STEP 3

お嬢ちゃん、なぜ、クラヴィス様を見て、そんなに楽しそうに嬉しそうに、にこにこしてるんだー!という衝撃と慄きに、俺は呼吸を忘れていたにちがいない。

だって、この後すぐ、お嬢ちゃんが俺の顔を見て、今しがたのニコニコより、もっと明確ににっこり笑いかけてくれ「遅くなってごめんなさい、オスカー様」と言ってくれた途端、ものすごく、呼気が楽になったからだ。

そうだ、お嬢ちゃんは、いつだって、朗らかでにこやかで和やかで、見るからに感じがいいし、久しぶりに娘と会って、にこにこ顔になるのは当然といえば当然、それだけのことで、特にクラヴィス様を見て楽しそうな顔をしたわけではないのだろう、と俺は自身に言い聞かせる。

デザートを仕込み終えた俺の娘と俺のお嬢ちゃんが、客間に戻ってきた途端に、当のクラヴィス様のまなざしも、この上なく、柔らかになった。と、同時に、あの見覚えある色香が、濃密に匂いたち始める。

「遅かったではないか…どこぞで迷子になっているのではないかと心配したぞ?」

「もう、クラヴィス様、私がこちらに住みだして間もないとはいえ、いくら何でも、お屋敷の中で、迷子になったりはしません」

「わからぬぞ?嫁してきてからというもの、おまえは、我らの夫婦の寝室から、ほとんど外に出たことがないのだし、たまに部屋の外にでる時も、いつも私と一緒だから、部屋の配置を覚えていないのではないかと案じられてな…」

「く、クラヴィス様…」

一連の台詞から、この半月、クラヴィス様が新妻たるわが娘をほとんど寝室から外に出すことがなかったのだということが否応なくわかってしまう。語るに落ちるとは、まさにこのことだ。そんな新婚生活を公言されて、娘は頬を真っ赤に染めて困っている。なのに当のクラヴィス様は全く悪びれた風もなく、むしろ堂々としている様に、俺は呆れるばかりだ。否、むしろ恥じらう娘の様子を、楽しんでいる風情さえ見受けられる。困った婿殿だ。

「いや、それは違ったな、私が、かわいい子猫を…おまえを片時も手放せないだけだったな…」

と、更に他人を赤面させる台詞を臆面なく発するや、クラヴィス様は、まだ、いすの傍らに立ったままだったディーの腰をぐいと抱き寄せると、己の衣で包み込んで懐にすっぽりと納めるような体勢で娘を膝上に乗せ、抱きしめた。

「きゃ、また、もう、だめ…クラヴィス様…」

「子猫の居場所は、私の懐の中と決まっているであろう?今、暫く、おまえが出たきり戻らぬから、私の懐はすっかり冷えてしまったぞ。おまえは、私の傍にいろ、温もりを感じられるほど傍にいることが、何よりも、私を慰め、喜ばせる、だから、ここにいろ、おまえは、ここにいるだけで、いい…」

クラヴィス様の声は、常より抑え目な分、なんともいえぬ艶があって、男の俺が聞いても、ぞくぞくするような色香があり、それも、また、俺を居たたまれない気分にさせる。と、同時にこのむせ返るような色香が、甚だ危険な物にも思え、俺は、いやーな予感を覚えつつ、恐る恐る、お嬢ちゃんの表情を横目で伺うと、お嬢ちゃんは、瞳をきらきらさせて、くすぐったさそうな面持ちで、とても嬉しそうな楽しそうな笑みを口元に浮かべて、娘夫婦の様子を見守っていた。

お嬢ちゃん、その、心から嬉しそうな笑みは、何ゆえだ?

そのきらっきらに輝いた、潤んだ瞳は、娘夫婦の仲むつまじさが、ほほえましいから…だよな?それだけだよな?

まさか…まさか、クラヴィス様の臆面もない惚気ぶりに、うっとり憧れちゃったとか、クラヴィス様の色気駄々漏れの声音にあてられて、どきどきして、ハートを射抜かれちゃったとか…そ、そんな心持ちでは、決してないはずだ。そうに決まってる。

だって、クラヴィス様が臆面もなく甘い台詞を告げているのは、かの人の妻となったディアンヌに向けてであり、決して、己が妻、アンジェリークに述べているわけではないのだから。

けど、お嬢ちゃんは、頬をばら色に上気させ、心から嬉しそうで楽しげだ。と、俺の視線の気配を感じたのか、お嬢ちゃんが俺の方に顔を向けた。そして俺と目があうと、お嬢ちゃんは、それはそれは、嬉しそうに微笑んだ。どれ位嬉しそうかというと、今にも、くすくす笑い出したいのを、必死に堪えているような、楽しげで喜びに満ちた表情だった。

その笑顔を見て俺は、『お嬢ちゃんはクラヴィス様が娘をこよなく愛してくれている様子、というか、娘夫婦が、見境なく仲睦まじい様子を嬉しく感じているだけだな、やはり』と改めて自分に言い聞かせ、それだけにしては、お嬢ちゃんの嬉しく楽しげな様子は、ちょっと並外れてないか?という自分の内なる声は、無視をしようと努めた。

