように、ラスの腕の中で身じろいだ。

ラスが、戒めるように抱擁をきつくした。

服の上からはわからなかった厚い胸板。鋼のような二の腕。硬く滑らかな素肌。暖かくて、さらりとしていて…でも、硬い。ずしりと全身に感じる重みに無償に幸福感がこみ上げてくる。ラスに…ラス自身に自分が包まれ覆いつくされているような気がして…

人と素肌を合わせることが、こんなに心地いいなんて、人の肌がこんなに暖かかったなんて…人の重みを感じることで、こんなに心満たされるなんて思いもよらなかった…

ううん、それはラスだからだ…私を包んでくれているのがラスだからだ…

「ラス…ラスの身体…暖かい…」

「おまえは…瑞々しく…しなやかだ…若駒のように…」

ラスは、リンの背に腕を回して思い切り抱きしめた。細竹のようにリンの身体がしなった。

口にした通り、ラスは、リンの生硬さの残る身体を見、その腕に抱いた途端、魂を根こそぎ奪われた。

こんなに清冽で、鮮烈な存在を見たことがなかった。

華奢だが、弱弱しさは微塵もない、一分の隙もなく引き締まった無駄のないライン。

肌は、硬質な感触だが滑らかで、手応えのある弾力が、むしろ、筋肉の欠片もないような柔らかすぎる体より、触れていてとても心地よかった。

剣士として鍛えられ研ぎ澄まされた肉体は、リンが自ら操る剣そのもののように、しなやかで、きらきらとまぶしい輝きを発していた。

所々、うっすらと矢傷や太刀傷の白い線が残っているが、それは、リンが懸命に生きてきた証だから、ラスは、むしろ愛しさをこめて、その傷の一つ一つに口付けてやりたかった。

だが、ラス自身にそんな余裕がなかった。

口付けから流れるように首筋に唇を押しあてた。そのまま唇はリンの乳房の稜線をなぞっていく。同時に、その膨らみを包むように手をあてがってみた。

「あっ…」

リンが官能というよりは、戸惑ったような声をあげた。

その戸惑いを払拭してやりたいのに、ラスにはゆっくりとリンの官能を高めることができなかった。リンの乳房に触れた途端、頭に血が上った。乳房はこぶりで、生硬といっていいほど硬い弾力に満ちていた。その感触に夢中になった。

ラスは女を知らないわけではない。傭兵にとって戦の前後の憂さ晴らしは…戦意を高揚させ、また死線をくぐった緊張をほぐしてくれるのは娼館の女と相場は決まっていたから。自ら求める気はなかったが、所属していた傭兵隊長に無理やりのように娼館に連れていかれたこともあった。

だが、そこで見た女たちと、リンの身体は、あまりに違っていた。その清冽さに圧倒されるばかりだった。

指がたやすく食い込むような柔らかな乳房より、硬く張り詰め、指を弾き返すような乳房の感触に、飽くことなく愛撫したいと思った。そのくせ、硬質な膨らみの頂点は、可憐に匂うような紅色に染まり、ラスを幻惑する。いつも張り詰めているリンが持つ、たおやかで優しい心の、それは象徴のように思えた。

気づいたときは、乳房を鷲掴むように無理に指を食い込ませ、きつく揉みしだいていた。乳房の稜線をさまようはずの唇は、いきなり、その頂点を口に含み、夢中で舌で弾いた。

「あっ…やっ…」

ラスが、胸のふくらみ…自分の決して豊かとはいえないふくらみに触れている。それどころか…赤子のようにその先端を口腔で玩んでいる…理屈ではない恥ずかしさに、リンはリンで頭に血が上る。ラスの唇が、乳房の先端でうごめくたびに、肌がざわつくような、粟立つような…でも、決して不快ではない、不可思議な感覚が沸き起こることにも戸惑う。

だって、こんなことをするなんて知らなかった…変な感じ……不思議な感じ…でも、嫌じゃない…

ラスは、舌で乳房の先端を弾くことをやめ、今はリンの乳房を吸い立てていた。両の手で、まるで意地になっているように乳房をきつく揉んでは、両の乳首を交互にちゅくちゅくと吸う。まさに赤子のような懸命さで。

