オスカーはご機嫌であった。出張した際の報告書をジュリアスに提出し、もう直帰する旨も伝えてきた、報告書は完璧に制作したつもりだった。何の問題もない筈だと自信を持って断言できる。そこで足取りも軽く補佐官の執務室に向かっているところである。
転送の間には職員が多数いて、あまり詳しく私語できなかったが、出張土産もたくさん買ってきてある。それより何より、アンジェリークがあまりに嬉しそうに瞳をきらきら輝かせて自分を出迎えてくれたその様子に、自分も嬉しくてたまらなくなってしまい、思わず「早く抱きたい」ともらした本音を、アンジェリークは怒ったりはねつけたりせずに、もっと嬉しそうに頬を染めて受け入れてくれたものだから、オスカーはますます嬉しくて幸せでたまらくなっていた。
コンスタントに出張があるのは、正直にいって嬉しくはないのだが、自分は昔から出張が多かったから、まあ仕方ないとも思っている。仕事とはそういうものであろうし、アンジェリークに各星系の土産を買ってきてやれ、喜ぶ顔が見られると思えばあまり腹も立たない。それでも、こうして帰還できた日、それを満面の笑みで迎えてもらうのは、また格別の喜びである。あの笑顔で出迎えてもらえるのなら、出張も悪くないなとさえ思える。が、その喜びも、2人で過ごす時間の甘さに比すれば格段に香気に劣る。早くアンジェリークと2人きりになりたい。だから残業などしなくてすむよう、速攻で報告書を提出してきたのだ。
「お嬢ちゃん、報告書も出したから一緒に帰…」
補佐官室の扉をノックしながら入室したオスカーは部屋の内部をぐるりと見渡し、お目当ての妻がいないことに気づいた。誰かの用向きでどこかにお使いにでも行っているのだろう。留守居の女官も3Dメッセージボードもないから、この留守はほんの一時的なものであることも見てとれたので、オスカーはそのまま待つことにして、補佐官室のソファに腰掛けた。
「ん?」
珍しく補佐官室の床に何かが乱雑に散らばっている。オスカーは何の気なしにそれをひょいと取り上げた。書類や書籍が机から落ちたのであれば戻しておいてやろうと思ってだ。それは書類ではなかった。雑誌にしては薄いな…ああ、何かのパンフレットか、カタログか?と、他意なく表紙を見た瞬間、僅かに眉が動いた。
「ほう…」
中身をぱらぱらとめくってみる。間違いない。これは魅惑のランジェリーカタログであった。しかも、ちょっと見にもゴージャスで手のこんだものばかりのようだ。
「お嬢ちゃんは下着を新しく買うつもりなのかな?それとも単にDMか何かで送られてきたのかな?…」
オスカーは、単純かつ、ほんの暇つぶし程度の好奇心でそのカタログをめくってみた。下着のカタログで興奮するほど青くはないし、モデルも、まあ、この仕事なら標準と思われる容姿だったので、特に心を動かされるようなこともない。アンジェリークに似合いそうなものはあるだろうか、位の気持ちである。
「これは…なかなか良い物がそろっているみたいだが…お嬢ちゃんの常日頃身につけているものとは傾向が違うようだな…」
このカタログのランジェリーは、一目見て高級なものだということは容易に知れた。レースは繊細かつゴージャスで工芸品のような緻密さであり、そんなレース使いのモチーフを多用しているので、全体にラグジュアリーな雰囲気である。ラインが大胆なものや、シースルーの部分も多々あるのだが、モチーフ自体はかわいい花柄が多いので、受ける印象はこれみよがしにセクシーというよりは、コケティッシュというほうが近いだろうか。甘いイメージで、ほのかに色っぽく、かつ上品である。
「うん、なんというか、ちょっと大人になったお嬢ちゃんのイメージだな、これは…どれを着せても似合いそうだが…でも、お嬢ちゃんは、普段、あまりこういうものは、身につけないみたいだからな…」
それが、ちょっと残念なオスカーである。アンジェリークはいかにも10代の女の子がつけそうな清楚な下着が好きなようだった。毎日自分が彼女の服を脱がして、下着を外しているのだから、見ていれば自ずとわかる。かわいらしい花柄のブラも、愛らしいリボン柄のショーツもアンジェリークが身につけていれば、オスカーはかわいいなと思う。だが、その一方で、こういうものも身につけてみればアンジェリークにきっと似合うし、すっごく色っぽくて、別の意味でかわいいぞーと思うのだ。オスカーは、かわいい下着のアンジェリークも好きだが、セクシーな下着のアンジェリークがこの上なく魅力的なことも知っているから尚更だ。