 

そして、招かれた夕食の間も、アンジェリークが、それはそれは嬉しそうに楽しそうにクラヴィス様と娘の仲睦まじい様子を眺めている姿は変わらなかった。

俺のお嬢ちゃんは、クラヴィス様のわが娘にささげる深い愛情が、嬉しいだけだ、娘が大事にされて嬉しくない母親はいないからな、と、俺は努めて思考を明文化する、し続ける。俺だとて、新婚2週間の娘夫婦が、妙によそよそしかったり、他人行儀だったら、心配でたまらなかったろうから、その点では、臆面なくわかりやすいクラヴィス様の態度には、感謝しているし、安心させてももらった。

となれば、俺としては、訪問の目的も果たせた以上、正直、一刻も早く帰りたいというか、ディナーの終了を焦がれるような心持でもあった。娘夫婦の仲睦まじすぎる様子は、しばしば、眼のやり場に困るし、お嬢ちゃんの、あまりに嬉しそうな楽しげな態度に、ともすると不可解さとか訝しさが頭をもたげそうになるので、そうなる前に、できれば退散したいという気持ちが、あったりする。

なので、〆のデザートが出た時は、もう、心底ほっとした。

お嬢ちゃんが娘と作ったというグラスデザートは、どうやらチーズのムースのようだった。ふんわりとした軽やかな口当たりで、こっくりとクリーミーな甘さが口いっぱいに広がったと思うや、それは、すっと淡雪のように溶けていき、レモンの酸味と香りが後口を爽やかに引き締めてくれるという、とても俺好みの菓子だった。

クラヴィス様も一口食し、いたくお気に召されたようである、当然だ、お嬢ちゃんお手製のデザートほどプレミアムなスイーツは、この世に他に存在しないからな!

「これは…深みのある味わいなのに、後口は爽やかでさっぱりとして、すがしい…美味な菓子だな。おまえの温もりを感じられぬ時間は心もとなく寂しかったが、こんなうまい菓子を食させてくれたとなれば、十分以上に報われる…」

「あ、でも、作ってくれたのは、ほとんど母なんです、クラヴィス様…」

「いえ、材料を混ぜるだけの簡単なものですから。もう、ディーも作れると思いますし、お口にあってよかったですv」

「クラヴィス様、ママ…母の作るお菓子はとても美味しいの、パパ…父の誕生日には、毎年、必ず、工夫してパパ好みのケーキを作っていたのよ、お家の料理人に任せないで」

「そう、お嬢ちゃんは、いつも、辛党の俺の好みを考えて、心をこめて、祝い菓子を作ってくれるのですが、これが、また、大層美味で…俺の好みを考え、俺の口に合うように作ってくれているのがわかるので、いっそう、美味に思えるというのもあるのでしょうが、まるで、お嬢ちゃんの深く熱く豊かな愛情が、そのまま形になったようで、俺は、毎年楽しみにしています」

この屋敷に足を踏み入れて以来、久々に、俺は、しゃきーん!と背筋が伸び、きらーんと口元を光らせるような余裕の笑みを浮かべることができた…と思う。そうだ、お嬢ちゃんは、いつも俺の好みを考え、工夫をこらし、心尽くしのもてなしを考えてくれ…本当に、お嬢ちゃんの深く暖かい愛情に、いつも、俺の心は、隅々まで満たされ、潤うのだ、ということを、思い出させてもらう。ナイスフォローを感謝だ、娘よ。

「だって…オスカー様をお慕いする気持ちを、少しでも形に…目に見えるようにしたくて…ただ、私がオスカー様を好きな気持ちは大きすぎて、どう、お伝えしたらいいのか、どんな風に伝えても物足りない気がしてしまうんですけど…でも、だからこそ、せめて…って思って精一杯の気持ちをこめてお祝い菓子を作るんです…オスカー様が楽しみにしてくださってて、私こそ、とても嬉しい…幸せです…」

「お嬢ちゃん…」

お嬢ちゃんも、恥じらいに頬を染めつつ、俺への思いを率直に口にしてくれ、俺は、じーんと胸を震わせる。今すぐ、この場でお嬢ちゃんを抱きしめたくてたまらない。正餐用テーブルが俺たちの間になければ、間違いなくそうしていただろう。そうだ、俺は、何を訝しく感じる必要があったのだろう、お嬢ちゃんの愛と信頼はこんなにも深く熱くゆるぎないのに。お嬢ちゃんの愛情は、いつでも俺を支え、俺を強くしてくれているのに。