リンの幼い性感は、ラスの口戯を純粋な官能として感じ取れてはいなかった。だが、ラスの手、ラスの唇に触れられることは、心が温かく満たされるような心地よさをリンにもたらした。自分の乳房にむしゃぶりつくようなラスの姿に、じわじわと愛しさがこみあげる。

ラスに触れたい、ラスに触れてほしい、もっと…いくらでも…

触れられる程に幸せな思いがふつふつと、胸の奥からこみ上げてくる。ラスもそう思って、私の身体に触れてくれているのならいいな…そんなことを思う。その思いのままに、ラスの背にきゅっと腕を回す。

すると、ラスもリンの身体をきつく抱き返してきた。まるで、折れよといわんばかりのきつい抱擁だった。苦しいと思った瞬間、ラスは腕の力を弱めてくれた。手はそのまま、なだらかな腰の線をさすり始める。乳首はラスの口に含まれたままだ。ラスの舌が乳首の周囲をくるくると回る。

「あっ…ぅん…」

きつく吸いたてられた時と違って、何故か鼻にかかった声が自然と漏れ出てしまった。

すると、ラスが今度は執拗なまでに舌を使い始めた。乳首の根元から突端を丁寧に舐めあげる。その先端でくすぐるように舌をうごめかす。

「あっ…やっ…あ…はぁっ…」

何?さっきより、もっと全身がざわつく…腰が勝手に動きそうになる…声が…息が…漏れでてしまう…

そんな自分をもてあまして、きゅっと唇を噛んだ。

ラスはそんなリンを見下ろしながら、腰から大腿部を撫でさすっていた手をそっとリンの股間に滑り込ませた。

「あっ…」

反射的にリンが足を閉じようとした。

「閉じるな…」

リンは、かーっと頬を熱くしながら、1度閉じかけた膝の力を緩めた。

遊牧民として育ったから、動物の交尾は幼い時から自然と見知っていた。だから、どうするのかは知っていた…知っているつもりだった。でも、それが自分のこととなると、こんなに戸惑い、どうしたらいいのかわからなくなってしまうとは…思ってもいなかった。

ラスの手が、股間をうごめいているのを感じる。合わせ目を指先が探っている…つぷりと先端を差し入れられた。触れられてみて初めてわかった。自分のそこが…ぬるりとした液体に満たされていることを。

「濡れてる…」

「や…」

恥ずかしくてたまらず、リンは衝動的にどこかに隠れてしまいたいとさえ思う。

「だが…まだ、十分ではない…」

ラスが大きくリンの足を開き、己の身体で割った。リンは思わずぎゅっと瞳を閉じた。だが、次の瞬間感じたものは、熱くぬめっとした柔らかいものが、自分のそこにあてがわれた…割られた…差し入れられた感触だった。

恐ろしい程の羞恥と物狂おしい感触に高い声が出た。

「あああっ…やっ…なに…?」

見なくてもわかった…ラスが、舌で、唇で、股間の合わせ目を舐めあげていた。丹念に丁寧に…

思わず発した問いは、ラスの舌にもたらされる未知の感覚に対してだった。

ラスの舌が合わせ目に差し入れられる。下から上へと舌が動く、股間の上の方に舌がかかると、腰がびくんと跳ねるように動いてしまう。

つい腰が引けそうになる。怖いとか、嫌だとか全く思っていないけど、恥ずかしくてたまらない、どうしていいかわからなくて…何でこんなことをするのかわからなくて…

「や…ラス…やめて…そんなこと…汚い…」

「おまえの身体で汚い処などない…」

リンの言葉などかまわないという体で、ラスの舌はむしろ動きを早めていく。

舌はもう股間全体を割っていない。股間の上方の1点を狙って尖らせた舌先が、何かを探して…それは捕らえられた。

「ああああっ…」

びりっとした鋭い刺激が身体を駆け抜けた。リンは思わず悲鳴のような声をあげた。

だが、ラスは、むしろ意を得たように迷いなくその1点を舌で弾き始めた。

熱く濡れたものが、鋭く触れてくるたびに、痺れるような身体が熔けるような切羽詰まった感覚が身体を満たす、四肢から力が抜ける。頭が真っ白になって、何も考えられない。自分がなくなっていきそうで…怖い…