オスカーは、新婚初夜に、ウェディングランジェリー姿のまま、アンジェリークが意識を失うまで愛して愛して愛しぬいたあのめくるめく夜…と昼の記憶を忘れたことはなかった。
ウェディングランジェリー姿のアンジェリークは、この世のものとは思えぬほど愛らしく色っぽかった。一点の曇りもない清らかさと、男の欲をそそってやまない艶っぽさの両者を何の矛盾もなく備えた稀有の存在だった。ウェディングドレスを脱がし、恥らって頬を染めるアンジェリークを見たその瞬間からオスカーの頭は沸騰状態となった。
しかし、そのため、ありとあらゆる体液まみれ(しかも2人分)になってしまったランジェリーはその正味1日で廃棄せざるを得なくなってしまった。とても洗濯やクリーニングでどうにかなる…とは思えないほどかぴかぴのべたべたにしてしまったのだ。それに懲りたのか、単に好みでなかったのか、アンジェリークは結婚式以来あまりセクシーな下着をつけてくれなくなってしまい、結果、その1夜はまさに夢のような1夜となってしまった。オスカーには、できることならば、めくるめくあの1昼夜よもう1度!という気持ちが抜きがたくあるのだが、自分の好みを一方的に押し付けるのもどうかと思い、アンジェリークのランジェリーに口出しするのは控えていた。
だが、アンジェリークもこういうカタログを見ているということは、このうちのどれかを購入してくれるかもしれない、そうだと嬉しいのだが…なんて思う。
アンジェリークが新しい下着を買って身につけるのを見るのは純粋に心弾むことだし、どうせなら、こんな美麗なものを身につけてくれたらもっと嬉しい。芸術品のようなランジェリーを身にまとった女性の美しさは、男には純粋に憧憬と賞賛の対象であるし、最近、アンジェリークの身体はとみに女性らしいまろみが増しているので、若干大人っぽいデザインのものでも、綺麗に似合うと思うのだ。
「何せお嬢ちゃんは、俺の熱情でもって、身体の成熟著しいからなぁ。おしりはぷりんと張りがあって、ウェストはきゅっと絞ったみたいに締まって、特に胸は…昔は俺の掌では若干隙間ができるくらいだった胸の膨らみも、いまや、俺の掌からはみ出さんばかりだし…」
なんてことも思い出してしまい、つい、顔がにやついてしまう。
アンジェリークも嫌がってなかったことだし、私邸についたら速攻で胸の成長を再度確認して、俺の目に狂いがなければ、このカタログの中のどれかを薦めてみようか。いや、それは何でもおせっかいがすぎるか?下着に口出しなんかして「オスカーさまのえっち!」と嫌われるのは嫌だしなぁ、でも、このカタログのランジェリーは捨てがたい…なんて思いながら何気なく次のページをめくったとたん、オスカーは「うぉ…」といったきり、手の動きが止まってしまった。
「こ、これはなかなか…」
オスカーの目を引いたのは、総レースのキャミソールと、それと対になっているらしいTバックのショーツであった。キャミソールは肌がすべて透けてみえる目の細かいレースでできており、薔薇のモチーフレースが、胸元と、おなかを斜めに横切る部分と、裾に贅沢にあしらわれ、かわいいお尻がちらっと見えるくらいの絶妙な丈になっている。黒のTバックはキャミソールのレースと同じ薔薇のモチーフが…ただし、色は真紅のそれが一輪、臀部のTの合わせ目のところに留め具のように縫い付けられていた。写真はTバックのモチーフのアップしか載っていなかったが、このTバックに彩られたお尻はさぞかし印象的な眺めであろうことは容易に想像できた。
「…お嬢ちゃんも今1度こんなセクシーで大胆なランジェリーも身につけてはくれないだろうか…」
オスカーは、ついつい、自らのその望みのままに下着のモデルの顔をアンジェリークのかわいらしい顔に挿げ替えるという、怪しいアダルトサイトのような真似を脳内でしてしまい、自分の想像に思わず鼻血を噴きそうになった。当然下半身は激しく勃起してしまう。
「…4日間の禁欲が利いてるぜ…」