うむ、こうしてみると、もしかしたら、俺たち夫婦のラブラブっぷりも、クラヴィス様に負けるとも劣らない臆面のなさかもしれない。

と、この瞬間、クラヴィス様の瞳が、ドラマの悪役よろしく、底光するような剣呑なきらめきを発し、同時に、小声で何事かささやかれた、ような気がした。

ふむ…年月を重ねた夫婦ならではの愛情表現であるか…負けていられぬな…

と、クラヴィス様は、唐突に思えるほど鮮やかに、ほんのりとした笑みを浮かべられ(今、俺の目に見えた物は錯覚か?)優しい口調で、娘に向かって、こう話かけた。

「…ならば、私も、少しは、おまえを手放す努力をせねばなるまいか…私の手元に留め置いたままでは、菓子は作ってもらえぬものな」

「そんな…でも、クラヴィス様がお望みなら、私、頑張ります、私も、クラヴィス様が喜んでくださるようなこと、してさしあげたいから…」

「それは、私も同じ気持ちだ、これは義父殿も同意してくれると思うが…守護聖である身で、愛し愛される者と巡り会えたことは、この上ない幸福だ、だからこそ、この無上の幸せを私にくれた子猫に、私は、出来る限りのことをしてやりたい、子猫がいつでも幸せでいられるよう、幸せだと思えるよう、私は、これの望みは何でもかなえてやりたいし、私自身は可能な限り一緒にいてやりたい。これが満ち足りて、幸せでいてくれるよう、私の元に嫁してよかったと思えるよう…私は、常にそうあってほしいと願っているし、そのための尽力は惜しまないつもりだ」

その、しみじみと情愛深い語りに、俺は赤面しつつも、父としては、胸をつかれたし、同じ男としては、心から頷く。クラヴィス様の心情は、常々俺がお嬢ちゃんに対し抱いている思いと寸分変わらない。

「守護聖といえど、人生は有限だ、だからこそ、大切にせねば…漫然と無為に過ごすも、充実した生を送るも、自分次第…そして、私にとっての、今、大事は子猫の幸せのみ、私が一番心にかけているのは、この子猫が、満ちたりた思いで、心地よくいるかどうか、それだけだ…と、思うばかりに、どうやら、私は、少々、視野が狭くなっていたようだ。全く、義父殿には、結婚生活の先輩として、これからも色々教えを請わせていただきたいものだな」

と、しみじみしたのもつかの間、話の後半で、突然、こっちに話をふられ、俺は、妙に背筋がそわぞわした。クラヴィス様は、俺を義父として立てる(まあ、リップサービスであろうが)言葉をつむいでくれているが、なぜか、俺は、物凄く居心地が悪く、落ち着かない。というのも、クラヴィス様、口調がにこやかな割りに、なんだか、目が、笑ってないんですが!むしろ、にらまれていろような剣呑な眼差しな気がするんですがっ!

そして、俺が背中に冷たい汗を感じているというのに、なぜか、お嬢ちゃんは、ますます、嬉しそうで、楽しそうで…むしろ、笑みをかみ殺しているようにさえ見える表情だ。お嬢ちゃんの俺への愛は、深く熱くゆるぎないものと、わかってはいても、俺は、お嬢ちゃんの不可解な態度が、やっぱり、ちょっと…ちょっとだけだが、気がかりに思えたりする。

とはいえ、お嬢ちゃん手製の美味なるデザートのおかげで、ディナーは概ね和やかに締めくくられ、俺とお嬢ちゃんは、娘夫婦のとても仲睦まじい様子に安堵しつつ、闇の守護聖宅を辞することにした。ジュリアス様の伝言も考慮すると言ってもらえたし、俺は、肩の荷を降ろしていい…はずだった。

 

クラヴィス邸を辞する時、娘と妻は、長々と玄関先で名残を惜しんでいた。

俺の本音としては、速やかにお暇したい所だったが。クラヴィス様が、いつ「では、義母上にお別れの挨拶を」と言ってその長身をかがめ俺のお嬢ちゃんに覆いかぶさろうとするか、知れたものじゃないからだ。闇の守護聖邸では、出会いと別れの挨拶時が、最も危険度の高いレベル5と俺の内部ではすでに認定されている。今は、ディーがお嬢ちゃんを独占しているからいいものの、油断はならない。

と、ようやく、俺の私邸から馬車が迎えに来てくれた。俺は、もちろん、即、真っ先にお嬢ちゃんを押し込むように馬車に乗せた上で、自分もそそくさと乗り込んだ。レディファーストというのは、男の都合でできたマナーだと耳にしたことがあるが、今の俺の行動も、まさに俺の「男の都合と事情」ゆえだ。お嬢ちゃんを心から思いやっての行為とは言い切れないところが申し訳ない、すまん、お嬢ちゃん。

座席に収まり、馬車が動き出した振動を感じて、ようやく、やれやれと吐息をつく。どうやら、帰りの挨拶攻撃からはお嬢ちゃんを守れたようだ。

やはり、クラヴィス邸は危険だ、油断ならないという俺の戦士としての直感は正しかったのだと、今更ながらに、ひしひしと思う俺である。緒戦では、お嬢ちゃんの頬を守りきれず、若干侵攻を許してしまった観があるが、ジュリアス様の苦言も考慮してもらえると言質も取れたし、完勝とはいえずとも、辛勝よりは上、というレベルで勝利したと言ってもいいだろう(何に勝ったのか、自分でもよくわからないが)