動物の交尾も見ていた。一族の女が出産する時は、女手総出で手助けするから…生殖のことは自分では、わかっているつもりだった。…なのに、違う、全然違う…こんなの知らない…こんなことをするのも…この頭の芯が痺れるような感覚も…この知らない感覚が不安なのに…それをもっと…と、どこかで願っているような自分も…

「ラス…私…変…変なの…」

ラスがはっとしたように、愛撫を緩めた。

「嫌か?」

「嫌じゃない…でも、こんなの知らない…私、こんな風にするなんて知らなかった…だから、自分がどうなっちゃうのかわからない…自分がなくなってしまいそうで…」

「怖いか…?」

「ん…ごめん…でも、ラスが怖いんじゃないの…」

リンは自分の手で顔を覆い隠してしてしまう。

「わかってる…気にしなくていい…」

ラスはリンの手を取って顔を開かせた。なだめるように口付ける。

「初めてのとき、女は辛いと聞く。だから、少しでも辛くないように濡らしてやりたいと思った…だが、俺も少し逸ってしまった…すまない…お前の身体に夢中になってしまった…お前は…とても綺麗で…触れずにいられなかった…」

「ラス…」

かぁああっと頬が熱くなるのがリンは自分でもわかった。ラスは…嘘は言わない、心から感じることしか口に出さないとわかっているからこそ、恥ずかしくてたまらない。しかし、同時に羞恥よりももっと強い喜びが沸き起こった。

「俺は…おまえが嫌がることはしない…だから何も恐れる必要はない…といっても…難しいか…?」

「ううん…そうよね…私…何を怖がっていたんだろう…ラスが傍にいるのに…誰より傍にいてくれて、今、もっと近くなろうとしているところなのに…ラスがいてくれれば何も怖くないのに…」

「リン…」

「ラス…私はラスが好き…ラスともっと近づきたい…ラスとひとつだって感じたい…」

「ああ…俺もだ…」

もう1度口付け、ラスは告げた。

「なるべく…辛くないようにする…」

「ラスと結ばれるのに…辛いことなんてない…」

ラスは黙って微笑み頷いた。子供をあやすようにリンの髪を撫で、頬を撫でてから、腕は確信を持ってリンの腰を支えた。とうに限界まで張り詰めていた怒張をあてがう。リンの足に硬い緊張が走ったことが感じられた。

「力を抜け…」

「あ…」

言われて、リンが力を緩めたその一瞬に、ラスは思い切りよく己を突きたてた。

「くぅっ…」

リンが渾身の力でぎゅっとラスにしがみついた。ラスの背にぎり…とリンの爪が食い込んだ。

「っ…リン…もう、少し力を抜け…」

ラスが息を荒げた。リンの爪は何ら苦痛ではなかった。ただ、リンが声を殺して苦痛に耐えている様子が、見るに忍びない。リンを少しでも楽にしてやりたい。力が抜けないので、余計に辛いのだろうと思った。実際、リンの肉壁は十分潤っているにも拘らず、緊張と痛みのためか、ラスのそれ以上の進入を拒んでいるかのように硬く強張っていた。

「やっ…だめ…できなっ…」

だが、リンは固く目を閉じて、首を振る。必死になって、溺れるもののようにもっときつくラスにしがみついてきた。

痛みには慣れているつもりだった。刀傷、魔法傷、矢傷…瀕死の重傷を追って、シスターや司祭にすんでのところで助けられたこともあるのに…痛みには強いと思っていたのに…こんな痛み…身体が内側から裂かれるような痛みは未経験であるがゆえ、やり過ごす術がわからない。