カタログのランジェリーは代表として黒の物が大写しとなっているが、色は他にも各色そろっているようである。だが写真で見る限り、やはり黒のそれが繊細にして美しく、セクシーなことこの上なく思われた。
そして、写真を見れば見るほど、このランジェリーをアンジェリークが着てくれたらどんなにかわいらしいことか、と思ってしまい、中々勃起がおさまらない。
なんとか気を紛らわそうと、他のページをめくっても、1度やると癖になるのか、脳内にその道筋ができてしまうのか、ついつい、他のランジェリーでも禁断の顔挿げ替え作業を条件反射でしてしまう。それがまた、どれもこれもアンジェリークに似合うようなので、ますます「くぅ〜!たまらん!」な気分になってしまったその時であった。
「はあ、思ったより遅くなっちゃった…」
いつもはこの上ない喜びを持って耳で味わう鈴を転がす愛らしい声に、これほど「どっきーん!」としたのは、初めてだったかもしれない。オスカーは慌ててカタログを手近にあったかばんに押し込んだ。
女性の下着カタログを見てやに下がっていた…と誤解されるだけでも言い訳困難なのに、ましてや自分は勃起している。何とか収まるまでに、この下半身の状態がばれたら言い訳の仕様がない。下着モデルを見て勃起していたなんて思われたら、アンジェリークが怒るか、悲しんで泣くか、少なくともいい気分はしないだろう。かといって、正直に「モデルの顔をお嬢ちゃんの顔に挿げ替えて想像してたから勃起した」なんて言おうものなら、「オスカーさまの変態!」と別の意味で激怒されること必至に思えたからである。
ちょうど、カタログを仕舞い終わったときに、アンジェリークが部屋に入ってきた。すぐにオスカーに気づく。
「…あ!オスカーさまっ!いらしてたんですかっ!」
アンジェリークは目をまん丸にして、直後に喜びを隠せない表情で、軽やかにオスカーの許に駆け寄ってきた。
だが、オスカーに息がかかるほど近づく一歩手前で、突然もじもじとはにかんだように立ち止まった。
オスカーはそんなアンジェリークにやわらかく微笑みかけた。愛らしいアンジェリークの姿に純粋に愛しさがこみあげ、その分、妄想がなりを潜めてくれたのが幸いだった。やはり、本物のお嬢ちゃんの愛らしさに比ぶるものはないな…と、素直に思える。
「お嬢ちゃん、迎えに来た。一緒に帰ろうと思ってな。もう仕事は終わりか?」
「あ、はい、今終わらせてきたところです。あの…オスカー様…」
アンジェリークは、意識してしまってオスカーの目をまっすぐに見られず、ついもじもじしてしまう。さっき耳元でささやかれた言葉が脳内を繰り返しリフレインしているせいだった。
「ん?」
「いらしてたんなら、呼び出してくださってよかったのに…いっぱいお待たせしちゃいました?」
「いや…それほど待ったわけじゃない。気にしなくていい…」
オスカーはなるべく表情を変えないよう、冷静に見えるように努めて答えた。アンジェリークに下着カタログを見ていたことはどうやら悟られなかったようなので安堵する。
「じゃ、帰るか?」
「はい、オスカー様…」
アンジェリークは、いつもと変わらぬどころか、いつも以上に冷静なオスカーの態度にほっとするような、少し落胆したような気分で帰り支度を始めた。
『あの言葉は…私の思い込み?空耳だったのかな…なんだが、気がぬけちゃったかも…』
落胆の思いが表に出ないよう、意識を切り変えたくて片隅においてあったかばんを手に取った。見ると、カタログが乱雑にはみ出している。
「あら…カタログがはみ出しちゃってる、私ったら慌てて、きちんとしまってなかったのね…」
と1人言を言ってからかばんを持ち直した。ちょっとだけ躊躇った後、オスカーの腕にきゅっとしがみついた。
じんわりと幸福感がこみ上げてくる。オスカーが自分の隣にいてくれて、一緒に同じ家に帰れることが嬉しくて、一瞬感じた落胆も気にならなくなった。
「オスカーさま、改めて、お帰りなさい。こうしてオスカー様と一緒に家に帰れて、私、嬉しい…」
はにかみながら、頬を染めて訴えるアンジェリークの愛らしさにオスカーはくらくらしてしまう。『カタログがはみ出している』というアンジェリークの言葉に肝が冷えたために同時に醒めてくれた下半身の血流がまたも激しく逆巻いてしまうオスカーであった。