と、クラヴィス邸が見えなくったあたりで、お嬢ちゃんが俺にこう尋ねてきた。

「オスカーさま、どうでした?クラヴィス様にジュリアスのお言葉を、お伝えできました?」

「ああ、お嬢ちゃんがディーを連れ出してくれたおかげだ。お嬢ちゃんの機転と才覚に感謝だ」

まったく、お嬢ちゃんの優しい聡明さ、柔和な才知は、俺には、いつでも敬愛の対象だ。

「おかげで、男同士、腹を割って話ができた。本当に、お嬢ちゃんは比類なきすばらしい女性だ、優しく、賢く、機転が利いて、かわいくて愛らしくて艶やかで…とっさのことだったろうに、俺好みの美味いデザートも作ってくれるしな?」

俺は、お嬢ちゃんのチーズムースのような、甘くも爽やかな笑みと共に、お嬢ちゃんに軽い口当たりのキスを送った。

「そんな…照れちゃいます…でも、お話を聞いていただけたなら、よかったですね」

というや、お嬢ちゃんは、また、何かを思い出したようで、くすくすと、それはそれは嬉しそうに笑って

「それにしても、クラヴィス様、ものすごく情熱的でしたねー。クラヴィス様って、一見、物静かだけど…でも、その静謐の中に、あんなにも熱い情熱を秘めていらっしゃったんですね。恋しているクラヴィス様って、すごく情熱的で一途で…不遜ないい方かもしれませんが…なんだか、かわいい、なんて思っちゃいました」

と、あからさまに、クラヴィス様の愛情表現を誉めそやし始めたのだ。

「そんな方に、あんなに熱烈に愛されたら、時間の観念がなくなっちゃうのも、無理ありませんね。ディーは幸せだわ」

「あ、ああ、そ、そうだな、ディーは本当に幸せそうだった…」

今しがた、天にも昇るほど甘やかに軽やかだった俺の心情は、いきなり乱気流に巻き込まれる。

娘が幸せそう、それはいい、それはいいんだが『義理の息子』という肩書きがついたクラヴィス様は、お嬢ちゃんの目から見ると『かわいい』のか?!それで、君は、あんなに嬉しそうに、楽しそうに、きらきらの瞳でクラヴィス様を見つめていたのか!?という不安とも焦燥ともつかないもやもやした気持ちが、また、ぞろ、頭をもたげてくる。

しかし、ここで、俺が自爆覚悟で、お嬢ちゃんのキラキラ瞳の理由を問うたとして「クラヴィス様がステキな方だからです」なんて返されようものなら、俺は愛の難破船になっちまう、海の底に沈んだまま浮上できなくなる、と、俺は早くも半・男泣きしそうな気分である。

もちろん、クラヴィス様が娘を愛しているのは自明だし、加えて、お嬢ちゃんが、クラヴィス様を「ステキ」と評したとしても、それは芸能人を「ステキ」と評するのと、大して違いのない、他意なき論評であろう。それはわかっている。

しかし、アンジェリークは嫁に行った娘を持つ母には絶対見えない、誰からも見えない、それは確実に保証できる、それはつまり、いつまでたっても彼女はすべての男にとって恋愛対象であり、俺自身、結婚して何年たとうと、お嬢ちゃんに首ったけで、お嬢ちゃんがかわいくて愛しくてたまらず、それゆえ、俺自身も、永遠にお嬢ちゃんの恋愛対象であり続けたい、俺は、常に、彼女にとって唯一無二の男でありたいと願っている、だから、誰であろうと、どんな意味であろうと、他の男のほめ言葉をお嬢ちゃんの口からは聞きたくないし、お嬢ちゃんが他の男のことを考えていること自体が、なんといおうと、理屈ぬきに嫌なのだ。やきもち焼きと笑わば笑え。

俺自身も、嫁にいった娘のいる父親とは到底見えなかろうし、無自覚に女王府や研究院の女性職員をうっとりさせてることも日常茶飯事らしいが、この時、俺は、お嬢ちゃんへ溢れる愛で胸も頭も一杯、自分自身の客観的状況に自覚がまったくなかった。俺にわかるのは、自分の妻が、いかに魅力的で愛らしくて、愛しくてたまらないかであり、他方、娘婿であるクラヴィス様は「悔しいが、男の俺からみてもかっこいい、ところが、ないわけでもない」という事実だけなのであった。そして、そのクラヴィス様の魅力とは何か。外見は無論だが、俺は「意外性」が大きいと思うのだ。いつもは怠惰のきわみ、なのに恋愛では、めったやたらと情熱的ときたら…確かにこのギャップは、女心をくすぐりそうじゃないか。