力を抜けといわれても、どこをどうしていいかわからなかった。

固く食いしばっていた唇に、ラスの暖かい唇が降ってきて重なった。何度も何度も…なだめるように、いたわるように…

『ラス…』

暖かく優しい唇に身体の強張りが解れていくのがわかった。苦痛が少し薄れた。同時にラスの存在を…自分の中に在って、今、つながっているラスの存在を強く意識した。

『ラスが私の中にいる…私とラス…今、ひとつになっている…』

そう思った途端、爆発するような歓喜がリンの全身を充たした。

その喜びはリンが今まで経験した喜びのどれとも違っていた。

祖父が生きていると知らされた時よりも、ラスが私を待っていると言ってくれた時の喜びとも違う。もっと激しく、荒々しく、私の魂を根底から揺さぶるような強く深く根源的な喜び。

「ラス…ラス…もっと、きつく抱いて…」

「リン…辛くないか…?」

己の怒張が…しかも、硬く張り詰め切っているものが柔らかな肉壁を分け入り、押し入ったのだ。苦しいに決まっているではないか…でも、中断する気はなかった。ここで退くことはリンの本意ではないという確信があった。

「痛いけど…でも、嬉しい…ラスとこんなに近くなれて…こんなにラスの傍にいられて…」

「ああ…俺も…おまえをこの腕に抱けて…幸せだ…」

ラスがもう1度深々と口付けた。

「おまえは、もう1人ではない…1人になることはない…俺と結ばれたから…俺がおまえと供にいるから…」

「ラス…」

リンが弱弱しくはあったが、うっすらと微笑んだ。それは受容の証に思えた。その笑顔に、ラスも、もう、自分を堰き止めておけなくなった。

「っ…動くぞ…」

ラスがゆっくりとリンの身体に覆いかぶさってきた。リンは、思い切りラスの身体を抱いた。それが合図のようにラスがゆっくりと律動を開始した。

「うっ…つぅっ…」

やはり、動かれると擦れるような痛みがある。

ラスが、再び口付けてきた。きつく舌を吸われる。

どこもかしこもラスとつながっている気がした。全身でラスを感じる、ラスの脈動を身体の1番奥深い処で感じられる。苦痛は厳然としてあったが、結ばれている充実が、喜びが確かにリンの身体を充たしていく。

その喜びが、リンの身体をほぐし、蕩かせていく。肉壁が生硬なだけでなくなる。あまりに硬く締まって、ラスのものにも苦痛さえ与えるほどだった肉壁が和らぎ、ラスの怒張を吸い付くように包みこんだ。

「くっ…」

思わず声が出た。自身が熔けてしまうような快感に捕まりそうになり、ラスは1度身体を起こした。リンの膝下から腕を回して足を抱え込み、突き刺すように、己を深々と突きたてた。

「やぁっ…はっ…あぁっ…」

リンが苦しげに眉を顰めた。むずかるように首を打ち振る。

その姿を見ていると、もっと乱したくなる。徐々に律動が早く、激しくなっていく。抑えられない。

少なからぬ苦痛を与えている。そうわかっていて、もっと、リンをめちゃめちゃにしてしまいたいような凶暴な衝動が、ラスを突き動かした。

ラスが1度引き抜いた。

リンは一瞬「終わった…の?」と思った。次の瞬間、身体を裏返しにされていた。あ…と思う間もなく、臀部をしっかりと抱えられ、身体の中心を再び思い切り刺し貫かれた。

「あああっ…」

自身がラスに突き抜かれたような気がした。自分の内部がラスだけで埋め尽くされたような気がした。

一瞬気が遠くなって、そのまま寝台に突っ伏しそうになったが、ラスはそれを許さなかった。なお、力を込めて臀部を抱え、思い切り容赦なく己を突き立ててきた。

「あっ…くふっ…やぁっ…はっ…」

内部をえぐられるような、荒々しい律動に、肺から呼気が絞りだされる。

痛い、苦しい、息ができない、でも、苦痛だけではない何かがある。ラスに身体の最奥を突き上げられるたびに、ずしんと体中に響き渡るものがある。塊のようなものが身体の中に満ち満ちていく…破裂する、破裂してしまう…