帰りの馬車に乗り込んだ途端、アンジェリークはオスカーの膝の上に乗せられた。
あ…と思う間もなく、唇をふさがれた。条件反射のように逞しい首に腕を回し、唇を開いてしまった。そんな自分の大胆さに驚く気持ちもあるけれど、これは、いつも自分の心がオスカーに開かれ、オスカーを求めているからだとも思う。間髪をいれず熱い舌先が入り込んでくる。めまいがするほど、それが嬉しい。何かを請うように、丁寧に、オスカーの舌はアンジェリークのそれに絡みついてくる。
時折、魚の跳ねるような微かな水音が馬車の内部に響く。絡みつく舌の熱さに、吸われる感覚に、意識が少しづつぼうっとかすんでいく。同時にじわじわと喜びと期待が胸を満たしていく。
オスカー様…私を早く抱きたいって言ってくださったの…私の空耳じゃないって思ってもいいの?だって、こんなにもキスが熱い…
自分もオスカーを求めてやまない。だから、求められることが嬉しい。オスカーを抱く手に力がこもる。
オスカーも衒いなく自分の求めに応じ、更なる熱意で自分を欲してくれているアンジェリークが愛しくてならない。その小さな身体全体を撫でさするように手を滑らせた。
「?」
抱きしめてみて気づいた。いつもある布の感触がない…?背中を満遍なく撫でまわしてみたが、やはりないようだ。
『珍しいな…』
オスカーは自分の腕の中に収まっているアンジェリークを改めて抱き直した。何故、いつもあるはずのものがないのか、ちょっと苛めてみたくなってしまう。そして、この程度の事態にわくわくしてしまっている自分を若造のようだと思い内心苦笑した。
オスカーは1度口付けを解いて、唇をアンジェリークの耳朶に寄せた。耳の輪郭を唇で食み、舌先を尖らせて耳の内側をくすぐる。
「ふぁっ…」
アンジェリークがくすぐったそうに身をよじるので、自分から逃げないように腰をぐっと引き寄せた。
だが、そんな必要はなかった。アンジェリークは自分から身体を寄せてきてオスカーに小さなキスをしてから、少し拗ねたような口調でこう言った。
「オスカーさまが迎えにいらしてくださった時、あんまり落ち着いていらしたから…私、さっき聞いた言葉は空耳だったのかと思って、少しがっかりしちゃってたんですよ…」
「がっかり?」
オスカーは言葉が弾むのを押さえらない。
「あ!」
アンジェリークは、自分の発した言葉の裏側に内なる望みをはっきり乗せてしまったことに気づき、元々染まりかけていた頬は夕日を浴びたような朱色に更に色濃く染まった。そのままオスカーの胸に顔をうずめてしまう。
「じゃあ、お嬢ちゃんは俺の言葉が嬉しくて…期待して待っていたのか?」
「………」
アンジェリークは黙ったまま、困ったようにオスカーの胸板に頬をすりつけているばかりだ。
そんなアンジェリークの背に腕を回して優しく撫でさする。自分が、努めて冷静な顔を繕っていたせいで、こんなに嬉しい台詞を聞かせてもらえるとは思ってもいなかった。
「空耳のわけがない。俺はいつもお嬢ちゃんを欲しいと思っているんだから…そして、俺の求めに喜びをもって応えてもらえて、これほど嬉しいことはない…」
「オスカーさま…」
「じゃあ、これも、…お嬢ちゃんが、俺と同じ気持ちだからかな…?」
「?」
アンジェリークはオスカーの言葉の意味がわからず、思わず顔を上げたところで、馬車が止まった。反動で身体がかくんと傾いだ。
「折りよく我が家に到着だ。お嬢ちゃんの気持ちの現れは、これからじっくり検分させてもらうとしよう」
「え?あのあの、それって…」
どういう意味ですか?と問う前にオスカーは馬車を先に降りて、腕を伸ばしてアンジェリークを抱き下ろしてくれた。
「お帰りなさいませ」と出迎えてくれた執事に、オスカーはマントを預けながら『夕食は…そうだな、2時間後に頼む』と命じた。その意味するところがわかって、アンジェリークはまたも頬を染めるが、できた執事は平然と受け流してくれるのが救いだ。
2階の夫婦の寝室に入るや否や、オスカーはアンジェリークをぐいと抱き寄せ、服のファスナーをさっと下ろしてしまった。
「きゃ…お、オスカーさま、あの、シャワーを…」