お嬢ちゃんは、その辺は、どうだろう?俺も、普段は、もうちょっと、もの静かな方がいいんだろうか?で、お嬢ちゃんを愛する時だけ、とてつもなく臆面のなくなるほうが…メリハリが利いてて、実は、好みだったりするんだろーか…

お嬢ちゃんに、問うてみたい誘惑に駆られなかったといえばうそになる。が、男の意地と見栄とプライドが、かろうじて、俺を、踏みとどまらせた。

万が一、お嬢ちゃんが、クラヴィス様のような態度をステキと感じていたとしてもだ、俺が、クラヴィス様の真似をして何になろうか、表面だけ取り繕った人まね子ザルでは、恋の勝者にはなれん。恋愛に弱気は禁物、俺は俺自身のオリジナリティでお嬢ちゃんをメロメロにせねばならんし、そうしてきたはずだ、という矜持が俺を下支えしていた。

と思っているにも拘わらず、あにはからんや、俺の口は、なぜか、そして、いつのまにか、控えめで遠まわしな口調であったものの、俺の感じた気がかりを、お嬢ちゃんにさりげなく問うていたりした。

「そういえば、お嬢ちゃん、ディーとクラヴィス様の様子を見てる最中、なんだか、物凄く、楽しそうで嬉しそうな顔をしてたが…」

「ふふ、私、そんな顔してました?」

「ああ、娘夫婦が仲睦まじいのは、めでたいことだから、喜ぶのはわかるが、それにしても、楽しげな様子が並外れていたような…」

「ふふっ…それはね…」

と、お嬢ちゃんは、それはそれは嬉しそうに笑うと、いきなり、俺の首に腕を回し、俺の唇を、甘く柔らかな彼女のそれで塞いできたのだった。

突然のことに虚をつかれた俺は、瞳を大きく見開いたまま、たっぷり10秒間は、お嬢ちゃんのなすがままになっていたと思う。

が、お嬢ちゃんの舌先が、俺の唇を撫でるようになぞりだすや、俺も我に返った、と、同時に攻勢に転じた。

お嬢ちゃんの細腰をぐっと抱き寄せながら、お嬢ちゃんのかわいい舌を、己の舌で捕らえなおし、きつく絡めた上で、こちらからお嬢ちゃんの唇を食むようにきつく口付け返した。不意を付かれたーとても嬉しい不意をーとはいえ、やられっぱなしは俺の流儀じゃない。

何度か角度を変えて、唇を食みなおし、お嬢ちゃんの息があがってきたな、と見取った所で、お嬢ちゃんの唇を1度解放した。

「お嬢ちゃんからの嬉しいサプライズには、10倍返しだ」

「ふふ…10倍どころじゃなかった気がします…こんな熱くて甘いキス…」

お嬢ちゃんが、うっとりと熱に浮かされたような熱い吐息をついた。その吐息の色っぽさに、今しがたのキスの熱さがあいまって、俺の下半身も、熱くたぎりだす。我ながら現金なものだが、つい先ほどまで俺のハートを難破船にする勢いで危うく揺さぶっていた乱気流は、一転、急激な上昇気流となって、俺を高揚させつつあった。

「でも、これが、お嬢ちゃんの楽しそうだったわけ?…娘夫妻の熱々ぶりに当てられたか?なら、俺としては願ったり…」

「ふふ、ちょっと違います、むしろ、逆、かしら?」

「逆?」

「はい、今、順にお話しますね。ディーと厨房に行った時、私、色々とディーと話たんですけど…まず、私がチーズムースでも作りましょうかって言ったら、ディーが『ママはやっぱりパパの好きそうなお菓子を作るのね』って、からかうような笑顔で言ってきたんです。なので、私、つい『そうよ、私はオスカー様が…あなたのパパは、どんなものを召し上がったら嬉しそうなお顔をしてくださるかしらってことを、まず考えてしまうの、そして、オスカー様の喜ぶ顔を思い浮かべるだけで、すごく幸せな気持ちになってしまうの』って…本音で惚気てしまって。そしたら、ディーは、うっとりした顔でため息をつきながら『やっぱり、いつも、いつまでも仲良しのママとパパは私の理想で憧れだわ、私も、ママたちみたいに、お互いの笑顔、お互いの喜びが自分の幸せ、って思える、そんな夫婦になりたい…』って、言い出して。照れちゃいますよね、嬉しいけど。ふふっ…」

「お嬢ちゃんの思いの程は、俺に十分伝わっていたぜ。なれば、ディーが、そんな風に考えるのは、光栄かつ自然なことだな」

俺は鷹揚にうなずく。何せ、俺とお嬢ちゃんは宇宙で一番お似合いのカップルだという自負がある、娘が俺たちを理想とみなし、憧れてくれるのは、嬉しく面映いことではあるが、ある意味当然といえば当然であろう。