「ラス!ラス…だめ…私…もう…」

ぐい…と、束ねた髪ごと頭を引っ張られた。ラスが、リンの長い髪を拳にまきつけて手綱のように引いていた。半ば無理やり後ろを向かされたリンの顔にラスの顔がかぶさる。髪を引かれたまま、むさぼるように唇を吸われた。片手だけで支えた腰を持ち上げんばかりに、ラスは、更に律動を早める。リンの唇をふさいだまま思い切り奥を狙うかのように、深々と、力強く突き上げた。

「んんっ…んぅっ…」

ラスのものが、最奥までを貫ききったまま留まった、瞬間、熱いものが、リンの下腹部いっぱいに広がった。その熱が全身に染み渡っていく。

『熱い…ラスの…命…充ちていく…』

リンは今まで感じたことのない十全感に充たされた。自分の欠けた部分が埋めつくされたような、信じられないほどの幸福を伴う充実感だった。

ラスが、漸くリンの髪を離した。途端に寝台に沈みこむリン。その身体に上にラスの身体が更に覆いかぶさった。

リンがゆるゆると顔をあげた。霞がかかったような瞳でラスを見つめた。

リンの荒い吐息とラスの荒い吐息が重なる。

「リン…おまえが…好きだ…」

ラスが、リンの顎をぐいと掴み、もう1度、此度は包みこむような穏やかな口付けを与えた。

1度身体を起こして、リンの身体を抱き寄せ、大事そうに抱きしめなおした。

リンは身体がとろけきってしまったような恍惚感に浸ったまま、ラスに素直に身をゆだねる。股間の痛みは今も在ったが、そんなことなど気にならないほど幸せでたまらなかった。ほぅ…と、吐息がこぼれた。すると、ラスがぽつりと言った。

「リン…クトラの始祖は狼だと知っているか…?」

「え…?いえ…知らなかった…だから、クトラの族長は代々『灰色の狼』の称号を持つのね…」

頭がぼんやりして、ラスが何を言わんとしているのか、リンはよくわからないまま思ったとおりのことを口にした。

「…狼は…生涯一夫一婦を貫く。1度愛した相手を死ぬまで愛しぬく…いや、時には死んでもなお…」

「そうなの…」

「だから…死ぬな…リン。決して死ぬな…」

ラスが、リンの肩をきつく抱いた。

「ラス…」

リンは、はっとして顔をあげラスを見つめた。

「伴侶を失った狼は…そのまま自死することさえある…おまえは、俺の伴侶となる…俺の子を産むのはおまえだけだ…だから、死ぬな…絶対に死ぬな…」

「ラス…」

「俺も…おまえを置いて死なない。約束する…」

「ラス…ラス…ええ、約束する、私は死なない。ラスも死なせない。私がラスを守る…」

「ああ、俺も約束する。俺も死なないと。俺もおまえを守ると…そして…草原で暮らしていこう、2人で…俺たちの子供とともに…」

「ええ…ええ…」

リンは、裸のラスの胸にしがみついた。また泣いてしまいそうだった。

どうして、ラスの前だと、こんなに簡単に涙が出てしまうんだろう…でも、それが…そういう人と共にいられることが幸せというのかもしれない…

ラスの身体をきつく抱きしめた。ラスもリンの身体を抱き返してきた。

ラスは死なせない、私も死なない。2人で生きて行くために、明日…戦いに赴く…

リンの心は、1点の曇りも迷いもなく、澄み切っていた。未来への希望に充ち、戦いの前とは思えぬほど穏やかな気持ちだった。ラスの瞳も澄んでいた。きっと、同じ気持ちだから…素直にそう思えた。