「このままでいい…いや、このままがいい」
手際よく腕を抜かれて、補佐官服が床におちる。あ…と思う間もなくスリップ1枚にされ、アンジェリークはオスカーに大事に大事に抱きしめられる。そのアンジェリークに軽く啄ばむような口付けを何度も与えながら、オスカーは自分の服を無造作な、だが、流れるような所作でさっさと取り去ってしまう。
「ん…」
「シャワーを浴びる暇も惜しい。一刻も早く君を抱きたい気持ちは嘘じゃないんだ。それに…」
オスカーの唇が耳の下のくぼみに押し当てられた。
「あ…」
「久しぶりだから、俺はお嬢ちゃんの何もかもに飢えているんだ…お嬢ちゃんの甘い香りを胸いっぱい吸い込み、お嬢ちゃんを味わい尽くしちまいたい…」
話しながらオスカーは、舌を差し出してアンジェリークの首筋をゆっくり舐め下ろしていく。所どころに唇を押し当てて吸い、うっすらと痕を残しながら。
「や…そんな…はずかしっ…」
「どうしてだ?お嬢ちゃんはとてもいい匂いがする。甘酸っぱくて、それでいて俺をぞくぞくさせる妖しい香りがな…特にこの谷間の辺りが芳しいな…」
言うや、オスカーはスリップをつんと押し上げているその頂点を、艶やかな布ごといきなり口に含んだ。
「あっ…」
アンジェリークの乳首は柔らかな布1枚に隔てられているだけだったから、刺激は直接含まれたのとほとんどかわらない。痺れるような、むずむずするような快感がほとばしった。
「あんっ…」
「なぁ、お嬢ちゃん、今日はどうしてノーブラなんだ?寝ぼけて朝つけるのを忘れたのか?」
いたずらっぽい笑みを浮かべながら、オスカーはそのまま胸を揉みしだき、さらに先端を際立たせて、サテン地の布ごと軽く噛んだ。
アンジェリークを一刻も早く、そのままで味わいたい、というのがもちろん第一義ではあったが、アンジェリークにノーブラである事実をつきつけて訳を追求するためには、オスカーはアンジェリークにシャワーを浴びてもらうわけにはいかなかったのである。1度脱衣してしまったアンジェリークに「さっきノーブラだったろう?」というのと、今、否定しようのない状況で「なぜ、ノーブラなんだ?」というのでは、追い詰める度合いが違う。そして、アンジェリークが羞恥に染まり、困ったようにもじもじする様子がかわいくてたまらないと思っているオスカーは、こんな楽しいチャンスを逃す気はさらさらなかった。
「あっ…やっ…ちが…」
首を軽く振りながら、アンジェリークは頭にかーっと血が上っていくのが自分でもわかった。オスカー様が気づかない訳がないのに…私、今日はブラをしてないって…そうしたら、何故だ?って聞かれるにきまっているのに…
「じゃあ、お嬢ちゃんは俺に早く触れてもらいたくて、前もって外しておいたのかな?ん?」
「やぁんっ…ちが…」
ああん、ブラのサイズが合ってなかったからロザリアに没収された…なんて、恥ずかしくていえない、でもでも、オスカー様に…早く愛してもらいたくてブラを外しちゃってたなんて思われるのは、もっと恥ずかしい…どうしよう…
「違わないだろう?早く俺に食べてもらいたくて待っていたんじゃないのか?この、かぐわしい果実は…」
オスカーはスリップの肩紐をするりと下ろし、両の乳房をいきなり露出させた。先端はもう甘くとがって、オスカーを誘いかけている。オスカーは掌で掬いあげるように乳房を揉み、先端を二つ同時に指先できゅっと軽く捻ってつまんだ。
「あぅっ…」
つまんで際立たせた乳首をオスカーは交互に舐めはじめた。せわしなく、唇と舌が両の乳首を行き来する。
「あっ…あん…」
乳房を間断なく愛撫される感覚に思考がおぼつかなくなってくる。オスカーも愛撫に没頭して何も追求してこなくなったので、アンジェリークも、「もう、どう思われてもいい…だって私、本当にオスカー様に今、食べられて喜んでいるのだもの…だから…」という気分になってきてしまう。
オスカーが唇で乳首を挟み込んでは、わざと音を立てて吸う。手は大きく乳房をこねるように揉んでいる。アンジェリークの吐息が荒くせわしなくなっていく。吐息のリズムに合わせるように、オスカーの愛撫も急いていく。
なんだか、いつもより唇がせっかち、舌先が荒々しい…でも、すごく…感じる…どうしてこんなに感じちゃうの…?