「じゃ、娘に理想で憧れって言われて、お嬢ちゃんは、すごく嬉しそうだったのか?」

「はい、でも、更にその先があって…ディーは、自分が結婚してみて、改めて、強く、そう思ってたらしいのですけど、そこに、結婚休暇がそろそろ終わろうという頃、クラヴィス様が、ディーに『これからは、どうしても、執務で家を空ける時間が増える、おまえに心細い思いや寂しい思いをさせたくないのだが。そこで、埋め合わせというのではないが、私に何かしてほしいことや、望みはないか』って尋ねられたそうなんです、でも、ディーは、今が幸せいっぱいで、これ以上の望みなんて思いつかない、それでも、クラヴィス様は辛抱強く答えをお待ちだったので、ディーは『私、パパとママが理想で憧れで…パパたちみたいな夫婦になりたい…というのが願いです、そして、今、もう、十分以上に、幸せです』って…私とオスカー様みたいな夫婦が理想で憧れだってクラヴィス様に話したっていうんです」

「ふむ、まあ、親としては、こそばゆい思いだが、嬉しいことじゃないか」

「ええ、それはそうなんですけど…ただ、それを聞いて、私、ぴんと来ちゃったんですけど…クラヴィス様のディーへの溺愛ぶりに、拍車がかかったのって、クラヴィス様が、そのディーの言葉から、私たちを『好敵手』ってみなされた所為じゃないか、なんて思って…」

「好敵手?何の?」

「夫婦仲の」

「夫婦仲?俺たちの夫婦仲が、クラヴィス様にとっては好敵手?」

俺はさっきから、鸚鵡になったかのようだ、もう少し気の利いたことがういえないものか、俺。

「はい、クラヴィス様は、ディーのことを、すごく大事にしてくださってるし、ご自身も、はっきりと『ディーが満ち足りて幸せであってほしい』って、おっしゃってましたでしょう?でも、ディーの中には、夫婦の原型として私たちがあるっていうか、私たちが夫婦のあり方がモデルケース?になってるわけですよね。当たり前ですけど、私たちの様子を身近で見て育ったわけだし、その一方で、聖地育ちのディーは、他のご夫婦の様子を見る機会はほとんどなかったわけですから、「夫婦」っていうと、私たちの暮らしぶりが、当たり前のこと、一種の基準点として、刷り込まれちゃってるんですよね。その上、ディー自身が、私たちを「理想の夫婦」って思ってるわけですから…それで、多分ですけど、クラヴィス様は、生半なラブラブ熱々ぶりでは、ディーに満ち足りた思いをさせてやれない、『結婚して幸せ』ってディーをうっとりさせたり感動させようと思ったら、よっぽどの熱愛ぶりを示さないと、中々難しいかも、って思われたんじゃないかと。そのせいで、なさることが極端に…片時もディーのそばを離れず、いつも、懐に抱いているとか、そういうことになっていたんじゃないかって、思うんです」

「な、なるほど…」

「実際、ディーったらね、外界に居たとき、お友達と恋愛映画やドラマを見ても、友達みたいにうっとりできなかったって言ってたことがあるんです。『だって、パパとママの方が、よっぽど、ラブラブでロマンチックなんだもん』って。いいんだか、悪いんだか、ですよね?ふふっ…」

「それはまあ、美食家の子弟が、食に煩くなるというか、判断基準が高度に厳しくなるのと一緒だよなぁ、良い物、美味なる物を日常的に食べつけて口がおごっていると、生半可なものでは、感動しなくなるし、感動させようと思えばハードルは高くなるよな、それは。良いものに囲まれていれば、自然と良い物を見極める眼も養われていくから、そういう意味では、いいんだろうが…」

「そうなんです、ディーは、私たちを見て…オスカー様が、いつも、いつでも、こよなく私を大事に慈しんでくださってた様子を見て育ってますでしょう?それで、クラヴィス様は、ディーをうっとりさせようと思ったら、生半可な愛し方ではダメだ、オスカー様が私に接する以上に、ラブラブで熱々に振舞わないと効き目がないって思われたみたいなんです。確かに、オスカーさまが私にくださる優しい甘い言葉も、情熱的な抱擁も、とろけるようなキスも、ディーは子供のころから日常的に眼にしてましたから、無意識のうちに、それを当たり前のことのように感じてる可能性は大っていうか、一種の免疫がついちゃってるとは思うんです、それで、オスカー様以上のことをしないと、ディーにうっとり夢見心地になってはもらえない、ディーに『私、幸せ』って思わせるためには、これでもかっていうほど濃厚な愛情表現をしないとダメだ、足りないってクラヴィス様はお考えになられたんじゃないかと…んと、つまり、クラヴィス様の敵愾心に火がついちゃってた?みたいな」

「…ああ!それでだったのか!クラヴィス様の、あの、妙に闘志を感じさせるまなざしや、挑発的な物言いは!」

俺は先刻の底光りするようなクラヴィス様の瞳を思い出していた、そうか、あれは、俺をライヴァル視するまなざしだったのか!道理で剣呑だったわけだぜ、と俺は、クラヴィス様のどことなく挑戦的な態度のすべてが腑におちた。