いつしか2人ともに眠りに落ちていた。互いに互いを暖めあいながら…

Fin

ラス×リン 愛の契り


 いつか書くといっていたラス×リン、漸くかけましたー!しのちゃんに、サイト3周年のお祝いに、わざわざラス×リンイラストをおねだりして、↑の絵を描いていただいていたのに、お話をつけるのがこんなに遅くなってしまって、しのちゃん、いっつもありがとう&遅くてごめんねー!
 ラス×リンはゲーム中で支援会話を発生させますと、公式に「リンは祖父を看取った後、草原に帰ってラスと再会し、娘をもうける」って後日談が出るのですね。なので、ラス×リンというカップリング自体は妄想ではありません、オフィシャルなのよー(笑)
 もちろん、リンと結ばれる可能性のある男キャラは他にも多数いるのですが、私がリンには絶対ラス!と思ったのは、色々なキャラとの支援会話で、リンが弱音を吐く(弱い部分をぽろっと見せる)のは、このラスに対してだけだったからです(私はそう思った)。
 もともとリンという女の子は保護欲が強いというか、包容力があるし、自分を叱咤して強くあろうと意識すれば強くあれる子なんですね。だから他の男キャラが相手だと、その男の辛さを受け止めてあげる、みたいな部分が強く出るみたいなんですね。でも、リンだって、相当悲惨な過去があるわけなんですが、それでも、リンは耐えてしまう、泣かないって決めたら泣かないし、自分の心を強くもって笑うこともできる。自分より弱いと思う存在は、とにかく守ろうとしてしまう。そんなリンが唯一甘えて、弱みを出せるのがラス…だと私は思ったんです。で、もうこのカップリングは私には固定となりました(笑)
 でも、作中でも語ってますように、リンもラスも戦いの後は1度それぞれの故郷に帰ってしまう、これも事実でして、このままだと、2人の仲は自然消滅…ってことになりかねません。で、2人の間にきっちり約束があったに違いないと思って書いたのがこの話です。
 実際、現実だけを積み重ねていきますと、リンは祖父の許に帰らざるをえない。しかも、ラスは、リンが「(祖父を)失いたくない…もう、1人はいや…」という心の慟哭を聞いてしまってます、こんなリンを攫って駆け落ちなんて、ラスにはできるわけありません。ラスは、多分、心惹かれるものはあっても「所詮、一緒にはいられない」と、諦観してしまっていたと思うんです。実際、話を書いていたら、2人はどんどん別れる方向に、別れる方向に台詞が進んでいってしまって、自分で「こ、こんな筈では!?」と途中まで冷や汗たらして書いてました。
 で、ラスのこの諦念を打破するにため、リンに、思い切って行動に出てもらいました。実際、支援会話見ていると、この2人の場合、必ずリンの方からの働きかけで仲が進展していますので、そう不自然ではないと思うんですが、どうでしょう?リンは弱気な女の子ではないですしね(強がるところがかわいいのよ)
 何よりラスは、オトナの分別で現実がわかりすぎてますから、自分からは動かない。となると、リンが思い切って動かないと、この2人はやっぱり自然消滅になってしまっていたんじゃないかと思いまして、このような展開にしてみました。
 ラスの部族は狼を始祖とするという言い伝えも、個人的に萌えでして、「狼王ロボ」のように、狼は深く伴侶を愛するので、きっとラスも1度心を決めたら熱いぞー!と解釈しました。
 あ、でも、公式支援会話を元ネタにはしていますが、もちろん、細部は私のでっちあげですから、100%オフィシャルだとは思わないでくださいねー。
 ついでに、最後の戦い前に初体験なんて、リンの身体が心配〜と思ってくださった方。オフィシャルでは、この城下一泊した後(この話)、この軍は翌日城下町で武器の補充&闘技場に一章費やします。しかも、敵の本拠地まで船で多分1日はかかるみたいなので、身体の丈夫なリンなら、この間にダメージは快癒していたと思います。ラスも1回しかしてないし(笑)
 ファム・ファタル(運命の女)っていうのは、男を破滅させる悪女の別名みたいなイメージがありますが、この話のタイトルでは、そういう寓意はなくて、純粋に単純に、「ラスにとって、リンは運命の女、リンにとってラスは運命の男」という意味でつけました。
 この話で「ラス×リン」っていいいかもーと思ってくださる方が1人でもいてくれたら嬉しいなと思っております(それ以前に当サイトのお客様はFEには興味ないかも…って気もしますが・爆)

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