アンジェリークの眉根が自然とひそめられる。
オスカーはアンジェリークの乳房の谷間に顔をうずめるようにすりつけ、感嘆するような、やるせないような吐息混じりにささやく。
「ああ…お嬢ちゃんのおっぱいは本当にかわいいな…真っ白で柔らかくて、いい匂いがして…」
「オスカーさま…私のお…胸、好き?」
「ああ、もう夢中だ…この、つんと尖った処なんて食べちまいたいくらいにな…」
指が食い込むほどにもまれると同時に、乳首をかりっと噛まれた。
「ぅくぅっ…ん」
少し荒々しい愛撫に、びくんと身体がはね、背中が反った。嫌じゃない、ただ、その衝撃に腰の力が抜けてしまい、アンジェリークはオスカーにすがりつく。さもないと、座り込んでしまいそうで。
「ほら、気持ちいいんだろう?言っちまいな?俺に早くこうされたくて、下着を外して待ってましたって…」
答えを促すようにオスカーはわざとぴちゃぴちゃと音をたてて、右に左にと乳首に大きく舌をまわした。
本当は違うのかもしれないなとも思う。お嬢ちゃんはねぼすけだから、単純に付け忘れたってことも考えられるが、それじゃつまらない。こうして「俺を誘っているんだろう?」と決め付けて、恥らわせる方がずっと楽しい。それが真実かどうかなぞ、極論すればどうでもいいのだ。
「あっ…やぁ…ちが…」
いやいやと首を横に振るが、それとは裏腹にアンジェリークの腕はもっと強くオスカーを抱きしめてしまう。心の求めるままに。
「ふ…どうかな?」
にやりと笑みを浮かべながらオスカーの手がスリップの内部に入ってきた。ショーツの上から、ふっくらとした花弁をさする。にじみでていた愛液のせいで、感じやすい部分にぺたりと布が張り付いてしまう。その感触が少し不快だった。濡れた布の上から弄られるのがいやで、むずかるように腰を引く。
「やっ…」
「なにが?」
ちゅっちゅっと乳首をついばみながらオスカーが尋ねる。
「あ…だって…」
布の上から触られるのが嫌…なんて、言えなかった。それはつまり、直に触ってほしいということと同義だから…
でも、すべてを見透かしているような笑みを浮かべたまま、オスカーはぺろりとアンジェリークの乳首を舐め上げた。
「んんっ…」
「お嬢ちゃん、下も脱いで待っていればよかったな…」
オスカーは乳首を嘗め回しながら、布の上から蜜をあふれさせている秘裂をなぞる。
「そうすれば、すぐに触れてやれたのに…」
「んっ…オスカーさまの…いじわるっ…」
「それは心外だな…胸はすぐに触ってほしくて下着を外していたんだろう?だから、こうして触れてるじゃないか。でも、下はショーツを穿いたままだったんだから…このままでいいんだろう?」
「やぁっ…ちがうの…」
「じゃあ、どうしてほしい?言ってごらん?」
意地悪だと思う、オスカー様はすごく意地悪だと思う。なのに、耳元で飛び切り甘い声でささやかれたら、思わず、望むところが口をついて出てしまった。
「触って…」
「触れてる」
「や…違うの…上からじゃなくて…ちゃんと…」
すがるような目でみつめられた瞬間、思わず、承諾の意をこめてオスカーは口付けを落としていた。本当なら、もっとはっきりアンジェリークの口から、求めることを言わせたかった。でも、自分の方の辛抱が利かなくなってしまった。アンジェリークに触れたいのは自分の方だから。アンジェリークがきゅっと首根っこにかじりついてくる。恥じらいからか、期待からか、その両方からか。
膝の下に腕を回してその身体を軽々ともちあげ、オスカーはここで漸くアンジェリークをベッドに横たえた。
ベッドに下ろすとき、アンジェリークの足がふわんと浮いた瞬間を逃さずショーツを外す。自分は半身を起こした姿勢でアンジェリークの横に寄り添う。
すかさず、指を秘唇全体に滑らせた。
「んんっ…」
とろとろに蕩けて溢れている愛液を花弁に塗りたくる。秘唇を押し広げ、すぐに花芽を露出させた。たっぷりと愛液をまぶした指の腹で押しつぶすように、そのかわいい肉芽をくりくりと転がしまわす。
「あぁっ…」
本当はこんなにすぐに触れる気ではなかった。もっと焦らしたかった。でも、自分の方がもう我慢できない。
愛液をすくって、花芽を転がすたびにアンジェリークがより強い力で、オスカーの首にぎゅっとしがみついてくる。甘えるようにオスカーに柔らかな身体をすりつけてくる。