「ははぁ、俺に対する対抗意識で、クラヴィス様は、俺たちの前で、あれほど臆面なくいちゃいちゃべたべたな態度だった…と思うと、確かにつじつまがあうな」

「ディー自身が「これくらいしてくれないと満足できない」って口に出して望んだわけじゃなくて…あくまで、クラヴィス様が、ご自身のお考えでなさってたことみたいなんですけど。ディーは、私たちの前でも、平気で触れてくるクラヴィス様に、少し、戸惑ってたみたいで「ママ、びっくりしてない?」って気にしてたみたいだったから、「それだけ、あなたのこと、愛してくれてるのよ」って、安心させておきましたけど…実際、それだけ、ディーは、クラヴィス様に、愛されてるってことですから、私、うそはいってませんし、本当に、ディーは幸せものだって思ってます。だって、オスカー様に対抗しようなんて思う剛の方なんて、そう、いらっしゃるとは思えませんもの、ね?本当に、ディーは、クラヴィス様の元に嫁いでよかったわ。ディーは控えめでおとなしい性格の子だし、いつも周囲への感謝を忘れない子ですから、表立って不満を覚えたり、ましてや、それを口にはしなかったかもしれませんけど、普通の男性に嫁いでいたら、何か、物足りない、満たされない思いを抱えてしまったかもしれないから…」

「確かにな…」

なにせ、俺とお嬢ちゃんの日常が、ディーの『結婚生活』の基本であり原点なのだ。俺は宇宙一深く熱い愛を溢れんばかりにお嬢ちゃんに捧げている自負があり、それは、また、お嬢ちゃんも同様だ。そんな俺たち夫婦のあり方が、無意識のうちに基準点となっていたら、それは、並の男の愛し方では「あれ?何か私の思うカップルのあり方と違う…」と娘は感じてしまっていた恐れ大だろう。

「夫婦仲が良いことは、基本的には、子供の情緒には、いいこと…のはずだよな、俺たちの仲がいいから、ディーだって結婚生活を肯定的に捕らえていたし。でも、そうか、俺たちがあまりに理想的すぎるがゆえに、婿殿のハードルが高くなってしまってたわけか…」

「うかつでしたけど、私、ディーに「パパとママは、私の理想よ、私とクラヴィス様もパパとママみたいになれるかな、なれるといいなって思ってるの」って言われるまで、私とオスカー様の仲のよさが、娘の「夫婦」のあり方の基準を底上げることになってたんだなって思いもよらなくて…」

そうかそうか、だから、あんなにも剣呑なまなざしで、クラヴィス様は俺を見つめていたのだな、わかってみれば、クラヴィス様も、かわいい所があるじゃないか、それは、目の前に、愛しい妻が目指す理想のカップルがいたら、穏やかならざる気持ちにもなる、めらめらとライヴァル意識も燃え上がるってものだろう、はっはっは。

「その点では、クラヴィス様には、申し訳なかったかも…でも、クラヴィス様が、そのことで、むしろ、奮起してくださる方で、本当によかった…」

「確かにな…並みの男じゃ、俺には対抗しえないものな?まず、位負けしちまって」

俺に対抗できるだけの実力、技量、容姿、かつ、俺に対抗しようとするだけの気概と負けん気を同時に持ち合わせている男は、この宇宙に、そう多くはないであろうことは確かだ。その中で、クラヴィス様を自分の配偶者に選ぶあたり、ディーは本当に男を見る眼があったのだと、俺は、わが娘の選定眼に感心しきりであった。

「はい、だって、オスカー様は宇宙一ステキな、私の旦那様ですもの、うふふ」

お嬢ちゃんが、とても幸せそうに、俺の腕にしがみついてきてくれた、もちろん、俺はその肩を抱き寄せる。

そして、何より、小さな懸念がきれいさっぱりと晴れて、俺の心は、いまや、隅々まで雲一点もなく澄み切った。

「お嬢ちゃんが、すごく楽しそうなうれしそうな顔をしてたわけも、クラヴィス様をかわいいと評した訳も、わかってきたぜ」

多分、この時は、俺も、いたずらっぽい笑みを口元に浮かべていただろう。俺自身、すっかり、楽しくほほえましい気持ちになっていたから。

「はい、娘に「理想」って言われるだけでも、相当くすぐったい…もちろん、嬉しいくすぐったさなんですけど…ですのに、その所為で、クラヴィス様から、私たち、追いつけ追い越せの存在?目標?超えるべき壁?みたいに思われてるのかしら?って考えたら、申し訳ないなと思いつつも、なんだか、可笑しくて、楽しくなってしまって…クラヴィス様が飛ぶように私邸に戻られるのも、人目を気にせず、むしろ見せ付けるようにディーを可愛がってくださるのも、もしかして、ディーを『子猫』って呼ぶのも、意識はしてらっしゃらないかもしれませんけど、オスカー様を意識して、対抗して、そうなさってるのかしらって思ったら…そして、クラヴィス様は、私たちがお暇した後、今度は、どんな風にオスカー様に張り合うおつもりなのかなって想像したら、おかしくなってしまって…」