その仕草に更なる愛撫をねだられたような気持ちになり、頭に血が上る。あふれる愛液の源を、その柔肉の感触を確かめたくて仕方ない。その思いのままにかわいいお尻を少し持ち上げて、後背からつぷりと指を差し入れ、熱くとける肉の坩堝をかき回した。もう片方の手は前から、肉芽を弄り回している。
「あぁっ…やんっ…はっ…」
「お嬢ちゃん、こっちはとろとろなのに…」
ぐいと、中指を目いっぱい奥まで挿しいれた。反射的にアンジェリークがきゅっと肉壁を締め上げた。
「ああっ…」
きつく締め付けてくる肉壁をなだめるように指をうごめかす。アンジェリークの背中がしなやかな弧を描く。
「こっちは、こんなに硬く尖らせて…いかにも弄ってほしそうだ…」
くちゅくちゅとみだらな水音をたて秘裂をかきまわす。同時に花芽をきゅっとつまんで右に左に軽く捻り、小刻みに指先で弾いた。そのたびに、痙攣するように秘裂が締まる。オスカーは無意識に息を荒げてしまいそうになる。このえも言われぬ感触を指だけで味わっているのは冒涜だとさえ思う。
「やぁっ…あっ…あぁっ…」
「そんなかわいい声を出すと…」
オスカーは自分に必死にしがみついているアンジェリークの腕を解くことに一瞬胸が痛む。でも、自分のほうがもう堪えられない。
「お嬢ちゃんを食べちまいたくなる…」
愛液を溢れさせて蕩ける秘裂を思う存分嘗め尽くしてしまいたい、触れてほしそうに硬くなっている花芽を口に含んで転がしてやりたい、彼女のために…いや、自分のために。そう、自分がそうしたくてたまらないのだ。
ぐいと細い足を開いて、自分の身体を割り込ませた。お尻の下に手を差し入れて、僅かに持ち上げる。蜜にまみれた花弁とむき出しにされた花芽が自分の眼前に開かれる。濃厚な愛液の香りとアンジェリーク自身の香りが渾然一体となって胸を満たす、そのすべてがオスカーを幻惑し、酩酊させる。
「や……そんな…見ちゃ…いや…」
「見ないと舐めてやれない…ほら…」
花をめでるように、閉じた唇で花弁全体をなでるように口付けた。口元についた蜜はもちろん綺麗に舐めとってしまう。
「あんっ…でも…はずかし…」
「大丈夫だ…舐めてる間は近すぎてよく見えないから…」
「じゃ…じゃ…早く、もっと舐め……っ!」
「早く舐めて欲しいのか?もっといっぱい?」
オスカーはこの上なく嬉しそうな笑みを浮かべ、アンジェリークを見つめる。
「やっ…も…オスカー様のばかっ!」
アンジェリークはオスカーに誘導されてしまった自分のおねだりの言葉の恥ずかしさに、顔をそむけて羽枕に埋もれてしまった。
オスカーはくっくっと笑ってアンジェリークの髪をなでながら
「俺にはこの上なく嬉しいおねだりなんだがな、お嬢ちゃん…」
と言うや、アンジェリークの望みを汲んで、舌を深々と秘裂に差し入れた。そのまま舌を何度も抜き差しして、愛液をすすりあげる。ぴちゃぴちゃと音を鳴らして、秘裂を舌先でかきまわす。自分の唾液と、アンジェリークの愛液が交じり合って、滴り流れシーツにしみをつくる。
「ふぁっ…」
そのまま秘裂の合わせ目にそって舌を上へと這わせ、花芽全体を口に含んだ。口腔内で器用に舌先でその鞘を剥く。剥いて晒した珠を舌先で味わうように転がし、弾き、唇で挟んでは吸い上げた。
「あああっ…」
「お嬢ちゃんの蜜は…甘露だな……」
「あっ…やっ…そ、そんなに強く吸っちゃ…あぁっ…!」
あとはもう意味のある言葉を発せなくなった。オスカーの、間断なく指と舌を同時に駆使する愛撫に頭の芯まで痺れ、思考は蕩けきってしまう。
オスカーは、秘裂に舌を差し入れるながら、鼻先で花芽をくすぐり、花芽を口に含むときは、指を秘裂の奥の奥まで突き刺すような気持ちで抜き差しを繰りかえした。花芽を舌で弾くたびに、肉壁がきゅうっと指を締め付けてくる。そのたびにこの肉壁全体に自分の剛直が包まれる感触がまざまざとオスカーの脳裏によみがえった。もう、待てない。
「だめだ…お嬢ちゃん、俺の方がもう…」
「おすか…さ、ま…」
息を荒げながらアンジェリークがうっすらと瞳を開け、オスカーを求めるように腕を伸ばした。その腕を片手一本で捕らえ、頭上に固定するや否や、オスカーは思いきりアンジェリークを自分のもので刺し貫いた。
「ああああっ…!」
熱い、きつい…熔けてしまいそうだ…
何かを振り切るように、間髪いれずに激しく腰をうちつけた。さもないと溺れてしまいそうな錯覚を覚える。
パンパンと肉をうつ高い音と、じゅぶじゅぶとまとわりつくような粘り気のある水音が同時に耳をつく。熱く柔らかな襞が生き物のように己の剛直にまとわりつき包みこんでくれる。ふくふくとした花弁は柔らかくしなやかに剛直を受け止め、抱きしめ返してくれるかのように感じる。なのに、自分は、この限りなく優しい受容に、凶暴な打ちつけをもって応える。思い切り突き立てては引き抜くことで、自分がどれほど彼女を欲しているか、欲していたかを伝える。
惨いほど容赦のない突きあげに、アンジェリークも力が入るのか、きつく締めつけてくる。
思わずうめき声がこぼれそうになる。若造のように抑えがきかない。噛み付くように口付ける。
「んむむ…んふぅっ…」
アンジェリークが苦しそうに喘ぐ。無理やりのように頭をうちふり口付けを解かれた。
「ふぁっ…はぁあっ…」
オスカーは1度腕の戒めを解き、アンジェリークの背に腕を回して思いきり強く抱きしめる。もちろん、その間も鋭く力強い突き上げのリズムは乱さない。
「くふっ…」
「アンジェ…アンジェリーク…」
首筋に、汗のたまった胸乳に、何度も何度も口付けを落とす。
「オス…カ……すご……あぁっ…」
「抱きたかった…君をこうして、思いきり…」
オスカーは、アンジェリークの足を大きく開かせると、渾身の力で楔を打ち込むように突きたて続ける。いくら激しくうちつけても、どれほどの勢いで貫いても、まだ足りない。俺の気持ちを伝えきれない、愛しきれないというもどかしさが、よりオスカーの律動を激しくしてしまう。
「や…だめ…もう、もう…壊れちゃ…ああっ!」
「すまん…加減できな………」
快楽が二次関数的に際限なく上昇していく。不可逆の感覚が背筋を駆け抜ける。…だめだ…もう…
「あぁっ!オスカー!」
「くぅっ…」
爆ぜる。ほとばしる。目の前に火花が飛び散ったかのような爆発的な快楽に目がくらんだ。
アンジェリークの頭を抱え込むように抱き、いくつものキスを落とした。
オスカーは常より早い射精を自分に許した。
もとよりこの1回で終わるつもりはない。終えるわけもない。ただ、1度開放してしまわないと、じっくり愛撫もしてやれないほど切羽詰っていた。
これで漸く…君をじっくり愛してやれる。
オスカーはアンジェリークの胎内に留まったまま、アンジェリークをきゅっと抱きしめなおした。改めて汗の珠の浮かぶ乳房全体を舐めては、乳首を口に含んで舌先で転がしては吸い始めた。
「お…おすか…さま…?」
オスカーの腕の中でアンジェリークが荒い呼気を収められぬまま、物問いたげな瞳でオスカーを見上げた。
「…今のはオードブル…いや、その前のアミューズだな…コースが始まるのは、これからだ…」
「え?え?だって…今…あ…」
アンジェリークは、今、はっきりと、とても熱いものが下腹部に染み渡ったような気がした…のだが、この確かな量感…ううん、圧倒的といっていい程の存在感は…そのまま?
「どうした…?」
オスカーが、すました風情でにやりと笑んで問うた。
「え?…オスカーさまの…あれ…?…大きい…?……」
自分で口にしたその瞬間に、顔中が熱くなった。
「やん…私ったら…」
思わず顔を覆い隠そうとした掌をとられて指を絡められ、シーツに押し付けられた。開かれた首筋から胸元へ唇と舌を這わせながら、オスカーがこういった。
「ああ、だから…これからだって言っているだろう?」
挨拶するかのように両の乳首をちゅっと吸い上げた直後、オスカーは身体をおこしてアンジェリークの足を肩にかけ、大きく腰を突きあげた。
「やああっ…」
「この角度だと効くだろう…?」
「あっ…あっ…やんっ…中…こすれて…あぁっ…」
「気持ちいいか?」
「んっ…いい…いいの、オスカーさまぁっ…」
「ああ、お嬢ちゃん、俺もだ…君の中は最高だ…」
「あああっ…」
オスカーはそのままほとんど結合を緩めることなく、アンジェリークを抱きかかえ、膝の上に載せて下から突き上げた。反転させて後背からのしかかって貫きもした。
姿勢を変えるごとに身体の奥の奥まで貫かれるような気がアンジェリークはした。
律動は力強さをまして行くばかりで、貫かれる速さと深さの加速に、アンジェリークの意識は、もう積み重ねられていく快楽を追いかけられなくなる。
「も…も…だめぇっ…」
身体が小刻みに震えるのが自分でもわかった。思い切りオスカーにしがみついた。何かが身体の内側から弾け、直後にとてつもなく心地よい脱力感が全身を覆った。
「おすか…さま…すき…」
とろとろでふわふわ…スフレになったような気分…目、あけてられない…
眠ったのか気絶したのか自分でもわからないくらい、すっと意識が闇に飲み込まれた。