お嬢ちゃんは堪えきれなくなったのか、くすくすって可愛く笑った。

「だからね、私とオスカー様が、目の前であんまり仲良くしてたら、クラヴィス様が、もっと、ムキになっちゃうかもって、少し自重した方がいいのかなって、ちらっと思ったりもしたんですけど、ディーがバースディの話を持ち出すから、つい、本音を口にしてしまって…だって、オスカー様をお慕いする気持ちに嘘はつけないから…」

「お嬢ちゃん…」

すると、お嬢ちゃんの瞳が、妖しくぬれたようにきらめいた。

「それに、私、実をいうと…そう、簡単には追いつけないわよ、って反射的に思っちゃったの、大人気ないですよね?でも、そのときは、本気で、そう思ったの。私は、この世の何よりもオスカー様が大切で、大好きで…だから、オスカー様にも、私のことを好きって思ってもらいたい、ずっと、そう願ってきましたし、そのためにできることは、一生懸命してきたつもりです、この積み重ねてきた歳月も絆も私の宝物、私の誇り、だから、ディーには『夫婦のあり方って、時間をかけて培い、磨いていくもの、表向きの振る舞いだけまねしても、同じものにはならないの…だから、あなたたちは、あなたたちのやり方で、ゆっくり、大切に、1歩1歩、2人の絆を育てていくといい、そう、ママは思うわ』って言っておいたの…」

俺は、お嬢ちゃんを反射的にきつく抱きしめていた。

「当たり前だ。お嬢ちゃん、俺たちの絆、俺たちの愛情と信頼、それは、一朝一夕で培ったものじゃない。数えきれない昼と夜を重ね、心を、思いを重ねあわせ、寄り添わせることで、育み、花開かせてきたものだ。小さな誤解やいさかいも、糧にして、な…?簡単にまねできるものでもなければ、まねされるほど浅薄なものでもないぜ」

そして、短くはあっても、真摯な口付けを送る

「ならばなおのこと…俺たちは、娘夫婦の幸せためにも、いつまでも、あの2人の前を走っていなくちゃならないな。俺とお嬢ちゃんはいつまでも、ディーの理想の夫婦でいなくちゃな。目標を喪失して、クラヴィス様が怠惰な道に陥らないように。もともと、追いつかせる気も、追い抜かれる気もせんが」

「そうですね、オスカー様、私たち、たやすく、追いつかれちゃうわけにはいきませんよね、うふふ」

「だから…さっきのキスだったんだろう?お嬢ちゃん」

俺はとっておきの甘く低いささやきをお嬢ちゃんの耳に流し込みつつ、桜貝のような耳朶を唇で食む。

「あ…はぁ…ん…そうなの…私…私たち、お手本でいなくちゃ、お手本でありたいって思って…今より、もっともっと、オスカー様と仲良く、愛しあいたいなって……」

「お嬢ちゃん…そう、本当にそうだな、お嬢ちゃん」

「オスカー様、好き…心から…大好き…」

「俺もだ、お嬢ちゃん、心から、愛している…」

俺はお嬢ちゃんの波打つ金の巻き毛を指で梳き、幾度もいとしげに撫でながら、その華奢な体を、いっそう、抱き寄せる。掌でお嬢ちゃんの頬を包み込むと、ふにふにと柔らかな頬の感触が手に心地いい。濡れてきらめく翠緑の瞳を覗き込めば、その澄み切った美しさに、俺は心を奪われる。引き寄せられるように顔を近づけ、髪をかきあげ、額に、かわいい鼻先に、頬に、そして唇にと、順番に口付ける。

早く、馬車が屋敷に着いてくれないものか、俺は、じりじりしていた。今すぐにでも、お嬢ちゃんと愛を交わしたくてたまらない。

俺は、我ながら、相当大人気ないなと思いつつ、お嬢ちゃんの手をとって、自身のスラックスの股間に導いた。

俺は、湧き上がる恋情と情欲に身を焦がしていたので、その主張は布越しでもはっきりお嬢ちゃんにはわかったはずだ。

そして、お嬢ちゃんの手は、逃げもためらいもせず、俺の怒張を、布越しにやんわりと、いとしげに撫でさすってくれた。お嬢ちゃんも俺と同じ気持ちなのだとわかり、胸が熱くなる。おそらくお嬢ちゃんの花弁も、もう、しっとりと蜜でしとっていることだろう。

一刻も早く、この目で、指で、唇で、その蜜の甘さ熱さを確かめたい。

そして、同時に、お嬢ちゃんに、俺が、どれほど熱く激しく、お嬢ちゃんを欲しているか、その手で、唇で確かめてもらいたい、否、確かめさせたい。

今宵は、飛び切り淫らに乱れたい。乱れさせたくてたまらない、そんな気持ちで、俺は、じりじりしながら馬車の到着を待ちかねていた。

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